• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1143104
審判番号 不服2002-21385  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-09-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-11-05 
確定日 2006-09-07 
事件の表示 平成 4年特許願第270312号「作動流体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 9月17日出願公開、特開平 5-239480〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成4年10月8日(パリ条約による優先権主張1991年10月11日、英国、優先権主張1992年7月22日、英国)の出願であって、平成14年7月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2 本願発明について
(1)本願発明
本願発明は、平成13年11月1日付け及び平成14年11月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜4に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は、下記のとおりである。

「【請求項1】 (A)ジフルオロメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンからなる群から選択される少なくとも2種類のハイドロフルオロアルカンの混合物を含有してなる熱媒液と、(B)圧縮機に潤滑を付与するのに十分な量の潤滑剤とを含有してなり、前記潤滑剤は前記熱媒液の各成分に少なくとも部分的に溶解し得るものであり且つ次の一般式(II):



〔式中、Rはペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン又はネオペンチルグリコールから水酸基を除去した後に残る炭化水素基であるか、あるいはRはペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン又はネオペンチルグリコールから水酸基のうちの一部を除去した後に残る水酸基含有炭化水素基であり、R1はそれぞれ独立してH原子、直鎖(C3〜10)脂肪族ハイドロカルビル基、分岐鎖(C4〜14)脂肪族ハイドロカルビル基であるか、あるいはカルボン酸置換基又はカルボン酸エステル置換基を有する直鎖又は分岐鎖脂肪族ハイドロカルビル基であり(但し、基R1のうちの少なくとも1つは直鎖脂肪族ハイドロカルビル基又は分岐鎖脂肪族ハイドロカルビル基であることを条件とする)、nは整数である〕で表わされる化合物の1種又はそれ以上を含有してなるものであることを特徴とする作動流体組成物。」(以下「本願発明」という。)

(2)先願及び先願明細書の記載事項
拒絶査定において引用された、本願出願日前の特許出願であり、その出願後に出願公開された特願平3-194849号(特開平5-17789号公報)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)には、以下の記載がある。

