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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1141410
異議申立番号 異議2003-70906  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-05-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-09 
確定日 2006-08-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3333213号「プリオン病の検出方法」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3333213号の請求項1ないし11に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3333213号の請求項1ないし11に係る発明についての出願は、平成9年(1997年)4月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年4月3日、ヨーロッパ特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成14年7月26日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、請求項1ないし11に係る発明の特許について、特許異議申立人富士レビオ株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、平成16年8月6日付けで特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」、・・・という。)は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される発明であって、各項の記載は次のとおりである。
「【請求項1】異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体を使用して、生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出することを特徴とするプリオン病の検出方法。
【請求項2】該動物が哺乳類であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】該組織がリンパ系であることを特徴とする請求項1記載または2記載の方法。
【請求項4】該組織が扁桃であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】異常タンパクと正常タンパクとを識別することを特徴とする請求項1、2、3または4記載の方法。
【請求項6】該正常タンパクを除去することを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】該プリオン病を前臨床段階で検出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】請求項1〜7のいずれか1つに記載の異常タンパクの免疫学的検出方法を実施するためのプリオン病検出用試験キットであって、異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対して誘導した少なくとも1種の抗体を含むことを特徴とする試験キット。
【請求項9】酵素もしくは標識結合または非結合抗体をさらに含むことを特徴とする請求項8記載の試験キット。
【請求項10】ヒトおよび動物のプリオン病の診断に使用する、または動物起源生成物中の異常タンパクの検出に使用することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】ヒトおよび動物のプリオン病の診断に使用する、または動物起源生成物中の異常タンパクの検出に使用することを特徴とする請求項8または9記載の試験キット。」

3.取消理由の概要
当審が平成16年1月27日付けで通知した取消理由の概要は、次のようなものである。

「<引用刊行物>
刊行物1:Arch Virol(1993)134:pp.427-432(異議申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2:Vet Pathol 32:pp.299-308 (1995)(同じく甲第2号証)
刊行物3:THE JOURNAL OF INFECTIOUS DISEASES ,VOL.146,NO.5,NOVEMBER 1982,pp.657-664(同じく甲第3号証)

請求項1ないし11に係る発明は、上記刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」

4.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
「スクラピー発症前段階でのヒツジPrPScの検出および潜伏性感染の診断に対するその意義」と題する論文である刊行物1には、次の事項が記載されている。
(1a)要約(427頁中段)
「要約.自然発生型スクラピーに潜伏性感染した放牧ヒツジが、生検で得た末梢リンパ節内のPrPScのコア断片(PrPcore)の検出を通して、発症前段階に診断された。安楽死した32頭の健常ヒツジのうち3頭は、脾臓とリンパ節においてPrPcore陽性反応を示した。これらのヒツジのうち1頭の脾臓ホモジネートを接種したマウスは、スクラピーの臨床徴候をあらわし、脳標本においてPrPcoreに陽性反応を示した。これらの研究結果は、PrPcoreの検出が発症前段階のスクラピー診断に意義があることを示唆する。」
