• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800080 審決 特許
無効2010800100 審決 特許
無効200335239 審決 特許
無効200335136 審決 特許
無効200480218 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1139893
審判番号 無効2005-80005  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-07-08 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-01-06 
確定日 2006-05-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3506164号発明「プライマー組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由
1.手続の経緯

本件特許第3506164号に係る発明についての出願は、平成7年12月27日に特許出願され、平成15年12月26日にその発明について特許権の設定の登録がされた。
これに対して、平成17年1月7日に請求人により本件特許無効審判が請求され、被請求人は平成17年3月25日付けで答弁書と訂正請求書を提出した。


2.訂正請求について

(1)訂正の内容

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、
「水および酸性基含有重合性単量体を含有する歯科用プライマー組成物であって、一次粒子径が0.001μmから1μmの微粒子を0.1重量%〜30重量%含有することを特徴とする歯科用プライマー組成物。」を、
「水および酸性基含有重合性単量体を含有する歯科用プライマー組成物であって、一次粒子径が0.001μmから1μmの微粒子を0.1重量%〜30重量%含有し、前記微粒子の少なくとも一部が、その0.5gがエタノール/水=0/100(wt/wt:以下同じ)〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散する疎水性微粒子であることを特徴とする歯科用プライマー組成物。」と訂正する。

イ.訂正事項2
発明の詳細な説明の段落【0007】について、
「含有することを特徴とする」を、
「含有し、前記微粒子の少なくとも一部が、その0.5gがエタノール/水=0/100(wt/wt:以下同じ)〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散する疎水性微粒子であることを特徴とする」と訂正する。

ウ.訂正事項3
発明の詳細な説明の段落【0089】について、
「実施例2〜7」を「実施例2〜6および参考例1」と訂正する。

エ.訂正事項4
発明の詳細な説明の段落【0091】の表3の左端欄について、
「実施例7」を「参考例1」と訂正する。

オ.訂正事項5
発明の詳細な説明の段落【0092】について、
「実施例1と4〜7は」を「実施例1と4〜6および参考例1は」と訂正する。

カ.訂正事項6
発明の詳細な説明の段落【0092】について、
「実施例7」を「参考例1」と訂正する。

キ.訂正事項7
発明の詳細な説明の段落【0093】について、
「実施例8〜11」を「実施例7〜9および参考例2」と訂正する。

ク.訂正事項8
発明の詳細な説明の段落【0095】の表4の左端欄について、
「実施例8」、「実施例9」、「実施例10」、「実施例11」とあるのを
「実施例7」、「実施例8」、「実施例9」及び「参考例2」と、それぞれ訂正する。

ケ.訂正事項9
発明の詳細な説明の段落【0096】について、
「実施例8〜14」を「実施例7〜9、参考例2および実施例10〜12」と訂正する。

コ.訂正事項10
発明の詳細な説明の段落【0096】について、
「実施例8〜10と実施例11」を「実施例7〜9と参考例2」と訂正する。

サ.訂正事項11
発明の詳細な説明の段落【0097】について、
「実施例12〜14」を「実施例10〜12」と訂正する。

シ.訂正事項12
発明の詳細な説明の段落【0099】の表5の左端欄について、
「実施例12」、「実施例13」、「実施例14」とあるのを、
「実施例10」、「実施例11」、「実施例12」と、それぞれ訂正する。

ス.訂正事項13
発明の詳細な説明の段落【0100】について、
「実施例12〜14」を「実施例10〜12」と訂正する。

セ.訂正事項14
発明の詳細な説明の段落【0092】について、
「微粒子の種類」を「微粒子の量」と訂正する。

ソ.訂正事項15
発明の詳細な説明の段落【0092】について、
「疎水性微粒子の量」を「疎水性微粒子の種類」と訂正する。

タ.訂正事項16
発明の詳細な説明の段落【0098】について、
「比較例2」を「比較例3および4」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

<訂正事項1について>
訂正事項1に係る訂正は、請求項1の微粒子について、その少なくとも一部を、疎水性の程度に関する所定の要件(その0.5gがエタノール/水=0/100〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散するという要件)を具備した疎水性微粒子に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

ところで、使用する微粒子の親水性・疎水性に関しては、特許明細書に以下の記載がある。
「本発明で用いる微粒子の性質は特に限定されるものではないが、親水性・疎水性の適度に均衡する範囲が好ましい。以下、水/アルコール混合溶媒への分散状態により微粒子の親水性、疎水性を記述する事とし、純粋な水に分散可能な微粒子を親水性微粒子、アルコールとの混合溶媒でなければ分散できない微粒子を疎水性微粒子と呼ぶ。本発明で用いる微粒子は、その0.5gが・・・エタノール/水=0/100〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散する程度の疎水性微粒子であることがより好ましい。疎水性微粒子は親水性微粒子に比較して象牙細管の閉塞効果が大きく、更には、辺縁封鎖性の向上効果も大きい。」
(本件特許明細書段落【0012】)

微粒子を「その0.5gがエタノール/水=0/100〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散する疎水性微粒子」に訂正することについては、上記段落【0012】中に「より好ましい」ものとして記載されている。

また、上記段落【0012】の「本発明で用いる微粒子の性質は特に限定されるものではない」との記載によれば、好ましさの程度は別にして、疎水性微粒子を単独で用いる場合、親水性微粒子を単独で用いる場合、及び疎水性微粒子と親水性微粒子を混合して用いる場合という3つの態様を包含するものであったと認められる。

そうすると、「前記微粒子の少なくとも一部が、・・・疎水性微粒子である」という態様は、もともと特許明細書に記載されていたものである。したがって、訂正事項1に係る上記訂正は願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものというべきである。また、上記訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことも明らかである。

<その他の訂正事項について>
訂正事項2〜13に係る訂正は、訂正事項1に特許明細書の記載を整合させる訂正であって、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項14〜16に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、上記訂正は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことが明らかである。

(3)訂正の適否のむすび
以上のとおりであるから、訂正事項1〜16に係る訂正は、特許法第134条の2第1項及び同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件特許発明

上記2.のとおり訂正が認容されるので、本件特許の請求項1に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる(以下、「本件特許発明」という)。

「【請求項1】水および酸性基含有重合性単量体を含有する歯科用プライマー組成物であって、一次粒子径が0.001μmから1μmの微粒子を0.1重量%〜30重量%含有し、前記微粒子の少なくとも一部が、その0.5gがエタノール/水=0/100(wt/wt:以下同じ)〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散する疎水性微粒子であることを特徴とする歯科用プライマー組成物。」

4.請求人の主張の概要

請求人は、本件特許は以下の理由により特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効にすべき旨を主張している。

