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審決分類 審判 全部無効 判示事項別分類コード:なし  A23K
管理番号 1138976
審判番号 無効2005-80020  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-02-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-01-21 
確定日 2006-06-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第2943786号発明「甲殻類養殖粉末飼料用添加物及び甲殻類養殖用飼料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2943786号の特許請求の範囲第1ないし3項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2943786号の特許請求の範囲第1ないし3項に係る発明についての出願は、昭和61年6月5日に特許出願した特願昭61-129283号の一部を分割して、平成10年1月23日に新たな特許出願(特願平10-11456号)としたものであり、平成11年6月25日にその発明について特許権の設定登録がなされたものある。これに対して、平成17年1月21日にDSMニュートリションジャパン株式会社より無効審判の請求がなされるとともに上申書が提出され、平成17年4月11日に昭和電工株式会社より答弁書が提出され、その後、昭和電工株式会社より上申書が提出されたものであり、その発明の要旨は、明細書の記載からみて、特許請求の範囲第1ないし3項に記載された次のとおりのものである。
「1.有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有する甲殻類養殖粉末飼料用添加物。
2.有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有する甲殻類養殖用飼料。
3.飼料が粉末飼料である請求項2記載の甲殻類養殖用飼料。」

2.請求人の主張
請求人は、証拠方法として甲第1〜27号証を提出して、以下(1)及び(2)の無効理由を主張している。
(1)本件の特許請求の範囲第1ないし3項に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(2)本件の特許請求の範囲第1ないし3項に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

証拠方法
甲第1号証:米国特許第4,179,445号明細書
甲第2号証:特開昭52-136160号公報
甲第3号証:「小学館ランダムハウス英和大辞典」 第7刷 第951頁 昭和59年1月10日 株式会社小学館
甲第4号証:中島文夫編「岩波英和大辞典」 第1版第1刷 第634頁 1970年1月20日 株式会社岩波書店
甲第5号証:「THE READER'S DIGEST・OXFORD Wordfinder」 第560頁 1993年 CLARENDON PRESS・OXFORD
甲第6号証:新村出編「広辞苑」 第2版補訂版第5刷 昭和55年9月 20日 第352-353頁、580-581頁 株式会社 岩波書店
甲第7号証:米康夫編「水産学シリーズ[54]養魚飼料-基礎と応用」
第111頁 昭和60年4月15日 株式会社恒星社厚生閣
甲第8号証:特開昭58-71847号公報
甲第9号証:配合飼料講座編纂委員会編「配合飼料講座 上巻 設計篇」
3版 第600-601頁 昭和59年6月20日
チクサン出版社
甲第10号証:Bulletin of the Japanese Society of Scientific
Fisheries, 40(4) 413-419,1974
甲第11号証:荻野珍吉編「新水産学全集14 魚類の栄養と飼料」初版 第294-298頁 昭和55年11月15日
株式会社恒星社厚生閣
甲第12号証:「月刊海洋科学」12巻12号 「エビ類の栄養要求」
第864-871頁 1980年
甲第13号証:荻野珍吉編「新水産学全集14 魚類の栄養と飼料」初版
第204-211頁 昭和55年11月15日 株式会社恒 星社厚生閣
甲第14号証:水産庁振興部・監修「特用水産養殖ハンドブック」 初版
第515-519頁 昭和54年12月15日
株式会社地球社
甲第15号証:特開昭60-156349号公報
甲第16号証:特開昭48-80395号公報
甲第17号証:特許第2800116号公報
甲第18号証:吉藤幸朔著「特許法概説」第13版 第124-125頁、 268-269頁 2001年11月30日
株式会社有斐閣
甲第19号証:Chen-Hsiung(Eldon) Lee "SYNTHSES AND CHARACTERIZATION
OF L-ASCORBATE PHOSPHATES AND THEIR STABILITIES IN
MODEL SYSTEMS" 1976
甲第20号証:「ビタミン」 Vol.41 No.6 「アスコルビン酸リン酸エ ステルの化学と応用」 1970年
甲第21号証:特許第2943786号公報
甲第22号証:特許第2139541号の無効審判請求事件の審決等
その1:無効2000-35460号事件審決
その2:平成14年(行ケ)第256号事件判決
その3:平成15年(行ヒ)第269号事件決定
甲第23号証:特許第2800116号の無効審判請求事件の審決等
その1:無効2002-35352号事件審決
その2:平成15年(行ケ)第326号事件判決
その3:平成16年(行ヒ)第319号事件決定
甲第24号証:特許第2943785号の無効審判請求事件の審決等
その1:無効2002-35353号事件審決
その2:平成16年(行ケ)第126号事件判決
甲第25号証:特願昭61-129283号の特許異議決定謄本
甲第26号証:Biochemical Systematics and Ecology ,Vol.8,pp.171-179
1980
甲第27号証:山田常雄他編集「岩波生物学辞典」 第3版 第234- 235頁、846-847頁 1983年3月10日
株式会社岩波書店

