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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01B
管理番号 1142748
審判番号 不服2004-4130  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-10-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-01 
確定日 2006-08-28 
事件の表示 平成6年特許願第93743号「移動農機における操向制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成7年10月24日出願公開、特開平7-274617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年4月7日の出願であって、平成16年1月19日付で拒絶査定がなされ、これに対し同年3月1日付で拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年3月30日付で手続補正がなされたものである。

2.平成16年3月30日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年3月30日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
平成16年3月30日付の手続補正の内容は、特許請求の範囲を、
「【請求項1】左右一対のクロ-ラを備え、操向レバーの位置を検出するレバー位置検出手段の検出出力に応じた制動圧力により左右いずれか一方のクローラに制動を加えて操向を行う移動農機において、
左または右のクローラに制動圧力を掛ける制動手段と、
前記制動手段の制動圧力を検出する制動圧力検出手段と、
前記レバー位置検出手段の検出出力にもとづいて目標制動圧力を設定する目標制動圧力設定手段と、
前記目標制動圧力設定手段の目標制動圧力と、前記制動圧力検出手段の制動圧力にもとづいて偏差を算出する制動圧力比較手段と、
操向レバーの操作角が特定の範囲内にあるとき前記偏差に特別の演算処理をして補正し、特定の範囲外の場合は偏差をそのままの値とする偏差の補正を行い、この補正した偏差より算出した補正制動圧力になるように、前記制動手段を制御する制動手段制御部と、
を備えることを特徴とする移動農機における操向制御装置。」
から、
「【請求項1】左右のクローラ12,12への変速動力伝達を各別に遮断する左右のサイドクラッチ37L,37Rと、この左右のサイドクラッチ37L,37Rが切り操作された側の左右のクローラ12,12に旋回用動力を伝達する動力伝達手段と、単一の操向レバー23の左又は右への操作によって前記左右のサイドクラッチ37L,37Rの一方を切り作動させるとともに、操向レバー23の操作量に応じて前記動力伝達手段へ供給される作動圧を増減する構成を備えた移動農機において、
前記操向レバー23の操作に対する動力伝達手段へ供給される作動圧の変化率を、操向レバー23の中立位置に近い操作領域では小さく、中立位置から遠い操作領域では大きくなるように、操向レバー23の操作に対する動力伝達手段への作動圧の変化特性を設定してあることを特徴とする移動農機における操向制御装置。」
と補正することを含むものである。

(2)補正の適否
そこで、上記補正について検討すると、
上記補正は、補正前の請求項1に記載された
「前記レバー位置検出手段の検出出力にもとづいて目標制動圧力を設定する目標制動圧力設定手段と、
前記目標制動圧力設定手段の目標制動圧力と、前記制動圧力検出手段の制動圧力にもとづいて偏差を算出する制動圧力比較手段と、
操向レバーの操作角が特定の範囲内にあるとき前記偏差に特別の演算処理をして補正し、特定の範囲外の場合は偏差をそのままの値とする偏差の補正を行い、この補正した偏差より算出した補正制動圧力になるように、前記制動手段を制御する制動手段制御部と、を備える」
という限定事項を外すことを含むものである。
これは、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
さらに、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明を目的とする補正にも該当しない。

(3)むすび
よって、上記補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年3月30日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成15年6月2日付の手続補正書の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「左右一対のクローラを備え、操向レバーの位置を検出するレバー位置検出手段の検出出力に応じた制動圧力により左右いずれか一方のクローラに制動を加えて操向を行う移動農機において、
左または右のクローラに制動圧力を掛ける制動手段と、
前記制動手段の制動圧力を検出する制動圧力検出手段と、
前記レバー位置検出手段の検出出力にもとづいて目標制動圧力を設定する目標制動圧力設定手段と、
前記目標制動圧力設定手段の目標制動圧力と、前記制動圧力検出手段の制動圧力にもとづいて偏差を算出する制動圧力比較手段と、
操向レバーの操作角が特定の範囲内にあるとき前記偏差に特別の演算処理をして補正し、特定の範囲外の場合は偏差をそのままの値とする偏差の補正を行い、この補正した偏差より算出した補正制動圧力になるように、前記制動手段を制御する制動手段制御部と、
を備えることを特徴とする移動農機における操向制御装置。」
(以下、「本願発明」という。)