イ)「炭素数5〜15の多価アルコールと炭素数3〜12の1価脂肪酸より合成されたエステル油を主成分とするトリフルオロメタン又はペンタフルオロエタンを含有する冷媒用の冷凍機油。」(特許請求の範囲、【請求項1】)
ロ)「トリフルオロメタン又はペンタフルオロエタンを含有する冷媒が、
1(注:○中1)トリフルオロメタン単体、
2(注:○中2)ペンタフルオロエタン単体、
3(注:○中3)トリフルオロメタンとペンタフルオロエタンとの混合冷媒、
あるいは、
4(注:○中4)少なくともトリフルオロメタン又はペンタフルオロエタンの何れかを含有し、更に1,1ージフルオロエタン及び/又は1,1,1,2ーテトラフルオロエタンを含有する冷媒である請求項1に記載の冷凍機油。」(特許請求の範囲、【請求項2】)
ハ)「【産業上の利用分野】本発明は、新規な冷媒用の冷凍機油に関し、さらに詳しくは、塩素を含有し、分解してオゾン層を破壊する冷媒と考えられるモノクロロジフルオロメタン(以下、Rー22と略す)等の代替品となると目されている、塩素を含有しないハイドロフルオロカーボンであるトリフルオロメタン(以下、Rー32と略す)、又はペンタフルオロエタン(以下、Rー125と略す)を含有する冷媒との相溶性に優れ、かつ潤滑性、安定性等の特性に優れた冷凍機油に関する。」(段落【0001】)
ニ)「【従来の技術】一般に、圧縮型冷凍機は圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器から構成され、冷媒と潤滑油の混合物がこの密封された系内を循環する。冷媒と潤滑油は、循環する間に圧縮機内では50℃以上の温度となり、冷却器内では-40℃程度の低温となるので、この-40℃〜+50℃の温度範囲で、分離することなく相溶することが必要である。もし、運転中に層分離が生じると、圧縮機の焼き付きや蒸発器の効率低下を引き起こし、装置の寿命や効率に著しい悪影響を与える。」(段落【0002】)
ホ)「【課題を解決するための手段】冷凍機用の冷媒は、通称フロンと呼ばれているクロロフルオロアルカン類やハイドロクロロフルオロアルカン類が広く使用されている。その中でも特にR-22はエアコン用や産業用に多く用いられている。しかし、R-22のようなハイドロクロロフルオロアルカン類は、分子内に水素を持たないクロロフルオロアルカン類に較べれば、幾分程度は小さいものの、分子内に塩素を含んでいることからクロロフルオロアルカン類とともにオゾン層を破壊するなど環境汚染をもたらすおそれがあるとして、最近、世界的にその規制が厳しくなる傾向にある。そのため、新しい冷媒として塩素を含有しないハイドロフルオロカーボンであるR-32やR-125、さらにはそれらと1,1-ジフルオロエタン(以下、R-152aと略す)1,1,1,2テトラフルオロエタン(以下、R-134aと略す)との混合冷媒などが提案されている。」(段落【0004】)
ヘ)「本発明者らは、特定のエステルを主成分とする冷凍機油がR-32又はR-125、あるいはこれらを含有する混合冷媒との相溶性に優れ、前述の目的に適合しうることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0006】)
ト)「本発明の冷凍機油組成物の主成分であるエステル油合成のためのアルコール成分原料となる2価以上の多価アルコールとしては、炭素数が5〜15のものを使用する。炭素数が16以上の多価アルコールは、アルコール自体の炭化水素部分が大きくなり過ぎて、合成されたエステルはR-32、R-125等の新規な冷媒との相溶性が悪くなり、好ましくない。本発明に用いられる多価アルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのネオ型炭素構造を有する多価アルコールが好ましく、その中でも、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンとペンタエリスリトールが特に好ましい。これらの多価アルコールは、1種だけでも、2種以上を混合してエステル化に供することもできる。
また、上記エステル油合成の酸成分原料としては、炭素数3〜12の1価脂肪酸を必須成分として用いる。炭素数が小さいと、加水分解したとき生成した酸の強度が強く装置に与える損傷等の影響が大きく、逆に炭素数が13以上になると新規冷媒との相溶性が極端に悪くなる。1価脂肪酸としてより好ましいものは炭素数3〜10の直鎖又は分枝のものである。このような1価脂肪酸を例示すると、プロピオン酸、イソプロピオン酸、ブタン酸、イソブタン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、イソヘプタン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、ノナン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸などがある。これらの1価脂肪酸は、1種でも、2種以上の混合物としてもエステル化反応に供することができる。」(段落【0009】、【0010】)
チ)本発明のエステルを主成分とする冷凍機油は、冷媒R-32又はR-125それぞれ単独で、あるいは両者の混合冷媒もしくは、それらとR-152aやR-134aとの混合冷媒を用いる冷凍機の潤滑油として、低温から高温までの広い領域で相互に良好な溶解性を示し、かつ潤滑性能、熱安定性、電気絶縁性に優れ、吸湿性が低く加水分解安定性が高いので、好適に使用され得る。(段落【0013】)
リ)「【実施例】以下に実施例により本発明をより具体的に説明する。
製造例1〜6(エステルの合成)
表1に示す多価アルコールと、表1に示す1価脂肪酸またはこれと多塩基酸との混合物とを混合し、この混合物中における有機酸中のカルボキシル基と、アルコール中の水酸基の量が等量となる割合で、攪拌棒、窒素ガス吹き込み管、温度計及び冷却器付き水分分離器を備えた四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下230℃で8時間、生成する水を系外に留去しながらエステル化反応を行い、さらにその後、減圧(2〜3mmHg)にして同じ温度で2時間反応を行ってエステルa〜fを得た。
【表1】


