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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800029 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効200580069 審決 特許
無効2009800243 審決 特許
無効2007800196 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 発明同一  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1140115
審判番号 無効2005-80021  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-01-21 
確定日 2006-07-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3558077号「コーティング製剤およびその製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成17年 8月18日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成17年(行ケ)第10703号、平成17年11月17日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3558077号に係る発明は、平成14年12月27日に特許出願され、平成16年5月28日にその発明についての特許の設定登録がなされた。
これに対して、平成17年1月21日に本件特許の無効審判が請求され、平成17年8月18日、上記請求は成り立たないとする審決がなされたところ、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定による審決の取消の決定(平成17年(行ケ)第10703号、平成17年11月17日)があったので、本件の審理を再開することとした。審理再開にあたって、平成17年12月13日付け通知書により、被請求人に特許法第134条の3第2項の規定による訂正請求の機会を与えたが、指定期間内に訂正請求がされなかった。そこで、特許法第134条の3第5項の規定に基づき、訂正審判(訂正2005-39207号)の請求書に添付された訂正した明細書及び特許請求の範囲を、同条第3項の規定により援用した同条第1項の訂正の請求がされたものとみなし、請求人に平成18年1月16日に訂正請求書副本を送付し弁駁の機会を与えたが、請求人は何ら応答しなかった。

2.訂正請求について

(1)訂正の内容
(訂正事項1)
請求項1中の「酸化チタンを含み」を、「(1)コーティング層中のフィルム基剤に対して50〜100質量%の酸化チタンを含み」に訂正する。

(訂正事項2)
請求項1中の「実質的に可塑剤を含まないか」を「実質的に可塑剤を含まない(ただし、裸錠中に結晶セルロースおよび/または乳糖を含む場合を除く。)か」に訂正する。

(訂正事項3)
請求項1中の「あるいは可塑剤として」を、「あるいは(2)酸化チタンを含み、可塑剤として」に訂正する。

(訂正事項4)
請求項1中の「結晶の色が製剤表面に浮き出ることがない」を「40℃、湿度80%下で1週間保存した後、分光測色計による色差値ΔEが7.01以下である」に訂正する。

(訂正事項5)
請求項5及び6を削除する。

(2)訂正の適否
訂正事項1は、コーティング層中の酸化チタンの配合割合を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、

訂正事項2は、裸錠中に結晶セルロースおよび/または乳糖を含む場合を構成要件から除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、

訂正事項3は、訂正事項1に伴い、実質的に可塑剤を含まない場合(1)と、可塑剤としてポリエチレングリコールを酸化チタンに対し10質量%以下含む場合(2)とで酸化チタンの配合割合が異なることとなったため、(2)の場合として「酸化チタンを含み」の構成要件を明記するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、

訂正事項4は、「結晶の色が製剤表面に浮き出ることがない」を、特定条件下での分光測色計による色差値の特定の値とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、

訂正事項5は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、上記各訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、且つ実質上特許請求の範囲を拡張し変更しないものであることが明らかである。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項及び同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、訂正を認める。

3.本件特許発明
上記2.のとおり訂正が許容されるので、本件請求項1〜4の発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
5-[(1Z,2E)-2-メチル-3-フェニル-2-プロペニリデン]-4-オキソ-2-チオキソ-3-チアゾリジン酢酸を有効成分として含むコーティング製剤であって、(1)コーティング層中のフィルム基剤に対して50〜100質量%の酸化チタンを含み、実質的に可塑剤を含まない(ただし、裸錠中に結晶セルロースおよび/または乳糖を含む場合を除く。)か、あるいは(2)酸化チタンを含み、可塑剤としてポリエチレングリコールを酸化チタンに対し10質量%以下含むコーティング層が設けられていることを特徴とする40℃、湿度80%下で1週間保存した後、分光測色計による色差値ΔEが7.01以下であるコーティング製剤。
【請求項2】
酸化チタンを含み、実質的に可塑剤を含まないか、あるいは可塑剤としてポリエチレングリコールを酸化チタンに対し4質量%以下含むコーティング層が設けられている請求項1記載のコーティング製剤。
【請求項3】
酸化チタンを含み、実質的に可塑剤を含まないか、あるいは可塑剤としてポリエチレングリコールを酸化チタンに対し約1.50質量%含むコーティング層が設けられている請求項1記載のコーティング製剤。
【請求項4】
酸化チタンを含み、実質的に可塑剤を含まないコーティング層が設けられている請求項1記載のコーティング製剤。」