理由1:本件特許発明は、甲第1号証(必要ならば甲第5及び6号証をも考慮)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し特許を受けることができない。

理由2:本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し特許を受けることができない。

理由3:本件特許発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し特許を受けることができない。

理由4:本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し特許を受けることができない。

理由5:本件特許発明は、甲第1、5及び6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由6:本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由7:本件特許発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由8:本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由9:本件特許発明は、甲第1ないし7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:特開平6-256131号公報
甲第2号証:特開平6-9327号公報
甲第3号証:特開平5-139927号公報
甲第4号証:国際公開第94/23687号パンフレット
甲第5号証:歯界展望,第85巻第5号,医歯薬出版株式会社,1995年5月,1068-1071頁
甲第6号証:日本化学会編「化学便覧応用編 改訂3版(第3刷)」(昭和59年1月20日)丸善株式会社,132-133頁
甲第7号証:特開平6-92860号公報

5.被請求人の主張の概要

一方、被請求人は、請求人の主張はいずれも失当であると主張し、以下の乙第1号証ないし乙第3号証を提出している。

乙第1号証:特開昭54-11149号公報
乙第2号証:特開昭58-21607号公報
乙第3号証:実験成績証明書

6.当審の判断

(1)本件特許発明における「プライマー」の意味について

甲第5号証によれば、「プライマーとは、象牙質面をレジンとの接着に有利なように改質する材料をいい、単独で接着性を発揮するものではなく、あくまでもボンディング材や液状レジンと併用するものを指す」(1068頁右欄17〜21行)という「プライマー」の一般的な定義が記載されている。
しかし、同号証には上記定義の記載に先立ち、当初プライマーと呼ばれる材料が現在のデンテインボンデイングレジンに相当するものであったり、「GLUMA」という上記の定義に添うプライマーの機能を有する製品がボンデイング材と称されたことがあり、その後、デンテインプライマーという分類が提唱され、現在のプライマーの基礎となった経緯が紹介されていることから、本件特許請求の範囲における「プライマー」の用語がどのような意味で使用されているのか確認する必要がある。
そこで本件訂正明細書をみるに、【発明の属する技術分野】には「本発明は歯科医療分野において歯の充填修復に際し、充填材料と歯質との高い接着力、及び生体安全性を実現するための歯質表面の前処理材として好適なプライマー組成物に関する。」(段落【0001】)と記載され、【発明の解決しようとする課題】について「以上の点から、前処理、接着材塗布、修復材料充填という窩洞修復の術式において、エナメル質に対する充分な辺縁封鎖性を示す一方で、処理後の象牙細管が閉塞されており、かつ双方に高い接着力を示すプライマー組成物の開発が望まれていた。」(段落【0005】)の記載がある。そして、実施例における接着力試験もこの術式に添うものであるから、本件特許発明における「プライマー」とは、上記一般的に定義された意味で使用されているものと解される。以下、一般的な定義に従うプライマーを「本件プライマー」という。

(2)理由1及び5について

甲第1号証には、「ラジカル重合性単量体、光増感剤又は開始剤として作用するカンファーキノン、重合促進剤として作用する特定のアミノベンゾフェノン化合物、酸性基を有する重合性単量体(酸性単量体)、酸性基を有しない親水性単量体及び水を含有してなる光重合性歯科用組成物」が記載されている(請求項1、請求項2、請求項4、段落【0018】、段落【0025】、段落【0026】、段落【0029】、段落【0043】、段落【0045】、段落【0075】)。
甲第1号証において、歯科用組成物の用途については、「コンポジットレジン」や「接着材」として用いるほか、「接着性プライマー」等として用い得るという一般的な記載があるが(段落【0043】、段落【0077】)、当該箇所にはこの「接着性プライマー」が具体的に何を意味するかの説明はない。

そこで甲第1号証の各実施例を参照する。まず、実施例1〜12について、その組成物の具体的な使用態様をみると、実施例1〜8は組成物1〜8に可視光を照射して硬化時間等を測定するのみであって、接着操作に関連する記載はなく、実施例9〜12は牛歯象牙質平坦面をリン酸水溶液で前処理した後、組成物9〜12を塗布して光照射し、続いてコンポジットレジンを適用していることからみて(段落【0062】)、組成物9〜12自体の用途はコンポジットレジンを接着するための接着材であると認められる。つまり、実施例1〜12には本件プライマーに関する記載はない。
請求人は審判請求書において、「甲第1号証の実施例12の場合、象牙質表面をリン酸処理しているので、甲第5号証に記載されるように、その後のプライマー処理は不可欠であることから、象牙質表面に塗布された組成物はプライマーであり、かつ接着剤である。」と主張する(7頁11〜15行)。しかしながら、実施例12の組成物は接着材であって、接着材の適用に先立って使用する前処理材ではない以上、当該組成物は本件プライマーには該当しない。
次に、実施例13〜15に関しては、甲第1号証の段落【0075】に、実施例13〜15に係る組成物の接着試験結果(段落【0069】の【表3】参照)を評価して、「(3)接着プライマー用途の組成において、牛象牙質接着強度を比較すると下記の関係であった。・・・」と記載されている(段落【0075】)。そして実施例13は、実施例9におけるリン酸水溶液による牛歯象牙質平坦面の前処理の代わりに組成物13を塗布して処理し、その後実施例9と同様の接着試験(すなわち接着材塗布、コンポジットレジン適用後の接着強度測定)を行うものである(段落【0068】)。すなわち実施例13における組成物13は、接着材塗布に先立ち、牛歯象牙質平坦面を前処理するために使用される組成物であるから、本件プライマーに相当する組成物であると認められる。実施例14〜15の組成物14〜15についても同様である。
しかしながら、甲第1号証には、上記実施例13〜15のプライマーが、「その0.5gがエタノール/水=0/100(wt/wt:以下同じ)〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散する疎水性微粒子」を少なくとも一部に含む、一次粒子径が0.001μmから1μmの微粒子を0.1重量%〜30重量%含有するものであることについて、何ら記載されていない。
(疎水性の程度が上記範囲内である微粒子を、以下、「本件疎水性微粒子」という。)

また甲第5号証には、プライマーの一般的な定義や、本件プライマーと同種のセルフエッチングプライマーを含む各種プライマーの接着操作における作用機序などが記載されている(1068頁右欄10〜21行、1069頁左欄下から2行〜1071頁右欄4行、1071頁右欄13〜27行)ものの、プライマーに疎水性微粒子を配合することについては記載も示唆もされていない。また甲第6号証は、単に特定の商品名に係るコロイダルシリカの粒子径等を開示するだけであり、本件プライマーに相当する組成物に疎水性微粒子を配合することを開示又は示唆する文献ではない。

したがって、本件特許発明は、甲第5及び6号証を考慮したとしても、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