(1b)PrPcoreの検出(427頁下から16行〜428頁3行)
「宿主動物中での特定の免疫応答がないためにヒツジでのスクラピー診断のための免疫学的手順はいままで利用できなかった。結果として、この疾病の診断は臨床的観察および/または中枢神経系(CNS)組織病理学的試験に依存する。しかしながら、これらは、症状発現前には適用不可能である。
この疾病の進展は脳中での正常な膜糖タンパク質である PrPCのイソ型であるPrPSCの蓄積に密接に関連している[1、7、8]。PrPScのプロテイナーゼK抵抗性部分であるPrPScのコアフラグメント(PrPcore)は、CNSにおけると同様に脾臓およびリンパ節においてウエスタンブロットにより検出可能である[5]。マウスの実験的ケースにおいて、PrPcoreは、感染の初期段階で脾臓およびリンパ節で検出された[3、8]。イケガミその他は[5]、PrPcoreは、また症状の発現前6ヶ月に実験的に感染させたヒツジの生検リンパ節において存在することを観察し、PrPcore-検出は、症状発現前のヒツジにおけるスクラピーの診断に使用できることを提案した[5]。彼等はまた、明らかに健康で、スクラピー感染を示す証拠を示さない牧草地のヒツジからの剖験により観察される脾臓およびリンパ節において PrPcoreを検出した[5]。この研究において、我々は、PrPcoreの検出が、天然のスクラピーの症状発現前の段階での臨床的意義を有することを示す。」
(1c)ヒツジ標本、ウエスタンブロット分析(428頁4行〜429頁12行)
「散発的にスクラピーの発症が見られる北日本の複数の地域から、様々な目的で本大学農場に運ばれた36頭のヒツジが用いられた。ヒツジは全て健常と見られた。36頭中4頭は同じ牧場の2頭の雌親から生まれ、内1頭は死亡した(原因は不明)が、残り3頭は末梢リンパ節におけるPrPScの発現を監視するための生検用、および観察用として飼育した(表1、A群)。残り32頭のヒツジは様々な実験目的で用い、安楽死の際には、脳、脾臓、リンパ節をこの研究に供した(表1、B群)。B群のヒツジの雌親に関する情報はない。採取した組織は、使用するまで全て-85℃で保管した。
PrPScを効率よく取り出すために塩化ナトリウムと共にインキュベートした脾臓およびリンパ節抽出物を100000×gで遠心分離機にかけた以外は、以前に記述された方法[5]を用いて、各組織約200mgからヒツジのウエスタンブロット分析用標本を調製した。試験的感染させた後に、臨床徴候、組織病理学的検査、およびPrPcore検出に基づき感染を診断したヒツジの脳、脾臓およびリンパ節組織を陽性対照として用いた。屠殺ウシから得た同様の組織を、PrPcoreが存在しないことを確認後、陰性対照として用いた。以前に記述された方法[3]により、マウスの脳標本を調製した。
PrPcore検出のためSDS‐PAGEおよびウェスタンブロット分析を以前報告されたようにした[5]。ウサギの抗ヒツジPrP血情[5]およびウサギの抗合成ハムスターPrPペプチド血清[9]を1:5,000で希釈し、それぞれヒツジPrPcoreおよびマウスPrPcoreの一次抗体として使用した。1:2,000で希釈したセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG-ロバIgG(Amersham,英国)を、抗ヒツジおよび抗マウスPrPcore検出の二次抗体として使用した。ニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell,ドイツ)上のPrPcoreバンドを検出するため、ECL ウェスタンブロット検出システム(Amersham,英国)を用いた。」
(1d)マウスへの接種(429頁13行〜19行)
「以下の通り、特異的病原体に感染していない生後4週間のSIc/ICR系雌マウスにスクラピーを伝播させ、ヒツジ組織におけるスクラピー感染を証明した。第一研究として、それぞれが5匹のマウスからなる4群に対し、以前に記述された方法[6]で調製された10%組織ホモジネートを一匹当り20μl大脳内(i.c.)に接種した。第二研究として、それぞれが6匹のマウスからなる別の4群に対し、20%組織ホモジネートをi.c.に20μl、腹膜内(i.p.)に100〜200μl接種した。」
(1e)A群ヒツジにおける結果(429頁20行〜41行、表1、図1)
「ヒツジS1(A群)は意外にも生後10ヶ月目までに後部の協調運動障害およびうつを示したが、そう痒は見られなかった。したがって、生検は実施しなかったが、脳、脾臓、およびリンパ節については解剖後PrPcoreの存在を検査した。これら3臓器はPrPcore陽性であった(表1)。生後12ヶ月および15ヶ月の時点で、生検によりヒツジS2の腸骨下部リンパ節を採取した。これらのリンパ節ではPrPcoreは検出されなかった。しかしながら、そのヒツジは上述のように最後の生検から4ヵ月後の生後19ヶ月の時点で、感染の臨床症状を示した。生後21ヶ月の時点で安楽死させたが、3臓器の標本全てにPrPcoreが検出された(表1)。健常と見られるヒツジS3から生後12ヶ月目に生検で腸骨下部のリンパ節標本を採取したところ、15kDa、18kDaおよび23kDaのPrPcore特異バンドが見られた(図1A,レーン3;表1)。このヒツジは、ヒツジS1に生検から2ヵ月後の生後14ヶ月の時点で観察されたものと同じ兆候を示し、生後16ヶ月目に安楽死させた。このヒツジのCNS、脾臓、およびリンパ節にPrPcoreが検出された(図1B)。ヒツジS3の脾臓標本に・・・原フィルム上では明らかである。ヒツジS4は、ヒツジS2に初回生検を実施した際には、生後12ヶ月で妊娠していたため、生検を実施しなかった。生後15ヶ月目で採取したリンパ節はPrPcore陰性であった(図1A,レーン2;表1)。健常と見られたこのヒツジを、他の目的のため生後20ヶ月目に安楽死させたが、検査対象となった 3臓器はいずれもPrPcoreの特異的バンドを示さなかった(表1)。」
