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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1138841
審判番号 不服2004-24282  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-09-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-26 
確定日 2006-06-21 
事件の表示 特願2000- 63678「基板乾燥装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月14日出願公開、特開2001-250803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成12年3月8日の出願であって、平成16年10月25日付けで拒絶査定がされ、平成16年11月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされた。
これに対し、当審において、平成17年7月19日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年10月7日に意見書の提出とともに明細書について手続補正がなされた。その後、同年10月18日付けで最後の拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年12月20日付けで意見書の提出とともに明細書について再度手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 平成17年12月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容の概要
本件補正は、特許請求の範囲を含む明細書について補正するものであって、その請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)補正前の請求項1
「【請求項1】 純水によって洗浄された後の基板を乾燥させる基板乾燥装置であって、
純水を貯留し、その純水中に基板を浸漬することによって当該基板を洗浄する洗浄槽と、
前記洗浄槽から洗浄後の基板を引き揚げる引き揚げ手段と、
前記引き揚げ手段によって引き上げられつつある基板の主面にフッ素系不活性液体のガスを含む乾燥ガスを供給する乾燥ガス供給手段と、
乾燥すべき基板よりも10℃以上高い温度に前記乾燥ガスを加熱して前記乾燥ガス供給手段に送給する乾燥ガス加熱手段と、
を備え、
前記乾燥ガス供給手段は、前記引き揚げ手段によって前記洗浄槽から引き揚げられつつある基板の側方に設けられるとともに、前記洗浄槽中の純水の気液界面上に略水平方向に前記乾燥ガスの気流を形成することを特徴とする基板乾燥装置。 」

(2)補正後の請求項1
「【請求項1】 純水によって洗浄された後の基板を乾燥させる基板乾燥装置であって、
純水を貯留し、その純水中に基板を浸漬することによって当該基板を洗浄する洗浄槽と、
前記洗浄槽から洗浄後の基板を引き揚げる引き揚げ手段と、
前記引き揚げ手段によって引き上げられつつある基板の主面にフッ素系不活性液体のガスおよび10体積%以下の水溶性溶剤のガスを含む乾燥ガスを供給する乾燥ガス供給手段と、
乾燥すべき基板よりも10℃以上高い温度に前記乾燥ガスを加熱して前記乾燥ガス供給段に送給する乾燥ガス加熱手段と、
を備え、
前記乾燥ガス供給手段は、前記引き揚げ手段によって前記洗浄槽から引き揚げられつつある基板の側方に設けられるとともに、前記洗浄槽中の純水の気液界面上に略水平方向に前記乾燥ガスの気流を形成することを特徴とする基板乾燥装置。 」

2.補正の適否
上記特許請求の範囲における補正は、フッ素系不活性液体のガスを含む乾燥ガスについて、「10体積%以下の水溶性溶剤のガス」を含むとの限定事項を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかである。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、前記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

(2)引用刊行物の記載内容及び引用発明
これに対して、平成17年10月18日付けで通知された拒絶の理由には、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である次の刊行物1〜8が引用されている。
[引用刊行物]
刊行物1:特開平11-354488号公報
刊行物2:特開平11-26422号公報
刊行物3:特開平11-35638号公報
刊行物4:特開平11-169457号公報
刊行物5:特開平10-308377号公報
刊行物6:特開平8-45893号公報
刊行物7:特開平11-351747号公報
刊行物8:特開平11-87302号公報

このうち、刊行物1、2、5〜8には、以下の技術的事項が記載されている。
ア.刊行物1
(1-イ)【特許請求の範囲】の【請求項1】
「基板を所定の処理液に浸漬させた後、基板を処理液から相対的に引き上げて基板を乾燥させる基板処理装置において、
所定の処理液を貯留する貯留手段と、
その主面が鉛直方向とほぼ平行になるように基板を支持しつつ前記処理液中と当該処理液の上方との間で基板を相対的に昇降させる昇降手段と、
前記処理液の液面近傍で、前記昇降手段により前記処理液の上方に露出した基板の主面に沿ったほぼ水平方向に気流を発生させて、基板の主面に気体を吹き付ける気体吹き付け手段と、
を備えることを特徴とする基板処理装置。」

