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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1142755
審判番号 不服2004-16271  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-03-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-05 
確定日 2006-08-30 
事件の表示 平成 7年特許願第214693号「電子写真画像形成方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 3月 7日出願公開、特開平 9- 62160〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本願は、平成7年8月23日の出願であって、その請求項1ないし4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。
「電子写真感光体上に帯電、像露光、現像、転写及びクリーニングの各工程を繰り返して、多数枚の画像を形成する画像形成方法において、前記感光体として最表面層にモース硬度5以上の無機粒子を含有する感光体を用い、かつ前記クリーニング工程で回収されたトナーを前記現像工程に搬送して再利用することを特徴とする画像形成方法。」

2 引用刊行物の記載
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平6-266143号公報(以下「刊行物1」という。)には、下記の事項が記載されている。
(1a)「有機光導電性半導体よりなる感光体の表面に負の静電潜像を形成する潜像形成工程と、この静電潜像をトナーとキャリアよりなる静電像現像剤により現像する現像工程と、現像により得られたトナー画像を静電気的に転写材へ転写する転写工程と、該転写工程後において前記感光体の表面に残留したトナーをクリーニングブレードによりクリーニングするクリーニング工程とこのクリーニングしたトナーを再び現像部に供給するトナーリサイクル工程と、熱ローラを有する定着器により前記転写材上のトナー画像を加熱定着する定着工程を含む画像形成方法において、前記有機光導電性半導体の表面層がビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂を含む積層型有機光導電性半導体であり、前記トナーが熱可塑性樹脂をバインダーとする母体粒子に、その平均粒子径より小さい樹脂微粒子を機械的衝撃力により固着していることを特徴とする画像形成方法。」(特許請求の範囲、請求項1)、
(1b)「(現像工程)樹脂微粒子を必須成分として固着しているトナーを用いて構成した二成分現像剤を現像剤搬送担体により現像領域に搬送し、この現像剤により潜像担持体上の静電潜像を現像して、未定着トナー画像を形成する。現像方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を適用することができる。具体的には、以下の方法を挙げることができる。・・・」(段落【0100】)、
(1c)「(転写工程)現像により得られた潜像担持体上の未定着トナー画像を記録材に転写する。・・・」(段落【0104】)、
(1d)「(クリーニング工程)転写工程を経た後に潜像担持体上に残留したトナーをクリーニングする。クリーニング手段は、特に限定されないが、潜像担持体の表面に接触配置したクリーニングブレードを有してなるクリーニング装置が好ましい。このクリーニング装置によれば、潜像担持体の表面がクリーニングブレードにより摺擦されることにより、残留トナーが掻き取り除去される。」(段落【0105】)、
(1e)「(リサイクル工程)クリーニングにより回収したトナーを、適宜のリサイクルシステムにより再び現像器に戻してこれを再使用する。」(段落【0107】)、
(1f)〈感光体1〉として、アルミニウムパイプに下引き層を形成し、次に厚さ約1.0μmの電荷発生層を形成しさらに、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂1部と、電荷輸送物質1部とから、厚さ約20μmの電荷輸送層を形成させ、3層からなる負帯電型有機感光体を製造したこと(段落【0111】〜【0114】)、〈感光体1〉の製造において、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂1部のかわりに、ビスフェノールA型ポリカーボネート1部を使用したほかは感光体1と同様にして感光体2を製造したこと(段落【0116】)。
(1g)〈画像形成テスト〉では、現像剤をそれぞれ用いて、有機感光体1、2上に形成した静電荷像を現像してトナー像を形成し、このトナー像を転写材に転写し、転写したトナー像を定着し、転写後に有機感光体上に残留したトナーをクリーニングブレードによりクリーニングする工程を含む画像形成プロセスを遂行してコピー画像を形成するテストを行ったこと、上記有機感光体1もしくは2と、クリーニングブレードを有するクリーニング装置と、クリーニングパッドを有する熱ローラ定着器とを備えた二成分系現像剤用のコニカ(株)製の電子写真複写機U-Bix 1520改造機を用い、温度20℃、相対湿度55%の環境条件下で最高5万回にわたりコピー画像を形成するテストを行い、クリーニング性、感光体表面の目視による損傷の有無、感光体の損傷に起因するコピー画像の黒ポチ、画質等を評価したこと(段落【0164】〜【0170】)、その結果、感光体1(ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂使用)を用いた実施例では、5万回後も画像が良好であったのに対し、感光体2(ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂使用)を用いたものは、1500回から感光体損傷による画像不良が発生したこと(段落【0164】〜【0172】、【0163】の表1、【0173】の表2)。