3.被請求人の主張
被請求人は、証拠方法として乙第1〜25号証を提出して、請求人の無効理由(1)及び(2)に対して、以下の主張をしている。
(1)本件の特許請求の範囲第1ないし3項に係る発明は、甲第1号証に記載された発明とは到底いえない。したがって、本件発明は上記無効理由(1)により無効にされるべきではない。
(2)本件の特許請求の範囲第1ないし3項に係る発明の構成及びその効果は、請求人の提出証拠から当業者が容易に想到乃至予想はできないものである。したがって、本件発明は上記無効理由(2)により無効にされるべきではない。

証拠方法
乙第1号証:日本国弁理士、米国弁理士 森昌康作成の宣誓書
2004年5月21日作成
乙第2号証:米国特許弁護士、日本国弁理士 服部健一作成の宣誓書
2004年6月3日作成
乙第3号証:米国特許弁護士、米国弁理士 デビット エル ルービッツ 作成の宣誓書 2004年6月4日作成
乙第4号証:「昭和58年度 放流技術開発事業報告書 クルマエビ」
昭和59年3月 福井県栽培漁業センター
乙第5号証:「クルマエビ飼料」 株式会社ヒガシマル ホームページ
2005/3/16
乙第6号証:信州大学工学部物質工学科教授兼学長補佐 理学博士
神田鷹久作成の意見書 平成16年8月27日作成
乙第7号証:特許第2943785公報
乙第8号証:桐蔭横浜大学教授、東京工業大学名誉教授 理学博士
稲田祐二作成の意見書 平成16年5月26日作成
乙第9号証:E.Cutolo and A.Larizza, Gass. Chim. Ital. 91 p.964-972
(1961)
乙第10号証:内田亭監修「動物系統分類学 第1巻 総論・原生動物」 第1刷 第17-23頁 1962年5月15日
株式会社中山書店
乙第11号証:「Journal of the Chinese Biochemical Society」 Vol.13,
No2,pp.60-69,(1984)
乙第12号証:「Agric. Bio1. Chem., 」45(9),1959-1967,(1981)
乙第13号証:「Exp. Anim.」 26(3),223-229,1977
乙第14号証:「栄養と食糧」、第18巻、第1号、第63-65頁、
1965年
乙第15号証:小川和朗、小田琢三、黒住一昌、杉野幸夫編集「細胞学大 系1 概説・細胞膜」3版 第79-85頁
昭和50年6月30日 株式会社朝倉書店
乙第16号証:小川和朗、大村恒雄、村松正実、堀川正克編集「細胞生物
学 3 細胞構造と物質代謝」第1版 第236、
290-291頁 1977.4.28 理工学社
乙第17号証:小川和朗、小田琢三、黒住一昌、杉野幸夫編集「細胞学大 系3 小器官II」再版 第412-413頁
昭和50年6月10日 株式会社朝倉書店
乙第18号証:「FOOD SCIENCE Volume 2: PRINCIPLES OF ENZYMOLOGY FOR THE FOOD SCIENCES」 p.494, COPYRIGHT 1972
乙第19号証:東京海洋大学海洋科学部教授、同大学大学院海洋科学技術
研究科長 竹内俊郎博士の意見書 平成16年9月6日
作成
乙第20号証:Journal of Faculty of Fisheries, Prefectural
University of Mie, Vol.6,No.3 p.291-301, December15,
1965
乙第21号証:「ビタミン」49巻11号(11月)1975、p.439-444
乙第22号証:J. Nutr. 108、p.1761-1766 (1978)
乙第23号証:Annals of the New York Academy of Sciences, vol.258,
p.81-101 (1975)
乙第24号証:「THE ADVANCED LEARNER'S DICTIONARY OF CURRENT
ENGLISH」 語学教育研究所編 現代英英辞典
初版第15刷 第273頁 1972年 株式会社開拓社
乙第25号証:DAVID E. METZLER 「生化学 (上)」第1版第1刷
第352頁 1979年3月15日 株式会社東京化学同人
乙第26号証:DEVELOPMENTAL AND COMPARATIVE IMMUNOLOGY,
Vol.6, pp.601-611. 1982
乙第27号証の1:月刊 養殖 1997年9月号 117-121頁
「養殖魚類に対する免疫賦活物質の活用」高橋幸則著
乙第27号証の2:水産大学校 教員研究情報データベース
独立行政法人水産大学校 作成
(最終更新日:2004-02-21)
乙第28号証:フレグランス ジャーナル No.63(1983)、28-29頁
「ビタミンCおよびその誘導体の作用」石田幸久著
乙第29号証:特公昭47-40277号公報
乙第30号証:特公昭57-43219号公報

