• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1142758
審判番号 不服2005-6134  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-09-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-07 
確定日 2006-08-28 
事件の表示 平成 8年特許願第 50187号「鉄筋コンクリート構造物の柱梁接合部のせん断補強構造」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月16日出願公開、特開平 9-242181〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年3月7日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成16年11月11日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「鉄筋コンクリート構造物が水平外力を受けた際に、同構造物の柱梁接合部内に形成される圧縮ストラットの幅を拡大して形成するための鋼製支圧板を、前記柱梁接合部内における梁主筋の水平部に所要数貫通し、固着して設け、前記鋼製支圧板を設ける位置を、前記鋼製支圧板によらずに前記柱梁接合部内に形成される圧縮ストラットである主圧縮ストラットの発生領域の外側であって、当該発生領域に隣接した位置としたことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の柱梁接合部のせん断補強構造。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された「実願平1-64902号(実開平3-4830号)のマイクロフィルム」(以下、「引用例」という。)には次の記載がある。
(あ)「この考案は、鉄筋コンクリート建築構造物の柱梁接合部等において、当該部位を貫通する通し配筋の付着性能を向上させる主筋の定着装置に関する。」(明細書1頁15〜18行)、
(い)「通し配筋は、地震時などの大きな繰り返し荷重を受けると、柱梁接合部におけるコンクリートとの付着性能に劣化をきたし、その接合部からの梁主筋の抜け出しが顕著となり、剛性低下およびエネルギー吸収能力の減少を招き、耐震上好ましくない状態となる。」(同2頁4〜9行)、
(う)「このため、例えば、特開昭61-250241号公報などに開示されているように、…………、あるいは、特開昭61-250241号公報などに開示されているように、梁主筋にネジ鉄筋などを用い、その梁主筋に、嵌合孔を形成した定着板を挿通し、それをナットにより所定位置に固定して、これにより配筋の簡素化を図りつつ当該柱梁接合部を剛構造とするものなどがあった。」(同2頁12行〜3頁4行)、
(え)「第1図は、本考案よる主筋の定着装置の好適な一実施例を適用した鉄筋コンクリート建築構造物の柱梁接合部を示す断面図である。
本考案は基本的には、通し配筋4を、これに装着される定着部材6でコンクリート5に定着させるための装置において、通し配筋4をネジ鉄筋で構成すると共に、定着部材6を、通し配筋4に径方向外方から装着され螺着される半割り形状に形成されたナット部7と、ナット部7の外周部に径方向外方へフランジ状に突出されたプレート部8とを一体的に形成して構成したものである。
柱1と梁2の接合部においては、柱主筋3と梁主筋4とが交差しかつ、通し配筋されており、それらがコンクリート中5に埋設される構成になっている。
本考案は同図に示す柱梁接合部において梁主筋4に適用されており、通し配筋たる梁主筋4に、ナット部7とプレート部8とを鋳造等で一体的に形成して構成した定着部材6を固定したものである。」(同5頁8行〜6頁7行)、
(お)第1図の柱梁接合部の断面図によると以下の点が記載されている。
「柱梁接合部内において、柱主筋3と交差して、上方の梁主筋4及び下方の梁主筋4とが通し配筋されており、各梁主筋4には、水平部中央の位置に、定着部材6が固定されている。」
したがって、上記(あ)〜(お)及び図面の記載によると、引用例には、
「鉄筋コンクリート建築構造物が地震時に、同構造物の柱梁接合部内の通し配筋とコンクリートとの付着性能を劣化させないためのプレート部を有する定着部材を、前記柱梁接合部内における梁主筋の水平部に所要数貫通し、固着して設け、前記定着部材を設ける位置を、前記柱梁接合部内に配筋される柱主筋と交差して通し配筋されている上方及び下方の梁主筋の水平部中央の位置とした鉄筋コンクリート建築構造物の柱梁接合部の構造」という発明が開示されていると認められる。

3.対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
引用例記載の発明の「鉄筋コンクリート建築構造物」及び「地震時」は、それぞれ本願発明の「鉄筋コンクリート構造物」及び「水平外力を受けた際」に相当する。
また、両者ともに、「鉄筋コンクリート構造物の柱梁接合部の構造」についてのものである。
