• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04G
管理番号 1139214
審判番号 不服2004-17330  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-20 
確定日 2006-07-07 
事件の表示 平成11年特許願第113312号「耐震補強構造」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月31日出願公開、特開2000-303701〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年4月21日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成17年9月26日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「ラーメン構造の建物架構内に、両側の柱の各内側面に沿った補強縦材と、上側の梁の下面に沿った補強上横材と、下側の梁の上面に沿った補強下横材と、これらの補強縦材、補強上横材、補強下横材を相互に連結する補強斜材と、からなる補強骨組を配置した耐震補強構造において、
前記補強縦材、補強上横材、補強下横材がいずれもH形鋼からなるとともに、各フランジ面が前記建物架構の内面に接するように配置されてなり、
前記補強斜材は、H形鋼からなるとともに、当該H形鋼の強軸が前記建物架構の構面と直交配置され、前記補強骨組と前記建物架構との間隙にグラウト材が充填され、
このグラウト材のみによって両者間のせん断摩擦力を伝達するようにしたことを特徴とする耐震補強構造。」

2.引用例
(2-1)これに対して、当審の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された「特開平9-317200号公報」(以下、「引用例1」という。)には図面とともに次の記載がある。
(あ)「【請求項1】 鉄筋コンクリート造の既存の建物に適用される耐震補強構造であって、前記建物における互いに相対する一対の柱、両柱に連なる梁および床スラブが規定する空間に配置され該両柱、梁および床スラブに沿って伸びる枠体と、前記枠体内に配置された少なくとも1つの壁体であってその両端部が前記枠体に固定された壁体と、前記枠体と、各柱、前記梁および前記床スラブとの間に充填されたモルタルとを含む、耐震補強構造。」、
(い)「【0004】 本発明の目的は、アンカー部材を設置することなしにまたは少ない設置数のアンカー部材をもって、既存の建物に適用することができる耐震補強構造を提供することにある。」、
(う)「【0011】 両柱14、梁16および床スラブ18(以下、これらの四者が規定する枠組を便宜上「既存フレーム」という。)が規定する前記立面内の枠体20と、前記既存フレームとの隙間にはモルタル24が充填されている。枠体20は、モルタル24を介して、前記既存フレーム内(前記立面内)に維持され該既存フレームに接している。このため、枠体20および前記既存フレーム相互間での力の伝達が可能である。
【0012】 枠体20は、複数の枠部材26を互いに接続して成る。図示の枠部材26はH形鋼から成る。前記H形鋼同士はこれらの各端面に固定され互いに突き合わされた一対の継手板を貫通する複数のボルト・ナット組立体28により接続され、また、枠体20のコーナ部に位置するH形鋼同士は、一方のH形鋼の継手板とこれに接する他方のH形鋼の両フランジとを貫通する複数のボルト・ナット組立体30により接続されている。前記枠部材の他の例として、例えば、他の横断面形状を有する形鋼、矩形の横断面形状を有する鋼管等があり、これらの枠部材を適当な継手を介して相互に接続することにより、枠体に組み立てることができる。」、
(え)「【0014】 耐力壁である壁体22は、プレキャストコンクリート板(以下「PC板」という。)から成る。各PC板の上下各端部にはその端縁に整列して横方向へ伸びるガセットプレート32が埋め込まれその一面が露出している。各PC板は、鋼製の枠部材26にガセットプレート32を溶接することにより固定されている。壁体22として、前記PC板に代えて、例えば鋼板を用いることができる。
【0015】 このようにして、壁体22はその上下両端部において枠体20に固定され、また、枠体20はモルタル24を介して前記既存フレームに連なっていることから、地震の発生により前記既存フレームが水平力を受けるとき、該水平力の一部がモルタル24および枠体20を通して各壁体22に伝達され、壁体22がこれを負担する。
【0016】 枠体20および壁体22は、該枠体と前記既存フレームとの間に充填されたモルタル24により、その配置位置すなわち前記既存フレーム内に維持され、耐震補強作用をなす。」
(お)図面によると以下の点が記載されているといえる。
「鉄筋コンクリート造の既存の建物は、ラーメン構造の架構であり、枠体20の下面に沿わせている床スラブ18は、上側の梁16に対応する下側の梁の上部であり、枠体20は、既存フレームが規定する空間に配置され、両柱14、梁16および床スラブ18に沿って伸び、該枠体は、両側の柱14の各内側面にH形鋼のフランジを沿わせた縦材と、上側の梁16の下面にH形鋼のフランジを沿わせた上横材と、下側の梁の上部の床スラブ18にH形鋼のフランジを沿わせた下横材とからなるものである。」