4.請求人の無効理由(2)について
(1)甲号各証に記載の発明
本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である下記の甲号各証には、以下の発明が記載されていると認められる。
甲第2号証(特開昭52-136160号公報)には、
a.「本発明は広範囲の食品に使用しうる安定な栄養価値のあるビタミンC源として有用なホスホリル誘導体類を製造するためのモノアスコルビル-およびジアスコルビル-2-ホスフエートの合成法に関する。」(第2頁右上欄下から第5-1行)、
b.「L-アスコルビン酸は、それを特定の化学誘導体に変えることによって、酸素および熱に対して一層安定化されうることが知られている。特にL-アスコルベート2-ホスフェートまたはL-アスコルベート2-サルフェートの如きアスコルビン酸の2-位置の無機エステル類は、L-アスコルビン酸のようには容易に酸化されない。さらには、L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し、動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ、このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている。ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が動物の消化系に存在するから、かかる2-ホスフェートエステルは、殆ど全ての動物中で活性を示すと考えられる。」 (第3頁左上欄第1-16行)、
c.「L-アスコルベート2-ホスフェートを合成するいくつかの方法が過去に提案されてきておりまた該ホスフェートエステルが期待通り高ビタミンC効力を有することが示されている。例えば、・・・は、モルモット(guinea pig)にL-アスコルベート2-ホスフェトマグネシウム塩を給餌または注射すると、モルモットが尿中にL-アスコルベートを排泄することを発表している・・・。L-アスコルベート2-ホスフェートを与えられた動物によつて排泄されたL-アスコルビン酸の量は、当量のL-アスコルビン酸を与えた動物によつて排泄された量と同じであった。これらの結果は、L-アスコルベート2-ホスフェートは腸内で定量的にL-アスコルベートと無機燐酸塩とに変化することを示している。」(第3頁左上欄第17行-右上欄第13行)、
d.「従って、本発明の最も重要な目的は、分析化学的に純粋な状態に容易に回収でき、しかも酸素の存在によりまたは高熱条件下で活性を失うことなく食品系中におけるビタミンC源またはビタミンプレミックスとして使用しうるアスコルビン酸のホスフェートエステルを高収率で製造するための工業的に使用しうる方法を提供することにある。」(第3頁左下欄第9-15行)、
e.「ホスホリル化反応の完結後、2-ホスフェートモノエステルは、無定形マグネシウム塩の形でまたは結晶性トリシクロヘキシルアンモニウム塩(TCHAP)の形で単離することができる。」(第5頁右下欄第9-14行)、
f.「この時点で、単離されたマグネシウム塩は実質的に純粋なL-アスコルベート2-ホスフェートであ」(第6頁左下欄第14-16行)ることが記載され、