(1-ロ)段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、半導体ウエハ、液晶表示器用基板等のFPD(Flat Panel Display)用基板、フォトマスク用ガラス基板、光ディスク用基板等の基板(以下「基板」という)に対して、所定の処理液に浸漬させた後、基板を処理液から相対的に引き上げて基板を乾燥させる基板処理装置および基板処理方法に関する。」

(1-ハ)段落【0006】〜【0007】
「また、近年、EHS(Environment,Health,Safety)についての問題意識が高まってきており、IPAなどのアルコールの使用はできるだけ削減することが望ましい。
そこで、本発明は前記問題点に鑑み、アルコール蒸気による基板の汚染を防止できて、基板を十分に乾燥することができる基板処理装置および基板処理方法を提供することを目的とする。」

(1-ニ)段落【0034】
「窒素ガス噴射部565は、ケーシング560の内部の一側面に窒素ガス供給管565aがブラケット565bにより取り付けられるという構成を有する。また、窒素ガス供給管565aには、ノズル形状の複数の噴射口565Jが略水平方向に設けられており、この噴射口565Jから、基板表面の付着液を除去して基板を乾燥させるための窒素(N2)ガスFGを供給する。この窒素ガスFGは、乾燥した低湿度(すなわち低露点)の窒素であることが好ましく、たとえば、その露点はマイナス20℃以下であることが好ましい。なお、窒素ガス噴射部565などから本発明の気体吹き付け手段が構成されている。」

(1-ホ)段落【0049】〜【0051】
「<B2.乾燥処理>図5(a)は、洗浄処理終了後、基板Wが浸漬位置DPに存在する状態を示す図である。基板Wは純水L1に浸漬されている。その後、リフタ駆動部564によってリフタ563が駆動され、基板Wはリフタ563とともに中間位置DRへ向けて上昇を開始する。これに伴い、基板Wは純水L1から外部雰囲気中に徐々に露出していく。ただし、本実施形態における「外部雰囲気」とは、ケーシング560中の雰囲気を意味する。図5(b)は浸漬位置DPと中間位置DRとの中間位置に基板Wが存在する状態を示す図である。
図5に示す基板Wと純水L1の液面TL1との相対移動と並行して、窒素ガス噴射部565から窒素ガスFGを液面直上付近の基板表面に対して連続的に噴射して供給する。また、この様子を図6の斜視図にも示す。図6は、基板W、窒素ガス噴射部565、窒素ガス排気部568の関係を模式的に示すものである。
これらの図に示すように、複数の基板Wは、その主面が鉛直方向(矢印AR1の向き)とほぼ平行になるように支持されつつ、処理槽562中の純水L1より上方に、鉛直方向に引き上げられ、純水L1の液面TL1の上方に露出する。そして、複数の基板Wの配列間隔の間隙に対応するように設けられる複数の噴射口565Jのそれぞれは、略水平方向に窒素ガスFGを噴射する。これにより、液面TL1の近傍において、基板Wの主面に沿ったほぼ水平方向(基板Wの主面および液面TL1のそれぞれに略平行な方向)に窒素ガスFGの気流が発生し、窒素ガスFGが基板Wの主面に吹き付けられる。」

(1-ヘ)段落【0069】
「さらに、上記実施形態においては、純水による洗浄処理後、基板Wがリフタ563によって上昇され、液面TL1の上側に徐々に現れる基板表面の純水を窒素ガスFGを供給することによって乾燥させている。・・・・」

(1-ト)図2,3及び図5,6の記載によれば、窒素ガス噴射部565は、前記リフタ563によって前記処理槽562から引き揚げられつつある基板の側方に設けられるとともに、前記処理槽562中の純水の気液界面上に略水平方向に前記窒素ガスの気流を形成することが看取できる。

