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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01C
管理番号 1142608
審判番号 不服2003-6023  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-09-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-10 
確定日 2006-08-25 
事件の表示 平成 8年特許願第 39815号「稲病害の省力防除方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 2日出願公開、特開平 9-224423〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年2月27日に出願された特許出願であって、平成15年3月5日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年4月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年5月8日付で手続補正がなされたものである。

2.平成15年5月8日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年5月8日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「種子消毒剤による処理を受けてない種籾を水に浸種させ、催芽させ、その催芽した種籾を、有効成分としてペンタ-4-エニル-N-フルフリル-N-イミダゾール-1-イルカルボニル-DL-ホモアラニナートを含有する稲用種子消毒剤の薬液で吹き付け処理し、その後、その吹付け処理された催芽した種籾を育苗箱に播種し、覆土し、さらに出芽させることを特徴とする、種子消毒剤廃液を出さない省力効果をもつ種子伝染性稲病害の防除方法。」と補正された。
上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、即ち、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するかについて以下に検討する。

(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-194119号公報(以下、「引用例1」という。)には、「稲病害の省力防除方法」に関し、次の事項が記載されている。
(イ)「【特許請求の範囲】【請求項1】 2-〔(4-クロロフェニル)メチル〕-5-(1-メチルエチル)-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル)-シクロペンタノールを、育苗箱に播種直後、覆土前の種籾に散布するか、あるいは播種した育苗培土中に灌注し、覆土することを特徴とする、稲病害の省力防除方法。」
(ロ)「【0002】【従来の技術】これまで、さまざまな種子消毒剤が開発され、使用されている。これらの薬剤による種子消毒方法は、後記試験例にも示したような、稲の種籾を薬剤の希釈液に浸漬するか、水和剤などの粉状薬剤を種籾に粉衣するなどが一般的である。一方、本発明で用いるところの2-〔(4-クロロフェニル)メチル〕-5-(1-メチルエチル)-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル)-シクロペンタノール(以下、「化合物A」という)が、稲の種子消毒剤として有効であることが知られている(平成3年度日本農薬学会第16回講演要旨集第148頁〜第149頁、特開昭62-149667号)。」
(ハ)「【0005】【発明が解決しようとする課題】従来、稲の種子伝染性病害を防除するには、種子を薬液中に浸漬したり、種子に薬剤を粉衣するなどの種子消毒が広く行われているが、一般に種子消毒は種籾を一定時間薬液に浸漬するか、薬剤を粉衣した後風乾し、つづいて停滞水で浸種する必要があるなど、作業が煩雑であり時間がかかる。そのため稲栽培における省力化の一環として共同育苗が広く行われているが、種子消毒で使用される薬液量が多く、その廃液には環境汚染防止のために石灰などを添加して処理することが必要である。したがって、従来の種子消毒法に替わり、より省力的な種子消毒方法の確立が望まれている。」