」(段落【0016】、【0017】)
ヌ)「実施例1〜6
(冷凍機油の性能評価)製造例1〜6で得られた表1に記載の各種エステルa〜fを、動粘度、吸湿性、焼付荷重、体積抵抗率等冷凍機油としての性能を評価し、その結果を表2に示した。
(冷媒との混合状態における性能評価)次に冷凍機油a〜fを各種冷媒と混合した状態で、相溶性、熱安定性及び加水分解安定性を評価した。その結果を表2にあわせて示した。
・・・
なお実施例及び比較例における冷凍機油の物性の測定法は以下のとおりである。
潤滑性(焼付荷重)
ASTM D-3223-7に準拠し、ファレックス(Falex)焼付荷重をR-125の吹き込み制御雰囲気下(70ml/min)、測定した。
電気絶縁性(体積抵抗率)
JIS C2101の25℃での体積抵抗率試験によった。
相溶性(二層分離温度)
供試油0.6gと冷媒(R-32、R-125、混合冷媒A、混合冷媒Bおよび混合冷媒C)2.4gとをガラスチューブに封入した後、毎分1℃で冷却を行い低温において二層分離を起こす温度、すなわち二層分離温度を測定した。
なお混合冷媒AはR-32とR-134aとを8:2(重量比、以下同じ)、混合冷媒BはR-125とR-152aとを8:2で、そして混合冷媒CはR-32とR-125とR-134aとを5:4:1で混合した混合冷媒である。
熱安定性(色相)
ANSI/ASHRAE97-1983に準じ、供試油1gと冷媒(R-32及びR-125)1gと触媒(鉄、銅、アルミニウムの各線)をガラスチューブに封入した後、175℃に加熱し、10日後に供試油の色相をASTM表示にて判定した。
加水分解安定性
ANSI/ASHRAE97-1983に準じ、水分を1000ppmに調整した供試油7gと冷媒(R-32)3gと触媒(鉄、銅、アルミニウムの各線)をガラスチューブに封入した後、175℃に加熱し、14日後に供試油の全酸価(mgKOH/g)を測定した。なお、テスト前の供試油の全酸価は全て0.01mgKOH/gであった。

【表2】


」(段落【0018】〜【0027】)

