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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1138465
審判番号 不服2001-20149  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-03-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-11-09 
確定日 2006-06-07 
事件の表示 平成 4年特許願第511654号「高親和性グルタミン酸塩/アスパラギン酸塩取り込みシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年11月12日国際公開、WO92/19717、平成 7年 3月23日国内公表、特表平 7-502641〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願は、1992年4月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1991年4月2日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1〜11に係る発明は、平成13年12月7日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜11に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1〜7に係る発明(以下、「本願発明1〜7」という)は次のとおりである。
「【請求項1】 リガンド親和性の順番がL-アスパラギン酸塩>D-アスパラギン酸塩>L-グルタミン酸塩である、ヒトの神経腫瘍細胞であり培養中で成長することができ平板な上皮組織を有しておりSK-N-SH細胞株のクローン誘導体であり、そして高親和性グルタミン酸塩/アスパラギン酸塩特性輸送システムを有していると特徴づけられる組成物としての分離された細胞株。
【請求項2】 該輸送システムがNa+に高度に依存している、特許請求の範囲第1項の細胞株。
【請求項3】 輸送システムがCa++、またはCl-に対して一定の範囲での依存性を持っている、特許請求の範囲第1項の細胞株。
【請求項4】 Co++,Ni++またはCd++が輸送システムによるリガンド取り込みを抑制する、特許請求の範囲第1項の細胞株。
【請求項5】 該輸送システムがトレオ-3-ヒドロキシ-D,L-アスパラギン酸塩、L-システイン・スルフィネート、およびL-システエートで構成されるグループによって抑制される、特許請求の範囲第1項の細胞株。
【請求項6】 輸送システムがN-メチル-D-アスパラギン酸塩、キスカレート(quisqualate)、カイネート、ジヒドロキシカイネート、L-グルタミン酸塩ジエチルエステル、D,L-2-アミノ-3-ホスホノプロピオネート、D-2-アミノアジピン酸塩およびL-ホモシステエート(homocysteate)で構成されるグループの受容体リガンドによっては抑制されない、特許請求の範囲第1項の細胞株。
【請求項7】 培養されたSK-N-SH細胞を培養プレート・ウェルに希釈し、 プレート・ウェルを再集団化(repopulate)し単一細胞コロニーを取り出し希釈、再集団化および取り出しのステップを少なくとも1回は繰り返すステップで構成され、培養中で成長することができ、平板な上皮組織を有し、そして高親和性グルタミン酸塩/アスパラギン酸塩特性輸送システムを有する特許請求の範囲第1項の細胞株を分離する方法。」

2.引用例の記載
原審の拒絶理由に引用された引用例1(Cancer Res.(1987)Vol.47, No.19, p.5207-5212)には、次の事項が記載されている。
(a1)「ヒト神経芽細胞腫株SK-N-SHの表現型の多様性は、親細胞株よりも低い速度で相互交換している3つのサブクローン、すなわち神経芽細胞系サブクローン(SH-SY-5Y)、非神経細胞系で基質接着性のサブクローン(SH-EP)、中間細胞系サブクローン(SH-IN)を使用して研究された。」(5207頁要約)
(a2)「細胞培養 親細胞株である、4歳女児の骨髄の転移性腫瘍由来の神経芽細胞腫株SK-N-SHの3つのサブクローンは、この研究において使用された。・・・(c)神経細胞系の特徴を失ったクローン株(SH-EP)は、強く基質に接着する大きな平板な細胞(S-細胞)からなり、低い飽和密度で連続的な単層の培養物に成長する。これらのクローンは、我々の一人(J.L.B)によってすでに確立されており、特徴づけられている(2、3-5、19)」(5208頁左欄6行〜18行)