そこでさらに、甲第1号証の実施例13〜15に記載された組成物(本件プライマーに相当)に対して本件疎水性微粒子を含有させることが、当業者にとって容易か否かについて検討する。

甲第1号証には、同号証に係る光重合性歯科用組成物中に、超微粒子シリカや合成シリカ等のフィラー(充填剤)を添加することができる旨が記載され(段落【0046】)、無機充填剤(フィラー)には表面処理をして用いることが望ましいと記載されている(段落【0047】)ものの、本件プライマーに相当する組成物にフィラー(充填剤)を添加し得る旨の一般的な記載はない。
そこで具体的な実施例を参照すると、実施例8及び実施例12に記載された組成物中にはそれぞれ石英フィラー及びコロイダルシリカが配合されているが、本件プライマーに相当する実施例13〜15に記載された組成物にフィラー(充填剤)や疎水性微粒子を含有させることの記載はない。そうすると、同号証において「光重合性歯科用組成物がフィラーを含有する場合でも硬化特性及び接着に優れるものであった」との記載(段落【0076】)は、フィラーを配合した実施例の結果を評価して述べたものであって、あくまでコンポジットレジンや接着材の中にフィラーを含有させた場合の特性・性能を述べたものと解されるから、甲第1号証は、本件プライマーに相当する組成物にフィラー(充填剤)などの疎水性微粒子を配合することを示唆するものではない。
また、甲第5及び6号証にも本件プライマーに相当する組成物に対して疎水性微粒子を配合することについて記載も示唆もされていないことは上述のとおりである。
したがって、本件特許発明は、当業者が甲第1、5及び6号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)理由2及び6について

甲第2号証には、「(A)1分子中に少なくとも1個の酸性基を有する重合性単量体、(B)1分子内にアルキレンオキサイドグループを有する重合性単量体、(C)特定のアミン化合物、及び(D)水を含有する、接着性プライマー組成物」が記載されている(請求項1)。
同号証における上記「接着性プライマー組成物」とは、歯牙特に象牙質と修復材料を接着する際に予め歯質表面に適用することによって接着材に優れた接着力を発揮させるものであり(段落【0039】、段落【0055】〜【0056】、段落【0059】、段落【0099】)、また「硬化性樹脂組成物」とは「接着性プライマー組成物」の上に適用するものであって(段落【0001】)、樹脂、樹脂複合材料、金属鋳造物、セラミックス等の修復材料と、歯牙特に象牙質との隙間を埋めしかも双方を接着させる接着材である(段落【0002】)。してみると、甲第2号証に記載された「接着性プライマー組成物」は本件プライマーに相当し、また「硬化性樹脂組成物」は接着材に相当する物である。
しかしながら、甲第2号証には、上記接着性プライマー組成物が、本件疎水性微粒子を含有するものであることについて、何ら記載されていない。
したがって、本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明ではない。

そこでさらに、甲第2号証に記載された接着性プライマー組成物(本件プライマーに相当)に対して本件疎水性微粒子を含有させることが、当業者にとって容易か否かについて検討する。

甲第2号証には、接着性プライマー組成物(本件プライマーに相当)の(A)、(B)、(C)及び(D)成分の他に、充填剤を含有させ得る旨が記載されているものの(段落【0038】)、この充填剤がどのようなものかについては記載がない。同号証には硬化性樹脂組成物の(H)成分として、例えば平均粒径が0.01〜100μmの範囲内にある無機充填材等(表面処理されていてもよい)が挙げられているが(段落【0049】〜【0050】)、上記硬化性樹脂組成物は上述のとおり接着材であって本件プライマーに相当するものではないから、甲第2号証には、本件プライマーに相当する組成物に本件疎水性微粒子を配合することを示唆するものではない。
したがって、本件特許発明は、当業者が甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(4)理由3及び7について

甲第3号証には、「酸若しくは反応性酸誘導体官能性を有する特定の重合性不飽和置換ブタン化合物を含む歯科・医科用修復・補綴用組成物」が記載されている(請求項1)。上記の歯科用修復・補綴用組成物の具体的用途としては、接着剤、ライナー等が挙げられ(段落【0003】、段落【0005】、段落【0008】)、プライマーとして使用できるとも記載されている(段落【0022】)。さらに実施例を参照すると、実施例16及び17では、調製した液体組成物が「象牙質プライマー」と表現されているものの、具体的な接着操作においては、該液体組成物を象牙質表面に塗布し、その上に複合材料を適用し、その接着力を測定して市販の象牙質接着剤と比較を行っていることからみて、該液体組成物は実際には接着材であるとみられる。また、実施例22で調製した液体組成物も「接着剤プライマー」と表現されているものの、具体的な操作においては、歯科用合金の表面に該液体組成物を塗布して硬化させ、その上に複合材料を適用して得たサンプルの剪断接着強さを試験していることからみて、該液体組成物も実際には接着材である。すなわち、これらの液体組成物はいずれも本件プライマーではなく、また甲第3号証の他の箇所にも、本件プライマーに相当する組成物は記載されていない。
甲第3号証には、本件特許発明と粒子サイズが重複する反応性フィラーや非反応性フィラーを、必要に応じて組成物中に含んでも良いとの記載はあるが(段落【0026】)、該組成物は本件プライマーに相当する組成物でない以上、本件疎水性微粒子を本件プライマーに配合することが示唆されるものではない。
したがって、本件特許発明は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、当業者が甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

(5)理由4及び8について

甲第4号証には、「ポリアルケン酸と含フッ素ガラスとの粉末状反応生成物からなるフッ素イオン徐放性プレフォームドグラスアイオノマーフィラー、(a)ラジカル重合性化合物として10から70重量%の希釈剤と粘性抑制剤から選択される成分、10から89重量%の強化性コポリマー及びオリゴマーから選択される成分、50重量%までの親水性構造物及び親水性接着剤より選択される成分並びに0.1から50重量%の接着促進剤を含有し、(b)硬化剤として0.1から15重量%の硬化触媒、並びに水を含有する歯科用組成物」が記載され(請求の範囲第16項、第20項、第23項、第36項)、上記接着促進剤としては重合性不飽和基を酸性基と共に有するモノマー(酸性重合性モノマー)が好ましいとされている(記載17頁16〜23行、21頁12行〜26頁2行、26頁3行〜27頁15行)。
同号証には、上記歯科用組成物につき、幅広い用途が列挙されており、例えば歯科用セメント、歯科用コンポジットレジン、ボンディング剤、歯面処理剤、歯面処理用プライマー、ボンディングプライマー等が挙げられているが(15頁18行〜16頁1行、83頁最下行〜84頁7行)、該「歯面処理用プライマー」及び「ボンディングプライマー」が具体的にどのような物を指すかについての説明はない。また実施例1〜60を参照しても、本件プライマーに相当する組成物は見当たらず、接着操作に関連するものとしては接着材(ボンディングエージェント)の用途がわずか一例あるだけであり(実施例51)、また一部の実施例で用いられている市販の「インパーバボンドデンティンプライマー」はその接着操作における役割からみて接着材に相当すると認められる。また甲第4号証の他の箇所にも、本件プライマーに関する記載はない。したがって、甲第4号証は、本件プライマーに相当する組成物を開示していない。
甲第4号証に係る歯科用組成物は、本件特許発明と粒子サイズが重複するフィラーを含有している(11頁11〜16行)。しかし、該組成物は本件プライマーに相当するものでないから、同号証から、本件疎水性微粒子を本件プライマーに配合することを導くことはできない。
したがって、本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明ではなく、また、当業者が甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

