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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1142621
審判番号 不服2003-22499  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-20 
確定日 2006-08-25 
事件の表示 平成 9年特許願第 78837号「透析器接続用カプラー」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月22日出願公開、特開平10-248924号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年3月13日の出願であって、平成15年10月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年11月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月17日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成15年12月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年12月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「血液透析器の透析液用プラグとの密着部位をその内腔に有した連結管と、該連結管を被覆するように設けられ、連結管内に透析液用プラグを狭持する位置から両者を開放する位置の間を摺動可能なスリーブからなり、前記透析液用プラグ先端が連結管と当接する部位に環状のシール材が配設され、かつ環状のシール材が前記連結管内壁に段部および該段部の内壁に対して水平方向に連接されて形成された凹部にその一部を嵌合されて固定されていることを特徴とするボールベアリング式透析器接続用カプラー。」
と補正された。(下線は補正箇所を示す。)
上記補正は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「シール材」について「環状の」との限定を付加するとともに、「かつ環状のシール材が前記連結管内壁に段部および該段部の内壁に対して水平方向に連接されて形成された凹部にその一部を嵌合されて固定され」との限定を付加し、「透析器接続用カプラー」について「ボールベアリング式」との限定を付加したものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した特開平9-51945号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「血液浄化器の継手管部と浄化液の供給ないし排出を行う浄化液チューブとを接続するカプラにおいて、前記血液浄化器の使用時と洗浄ないし消毒時とのシール位置を異なるように構成することを特徴とする血液浄化器用カプラ。」(特許請求の範囲の請求項1)
(b)「本発明は、血液透析等の血液浄化を行う血液浄化器における透析液ないし濾液等の浄化液側の継手管部の改良に係り、特にこの継手管部を構成する接続、分離可能なカプラ・・・(中略)・・・に関するものである。」(段落【0001】)
(c)「図1に示す本発明に係るカプラ50は、一端に浄化液チューブを接続するためのチューブ接続端52を備えた第1のカプラ分割体50aと、他端側を継手管接続部54とし、前記カプラ分割体50aとの結合部に段部56を形成して、ここに第1のシール部材としての断面山形の環状シール部材58を嵌挿すると共にボールロック機構20を設け、さらに前記シール部材58とボールロック機構20との間に第2のシール部材としてのシールリング59を装着してなる第2のカプラ分割体50bとから構成されている。
なお、前記ボールロック機構20は、前記第2のカプラ分割体50bに対して、従来と同様に、複数のロック用ボール22と、このボール22のロック操作を行うためのスリーブ24と、このスリーブ24を弾力的に保持するコイルスプリング26と、前記スリーブ24を所定位置に係止するためのストッパ28とからなる構成として設けられている。
このようにして、本実施例に係るカプラ50は、前記第1のカプラ分割体50aと第2のカプラ分割体50bとをねじ結合によって結合する際に、その結合段部56において、シール部材58を挾持固定することができる。
従って、前記構成からなる本実施例のカプラ50によれば、血液浄化器(図示せず)の継手管部30との接続に際しては、図3の(a)に示すように、その先端部32がシール部材58に当接する位置まで挿入することができると共に、係止溝部34にボールロック機構20のボール22が嵌入係止して、浄化液チューブと血液浄化器とは、カプラ50を介して相互に液密に連通接続することができる。」(段落【0034】〜【0037】)