さらに、実施例によって製造、単離された化合物として、
g.第一反応成分として5,6-O-イソプロピリデン-L-アスコルビン酸(IAA)を、第二反応成分としてオキシ塩化燐を用いる製造具体例の実施例1(第6頁左下欄第14行-第9頁右上欄第14行)には、「実質上純粋なマグネシウムL-アスコルベート2-ホスフェート(19.5g)を自由流動粉末として得た(収率約86%)。」(第8頁右下欄第7-9行)こと、また、このマグネシウム塩を遠心分離捕集した際の上澄液と捕集後のマグネシウム塩を洗浄したエタノール洗液とから、バリウムL-アスコルベート2-ホスフェートが回収されること(第8頁右下欄第10-末行)、さらには、これらを処理して、トリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2-ホスフェート(TCHAP)を単離、回収することができること(第8頁右下欄末行-第9頁右上欄第14行)、
h.第一反応成分として5,6-O-ベンジリデンL-アスコルビン酸を用いた実施例2(第9頁右上欄第15行-左下欄第11行)には、「目的とする塩、L-アスコルベート2-ホスフェート(TCHAP)は、実施例1と実質上同じ収率および純度で得られた」(第9頁左下欄第9-11行)こと、
i.第一反応成分としてL-アスコルビン酸またはD-イソアスコルビン酸を用いた実施例3(第9頁左下欄第12行-右下欄第16行)には、マグネシウムL-アスコルベート2-ホスフェートが5水和物固体基準で計算して収率65%、トリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2-ホスフェートが収率51%で得られたこと(第9頁右下欄第9-16行)、
j.実施例4(第9頁右下欄第17行-第10頁右上欄下から第15行)には、収率28.9%でバリウムビス-(L-アスコルビル)2,2’-ホスフェートを得たこと(第10頁左上欄第12-15行)、
k.純粋な結晶性TCHAPのトリシクロヘキシルアンモニウム・カチオンを別の所望カチオンに置換して別の誘導体を製造する実施例5(第10頁右上欄下から第14行-左下欄第6行)には、固体のナトリウムL-アスコルベート2-ホスフェートを収率95%で得たこと、また、置換カチオンとしてバリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどを有する、その他の塩も同様に製造できること、がそれぞれ記載されている。
上記摘示事項中、特にb.における、「L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し、動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ、このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている。ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が動物の消化系に存在するから、かかる2-ホスフェートエステルは、殆ど全ての動物中で活性を示すと考えられる。」の記載から、同甲第2号証には、
「L-アスコルビン酸の2-ホスフェート誘導体」は「ビタミンC活性」、すなわち、アスコルビン酸活性を示す有効成分として、「魚の餌の補充剤として用いられる」ことが記載されていると認められる。
そして、摘示事項c.において、「L-アスコルベート2-ホスフェートを合成するいくつかの方法が過去に提案されてきておりまた該ホスフェートエステルが期待通り高ビタミンC効力を有することが示されている。」として例示されている、L-アスコルベート2-ホスフェートは、「L-アスコルベート2-ホスフェートマグネシウム塩」であり、また、「本発明の最も重要な目的は、分析化学的に純粋な状態で容易に回収でき、しかも酸素の存在によりまたは高熱条件下で活性を失うことなく食品系におけるビタミンC源またはビタミンプレミックスとして使用しうるアスコルビン酸のホスフェートエステルを高収率で製造するための工業的に使用しうる方法を提供することにある」(摘示事項d.)として、その製造方法が実施例1ないし5に具体的に開示され、純粋な状態で回収されているアスコルビン酸のホスフェートエステルは、いずれもその塩類である(摘示事項e.ないしk.)から、上記「L-アスコルビン酸の2-ホスフェート誘導体」は、「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩類」、すなわち、「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類」を含むものである。
そうすると、甲第2号証には、「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する、アスコルビン酸活性を有する魚の餌の補充剤」が実質的に記載されているということができる。

甲第7号証(米康夫編「水産学シリーズ[54]養魚飼料-基礎と応用」 第111頁 昭和60年4月15日 株式会社恒星社厚生閣)には、「現在市販されている海水魚用配合飼料の形状」として、「粉末(マッシュ)」と「固型」が記載されており、「固型」には「ペレット」、「クランブル」、「多孔質ペレット」が列挙されている。(第111頁第12行及び表10・1)

甲第8号証(特開昭58-71847号公報)には、一般の配合飼料は固形のペレット、クランブル、フレーク或いはマッシュであること(第2頁左上欄第5-7行)、及び、ビタミン混合を配合したクルマエビ、ガザミ、ヒラメなどの稚魚用配合飼料が実施例1及び2(第3頁右上欄第1-19行)として記載され、さらに、実施例1の「稚魚用配合飼料」をクルマエビ(試験例1(第3頁左下欄第17行-右下欄第9行))、ガザミ(試験例2、3(第3頁右下欄第10行-第4頁右上欄下から第13行))、ヒラメ(試験例4(第4頁右上欄下から第12行-左下欄末行))において行った飼育試験が記載されている。

甲第9号証(配合飼料講座編纂委員会編「配合飼料講座 上巻 設計篇」3版第600-601頁(昭和59年6月20日)チクサン出版社)には、「クルマエビ用配合飼料の形状は,粉末を『練り餌』としていた時代もあったが,現在では殆んどが径2mm,長さ数cmのペレットである。」(第600頁第17-19行)ことが記載されている。

甲第10号証(Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries, 40(4) 413-419,1974)には、「クルマエビの精製合成餌料に関する研究-I 餌料の基本組成」と題する報告書において、アスコルビン酸を含むビタミン混合物(第415頁Table3)を配合したクルマエビ用配合餌料(第414頁下から第6行-第415頁下から第2行)を用いて飼育試験を行ったこと、クルマエビ用配合餌料における、「無機塩混合物組成はクルマエビ用配合餌料の灰分の分析値とマダイ用精製試験餌料の無機塩混合物の組成を参考とし」(第414頁末行-第415頁下から第5行)たことが記載されている。

甲第11号証(荻野珍吉編「新水産学全集14 魚類の栄養と飼料」初版 第294-298頁 昭和55年11月15日 株式会社恒星社厚生閣)には、「粉末飼料:主にねり餌用で,幼魚用,育成用,そして単独用,混合用など,用途,魚種,ステージに応じて種々のものが製造されている」こと、「原料の選定と合わせて原料を微粉化することが必要となる.そのため,特殊な微粉砕機を設置している工場が多い」こと、「粉末からねり餌を作る場合,添加物を混入するには都合が良いので,着色剤や治療剤を添加する目的にしばしば使用される」(第294頁下から第2行-第295頁下から第9行)ことが記載されている。