(3)対比・判断

(3-1)対比・判断1

先願明細書の請求項2には、4(注:○中4)として、「少なくともトリフルオロメタン又はペンタフルオロエタンの何れかを含有し、更に1,1ージフルオロエタン及び/又は1,1,1,2ーテトラフルオロエタンを含有する冷媒」と記載されており(摘記ロ)、これらフロン化合物の組合せは6通りのみであり、そのうちの2通りが、ペンタフルオロエタンと1,1,1,2ーテトラフルオロエタンとを併せ含有することから、これら2種類のハイドロフルオロアルカンの混合物を含有してなる冷媒は明確に記載されているものと認められる。また、同項は、請求項1を引用するものであって、請求項1には、エステル化合物について、「炭素数5〜15の多価アルコールと炭素数3〜12の1価脂肪酸より合成されたエステル油を主成分とする」と記載されており(摘記イ)、同エステル油は、冷媒用の冷凍機油を構成するものであるから(摘記イ)、冷凍機油は冷媒と混合して組成物として用いられるものである(摘記ヘ)。
したがって、先願明細書には、「(A)ペンタフルオロエタンと1,1,1,2ーテトラフルオロエタンの混合物を含有してなる冷媒と、(B)炭素数5〜15の多価アルコールと炭素数3〜12の1価脂肪酸より合成されたエステル油を主成分とする冷凍機油を含有してなる組成物。」に係る発明が記載されているものと認められる(以下、「先願発明a」という。)。
そこで、本願発明と先願発明aとを比較すると、本願明細書には、熱媒液を冷媒として用いることが記載されているから(段落【0010】(段落番号は、平成13年11月1日付け手続補正書の段落番号による。以下同じ。))、先願発明aの冷媒は、本願発明の熱媒体に相当し、先願明細書の「本発明は、新規な冷媒用の冷凍機油に関し、・・・塩素を含有しないハイドロフルオロカーボンであるトリフルオロメタン・・・、又はペンタフルオロエタン・・・を含有する冷媒との相溶性に優れ、かつ潤滑性、安定性等の特性に優れた冷凍機油に関する。」との記載からみて(摘記ハ)、先願発明aの上記エステル油からなる冷凍機油は、本願発明の潤滑剤に相当するものであり、また冷凍機油は冷媒の各成分との相溶性にすぐれているものである。
次に、先願明細書の「一般に、圧縮型冷凍機は圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器から構成され、冷媒と潤滑油の混合物がこの密封された系内を循環する。冷媒と潤滑油は、循環する間に圧縮機内では50℃以上の温度となり、冷却器内では-40℃程度の低温となるので、この-40℃〜+50℃の温度範囲で、分離することなく相溶することが必要である。もし、運転中に層分離が生じると、圧縮機の焼き付きや蒸発器の効率低下を引き起こし、装置の寿命や効率に著しい悪影響を与える。」(摘記ニ)、及び「本発明のエステルを主成分とする冷凍機油は、冷媒R-32又はR-125それぞれ単独で、あるいは両者の混合冷媒もしくは、それらとR-152aやR-134aとの混合冷媒を用いる冷凍機の潤滑油として、低温から高温までの広い領域で相互に良好な溶解性を示し、かつ潤滑性能、熱安定性、電気絶縁性に優れ、吸湿性が低く加水分解安定性が高いので、好適に使用され得る。」(摘記チ)との記載からみて、冷凍機油は、圧縮機に潤滑を付与するのに十分な量が含有されているものと認められる。
潤滑剤を構成する化合物についてみると、本願発明では、一般式(II)で表されるエステル化合物であるのに対して、先願発明aの冷凍機油もエステル油を主成分とするものであって、炭素数5〜15の多価アルコールと炭素数3〜12の1価脂肪酸より合成されたエステル化合物である。
そして、本願発明の作動流体組成物についてみると、本願明細書には、「本発明は、一般的に潤滑剤に関し、さらに詳しくは作動流体(working fluid)組成物であって潤滑剤と熱媒液とを含有してなる伝熱装置に含まれる作動流体組成物に関する。」(段落【0001】)、及び「本発明の作動流体組成物は、全ての型の圧縮サイクル式伝熱装置に有効である。従って、本発明の作動流体組成物は、熱媒液を圧縮し、その後にそれを冷却されるべき本体との熱交換関係において蒸発させることを伴う方法によって冷却を提供するのに使用し得る。また、本発明の作動流体組成物は、加熱されるべき本体との熱交換関係において熱媒液を凝縮させ、その後にそれを蒸発させることを伴う方法によって加熱を提供するのにも使用し得る。」(段落【0048】)と記載されており、作動流体組成物は、潤滑剤と熱媒液とを含有してなるものであって、圧縮サイクル式伝熱装置に用いられる流体組成物であるところ、先願発明aの冷媒と冷凍機油との組成物も圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器から構成されるサイクル式の圧縮型冷凍機に用いられる流体組成物であると認められるから(摘記ニ)、先願発明aの冷媒と冷凍機油とからなる組成物は、本願発明の作動流体組成物に相当する。

したがって、両者は、「(A)1,1,1,2-テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンからなるハイドロフルオロアルカンの混合物を含有してなる熱媒液と、(B)圧縮機に潤滑を付与するのに十分な量の潤滑剤とを含有してなり、前記潤滑剤は前記熱媒液の各成分に少なくとも部分的に溶解し得るものであり、かつエステル化合物を含有してなる作動流体組成物。」で一致し、エステル化合物が、本願発明では、請求項1に一般式(II)として記載された化合物であるのに対して、先願発明aでは、炭素数5〜15の多価アルコールと炭素数3〜12の1価脂肪酸より合成されたものである点のみが異なる。

そこで、この相違点について検討すると、先願明細書には、エステル油合成のためのアルコール成分原料として、特に好ましい化合物としてネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールが挙げられており、また、より好ましい1価脂肪酸として炭素数3〜10の直鎖又は分枝のものが挙げられている(摘記ト)。これらのアルコール成分原料と1価脂肪酸とから合成されるエステル化合物は、本願発明の一般式(II)に該当するものであり、また、先願明細書の実施例の製造例1にネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸とからなるエステル化合物(冷凍機油a)、製造例2にペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とからなるエステル化合物(冷凍機油b)、製造例3にペンタエリスリトールとn-ペンタン酸(50モル%)及びn-ヘキサン酸(50モル%)とからなるエステル化合物(冷凍機油c)が記載されており(摘記リ)、これらのエステル化合物も、本願発明の一般式(II)に該当する化合物である。
してみれば、先願明細書に記載されたエステル油は、本願発明の一般式(II)に該当する化合物からなるものであると認められ、両者は実質的に相違しないものである。
したがって、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一である。