さらに、引用例記載の発明の「プレート部を有する定着部材」も本願発明の「支圧板」も柱梁接合部内における梁主筋の水平部に固着する「板状部材」として共通する。
そうすると、両者は、
「板状部材を、柱梁接合部内における梁主筋の水平部に所要数貫通し、固着した鉄筋コンクリート構造物の柱梁接合部の構造。」の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
板状部材に関し、本願発明が、鉄筋コンクリート構造物が水平外力を受けた際に、同構造物の柱梁接合部内に形成される圧縮ストラットの幅を拡大して形成するための鋼製支圧板であるのに対し、引用例記載の発明が、鉄筋コンクリート構造物が水平外力を受けた際に、同構造物の柱梁接合部内の通し配筋とコンクリートとの付着性能を劣化させないためのプレート部を有する定着部材である点。
[相違点2]
本願発明が、鋼製支圧板を設ける位置を、鋼製支圧板によらずに柱梁接合部内に形成される圧縮ストラットである主圧縮ストラットの発生領域の外側であって、当該発生領域に隣接した位置とした鉄筋コンクリート構造物の柱梁接合部のせん断補強構造であるのに対し、引用例記載の発明が、定着部材を設ける位置を、前記柱梁接合部内に配筋される柱主筋と交差して通し配筋されている上方及び下方の梁主筋の水平部中央の位置とした鉄筋コンクリート構造物の柱梁接合部の剛構造である点。
[相違点1の検討]
鉄筋コンクリート構造物が水平外力を受けた際に、同構造物の柱梁接合部内に繰り返しせん断力が作用して、通し配筋はコンクリートとの付着性能に劣化をきたすものであり、引用例記載の発明は、その、通し配筋とコンクリートとの付着性能を劣化させないために、すなわち、柱梁接合部内のせん断抵抗機構を支持するために定着部材を有するものであるから、本願発明と同様の「鉄筋コンクリート構造物の柱梁接合部のせん断補強構造」であり、引用例記載の発明は、鉄筋コンクリート構造物が水平外力を受けた際に、同構造物の柱梁接合部内のせん断力に対し、定着部材が圧縮ストラットを形成することは技術的常識である。
また、定着部材を鋼製とすることもごく普通のことであり、定着部材を設ける位置を、わざわざ柱梁接合部の対角線近傍としなければならない理由もないから、定着部材が形成する圧縮ストラットと主圧縮ストラットの発生領域とが全体的に重なるものとすることも考えられない。
そうすると、定着部材は圧縮ストラットの幅を拡大して形成する機能をも有するものである。
したがって、本願発明の鋼製支圧板は、引用例記載の発明の定着部材を、特に鋼製とする点、及び、定着部材を設ける位置を対角線近傍としないようにする点としたものに相当し、それらの点は当業者が容易に想到しえたものというべきである。
[相違点2の検討]
上記の[相違点1の検討]により、引用例記載の発明の定着部材は本願発明の支圧板の機能を持つものである点及び本願発明も引用例記載の発明も「鉄筋コンクリート構造物の柱梁接合部のせん断補強構造」である点が明らかになった。
ところで、本願発明の「鋼製支圧板を設ける位置を、鋼製支圧板によらずに柱梁接合部内に形成される圧縮ストラットである主圧縮ストラットの発生領域の外側であって、当該発生領域に隣接した位置とした」の「主圧縮ストラットの発生領域の外側であって、当該発生領域に隣接した位置」は、明細書において具体的に限定されておらず、実施例と図面の記載によれば、前記の「位置」には、「鋼製支圧板によらずに柱梁接合部内に形成される圧縮ストラットである主圧縮ストラットの発生領域」と「鋼製支圧板による柱梁接合部内に形成される圧縮ストラットの発生領域」とが重なるもの、一部が重なるもの、重なっていないものが混在していることから、一部でも重ならない領域が存在すればよいというものと解さざるを得ない。
一方、引用例記載の発明のように、定着部材を設ける位置を、柱梁接合部内に配筋される柱主筋と交差して通し配筋されている上方及び下方の梁主筋の水平部中央の位置とすれば、柱梁接合部の対角線方向に形成される主圧縮ストラットの発生領域の外側で発生領域に隣接した位置に圧縮ストラットを形成するものであるということができ、もしそうでないとしても、定着部材を設ける位置を、主圧縮ストラットの発生領域の外側で発生領域に隣接した位置とすることは、当業者にとって技術常識の範囲内のことであって格別困難なものではない。
したがって、相違点2に係る本願発明は、引用例記載の発明に技術常識を加味することにより、当業者が容易に想到しえたものである。

そして、本願発明の効果も、引用例及び技術常識から当業者が容易に予測することができる程度のものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-03 
結審通知日 2006-07-04 
審決日 2006-07-19 
出願番号 特願平8-50187
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 小山 清二
青山 敏
発明の名称 鉄筋コンクリート構造物の柱梁接合部のせん断補強構造  
代理人 野田 茂  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