4.当事者の主張

(1)請求人は、甲第1〜12号証を提出して、以下の無効理由1〜3により、本件特許は特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当するので、無効にすべき旨を主張している。

(無効理由1) 本件請求項1〜4の発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された先願、特願2002-209651号(特開2004-51520号;出願日平成14年7月18日)(甲第1号証)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であるので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

(無効理由2)本件特許の明細書には記載不備があり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(無効理由3)本件請求項1〜4の発明は、甲第2〜6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)被請求人は、請求人の主張はいずれも失当であると主張し、乙第1〜6号証を提出している。

5.当事者の提出した証拠

(請求人の提出した証拠)

(1)甲第1号証:特願2002-209651号(特開2004-51520号)

(1-1)「(実施例1)
エパルレスタット50.0部、D-マンニトール(マンニット-P、東和化成工業株式会社製)33.0部、結晶セルロース(アビセルPH101、旭化成工業株式会社製)15.0部及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH21、信越化学工業株式会社製)8.0部をハイスピードミキサー(深江工業株式会社製)に投入・混合した後、この混合物に6.0%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達株式会社製)水溶液41.7部を加えて撹拌造粒を行った。・・・得られた顆粒108.5部にステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1.5部を添加・混合し、・・・未コート錠を製造した。水80.5部に酸化チタン3.0部を分散させ、さらにヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC-5RW、信越化学工業株式会社製)7.0部を溶解させたコーティング液を調整し、定法に従って未コート錠にコーティングを施し・・・のコーティング錠を得た。」(段落【0008】)

(1-2)「(実施例2)
エパルレスタット50.0部、乳糖(乳糖200、DMV製)33.0部、結晶セルロース(アビセルPH101、旭化成工業株式会社製)15.0部及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH21、信越化学工業株式会社製)8.0部をハイスピードミキサー(深江工業株式会社製)に投入・混合した後、この混合物に7.5%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達株式会社製)水溶液33.3部を加えて撹拌造粒を行った。・・・得られた顆粒108.5部にステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1.5部を添加・混合し、・・・未コート錠を製造した。水80.5部に酸化チタン3.0部を分散させ、さらにヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC-5RW、信越化学工業株式会社製)7.0部を溶解させたコーティング液を調整し、定法に従って未コート錠にコーティングを施し・・・のコーティング錠を得た。」(段落【0008】)

(1-3)「(実施例3)
エパルレスタット50.0部、乳糖(乳糖200、DMV製)33.0部、結晶セルロース(アビセルPH101、旭化成工業株式会社製)20.5部及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH21、信越化学工業株式会社製)2.5部をハイスピードミキサー(深江工業株式会社製)に投入・混合した後、この混合物に7.5%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達株式会社製)水溶液33.3部を加えて撹拌造粒を行った。・・・得られた顆粒108.5部にステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1.5部を添加・混合し、・・・未コート錠を製造した。水75.6部に酸化チタン3.6部を分散させ、さらにヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC-5MW、信越化学工業株式会社製)8.4部を溶解させたコーティング液を調整し、定法に従って未コート錠にコーティングを施し・・・のコーティング錠を得た。」(段落【0008】)

(1-4)「(実施例4)
エパルレスタット50.0部、乳糖(乳糖200、DMV製)53.5部、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH21、信越化学工業株式会社製)2.5部及びヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達株式会社製)1.15部をハイスピードミキサー(深江工業株式会社製)に投入・混合した後、この混合物に7.5%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達株式会社製)水溶液18部を加えて撹拌造粒を行った。・・・得られた顆粒108.5部にステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1.5部を添加・混合し、・・・未コート錠を製造した。水96.6部に酸化チタン2.4部及びタルク1.2部を分散させ、さらにヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC-5RW、信越化学工業株式会社製)8.4部を溶解させたコーティング液を調整し、定法に従って未コート錠にコーティングを施し・・・のコーティング錠を得た。」(段落【0008】)

(1-5)「(比較例1)
エパルレスタット50.0部、D-マンニトール(マンニット-P、東和化成工業株式会社製)53.5部、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH21、信越化学工業株式会社製)2.5部及びヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達株式会社製)1.65部をハイスピードミキサー(深江工業株式会社製)に投入・混合した後、この混合物に7.5%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達株式会社製)水溶液18.0部を加えて撹拌造粒を行った。・・・得られた顆粒109.0部にステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1.0部を添加・混合し、・・・未コート錠を製造した。水80.5部に酸化チタン3.0部を分散させ、さらにヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC-5RW、信越化学工業株式会社製)7.0部を溶解させたコーティング液を調整し、定法に従って未コート錠にコーティングを施し・・・のコーティング錠を得た。」(段落【0008】)