(6)理由9について

甲第7号証には、「(A)特定の水溶性リン酸化合物及び(B)平均粒径が0.01〜2μm の水不溶性非カルシウム系粉体を特定の重量比で含有する知覚過敏症治療剤」が記載され(請求項1)、上記(B)成分に係る水不溶性非カルシウム系粉体について、その好ましい粒径範囲や、特定粒径範囲を逸脱すると象牙細管の閉塞効果が得られない又は低下することが記載されている(段落【0030】)。
しかしながら、同号証に記載された知覚過敏症治療剤は、本件特許発明と粒径範囲が重複する粉体((B)成分)を成分の一つとして含有するとはいっても、その使用態様は「歯牙表面に塗布あるいは歯ブラシでブラッシングすることなどにより使用されるもの」であり(段落【0036】)、実施例も全て歯磨剤に係るものであって、接着操作や窩洞修復の術式に関連して使用するものではなく、本件プライマーに適用することの示唆は何ら見当たらない。
甲第7号証に記載の知覚過敏症治療剤において、(B)成分に係る水不溶性非カルシウム系粉体が奏する作用効果は、「象牙細管の閉塞効果と象牙質の耐酸性を向上させる効果」(段落【0029】)であるが、該象牙細管の閉塞効果は、(B)成分単独で奏されるものではなく、(A)成分に係る水溶性リン酸化合物、すなわち、「歯牙表面における吸着性が高く、かつ耐酸性の高い疎水性の皮膜を形成する性質を有すると共に、象牙細管中に入り込むと、唾液、象牙細管内液若しくは象牙質表面のカルシウムイオンと塩を形成することにより、実質的に水に不溶性の粉体となるため、象牙細管中に固定され、当該象牙細管を閉口して歯髄の神経刺激を防ぐ性質を有する」特定の水溶性リン酸化合物(段落【0008】)と協働して奏されるものである。そしてこのことは、甲第7号証に係る知覚過敏症治療剤が、その発明特定事項として(A)成分と(B)成分の配合比を特定の数値範囲内に設定しているだけでなく(請求項1、段落【0001】)、同号証に、(A)成分の配合割合が少ない場合には十分な象牙細管の閉塞効果を得ることができない旨が示唆されていること、すなわち同号証に、「(A)/(B)の値が1/50未満では、(B)成分が象牙細管を閉塞しても、(A)成分により固定化されずに、すぐに外れてしまう。」と記載されていること(段落【0035】)からみて明らかである。
したがって、甲第7号証に記載の知覚過敏症治療剤に配合された特定粒径範囲の水不溶性非カルシウム系粉体((B)成分)のみを、本件プライマーに転用することは、上記で述べた甲第1〜6号証の技術的事項を総合勘案しても容易に想到し得ないというべきである。
そして、本件特許発明は、本件プライマーに対して本件疎水性微粒子を少なくとも一部に含む特定粒径範囲の微粒子を所定量配合するという構成(発明特定事項)を具備することにより、酸性成分の添加量がエナメル質に対する充分な辺縁封鎖性を示すほど多量の場合でも、処理後には象牙細管が上記微粒子により閉塞されることで、エナメル質と象牙質の両者に対する良好な接着力を、生体に対する高い安全性を保持して実現すること、及び、同一の酸性成分添加量でも微粒子の添加により接着力等への悪影響なく辺縁封鎖性が向上すること、という訂正明細書に記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明は甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

