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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1139259
審判番号 不服2003-20030  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-02-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-14 
確定日 2006-07-06 
事件の表示 平成 6年特許願第197681号「電子写真感光体」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 2月16日出願公開、特開平 8- 44085〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は平成6年7月29日の出願であって、その請求項1ないし6に係る発明は、平成18年4月17日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものであると認められる。
「導電性支持体上に感光層を設けた電子写真感光体において、
該感光層に、感光層表面から該導電性支持体に到達しない深さの窪みが形成されており、
上記窪みが形成される感光層の面方向の位置が、上記電子写真感光体が組み込まれる電子写真装置の画像形成領域外で、かつ、該装置に設けられるクリーニング部材と接触しうる範囲にあり、
上記窪みは、上記クリーニング部材が接触しない底部を有することを特徴とする電子写真感光体。」

2.刊行物に記載された事項
2-1.これに対して、当審において通知した拒絶理由に引用した、本願出願前国内において頒布された刊行物である特開平5-188603号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(2a)「感光体ドラムを構成するキャリヤ輸送層を該ドラムの一端または両端近傍で2層以上の色調の異なる層状に形成したことを特徴とする電子写真装置。」(特許請求の範囲 請求項1)
(2b)「【作用】本発明においては、感光体ドラムを構成するキャリヤ輸送層(CTL層)について、該ドラムの一端または両端近傍を、2層以上の色調の異なる層状に形成し、その際ドラム表面がクリーナ手段さらには現像部との接触により削られて行き、CTL層の厚みが感光体の寿命の限界に達すると、重ね合わせた下側の別の色の層が現われて来るような層厚に予め設定しておくことにより、色の変化を逐次監視して感光体の寿命の判断を行なうものである。」(【0008】段落)
(2c)「以下に本発明の電子写真装置の一実施例を図面とともに詳細に説明する。図1は本発明の実施例装置に用いられる感光体ドラム1の端部近傍に一態様を模式的に示す断面図であって、・・・。即ち図1においても、従来例と同様、・・・金属製素管11の外周に同心状にCGL層12と次いでCTL層13が順次積層されることを基本的構成とすることにはかわりないが、本発明においては、円筒状をなす感光体ドラム1の少なくとも一方の端に、基本のCTL層13とは色調の異なる層14を設けた点に本発明の最大の骨子がある。」(【0009】段落)として、第4頁に【図1】が記載されている。
(2d)「このような層14を設けることによる電子写真装置の感光体ドラム1の寿命の判断は次のようにして行なわれる。即ち先に図3でものべたように、連続的な印字プロセスの実施に伴ない、感光体ドラム1の表面がクリーナ7さらには現像部4との接触によって削られて行き、CTL層13が次第に薄くなって行くが、このとき、CTL層13の厚みがどの程度まで減少すれば感光体としての使用寿命に達するかを任意の手段により予め確認しておき、その限界厚みを勘案して作業遂行上適当と思われる厚み(・・・)に設定した色調の異なる層14を図1のように感光体ドラム1の一端または両端近傍に設ける。このように構成しておくと、感光体の使用が進んでCTL層13が限界厚みを切るようになると、図2に示す模式的な断面図のように、点線で示す表面部15が削り取られる結果、色調の異なる層14が感光体ドラム1の表面に露出して来るため、基本のCTL層13との色差から、目視によってただちに感光体の寿命の判定を行なうことが可能となる。
・・・、何種類かの異なる色調の2以上の層を寿命限界に達するやや前の厚みから段階的に積層しておくと、CTL層13の損耗がどの程度進行しているか、色の変化を観察することによって随時判断することができるので、層14を形成させるための感光体の加工には若干手間がかかるものの、よりきめ細かい管理を行なうことが可能となる。」(【0010】、【0011】段落)として、第4頁に【図2】及び【図3】が記載されている。そして、【図3】には、感光体ドラム1が組み込まれ、クリーナ7が設けられた電子写真装置が記載されている。
(2e)「色調の異なる層14の幅、つまり管端からの距離については、感光体ドラム1の表面に占める最大画像幅の外側、即ち感光体の露光しない非画像領域内であればその範囲内を適当な幅で占めることができる。この場合、色調の異なる層14は基本となるCTL層13とは感光特性的には異なるものを使用することになるので、ドラム1の最大画像幅は外すべきである。」(【0014】段落)

