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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04H
管理番号 1143673
審判番号 無効2005-80203  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-11-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-01 
確定日 2006-07-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2682608号発明「多層階蔵型収納付き建物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
平成 5年 5月19日 出願
平成 9年 8月 8日 本件特許の設定登録
平成17年 7月 1日 本件無効審判の請求
平成17年 9月16日 訂正請求書及び答弁書の提出
平成17年11月10日 弁駁書の提出
平成18年 3月10日 口頭審理
平成18年 3月10日 請求人、口頭審理陳述要領書を陳述
平成18年 3月30日 答弁書(第2)
平成18年 4月12日 弁駁書(第2)

2.訂正の適否
(2-1)訂正の内容
(訂正事項a):
『【請求項1】 上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体の躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内を上下に複数に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも一つの収納空間の床を上下の階の間に設け、該上下の階の間に設けられた収納空間の出入り口付近の床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたことを特徴とする多層階蔵型収納付き建物。
【請求項2】 前記周壁が建物本体の妻行方向の中央部寄りに設けられていることを特徴とする請求項1記載の多層蔵型収納付き建物。
【請求項3】 前記多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置するように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の多層階蔵型収納付き建物。
【請求項4】 上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体の躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内を上下に複数に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも一つの収納空間の床を上下の階の間に設け、該上下の階の間に設けられた収納空間の出入り口付近の床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設け、さらに最上層の前記収納空間の少なくとも一部が屋根裏空間を使用し、かつ、最下層の前記収納空間の少なくとも一部が、地盤面を掘り下げた地階を使用していることを特徴とする多層階蔵型収納付き建物。』を、
「【請求項1】 上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体妻方向の中央寄りの躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも前記上下階に対応する部分を区画する全床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたことを特徴とする多層階蔵型収納付き建物。
【請求項2】 前記多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の多層階蔵型収納付き建物。
【請求項3】 前記多層構造の収納空間のうち最上層の前記収納空間の少なくとも一部が屋根裏空間を使用し、かつ、最下層の前記収納空間の少なくとも一部が、地盤面を掘り下げた地階を使用していることを特徴とする請求項1記載の多層階蔵型収納付き建物。」と訂正する。
(訂正事項b):
【0008】
『【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体の躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内を上下に複数に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも一つの収納空間の床を上下の階の間に設け、該上下の階の間に設けられた収納空間の出入り口付近の床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたことを特徴としている。ここで、階段の踊り場とは、一般に、階段の途中に設けられた踏面の広い段で、階段を昇降する際の危険防止や休息のために設けられたものをいうが、本発明においては、最上層の収納空間への出入り口付近に設けられた、室内階段の頂上の踏面の広い部分も踊り場ということにする。』を
「【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体妻方向の中央寄りの躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも前記上下階に対応する部分を区画する全床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたことを特徴としている。ここで、階段の踊り場とは、一般に、階段の途中に設けられた踏面の広い段で、階段を昇降する際の危険防止や休息のために設けられたものをいうが、本発明においては、最上層の収納空間への出入り口付近に設けられた、室内階段の頂上の踏面の広い部分も踊り場ということにする。」と訂正する。
(訂正事項c):
【0009】
『請求項2に係る発明は、前記多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置するように構成されていることを特徴としている。』を
「請求項2に係る発明は、請求項1において、前記多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置するように構成されていることを特徴としている。」と訂正する。
(訂正事項d):
【0010】
『請求項3に係る発明は、請求項1または2において、前記多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置するように構成されていることを特徴としている。』を
「請求項3に係る発明は、請求項1において、前記多層構造の収納空間のうち最上層の前記収納空間の少なくとも一部が屋根裏空間を使用し、かつ、最下層の前記収納空間の少なくとも一部が、地盤面を掘り下げた地階を使用していることを特徴としている。」と訂正する。
(訂正事項e):
【0011】〜【0016】を削除する。
(訂正事項f):
【0031】
『請求項1記載の多層階蔵型収納付き建物においては、収納空間が建物本体内の上下階方向に複数に区画された多層構造となっているので、これら収納空間の天井高は例えば一般の居室よりも低くなるが、逆に手の届く範囲となるので、上部が無駄な空間とならず、また、これら各収納空間には出入り口が設けられているので、各収納空間へ直接出入りすることができ、したがって、蔵のような大きな収納空間を設けてもこれを有効利用できる上に使い勝手も極めて良好なものとなる。また、前記複数の収納空間のうちの少なくとも一つの収納空間の床を上下の階の間に設け、該上下の階の間に設けられた収納空間の出入り口付近の床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成したので、上下の階の間に設けられた収納空間の床と、踊り場とが同一レベルとなり、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたので、前記上下の階の間に床が設けられた収納空間に、前記室内下階段と室内上階段の踊り場から出入り口を通して直接出入りすることができ、これにより、収納空間の使い勝手がさらに良好なものとなる。』を
「請求項1記載の多層階蔵型収納付き建物においては、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体妻方向の中央寄りの躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設けているので、これら収納空間の天井高は例えば一般の居室よりも低くなるが、逆に手の届く範囲となるので、上部が無駄な空間とならず、また、これら各収納空間には出入り口が設けられているので、各収納空間へ直接出入りすることができ、したがって、蔵のような大きな収納空間を設けてもこれを有効利用できる上に使い勝手も極めて良好なものとなる。また、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも前記上下階に対応する部分を区画する全床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成したので、上下の階の間に設けられた収納空間の床と、踊り場とが同一レベルとなり、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたので、前記上下の階の間に床が設けられた収納空間に、前記室内下階段と室内上階段の踊り場から出入り口を通して直接出入りすることができ、これにより、収納空間の使い勝手がさらに良好なものとなる。」と訂正する。
(訂正事項g):
【0034】
『請求項2記載の多層階蔵型収納付き建物においては、前記周壁が構造材で筒状に形成されるとともに、この周壁が建物本体の躯体に結合されているので、該周壁が筒状のコアを構成して建物全体の強度を向上させるが、該周壁が建物本体の妻行方向の中央部寄りに設けられているので、建物の補強作用がより効果的になり、しかも建物の高い所の屋根裏を収納空間の一部に利用できることになり、これにより収納空間を多層構造としても、収納空間の必要な天井高を確保することが可能になる。』を
「更に、多層階蔵型収納付き建物においては、前記周壁が構造材で筒状に形成されるとともに、この周壁が建物本体の躯体に結合されているので、該周壁が筒状のコアを構成して建物全体の強度を向上させるが、該周壁が建物本体の妻行方向の中央部寄りに設けられているので、建物の補強作用がより効果的になり、しかも建物の高い所の屋根裏を収納空間の一部に利用できることになり、これにより収納空間を多層構造としても、収納空間の必要な天井高を確保することが可能になる。」と訂正する。
(訂正事項h):
【0035】
『請求項3記載の多層階蔵型収納付き建物においては、多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置しているので、下階が一階である場合、この一階に少なくとも2層の収納空間を構成することができる。』