そして、428頁の表1と430頁の図1に、上記結果に対応した記載がある。
(1f)B群ヒツジにおける結果(429頁下から4行〜430頁下から4行、表1、図2)
「PrPcoreは、安楽死させられたB群のヒツジ32頭のうちの3頭に検出された(表1)。この群の29頭のPrPcore陰性ヒツジは、表1より割愛した。3頭のヒツジのうち2頭(D4とD5)から得られた脾臓およびリンパ節と残る1頭のヒツジ(D7)のリンパ節は、PrPcore陽性であったが、脳からは検出されなかった(表1)。PrPcore陽性のヒツジがスクラピーの潜伏期であったことを確認するために、ヒツジD4とD5の組織ホモジネートがマウスに接種された。伝播試験において、この両ヒツジの脳と脾臓から調製された10%ホモジネートをi.c.接種したマウスには、生存中に臨床徴候を示したものはなかった。マウスはすべて自然発生腫場または加齢により死亡した。伝播性の再試験において、マウスは同ヒツジの腰またはリンパ節の20%ホモジネートをi.c.およびi.p.接種された。ヒツジD4の脾臓ホモジネートを接種した2匹のマウスは、接種後18ヶ月で臨床徴候を示した。PrPcoreは、これらのマウスの脳に検出された(図2,レーンS)。ヒツジD4のリンパ節ホモジネートを接種した一匹のマウスもまた、接種18カ月後に運動失調を示した。しかしながら、海綿状変性の組織病理学的変化は観察されず(データは示していない)、PrPcoreはマウスの脳(図2,レーンL)からは検出されなかった。ヒツジD5の20%ホモジネートを接種した全マウスが、感染の臨床徴候を示さなかった。」
そして、428頁の表1と431頁の図2に、上記結果に対応した記載がある。
(1g)考察-1(430頁下から3行〜431頁9行)
「我々は、生検により得られる末梢リンパ節におけるPrPcoreの検出により症状発現前の段階で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認することができた。この結果は、天然のスクラピーの症状発現前の診断に対するPrPcoreの検出の意義を実証する。我々の知る限り、これは致死的方法を使用することなく天然のスクラピーを診断する最初のケースである。現在、ここで使用した生検法により多くのヒツジを取り扱うのは困難である。しかしながら、この診断法は、動物の繋殖には利用できる。潜行性の感染がある、繁殖のために維特されたメスヒツジの除去は、病原物質の広がりを制限する効果的な方法である。というのは、母系の伝播は、感染の重要なルートであると考えられているからである[2]。これら特定のメスヒツジは、1年に数回および/または分娩前に診断試験を実施することにより完全に締め出されるかもしれない。」
(1h)考察-2(431頁10行〜432頁3行)
「スクラピー感染げっ歯動物において、脳および脾臓を含むリンパ器官でのPrPScの蓄積は感染力の増加を遅延し、またPrPScの量は疾患発症直前に急増した[1、8]。PrPScの量が検出可能レベルまで増加するとき、げっ歯動物における感染価はほぼ最高に近づく[1、8 ]。ヒツジの末梢リンパ節でも同様かどうかは未だ明らかにされていない。仮にそうであるならば、疾患発症前にヒツジS2の生検で得たリンパ節において、PrPcoreが検出されなかった理由が説明できよう。
PrPcoreはヒツジD4とD5の脾臓とリンパ節から検出されたものの、ヒツジD4組織のホモジネートを接種したマウスのうち2匹しかスクラピーと確定診断されなかった。これは部分的に種の壁が原因で、これらのマウスのほぼすべてにおいて潜伏期間が寿命より長いと考えられる。接種材料として用いられたヒツジD4およびD5の脳ホモジネートが、PrPcoreバンドを示さなかったことから、これらの脳標本の感染価は、仮にあったとしても、脾臓とリンパ節の感染価よりはるかに低い感染価しか持たない可能性がある。20%ホモジネートを接種した数匹のマウスでは疾患が発生したが、10%のホモジネートでは発生しなかった。この結果は、10%ホモジネートの接種量が疾患を引き起こすにはあまりに低かったことを示唆する。D5標本を接種したマウスがPrPcoreを呈しなかったということもまた、接種材料中のスクラピー原因物質の量がマウスでスクラピーを引き起こすには不十分であったためと考えられる。」
(1i)まとめ(432頁4行〜7行)
「PrPcore検出は、罹患個体におけるPrPcoreの存在により特徴づけられる他のスクラピー様疾患、(例えばウシ海綿状脳症(BSE)[4])に適用できる診断方法である。PrPcoreの検出によるBSEの診断は、研究に値するであろう。」

(2)刊行物2
「天然スクラピーをもったヒツジ脳組織中のプリオンタンパク質の免疫組織化学的検出および所在確認」と題する論文である刊行物2には、次の事項が記載されている。
(2a)要約(299頁中段)
