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審決分類 |
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B29D 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B29D |
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管理番号 | 1138985 |
審判番号 | 不服2001-10562 |
総通号数 | 80 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1992-10-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-06-21 |
確定日 | 2006-06-28 |
事件の表示 | 平成 3年特許願第353940号「加硫用型内の未加硫タイヤのベクトル的組合せ方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年10月22日出願公開、特開平 4-298331〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は平成3年12月19日(パリ条約による優先権主張1990年12月21日 イタリア)の出願であって、平成13年1月25日付けで拒絶理由が通知され、平成13年4月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成13年5月8日付けで拒絶査定がなされ、平成13年6月21日付けで審判請求がされ、平成16年9月17日付けで審尋がなされ、平成16年11月29日付けで審尋に対する回答書が提出されたものである。 2.本願特許請求の範囲 本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、平成13年4月9日付けの手続補正書により補正された下記のとおりのものである。 「加硫用の型(4)内における未加硫タイヤ(2)のベクトル的組合せ方法にして、前記未加硫タイヤ(2)の起源、即ちこれを製造する機械及びこれが割り当てられた加硫用ユニット(4)の双方を判定するために処理ユニット(12)により行なわれる第1段階; 前記処理ユニット(12)が前記加硫用ユニット(4)及び前記機械により製造される平均的タイヤ(2)の双方の非対称に関する記憶データを抽出する第2段階; 及び前記処理ユニット(12)の処与のプログラムに従って前記非対称を少なくも部分的に補償する方法で前記タイヤ(2)が前記加硫用ユニット(4)内で角度的な位置決めをされる第3段階を包含することを特徴とする方法。」 3.原審で通知された拒絶理由 平成13年1月25日付けの拒絶理由通知は、下記の内容を含むものである。 「理由1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない。 理由2)この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」 4.当審における審尋 4-1.審尋の内容 当審における平成16年9月17日付け審尋は、概略、下記の内容を含むものである。 「下記の疑問点につき、明細書又は図面の記載、あるいは当該技術分野における技術常識であること等の根拠を示しつつ、具体的に釈明されたい。 1.タイヤの非対称性について (1)本願発明における未加硫タイヤ及び加硫タイヤの非対称性とは、具体的にどのようなもので、具体的にはどのように測定されるのか。また、これらのタイヤの半径方向及び軸方向の非対称ベクトルとは、具体的にはどのように表現されるものなのか。 2.タイヤの非対称性を補償する方法について (1)本願発明においては、所与のプログラムに従ってタイヤの非対称を少なくとも部分的に補償するように未加硫タイヤが加硫ユニットに導入される前に角度的に位置決めをされることとなっているが、具体的には、未加硫タイヤ及び加硫タイヤの半径方向及び軸方向の非対称ベクトルという変数を、具体的にどのように演算することによって、タイヤの非対称を補償するように位置決めすべき角度を算出することとなるのか。具体的な実施例を示して、釈明されたい。 (2)特に、タイヤの軸方向の非対称性については、具体的にはどのように補償されるのか、具体的な実施例を示して釈明されたい。 (3)本願明細書の段落【0019】に記載される「最小関数」とは何か。」 4-2.審尋に対する平成16年11月29日付けの回答 4-1.の審尋に対し、参考資料1(米国特許第4877468号明細書)、参考資料2(特開昭62-290508号公報)、参考資料3(Principles of Balancing Technology)、参考資料4(図面)、参考資料5(英国特許第932390号明細書)を提出する、請求人の回答書の内容は、下記の項目を含むものである。 (回答書に示された項目) 1.未加硫タイヤの形成 (1)未加硫タイヤ形成機 (2)非対称性を生成するファクタ 2.非対称ベクトルの測定 (1)非対称ベクトル (2)加硫型の非対称ベクトルの測定 (3)加硫タイヤの非対称ベクトルの測定 3.補償 4.最小関数 5.当審の判断 5-1.特許法第36条第4項違反について 本願発明は、「非対称を少なくも部分的に補償する」ことを発明の構成に欠くことのできない事項として含むものであり、この補償は、請求項1の記載からみて、未加硫タイヤを製造する機械により製造される平均的タイヤの非対称と、加硫用ユニットの非対称とを補償するものであると認められる。 