7.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件請求項1に係る発明の特許を無効にすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用して、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プライマー組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】水および酸性基含有重合性単量体を含有する歯科用プライマー組成物であって、一次粒子径が0.001μm〜1μmの微粒子を0.1重量%〜30重量%含有し、前記微粒子の少なくとも一部が、その0.5gがエタノール/水=0/100(wt/wt:以下同じ)〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散する疎水性微粒子であることを特徴とする歯科用プライマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は歯科医療分野において歯の充填修復に際し、充填材料と歯質との高い接着力、及び生体安全性を実現するための歯質表面の前処理材として好適なプライマー組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
齲蝕等により損傷を受けた歯の修復には、主にコンポジットレジンと呼ばれる充填材料が用いられる。このコンポジットレジンは歯の窩洞に充填後重合硬化して使用される事が一般的である。しかし、この材料自体歯質への接着性を持たないため、歯科用接着材が併用される。この接着材にはコンポジットレジンの硬化に際して発生する内部応力、即ちコンポジットレジンと歯質との界面に生じる引っ張り応力に打ち勝つだけの接着強度が要求される。さもないと過酷な口腔環境下での長期使用によりコンポジットレジンが脱落する可能性があるのみならず、コンポジットレジンと歯質の界面で間隙を生じ、そこから細菌が侵入して歯髄に悪影響を与える恐れがあるためである。
【0003】
歯の硬組織はエナメル質と象牙質から成り、臨床的には双方への接着が要求される。従来、接着性の向上を目的として、接着材塗布に先立ち歯の表面を酸水溶液により脱灰し、続いて水洗する方法が一般的に用いられており、この目的のためにリン酸、クエン酸、マレイン酸等の酸水溶液が用いられてきた。エナメル質の場合、処理面との接着機構は、酸水溶液の脱灰による粗造な表面へ、接着材が浸透して硬化するというマクロな機械的嵌合であるのに対し、象牙質の場合には、脱灰後に歯質表面に露出するスポンジ状のコラーゲン繊維の微細な空隙に、接着材が浸透して硬化するミクロな機械的嵌合であると言われている。但し、コラーゲン繊維への浸透はエナメル質表面ほど容易ではなく、酸水溶液による処理後に更にプライマーと呼ばれる浸透促進材を塗布し、水洗を行わずに乾燥する方法が一般的に用いられ、操作の煩雑化を招いていた。
【0004】
近年、この煩雑さを解消するため、酸水溶液による前処理、水洗を省略することが試みられている。即ち、プライマーの歯質表面への塗布・乾燥のみによりエナメル質・象牙質双方に高い接着力を得ようとする方法が試みられ、このような目的を達成しようとするプライマー組成物がいくつか提案されている。例えば、特開平7-89820号公報では、重合性マレイン酸誘導体を用いたプライマー組成物が、特開平7-82115号公報では、リン酸あるいはトリメリット酸の重合性の誘導体を用いたプライマー組成物が、特開平6-192029号公報ではビニルホスホン酸を用いたプライマー組成物等が開示されている。これらのプライマー組成物は、エナメル質との高い接着力を得るために比較的多量の酸性成分を含有している。通常はこの酸性成分が少なすぎるとエナメル質に対する接着性、特に辺縁封鎖性が悪くなる。一方で大量の酸性成分を含むプライマー組成物を象牙質の前処理剤として用いると、象牙質が過度の脱灰を被り好ましくない。これは、通常齲蝕歯質を除去、窩洞形成をした象牙質表面には削り屑より成るスメアー層と呼ばれる層を形成しており、さらには象牙細管まで侵入した削り屑はスメアープラグと呼ばれる削り屑が象牙細管を閉塞し、有害物質等の歯髄への侵入を妨げると言われている(新海、加藤、日歯保誌、35(3)、634、1992)が、強い酸性条件下では、このスメアープラグまで除去されてしまい、歯髄への安全性の低下が懸念されるためである。すなわち、エナメル質に対する接着性を優先して酸性成分量を多くすると、象牙細管が開口してしまい歯髄に対する安全性が低下し、逆に酸性成分を少なくすると、エナメル質への接着性の低下により2次齲蝕や褐線の発生が懸念される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上の点から、前処理、接着材塗布、修復材料充填という窩洞修復の術式において、エナメル質に対する充分な辺縁封鎖性を示す一方で、処理後の象牙細管が閉塞されており、かつ双方に高い接着力を示すプライマー組成物の開発が望まれていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記技術課題を克服すべく鋭意研究を重ねた結果、プライマー組成物に微粒子を添加することにより、酸性成分の添加量がエナメル質に対する充分な辺縁封鎖性を示す程多量の場合でも、処理後には象牙細管が当該微粒子により閉塞されていることを見いだし、さらには、同一の酸性成分添加量でも微粒子の添加により辺縁封鎖性が向上することを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
即ち本発明は、水および酸性基含有重合性単量体を含有する歯科用プライマー組成物であって、一次粒子径が0.001μm〜1μmの微粒子を0.1重量%〜30重量%含有し、前記微粒子の少なくとも一部が、その0.5gがエタノール/水=0/100(wt/wt:以下同じ)〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散する疎水性微粒子であることを特徴とする歯科用プライマー組成物である。
【0008】
尚、本発明におけるプライマー組成物中に含まれる微粒子を始めとする各成分の配合量は、プライマー組成物を構成する全成分の合計量中に占める百分率である。
【0009】
本発明に使用する微粒子は、1次粒子径が0.001μm〜1μmの範囲であれば公知のものが制限なく使用される。この様な微粒子を具体的に例示すると、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリスチレン類、シリコーン類等の高分子の微粒子類、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、ストロンチウム、鉄、銅、亜鉛、錫、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム等の金属の酸化物系あるいはそれらの複合酸化物系微粒子類、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物類、炭化ケイ素、炭化ホウ素等の炭化物類等の非酸化物系無機微粒子類、及びこれら金属酸化物系、金属非酸化物系無機微粒子類をメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシランカップリング剤類、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルジメタクリロイルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等のチタネート系カップリング剤類、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤類で表面処理したものが挙げられる。さらに、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリスチレン類、シリコーン類等の高分子で金属酸化物系微粒子表面を被覆した微粒子の使用も好ましい。
【0010】
上記、金属酸化物系微粒子の製造方法は特に制限されるものではなく、既存の共沈法、溶射法、ゾルゲル法、バルク粉砕-分級法等が使用可能であり、また、表面処理方法も、スプレードライ法、乾式混合法、湿式混合法等既存の方法が制限なく使用できる。
当該微粒子の一次粒子径は、0.001μm〜1μmの範囲である。0.001μm以下の粒子の入手は事実上困難であり、一方上限は、大きすぎると沈降が生じやすく保存時の均一な分散が困難であるなど問題が生じるため、0.5μm以下であることが好ましく、0.1μm以下がより好ましい。
【0011】
本発明における微粒子の配合量は、0.1重量%〜30重量%でなければならず、0.5重量%〜15重量%であることが好ましく、1重量%〜10重量%であることがより好ましい。配合量が0.1重量%よりも少なすぎると、配合による辺縁封鎖性の向上、象牙細管閉塞効果が小さく、逆に、30重量%を越えると粘度が上昇し操作性が悪くなるために好ましくない。
【0012】
本発明で用いる微粒子の性質は特に限定されるものではないが、親水性・疎水性の適度に均衡する範囲が好ましい。以下、水/アルコール混合溶媒への分散状態により微粒子の親水性、疎水性を記述する事とし、純粋な水に分散可能な微粒子を親水性微粒子、アルコールとの混合溶媒でなければ分散できない微粒子を疎水性微粒子と呼ぶ。本発明で用いる微粒子は、その0.5gがエタノール/水=0/100(wt/wt=以下同じ)〜10/90の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=15/85〜100/0の混合溶媒10gには分散する程度の疎水性微粒子であることが好ましく、エタノール/水=0/100〜20/80の混合溶媒10gに完全に分散せず、エタノール/水=25/75〜100/0の混合溶媒10gには分散する程度の疎水性微粒子であることがより好ましい。疎水性微粒子は親水性微粒子に比較して象牙細管の閉塞効果が大きく、更には、辺縁封鎖性の向上効果も大きい。
【0013】
上記、微粒子はその組成、製造方法、表面処理の方法、粒子径、疎水性の程度が異なるものを複数混合して用いることも可能である。
【0014】
本発明のプライマー組成物は、歯質に対して高い接着力を得るために酸性基含有重合性単量体を含有する。この様な重合性単量体の有する酸性基としては、リン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等が挙げられる。
【0015】
代表的なリン酸基含有重合性単量体の例としては、以下の一般式(1)に示すようなリン酸のモノエステル、一般式(2)(3)に示すようなジエステルが例示され、さらにはこれらの化合物の2つが、酸素原子を介して-P-O-P-の形で縮合しているピロリン酸エステル誘導体も例示される。
【0016】
【化1】