「要約. 正常な細胞プリオンタンパク(PrP)の転換型は、スクラピーのヒツジの脳に蓄積している。我々は、組織形態の十分な保存を提供するところの過ヨウ素酸塩-リジン-パラホルムアルデヒド-固定化脳組織中のスクラピー-関連PrP(PrPSc)を同定するために、免疫組織化学的方法を記述する。組織切片を蟻酸での前処理と水和オートクレーブ処理した後、天然スクラピーのヒツジ50頭の脳におけるPrPScの存在を、ヒツジPrPに対して生じさせた抗ペプチド抗血清を使用して調べた。スクラピーの組織病理学的兆候のないヒツジ20頭には、PrPが見られなかった。アミロイドに対して染色されなかったPrPScは、細胞質中と神経細胞並びに星細胞の両方の細胞膜に存在した。PrPScは脳の全領域のグリア性リッミタントの星細胞の細胞膜に蓄積されていたものの、大量のPrPScが延髄と脳橋の神経細胞の細胞膜に見られた。アミロイドに対して染色されたPrPScは、50頭の羊の内32頭(64%)の脳の血管の壁と脈管周囲に、主として視床に存在したが、脳橋あるいは延髄には存在しなかった。アミロイドに対して染色されるPrPScとアミロイドに対して染色されないPrPScとの間には、見かけ上の局所解剖学的関連性は存在しなかった。そして、PrPSc蓄積は神経細胞あるいは星細胞と関連していた。すべてのスクラピー罹患ヒツジにおいて、PrPScは空胞化のある脳領域に存在したが、極微の空洞あるいは空洞のない領域においてもまた検出されることがあった。我々は、PrPの免疫組織化学的検出がスクラピー診断において重要な確認試験になり得ると結論している。」
(2b)PrPScと正常PrP(299頁左欄14行〜同頁右欄8行)
「スクラピーに罹った動物の脳の細胞プリオンタンパク(PrP)の転換型の発見後、新たな診断法が実施可能になった。PrPのスクラピーイソ型(PrPSc)およびPrPの通常の細胞イソ型(PrPC)の両者は、同じ宿主遺伝子によってコードされ、一次構造での相異を示さない。1,24PrPScは、脳にずっと高い濃度で到達し、タンパク質分解に対し抵抗性である点で、PrPCと異なる。22スクラピーに罹患したヒツジの脳の抽出物において、PrPScはウェスタンブロットまたはPrPScの筋原線雑凝集物(スクラピー-関連筋原繊維)の電子顕微鏡提示により検出可能である。27,292つの技術はともに非固定組織を必要とし、また一般には研究室で実施されてきた。これとは対照的に、スクラピーに罹ったヒツジの固定化脳組織上でのPrPScの免疫組織化学的染色は、診断研究室でずっと容易に応用可能であった。」
(2c)使用する抗血清(300頁左欄5行〜30行)
「物質と方法
ペプチド合成およびペプチド抗血清
ヒツジのPrP由来の配列を有する5つのペプチドを合成した。ペプチドの合成は、Fmocアミノ酸を用いる記載された方法に従った。4,8,28ペプチドは、N‐末端およびC‐末端がそれぞれ、アセチル化およびアミド化された形で合成され、確立された方法に従ってm-マレイミド安息香酸-N-ヒドロキシコハク酸イミドエステル(Signoa,St.Louis,MO USA)を使用することによりアオガイヘモシアニンに結合させた。19免疫前血清を収集後、抗ペプチド抗血清は、ウサギ(R)をフロインドアジュバント中の以下の結合ペプチドlmgを用いて免疫することにより発生させた:ペプチドCSQWNKPSKPKTN(ヒツジPrP 100-111)を有するR505;ペプチドGQGGSHSQWNKPGG0(ヒツジPrP 94-105)を有するR521;ペプチドCGGRESQAYYQRGAS(ヒツジRrP 223-234)を有するR524;ペプチドCGNDYEDRYYRENMYRYPNQVYYRPVDRYSNQNN(ヒツジPrP 145-177)を有するR532;およびペプチドCGGLGGYMLGSAMSRPLIH(ヒツジPrP 126一143)を有するR568。抗血清は、確立された方法14によりスクラビーに罹患したヒツジの脳の部分的に精製されたPrPのウェスタンブロット上におけるPrP(未消化およびプロテイナーゼK処理後の両者)に対する特異性で確認した。抗ペプチド抗血清は、下記PrP免疫染色に記載した手順に従い、組織学的にスクラピ-陽性およびスクラビー陰性のヒツジの脳切片上で免疫組織化学的に試験された。」
(2d)抗ペプチド抗血清の使用結果(301頁左欄下から10行〜右欄3行)
「抗ペプチド抗血清の免疫組織化学的試験
全ての抗ペプチド抗血清は、組織学的に確認されたスクラピーに罹ったヒツジの脳中に同一の形の免疫標識を与えた。これらの抗血清は、PrP(プリオンタンパク)の5つの異なるエピトープに対するものであったので、全ての5つの抗血清と他のタンパク質との交差反応の可能性を除外できる。したがって、免疫標識はPrPとして分類された。組織学的にスクラピー陰性のヒツジの切片上には、いかなる抗血清との免疫染色も見られなかったので、我々は、この免疫標識をさらにPrPScとして定義した。抗ペプチド抗血清を免疫前血清で置き換えると、スクラピーに感染した脳切片には免疫染色が見られなかった。」

(3)刊行物3
「スクラピーウイルスを有するサフォークヒツジの天然感染」と題する1982年の論文である刊行物3には、次の事項が記載されている。
(3a)要約の部分(657頁上段)
「自然に感染したSuffolkヒツジにおけるウイルスの一時性分布を研究することによりスクラピーにおける感染プロセスを良く理解することを研究した。ウイルスは、(マウス接種により)まず臨床的に正常な仔ヒツジ(10〜14月齢)のリンパ組織および腸において検出された。タイターは、一般的には低かった。中枢神経系の感染は、まずその非神経組織が中程度の量のウイルスを有する25月齢の臨床的に正常なヒツジにおいて検出された。スクラピーでおかされたヒツジにおいて、非神経組織における同様な量は、中枢神経系において、顕著には最も重篤な神経組織学的変化の部位において高濃度を伴った。臨床的に正常な高リスクのヒツジ(54〜104月齢)にはウイルスは見出されなかった。扁桃、咽頭後方、および腸管膜門脈リンパ節、および腸管におけるウイルスの早期の出現は、一次感染が、栄養路を通して、あるいは羊膜液におけるウイルスから出生前にまたは汚染された環境におけるウイルスから出生後に起こることを示唆する。」
(3b)使用された動物および方法(657頁右欄5行〜658頁右欄2行)
「材料および方法