(2)甲第2号証:特開2000-44464号公報

(2-1)「【請求項1】酸化チタンおよびタルクを配合したフィルム層でコーティングされたことを特徴とするフィルムコーティング錠剤。
【請求項2】フィルム層中のフィルム基剤と酸化チタンの重量比が1:0.35〜0.85であり、かつ酸化チタンとタルクの重量比が1:0.15〜0.3であるフィルム層でコーティングされたことを特徴とするフィルムコーティング錠剤。」(特許請求の範囲)

(2-2)「【従来の技術】錠剤は、・・・・・、外観的な美麗化や識別性、錠剤自身の色の隠蔽を目的としてフィルムコーティングされる。また、配合成分の中には光や水分、大気中の酸素などの外的因子により分解されるものも多く、フィルムコーティングは配合成分を外的因子から隔離することを目的としても、たびたび適応される。
フィルムコーティングにおいて、特に色の隠蔽や遮光等を目的として、顔料である酸化チタンをフィルム層中に配合することが多い。」
(段落【0002】、【0003】)

(2-3)「しかし、酸化チタンは無機物質でありそれ自身が非常に硬いため、フィルム層中の配合量がある一定以上であると、コーティングパンや貯蔵タンクの内壁と擦れて錠剤が黒ずんでしまい、商品価値を著しく損なうという問題がある。
これらの問題を解決するために、フィルム層の酸化チタンの配合量を減量しつつ被覆されるフィルム層を厚くする方法、可塑剤であるポリエチレングリコールの添加(牧野ら、薬剤学、Vol.54、No.1、1994)やポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールの添加(特開平9-2976)が提案されている。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、酸化チタンの配合量を減量する方法では、隠蔽能などを満足させるためにフィルム層を厚くする必要がある結果、崩壊遅延や工程時間の延長を招いてしまう。一方、ポリエチレングリコールやポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールを添加する方法では、錠剤中の配合成分などによっては添加できない場合もあり、実質的に上記問題を解決するには到っていない。
本発明の目的は、汎用性が高くかつ簡便なフィルムコーティング技術と、商品性の高いフィルムコーティング錠剤を提供することにある。」
(段落【0004】〜【0007】)

(2-4)「また、本発明の実施において、フィルム層には種々の添加剤を加えることもできる。添加剤としては、・・・・・ポリエチレングリコール、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、アセチルグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸トリエチルなどの可塑剤、その他フィルムコーティングで使用される一般的な添加剤を挙げることができる。」(段落【0013】)

(2-5)「<実施例1>ヒドロキシプロピルメチルセルロース100gを精製水に溶解し、酸化チタン35g、タルク7gを添加し十分に分散させ全量1420gのフィルム液を調製した。次にイブプロフェン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸マグネシウムからなり・・・の素錠1000gをパンコーティング装置・・・に投入し、錠剤を流動させながら上記フィルム液をスプレーし、水分を蒸発させることによりフィルムコーティングされた錠剤を得た。」(段落【0016】)

(2-6)「<実施例2>ヒドロキシプロピルメチルセルロース100gを精製水に溶解し、酸化チタン50g、タルク13gを添加し十分に分散させ全量1630gのフィルム液を調製した。実施例1と同様にして素錠にコーティングを行い、本発明の錠剤を得た。」(段落【0017】)

(2-7)「<実施例3>ヒドロキシプロピルメチルセルロース100gを精製水に溶解し、酸化チタン80g、タルク20gを添加し十分に分散させ全量2000gのフィルム液を調製した。実施例1と同様にして素錠にコーティングを行い、本発明の錠剤を得た。」(段落【0018】)

(2-8)「<比較例1>ヒドロキシプロピルメチルセルロース100gを精製水に溶解し、酸化チタン35gを添加し十分に分散させ全量1350gのフィルム液を調製した。実施例1と同様にして素錠にコーティングを行い、フィルムコーティングされた錠剤を得た。」(段落【0019】)

(2-9)「<比較例2>ヒドロキシプロピルメチルセルロース100gを精製水に溶解し、酸化チタン80g、タルク30gを添加し十分に分散させ全量2040gのフィルム液を調製した。実施例1と同様にして素錠にコーティングを行い、フィルムコーティングされた錠剤を得た。」(段落【0020】)

