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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04D
管理番号 1140511
審判番号 無効2005-80263  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-10-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-08-31 
確定日 2006-07-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3598102号発明「樋支持具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3598102号に係る発明は、平成14年3月28日に特許出願したものであって、平成16年9月17日に設定登録されたものであり、その後の平成17年8月31日に株式会社・野島角清製作所より特許無効の審判が請求され、平成17年10月28日に被請求人より答弁書が提出され、平成18年6月8日に第1回口頭審理が行われた。

本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下順に、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、願書に添付された明細書及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

(本件発明1)
「両端に樋装着部を設けた支持体と、基端に軒先装着部を設けると共に、先端を支持体中間部分に連結する取付体とで構成され、支持体の前後中間位置の上面において、支持体と一体である両側面間に架設した軸部に、取付体先端が支持体面との間隙に挿入できる揺動体を装着し、前記揺動体の軸装着部分の前後一方に、回動操作で下方に突出するカム状の止着体を軸結し、取付体の先端部分を、揺動体及び止着体の下方に前後移動可能に挿入し、止着体の回動操作で支持体と取付体の固定連結を行ってなることを特徴とする樋支持具。」
(本件発明2)
「揺動体を、側面を有する下方開口コの字状に形成すると共に、後端部分は箱形形状にして後端面を側面より下方に突出させ、前端部分は側面のみとして、側面部を有して下方開口コの字状に形成し、且つ上面板を延長して操作レバーに形成した止着体を、揺動体の枢結位置となる軸部の前方で揺動体に軸結し、前記止着体の両側面部端縁をカム形状とし、取付体先端部分に、揺動体の突出した後端面に対応すると共に、揺動体下方に挿入した際に止着体の両側面部の内側に位置することになる上方突条を、所定間隔で多数設けてなる請求項1記載の樋支持具。」
(本件発明3)
「先端樋装着部を樋前耳部への差込突部に形成し、基端樋装着部を樋後耳部の抱持部としてなる樋支持具において、前記抱持部を、樋後耳部を上方から後面に抱くように垂設した舌片部と、舌片部下方に前方付勢した抜け止め部とで構成してなる請求項1又は2記載の樋支持具。」
(本件発明4)
「抜け止め部を、舌片部に樋長手方向と平行に付設した横軸と、前記横軸に軸装した突出片部と、突出片部を下方が後退して上方が突出するように付勢した付勢部材とで構成した請求項3記載の樋支持具。」

2.請求人の主張
審判請求人は、本件発明の特許を無効とする、との審決を求め、審判請求書及び口頭審理陳述要領書によれば、次の理由及び証拠に基づいてその特許は無効とされるべきであると主張する。
(理由)
本件発明1〜4は、本件出願前に頒布された甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。

(証拠)
甲第1号証:本件特許第3598102号に係る特許原簿
甲第2号証:本件特許第3598102号公報
甲第3号証:特許第2981613号公報
甲第4号証:特開2001-98719号公報(なお、口頭審理において、審判請求書に記載された「特許第3370301号」の番号表記は、その公開公報の誤記であることが確認された。)

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め」(答弁の趣旨)、答弁書及び口頭審理陳述要領書によれば、次のように主張する。
本件発明1の固定操作する構造部分(止着体等)が支持体側に設けられている点及び揺動体とカム状止着体とによる一操作二点挟圧による固定手段(シーソー型リンク体挟圧構造)を用いた点が、甲第3号証及び甲第4号証に開示されていないから、本件発明1〜4は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、被請求人は、答弁書により次の証拠を提出している。
(証拠)
乙第1号証:特開平10-252230号公報