(3-2)対比・判断2

先願明細書には、トリフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及び1,1,1,2テトラフルオロエタンが、R-32、R-125及びR-134aであると記載されており、(摘記ハ、ホ)、また、同明細書には、「表1に示す多価アルコールと、表1に示す1価脂肪酸またはこれと多塩基酸との混合物とを混合し、・・・エステル化反応を行い、・・・エステルa〜fを得た。」(摘記リ)と記載されている。表1には、製造例1として、ネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸とからなるエステル(冷凍機油a)、製造例2として、ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とからなるエステル(冷凍機油b)、製造例3として、ペンタエリスリトールとn-ペンタン酸(50モル%)及びn-ヘキサン酸(50モル%)とからなるエステル(冷凍機油c)が記載されている。そして、供試油として、これらの冷凍機油(a)〜(c)を用い、混合冷媒CとしてR-32とR-125とR-134aとを5:4:1で混合したものを用いて、供試油0.6gと冷媒2.4gとをガラスチューブに封入した後、毎分1℃で冷却を行い低温において二層分離を起こす温度、すなわち二層分離温度を測定し、冷凍機油aを用いた実施例1、冷凍機油bを用いた実施例2及び冷凍機油cを用いた実施例3について、それぞれ二層分離温度が、-50℃以下、-21℃及び-24℃であったことが記載されている(摘記ヌ)。

したがって、先願明細書には、
「(A)トリフルオロメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンからなる混合物を含有してなる冷媒と、(B)冷凍機油とを含有してなり、前記冷凍機油は、ネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸とからなるエステル化合物、ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とからなるエステル化合物及びペンタエリスリトールとn-ペンタン酸(50モル%)及びn-ヘキサン酸(50モル%)とからなるエステル化合物のいずれかのエステル化合物からなるものである、組成物。」
に係る発明が記載されているものと認められる(以下、「先願発明b」という。)。

本願発明と先願発明bを対比する。
本願明細書には、「前記熱媒液は、2成分、3成分又はそれ以上の成分を含有してなり得る。好ましいハイドロフルオロアルカン類及びフルオロアルカン類は、ジフルオロメタン(R-32)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)、ペンタフルオロエタン(R-125)、1,1-ジフルオロエタン(R-152a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R-143a)及び1,1,2-トリフルオロエタン(R-143)からなる群から選択される(但し、熱媒液の少なくとも2つの成分はR-32、R-134a及びR-125から選択されるものとする)。」と記載されているから((段落【0008】)、本願発明の(A)成分として挙げられている3成分以外のハイドロフルオロアルカン類を含み得るものと認められる。一方、先願発明bは、冷媒は、トリフルオロメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンからなる混合物を含有してなるものであり、1,1,1,2-テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンを含む混合物であるから、本願発明の「ジフルオロメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンからなる群から選択される少なくとも2種類のハイドロフルオロアルカンの混合物」に該当する。
次に、両発明の他の構成要件についてみると、先願発明bの「冷媒」、「冷凍機油」及び「冷媒及び冷凍機油からなる組成物」が本願発明の「熱媒液」、「潤滑剤」及び「作動流体組成物」に相当すること、及び先願発明bにおいて本願発明の潤滑剤に相当する冷凍機油が同じく熱媒液に相当する冷媒の各成分に相溶しうるものであること、また、同冷凍機油が圧縮機に潤滑を付与するのに十分な量含有することは、前記(3-1)において、本願発明と先願発明aとの対比判断において行った検討結果と同様である。

してみれば、先願発明bは、本願発明のすべての構成要件を具備するものであって、相違する点はない。
したがって、本願発明bは、先願明細書に記載された発明と同一である。

3 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることはできないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-24 
結審通知日 2006-03-28 
審決日 2006-04-14 
出願番号 特願平4-270312
審決分類 P 1 8・ 161- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 栄和  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 原田 隆興
鈴木 紀子
発明の名称 作動流体組成物  
代理人 浜野 孝雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