(2-10)「<比較例3>ヒドロキシプロピルメチルセルロース100gを精製水に溶解し、酸化チタン80g、タルク35gを添加し十分に分散させ全量2110gのフィルム液を調製した。実施例1と同様にして素錠にコーティングを行い、フィルムコーティングされた錠剤を得た。」(段落【0021】)

(3)甲第3号証:Tetrahedron Letters,(1989),Vo1.30,No.8,pp.959‐962

(3-1)「epalrestat(ONO-2235)」(第959頁 要約の項の第1行)

(3-2)「更に、ONO-2235は、暗所において安定であるにもかかわらず、溶液(メタノール、クロロホルム、アセトン)中においては室内光の照射においても非常にたやすく異性化して、4つの異性体となる。」(第961頁第5-7行)

(4)甲第4号証:特開昭57-40478号公報

(4-1)「一般式・・・・(I)
〔式中、R1とR2・・・・・・・を表す。〕
で示されるロダニン誘導体、及びR3が水素原子を表すときには、その酸の非毒性塩の少なくともひとつを有効成分とするアルドース還元酵素阻害剤。」(請求項38)

(4-2)「本発明は更に、その範囲の中に、一般式(I)で示されるロダニン誘導体、又はそれらの非毒性塩の少なくともひとつを有効成分として含有し、その他に薬剤学的に不活性な担体あるいは剤皮からなる薬剤組成物が含まれる。それらの薬剤組成物は、当業者によく知られた公知の方法により製造することができる。そのような例としては錠剤、・・・・等が挙げられる。」(第13頁左下欄第9-17行)

(4-3)「(35)3-カルボキシメチル-5-(α-メチルスチリルメチレン)ログニン
収率:64%
融点:・・・・・
NMR:・・・・
MS:・・・・・」(第18頁左下欄第16行-右下欄第3行)

(5)甲第5号証:「酸化チタン-物性と応用技術」(清野学著、1991年6月25日発行、発行所:技報堂出版株式会社)第2頁

(6)甲第6号証:特開平7-291629号公報

(7)甲第7号証:大塚昭信編 「製剤学」第2版、株式会社南江堂、1993年、第118〜119頁

(7-1)「e)錠剤のコーティング
圧縮形成された錠剤(素錠)の表面に適当な物質で剤皮をかけることをコーティング(Coating)という。」(第118頁「e)錠剤のコーティング」の項第1-3行)

(8)甲第8号証:西川製薬株式会社、西川康徳による実験成績証明書

(9)甲第9号証:島村修等訳、「炭素化合物の立体化学」第1版、株式会社東京化学同人、1974年、第392〜398頁

(10)甲第10号証:日本薬学会訳編、「医薬品添加物ハンドブック」、丸善株式会社、平成元年、第334〜340頁

(11)甲第11号証:信越化学、「日本薬局方ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910TC-5」パンフレット、2001年6月

(12)甲第12号証:西川製薬株式会社、西川康徳による2回めの実験成績証明書

(被請求人の提出した証拠)