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開平5-97052号公報(以下、「引用例」という。)には、「コンバイン等の操向制御装置」に関して、以下の技術事項が図面とともに記載されている。
「【請求項1】操向クラッチ8の切り及び操向ブレーキ9の効きによる操向旋回時に、操向クラッチ8入り側のクラッチ油圧を、直進走行時のクラッチ油圧よりも上昇制御することを特徴とするコンバイン等の操向制御装置。」
「【0001】この発明は、コンバイン等の操向制御装置に関し、操向旋回時の操向クラッチの接続油圧を制御するもので、トラクタ、苗植機、その他の移動農機等に利用できる。」
「【0002】操向クラッチや操向ブレーキ等を用いて走行方向を旋回する形態の走行装置においては、…」
「【0005】このような操向旋回操作時において、クラッチ油圧は、左右両操向クラッチ8が接続状態にあるときの油圧力よりも、操向旋回側の操向クラッチ8が切りであるときの外側の入りになっている操向クラッチ8のクラッチ油圧力が高くなるように自動制御される。このため、操向旋回によって旋回側の走行装置は制動されて回転が固定されて、外側の走行装置のみの伝動駆動によって、旋回走行されるための負荷が増大するが、この外側の走行装置駆動の操向クラッチ8の接続圧は上昇されているために、スリップすることなく十分な動力伝達力を維持して、円滑な旋回を行うことができ、直進走行時のクラッチ油圧力は低くして油圧回路に不必要な高圧力を働かせることを少なくし、より耐久力を維持できる。」
「【0013】操向制御装置の油圧回路41は、左側の操向クラッチ8と操向ブレーキ9とが同じ回路で、ソレノイド切換制御弁42によって、左側のクラッチシリンダのエリアAとブレーキシリンダのエリアBとに切換制御される。又、右側の操向クラッチ8と操向ブレーキ9とが同じ回路で、ソレノイド切換制御弁45によって、右側のクラッチシリンダのエリアAとブレーキシリンダBとに切換制御される。左右のスピンターンクラッチ10のシリンダエリアCに連結せる回路には、ソレノイドスピンターン切換制御弁48を設け、この制御弁48の切換えで、操向ブレーキ9を効かせた側のスピンターン伝動を行わせるように切換える。」
「【0014】油圧回路41には、油圧ポンプP、タンクポートT、リリーフバルブ51等を有し、各切換制御弁42,45,48に至る回路には、コントローラCPUのプログラムで設定した圧力に対応するオンタイムでパルス出力される電磁比例減圧弁43,46,49を設け、これらの減圧弁43,46,49によって調整制御された油圧を検出する圧力センサ44,47,50が設けられている。」
「【0015】操向制御装置は、マイクロコンピュータ内蔵のコントローラCPUの入力側に、上記各圧力センサ44,47,50を設ける。又、該クラッチ制御弁42、ブレーキ制御弁45、スピンターン切換制御弁48を単一の操作レバーであるパワステレバーの傾斜作動角によって作動するため、この作動角をパワステポジション電圧として検出するパワステポジションセンサ52を設ける。更には、左右各ギヤ24の回転数を検出する回転センサ53、変速軸15の回転数を検出するフォトカプラ形態の車速センサ54、スピンターンを行わせるためのスピンターン自動スイッチ55等を有する、56はエンジンのオイルプレッシャセンサである。」
「【0016】図2、図3において、パワステレバーの作動角に対するパワステポジションセンサ52による検出電圧、各切換制御弁42,45,48の出力作動、及び減圧弁43,46,49による油圧回路の制御油圧等の関係が示される。例えば、パワステレバーの作動角がニュートラル位置にあるときは、左右減圧弁43,46による制御油圧は共に10kgf/cm2(以下単に10kgのように記載する)に維持されて、左右の操向クラッチ8は共に接続されて直進走行状態にある。このパワステレバーをニュートラル域から一定角度左側へ傾斜させると、これをパワステポジションセンサ52の検出によって、左側の切換制御弁42が左クラッチのエリアAから左ブレーキのエリアBへ切換えられると共に、右側の切換制御弁45は、右クラッチのエリアAに接続したまゝの状態にあるが、この右側の減圧弁46が作動される。このため、左ブレーキエリアBへの油圧は、左減圧弁43によって最高圧の20kgまで上昇されて、この左側の操向ブレーキ9が効きになり、左側走行クローラ40の付回りが固定される。しかも、右減圧弁46による右側の操向クラッチ8の油圧力は10kgから20kgまで上昇して、操向旋回時のスリップを少なくする(図2)。これら減圧弁43,46等による油圧は圧力センサ44,47で検出される。」
「【0021】図9において、上例と異なる点は、前記圧力センサ44,47や減圧弁43,46等を用いて、フィードバック制御を行う場合に、減圧弁43,46による圧力補正を行う構成としている。設定圧力にパルス出力して減圧弁43,46を作動させたときの設定値と、圧力センサ44,47で検出したときの検出値との偏差が零になるように、パルス出力のオンタイムを補正する。又、この補正圧力には上限を設ける。これにより、クラッチ接圧力やブレーキ圧力を正確に制御し、操向性や旋回制御が正確に行える。」
「【0024】図10において、上例と異なる点は、圧力センサ44,47,50等の補正を行うものである。圧力センサ44,47,50を用いて電磁比例減圧弁43,46,49の発生圧力をフィードバック制御する形態において、圧力センサ44,47,50の油圧力が0kgと特定できる条件下で、コントローラCPUがその時の圧力センサ44,47,50の出力値を測定、記憶し、制御中は、その記憶値を基準にして偏差により発生圧力を検出し、減圧弁43,46,49の駆動電流を目標値の圧力になるように制御する。」