4.甲第3号証及び甲第4号証の記載事項等
(1)甲第3号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証(以下、「刊行物1」という。)には、「雨樋受金具」の発明に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】この種の屋根軒先に取り付けた雨樋の位置を軒先に対して接離調整することができる雨樋受金具としては色々なものがあるが、一般的には、樋を吊り下げ若しくは受支承する帯板状の雨樋受杆部と、軒先に固定される帯板状の取付杆部とから成り、この雨樋受杆部と取付杆部とをスライド自在に重合連結して、雨樋受杆部を取付杆部に対し雨樋受杆部に吊り下げ若しくは受支承した雨樋の幅方向にスライド調整自在に設け、このスライド重合部をボルト・ナットなどの螺着締め付け手段により位置決め固定するものであった。
【0003】しかしながら、このようなボルト・ナットなどの螺着締め付けによる調整固定構造では、現場(軒先)で軒先に等間隔を置いて複数並設状態に取り付けられる本金具のひとつひとつをねじ回しして緩めたり、締め付けたりして位置調整を行うため、非常に手間がかかり、作業性が今一つで簡易に位置調整することができないという問題があった。【0004】本発明者は、このような従来の調整式雨樋受金具の作業上の問題点に着目し、これを簡易な構成により解決するもので、スライド重合部の位置調整固定をワンタッチ操作で極めて容易に行うことができ、更に雨樋受金具自体も非常に高い耐久強度を発揮する画期的な雨樋受金具を提供するものである。」
(ロ)「【0005】
【課題を解決するための手段】添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0006】雨樋1を吊り下げ若しくは受支承する帯板状の雨樋受杆部2と、軒先に固定される帯板状の取付杆部3とから成り、この雨樋受杆部2と取付杆部3とをスライド自在に重合連結して、雨樋受杆部2を取付杆部3に対し雨樋受杆部2に吊り下げ若しくは受支承した雨樋1の幅方向にスライド調整自在に設けた雨樋受金具において、前記雨樋受杆部2側のスライド重合部4若しくは取付杆部3側のスライド重合部4にこのスライド重合部4のスライド方向に沿った長さを有する長孔などのガイド孔を設けることなく、この雨樋受杆部2側のスライド重合部4若しくは取付杆部3側のスライド重合部4のスライド方向に沿った両側部にガイド部8を立設状態に設け、この両側に立設するガイド部8をスライドガイドとしてスライド重合部4がスライド移動し得るように構成し、このスライド重合部4にこのスライド重合部4よりも高さのある両側壁部5A・5Bを備えた断面コ字状の被嵌体5をスライド重合部4の上方若しくは下方から被嵌し、この被嵌体5の両側壁部5A・5B間に取付軸6を架設し、この取付軸6に操作ハンドル7を回動自在に枢着し、この操作ハンドル7を回動することでスライド重合部4を圧接係止する圧接部7Aを操作ハンドル7に設け、この操作ハンドル7を回動して圧接部7Aがスライド重合部4を圧接すると、操作ハンドル7の圧接部7Aと前記被嵌体5とが前記スライド重合部4を挟持圧接係止してスライド重合部4のスライド移動が阻止され、且つこの状態から操作ハンドル7を反対方向に回動すると圧接部7Aによる圧接係止が解除されてスライド重合部4がスライド可能となるように構成したことを特徴とする雨樋受金具に係るものである。」
(ハ)「【0072】
【発明の効果】本発明は上述のように構成したから、従来のように厄介なねじ回し操作を要せずとも操作ハンドルのワンタッチ回動操作により雨樋受杆部を取付杆部に対して雨樋受杆部に吊り下げ若しくは受支承した雨樋の幅方向にスライド調整することも、所望の位置に位置決め固定することもでき、これにより軒先に対する雨樋の固定位置を極めて容易に接離調整することができる実用性に秀れた雨樋受金具となる上、この位置決めスライド調整構造を構成する構成部材が、被嵌体と,取付軸と,操作ハンドルとのわずか三点の部品で足りるため、組み立て作業効率が良く量産性に秀れ、安価な製品を提供できることになるなど極めて秀れた実用上の効果を発揮する画期的な雨樋受金具となる。
【0073】また、前記雨樋受杆部側のスライド重合部若しくは取付杆部側のスライド重合部に、このスライド重合部のスライドガイドとなるガイド孔を設けないから、スライド調整に際してスライド重合部の移動範囲がガイド孔による移動制約を受けず、それだけ調整移動範囲が拡大して実用的となる上、ガイド孔を設けない構成でありながら、スライド重合部のスライド移動は、雨樋受杆部側のスライド重合部若しくは取付杆部側のスライド重合部の両側に立設するガイド部によって確実に移動ガイドされてガタつかない状態で安定的にスライド移動することになり、しかも、ガイド孔を設けないだけ加工コストも掛からないし、前記雨樋受杆部側のスライド重合部若しくは取付杆部側のスライド重合部の強度落ちがなく秀れた耐久強度を発揮し、例えば積雪荷重による変形などを生じにくくなるなど極めて実用性に秀れた雨樋受金具となる。」