(1)乙第1号証の1:広辞苑,第4版(岩波書店)1991年11月15日発行 第214頁

(2)乙第1号証の2:大辞林,第2版(三省堂)の「浮き出る」の項を採用しているインターネットサイト「GOO辞典」の浮き出るの項

(3)乙第2号証:「色彩管理の基礎と実際」(著者:平井敏夫)(発行者:岩本政和、1996年10月20日新版発行) 第46-49頁

(4)乙第3号証:医薬品製造指針2001(薬事審査研究会監修、株式会社じほう、平成13年9月30日発行) 第78-82頁

(5)乙第4号証:製剤学テキスト(東京広川書店、昭和63年11月1日発行)第281、287-296頁

(6)乙第5号証:医薬品添加物ハンドブック(丸善、平成元年3月30日発行) 第136-138頁

(7)乙第6号証:TC-5 TECHNICAL INFORMATION NO.T-19 (NOV. 1977) 信越化学編

6.対比・判断

(1)無効理由1(特許法第29条の2)について

A)請求項1について
(i)甲第1号証の実施例1〜4及び比較例1に記載された、主薬エパルレスタット(5-[(1Z,2E)-2-メチル-3-フェニル-2-プロペニリデン]-4-オキソ-2-チオキソ-3-チアゾリジン酢酸の一般名)を含有するコーティング錠のうち、実施例1〜3及び比較例1のコーティング液配合は、酸化チタンとヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、実施例4のコーティング液配合は、酸化チタンとタルクとヒドロキシプロピルメチルセルロースであるところ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは本件明細書段落【0025】にも記載されているようにフィルム基剤であり、タルクは滑沢剤等として知られているものであり、いずれも可塑剤でないことは明らかであるから、これらのコーティング液は、実質的に可塑剤を含んでいないものである。
(ii)そこで、本件請求項1の発明と甲第1号証の実施例1〜4及び比較例1に記載された発明とを比較すると、両者は、「5-[(1Z,2E)-2-メチル-3-フェニル-2-プロペニリデン]-4-オキソ-2-チオキソ-3-チアゾリジン酢酸を有効成分として含むコーティング製剤であって、酸化チタンを含み、実質的に可塑剤を含まないコーティング層が設けられていることを特徴とするコーティング製剤。」の点で一致する。
(iii)しかし、コーティング層中のフィルム基剤に対する酸化チタンの配合割合についてみると、後者において、コーティング液中のフィルム基剤に対する酸化チタンの配合割合(コーティング層中の配合割合に相当)は、実施例1、実施例2では、[酸化チタン3.0部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース7.0部]、実施例3では、[酸化チタン3.6部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース8.4部]であって、いづれも約43%、実施例4では、[酸化チタン2.4部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース8.4部]であって、29%であるのに対して、前者のコーティング層中のフィルム基剤に対する酸化チタンの配合割合が50〜100%であるから、両者は、コーティング層中のフィルム基剤に対する酸化チタンの配合割合の点で相違している。
また、前者のコーティング製剤の裸錠中には、結晶セルロースおよび/または乳糖が含まれないのに対して、後者の実施例1では、結晶セルロースが、実施例2乃至実施例4では乳糖が配合されている点でも相違している。

そして、甲第8号証及び甲第12号証は、上記判断に影響を与えるものではない。
したがって、本件請求項1の発明と甲第1号証の実施例1〜4及び比較例1に記載された発明とは同一発明であるということはできない。

B)請求項2〜4について
本件請求項2〜4の発明は、いずれも本件請求項1の発明において、その構成要件である「(2)酸化チタンを含み、可塑剤としてポリエチレングリコールを酸化チタンに対し10質量%以下含む」の「10質量%以下」を限定した発明であって、それ以外は、本件請求項1の発明の構成要件を全て充足するコーティング製剤の発明である。
したがって、本件請求項1の発明について述べた理由と同様の理由により、本件請求項2〜4の発明と甲第1号証の実施例1〜4及び比較例1に記載された発明とは同一発明であるということはできない。

(2)無効理由2(特許法第36条第6項第2号)について

請求人は、訂正前の本件請求項1における「結晶の色が製剤表面に浮き出ることがない」点について、発明の詳細な説明中に、具体的にどのような場合に、どのような状態になることを意味するのか明確に定義されておらず、その意味するところが不明確である旨を主張している。
しかし、上記「2.訂正請求について」のとおり、当該「結晶の色が製剤表面に浮き出ることがない」点は、「40℃、湿度80%下で1週間保存した後、分光測色計による色差値ΔEが7.01以下である」と訂正されたから、請求人の主張は当を得ないものとなった。

(3)無効理由3(特許法第29条第2項)について

A)請求項1について
甲第4号証の実施例に記載されている3-カルボキシメチル-5-(α-メチルスチリルメチレン)ロダニン(3.(4-3))は、本件請求項1の発明の有効成分である5-[(1Z,2E)-2-メチル-3-フェニル-2-プロペニリデン]-4-オキソ-2-チオキソ-3-チアゾリジン酢酸と同一物質である。甲第4号証には、また、当該物質を含有し、不活性な担体や剤皮(「コーティング」と同義 甲第7号証(3.(7-1))参照)を含む錠剤などの薬剤組成物を製造することが記載されている(3.(4-2))。