原審の拒絶理由に引用された引用例2(J.National Cancer Institute(1983)Vol.71, No.4, p.741-747)は、引用例1において、SH-EP細胞株の作成について参照された文献であり(記載事項(a2))、次の事項が記載されている。
(b1)「クローン集団の単離-SK-N-SH細胞からクローン細胞株を単離するため、2つの手法が使用された。SK-N-SH細胞株からのクローンの最初の系(SH-EP、SH-FE、SH-IN、SH-SY)とサブクローンのSH-SYファミリー(SH-SY5、SH-SY5Y)は、低い密度でまかれた100-mmプラスチック培養皿からコロニーを単離することにより取得された。SH-EPのサブクローンは、後日、マイクロテストII組織培養プレート(ファルコンプラスチックス、ロサンジェルス、カリフォルニア)の個々のウェルから単離された。」(741頁右欄13行〜22行)
(b2)「ヒト神経芽細胞腫株SK-N-SHとそれから得られたクローン及びサブクローンの特徴付け 親細胞株であるSK-N-SHから単離された、SH-SY、SH-EP、SH-FE、SH-INと名付けられた4つのクローンは、神経化学、核型、培養中の成長特性について分析された。クロニングされたそれぞれのサブラインは、異なった形態を有していた。・・・SH-EPとSH-FEの細胞は、平板な形で、神経プロセスを有していなかった。」(742頁左欄25行〜35行)
(b3)「成長特性-クローニングされた細胞株は、それぞれ飽和密度について比較された。親株と神経細胞腫様クローンSH-SY5Yは、静止した成長期において、高い細胞密度で成長した。:それぞれ114と200×104細胞/cm2である。反対に、類上皮細胞クローンであるSH-EPとSH-FEは、それぞれ7.5と8.0×104細胞/cm2であり、2倍体線維芽細胞のそれと似ている。SH-INは中間の飽和密度57×104細胞/cm2を有する。神経細胞腫クローンでみられるより高い細胞密度は、広範囲の細胞の多層と、密度の高い巣状の細胞凝集物を示す。反対に上皮細胞様神経芽細胞腫細胞は、基質接着性の単層として成長する。」(742頁左欄下2行〜右欄12行)

3.当審の判断
上記記載からみて、引用例1には、SK-N-SH細胞株のクローン誘導体であり、培養中で成長することができ、平板な上皮細胞様の形態を示し、神経細胞系の特徴を失ったSH-EP細胞株が記載されており、引用例2には、SK-N-SH細胞株のクローン誘導体を培養プレート・ウェルに希釈し、培養し成長したコロニーから単離することにより得られた、平板な上皮細胞様の形態を示し、神経プロセスを有さないSH-EP細胞株が記載されている。

(3-1)本願発明1〜6について
本願発明1と引用例1又は2に記載された発明を対比する。
両者は、「ヒトの細胞であり、培養中で成長することができ平板な上皮組織を有しておりSK-N-SH細胞株のクローン誘導体である細胞株」である点で一致し、(i)本願発明1は、「高親和性グルタミン酸塩/アスパラギン酸塩特性輸送システム」を有しており、そのリガンド親和性の順番が「L-アスパラギン酸塩>D-アスパラギン酸塩>L-グルタミン酸塩」であるのに対し、引用例1又は2に記載された発明は、「高親和性グルタミン酸塩/アスパラギン酸塩特性輸送システム」を有するものであるか否かは明らかではない点、(ii)本願発明1は、「神経腫瘍細胞」であるのに対し、引用例1又は2に記載された発明は、神経細胞系の特徴を失っている点で一応相違する。

相違点(i)について
ところで、本願明細書には、「SH-EP細胞はヒト神経ブラストーマSK-N-SH細胞のクローン性誘導体である。このクローン誘導体は以下のステップで作成された。培養されたSK-N-SH細胞がトリプシン処理によって放出され96-ウェル培養プレートに連続的に移植された。移植された細胞がプレート・ウェルを再集団化し始めたら、単一細胞コロニーを含んでいるものだけをさらに特徴付けを行うために保持した。制限希釈によりクローニングを行うこのプロセスは明確な組織的特徴を持つクローン細胞株を作り出す。このプロセスから発生するSH-EP細胞は平板な組織、強力な基質接着性、そしてひとつの単層として成長する能力を持っている。」と記載されており(明細書6頁11行〜21行)、実施例において、この「SH-EP細胞」がグルタミン酸塩/アスパラギン酸塩輸送システムを有することを確認している。このように、本願発明1の実施の形態として、引用例1又は2に記載された細胞株と同一名称の「SH-EP細胞株」が記載されている。