甲第12号証(「月刊海洋科学」12巻12号 「エビ類の栄養要求」第864-871頁 1980年)には、「イセエビ,クルマエビなどのエビ類について,グルコースからビタミンCへの合成能をしらべた結果,ほとんど合成能のない」ことから、ビタミンCの「飼料としての必要性」が記載され、また、「飼料製造中および飼料製造後保存中のビタミンCは不安定で,とくに飼料製造中の熱処理により,添加量の40%が破壊される」(第870頁左欄下から第15-7行)ことが記載されている。

甲第13号証(荻野珍吉編「新水産学全集14 魚類の栄養と飼料」初版 第204-211頁 昭和55年11月15日 株式会社恒星社厚生閣)には、ビタミンCに関し、「クルマエビについて試験を行」ったこと、ビタミン「C欠乏または不足の飼料を与えた区では高水温時にへい死率が著しく高くなり、へい死したエビの多くは殻皮の周辺が灰白色化していた」(第210頁第12-16行)ことが記載されている。

甲第14号証(水産庁振興部・監修「特用水産養殖ハンドブック」初版第515-519頁 昭和54年12月15日 株式会社地球社)には、「オニテナガエビの養殖事例」として、マス用ペレット、コイ用ペレットを投与した事例(第517頁 表III-90)が記載されており、また、「マス稚魚用ペレット(P・3)を用いて試験した結果,増肉系数1.8〜2.2という結果が得られているが,魚のアラ等と交互に投与するとよいようである。1日に食べる量はペレットの場合,体重の2〜3%,魚肉で約10%である。」(第516頁下から第2行-第517頁下から第4行)ことが記載されている。

甲第15号証(特開昭60-156349号公報)には、「グルタチオンを使用する魚介類の養殖方法及びグルタチオンを含有した魚介類飼料」(第1頁右下欄第11-12行)において、「対象となる養殖魚介類としてはブリ、タイ、ウナギ、シマアジ、トラフグ、ヒラメ、アユ、コイ、マス、などの魚類、ガザミ、クルマエビなどの甲殻類、アワビ、ホタテガイ、カキなどの貝類などが例示される。」(第2頁左下欄第11-15行)ことが記載されている。

甲第16号証(特開昭48-80395号公報)には、「魚貝類用餌料の製造法」(特許請求の範囲)において、「ここにいう養魚貝とは,うなぎ,はまち,えび,かに,あわび,ます,こい,あゆ等のクランブルまたはマッシュタイプの餌料を食べる魚、貝、甲殻類等を指している。」(第1頁右下欄第20行-第2頁左上欄第3行)ことが記載されている。