「請求項2記載の多層階蔵型収納付き建物においては、多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置しているので、下階が一階である場合、この一階に少なくとも2層の収納空間を構成することができる。」と訂正する。
(訂正事項i):
【0036】
『請求項4の多層階蔵型収納付き建物においては、請求項1と同様の効果の他に次のような優れた効果を奏することができる。すなわち、最上層の前記収納空間の少なくとも一部が屋根裏空間を使用し、かつ、最下層の前記収納空間の少なくとも一部が、地盤面を掘り下げた地階を使用しているので、屋根裏空間と地階との有効利用を図ることができるとともに、これら最上層および最下層のそれぞれの収納空間に出入り口から直接出入りして収納物を出し入れすることができる。さらに、最下層の収納空間は少なくとも一部が地階を使用する形態で下方へ下げられ、最上層の収納空間は少なくとも一部が天井裏空間を使用する形態で上方へ上げられるので、各収納空間の天井高さを必要な程度に十分確保することができる。』を
「請求項3の多層階蔵型収納付き建物においては、請求項1と同様の効果の他に次のような優れた効果を奏することができる。すなわち、最上層の前記収納空間の少なくとも一部が屋根裏空間を使用し、かつ、最下層の前記収納空間の少なくとも一部が、地盤面を掘り下げた地階を使用しているので、屋根裏空間と地階との有効利用を図ることができるとともに、これら最上層および最下層のそれぞれの収納空間に出入り口から直接出入りして収納物を出し入れすることができる。さらに、最下層の収納空間は少なくとも一部が地階を使用する形態で下方へ下げられ、最上層の収納空間は少なくとも一部が天井裏空間を使用する形態で上方へ上げられるので、各収納空間の天井高さを必要な程度に十分確保することができる。」と訂正する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、本件特許明細書【0016】、【0018】、【0019】及び【0027】に記載されており、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項b〜iは、上記訂正事項aの訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明を整合させる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項a〜iは、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2-3)むすび
したがって、上記訂正事項a〜iは、特許法第134条の2第1項ただし書きに適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、上記訂正が認められることから、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のものと認める。
「【請求項1】 上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体妻方向の中央寄りの躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも前記上下階に対応する部分を区画する全床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたことを特徴とする多層階蔵型収納付き建物。
【請求項2】 前記多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の多層階蔵型収納付き建物。
【請求項3】 前記多層構造の収納空間のうち最上層の前記収納空間の少なくとも一部が屋根裏空間を使用し、かつ、最下層の前記収納空間の少なくとも一部が、地盤面を掘り下げた地階を使用していることを特徴とする請求項1記載の多層階蔵型収納付き建物。」