上記記載事項並びに図面に示された内容を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「雨樋1を吊り下げる帯板状の雨樋受杆部2と、軒先に固定される帯板状の取付杆部3とから成り、この雨樋受杆部2と取付杆部3とをスライド自在に重合連結して、雨樋受杆部2を取付杆部3に対し雨樋受杆部2に吊り下げ若しくは受支承した雨樋1の幅方向にスライド調整自在に設けた雨樋受金具において、前記雨樋受杆部2側のスライド重合部4若しくは取付杆部3側のスライド重合部4に、この雨樋受杆部2側のスライド重合部4若しくは取付杆部3側のスライド重合部4のスライド方向に沿った両側部にガイド部8を立設状態に設け、この両側に立設するガイド部8をスライドガイドとしてスライド重合部4がスライド移動し得るように構成し、このスライド重合部4に両側壁部5A・5Bを備えた断面コ字状の被嵌体5をスライド重合部4の上方若しくは下方から被嵌し、この被嵌体5の両側壁部5A・5B間に取付軸6を架設し、この取付軸6に操作ハンドル7を回動自在に枢着し、この操作ハンドル7を回動することでスライド重合部4を圧接係止する圧接部7Aを操作ハンドル7に設け、この操作ハンドル7を一方向へ回動すると操作ハンドル7の圧接部7Aと前記被嵌体5とが前記スライド重合部4を挟持圧接係止してスライド重合部4のスライド移動が阻止され、且つこの状態から操作ハンドル7を反対方向に回動すると圧接部7Aによる圧接係止が解除されてスライド重合部4がスライド可能となるように構成した雨樋受金具。」

(2)甲第4号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証(以下、「刊行物2」という。)には、「雨樋受金具」の発明に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】この種の屋根軒先に取り付けた雨樋の位置を軒先に対して接離調整することができる雨樋受金具としては色々なものがあるが、一般的には、樋を吊り下げ若しくは受支承する帯板状の雨樋受杆部と、軒先に固定される帯板状の取付杆部とから成り、この雨樋受杆部と取付杆部とをスライド自在に重合連結して、雨樋受杆部を取付杆部に対し雨樋受杆部に吊り下げ若しくは受支承した雨樋の幅方向にスライド調整自在に設け、このスライド重合部をボルト・ナットなどの螺着締め付け手段により位置決め固定するものであった。
【0003】しかしながら、このようなボルト・ナットなどの螺着締め付けによる調整固定構造では、現場(軒先)で軒先に等間隔を置いて複数並設状態に取り付けられる本金具のひとつひとつをねじ回しして緩めたり、締め付けたりして位置調整を行うため、非常に手間がかかり、作業性が今一つで簡易に位置調整することができないという問題があった。
【0004】本発明者は、このような従来の調整式雨樋受金具の作業上の問題点に着目し、これを簡易な構成により解決するもので、スライド重合部の位置調整固定をワンタッチ操作で極めて容易に行うことができる画期的な雨樋受金具を提供するものである。」(第3頁第1欄第68行〜第2欄第10行)
(ロ)「【0005】
【課題を解決するための手段】添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0006】雨樋1を吊り下げ若しくは受支承する帯状の雨樋受杆部2と、軒先に固定される帯状の取付杆部3とから成り、この雨樋受杆部2と取付杆部3とをスライド自在に重合連結して、雨樋受杆部2を取付杆部3に対し雨樋受杆部2に吊り下げ若しくは受支承する雨樋1の幅方向にスライド調整自在に設けた雨樋受金具において、前記雨樋受杆部2と前記取付杆部3とのスライド重合部4に、このスライド重合部4よりも高さのある両側壁部5A・5Bを備えた断面コ字状の被嵌体5をスライド重合部4の上方若しくは下方から被嵌し、この被嵌体5の両側壁部5A・5B間に取付軸6を架設し、この取付軸6に操作ハンドル7を回動自在に枢着し、この操作ハンドル7を回動することでスライド重合部4を圧接係止する圧接部7Aを操作ハンドル7に設け、この操作ハンドル7を回動して圧接部7Aがスライド重合部4を圧接すると、操作ハンドル7の圧接部7Aと前記被嵌体5とが前記スライド重合部4を挟持圧接係止してスライド重合部4のスライド移動が阻止され、且つこの状態から操作ハンドル7を反対方向に回動すると圧接部7Aによる圧接係止が解除されてスライド重合部4がスライド可能となるように構成したことを特徴とする雨樋受金具に係るものである。」
(ハ)「【0042】従って、本実施例では、前記雨樋受杆部2側のスライド重合部4若しくは取付杆部3側のスライド重合部4に、このスライド重合部4のスライドガイドとなるガイド孔を設けないから、スライド調整に際してスライド重合部4の移動範囲がガイド孔による移動制約を受けず、それだけ調整移動範囲が拡大するから実用的となる上、ガイド孔を設けない構成でありながら、スライド重合部4のスライド移動は、雨樋受杆部2側のスライド重合部4若しくは取付杆部3側のスライド重合部4の両側に立設するガイド部9によって確実に移動ガイドされてガタつかない状態で安定的にスライド移動することになる。
【0043】また、ガイド孔を設けないだけ前記雨樋受杆部2側のスライド重合部4若しくは取付杆部3側のスライド重合部4の強度落ちがなく秀れた耐久強度を発揮し、例えば積雪荷重による変形などを生じにくくなる上、加工コストも掛からないことになる。」