(2)対比・判断
(2-1) 本件の特許請求の範囲第1項に係る発明に対して
上記したとおり、甲第2号証には、「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する、アスコルビン酸活性を有する魚の餌の補充剤」(以下、「引用発明1」という。)が実質的に記載されている。ここで「魚の餌の補充剤」とは、実質上、「魚」の養殖用の「餌」に配合される添加剤を意味しているということができるから、引用発明1は、「水産養殖用飼料用添加物」という技術的概念に包含されるということができる。一方、本件の特許請求の範囲第1項に係る発明(以下、「第1項発明」という。)の構成である、「甲殻類養殖粉末飼料用添加物」もまた、「水産養殖用飼料用添加物」という技術的概念に包含されるものである。
そこで、第1項発明と引用発明1とを対比すると、
両者は「アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する水産養殖用飼料用添加物。」である点で一致しており、以下の点で相違すると認められる。
(i) 水産養殖の対象が、第1項発明では甲殻類の養殖であるのに対して、引用発明1では魚の養殖である点。
(ii) 飼料の形態が、第1項発明では粉末飼料であるのに対して、引用発明1では飼料の形態は明らかでない点。
上記の相違点について検討する。
(i)の相違点について検討する。
甲殻類は魚類と並ぶ代表的な水産養殖動物であり、養殖技術の分野において甲殻類の養殖と魚の養殖とはきわめて近接した関係にある。例えば、甲第8号証には、ビタミン混合を配合した「稚魚用配合飼料」をクルマエビ、ガザミなどの甲殻類と、ヒラメなどの魚の飼育に用いることが、甲第14号証には、「オニテナガエビの養殖事例」として、マス用ペレット、コイ用ペレットを投与した事例が、また甲第15号証には、「グルタチオンを含有した魚介類飼料」を用いた養殖において、「対象となる養殖魚介類としてはブリ、タイ、ウナギ、シマアジ、トラフグ、ヒラメ、アユ、コイ、マス、などの魚類、ガザミ、クルマエビなどの甲殻類などが例示される」ことが、さらに甲第16号証には、「うなぎ,はまち,えび,かに,あわび,ます,こい,あゆ等のクランブルまたはマッシュタイプの餌料を食べる魚、貝、甲殻類等」の「魚貝類用餌料の製造法」が記載されているように、両者間で飼料の共用もしくは転用が広く行われている。また、甲第10号証には、「アスコルビン酸を含むビタミン混合物を配合したクルマエビ用配合餌料」を用いた飼育試験において、「クルマエビ用配合餌料」における、「無機塩混合物組成はクルマエビ用配合餌料の灰分の分析値とマダイ用精製試験餌料の無機塩混合物の組成を参考とし」たことが記載されており、飼料設計においても魚類飼料に関する技術的事項が甲殻類の飼料に適用されている。
ところで、甲第13号証には、「クルマエビについて」のビタミンCに関する「試験」によると、ビタミン「C欠乏または不足の飼料を与えた区では高水温時にへい死率が著しく高くなり、へい死したエビの多くは殻皮の周辺が灰白色化していた」ことが記載されており、また、甲第12号証には、「イセエビ,クルマエビなどのエビ類」は「グルコースからビタミンCへの合成能」を「ほとんど」備えていないことから、ビタミンCを「飼料」に添加することの「必要性」が述べられている。
そうすると、アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類が魚の餌の補充剤として用いられるという、甲第2号証が実質的に開示する技術事項に接した当業者は、甲殻類の養殖において、上記の塩類を餌の補充剤として用いれば、甲殻類に不足するビタミンC、すなわちL-アスコルビン酸を補えるであろうことを予測するものであり、また実際に用いてその効き目を試すものといえるから、(i)の相違点の構成に格別な困難性はない。
(ii)の相違点について検討する。
魚の養殖用飼料として粉末(マッシュ)飼料は広く知られており(例えば、甲第7、8、11号証があげられる。)、また甲殻類養殖用の粉末(マッシュ)飼料も同様に周知である(例えば、甲第8、9、16号証があげられる。)。そうすると、甲第2号証に開示された、「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する、アスコルビン酸活性を有する魚の餌の補充剤」を甲殻類養殖用飼料用添加物として用いる際の飼料の形態を、周知の飼料形態である粉末飼料とすることは単なる設計事項にすぎない。
そして、上記の各相違点を備えた第1項発明の効果も引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、第1項発明は引用発明1及び周知技術から当業者が容易になし得たものである。

(2-2) 本件の特許請求の範囲第2項に係る発明に対して
上記したとおり、甲第2号証には、「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する、アスコルビン酸活性を有する魚の餌の補充剤」が実質的に記載されている。ここで「魚の餌の補充剤」とは、実質上、「魚」の養殖用の「餌」に配合される「補充剤」を意味しているということができるから、甲第2号証には上記「補充剤」を配合した飼料、すなわち、「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する、アスコルビン酸活性を有する魚の養殖用飼料」(以下、引用発明2」という。)が実質的に開示されているということができる。
そこで、本件の特許請求の範囲第2項に係る発明(以下、「第2項発明」という。)と引用発明2とを対比すると、
養殖用飼料が、第2項発明では甲殻類養殖用飼料であるのに対して、引用発明2では魚の養殖用飼料である点で両者は相違しており、その余の点では両者に差異は認められない。
上記の相違点について検討すると、「(2-1) 本件の特許請求の範囲第1項に係る発明に対して」における、「(i)の相違点についての検討」として記載したように、甲殻類養殖用飼料と魚の養殖用飼料との間で飼料の共用もしくは転用が広く行われており、飼料設計においても魚類飼料に関する技術的事項が甲殻類の飼料に適用されている。そして、甲殻類の養殖においてビタミンC、すなわちL-アスコルビン酸を「飼料」に添加することの「必要性」が認識されていることから、有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を配合した飼料が魚の養殖用飼料として用いられるという、甲第2号証が実質的に開示する技術事項に接した当業者は、上記の塩類を配合した飼料を甲殻類の養殖用として用いれば、甲殻類に不足するビタミンC、すなわちL-アスコルビン酸を補えるであろうことを予測するものであり、また実際に用いてその効き目を試すものである。
そして、上記の相違点を備えた第2項発明の効果も、上記したとおり引用発明2及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、第2項発明は引用発明2及び周知技術から当業者が容易になし得たものである。