(d)「図9の(a)に示す本発明に係るカプラ50は、その基本構成において、図1に示すカプラ50と同一である。しかるに、本実施例に係るカプラ50は、一端に浄化液チューブを接続するためのチューブ接続端52を備えた第1のカプラ分割体50aと、他端側を継手管接続部54とし、前記カプラ分割体50aとの結合部に段部56を形成して、ここに第1のシール部材としての断面山形の環状シール部材58を嵌挿すると共にボールロック機構20を設け、さらに前記ボールロック機構20のボール22の継手管部挿通面側にパッキン66を被着してなる第2のカプラ分割体50bとから構成されている。その他の構成は、図1に示すカプラ50の構成と同一である。」(段落【0050】)
(e)「血液浄化器の継手管部30との接続に際しては、図11の(a)に示すように、その先端部32がシール部材58に当接する位置まで挿入することができると共に、係止溝部34にボールロック機構20のボール22がパッキン66を介して嵌入係止し、浄化液チューブと血液浄化器とは、カプラ50を介して相互に液密に連通接続することができる。」(段落【0051】)
(f)また、前記(c)に摘記した事項によれば、ボールロック機構20は、従来と同様のものであり、引用例には、従来の技術におけるボールロック機構20について、「このように構成されたカプラ10は、前記継手管接続部14を血液浄化器の継手管部に接続する場合、例えば図23に示すように、前記スリーブ24をスプリング26の弾力に抗して後退(図22において左方向に移動)させることにより、ボール22のロック状態が解除されて、継手管部30の挿入を許容し、その先端部32がO-リング18等に接する位置まで挿入することができる。
そこで、前記スリーブ24を手放すと、スプリング26の弾力によりストッパ28の位置まで前進(図22において右方向に移動)し、この時ボール22は継手管部30の係止溝部34に嵌入した状態でロックされる(図23参照)。」(段落【0004】〜【0005】)と記載されている。この記載事項及び図9に図示された構造からみて、スリーブ24は、「カプラ50を被覆するように設けられ、カプラ50内に継手管部30を狭持する位置から両者を開放する位置の間を摺動可能」であるということができる。
(g)また、図9(a)には、断面山形の環状シール部材58を段部56に嵌挿した態様が図示されており、この図によれば、断面山形の環状シール部材58とは、円筒部と、該円筒部の先端方向端部に設けられた第1円盤部と、前記円筒部の基端方向端部に設けられた第2円盤部とからなる断面U字状の環状シール部材58を意味するものと解される。
(h)さらに、図9(a)には、環状シール部材58の第1円盤部が、第2のカプラ分割体50bに形成された段部56および該段部56の内壁に対して水平方向に連接されて形成された凹部にその一部を嵌挿されている態様が図示され、また、第1のカプラ分割体50aと第2のカプラ分割体とをねじ結合することによって、環状シール部材58の第2円盤部が、第1のカプラ分割体50aと第2のカプラ分割体50bとに挟持されてカプラ50の内壁に固定されている態様が図示されている。
(i)また、図11(a)には、継手管部30の先端部32が環状シール部材58の第1円盤部に当接して、カプラ50の内腔に「密着部位」が形成されている態様が図示されている。

これらの事項を総合すると、引用例には、
「血液浄化器の継手管部30との密着部位をその内腔に有したカプラ50と、該カプラ50を被覆するように設けられ、カプラ50内に継手管部30を狭持する位置から両者を開放する位置の間を摺動可能なスリーブ24からなり、前記継手管部30の先端部32がカプラ50と当接する部位に環状シール部材58が配設され、かつ環状シール部材58が段部56および該段部56の内壁に対して水平方向に連接されて形成された凹部にその一部を嵌挿され、他の部分で前記カプラ50内壁に固定されている血液浄化器用カプラ。」の発明(以下、「引用発明」という。)
が記載されていると認めることができる。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者における「血液浄化器」は、その機能又は作用からみて、前者における「血液透析器」に相当し、以下同様に、「継手管部30」が「透析液用プラグ」に、「カプラ50」が「連結管」に、「スリーブ24」が「スリーブ」に、「継手管部30の先端部32」が「透析液用プラグ先端」に、「環状シール部材58」が「環状のシール材」に、「段部56」が「段部」に、「嵌挿されて」が「嵌合されて」に、「血液浄化器用カプラ」が「ボールベアリング式透析器接続用カプラー」に、それぞれ相当する。

してみると、本願補正発明と引用発明とは、