上記記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
純水によって洗浄された後の基板を乾燥させる基板乾燥装置であって、
純水を貯留し、その純水中に基板を浸漬することによって当該基板を洗浄する処理槽562と、
前記処理槽562から洗浄後の基板を引き揚げるリフタ563と、
前記リフタ563によって引き揚げられつつある基板の主面に基板を乾燥させるための窒素ガスを供給する窒素ガス噴射部565と、
を備え、
前記窒素ガス噴射部565は、前記リフタ563によって前記処理槽562から引き揚げられつつある基板の側方に設けられるとともに、前記処理槽562中の純水の気液界面上に略水平方向に前記窒素ガスの気流を形成する基板乾燥装置。

イ.刊行物2
(2-イ)段落【0004】〜【0005】
「また、もう一方の乾燥方法である有機溶剤による蒸気乾燥は、前処理を行い、超純水等によるリンスを行った後、非常に清浄な、親水性であるIPAなどの蒸気によって、付着している超純水等をIPAの凝縮により置換させて乾燥を行うものである。この方法は、スピン乾燥に比べウォーターマークが発生し難いという点で非常に有用である。
図2に一般的な蒸気乾燥に用いる蒸気浴槽装置の概略図を示す。即ち、図2において、1は蒸気浴槽部であり、槽内底部にIPA等の有機溶剤貯留域2を有する。そして、この蒸気浴槽部に貯留される有機溶剤が加熱されて槽内に、有機溶剤の蒸気浴3が形成される。また、この溶剤蒸気は、槽内上部に設置された冷却器4により冷却されて凝縮し、それより上方には流出しないようになっている。かかる有機溶剤蒸気浴3内に被乾燥物5を設置した場合、このものに付着する超純水等は溶剤蒸気の凝縮により置換される。そして、被乾燥物が、溶剤蒸気と同じ温度になると凝縮が終了し、その後該被洗浄物は付着している溶剤が蒸発し、清浄且つ乾燥された状態で取り出される。」

(2-ロ)段落【0016】
「また、用いられる有機溶剤は、その蒸気により物品を洗浄若しくは乾燥できるものであれば何ら問題なく用いることが出来る。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等の低級ケトン類;メチレンクロライド等の塩素系有機溶剤、パーフルオロカーボン(PFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)等フッ素系不活性液体などが挙げられる。上記シリコンウエハ製造工程、半導体デバイス製造工程、液晶パネル製造工程等への使用を勘案すれば、親水性で適度な沸点であり、取り扱いの容易さという点と、非常に高純度なものが得やすいという点から、IPAが最も好適に用いられる。この場合のIPAの純度は高純度のものほど望ましく、一般的には純度99.99%以上のものが用いられる。」

(2-ハ)段落【0035】〜【0036】
「以上の構造からなるIPA蒸気浴槽装置をクラス10のクリーンルーム内に設置し、カートリッジヒーターを加熱することで槽内にIPA蒸気浴を形成させ、8インチウエハの蒸気乾燥を行った。ウエハは、薬液洗浄によりウエハ上のコンタミネーションを除去した後、超純水によりウエハに薬液が残存しないよう十分にすすぎ洗浄を行ったものを用いた。
蒸気乾燥は、該ウエハ5が設置されたウエハ用キャリア13を、昇降リフター14によってIPA蒸気浴3中へ降下させ、キャリア13及びウエハ5にIPAを凝縮させ、付着している水滴をIPAに完全に置換するまで滞在させ、その後、リフター14を上昇させてキャリア及びウエハを取り出すことで行った。そのとき該蒸気浴3中にて凝縮したIPAは、受け皿18により回収され、装置外へ排出される構造とした。また、加熱は、ヒーターブロック部において、カートリッジヒーターの上方に設置されている温度センサー12により、該部分の温度が90℃に保たれるように調整しながら実施した。」