上記記載事項並びに図面に示された内容を総合すると、刊行物2には、上記した引用発明と同様の発明が記載されていると認められる。

5.当審の判断
5-1 本件発明1について
(1)対比
そこで、本件発明1と引用発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、引用発明における「雨樋1を吊り下げる帯板状の雨樋受杆部2」は本件発明1における「両端に樋装着部を設けた支持体」に、引用発明における「軒先に固定される帯板状の取付杆部3」は本件発明1における「基端に軒先装着部を設けると共に、先端を支持体中間部分に連結する取付体」に、引用発明における「雨樋受金具」は本件発明1における「樋支持具」に、それぞれ相当するといえる。
また、引用発明における「取付軸6に操作ハンドル7を回動自在に枢着し、この操作ハンドル7を回動することでスライド重合部4を圧接係止する圧接部7Aを操作ハンドル7に設け」、「この操作ハンドル7を一方向へ回動すると操作ハンドル7の圧接部7Aと前記被嵌体5とが前記スライド重合部4を挟持圧接係止してスライド重合部4のスライド移動が阻止され、且つこの状態から操作ハンドル7を反対方向に回動すると圧接部7Aによる圧接係止が解除されてスライド重合部4がスライド可能となるように構成した」点と、本件発明1における「支持体の前後中間位置の上面において、支持体と一体である両側面間に架設した軸部に、取付体先端が支持体面との間隙に挿入できる揺動体を装着し、前記揺動体の軸装着部分の前後一方に、回動操作で下方に突出するカム状の止着体を軸結し、取付体の先端部分を、揺動体及び止着体の下方に前後移動可能に挿入」した点とは、共に「回動操作で突出する圧接体を用いて支持体と取付体の固定連結を行ってなる」点で共通するといえる。

してみると、両者は、
「両端に樋装着部を設けた支持体と、基端に軒先装着部を設けると共に、先端を支持体中間部分に連結する取付体とで構成され、回動操作で突出する圧接体を用いて止着体の回動操作で支持体と取付体の固定連結を行ってなる樋支持具。」である点で一致し、次の点で相違するということができる。

(相違点1)支持体と取付体の固定連結を行うところの回動操作で突出する圧接体の配置態様に関して、本件発明1が(揺動体を介して)支持体側に設けられているのに対して、引用発明が、「被嵌体5」に設けているものの、当該「被嵌体5」が支持体と取付体のいずれの側に設けられているのかが必ずしも明らかでない点。
(相違点2)回動操作で突出する圧接体を用いて支持体と取付体の固定連結を行う構成に関して、本件発明が「支持体の前後中間位置の上面において、支持体と一体である両側面間に架設した軸部に、取付体先端が支持体面との間隙に挿入できる揺動体を装着し、前記揺動体の軸装着部分の前後一方に、回動操作で下方に突出するカム状の止着体を軸結し、取付体の先端部分を、揺動体及び止着体の下方に前後移動可能に挿入」するという構成(シーソー式の固定手段の構成)を採用しているのに対して、引用発明が、「取付軸6に操作ハンドル7を回動自在に枢着し、この操作ハンドル7を回動することでスライド重合部4を圧接係止する圧接部7Aを操作ハンドル7に設け」、「この操作ハンドル7を一方向へ回動すると操作ハンドル7の圧接部7Aと前記被嵌体5とが前記スライド重合部4を挟持圧接係止してスライド重合部4のスライド移動が阻止され、且つこの状態から操作ハンドル7を反対方向に回動すると圧接部7Aによる圧接係止が解除されてスライド重合部4がスライド可能となるように構成した」ものである点。