両者は、同一の親細胞であるSK-N-SH細胞を培養プレート・ウェルに希釈し、培養して成長したコロニーから取得するという同一の方法で作成されたものであり、平板で、単層として成長し、強力な基質特異性を有し、上皮細胞様であるという同一の性質を有するものであるから、同一の細胞株であると認められる。引用例1又は2には、SH-EP細胞株の輸送システムに関する活性について記載されていないが、該SH-EP細胞は、上述のとおり、本願発明1と同じ細胞株なのであるから、当然に「高親和性グルタミン酸塩/アスパラギン酸塩特性輸送システム」を有するものであり、そのリガンド親和性を測定すれば「L-アスパラギン酸塩>D-アスパラギン酸塩>L-グルタミン酸塩」の順番になるものと認められる。
したがって、この点は実質的相違点とは認められない。

相違点(ii)
本願発明1の細胞株は、請求項1において「神経腫瘍細胞」である旨記載されている。この点について、本願明細書をみると、親細胞であるSK-N-SH細胞株が神経腫瘍細胞であることは記載されているが、それを親細胞としたクローン誘導体であって、本願発明1の実施の形態であるSH-EP細胞株自体については、「神経腫瘍細胞」であることは確認していないのであるから、この点は実質的な相違点とは認められない。

以上のとおりであるから、本願発明1と引用例1又は2に記載された発明は、同一である。

そして、本願発明2〜6は、本願発明1における「輸送システム」の性質についてさらに特定したものであるが、本願発明1と同様に、引用例1又は2に記載された発明と同一である。

(3-2)本願発明7について
本願発明7は、本願発明1の細胞株を分離する方法に係る発明である。
引用例2には、SK-N-SH細胞株のクローン誘導体を培養プレート・ウェルに希釈し、培養し成長したコロニーから得られた、平板な上皮細胞様の形態を示すSH-EP細胞が記載されている。
本願発明7の「培養されたSK-N-SH細胞を培養プレート・ウェルに希釈し、プレート・ウェルを再集団化(repopulate)し単一細胞コロニーを取り出し希釈、再集団化および取り出しのステップを少なくとも1回は繰り返すステップで構成」される細胞株の分離方法は、引用例2に記載された方法と同一であり、(3-1)にて述べたとおり、本願発明1の細胞株と引用例2に記載された細胞株は、同一の細胞株であるから、本願発明7と引用例2に記載された方法は同一である。

なお、審判請求人に対して、平成17年8月1日付けで、上述の理由とともに、「本願発明1の細胞株が引用例1又は2に記載された細胞株ではないこと、即ち、引用例1又は2と同じ取得方法でありながら、引用例1又は2に記載された細胞株とは異なり神経細胞としての性質を失わず、「L-アスパラギン酸塩>D-アスパラギン酸塩>L-グルタミン酸塩」というリガンド親和性を有している特殊な細胞であると主張するのであれば、原審で通知した特許法第36条4項の拒絶理由が解消していないこととなる。」と審尋したところ、請求人からは指定期間を過ぎても応答がなかった。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1〜6は、引用例1又は2に記載された発明であり、また、本願発明7は、引用例2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
 
審理終結日 2006-01-10 
結審通知日 2006-01-10 
審決日 2006-01-25 
出願番号 特願平4-511654
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新見 浩一  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 佐伯 裕子
冨永 みどり
発明の名称 高親和性グルタミン酸塩/アスパラギン酸塩取り込みシステム  
代理人 佐田 守雄  
代理人 佐田 守雄  

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