【0017】
(但し、R1,R2はそれぞれ独立に水素原子、又はメチル基を表し、R3,R4はそれぞれ独立にエーテル結合及び/又はエステル結合を有してもよい炭素数1〜30の2〜6価の有機残基を、R5は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基又はアルコキシ基を、Zは酸素原子または硫黄原子を、X1,X2はそれぞれ独立に水酸基、メルカプト基、ハロゲン原子を表し、n1,n2は1〜5の整数である。)一般式(1)で表されるリン酸基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【0020】
一般式(2)で表されるリン酸基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
【0021】
【化4】

【0022】
一般式(3)中、R5は水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基又はアルコキシ基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などである。
【0023】
一般式(3)で表せられるリン酸基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
一般式(1)、(2)、および(3)で表される化合物の2つが、酸素原子を介して-P-O-P-の形をとって縮合しているピロリン酸型誘導体の具体例を挙げると次の通りである。
【0027】
【化7】

【0028】
代表的なカルボン酸基含有重合性単量体の例としては、以下の一般式(4)にで表されるトリメリット酸誘導体及びそれらの無水物、又はハロゲン化物、下記一般式(4)あるいは(5)で表されるピロメリット酸誘導体及びそれらの無水物、又はハロゲン化物、下記一般式(6)で表せられるマロン酸誘導体及びその無水物、又はハロゲン化物、下記一般式(7)で表せられるマレイン酸誘導体及びその無水物、又はハロゲン化物、あるいは6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンサクシネート、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸などがあげられる。
【0029】
【化8】

【0030】
(但し、R1は水素原子又はメチル基を表し、R3はエーテル結合及び/又はエステル結合を有してもよい炭素数1〜30の2〜6価の有機残基を、R6は水素原子又はカルボキシル基を表し、n1は1〜5の整数を、n3は1又は2を表す。
【0031】
一般式(4)で表されるカルボン酸基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
【化11】

【0035】
【化12】

【0036】
一般式(5)で表されるカルボン酸基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
【0037】
【化13】

【0038】
一般式(6)で表されるカルボン酸基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
【0039】
【化14】

【0040】
【化15】

【0041】
一般式(7)で表されるカルボン酸基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
【0042】
【化16】

【0043】
代表的なスルホン酸基含有重合成単量体の例としては、以下の一般式(8)に示すようなスルホン酸の(メタ)アクリレート誘導体、又は(メタ)アクリルアミド誘導体、あるいはビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等が例示される。
【0044】
【化17】

【0045】
(但し、R1は水素原子又はメチル基を表し、R3はエーテル結合及び/又はエステル結合を有してもよい炭素数1〜30の2〜6価の有機残基を、Zは酸素原子又はイミノ基(-NH-)を、n1は1〜5の整数を、n3は1又は2の整数を表す。)
一般式(8)で表されるスルホン酸基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
【0046】
【化18】