この「非対称を少なくも部分的に補償する」ことについては、願書に添付された明細書の発明の詳細な説明には、段落【0006】及び段落【0026】に請求項1と同様の記載があり、段落【0012】に 「処理ユニットは、コンベヤー8に接続された機械(図示せず)の各、及びステーション3に割当てられた加硫用ユニット4の各の双方の生産された平均的タイヤの半径方向及び軸方向の非対称ベクトルを記憶するように設計された電算機よりなる。」とあり、また、段落【0019】に「一方ではタイヤ2の、他方ではそれぞれのユニット4の非対称が前記プログラムに記述された最小関数の基準で(on the basis of minimum functions)少なくも部分的に補償される。」と記載されているのみであり、他に非対称を補償することに関連する記載は見られない。そして、段落【0006】及び段落【0026】の記載は請求項1の記載の繰り返しに過ぎないし、段落【0012】は、非対称ベクトルを記憶することについての記載であって、非対称ベクトルをどのように求めるか、あるいは求めた非対称ベクトルをどのように用いて補償を行うかについての記載は一切ない。また、段落【0019】の記載も、ここに記載された「最小関数の基準」自体、どのようなものか不明である。したがって、発明の詳細な説明の記載では、「非対称を少なくも部分的に補償する」とは、具体的にどうするのか、例えば、補償するのに必要な、未加硫タイヤを製造する機械により製造される平均的タイヤの非対称と、加硫用ユニットの非対称とのデータをどのようにして得るのか、また、それらのデータからどのような演算をして「非対称を少なくも部分的に補償する」のか、が不明である。 なお、平成13年4月9日付け意見書で、非対称を少なくとも部分的に補償することについて説明されているが、この説明は本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づかないものであり、「非対称を少なくも部分的に補償する」ことについて、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されていることを説明するものではない。 しかも、「非対称を少なくも部分的に補償する」ことについては、回答書及び参考資料1〜5等を参酌しても、発明の詳細な説明に具体的に記載するまでもなく、当業者であれば理解できる事項であるともいえない。 以下、詳述する。 5-1-1.回答書の説明について (1)回答書の「2.非対称ベクトルの測定」の「(2)加硫型の非対称ベクトルの測定」の項には、加硫型の非対称ベクトルの測定についての説明がなされており、これは本願発明の「加硫用ユニットの非対称」についてのものと推測されるが、この項に示された測定方法が、本願出願前に公知のものであったのか否かすら不明である。 しかも、本願発明の「加硫用ユニット」について、その構成は詳細には説明されていないものの、通常の加硫用ユニットは、タイヤの外面を規定する型以外に、ブラダーや、加熱機構などを有するものであって、加硫用ユニットによる非対称の要因としては、ブラダーや加熱機構などに由来する要因も考えられるところ、回答書では加硫用ユニットの一構成部材である型に由来する非対称について説明されているのみであるから、「加硫用ユニットの非対称」をどのように測定するのかについて説明されているとはいえない。 したがって、本願出願時に、当業者であれば、加硫用ユニットの非対称の測定は、回答書のこの項に説明されているようにして行うことを意味するものであると、本願明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載するまでもなく理解できるとはいえない。 また、回答書には、他に「加硫用ユニットの非対称の測定」についての説明は見いだせない。 よって、発明の詳細な説明には「加硫用ユニットの非対称」の測定方法が当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。 (2)回答書には、「未加硫タイヤを製造する機械により製造される平均的タイヤ」の非対称をどのように測定するかについての説明は見いだせない。 なお、タイヤの非対称の測定に関連する説明としては、参考資料3にタイヤ/ホイール組立体の釣り合いに関する開示があり、また、「(3)加硫タイヤの非対称ベクトルの測定」の項で、参考資料4として添付された参考図Aに基づく説明がされるとともに、参考資料5として提出された英国特許第932390号明細書に加硫タイヤの非対称ベクトルの測定装置が開示されているとされている。 しかし、これらはいずれも加硫タイヤの測定に関するものであって、「未加硫タイヤを製造する機械により製造される平均的タイヤ」の非対称を測定するものではない。しかも、参考資料4は、その出所が不明であるから、これに基づいて説明された測定方法が、本願出願前に公知のものであったのか否かすら不明である。 ところで、回答書は、加硫タイヤの非対称の測定を未加硫のものの測定に転用することは当業者にとって周知慣用のことであるとの趣旨とも考えられるので、念のため検討する。 まず、加硫タイヤの非対称の測定を未加硫タイヤを製造する機械により製造される平均的タイヤの測定に転用することが本願出願時に知られているとはいえない。しかも、加硫タイヤにおいて測定された非対称は、リムに錘をつける等の比較的単純な方法で補償されるものであるのに対し、本願発明は未加硫タイヤを製造する機械により製造される平均的タイヤの非対称と、加硫ユニットの非対称とを補償するものであって、加硫タイヤにおける補償とは全く異なった方法で補償されると解されるものであるから、仮に加硫タイヤにおける測定方法を未加硫タイヤを製造する機械により製造される平均的タイヤの測定に転用したとしても、その測定により得られたデータが本願発明における補償に利用可能な形式のものかも不明である。