4.当事者の主張
請求人は、審判請求書において、本件発明の特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、訂正前の本件発明1が特許法第29条第1項第3号に該当するか、また、訂正前の本件発明1〜4が同法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができないと主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。
これに対し、被請求人は、訂正前の本件発明1〜4を本件発明1〜3に訂正し、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めた。
請求人は、平成17年11月10日付け弁駁書において、本件発明1〜3は、特許法第29条第2項に違反し、同法第36条の規定に違反しているから特許を受けることができないと主張し、証拠方法として更に甲第1号証の2甲第5号証を提出したが、特許法第36条違反の主張は、後に取り下げた(第1回口頭審理調書参照)。

5.甲号証及びその記載の内容
甲第1号証(甲第1号証の2):実願昭63-157505号(実開平2-77242号)のマイクロフィルム
甲第2号証:「モダンリビング」株式会社 婦人画報社、平成3年(1991年)3月1日発行、第74号(1991年3月号)、158頁
甲第3号証:「枠組壁工法技術基準・同解説」社団法人 日本ツーバイフォー建築協会、昭和57年8月25日発行、286-289頁
甲第4号証:「建築知識」株式会社 建築知識 昭和55年3月1日発行、第258号(1980年3月号)、48-49頁
甲第5号証:「新建築学大系 25 構造計画」 編者 新建築学大系編集委員会 株式会社 彰国社 昭和57年11月20日 第1版第2刷発行