2-2.同じく、当審において通知した拒絶理由に引用した、本願出願前国内において頒布された刊行物である実願昭54-149983号(実開昭56-69505号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物4」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(4a)「従来、タイヤの摩耗を検知するには次のように行っていた。
タイヤ(1)の全周または一部に、接地面(2)と非接地面(3)との中間の高さの検知面(4)を設けておき、接地面(2)が摩耗して検知面(4)と同じ高さになるとタイヤの摩耗が限度であると判断するものである。」(明細書 第1頁12〜18頁)として、第1図(イ)には従来のタイヤの部分平面図が、第1図(ロ)には、(イ)のA-A断面図が記載されている。

3.対比・判断
刊行物2の【0004】段落にも記載されているとおり、刊行物2に記載された「CGL層」、「CTL層」は、それぞれ、「キャリヤ発生層」、「キャリヤ輸送層」の略語であることは明らかであるから、刊行物2の記載事項2a〜2eからみて、刊行物2には、下記の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されていると云える。
「金属製素管の外周にキャリヤ発生層とキャリヤ輸送層を積層した感光体ドラムにおいて、
感光体ドラムの一端または両端近傍のキャリヤ輸送層に、基本のキャリヤ輸送層とは色調の異なる層が設けられており、
上記感光体ドラムは電子写真装置に組み込まれたものであり、該装置にはクリーナが設けられており、
上記色調の異なる層の幅が、感光体の露光しない非画像領域内の適当な幅である感光体ドラム。」
本願発明1と刊行物2発明とを対比すると、後者における「金属製素管」、「クリーナ」は、それぞれ、前者における「導電性支持体」、「クリーニング部材」に相当し、後者における「キャリヤ発生層」と「キャリヤ輸送層」を併せたものは前者における「感光層」に相当する。また、後者における「感光体の露光しない非画像領域内」は前者における「電子写真装置の画像形成領域外」に相当すると云え、後者の「感光ドラム」は「電子写真感光体」と云えるものである。
そして、後者における「色調の異なる層」は、刊行物2の記載事項2dからみて、連続的な印字プロセスの実施に伴ない、感光体ドラムの表面がクリーナさらには現像部との接触により削られて行き「色調の異なる層」が露出することにより、感光体の寿命を判定し損耗の進行程度を判断するものであり、また、前者における「窪み」も、本願明細書【0012】、【0013】段落の記載からみて、繰り返し使用により感光層がクリーニング部材により摩耗して「窪み」がなくなることにより、感光層の摩耗量を知り感光体の寿命を判定するものであるから、後者における「色調の異なる層」と前者における「窪み」は、感光層の摩耗量を検知し感光体の寿命を判定するためのマーカーである点において共通する。
してみると、両者は、
「導電性支持体上に感光層を設けた電子写真感光体において、
該感光層に、該感光層の摩耗量を検知し感光体の寿命を判定するためのマーカーが形成されており、
上記マーカーが形成される感光層の面方向の位置が、上記電子写真感光体が組み込まれる電子写真装置の画像形成領域外である電子写真感光体。」
で一致し、次の点で相違する。
(i)感光層の摩耗量を検知し感光体の寿命を判定するためのマーカーが、本願発明1は、感光層表面から形成された導電性支持体に到達しない深さの窪みであって、該窪みは、クリーニング部材が接触しない底部を有するものであるのに対し、刊行物2発明は、感光層のキャリヤ輸送層に設けられた基本のキャリヤ輸送層とは色調の異なる層である点。
(ii)マーカーが形成される感光層の面方向の位置が、本願発明1は、電子写真感光体が組み込まれる電子写真装置の画像形成領域外で、かつ、該装置に設けられるクリーニング部材と接触しうる範囲であるのに対し、刊行物2発明は、電子写真感光体が組み込まれる電子写真装置の画像形成領域外ではあるものの、クリーニング部材との関係について特定がない点。