(2-3) 本件の特許請求の範囲第3項に係る発明に対して
本件の特許請求の範囲第3項に係る発明(以下「第3項発明」という。)は第2項発明を限定して、「飼料が粉末飼料である」ことを特定したものである。そして、甲殻類養殖用飼料において、飼料の形態を粉末飼料とすることは単なる設計事項にすぎないことは「(2-1) 本件の特許請求の範囲第1項に係る発明に対して」における、「(ii)の相違点について」の検討として記載したとおりであり、第3項発明の効果も引用発明2及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。
したがって、第3項発明は引用発明2及び周知技術から当業者が容易になし得たものである。

(3)被請求人の主張について
被請求人は、以下の主張をしている。
(i) 甲第2号証には、「L-アスコルビン酸の2-ホスフェート及び2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し、動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ、このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている。」なる記載があるが、「このもの」、すなわちL-アスコルビン酸の2-ホスフェート誘導体類は、ジ-アスコルビル-2-ホスフェートあるいはその塩等をも含みうるのであり、L-アスコルビン酸2-ホスフェートの塩であるとは限らない。さらに、「魚の餌の補充剤」の記載は「魚からなるヒトの食事」の誤訳(乙第1〜3号証、乙第6号証)であって、甲第2号証出願以前にL-アスコルビン酸2-リン酸エステルの塩を魚の餌の補充剤として用いた事実はない(乙第19号証)。

(ii) 甲第2号証における、「ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が動物の消化管に存在するから、かかる2-ホスフェートエステルは、殆ど全ての動物中で活性を示すと考えられる。」の記載中、「動物」とは哺乳動物を指す。また、甲第2号証に記載された唯一の実験例はモルモットの例にすぎない。このモルモットの例から魚にもL-アスコルビン酸の2-ホスフェートが有効であるということはできず(乙第10、25号証)、当業者が甲第2号証の記載を読んだとしても、この記載でホスフェート誘導体がビタミンCとして活性をもつ水産養殖用飼料添加物として使用できるとは考えなかったはずである(乙第19号証)。また、「殆ど全ての動物中で活性を示す」の記載は科学的妥当性を欠く(乙第6、8号証)。

(iii) アルカリホスファターゼの基質特異性は、生物の種類、その採取器官により異なる(乙第11〜14号証)。したがって、甲殻類がビタミンCを必要とすること、およびエビの肝膵臓(中腸腺)にアルカリホスファターゼが含まれることが知られていたとしても、甲殻類において、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩が有効であるとはいえない。また、甲殻類の消化系において酸性ホスファターゼが存在していたとしても、それのみで、アスコルビン酸の2-リン酸塩を有効化するとは到底いえない(乙第15〜18号証)。酵素の作用条件も酵素の起源によって異なり、生物種ごとに異なる(乙20号証)から、甲殻類におけるホスファターゼの作用条件及び甲殻類の消化系等の臓器のpH等が明らかでなければ、甲殻類において、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩が開裂し、有効化するとはいえない。

(iv) 甲殻類において、L-アスコルビン酸2-リン酸エステルの塩が有効であるといえなければ、甲殻類養殖用ペレット飼料に、L-アスコルビン酸2-リン酸エステルの塩を添加しようとはせず、また、L-アスコルビン酸2-リン酸エステルの塩の甲殻類に対する効果を予測できないのであるから、本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものではない。

上記の主張について検討する。
(i)の主張については、甲第2号証における摘示事項c.e.f.によれば、「L-アスコルベート2-ホスフェート」が「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」をも意味していることが明らかであり、また、摘示事項d.に記載のように、「ビタミンC源またはビタミンプレミックスとして使用しうるアスコルビン酸のホスフェートエステルを高収率で製造する」ことを最も重要な目的とする引用発明において、実際に最終生成物として単離されているのは「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」のみである(実施例1ないし5)ことから、甲第2号証においては、「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」をビタミンC源として記載しているものである。そうすると、摘示事項b.の「L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し、動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ、このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている。」との記載においても、「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」が、「魚の餌の補充剤に用いられる」ものとして実質的に記載されているものである。
被請求人はさらに、「魚の餌の補充剤」の記載は「魚からなるヒトの食事」の誤訳であると主張して乙第1〜3号証、乙第6号証を提出しているが、前記乙号各証は甲第2号証の対応米国特許明細書(甲第1号証)の解釈に関するものであり、該解釈が甲第2号証の記載に直接影響を与えるものではない。甲第2号証は、全体としてみれば、食品に使用し得るL-アスコルベート2-ホスフェートの合成法について記載したものということはできるが、摘示事項b.には、L-アスコルベート2-ホスフェートが、単に、食品に添加したときにビタミンCのように容易に酸化されないという利点を有するのみならず、動物の体内でビタミン活性を示すものであることが説明されており、特に、摘示事項b.の「L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し、動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ、このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている」との記載における「魚の餌の補充剤」は、「例えば」との記載からみて、その直前に記載された「動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ」ることの例を挙げたものと解することができ、続いて、「ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が動物の消化系に存在するから、かかる2-ホスフェートエステルは、殆ど全ての動物中で活性を示すと考えられる」とした上で、摘示事項c.で、実際に、期待どおりにビタミン活性が示されることを、モルモットの例を挙げて説明し、ヒトにおいても同様の効果が期待されることを説明して、摘示事項d.のL-アスコルベート2-ホスフェートの食品への使用についての記載につながっていると解すことができる。そうすると、甲第2号証の「魚の餌の補充剤」の記載が、その文脈上、不自然であるとはいえない。仮に、被請求人が主張するとおり、甲第2号証に係る出願当時、L-アスコルビン酸2-リン酸エステルの塩を魚の餌に使用したことを示す例が知られていなかったとしても、そのことが甲第2号証の上記記載事項の認定を左右するものではない。