動物. 全てのヒツジは、テキサス州、Missionにあるスクラピー・フィールド・トライアルで米国農務省によって維持されている群れからSuffolksを購入した[6]。この群れは、共同連邦-州スクラピー根絶プログラムの規定に従って、Missionに連れてこられた種々の感染した農場からの群から集められた。3つのグループが研究された:(1)新生仔ヒツジを含む臨床的に正常な若いヒツジ(25月齢以下)、(2)臨床的に正常な年老いたヒツジ(54-104月齢)および(3)臨床的および神経組織学的に判断してスクラピーにかかったヒツジ(34-57月齢)。
検体の採取.ヒツジは、ベントバルビタール麻酔下放血により殺された。新生仔ヒツジは、凍結してMissionからモンタナ州ハミルトンのロッキー・マウンテン研究所に送られた。ここで解凍して、検体はウイルスの検出のために採取した。全ての老いたヒツジは、Missionで部検して、各ヒツジから35個までの検体を得た。脳脊髄液は大槽から、骨髄は肋骨の胸骨末端から、大便は遠位結腸から得た。唾液は、口から流れたときに集めた。全ての検体は、アンプル中にシールしてドライアイス中でMissionからロッキー・マウンテン研究所に輸送し、ここでウイルス検出のために処理するまで-65℃で貯蔵した。神経組織学的試験のための組織は、中性に緩衝した10%ホルマリン中およびホマリン-臭化アンモニウム中で固定し、それから処理して〔7〕に記載のとおり評価した。
ウイルスのアッセイ. 乳鉢および乳棒ならびに冷凍した遠心分離機を用いて、組織の10%懸濁液が、10%正常ウサギ血清または10%胎児ウシ血清および抗生物質(希釈剤ml当たりペニシリン100単位、ストレプトマイシン100μg、およびアンホテリシンB0.25μg)を含有する0.85%NaCl中で調製された。多くの検体について、これら10%懸濁液または非希釈体液中でのみウイルスを探した。(我々は、もしウイルスが存在すれば、そのような低濃度で実証できないことの証拠を有していない。)これらに、ウイルスが検出されたときには、-65℃に貯蔵した検体の連続10倍希釈で滴定を行った。ウイルスを含有する可能性の高い検体については、最初から連続10倍希釈を行った。全ての場合、希釈溶液の0.03mlを、エーテルでわずかに麻酔した10匹の雌のランダムに交配したスイスマウス(ロッキー・マウンテン研究所、21-23日齢)のそれぞれの大脳内に注射した。24ヶ月の観察期間中これらマウスにおける特徴的な進行性の神経学的疾患の発生を接種物におけるウイルスの証拠とみなした[8]。各希釈群におけるいくつかのマウスの臨床的評価は、スクラピーに罹ったマウスにおいて発生する特徴的な星状細胞増加を(Cajalの金昇華物技術により)実証するために脳の中央の矢状切片および脊髄の2つの横断切片の顕微鏡試験で補った。
組織30mg当たりのlog50%マウス大脳内致死投与量(MICLD50)として表される滴定エンドポイントは、・・・反復滴定は、通常±0.3log内のエンドポイントを与える。」
(3c)結果(658頁右欄3行〜661頁右欄14行、表1、2)
結果が、前臨床感染についての658頁右欄4行〜659頁左欄4行の次の記載:
「前臨床感染. Missionで生まれた臨床的に正常な若いヒツジはスクラピーウイルスによる前臨床感染の証拠のために色々な年齢で試験した。多くは、高リスク家族、すなわち、家系図において最近の3世代の少なくとも2世代において、親、子孫またはその両者においてスクラピーが生じた家族からである。6匹の仔ヒツジ(5匹は、雄ヒツジ、一匹は雌ヒツジ)は、誕生後すぐ犠牲にした。咽頭後方、肩甲骨前方、大腿前方または腸間膜リンパ節または胸腺、稗臓および回腸のどこにもウイルスは検出されなかった。雌親の初乳には、ウイルスは検出されなかったが、雌親の1匹だけが後にスクラピーで死んだ。2匹の3ヶ月齢の仔ヒツジ(1匹の雄および1匹の雌)は、同様に咽頭後方、肩甲骨前方、または腸間膜リンパ節または肩桃(口蓋)、腹臓および回腸にウイルスを有しなかった。これらの仔ヒツジの親は、スクラピーを有しないままであった。さらに、ウイルスは、7〜8ヶ月齢の8匹(2匹の雄および6匹の雌)のいずれにもウイルスは検出されなかった。どの雌親も病気にならなかったが、2匹の雄親が病気になった。
対照的に、ウイルスは、10-14ヶ月齢の15匹の仔ヒツジの8匹に検出された。全ての感染した仔ヒツジ(6匹の雄および2匹の雌)および他の4匹は、後にスクラピーに罷った雌ヒツジの子孫であった。この年齢で、ウイルスは、タイターが一般に低いリンパ組織および腸管でのみ見出された。これは、感染の初期の過程であったかもしれないので、ウイルスの組織分布が限られているときに、特にそうであった。特に注目すべきは、咽頭後方および腸間膜-門脈リンパ節および牌臓中に殆ど変わらずウイルスが存在したということである。
25ヶ月齢の3匹のヒツジのうちで、わずか1匹の雌ヒツジが感染した。その母親および他の雌ヒツジがスクラピーで死亡した。ウイルスは、回腸および近位の結腸に存在し、リンパ組織中に広く分布していた(表1)。この年齢で、ウイルスは、まずCNSに現れたが、その局所解剖学的分布は限られ、その濃度は低かった。髄質延髄は、ウイルスの2.3logMICLD50を有し、間脳は、0.7logMICLD50を有し、大脳皮質、中脳、および頚部脊髄素は有しなかった。脳中のそのように少量のウイルスは、スクラピーの神経組織学的変化を伴わなかった。」
を含めて記載されていると共に、659頁に「表1.臨床的に正常の若いSuffolkヒツジの非神経組織中におけるスクラピーウイルスの定量的分布」、660頁に「表2.自然スクラピーに罹ったSuffolkヒツジの非神経組織中におけるスクラピーウイルスの定量的分布」、そして661頁に「表3.自然スクラピーに罹ったSuffolkヒツジの神経組織中におけるスクラピーウイルスの定量的分布」として、実験結果がまとめられている。