そこで、本件請求項1の発明と甲第4号証に記載された発明とを比較すると、
両者は、「5-[(1Z,2E)-2-メチル-3-フェニル-2-プロペニリデン]-4-オキソ-2-チオキソ-3-チアゾリジン酢酸を有効成分として含むコーティング製剤」である点で一致する。
しかし、本件請求項1の発明が、「(1)コーティング層中のフィルム基剤に対して50〜100質量%の酸化チタンを含み、実質的に可塑剤を含まない(ただし、裸錠中に結晶セルロースおよび/または乳糖を含む場合を除く。)か、あるいは(2)酸化チタンを含み、可塑剤としてポリエチレングリコールを酸化チタンに対し10質量%以下含むコーティング層が設けられていることを特徴とする40℃、湿度80%下で1週間保存した後、分光測色計による色差値ΔEが7.01以下である」コーティング製剤であって、加湿下、一定期間放置後も、結晶の色が製剤表面に浮き出ることがないコーティング製剤を提供することを解決課題としているのに対し、甲第4号証にはコーティング層について、「剤皮を設ける」と記載されているだけで、酸化チタン及び可塑剤について明示されておらず、まして、「40℃、湿度80%下で1週間保存した後、分光測色計による色差値ΔEが7.01以下である」コーティング製剤が記載されていないことは明らかである。また、甲第4号証には、当該有効成分を含むコーティング製剤には、加湿下、一定期間放置すると、有効成分の結晶の色が製剤表面に浮き出してくるという課題があることの示唆もない。
これらの点を、本件請求項1の発明と甲第4号証に記載された発明との相違点として検討するところ、甲第2号証には、酸化チタン及びタルクを配合したフィルム層でコーティングされたフィルムコーティング錠剤が記載(3.(2-1))され、その実施例2には、フィルム基剤としてのヒドロキシプロピルメチルセルロースに対し酸化チタン50%を含むコーティング層が、また、実施例3にはフィルム基剤としてのヒドロキシプロピルメチルセルロースに対し酸化チタン80%を含むコーティング層が示されている。
すなわち、甲第2号証に記載されたコーティング層は、「フィルム基剤に対して50〜100質量%の酸化チタン」を含み、「実質的に可塑剤を含ま」ないコーティング層であるから、該コーティング層は、本件請求項1の発明における「(1)コーティング層中のフィルム基剤に対して50〜100質量%の酸化チタンを含み、実質的に可塑剤を含まない」コーティング層に相当する。
しかし、甲第2号証には、このコーティング層が、5-[(1Z,2E)-2-メチル-3-フェニル-2-プロペニリデン]-4-オキソ-2-チオキソ-3-チアゾリジン酢酸という、特定の有効成分のコーティング製剤における前記した特有の課題の解決に有効であることを示唆する記載はない。
そうすると、甲第4号証の記載から、5-[(1Z,2E)-2-メチル-3-フェニル-2-プロペニリデン]-4-オキソ-2-チオキソ-3-チアゾリジン酢酸を有効成分として含むコーティング製剤が、加湿下、一定期間放置すると、有効成分の結晶の色が製剤表面に浮き出るという課題をまず認識すること、また、その課題の解決手段として甲第2号証のコーティング層に想到すること、さらに、「40℃、湿度80%下で1週間保存した後、分光測色計による色差値ΔEが7.01以下である」ものを選定することは当業者であっても容易になし得るものとは認められない。

そして、本件請求項1の発明は、前記のとおりの構成を有することによって、本件明細書段落【0017】に記載されているとおり、被膜が硬化して、ひび割れたり剥がれ落ちたりすることなく、製剤表面の黒ずみもなく、かつ有効成分化合物の結晶の色が加湿下の放置によっても製剤表面に浮き出ることのない、特に、「40℃、湿度80%下で1週間保存した後、分光測色計による色差値ΔEが7.01以下である」コーティング製剤を提供し得たものである。

また、甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証ないし甲第11号証は、上記判断に影響を与えるものではない。
したがって、本件請求項1の発明は、甲第2号証ないし甲第7号証、及び甲第9号証ないし甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

B)請求項2〜4について
本件請求項2〜4の発明は、いずれも本件請求項1の発明において、その構成要件である「(2)酸化チタンを含み、可塑剤としてポリエチレングリコールを酸化チタンに対し10質量%以下含む」の「10質量%以下」を限定した発明であって、それ以外は、本件請求項1の発明の構成要件を全て充足するコーティング製剤の発明である。
したがって、本件請求項1の発明について述べた理由と同様の理由により、本件請求項2〜4の発明は、甲第2号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

7.以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件請求項1〜4の発明の特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-07-28 
結審通知日 2005-08-04 
審決日 2005-08-18 
出願番号 特願2002-381935(P2002-381935)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (A61K)
P 1 113・ 121- Y (A61K)
P 1 113・ 161- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 倫世  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 吉住 和之
谷口 博
登録日 2004-05-28 
登録番号 特許第3558077号(P3558077)
発明の名称 コーティング製剤およびその製造方法  
代理人 林 篤史  
代理人 大家 邦久  
代理人 小澤 信彦  

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