ところで、コンバイン、トラクタ、苗植機、その他の移動農機において、左右一対のクローラを備えたものは周知であるので、上記技術事項を含む引用例全体の記載及び図面によれば、引用例には次の発明が記載されているものと認める。かっこ内は対応する引用例における構成・用語である。

「左右一対のクローラを備え、操向レバー(パワステレバー)の位置(傾斜作動角)を検出するレバー位置検出手段(パワステポジションセンサ52)の検出出力に応じた制動圧力(クラッチ接圧力、ブレーキ圧力)により左右いずれか一方のクローラに制動を加えて操向を行う移動農機において、
左または右のクローラに制動圧力を掛ける制動手段(操向クラッチ8、操向ブレーキ9等)と、
前記制動手段の制動圧力を検出する制動圧力検出手段(圧力センサ44,47)と、
前記レバー位置検出手段の検出出力にもとづいて目標制動圧力(コントローラCPUのプログラムで設定した圧力)を設定する目標制動圧力設定手段(コントローラCPU)と、
前記目標制動圧力設定手段の目標制動圧力と、前記制動圧力検出手段の制動圧力にもとづいて偏差を算出する制動圧力比較手段(コントローラCPU)と、
この偏差より算出した補正制動圧力(補正圧力)になるように、前記制動手段を制御する制動手段制御部(電磁比例減圧弁43,46)と、
を備える移動農機における操向制御装置。」
(以下、「引用発明」という。)

(3)対比・判断
本願発明と引用発明を比較すると、両者は、
「左右一対のクローラを備え、操向レバーの位置を検出するレバー位置検出手段の検出出力に応じた制動圧力により左右いずれか一方のクローラに制動を加えて操向を行う移動農機において、
左または右のクローラに制動圧力を掛ける制動手段と、
前記制動手段の制動圧力を検出する制動圧力検出手段と、
前記レバー位置検出手段の検出出力にもとづいて目標制動圧力を設定する目標制動圧力設定手段と、
前記目標制動圧力設定手段の目標制動圧力と、前記制動圧力検出手段の制動圧力にもとづいて偏差を算出する制動圧力比較手段と、
この偏差より算出した補正制動圧力になるように、前記制動手段を制御する制動手段制御部と、
を備える移動農機における操向制御装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本願発明では、操向レバーの操作角が特定の範囲内にあるとき前記偏差に特別の演算処理をして補正し、特定の範囲外の場合は偏差をそのままの値とする偏差の補正を行うのに対し、引用発明では不明である点。

相違点について検討すると、本願出願当初明細書の発明の詳細な説明における上記相違点に係る構成に関連する記載は、段落【0054】に「なお、偏差aにより操向レバー23の操作角全域を一律に補正するだけでなく、操向レバー23のある特定の操作角の範囲は、偏差aに特別の演算、例えば、偏差aに係数を加減し、新たに補正制動圧力を算出して制動圧力を発生させることができる。」とある他には記載がない。
してみると、特定の範囲とはどのような範囲であるのか一切不明であり、特別の演算処理が偏差aに係数を加減することであるとしてもどのように加減するのかも不明であり、またその目的、効果等についても不明である。
そうすると、上記相違点に係る本願発明の構成は、技術的な意義が見いだせない当業者が意味もなく設定した設計事項に過ぎないものといわざるを得ない。
また、何らかの要因によって制御が過度におこなわれる状況を避けるべく、偏差に補正係数を乗じることは、例えば特開平5-85221号公報(特に、段落【0030】、【0031】参照)に見られるように周知の技術であり、当業者が容易に適用し得る事項に過ぎないものともいえる。

よって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものと認める。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-11 
結審通知日 2006-06-06 
審決日 2006-06-19 
出願番号 特願平6-93743
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A01B)
P 1 8・ 121- Z (A01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 恭  
特許庁審判長 安藤 勝治
特許庁審判官 西田 秀彦
柴田 和雄
発明の名称 移動農機における操向制御装置  

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