(ニ)「【0007】【発明の構成】【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した。その結果、種籾を従来のような浸漬、粉衣、吹付けなどの作業を行わずに、常法により育苗箱(縦×横×高=60cm×30cm×3cm)に播種し、その直後に化合物Aを有効成分とする薬剤を種籾表面に散布するか、あるいは播種した育苗培土中に灌注し、覆土することにより、種子伝染性病害および立枯性病害を有効に防除できることを見出した。すなわち、播種直後のハト胸状態の種籾の上から育苗箱1箱当りの量に換算して化合物A1.5mg〜1500mgを含有する溶液を、20ml〜200ml宛散布するか、あるいは200ml〜2000ml宛を播種した育苗培土中に灌注し、覆土することによって、従来の種子伝染性病害および苗立枯性土壌病害の種子消毒方法による場合と同等以上の種子消毒効果が発揮され、高い防除効果が得られることを見出した。また、本発明の散布処理方法あるいは灌注処理方法によれば、稲に薬害を与えることもなく、また従来の種子消毒に比べて薬液の浸漬、風乾などの作業も不要であり、これまでの種子消毒のように消毒液の残液が残らないため廃液処理も不要であるなど、作業が省力化されることを見出した。」
(ホ)「【0020】【試験例】試験例1 稲馬鹿苗病に対する効果
稲馬鹿苗病罹病籾〔品種「初星」の種籾;罹病籾率48%、罹病籾におけるベンズイミダゾール系薬剤耐性菌比率63%〕を20℃で4日間水に浸種し、水を切って32℃で一夜催芽処理し、ハト胸状を呈する種籾を育苗箱の1箱(縦×横×高さ=60cm×30cm×3cm)当り乾籾換算で150g宛播種した。播種後、自動散布装置(使用ノズル:フラットファンノズルSS 8806)を用い実施例に準じて調製した水和剤を所定濃度に希釈し、育苗箱の1箱当り50ml宛散布した。また、灌注区は市販のじょうろで1箱当り500ml宛灌注した。散布後は覆土し、32℃で2日間出芽処理し、出芽後2日間温室内の寒冷紗で遮光し半日陰とした所におき、その後は寒冷紗を除去し通常の栽培管理をした。」
これらの記載によれば、引用例1には、
「種籾を、従来のような浸漬、粉衣、吹付けなどの種子消毒の作業を行わずに、水に浸種し、一夜催芽処理した種籾を育苗箱に播種し、2-〔(4-クロロフェニル)メチル〕-5-(1-メチルエチル)-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル)-シクロペンタノールを有効成分とする薬剤を種籾表面に散布するか、あるいは播種した育苗培土中に灌注し、覆土し、出芽処理させるようにして、これまでの種子消毒のように消毒液の残液が残らないため廃液処理も不要である稲病害の省力防除方法」(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-193807号公報(以下、「引用例2」という。)には、「農園芸用殺菌剤」に関し、次の事項が記載されている。
(ヘ)「2.特許請求の範囲
有効成分としてペンタ-4-エニル-N-フルフリル-N-イミダゾール-1-イルカルボニル-DL-ホモアラニナートと銅殺菌剤とを含有する農園芸用殺菌剤。」(1頁左下欄4〜7行)
(ト)「(産業上の利用分野)
本発明は稲、麦、野菜、果樹などの各種作物の種子または茎葉部に寄生して農業上多大な被害をもたらす有害微生物の防除に有用な農園芸用殺菌剤に関する。詳しくは式(I)…で表されるペンター4-エニル-N-フルフリル-N-イミタゾール-1-イルカルボニル-DL-ホモアラニナートと銅殺菌剤とを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤に関する。」(1頁左下欄9行〜右下欄3行)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「従来のような浸漬、粉衣、吹付けなどの種子消毒の作業を行わ」ない「種籾」は、本願補正発明の「種子消毒剤による処理を受けてない種籾」に相当し、引用発明の「薬剤」は、本願補正発明の「稲用種子消毒剤」に相当する。また、本願補正発明と引用発明は、催芽した種籾を稲用種子消毒剤で処理した後、覆土する点において共通する。さらに、引用発明が、これまでの種子消毒のように消毒液の残液が残らないため廃液処理も不要である稲病害の省力防除方法であることから、引用発明が種子消毒剤廃液を出さない省力効果をもつことは明らかである。
そうすると、両者は、
「種子消毒剤による処理を受けてない種籾を水に浸種させ、催芽させ、その催芽した種籾を稲用種子消毒剤で処理した後に、覆土し、さらに出芽させることを特徴とする、種子消毒剤廃液を出さない省力効果をもつ種子伝染性稲病害の防除方法。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明では、稲用種子消毒剤の有効成分がペンター4-エニル-N-フルフリル-N-イミタゾール-1-イルカルボニル-DL-ホモアラニナートであるに対して、引用発明では、2-〔(4-クロロフェニル)メチル〕-5-(1-メチルエチル)-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル)-シクロペンタノールである点。