【0047】
代表的なホスホン酸基含有重合性単量体の例としては、ビニルホスホン酸が挙げられる。
【0048】
これらの酸性基含有重合性単量体は必要に応じて複数を混合して用いることが可能である。
【0049】
これらの酸性基含有重合性単量体の中でも、歯質接着性の点からリン酸基含有重合性単量体の使用が好ましく、リン酸基含有重合性単量体とカルボン酸基含有重合性単量体の併用がより好ましく、リン酸基含有重合性単量体と一般式(4)で表されるトリメリット酸誘導体であるカルボン酸基含有重合性単量体又は一般式(6)で表されるマロン酸誘導体であるカルボン酸基含有重合性単量体の併用が最も好ましい。
【0050】
本発明における上記酸性基含有重合性単量体の配合量は、エナメル質と象牙質の双方に対する接着力を高くするためには、好ましくは5重量%〜75重量%であり、より好ましくは7重量%〜50重量%であり、最も好ましくは10重量%〜40重量%である。さらにリン酸基含有重合性単量体とカルボン酸基含有重合性単量体を併用する場合には、当該リン酸基含有重合性単量体の配合量が5重量%〜40重量%であることがより好ましく、7重量%〜30重量%配合されていることが最も好ましい。
【0051】
本発明のプライマー組成物には、歯質の脱灰のために水が配合される。この水は、貯蔵安定性、生体適合性および接着性に有害な不純物を実質的に含まない事が好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。
【0052】
本発明における上記水の配合量は、エナメル質、象牙質の双方に対する接着力を高くするためには、全構成成分中10重量%〜90重量%が好ましく、20重量%〜85重量%がより好ましく、30重量%〜70重量%が最も好ましい。
【0053】
本発明のプライマー組成物は、上記した各成分以外にも、より高い接着性能を得るために様々な成分を含有していてよい。この様な成分としては水溶性有機溶媒や非水溶性有機溶媒、酸性基を有しない重合性単量体、重合開始剤、酸、金属の塩等を挙げることができる。
【0054】
水溶性有機溶媒は、上記酸性基含有重合性単量体等必要に応じて添加される有機成分の水への溶解性を向上し、溶液を均一とするために使用することが好ましい。
【0055】
このような水溶性有機溶媒の具体例として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、2-メチル-2-ブタノール、2-プロペン-1-オール、2-プロピン-1-オール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、グリセロール、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシエトキシ)エタノール、2-(エトキシエトキシ)エタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレンオキサイド、ジメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、ビス(2-エトキシエチル)エーテル等のアルコール化合物類又はエーテル化合物類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物類、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のリン酸アミド化合物類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド化合物類、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸化合物類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄酸化物系化合物類等が挙げられる。また、アクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート等の重合性官能基を持ったものでもよい。
【0056】
上記水溶性有機溶媒の中でも、生体に対する為害作用の少ないものが望ましく、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、2-メチル-2-ブタノール、2-プロペン-1-オール、2-プロピン-1-オール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、グリセロール、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシエトキシ)エタノール、2-(エトキシエトキシ)エタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、ビス(2-エトキシエチル)エーテル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルコール化合物類又はエーテル化合物類及びアセトンが好適に使用される。
【0057】
生体に対する為害作用の上からはエタノール、プロパノールの使用が最も好ましく、歯科用組成物の保存安定性の上からは水酸基をもたないエーテル化合物類の使用が好ましい。
【0058】
上記水溶性有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。本発明に於ける上記水溶性有機溶媒の配合量は、有機成分の水への溶解性向上とエナメル質、象牙質の双方への接着力向上のためには、1重量%〜70重量%が好ましく、3重量%〜60重量%がより好ましく、10重量%〜50重量%が最も好ましい。
【0059】
上記非水溶性有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ペンタノン、ヘキサノン、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ビニル等があげられる。
【0060】
本発明のプライマー組成物に添加する酸性基を有しない重合性単量体しては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、N-メチロールメタクリルアミド及びこれらのアクリレート等の単官能性単量体、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンおよびこれらのアクリレート等の芳香族系二官能性単量体、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメートおよびこれらのアクリレート等の脂肪族系二官能性単量体、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート及びこれらのアクリレート等の三官能性単量体、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の四官能性単量体等があげられる。
【0061】
本発明のプライマー組成物に添加する重合開始剤としては熱重合開始剤及び光重合開始剤のいずれでもよい。
【0062】
熱重合開始剤としては、例えば、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ジt-ブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイルの様な有機過酸化物類、アゾビスブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸の様なアゾ化合物類が好適に使用される。
【0063】
また、上記有機過酸化物とアミン化合物を組み合わせて用いることにより、重合を促進させることができる。この様な重合促進剤として用いられるアミン化合物としては、アミノ基がアリール基に結合した第二級又は第三級アミン類が好ましく、例えば、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、N-(2-ヒドロキシエチル)アニリン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N-メチルアニリン、N-メチル-p-トルイジン等が好ましい。
【0064】
上記有機過酸化物とアミン化合物の組合せに、さらにスルフィン酸塩又はボレートを組み合わせることも好適である。かかるスルフィン酸塩類としては、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、m-ニトロベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-フルオロベンゼンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられ、ボレート類としてはトリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p-クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-フロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(3,5-ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p-クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-フロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(3,5-ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p-クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-フロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(3,5-ビストリフロロメチル)フェニルホウ素(アルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等が挙げられる。また、これらスルフィン酸塩類やボレート類は酸性化合物と反応させることにより重合を開始させることもできる。
【0065】
また、光重合開始剤(光増感剤ともいう)の使用も好ましく、これらの例としては、カンファーキノン、ベンジル、α-ナフチル、アセトナフテン、ナフトキノン、p,p’-ジメトキシベンジル、p,p’-ジクロロベンジルアセチル、1,2-フェナントレンキノン、1,4-フェナントレンキノン、3,4-フェナントレンキノン、9,10-フェナントレンキノン等のα-ジケトン類、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン類、2-ベンジル-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ベンジル-ジエチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ベンジル-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-プロパノン-1、2-ベンジル-ジエチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-プロパノン-1、2-ベンジル-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ペンタノン-1、2-ベンジル-ジエチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ペンタノン-1等のα-アミノアセトフェノン類等があげられる。
【0066】
さらに、上記光増感剤と組み合わせて光重合促進剤を用いることも好ましい。かかる光重合促進剤として、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジ-n-ブチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、p-ブロモ-N,N-ジメチルアニリン、m-クロロ-N,N-ジメチルアニリン、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N-ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N-ジヒドキシエチルアニリン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノフェネチルアルコール、p-ジメチルアミノスチルペン、N,N-ジメチル-3,5-キシリジン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチル-α-ナフチルアミン、N,N-ジメチル-β-ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2′-(n-ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類等を挙げる事が出来る。
【0067】
また、酸素や水との反応によりラジカルを発生するトリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物の様な有機ホウ素化合物類が有機金属型の重合開始剤としてあげられる。
【0068】
上記熱重合開始剤、光増感剤、スルフィン酸塩類、ボレート類、重合促進剤、有機金属型の重合開始剤は必要に応じ各々単独で、あるいは複数を組み合わせて用いることが可能である。
【0069】
本発明のプライマー組成物に添加する酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、過塩素酸等の無機酸類、酢酸、マレイン酸、クエン酸、マロン酸、蓚酸等の有機カルボン酸類、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、ブロモベンゼンスルホン酸、ビフェニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アントラセンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフトールスルホン酸、スルホ酢酸、スルホ安息香酸、スルホサリチル酸、アントラキノンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ナフトールジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸等の非重合性スルホン酸類等が挙げられる。
【0070】
本発明のプライマー組成物に添加する金属の塩としては、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、錫、バリウム等の多価の金属の、塩酸塩、フッ酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、くえん酸塩、蓚酸塩、EDTA塩等があげられる。
【0071】
本発明の組成物を調製する方法については特に制限がなく、微粒子、酸性基含有重合性単量体、水及び水溶性有機溶媒、並びに必要に応じて添加する任意成分をその所望の割合で容器に秤り採り、攪拌混合して微粒子の分散した溶液とすれば良い。攪拌混合の方法としては、攪拌羽根をつけたモーターの使用以外にも、プラネタリーミキサー、ナノマイザー、ボールミル、アトライター、らいかい機等の使用が例示される。
【0072】
本発明の組成物の包装形態は、保存安定性を損なわない事を条件に適宜決定する事が出来る。例えば、酸性基含有重合性単量体と水溶性有機溶媒を主成分とする液と、水を主成分とする液を別個に包装し、使用時に混合する事が可能であり、微粒子はそのいずれか一方あるいは双方に添加しておけばよい。
【0073】
【発明の効果】
歯と充填材料との接着材による接着に用いられ、酸水溶液処理及びその水洗を必要とせず、塗布後の乾燥のみで、エナメル質と象牙質の両者に対して良好な接着力を発現するプライマー組成物であり、微粒子の添加により、接着力等への悪影響なく辺縁封鎖性が向上し、また、象牙細管が閉塞されるために生体に対する高い安全性が期待される。
【0074】
【実施例】
以下実施例により本発明の組成物を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。尚、本文中並びに実施例中に示した略称、略号、接着力測定方法、及び接着材の調製方法については次の通りである。
【0075】
(1)略称、略号
フェニルーP:2-メタクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェン ホスフェート
PM:2-メタクリロイルオキシエチル ジハイドロジェン ボスフェート
MAC-10:11-メタクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸
MTS:2-メタクリロイルオキシエチル-3’-メタクリロイルオキシ-2’-(3,4ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート
(2)エナメル質、象牙質接着力
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質または象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径4mmの孔のあいた両面テープを固定し、次に厚さ1.5mm、直径6mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に本発明のプライマー組成物を薄く塗布し、20秒間放置した後、圧縮空気を約5秒間吹き付けて乾燥した。次に接着材を塗布し、可視光線光照射器(ホワイトライト、タカラベルモント社製)にて10秒間光照射し接着材を硬化させた。更にその上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークライトポステリア、(株)トクヤマ社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片を作製した。
【0076】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード10mm/minにて引っ張り、歯牙とコンポジットレジンの引っ張り接着強さを測定した。
【0077】
1試験当り、4本の引っ張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度とした。
【0078】
(2)辺縁封鎖性
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出した。次に注水下、カーボランダムポイント(HP35、松風社製)を用いて、内系4.5mm〜5mm、深さ4mm〜5mmの象牙質にまで達する窩洞を形成した。この窩洞内に本発明のプライマー組成物を薄く塗布し、20秒間放置した後、圧縮空気を約5秒間吹き付けて乾燥した。次に接着材を塗布し、可視光線光照射器(ホワイトライト、タカラベルモント社製)にて10秒間光照射し接着材を硬化させた。更に歯科用コンポジットレジン(パルフィークエステライト、(株)トクヤマ社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して辺縁封鎖性試弾片を作製した。
【0079】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、注水下、#800のエメリーペーパーを用いて研磨し余剰のコンポジットレジンを除去し、歯根部を即時重合性レジン(トクソーキュアファスト、(株)トクヤマ社製)で被った。これを4℃と60℃の色素水溶液(0.1%塩基性フクシン、東京化成社製)に交互に、各1分間づつ60回浸漬を繰り返した。浸漬終了後、試験片を歯頸部方向から歯冠部方向への断面が見られるように#120のエメリーペーパーで研削し、歯質と充填したコンポジットレジンの界面への色素の侵入状態を観察、評価した。評価は試験片6本、即ち歯頸部側と歯冠部側各々6ヶ所、計12ヶ所の断面を観察し、12分の幾つに色素が侵入していないか数えた。即ち数字の大きいほど辺縁封鎖性は良好である。
【0080】
(3)象牙細管閉塞状態(細管封鎖率)
厚さ1〜2mmで直径10mmの円内に治まるような大きさの象牙質の板を、屠後24時間以内の牛前歯から#800のエメリーペーパーにて削り出した。この象牙質板に本発明のプライマー組成物を薄く塗布し、20秒間放置した後、圧縮空気を約5秒間吹き付けて乾燥した。続いて、約2mlのエタノールを用いて洗浄し、処理面上に付着している重合性単量体を除去した。これを真空乾燥器を用いて37℃で2時間以上乾燥した後、白金蒸着(JUC-5000、日本電子社製)を行い、走差型電子顕微鏡(JSM-T330A、日本電子社製)で処理面の状態を観察した。スメアープラグの残存、あるいは微粒子により閉塞している象牙細管の割合を百分率で表した。
【0081】
(4)微粒子の調製
微粒子QS-102、MT-10、DM-10、DM-30は各々(株)トクヤマ製の市販の微粒子シリカであるレオロシールQS-102(表面処理なし)、レオロシールMT-10(メチルトリクロロシラン処理品)及びレオロシールDM-10、レオロシールDM-30(共にジメチルジクロロシラン処理品)を用いた。微粒子VT-10は(株)トクヤマ製の市販の微粒子シリカQS-102をビニルトリメトキシシランを用いて以下の製造例に従って処理したものを用いた。
【0082】
10重量部のQS-102をn-ヘキサン300重量部に懸濁させ、超音波を15分間あてて分散させた。この分散液をマグネティクスターラーを用いて激しく攪拌しながらそこへビニルトリメトキシシラン2重量部を加えた。そのまま24時間攪拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、さらに真空下80℃で6時間乾燥させた。
【0083】
上記微粒子QS-102、MT-10、DM-10、DM-30、VT-10の疎水性の程度、電子顕微鏡観察による1次粒子径、BET一点法による比表面積を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
(5)プライマーの調製
使用したプライマーの微粒子以外の構成成分の組成(以下、基本組成と呼ぶ)を表2に示した。微粒子を添加するときは、プライマー構成成分中の水及び有機溶媒の混合液に微粒子を添加、攪拌・混合して分散させ、続いて残りの構成成分を配合して、プライマーとして用いた。
【0086】
【表2】