甲第1号証には次の事項が記載されている。
「1.木造独立住宅において、水回り関係諸室をまとめ、その天井高を、居室よりも低くして、南面する居室などの天井を高く構成し、上記水回り関係諸室の上方を利用して、1〜2階の中間に多目的スペースを組み込んだことを特徴とする住宅。
・・・
5.上記多目的スペースを、現場造作型のほかに既製床版懸垂型、ユニット嵌込み据置型で構成した請求項1あるいは請求項2記載の住宅。」(実用新案登録請求の範囲)、
「[産業上の利用分野]
本案は、1〜2階の中間に多目的スペースを組み込んだ住宅を提供しようとするものである。」(明細書2頁7〜10頁)、
「水回り関係諸室を北側にまとめて、それらの天井を低めに抑えることにより、上部に生れた余裕の高さ(北)と南面居室を高い天井にするために上積みされた高さ(南)とを組合わせることにより、1〜2階の北側中間部に、頭のぶつからない程度のスペースが生れる。
それは、上下階の中間に位置し、どの階からも近く(階段の踊り場を利用して)、物の出し入れも比較的容易で、通風、採光も可能な乾燥した収納スペースとなる。」(同6頁5〜15行)、
「Aは本案の1〜2階の中間に多目的スペースを組み込んだ住宅である。
1は南面する居室、2は北側の台所、3は北側のユーティリティ(浴室・便所・洗面洗濯場)、4は1〜2階の中間に位置する多目的スペースで、上記北側の台所2とユーティリティ3の上方に配設されている。
5は階段踊り場より上記多目的スペース4への出入り動線 ・・・である。」(同8頁3〜15行)、
「図中、12は玄関、13は玄関ホール、14は納戸、15は便所、16は、洗面洗濯場、17 は浴室である。
上記北側の台所2とユーティリティ3は、天井高さを低めに抑えて、上部に余裕の空間を生み出すよう構成されている。この例では台所2、便所15、洗面洗濯場16、浴室17など炊事・排泄・洗面洗濯等の諸行為が行われる水回り関係諸室をまとめて配置している。
18は例えば子供室(洋間)、19は例えば書斎、20は例えば寝室である。」(同8頁19行〜9頁10行)、
「上述の構成の組合せにより(マル1)上下階の中間に条件の良い収納スペースを確保し、・・・」(同9頁11〜12行)、
「また、上記の中間スペースの造り方として、(マル1)現場造作型の他に、(マル2)既製床版懸垂型、(マル3)ユニット嵌込み据置型等の3通りの方式が考えられる。
第1方式は第4図を参照して、現場で造作し、構造と一体化したもの1A。
第2方式は第5図を参照して、2階床梁に懸垂方式で既製(工場等)の床パネルや床版等1B1を固定したもの1B。
第3方式は第6図を参照して、収納床又はボックス形式のもの、ユニット化された設備1C1等を嵌込む方式で設置固定したもの1C。」(同10頁2〜14行)、
「4.図面の簡単な説明
第1図は1階平面図、
第2図は2階平面図、
第3図はA-A線断面図、
第4図は現場造作、構造一体化方式の場合の中間スペース施工法の略図的説明図、
第5図は既成床パネル、床版懸垂方式の場合の略図的説明図、
第6図は収納ボックス又は、ユニット化した設備ボックスなどの嵌込み据置方式の場合の略図的説明図」(同12頁7〜17行)、
「 1・・・南面する居室、
2・・・北側の台所、
3・・・北側のユーティリティ(浴室・便所・洗面洗濯場)、
4・・・多目的スペース、
5・・・階段踊り場より多目的スペースへの出入り動線、
・・・
12・・・玄関、
13・・・玄関ホール、
14・・・納戸、
・・・
18・・・子供室(洋間)
19・・・書斎、
20・・・寝室、
1A・・・中間スペース構造一体化方式のもの、
1B・・・中間スペース懸垂方式のもの、」(同13頁2行〜14頁7行)。

また、第1図に次のことが記載されている。
「1階においては、北東側には、台所2及びユーティリティ3が設けられている。北西側には、矩形の壁(請求人が加入した赤線矩形枠で包囲してある)が設けられており、その内側に、玄関12、玄関ホール13及び納戸14が設けられている。 台所2及びユーティリティ3、並びに、玄関ホール13及び納戸14との間には、1階から2階に亘る階段が設けられ、階段の中間部分には踊り場が設けられている。
壁には、玄関ホール12及び玄関ホール13と壁の外側とを連通する開口部が形成されている。
南東側及び南西側には、それぞれ居室1、居室1が設けられている。」