上記(1a)ないし(1g)の記載及び図面の記載によれば、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「有機光導電性半導体よりなる感光体上に帯電、像露光、現像、転写及びクリーニングの各工程を繰り返して、多数枚の画像を形成する画像形成方法において、表面層を有する感光体を用い、クリーニング工程で回収されたトナーを現像工程に搬送して再利用する画像形成方法。」

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平3-155559号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に下記の事項が記載されている。
(2a)「1.光導電体を含む光導電層と、該光導電層の支持体と、前記光導電層上に形成され、硬化性樹脂膜と該硬化性樹脂膜の膜厚より大きい粒径・・・の無機絶縁物とを有する表面層と、を有する電子写真感光体。」(特許請求の範囲の請求項1)、
(2b)「5.光導電体を含む光導電層と、該光導電層の支持体と、前記光導電層上に形成され、硬化性樹脂膜中に、無機絶縁物が分散含有し、前記樹脂膜がフッ素系潤滑剤で連続的に覆われている表面層と、を有する電子写真感光体。」(特許請求の範囲の請求項5)、
(2c)「本発明の電子写真感光体は、光導電体を含む光導電層と、光導電層上に形成された表面層と、光導電層の支持体とを具備し、この表面層が硬化性樹脂と無機絶縁物とを有し、無機絶縁物が硬化性樹脂から突出していることを特徴とする。
光導電体の材料としては、アモルファスシリコン、金属または非金属のフタロシアニン、セレン等の公知のものでよい」(5頁左上欄2行〜9行)、
(2d)「無機絶縁物としては、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナ、石英、カオリン、マイカ、タルク、水和アルミナ、チタン酸カリウム、酸化チタン・・・などが望ましい。」(5頁左上欄14行〜19行)、
(2e)「硬化性樹脂としては、硬化後一部または全部が架橋していることが望ましい。・・・具体的な例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂がある。」(5頁右上欄1行〜12行)、
(2f)「表面層の膜硬度、抵抗は、フィラーが埋込れている樹脂によって決定される。従って樹脂として高抵抗かつ高硬度のものを用いることが望ましい。表面抵抗で1012Ω以上、モース硬度2〜4のものを用いることが望ましい。」(5頁右下欄6行〜10行)、
(2g)「本発明の表面層に用いる具体的な無機絶縁物の大きさとしては、0.1〜1.5μmであり、望ましくは0.15〜1.0μmである。また無機絶縁物は高抵抗、・・・のものを用いるのが望ましい。同時に高硬質、具体的にはモース硬度4〜10であり、好ましは7〜10のものを用いることが望ましい。無機絶縁物を樹脂膜中に分散含有させるためには、無機絶縁物の表面を有機金属化合物、例えばシランカップリング剤で処理することが望ましい。このようにして樹脂膜中に分散させることにより、樹脂膜との密着性又は親和性がさらに向上し、より高い機械強度が得られる。」(6頁右上欄14行〜左下欄7行)、
(2h)「本発明の電子写真感光体は、表面層を高抵抗で化学的に安定な樹脂と高硬質の無機絶縁物で構成したことにより、・・・かつ機械強度に優れた表面層を実現できた。」(13頁右上欄12行〜15行)、
(2i)「本発明の電子写真感光体は、表面に突出した無機絶縁物と、フッ素系潤滑剤とを含有する樹脂膜を表面層として有する。
無機絶縁物により、膜の耐摩耗性が大きく向上し、フッ素系潤滑剤が表面に析出して、潤滑層を形成し、はつ水性の向上及び樹脂の吸水防止、摩擦係数の減少に寄与し、耐湿性、耐コロナ性並びにクリーニング特性が大きく向上する。」(13頁右下欄7行〜14行)、
(2j)実施例1では、アモルファスシリコン感光体に、デュポン社製4官能エポキシ樹脂と、コスモ石油製P-ビニルフェノール重合体と、北興化学製トリエチルアンモニウムカリボール塩と、積水化学製エスレックスと、を添加した樹脂105を、メチルエチルケトン、1260gに溶解し、平均粒径0.40μmのα-アルミナ粒子106を240gを加え作製した塗布液を塗布し、100℃、1時間、200℃、2時間の熱処理を行い、塗布膜を硬化させ表面層107を形成したこと、表面粗さにより膜表面のプロファイルを調べたところ、樹脂部の膜厚は平均約0.25μm、粒子の突出量は平均約0.15μmであったこと、トナー108は樹脂105の凹部と直接接触せず、粒子106を覆う樹脂がトナーとの摩耗によって消失しても、表面層自体の摩耗は防止することができること、この感光体を第2図に示すレーザビームプリンタ(電子写真装置)18に搭載し、印刷試験を行った結果、100万頁まで初期画像と変わらない鮮明な画像が得られたこと(14頁右上欄11行〜15頁左上欄5行、第1図、第2図、第8図)、
(2k)実施例2には、アモルファスシリコン感光体を、エポキシ樹脂、アルミナフィラー、フッ素系潤滑剤を含む塗布液に浸漬して、膜を形成した後、熱処理を施して、表面層311を作製したこと、表面層311の表面には、パーフルオロポリオキシアルキル基よりなるはつ水性潤滑層310が結果的に形成されていたこと、このようにして得た感光体を感光体特性評価機に装着して、感光体を静止したままでコロナ照射試験を実施し、耐湿性、耐コロナ性を水との接触角により評価し、表面層の損傷、付着物の有無などを調べた結果、実施例2の感光体は、コロナ照射試験及び摩耗試験後でもはつ水性が高く、表面層上への付着物もないところからクリーニング特性においても良好であることを示したこと(15頁右下欄5行〜16頁右下欄7行、第1表、第3図)。