【0087】
(6)接着材
接着材はトクソーマックボンド付属のボンディングエージェント((株)トクヤマ製)をそのまま用いた。
【0088】
実施例1
基本組成Aのプライマー100重量部に、微粒子MT-10を4重量部添加したものを用いて初期接着力、細管封鎖率、辺縁封鎖性を測定した。結果を表3に示す。
【0089】
実施例2〜6および参考例1
実施例1の方法に準じて微粒子添加プライマーを調製し、初期接着力、細管封鎖率、辺縁封鎖性を測定した。添加した微粒子の種類と添加量、及び結果を表3に示す。
【0090】
比較例1
微粒子を全く添加しなかった基本組成Aのプライマーについて、初期接着力、細管封鎖率、辺縁封鎖性を測定した。結果を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
実施例1〜3は添加する微粒子の量を変化させた場合の結果であり、実施例1と4〜6および参考例1は添加する疎水性微粒子の種類を変化させた場合の結果である。比較例1と比較して、初期接着力に有意な低下はなく、細管封鎖率、辺縁封鎖性が向上していることがわかる。さらに、実施例1〜6と参考例1の比較から疎水性微粒子の使用により、細管封鎖効果と辺縁封鎖性向上効果の高いことがわかる。
【0093】
実施例7〜9および参考例2
実施例1の方法に準じて基本組成Bのプライマーを用い、微粒子添加プライマーを調製し、初期接着力、細管封鎖率、辺縁封鎖性を測定した。添加した微粒子の種類と添加量、及び結果を表4に示す。
【0094】
比較例2
微粒子を全く添加しなかった基本組成Bのプライマーについて、初期接着力、細管封鎖率、辺縁封鎖性を測定した。結果を表4に示す。
【0095】
【表4】

【0096】
実施例7〜9、参考例2および実施例10〜12は異なる基本組成のプライマーを用い、添加する微粒子の種類を変化させた場合の結果である。比較例2と比較して、初期接着力に有意な低下はなく、細管封鎖率、辺縁封鎖性の向上していることがわかる。さらに、実施例7〜9と参考例2の比較から疎水性微粒子の使用により、細管封鎖効果と辺縁封鎖性向上効果の高いことがわかる。
【0097】
実施例10〜12
実施例1の方法に準じて基本組成CまたはDのプライマーを用い、微粒子添加プライマーを調製し、初期接着力、細管封鎖率、辺縁封鎖性を測定した。添加した微粒子の種類と添加量、及び結果を表5に示す。
【0098】
比較例3および4
微粒子を全く添加しなかった基本組成CまたはDのプライマーについて、初期接着力、細管封鎖率、辺縁封鎖性を測定した。結果を表5に示す。
【0099】
【表5】

【0100】
実施例10〜12と比較例3、4の比較から、プライマーの基本組成が変化しても、微粒子の添加による初期接着力に有意な低下はなく、一方で細管封鎖率、辺縁封鎖性の向上していることがわかる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-03-17 
結審通知日 2006-03-23 
審決日 2006-04-12 
出願番号 特願平7-340382
審決分類 P 1 113・ 121- YA (A61K)
P 1 113・ 113- YA (A61K)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 横尾 俊一
中野 孝一
登録日 2003-12-26 
登録番号 特許第3506164号(P3506164)
発明の名称 プライマー組成物  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  
代理人 中馬 典嗣  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