ウ.刊行物5
(5-イ)段落【0007】〜【0009】
「次いで、前記IPAガスが送給されている状態において、排液用ポンプ9を作動させ、吸液管6によって洗浄液槽1内の純水2を所定の速度で吸い出していく。これによって洗浄液槽1内の純水2の液面は一定の速度で下がっていき、これに伴って純水2中に浸漬されたウェーハ3が徐々に露出されていき、この露出されていくウェーハ3と純水2の接触液面部に前記N2 ガスと混合されたIPAガスが吹き付けられる。
前記ウェーハ3と純水2の接触部分は、図3に示すように、表面張力のために純水2がウェーハ3の表面に沿ってある高さまで登り、あたかも山のすそ野のような凹状の界面形状を呈している。この凹状の界面部分にN2 ガスに混合されて運ばれてきた親水性のIPAガスが吹き付けられると、IPAガスは純水2中に溶け込んでいき、IPAガスが溶け込むに従って溶け込んだ部分の純水2の表面張力が小さくなっていく。前記凹状の界面部分のIPAガスの溶け込み濃度は、純水2の液面が上から下に向かって下がっていく関係上、上部側が濃く、下部側に行くに従って薄くなり、IPA濃度の勾配を生じる。この濃度勾配が発生すると、IPA濃度の小さい下側部分の表面張力がIPA濃度の高い上側部分の表面張力よりも大きくなり、表面張力の勾配を生じる。この表面張力の勾配が発生すると、前記凹状の界面部分には表面張力の小さな側から大きな側、すなわち上側から下側に向かう引き戻し力が発生する(これをマランゴニ効果という)。
この引き戻し力が発生すると、前記凹状の界面の先端部分は、その表面張力に抗して常に下側に向かって引かれ、液面の下降に従って速やかに後退していく。このため、純水2がウェーハ3の表面に水滴痕となって残るようなことがなくなり、洗浄液槽1内の純水2の液面が下降するに従って、ウェーハ3の表面は極めて静澄な状態で乾燥処理されていく。このマランゴニ効果を利用した乾燥方法によるときは、他の乾燥方法では困難であった0.3μm以下の微粒子もウェーハ表面に残存させることなく乾燥処理を行なうことができる。」

(5-ロ)図3の記載によれば、露出されていくウェーハ3と純水2の気液界面上にIPAガスを吹き付けることが看取できる。

エ.刊行物6
(6-イ)段落【0026】〜【0027】
「ここでは、加熱部42上に蒸気発生部43a〜43cが積層配置されているので、蒸気発生装置の占有容積が小さく、構成がコンパクトである。また静かにオーバーフローさせて蒸気を発生させているので、発生した蒸気の内部に液滴が混在しにくい。さらに、発生したIPA蒸気の供給直前にヒータ47により加熱しているので、蒸気供給中においてIPAの結露が生じにくい。
このようにして密閉チャンバ17内にIPA蒸気が供給された状態で、基板Wを保持部材28により徐々に引き上げる。この結果、純水中から引き上げられている途中の基板Wの周囲へIPA蒸気が供給される。このIPA蒸気の供給は、純水中からの基板Wの引き上げが完了するまで行う。この引き上げ時においては、純水の界面がIPA蒸気に接触しかつ基板Wの面にIPA蒸気が付着する。これによって、基板Wに親水面及び撥水面が混在していても、結果的に均質な撥水面となり、表面張力が緩和されて基板Wに水滴が残留しにくくなる。このため、基板Wに乾燥マークが発生しにくくなる。・・・・」

オ.刊行物7
(7-イ)段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、イソプロピルアルコール(以下、IPAと記す)の蒸気を用いて、半導体や液晶等のワークの洗浄および乾燥を行うためのIPA蒸気洗浄乾燥装置に関するものである。」

(7-ロ)段落【0006】
「IPA蒸気洗浄乾燥装置では、IPAの蒸気とワークとの温度差が大きいほど、ワーク表面において水からIPAへの置換がうまく進み、IPAによるワーク表面の洗浄が効率的に行える。しかしながら、上記従来の装置によれば、ワークの温度上昇が生じるため、IPAの蒸気とワークとの温度差が小さくなり、洗浄度の低下を招くという問題を生じている。」

