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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23K
管理番号 1143015
審判番号 不服2003-5422  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-03 
確定日 2006-09-04 
事件の表示 平成11年特許願第262709号「オオムラサキ越冬幼虫用人工飼料および飼育方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月27日出願公開、特開2001- 78680〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年9月16日の出願であって、平成15年2月28日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされた。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「エノキ葉乾燥粉末を約50重量%(対乾物、以下同じ)、脱脂大豆粉末約20重量%、クロレラ粉末約4重量%、ビタミンB群混合物約0.3重量%を含む、オオムラサキ(Sasakia charonda)の越冬幼虫を発育、成長させ、羽化に至らしめ得ることを特徴とする人工飼料。」

2.引用例記載の内容
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された[真浦正徳ら,平成10年度研究成果情報 果樹・野菜-花き・茶業・蚕糸(関東東海農業),第680-681頁(平成11年7月30日発行)](以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
(イ)「1.家蚕用人工飼料の組成を基本とし、これにエノキ葉乾燥粉末を・・添加した飼料(表1)により、オオムラサキ越冬幼虫(4齢)は、5齢、6齢幼虫、蛹を経て羽化に至るまで、発育・生長させることができる。」([成果の内容・特徴]第1-3行)
(ロ)[具体的データ]の表1をみると、オオムラサキ越冬用中庸人工飼料の組成として、エノキ葉乾燥粉末の添加割合が50.0%、脱脂大豆粉末が20.0%、クロレラ粉末が4.0%、ビタミンB群混合物0.3%を含む点が示されている。
これらの記載事項及び技術常識によれば、引用例には、オオムラサキ越冬幼虫用人工飼料に関し、「エノキ葉乾燥粉末を50%、脱脂大豆粉末20%、クロレラ粉末4%、ビタミンB群混合物0.3%を含む、オオムラサキの越冬幼虫を発育、成長させ、羽化に至らしめ得る人工飼料」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、「エノキ葉乾燥粉末、脱脂大豆粉末、クロレラ粉末、ビタミンB群混合物を含む、オオムラサキの越冬幼虫を発育、成長させ、羽化に至らしめ得る人工飼料」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
人工飼料に含む素材が、本願発明では、エノキ葉乾燥粉末を約50重量%(対乾物、以下同じ)、脱脂大豆粉末約20重量%、クロレラ粉末約4重量%、ビタミンB群混合物約0.3重量%であるのに対し、引用発明では、エノキ葉乾燥粉末を50%、脱脂大豆粉末20%、クロレラ粉末4%、ビタミンB群混合物0.3%であって、添加割合が対乾物における重量%であるかどうか明示されていない点。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
飼料の組成表示については、対乾物における重量%で表示することが通例であるから、両者の単位の相違は、単なる表示上の差異に過ぎない。
また、各素材の割合を定めるに当たり、数値に「約」を付し若干の幅を持たせて定めるか、あるいは「約」を付さずに定めるかは、組成物をどの程度、精緻な素材割合で製造するかという設計上の問題であるから、このようなことは設計上の微差に過ぎない。
よって、本願発明の相違点に係る構成のようにエノキ葉乾燥粉末を約50重量%、脱脂大豆粉末約20重量%、クロレラ粉末約4重量%、ビタミンB群混合物約0.3重量%とすることは当業者が容易に想到しうることである。
そして、本願の発明の効果も、引用発明に基づき当業者が予測できる範囲のものであって、格別なものがあるとは認められない。

ところで、審判請求人は、上記引用例は特許を受けようとする者(山梨県)の意に反して公表されたものであり、本願発明の新規性を損なうものではないと主張している。
そこで、当審では、審尋により、特許を受けようとする者の意に反して公表されたものであることを直接ないし間接的に立証する書面等の提出を指示した。
これに対して、審判請求人は、回答書(受付日:平成18年5月1日)により直接的に立証する書面がなかった旨述べるとともに、手続捕捉書(受付日:平成18年5月2日)をもって、農林水産省農業研究センターの平成9年度〜平成12年度までの研究成果情報中の関東東海農業の目次を提出し、当該目次の記載事項により、間接的に立証することができる旨述べている。すなわち、平成9年度(以前を含む)〜平成10年度までの奥付には発行の日付けが「平成 年 月 日 発行」と空欄になっているのに対し、平成11年度の奥付では発行の日付けが「平成12年7月10日 発行」と、また平成12年度の奥付では発行の日付けが「平成13年3月30日 発行」となっていることを示し、このことにより特許を受けようとする者(山梨県)の意に反して公表されたものであることを間接的に立証することができるとしている。
しかしながら、このような目次の記載事項からは、発行日が平成11年7月30日と明記された引用例が、特許を受けようとする者(山梨県)の意に反して公表されたものであることを間接的に立証できたということができない。

なお、当審は、審判請求人が提出した上記目次に記載された標題のひとつである、平成9年度研究成果情報目次の蚕糸部会の欄に記載された「植物アレロパシー効果の簡易判定法」(山梨県総合農業試験場)を選定し、その研究情報の発行時期等について調査した。当該調査結果によれば、その情報は、研究期間が平成9年度で、研究担当者が久津川剛氏、網蔵一明氏によりなされたものであり、その研究成果が、[平成9年度 研究成果情報 果樹・野菜-花き・茶業・蚕糸(関東東海農業)(平成10年11月30日発行)](以下、「刊行物A」という。)に記載されている(ちなみに、研究担当者の久津川剛氏は、本願発明の発明者4人の内の1人である)。
そうすると、本願発明の発明者の1人(久津川剛氏)は、平成9年度の山梨県総合農業試験場における上記研究成果が、次の年度(平成10年度)に発行された刊行物Aに記載され公に知られることを、当該刊行物Aが発行された後である本願の出願日時点には普通に認識することができたというべきであるから、上記発明者(久津川剛氏)は、次の年度の平成10年度の山梨県総合農業試験場における研究成果も、同様に次年度(平成11年度)に発行された刊行物(即ち、上記引用例)に記載され公に知られることを十分に予測できたと解するのが妥当であって、仮に公に知られることを望まないのであったなら、発行前においてしかるべき措置をとることも十分に可能であったと解するのが妥当である。
以上のことから、発明者の一人である久津川剛氏らが関わる平成10年度の研究成果が、平成11年7月30日発行の上記引用例に、標題「オオムラサキ越冬幼虫の人工飼料飼育」として記載され、公に知られたことは、発明者ないし出願人の意に反してなされたものということができない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-12 
結審通知日 2006-07-12 
審決日 2006-07-25 
出願番号 特願平11-262709
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 柴田 和雄
西田 秀彦
発明の名称 オオムラサキ越冬幼虫用人工飼料および飼育方法  
代理人 土橋 博司  

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