[相違点2]
本願補正発明は、催芽した種籾を稲用種子消毒剤の薬液で吹き付け処理し、その後、その吹付け処理された催芽した種籾を育苗箱に播種し、覆土するのに対して、引用発明は、催芽した種籾を育苗箱に播種し、その後、稲用種子消毒剤で処理し、覆土する点。

(4)判断
[相違点1]について
引用例2には、稲を含む各種作物の種子の消毒剤として、ペンター4-エニル-N-フルフリル-N-イミタゾール-1-イルカルボニル-DL-ホモアラニナートを有効成分として含有するものが記載されており、しかも、引用発明と引用例2に記載の技術事項は、防除ないし殺菌という同一の技術分野に属するものであるから、引用発明において、消毒剤として、引用例2に記載の有効成分を有する消毒剤を採用することは、当業者であれば、容易に想到し得ることである。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明に引用例2に記載の技術事項を適用して、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

[相違点2]について
本願明細書段落【0002】には、「従来、稲の種子伝染性病害の種子消毒は、…(2)浸種後消毒法と称される方法、すなわち、乾籾を流水あるいは停滞水中に浸種し、その後、薬液中に一定時間浸漬するか、またはその種籾に薬剤を粉衣する方法が用いられている。」と記載されている他、例えば、特開昭63-126429号公報に記載されるように(2頁左下欄及び右下欄参照)、浸種処理した後に消毒処理を行うことは、周知技術である。これらの記載において、消毒処理が催芽の前であるのか後であるのかにつき明示はないものの、浸種処理中にも催芽は開始され、催芽前に消毒処理することの方が(短時間で処理を行わなければならないという点で)、より精緻な処理が要求されることに鑑みれば、消毒は催芽後になされると考えるのが自然である。また、消毒処理した後の種籾を育苗箱に播種し、覆土することは、自明のことといえる。そうすると、催芽した種籾を稲用種子消毒剤で処理し、その後、その処理された催芽した種籾を育苗箱に播種し、覆土するという工程については、周知の消毒工程であるといえるから、引用発明における播種後の消毒に替えて、浸種処理した後であって播種前である周知の消毒工程を採用することは、当業者であれば格別困難なことではない。
さらに、種籾の消毒手法として吹き付け処理についても、例えば特開平5-58812号公報、特開平5-339104号公報及び特開平6-256112号公報にみられるように浸種前消毒法において周知の消毒手法であるといえる。また、このように浸種前消毒法において周知である吹き付け処理を浸種後消毒法においても採用することに特段の阻害要因も存在せず、また、これを採用することにより得られる作用効果は廃液を出さないという当業者が普通に予測し得るものであることに鑑みれば、浸種後消毒法において、これを採用してみようという動機付けは充分にあるものといえる。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明に周知の消毒工程及び周知の消毒手法を適用して、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成15年5月8日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年9月2日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「育苗箱に播種する直前の催芽した種籾を、有効成分としてペンタ-4-エニル-N-フルフリル-N-イミダゾール-1-イルカルボニル-DL-ホモアラニナートを含有する稲用種子消毒剤の薬液で吹き付け処理し、その後、その処理された種籾を育苗箱に播種し、覆土することを特徴とする、稲病害の省力防除方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明を特定するために必要な事項である限定事項の一部を削除したものである。してみると、本願発明を特定するために必要な事項を全て含み、さらに限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(3)、(4)に記載したとおり、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-22 
結審通知日 2006-06-28 
審決日 2006-07-11 
出願番号 特願平8-39815
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01C)
P 1 8・ 575- Z (A01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 隆彦関根 裕  
特許庁審判長 安藤 勝治
特許庁審判官 西田 秀彦
柴田 和雄
発明の名称 稲病害の省力防除方法  
代理人 森田 哲二  
代理人 浜野 孝雄  
代理人 浜野 孝雄  
代理人 森田 哲二  

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