カ.刊行物8
(8-イ)段落【0036】〜【0037】
「また、この多機能処理部56のIPA供給源567eとIPA・N2供給部565との間の配管565cには温度加熱手段が設けられていない。そのため、この実施の形態ではIPA・N2供給部565からケーシング560に供給されるIPAベーパーの温度は常温(室温とほぼ等しく20℃前後)程度であり、それに対して上記純水DIWの所定温度を10℃程度低い温度、すなわち約10℃に一定に維持するものとしている。なお、温度センサおよび冷却手段は公知のものを用いることができる。
そして、上記の温度調節を行う処理工程では、温度調節を行った純水DIWを処理槽562に供給し、それに基板Wを浸漬することによって、基板Wの温度も常温のIPAベーパーに対して10℃前後低い約10℃に維持することができる。そのため、この実施の形態ではIPAベーパーを加熱しなくても、基板W表面に付着した純水についてIPAの凝縮が発生し、基板Wを処理槽から引き上げる際にも速やかに基板Wから純水を除去することができるのである。」

(8-ロ)段落【0067】〜【0069】
「また、この実施の形態における多機能処理部56ではIPAベーパーを常温としたが、この発明はこれに限られず、多少加熱する等、基板W引き上げ前の純水DIWよりIPAベーパーの方が高温であればその他の温度でもよい。
・・・・(中略)・・・・
さらに、この実施の形態における多機能処理部56では純水DIWを冷却、温度調節を行って供給して基板Wを冷却、温度調節するものとしたが、必ずしも冷却、温度調節を行わず、代わりに高温のIPAベーパーを供給するものとしてもよい。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「処理槽562」及び「リフタ563」は、それぞれ、本件補正発明における「洗浄槽」及び「引き揚げ手段」に相当する。
そして、引用発明における「基板を乾燥させるための窒素ガス」は、乾燥ガスということができ、引用発明における「窒素ガス噴射部565」は、乾燥ガス供給手段ということができるものであることは明らかである。
したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
[一致点]
「純水によって洗浄された後の基板を乾燥させる基板乾燥装置であって、
純水を貯留し、その純水中に基板を浸漬することによって当該基板を洗浄する洗浄槽と、
前記洗浄槽から洗浄後の基板を引き揚げる引き揚げ手段と、
前記引き揚げ手段によって引き揚げられつつある基板の主面に乾燥ガスを供給する乾燥ガス供給手段と、
を備え、
前記乾燥ガス供給手段は、前記引き揚げ手段によって前記洗浄槽から引き揚げられつつある基板の側方に設けられるとともに、前記洗浄槽中の純水の気液界面上に略水平方向に前記乾燥ガスの気流を形成する基板乾燥装置。」である点。
[相違点1]
乾燥ガスが、本件補正発明では、フッ素系不活性液体のガスおよび10体積%以下の水溶性溶剤のガスを含むものであるのに対し、引用発明では、窒素ガスである点。
[相違点2]
本件補正発明では、「乾燥すべき基板よりも10℃以上高い温度に前記乾燥ガスを加熱して前記乾燥ガス供給手段に送給する乾燥ガス加熱手段」を備えているのに対し、引用発明では、乾燥ガス加熱手段について特定されていない点。