そして、表1、2には、試験された非神経組織として、各種リンパ節と並んで「扁桃」が記載されている。

5.対比・判断
(1)本件発明1について
[刊行物1との対比]
刊行物1には、正常なタンパクではないPrPScのプロテアーゼK抵抗性部分であるPrPScのコアフラグメント(PrPcore)が、中枢神経系(CNS)におけると同様に、脾臓およびリンパ節でウエスタンブロットにより検出可能であり、ヒツジの生検リンパ節でのPrPcoreの観察で、PrPcore-検出が症状発現前のヒツジにおけるスクラピーの診断に使用できることが提案され(前記記載(1b)参照)、PrPcore検出のためのウェスタンブロットでは、ウサギの抗ヒツジPrP血清をヒツジPrPcoreの一次抗体とし、抗ヒツジPrPcoreを検出するための二次抗体として、酵素標識した抗ウサギIgG-ロバIgGを使用し(前記記載(1c)参照)、生検により得られる末梢リンパ節におけるPrPcoreの検出により症状発現前の段階で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認でき、この結果が致死的方法を使用することなく天然のスクラピーを診断する最初のケースであること(前記記載(1g)参照)が記載されている。そして、スクラピーはプリオン病の代表的なものであり、生検リンパ節は生存動物から標本調整可能な組織に他ならないから、刊行物1には、少なくとも1種の抗体を使用して、生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法が記載されている。
そこで、本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は下記のとおりである。

(一致点)
「少なくとも1種の抗体を使用して、生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法」である点。
(相違点)
本件発明1においては、抗体として「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体」を使用するのに対して、刊行物1には、このような抗体を使用することについては記載がない点。

上記相違点について検討するに、本件発明1において使用している「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体」は、本件明細書の上記抗体を作成するための「ペプチド合成および抗ペプチド抗血清」の項の記載(本件特許公報第10欄41行〜11欄末行参照)によれば、刊行物2に記載された抗体に他ならない(前記記載(2c)参照)。
そして、刊行物2には、該抗体が異常タンパクであるPrPScを未消化状態でもプロテアーゼK処理後であっても、ウエスタンブロット上で特異的に検出できることも記載されている(前記記載(2c)参照)し、さらに該抗体は、PrP(プリオンタンパク)の5つの異なるエピトープに対するものであって、全ての5つの抗血清と他のタンパク質との交差反応の可能性を除外できることが記載されている(前記記載(2d)参照)。
免疫反応を利用し抗原物質を検出する検出方法においては、使用する抗体が検出対象抗体のみと反応し、他の抗原物質と交差反応しないものがより好適であることは技術常識であるから、刊行物1記載のように、抗体を用いて生存動物から標本調整可能な組織中において異常タンパクを検出しようとする際に、異常タンパクのアミノ酸配列(一次構造)からエピトープを特定した上で形成され交差反応の可能性が除外できる刊行物2記載の抗体を使用してみるようなことは、当業者が容易になし得る事項である。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その効果についても予測される範囲内のものである。

[刊行物2との対比]
刊行物2には、ヒツジPrPに対して生じさせた抗ペプチド抗血清を使用してヒツジの脳におけるPrPScの存在を調べたことが記載されており(前記記載(2a)参照)、抗ペプチド抗血清が異常タンパクであるPrPScを未消化状態でもプロテアーゼK処理後であっても、ウエスタンブロット上で特異的に検出できることが記載され(前記記載(2c)参照)、さらに抗ペプチド抗血清は、PrP(プリオンタンパク)の5つの異なるエピトープに対するものであって、全ての5つの抗血清と他のタンパク質との交差反応の可能性を除外できることが記載されている(前記記載(2d)参照)。そして、刊行物2記載の抗ペプチド抗血清は、本件明細書の抗体を作成するための「ペプチド合成および抗ペプチド抗血清」の項の記載(本件特許公報第10欄41行〜11欄末行参照)を勘案すれば、本件発明1において使用されている「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体」と同じものであると認められる(前記記載(2c)参照)。
そこで、本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は下記のとおりである。

(一致点)
「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体を使用して、組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法」である点。
(相違点)
本件発明1の検出方法においては、異常タンパクの検出を「生存動物から標本調整可能な組織中」で行うのに対して、刊行物2の検出方法においては、殺された後のヒツジの脳から得られた組織中で行っている点。