そして、第2図及び第3図には次のことが記載されている。
「北東側には、1階の「台所2、ユーティリティ3」の上に、(東側)多目的スペース4(屈曲矢印参照)及び寝室20が順に積層されている。
東側多目的スペース4と、上部階段と下部階段との間の踊り場とは、床面の高さが一致している(第3図参照)。
2階の南東側及び南西側には、それぞれ子供室18、子供室18が設けられている。」

また、明細書には直接記載はされていないが、明細書の東側多目的スペース4(第2図右上参照)に関する記載、及び、第2図左上の記載からして、住宅の北西の角部に上下階方向に延在し平面視矩形の壁を設けるとともに、前記壁内の1階の階高に対応する部分を上下に区画し、上の区画に西側多目的スペース4を設けてあること、及び、該西側多目的スペース4の壁に出入り口を設け、該西側多目的スペース4のうちの1階の階高に対応する部分を区画する床を西側多目的スペース4内から外部に延出させて踊り場を形成し、この踊り場に、1階に至る室内下階段および2階に至る室内上階段を設けたことは明らかである。

上記記載及び図面の記載並びに技術常識から、甲第1号証には、
「下階に居室1,1等が配置され、上階に子供室18,18,書斎19、寝室20が配置された住宅において、
住宅の北西の角部に上下階方向に延在し平面視矩形の壁を設けるとともに、前記壁内の下階の階高に対応する部分を上下に区画し、上の区画に西側多目的スペース4を設け、下の区画は納戸14、玄関12及び玄関ホール13を設け、
該西側多目的スペース4の壁に出入り口を設け、
該西側多目的スペース4のうちの下階の階高に対応する部分を区画する床を西側多目的スペース4内から外部に延出させて踊り場を形成し、
この踊り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けた住宅。」の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

甲第2号証の158頁左下には、「階段室」を有する建物が記載され、玄関があり、1階にリビングが設けられており、2階に子供室が設けられ、子供室はリビングの直上に位置し、リビング及び子供室の側壁に沿って階段室が設けられ、階段側壁(リビング、子供室とは反対側の壁)に沿って、2つの階段とその間の踊り場が設けられ、踊り場の下部階段の側壁に出入り口を有する共用トランク、踊り場に出入り口を有する娘用のトランクルーム(テニス、スキー、旅行)と息子用のトランクルーム(スキー、野球)、上部の階段の上部踊り場に出入り口を有する父用トランクルーム(スキー、ゴルフ、釣り)と母用トランクルーム(テニス、ゴルフ)が設けられ、各トランクルームの階段の傾斜方向とほぼ同じ傾斜面上に、トップライトが設けられたことが記載されている。

甲第3号証には、286頁2行〜5行には「この設計・計算例は・・・小屋裏利用3階建てタウンハウス(長屋建住宅)のモデルプランであり、・・・小屋裏利用3階建住宅の第一号として・・・実際に建設されたものである。」と記載され、289頁の1階平面図、2階平面図、3階平面図、東側立面図等によれば、これら各平面図における住宅の右側の3階には、小屋裏物置が設けられており、この小屋裏物置の周壁は、建物本体の妻行方向の中心部寄りに設けられていることが記載されている。