「血液透析器の透析液用プラグとの密着部位をその内腔に有した連結管と、該連結管を被覆するように設けられ、連結管内に透析液用プラグを狭持する位置から両者を開放する位置の間を摺動可能なスリーブからなり、前記透析液用プラグ先端が連結管と当接する部位に環状のシール材が配設されているボールベアリング式透析器接続用カプラー。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本願補正発明においては、「環状のシール材が連結管内壁に段部および該段部の内壁に対して水平方向に連接されて形成された凹部にその一部を嵌合されて固定されている」のに対して、引用発明においては、環状のシール材が段部および該段部の内壁に対して水平方向に連接されて形成された凹部にその一部を嵌合され、他の部分で前記連結管内壁に固定されている点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用発明においては、前記「2.(2)(g)及び(h)」に摘記したように、環状シール部材58は断面U字状であり、その第1円盤部が、第2のカプラ分割体50bに形成された段部56および該段部56の内壁に対して水平方向に連接されて形成された凹部にその一部を嵌挿されている。即ち、引用発明においても、環状のシール材が「段部および該段部の内壁に対して水平方向に連接されて形成された凹部にその一部を嵌合されて」いるということができ、この点においては本願補正発明と引用発明との間に差異はない。
そうすると、上記相違点は、本願補正発明においては、環状のシール材が凹部に嵌合された部分で連結管内壁に固定されているのに対して、引用発明においては、環状のシール材(環状シール部材58)が凹部に嵌合された部分(第1円盤部の凹部に嵌合された部分)で連結管(カプラ50)内壁に固定されているかどうか明らかでない点、と言い換えることができる。
ところで、環状のシール材を凹部に嵌合して固定することは、従来から広く一般に採用されている、シール技術における常套手段にすぎず、周知技術であるということができる。
一方、引用発明においては、前記「2.(2)(h)」に摘記したように、第1のカプラ分割体50aと第2のカプラ分割体50bとをねじ結合することによって、環状シール部材58の第2円盤部が、第1のカプラ分割体50aと第2のカプラ分割体50bとに挟持されてカプラ50の内壁に固定されているので、第1円盤部を凹部でカプラ50の内壁に固定する必要は必ずしもない。しかしながら、環状シール部材58のカプラ50内壁への固定をより一層確実なものにするためには、第1円盤部の凹部に嵌合された部分についてもカプラ50の内壁に固定するように構成することは、上記周知技術を考慮すると、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
また、環状シール部材58が第2円盤部を有しない形状の場合には、環状シール部材58をカプラ50内壁に固定するための手段が必要となり、また、カプラ50が二つの分割体から構成されたものではなく一体成形されたものである場合にも、環状シール部材58をカプラ50内壁に固定するための手段が必要となる。そのような場合においても、環状シール部材58を第1円盤部の凹部に嵌合された部分でカプラ50内壁に固定するように構成することは、上記周知技術を考慮すると、当業者が容易に想到できたことであるといえる。
してみると、引用発明において、環状のシール材(環状シール部材58)を連結管(カプラ50)内壁にその一部(第1円盤部の凹部に嵌合された部分)を凹部に嵌合して固定することは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。
したがって、上記相違点に係る本願補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「血液透析器の透析液用プラグとの密着部位をその内腔に有した連結管と、連結管を被覆するように設けられ、連結管内に透析液用プラグを狭持する位置から両者を開放する位置の間を摺動可能なスリーブとからなる透析器接続用カプラーにおいて、透析液用プラグ先端が連結管と当接する部位にシール材が設けられ、前記連結管内腔の密着部位が形成されて成ることを特徴とする透析器接続用カプラー。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「シール材」についての限定事項である「環状の」との構成を省くとともに、「かつ環状のシール材が前記連結管内壁に段部および該段部の内壁に対して水平方向に連接されて形成された凹部にその一部を嵌合されて固定され」との構成を省き、「透析器接続用カプラー」についての限定事項である「ボールベアリング式」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)及び(4)」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-15 
結審通知日 2006-06-20 
審決日 2006-07-03 
出願番号 特願平9-78837
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 増沢 誠一
川本 真裕
発明の名称 透析器接続用カプラー  
代理人 川島 利和  

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