(2)相違点の検討
そこで、上記の相違点1及び2について検討する。

(相違点1について)
上記したように、引用発明における「被嵌体5」が、支持体と取付体のいずれの側に設けられているのかは必ずしも明らかでない(ちなみに、引用文献1に記載された実施例においては、「被嵌体5」は「取付杆部3」側(取付体側)に設けられている)。
しかしながら、支持体と取付体の固定連結を行うところの回動操作で突出する圧接体の取付位置は、支持体と取付体とのいずれか一方側に選択されるものであることが明らかである、いいかえれば、二者択一的な選択的事項であるといえる。
してみると、引用発明における圧接体の取付位置として、単に支持体側に設けるものと選択することは、当業者が適宜採用し得た設計的事項である。
(なお、引用発明の「圧接部7A」としてカム状の構成から成るものが含まれることは、刊行物1の実施例の記載事項からも明らかであって、「回動操作で突出する圧接体」自体の構成につき両者に実質的な相違がないことが明らかである。)

(相違点2について)
上記したように、回動操作で突出する圧接体を用いて支持体と取付体の固定連結を行う構成に関して、本件発明は、「支持体の前後中間位置の上面において、支持体と一体である両側面間に架設した軸部に、取付体先端が支持体面との間隙に挿入できる揺動体を装着し、前記揺動体の軸装着部分の前後一方に、回動操作で下方に突出するカム状の止着体を軸結し、取付体の先端部分を、揺動体及び止着体の下方に前後移動可能に挿入」するという構成(シーソー式の挟持構造を採用した固定手段の構成)を採用している。
そして、このような、支持体と一体である両側面間に架設した軸部に装着された揺動体に、さらに、当該揺動体の軸装着部分の前後一方に、回動操作で下方に突出するカム状の止着体を軸結して構成された固定手段の構成、いわゆるシーソー式の挟持構造を採用した固定手段の構成は、審判請求人が提出した証拠には何ら開示されていないし、また、当該固定手段の構成を示唆する記載も見出し得ない。
そして、このようなシーソー式の挟持構造を用いた固定手段が、本件特許の出願日前に当業者により周知ないし慣用の固定手段であったということもできない。
そうすると、このようなシーソー式の挟持構造を用いた固定手段は、審判請求人が提出した証拠によっては、本件特許出願日前に当業者により周知ないし公知の固定手段であったということができないのであるから、相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものということができない。

(3)まとめ
したがって、本件発明1は、甲第3号証及び甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができない。

5-2 本件発明2〜4について
本件発明2は本件発明1を引用する発明であり、また、本件発明3は本件発明1又は本件発明2を引用する発明であり、さらに、本件発明4は本件発明3を引用する発明である。
そうすると、本件発明2〜4は、上述したところの本件発明1の構成を全て含むとともに、さらに、請求項2ないし4に記載されたところの限定事項を、それぞれ加えたものということができる。
そして、本件発明1が甲第3号証及び甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができないことは、上述したとおりである。

してみると、本件発明1について説示したのと同様の理由から、本件発明2〜4は、甲第3号証及び甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができないことも明らかである。

6.むすび
以上のとおりであるから、審判請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1〜4に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、審判請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-13 
結審通知日 2006-06-15 
審決日 2006-06-21 
出願番号 特願2002-90318(P2002-90318)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E04D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 木原 裕
柴田 和雄
登録日 2004-09-17 
登録番号 特許第3598102号(P3598102)
発明の名称 樋支持具  
代理人 吉井 剛  
代理人 近藤 彰  
代理人 吉井 雅栄  

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