さらに、未加硫タイヤと加硫タイヤとでは物性が異なることから、例えば、加硫タイヤの測定と同様に遠心力を付与した場合、未加硫タイヤは変形してしまい得られた非対称に関するデータは未加硫タイヤ本来の非対称に関するデータとは異なることも考えられることから、加硫タイヤに関する非対称の測定技術を、本願発明における未加硫タイヤの非対称の測定技術に直ちに転用できるとは必ずしもいえない。したがって、加硫タイヤの非対称の測定に関する技術が知られているとしても、未加硫タイヤを製造する機械により製造される平均的タイヤの非対称を測定する方法について、本願明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載するまでもなく当業者であれば理解できるとはいえない。 (3)回答書の「3.補償」、及び、「4.最小関数」の項に記載された説明は、その文章自体が意味不明であるため、「非対称の補償」が具体的にどのように行われるのか依然として不明であるとともに、仮に、該回答書の文章の意味が理解できるとしても、ここに説明されている事項が、本願出願時に当業者に知られていたか否か不明であるから、本願発明の構成に欠くことができない事項である、「非対称を少なくも部分的に補償する」とは、具体的には、回答書の「3.補償」、及び、「4.最小関数」の項に記載されたことを意味することが、本願出願時において当業者にとっては明らかであったとはいえない。 したがって、回答書の説明を考慮しても、本願発明の構成に欠くことができない事項である、「非対称を少なくとも部分的に補償する」ことについて、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。 5-1-2.特許法第36条第4項違反についてのまとめ 以上のとおり、本願発明の構成に欠くことができない事項である「非対称を部分的に補償する方法」については、該補償する方法に用いる非対称のデータの測定方法が発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されているといえず、かつ、補償する方法とは非対称のデータをどのように処理するものであるのかについても、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されているといえない。 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を容易に実施できる程度に記載したものではない。 5-2.特許法第36条第5項第2号及び第6項違反について 原審における拒絶理由通知では、「角度的な位置決めを行う方法として部分的に補償する方法を行うとはどういうことであるか不明である。」とし、さらに、この点に関して、当審において平成16年9月17日付けで審尋を行い、請求項1に係る「ベクトル的組合せ方法にして、・・・非対称を少なくも部分的に補償する方法で前記タイヤ(2)が前記加硫用ユニット(4)内で角度的な位置決めをされる」という発明について、タイヤの非対称性、非対称ベクトルとは如何なることで、当該タイヤの非対称性、非対称性ベクトルを如何にして補償するのかを明らかにするよう求めたところ、回答書のとおり回答を得たので、本願明細書及び回答の内容とにより発明が明らかになったか、以下に検討する。 タイヤの非対称性、非対称ベクトルについては、回答書の「2.非対称ベクトルの測定」の項及び参考資料3-5に記載されていると回答しているが、上記5-1.でも説示したとおり、この回答の内容は本願明細書に記載されたことではない。さらに、回答書中で説明しているような事項のみが非対称性を表現する事項であることが明らかであるともいえないから、本願発明における非対称性が、回答書中で説明している事項を意味することが自明であるとはいえない。 また、タイヤ(2)は、未加硫タイヤを製造する機械により製造される平均的タイヤとされているが、「平均的」とはどのようにして算出した平均であるのか不明であることから、この平均的タイヤ自体の意味も明確でないことも、タイヤ(2)の非対称性、非対称ベクトルが不明な一因となっている。 さらに、「処与のプログラムに従って少なくとも部分的に補償する」についても、その補償の内容、すなわち、プログラムがどのようなものか、また、「少なくとも部分的に」がどのような意味で用いられているのか請求項1の記載では把握できないし、「角度的な位置決め」についても、何を基準としてどの角度(タイヤの軸方向か半径方向か、あるいは他の方向の角度か)を決めるのか請求項1の記載では不明である。 以上のとおり、タイヤの非対称、非対称ベクトル、「処与のプログラムに従って少なくとも部分的に補償する」、「角度的な位置決めをされる」については、これらの記載が意味するところが請求項1の記載では明確でなく、また、これらの意味は発明の詳細な説明を参酌しても理解できないし、回答書をみても、これらの事項は具体的に説明するまでもなく当業者が理解できる周知の事項であるとはいえないから、結局、請求項1に係る発明が不明である。 6.むすび したがって、本願は、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-04-18 |
結審通知日 | 2006-04-25 |
審決日 | 2006-05-09 |
出願番号 | 特願平3-353940 |
審決分類 |
P
1
8・
531-
Z
(B29D)
P 1 8・ 534- Z (B29D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 加藤 友也、細井 龍史、岩田 行剛 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
川端 康之 野村 康秀 |
発明の名称 | 加硫用型内の未加硫タイヤのベクトル的組合せ方法 |
代理人 | 小田島 平吉 |