したがって、上記(あ)〜(お)によると、引用例1には、
「ラーメン構造の既存フレーム内に、両側の柱14の各内側面に沿った縦材と、上側の梁16の下面に沿った上横材と、下側の梁の上面に沿った下横材とからなる枠体20と、これらの枠体20内に、上下両端部が前記枠体20に連結した壁体22とを配置した耐震補強構造において、前記枠体20の縦材、上横材、下横材がいずれもH形鋼からなるとともに、各フランジ面が前記既存フレームの内面に接するように配置され、前記枠体20と前記既存フレームとの間隙には、モルタルのみが充填され、地震の発生により前記既存フレームが水平力を受けるとき、該水平力の一部がモルタルおよび枠体20を通して壁体22に伝達され、壁体22がこれを負担するようにした耐震補強構造」という発明が記載されていると認められる。
(2-2)同特開平9-242183号公報(以下、「引用例2」という。)には図面とともに次の記載がある。
(か)「この発明は構造物の柱・梁から構成される架構面内に前記柱または梁に直接軸力が伝達される取付ブロックを介して縦枠と横枠からなる補強枠を固定してなることを特徴とする枠組み耐震構造であり、前記構造物がS構造、SRC構造あるいはRC構造であり、また補強枠内に耐震壁または筋違の耐震要素が配置してある。」(【0005】)、
(き)「実施例1 この実施例は構造物がS構造であり、形鋼から形成される柱1と梁2から構成される架構A面内に、形鋼を組立てた縦枠3と横枠4から構成される補強枠Bが固定してある。その固定手段として、柱1または梁2に直接軸力が伝達される鋼製楔状の取付ブロック5を使用され、この取付ブロックは原則的に補強枠Bの四隅の縦枠3と横枠4のそれぞれに取付ける。また補強枠Bの面内には耐震要素として耐震壁6または耐震パネルを配置する。(図1.参照)
実施例2 この実施例は構造物がSRC構造であり、柱1と梁2は鉄骨鉄筋コンクリートであるため、取付ブロック5の取付部のコンクリートの破壊を防ぐため、取付ブロック5の取付部には補強鋼板7を巻付けてある。
【0007】
また補強枠Bの面内に取付ける耐震要素としては筋違8を配置する。(図2参照)
実施例3 この実施例は構造物がRC構造であり、その実施例は前記SRC構造の場合と略同様である。(図3参照)」 (【0006】、【0007】)、
(く)上記(か)、(き)の記載をふまえて、図1〜図7を参照すると、図1〜図7には次の点が記載されているといえる。
「ラーメン構造の架構面内に、取付ブロック5を介して両側の柱1の各内側の縦枠3と、上側の梁2の下面の上横枠と、下側の梁2の上面の下横枠とからなる補強枠Bを固定し、補強枠Bの上下横枠に、その上下端部を連結した耐震壁6の耐震要素を、または、補強枠Bの縦枠、上横枠、下横枠に取付ける形鋼からなる筋違8の耐震要素を配置した構造物において、前記縦枠、上横枠、下横枠がいずれもH形鋼からなるとともに、各フランジ面が前記建物架構の内面に向けて配置されてなる構造物。」
(2-3)H形鋼からなる建物架構の柱梁接合部に直接取付けられる耐震要素であるブレース(筋かい)が、H形鋼からなるとともに、当該H形鋼の強軸が建物架構の構面と直交配置される点が、「実願昭48-72710号(実開昭50-21912号)のマイクロフィルム」、「特開平7-42234号公報」に記載されている。

3.対比・判断
本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。
引用例1記載の発明の「既存フレーム」、「縦材」、「上横材」、「下横材」及び「モルタル」は、それぞれ本願発明の「建築架構」、「補強縦材」、「補強上横材」、「補強下横材」及び「グラウト材」に相当し、引用例1記載の発明の「枠体」と、本願発明の「『両側の柱の各内側面に沿った補強縦材と、上側の梁の下面に沿った補強上横材と、下側の梁の上面に沿った補強下横材と』からなるもの」とは、「四周枠組」として技術概念が共通する。
また、「建築大辞典 第2版」(1997-4-10)彰国社 p.973 の「たいしんようそ」の項によると、「耐震要素」とは、「構造物を構成する要素のうち,主として地震によって生じる水平力に抵抗するもの.ラーメンを形成する柱,梁,耐震壁,筋かい等.」であるから、これを前提として、引用例1記載の発明の四周枠組と四周枠組内に固定した壁体からなるものと、本願発明の補強骨組とは、建築架構の「耐震要素」として技術概念が共通するとともに、引用例1記載の発明の四周枠組に固定した「壁体」と、本願発明の四周枠組に連結した「補強斜材」とは、建築架構の耐震要素の機能を一部負担する「四周枠組内耐震要素」として技術概念が共通する。
さらに、引用例1記載の発明の「地震の発生により前記既存フレームが水平力を受けるとき、該水平力の一部がモルタルおよび枠体を通して壁体に伝達され、壁体がこれを負担するようにした」は、建物架構と耐震要素との間に充填されたグラウト材が、地震の水平力により生ずる両者間のせん断摩擦力を耐震要素に伝達するようにしたことを意味する。
そうすると、両者は、