上記相違点について検討するに、刊行物1には、正常なタンパクではないPrPScのプロテアーゼK抵抗性部分であるPrPScのコアフラグメント(PrPcore)が、中枢神経系(CNS)におけると同様に、脾臓およびリンパ節でウエスタンブロットにより検出可能であり、ヒツジの生検リンパ節でのPrPcoreの観察で、PrPcore-検出が症状発現前のヒツジにおけるスクラピーの診断に使用できることが提案され(前記記載(1b)参照)、PrPcore検出のためのウェスタンブロットでは、ウサギの抗ヒツジPrP血清をヒツジPrPcoreの一次抗体とし、抗ヒツジPrPcoreを検出するための二次抗体として、酵素標識した抗ウサギIgG-ロバIgGを使用し(前記記載(1c)参照)、生検により得られる末梢リンパ節におけるPrPcoreの検出により症状発現前の段階で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認でき、この結果が致死的方法を使用することなく天然のスクラピーを診断する最初のケースであること(前記記載(1g)参照)が記載されている。そして、スクラピーはプリオン病の代表的なものであり、生検リンパ節は生存動物から標本調整可能な組織であることから、刊行物1には、少なくとも1種の抗体を使用して、生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法が記載されているものと認められる。
刊行物1記載の方法も刊行物2記載の方法も、いずれも抗体を使用して組織中の異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法である点では共通しているものであるから、刊行物2記載の方法において、刊行物1に記載された、生検により得られる末梢リンパ節におけるPrPcoreの検出により症状発現前の段階でスクラピーに感染したヒツジを確認し、致死的方法を使用することなくスクラピーを診断するような方法を勘案して、生存動物から標本調整可能な組織中で異常タンパクを検出するような方法を試みることは、当業者であれば容易になし得ることである。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その効果についても予測される範囲内のものである。

(2)本件発明2、3について
刊行物1の対象動物は哺乳類であるし、記載された生検組織のリンパ節はリンパ系であるから、対象動物が哺乳類であることを特定する本件発明2、および生検組織がリンパ系であることを特定する本件発明3は、本件発明1と同様、刊行物1〜2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明4について
1982年の論文である刊行物3は、動物のプリオン病の原因がウイルスであることを前提として記載されているが、原因物質が存在しているか否かを採取組織の懸濁物をマウスの大脳に注射し神経学的疾患の発生が有るかないかで判断している手法は、原因物質が異常タンパクであることを認識した上で採用されている刊行物1の記載(前記記載(1d)、(1f)参照)にもみられるように、ウイルスが原因物質である場合のみに使用される方法ではないから、刊行物3の発行以降10年以上が経過し、刊行物1、2にもあるように原因がウイルスではなく異常タンパクであることが既に知られるようになっていた本件特許の優先権主張日当時の技術水準からみれば、各種の組織における原因物質の存在量を測定している刊行物3の記載は、原因物質が、リンパ節や脾臓と同じく、扁桃にも存在することを示していると理解できるものである。
そうすると、刊行物1記載のリンパ節や脾臓と同じように、扁桃も異常タンパクの検出対象する組織として選択することは、刊行物3に示唆されている。
したがって、本件発明4は、本件発明1についての上記(1)での検討をも勘案すれば、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明5〜7、10について
刊行物1記載の方法は、PrPcoreすなわち正常なPrPCではない異常タンパクのPrPScのプロテイナーゼK抵抗性部分であるPrPScのコアフラグメントを検出しているものである(前記記載(1b)参照)から、本件発明5のように異常タンパクと正常タンパクとを識別して検出するものである。
また、刊行物1、2の前記記載(1b)、(2b)にもある異常タンパクのプロテイナーゼK抵抗性や前記記載(2c)の該酵素処理後の検出からして、その性質の相違を利用して、本件発明6のように該正常タンパクを除去することも、必要に応じて当業者が適宜行うことにすぎない。
また、刊行物1記載の方法は、本件発明7のようにプリオン病を前臨床段階で検出する方法であるし、本件発明10のように動物のプリオン病の診断に使用できる、または動物起源生成物中の異常タンパクの検出に使用できることが教示されている方法である。
そうすると、本件発明5〜7、10は、本件発明1〜4と同様に、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明8、9、11について
さらに、抗体を使用する免疫学的検出方法においては、検出に必要な抗体を、酵素もしくは標識結合した抗体や非結合抗体の形で、使用する免疫学的検出方法に応じて含む試験キットの形で用意することが、常套手段にすぎないから、試験キットについての本件発明8、9および11も、格別の技術的創意を必要とするものではない。
そうすると、本件発明8、9、11は、本件発明1〜7と同様に、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)特許意見書における主張について
特許権者は、刊行物1について、その種々の試験結果の開示は明瞭でなくまた相反する試験結果も開示しているので、刊行物1が少なくとも1種の抗体を使用して、生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法を開示しているとは認められない旨、主張している。