(4)相違点についての検討
ア.相違点1について
刊行物2には、基板乾燥装置に用いる乾燥ガスとしてフッ素系不活性液体のガスを用いることが記載されており(上記摘記事項(2-ロ)参照)、基板に対し純水との気液界面上に有機溶媒の乾燥ガスを吹き付けることも刊行物5の図3に記載されている(同(5-ロ)参照)。
そして、刊行物1に、IPAなどのアルコールの使用はできるだけ削減することが望ましいと記載されていることを勘案すれば、引用発明における乾燥ガスとしてフッ素系不活性液体のガスを含むものとすることに格別困難性は見出せない。なお、本願明細書段落【0049】において、フッ素系不活性液体のガスは非水溶性であるからマランゴニ対流に起因した転写の問題は生じないとされているが、一方で、親水性の有機溶媒ガスによるマランゴニ効果を利用した乾燥方法が知られており(例えば、刊行物5の摘記事項(5-イ)参照)、上記マランゴニ効果を利用しないのであれば有機溶媒ガスとして非水溶性のガスを用いればよいことも明らかである。
ところで、本件出願前に頒布された刊行物である特開平7-216387号公報(以下、「刊行物9」という。)には、液切り洗浄剤として、低分子量ポリオルガノシロキサン100重量部、すなわち主成分となる溶剤100重量部に対して、液置換性等の向上のために主成分となる溶剤と相溶性を有する親水性溶剤を10重量部配合することが記載されている(表3の実施例16の欄及び段落【0046】参照)。ここで、刊行物9における前記親水性溶剤は、水溶性溶剤ということができるものである。
上記刊行物9における液切り洗浄剤は、液体状態ではあるが、被洗浄物に付着した水分と置換した後、揮散させることにより被洗浄物を乾燥させるものであり(段落【0004】参照)、刊行物2に記載の発明における水と置換して乾燥させる有機溶剤と同じ技術分野に属するものであるとともに、水溶性溶剤の気体状態での体積割合をどの程度にするかは当業者が必要に応じて設定することができる事項にすぎない。
したがって、引用発明に刊行物2、5、9に記載された発明を適用して上記相違点1に係る本件補正発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。

イ.相違点2について
有機溶剤の蒸気を含む乾燥ガスを加熱して基板に供給することは刊行物6に記載されている(摘記事項(6-イ)参照)。
また、刊行物7には、有機溶剤の蒸気とワークとの温度差が大きいほど水との置換がうまく進むことが記載されており(同(7-ロ)参照)、刊行物8には、有機溶剤の蒸気を凝縮させることにより基板から水を除去するものにおいて、蒸気の温度を乾燥すべき基板よりも10℃高い温度とすることも記載されている(同(8-イ)参照)。
してみると、引用発明に刊行物6〜8に記載された発明を適用して上記相違点2に係る本件補正発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。

また、本件補正発明の作用効果についてみても、引用発明及び刊行物2、5〜9に記載された発明から当業者が十分予測しうる範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本件補正発明は引用発明及び刊行物2、5〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について
1.本件発明
平成17年12月20日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1乃至6に係る発明は、平成17年10月7日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)に示す補正前の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.引用刊行物
これに対して、平成17年10月18日付けで通知された拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、前記第2の2(2)に示したとおりである。

3.対比・検討
本件発明と引用発明とを対比すると、両者は、上記2(3)に示したものと同様の対応関係を有するから、次の点で相違しその余の点では一致する。
[相違点3]
乾燥ガスが、本件発明では、フッ素系不活性液体のガスを含むものであるのに対し、引用発明では、窒素ガスである点。
[相違点4]
本件発明では、「乾燥すべき基板よりも10℃以上高い温度に前記乾燥ガスを加熱して前記乾燥ガス供給手段に送給する乾燥ガス加熱手段」を備えているのに対し、引用発明では、乾燥ガス加熱手段について特定されていない点。

上記相違点について検討する。
相違点3については、刊行物2に、基板乾燥装置に用いる乾燥ガスとしてフッ素系不活性液体のガスを用いることが記載されており(摘記事項(2-ロ)参照)、基板に対し純水との気液界面上に有機溶媒の乾燥ガスを吹き付けることも刊行物5の図3に記載されている(同(5-ロ)参照)。
そして、刊行物1に、IPAなどのアルコールの使用はできるだけ削減することが望ましいと記載されていることを勘案すれば、引用発明における乾燥ガスとしてフッ素系不活性液体のガスを含むものとすることに格別困難性は見出せない。
したがって、引用発明に刊行物2、5に記載された発明を適用して相違点3に係る本件発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。
相違点4については、相違点2と同じであるので、上記2(4)にて検討したとおりである。
そうすると、本件発明は、引用発明及び刊行物2、5〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び刊行物2、5〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-05 
結審通知日 2006-04-11 
審決日 2006-04-25 
出願番号 特願2000-63678(P2000-63678)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 中島 昭浩
菅澤 洋二
発明の名称 基板乾燥装置  
代理人 吉田 茂明  
代理人 吉竹 英俊  
復代理人 西田 隆美  
代理人 有田 貴弘  

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