3 対比、判断
本願発明1(前者)と刊行物1に記載された発明(後者)を対比すると、後者の「有機光導電性半導体よりなる感光体」、「表面層」は、それぞれ前者の「電子写真感光体」、「最表面層」に相当するから、両者の間には、下記の一致点及び相違点がある。
一致点:「電子写真感光体上に帯電、像露光、現像、転写及びクリーニングの各工程を繰り返して、多数枚の画像を形成する画像形成方法において、クリーニング工程で回収されたトナーを現像工程に搬送して再利用する画像形成方法」である点。
相違点:感光体の最表面層が、前者では、「モース硬度5以上の無機粒子」を含有するのに対して、後者では、このような無機粒子を含有していない点。

そこで、以下相違点について検討する。
ア.刊行物1に記載された発明は、現像剤トナーのリサイクルシステムを取入れた画像形成方法に関するものであり、画像形成テストでは、クリーニング性、感光体表面の目視による損傷の有無、感光体の損傷に起因するコピー画像の黒ポチを評価しており(1g)、トナーのリサイクルシステムにおいて、感光体表面の損傷を回避するという技術課題があることが示されている。
さらに、刊行物1には、感光体の表面層の材質により、損傷の程度が異なることが記載され(1g)、感光体の表面層を機械的強度の高いものとしようとすることも示されている。
イ.一方、刊行物2には、感光体の最表面の樹脂膜に粒径が0.1〜1.5μmの無機絶縁物(例、シリカ、α-アルミナ等)、その中でも特にモース硬度7〜10の高硬度のものを含有させることが望ましい旨記載され(2g)、発明の作用として機械強度に優れた表面層を実現できたと記載されている(2h)。
なお、刊行物2の実施例に記載の感光体は、光導電体がアモルファスシリコンであり、これに表面層を形成するものであるが(2j)、表面層自体は、無機微粒子と樹脂から構成されるものであって、感光体の種類によらず設けることができるものであり、また、刊行物2に記載の発明は感光体の種類について何ら限定されていない(2a、2b、2c)。
そうすると、刊行物1に記載の感光体において、表面の機械強度を上げるために、刊行物2に記載の「モース硬度」5以上の無機粒子を含有する最表面層を設けることは当業者が容易に想到し得ることである。
ウ.なお、請求人は、審判請求の理由において、刊行物2に記載の発明は、「シリカや酸化チタンの無機絶縁物を感光体の表面層に存在させるもの」(特許請求の範囲)である以上、クリーニング等によりこうした無機絶縁物が剥がれ落ちて回収トナー中へ蓄積していくことは当業者ならずとも容易に想起できることであり、従って、当業者がこうした回収トナーを刊行物1記載の発明に適用しようとする考えを持つことはないものと言えるので、刊行物1と刊行物2に記載された技術を組み合わせることは、当業者にとって、困難であると思量される旨、主張している。
しかし、刊行物2には、無機絶縁物の表面を例えばシランカップリング剤で処理すると樹脂膜との密着性又は親和性がさらに向上するのでより高い機械強度が得られる、という記載があり(2g)、また、感光体の表面をフッ素系潤滑剤で連続的に覆うと摩耗係数の減少に寄与する、摩耗による感光体の損傷が無いとの記載もあり(2i、2k)、無機絶縁物より強度を上げ、かつ無機絶縁物の剥がれ落ちを防止できることが示されているのであるから、刊行物2に記載された発明を、刊行物1に記載のリサイクルシステムを取入れた画像形成方法に適用することが困難であるとはいえない。

そして、本願発明1の効果は、全体として、刊行物1、2に記載された発明から当業者が容易に予測することができる程度のものである。
したがって、本願発明1は、刊行物1、2に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-20 
結審通知日 2006-06-27 
審決日 2006-07-11 
出願番号 特願平7-214693
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介金田 理香  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 藤岡 善行
松本 泰典
発明の名称 電子写真画像形成方法及びその装置  

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