その主張は、刊行物1の実験に用いられたヒツジについての前記記載(1c)に関して、まずA群のヒツジがすべてスクラピー病に罹患したものであることを前提とした上で、PrPcore検出結果の矛盾を指摘し、刊行物1記載の生検試験方法がスクラピーの存在、不存在に関係があるものとはいえないとするものである。
しかしながら、刊行物1の前記記載(1c)には「散発的にスクラピーの発症が見られる北日本の複数の地域から、様々な目的で本大学農場に運ばれた36頭のヒツジが用いられた。ヒツジは全て健常と見られた。36頭中4頭は同じ牧場の2頭の雌親から生まれ、内1頭は死亡した(原因は不明)が、残り3頭は末梢リンパ節におけるPrPScの発現を監視するための生検用、および観察用として飼育した(表1、A群)。残り32頭のヒツジは様々な実験目的で用い、安楽死の際には、脳、脾臓、リンパ節をこの研究に供した(表1、B群)。B群のヒツジの雌親に関する情報はない。」とあるだけで、実験に使用されたA群及びB群のヒツジがすべてスクラピー病に罹患したものであるとは記載されていないことから、A群の中にも罹患していないヒツジは存在し得るものであり、A群のヒツジがすべてスクラピー病に罹患したものであるとの誤った前提に基づく主張は認められない。
また特許権者は、B群のヒツジについて、脳にPrPcoreが検出されないのに、脾臓とリンパ節、あるいはリンパ節に検出されたヒツジが存在することは、スクラピー罹患ヒツジであれば脳に異常タンパクが高濃度に蓄積しているはずで、検出できない刊行物1の試験結果は信頼がおけないものであるし、マウスへの脳と脾臓の組織ホモジネートの接種結果も、スクラピー罹病の裏づけとなるものでもなく、刊行物1に開示の試験方法は、感染していないヒツジを感染していたと誤って判定したことになるなどと主張している。
しかしながら、PrPcoreは、感染初期段階では、マウスの経験に基づいた症状で、脾臓とリンパ節で検出されることが刊行物1以前に報告され(前記記載(1b)参照)、刊行物3にも、原因物質をウイルスと誤解している点はあるものの、「扁桃、咽頭後方、および腸管膜門脈リンパ節、および腸管におけるウイルスの早期の出現は、一次感染が、栄養路を通して、あるいは羊膜液におけるウイルスから出生前にまたは汚染された環境におけるウイルスから出生後に起こることを示唆する。」という教示がある(前記記載(3a)参照)。そして、刊行物1においては、疾患発症以前でヒツジS2でリンパ節陰性であったり、マウス接種結果がすべてのマウスにスクラピーを生じさせなかったことについても、種の壁や原因物質の接種量の少なさなどについて考察している(前記記載(1h)参照)から、スクラピー潜伏期であって発症していないB群のヒツジについての脳では陰性であったという試験結果をもって、刊行物1の「我々は、生検により得られる末梢リンパ節におけるPrPcoreの検出により症状発現前の段階で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認することができた。」という知見記載(前記記載(1g)参照)を、特許権者が主張するように誤りであると解釈すべき根拠とすることはできない。
また特許権者は、刊行物2記載の「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体」を刊行物1記載の方法に適用する動機付けがない旨主張しているが、免疫反応を利用し抗原物質を検出する検出方法においては、使用する抗体が検出対象抗体のみと反応し、他の抗原物質と交差反応しないものがより好適であることは技術常識であるから、刊行物1記載のように、抗体を用いて生存動物から標本調整可能な組織中において異常タンパクを検出しようとする際に、異常タンパクのアミノ酸配列(一次構造)からエピトープを特定した上で形成され交差反応の可能性が除外できる刊行物2記載の抗体を使用してみるようなことは、当業者であれば容易に想到できるものである。なお、刊行物2における免疫組織化学的方法とウエスタンブロット法との感度等の相違を指摘する主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
さらに特許権者は、刊行物3はウイルス感染試験に関するものであって、免疫学的検出方法の改良方法を示唆するものではないと主張しているが、刊行物3の記載については上記(3)においても検討したとおり、本件特許の優先権主張日当時の技術水準からみれば、スクラピーの原因物質が、リンパ節や脾臓と同じく、扁桃にも存在することを教示していると理解できるものである。
したがって、特許権者の上記の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-12-07 
出願番号 特願平9-535157
審決分類 P 1 651・ 121- Z (G01N)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山村 祥子  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 菊井 広行
秋月 美紀子
登録日 2002-07-26 
登録番号 特許第3333213号(P3333213)
権利者 スティヒティング インスティチュート フォール ディールハウデレイ エン ディールゲゾントヘイト
発明の名称 プリオン病の検出方法  
代理人 藤田 節  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 大屋 憲一  
代理人 杉山 毅至  
代理人 平木 祐輔  
代理人 廣瀬 峰太郎  
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