「ラーメン構造の建物架構内に、両側の柱の各内側面に沿った補強縦材と、上側の梁の下面に沿った補強上横材と、下側の梁の上面に沿った補強下横材とからなる四周枠組と、四周枠組に連結した四周枠組内耐震要素とからなる耐震要素を配置した耐震補強構造において、前記補強縦材、補強上横材、補強下横材がいずれもH形鋼からなるとともに、各フランジ面が前記建物架構の内面に接するように配置されてなり、前記耐震要素と前記建物架構との間隙にグラウト材が充填され、このグラウト材のみによって両者間のせん断摩擦力を伝達するようにした耐震補強構造」の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
耐震要素に関し、本願発明が、「四周枠組と、四周枠組の補強縦材、補強上横材、補強下横材を相互に連結する補強斜材と、からなる補強骨組とし、補強斜材は、H形鋼からなるとともに、当該H形鋼の強軸が建物架構の構面と直交配置されるもの」であるのに対し、引用例1記載の発明が、「四周枠組と、四周枠組にその上下両端部が固定された壁体とからなるもの」である点。
[相違点の検討]
引用例2には、ラーメン構造の架構面内に固定される「耐震要素」として、両側の柱の各内側の縦枠と、上側の梁の下面の上横枠と、下側の梁の上面の下横枠とからなる補強枠(四周枠組)と、補強枠(四周枠組)の上下横枠に、その上下端部を連結した耐震壁6の耐震要素を、または、補強枠(四周枠組)の縦枠、上横枠、下横枠に取付ける形鋼からなる筋違8の耐震要素を配置したものが記載されている。
ここにおいて、上記筋違と、補強枠(四周枠組)の縦枠、上横枠、下横枠との取付け部の構造、及び、筋違の形鋼の種類は必ずしも明確でない。
しかし、上記「(2-3)」にあるように、H形鋼からなる建物架構の柱梁接合部に直接取付けられる耐震要素でありH形鋼からなるブレース(筋かい)は従来周知であるとともに、引用例2の補強枠に相当するH形鋼からなる部材と、引用例2の縦枠、上横枠、下横枠に相当する部材(四周枠組)を相互に連結しているH形鋼のブレース(引用例2記載の筋違に相当する)と、からなる耐震要素も、例えば、特開平9-317198号公報、特開平10-152995号公報等に記載されているように従来周知である。(なお、本願明細書の段落【0002】及び図5においても、建物架構の内側に、H形鋼の補強縦材、補強上横材、補強下横材の四周枠組と、四周枠組の補強縦材、補強上横材、補強下横材を相互に連結するH形鋼の補強斜材からなる補強骨組である耐震要素の点は、従来技術として示されている。)
そうすると、H形鋼の筋違が、H形鋼の縦枠、上横枠、下横枠を相互に連結することは技術的常識であって、引用例2に記載されているに等しい事項であるといえる。
また、上記「(2-2)」の(か)の「補強枠内に耐震壁または筋違の耐震要素が配置してある」という記載から、引用例2には、地震時水平力に対して、耐震壁(壁体)と筋違(補強斜材)とでは異なる性能を有するものではあっても、それらを補強枠(四周枠組)内に選択的に配置することができることが示唆されており、また、建物架構に直接取付ける耐震要素である耐震壁または筋違を補強枠(四周枠組)内においても取付け可能であることが示唆されているといえる。
さらに、引用例2の「縦枠」、「上横枠」、「下横枠」及び「筋違」は、それぞれ本願発明の「補強縦材」、「補強上横材」、「補強下横材」及び「補強斜材」に相当するといえるから、引用例2には、「ラーメン構造の建物架構内に、補強縦材と補強上横材と補強下横材とからなる四周枠組と、これらの補強縦材、補強上横材、補強下横材を相互に連結する補強斜材と、からなる補強骨組である耐震要素を配置した耐震補強構造」が記載されていると認められる。
したがって、相違点に係る本願発明の構成は、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を適用して、引用例1記載の発明の四周枠組内に連結する壁体を、引用例2記載の発明の四周枠組内に連結するH形鋼の補強斜材に置き換えることにより、当業者が容易に想到しえたものというべきである。その際に、当該H形鋼の補強斜材の強軸が建物架構の構面と直交配置することは単なる設計変更にすぎない。
なんとなれば、上記「(2-3)」に記載したように、建物架構に直接取付ける耐震要素である筋かいをH形鋼からなるとともに、当該H形鋼の強軸が建物架構の構面と直交配置することは周知慣用であり、かつ、上記で示唆されているように、建物架構に直接取付ける耐震要素を四周枠組内耐震要素としても取付け可能であるからである。
そして、本願発明の効果も、引用例1、2記載の発明及び周知慣用技術から当業者が容易に予測することができる程度のものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1、2記載の発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-27 
結審通知日 2006-05-10 
審決日 2006-05-23 
出願番号 特願平11-113312
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊波 猛長島 和子  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 小山 清二
青山 敏
発明の名称 耐震補強構造  
代理人 磯野 道造  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