そこでまず、相違点(i)について検討する。
刊行物4の記載事項4aには、タイヤの摩耗を検知するための従来例として、タイヤの全周または一部に、接地面と非接地面との中間の高さの検知面を設けておき、接地面が摩耗して検知面と同じ高さになるとタイヤの摩耗が限度であると判断することが記載されている。この検知面は、接地面よりタイヤの中心に近い位置にあることは明らかであり、しかも、タイヤの摩耗により接地面と同じ高さになること、その時点がタイヤの摩耗の限度であると判断されることからみて、原則的には接地面を摩耗させる路面が接触しない面であると認められる。
よって、刊行物4には、タイヤに関し、表面の摩耗の程度を判断しその寿命を検知するために、該表面よりも中心に近い位置に該表面を摩耗させる部材と接触しない面を設けておくことが、従来例として記載されていると云える。
そして、他の部材との接触により摩耗する表面の摩耗の程度を検知し、その部材の寿命を判定するために、摩耗する表面に設けられ該他の部材と接触しない底部を有する溝又は凹部、即ち摩耗する表面から形成され該他の部材と接触しない底部を有する窪みを設けておくことは、広く各種の分野で行われている本願出願前周知の技術である。
例えば、実願昭61-169256号(実開昭63-73602号)のマイクロフィルムには、「その外周面が金属材料に接触して回転し金属材料の長さを測定するメジャーリングロールにおいて、前記外周面に許容誤差範囲を示す深さの溝を形成することを特徴とするメージャーリングロール。」(実用新案登録請求の範囲)が記載されており、〔作用〕の欄には「この考案に係るメジャーリングロールにおいては、ロールと金属材料とが接触してロールの外周面の摩耗が進行すると、溝が消滅するので、作業者は容易にロールの摩耗が許容誤差範囲内であるかどうかを知ることができる」(明細書 第3頁12〜16行)ことが記載されている。また、特開昭62-126301号公報には、「把持カム」に関し、把持歯がその頂上端に溝を有しており、把持歯の頂上端が溝の深さが小さくなるか消滅して歯の過剰摩耗を示す程度に摩耗したとき摩耗表示できるようにしたこと(特許請求の範囲 第1項)が記載されている。加えて、実願昭51-33390号(実開昭52-124385号)のマイクロフィルムには、「近時この種ブレーキ装置のライニング等の摩耗量の識別方法として内部拡張式ブレーキ装置ではライニングのドラムとの圧接面の適当箇所に摩耗限界までに及ぶ溝又は凹部を設け、この溝又は凹部をドラムの側面に設けた目視用穴より目視する様にしたものがある」(明細書 第2頁11〜16行)ことが、特開昭55-110608号公報には、「この摩耗段差を表示する方法として、第2図(a)及び第2図(b)に示す如く、トレッドパターンがないスリックタイヤ6に、特定の深さまでトレッドの摩耗が進むとタイヤ6を新品タイヤと交換するように安全上義務づけられている摩耗表示凹部7,…,7を設けることが一般に行われている」(第2頁左上欄15〜20行)ことが記載されているところである。
してみれば、刊行物2発明において、感光層の摩耗量を検知し感光体の寿命を判定するためのマーカーとして、感光層のキャリヤ輸送層に設けられた基本のキャリヤ輸送層とは色調の異なる層の代わりに、感光層表面から形成されたクリーニング部材が接触しない底部を有する窪みを採用することは、本願出願前周知の技術に基いて当業者が容易に想到し得たことであると認められる。
その際、窪みの深さを導電性支持体に到達しない深さとすることは、そもそも電子写真感光体がその機能を発揮するためには感光層は必須のものであり、窪みは感光層の摩耗量を検知し感光体の寿命を判定するために設けられるものであることからみて、当業者が当然採用する事項である。
そして、本願明細書及び図面の記載を検討しても、本願発明1において、感光層の摩耗量を検知し感光体の寿命を判定するためのマーカーとして、かかる窪みを採用したことにより、当業者が予測し得ない格別な効果が奏されたものとも認められない。

次ぎに、相違点(ii)について検討する。
刊行物2の記載事項2dに記載されているとおり、刊行物2発明において、感光層の摩耗量の検知及び感光体の寿命の判定は、連続的な印字プロセスの実施に伴ない、感光体ドラムの表面がクリーナさらには現像部との接触によって削られて行き、色調の異なる層が感光体ドラムの表面に露出して目視可能となることにより行われるものである。
してみれば、刊行物2発明においても、感光層の摩耗量を検知し感光体の寿命を判定するためのマーカーである色調の異なる層の形成される感光層の面方向の位置は、電子写真装置に設けられるクリーナと接触しうる範囲である必要があるから、色調の異なる層の形成される感光層の面方向の位置は、電子写真装置に設けられるクリーナと接触しうる範囲であると云える。
よって、相違点(ii)は、実質的相違点とは云えない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物2に記載された発明及び本願出願前周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2ないし6に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-01 
結審通知日 2006-05-09 
審決日 2006-05-23 
出願番号 特願平6-197681
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介金田 理香  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 山口 由木
松本 泰典
発明の名称 電子写真感光体  
代理人 伊東 忠彦  

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