(ii)の主張については、被請求人は、甲第2号証の発明者(ポール・オウガスタ・セイブ)と同一人を承認者とする学位論文である甲第19号証に、動物としてモルモット、サル、ヒトしか記載されていないとの理由から、甲第2号証における「動物」とは哺乳動物を指すと主張するが、甲第2号証と甲第19号証とは互いに独立した別個の刊行物であり、甲第19号証の記載内容を根拠として甲第2号証に記載された「全ての動物」が哺乳動物に限定されると解釈すべき必然性はない。
被請求人は、乙第6、8、10、25号証を提出して、モルモットの例から魚にもL-アスコルビン酸の2-ホスフェートが有効であるということはできないことを主張するが、甲第2号証において、L-アスコルベート2-ホスフェートのマグネシウム塩が、モルモットの体内においてL-アスコルベート(L-アスコルビン酸)の形に活性化される(摘示事項c.)のと同じように、L-アスコルベート2-ホスフェートの塩が、魚の体内でも開裂されて活性を示すことは、当業者が合理的に理解し得ることである。

(iii)の主張については、アルカリホスファターゼに基質特異性が存在するとして被請求人が提出した乙第11〜14号証、並びに、酸性ホスファターゼに基質特異性が存在するとして被請求人が提出した乙第15〜18号証は、いずれも甲殻類の消化系に存在するホスファターゼの基質特異性に関するものではなく、これらの乙号各証をもって、甲殻類の消化系には、L-アスコルビン酸2-リン酸エステルの塩を開裂するホスファターゼが存在しないと直ちに結論付けることはできず、これらの乙号証の存在が、甲第2号証に記載された「魚の餌の補充剤」を甲殻類の餌の補充剤に適用する際の阻害要因になるとはいえない。
被請求人はまた、乙第19、20号証を提出して、甲殻類におけるホスファターゼの作用条件及び甲殻類の消化系等の臓器のpH等が明らかでなければ、甲殻類において、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩が開裂し、有効化するとはいえないことを主張するが、上記したとおり、甲第2号証には、「アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する魚の餌の補充剤」が実質的に記載されているのであり、上記記載に接した当業者は、アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類が魚の餌の補充剤として用いられることを実体を伴って合理的に認識し、甲殻類の養殖において、上記の補充剤を甲殻類の餌の補充剤として用いることを試みるものであり、甲殻類におけるホスファターゼの作用条件及び甲殻類の消化系等の臓器のpH等が明らかにならないうちは、上記の補充剤を甲殻類の餌の補充剤として適用することができないということにはならない。

(iv)の主張については、上記したとおり、甲第2号証には、「有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有する、アスコルビン酸活性を有する魚の餌の補充剤」が実質的に記載されている以上、魚のみならず、これを甲殻類に用いた場合の効果は当業者であれば十分に予測が可能であり、また実際に試みてその効果を確認しようとするものである。

したがって、被請求人が主張する上記(i)ないし(iv)の主張はいずれも理由が無い。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件の特許請求の範囲第1ないし3項に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するので、請求人の主張する他の無効理由を検討するまでもなく、その特許は無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-08 
結審通知日 2005-06-13 
審決日 2005-06-24 
出願番号 特願平10-11456
審決分類 P 1 113・ - Z (A23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 塩崎 進
渡部 葉子
伊波 猛
白樫 泰子
登録日 1999-06-25 
登録番号 特許第2943786号(P2943786)
発明の名称 甲殻類養殖粉末飼料用添加物及び甲殻類養殖用飼料  
代理人 津国 肇  
代理人 吉村 康男  
代理人 小國 泰広  
代理人 斉藤 房幸  
代理人 武井 秀彦  

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