甲第4号証には、「2階に納戸及び和室が設けられ、納戸及び和室の上に屋根裏を利用した屋根裏物置が設けられた建物」が記載されている。

甲第5号証には、図面と共に次のことが記載されている。
「3.1.5 剛性と変形
「剛性」と「変形」は同じ現象を表と裏から見た場合の表現であり、剛性が大きければ変形は少なく、剛性が小さければ変形は大きくなる。式で表せば、〔変形を生じさせる力〕=[剛性〕×〔変形量〕の関係にある。建物の構造設計においては、強度と剛性が二つの大きな柱になっている。特に、地震力の大きい日本においては、この剛性〜変形についての認識を十分に持って初めて耐震設計が可能になるものである。」(114頁下から2行〜115頁5行)、
「1)耐震要素の量 地震に対してどのような形で抵抗させるかは建物によってすべて異なる。が、基本になる形は面(壁)と線(ラーメン)である。壁は拘束さえ十分にされていれば剛性・耐力ともに非常に大きく(3.1.5節参照)中低層においては最適の耐震要素となる。柱は部材の長さが短いほど(I/hが大きくなるほど)剛性が高くなり、水平力に対する抵抗が大きくなる。一般階高の中間に梁を2段に入れて柱長さを短縮した場合も、耐力・靭性さえ十分にあれば、耐震要素として活用できる一つの手段である。」(130頁下から8行〜2行)、
「3)耐震要素とコア 平面計画との関連でできる耐震要素にコアがある。コアは概して剛性の高い壁で構成されるので、必然的に耐震要素になってしまう。このコアの配置には、耐震要素の配置で述べられたことが、そのまま当てはまる。中央コア、ダブルコア(両側)、四隅コアなどは耐震壁として有効に働くが、偏心コア(中、高層ではこのケースが多い)の場合は注意を要する。」(132頁4〜8行)、
「1個のコアが建物の中央部に配置されている。」(132頁 図3.35(a))、
「2個のコアが建物の対向する二辺の全長に亘ってそれぞれ配置されている。」(同図3.35(b))、
「4個のコアが建物の四隅にそれぞれ配置されている。」(同図3.35(c))、
「1個のコアが建物の1辺(隅は除く)に配置されている。」(同図3.35(d))、
「2)骨組剛性の連続性 鉛直荷重、水平荷重ともに、地盤までスムーズに伝達されることが原則である。断面がほぼ一様な骨組が上から下まで連続している場合には力はほぼ滑らかに伝達されるが、そうでない場合には、力の局部的な部材による負担、もって回った力の伝達等が余儀なくされる。これを動的応答解析的な現象で見ると、局部的に変形が大きい所があって、弾塑性時にこれが急激に増大するとか、局部的に応力が集中して、この部分の破壊を早めるといった減少につながり、建物の弱点になりかねない。」(133頁5〜11行)、
「壁の除去は水平剛性、耐力の不連続性につながる。上から壁を伝わって下部に伝達されてきた水平力は、壁がとぎれた位置で、壁から床へ、そして他の耐震要素へと伝達されなければならないが、この伝達がうまくいかないと下部柱に耐力以上の水平力が働いて柱を破壊させる。」(133頁下から8行〜最下行)。

6.対比・判断
(6-1)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、
甲第1号証記載の発明の「住宅」は、本件発明1の「建物」に相当し、
以下、同様に、「西側多目的スペース4」が「収納空間」に、「踊り場」が「躍り場」に、それぞれ相当し、甲第1号証記載の発明の「下階に居室1,1等が配置され、上階に子供室18,18、書斎19、寝室20が配置された」は、「上下階に亘って複数の居室を配置した」ということができ、本件発明1の「住宅の北西角部に設けられた上下階方向に延在し平面視矩形の壁」は、玄関12、玄関ホール13、納戸14及び書斎19の周囲を囲むことから、「建物本体内に上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁」ということができ、甲第1号証記載の発明は収納空間(多目的スペース4)を備えることから蔵型収納付き建物ということができ、両者は、
「上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、
建物本体内に上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を設けるとともに、前記周壁内の前記下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって上の区画に収納空間を設け、
該収納空間の周壁に出入り口を設け、
該収納空間の下階に対応する部分を区画する床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、
この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けた多層蔵型収納付き建物。」である点で一致し、次の各点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は「建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体妻方向の中央寄りの躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け」たの対し、甲第1号証記載の発明は「上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を建物本体の角部に設けるとともに、前記周壁内の下階の階高に対応する部分を上下に区画し、上の区画に収納空間(西側多目的スペース4)を設け、下の区画は納戸14、玄関12及び玄関ホール13を設けた」点。
(相違点2)
本件発明1は「(上下階の)各(多層構造の)収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け」ているのに対し、甲第1号証記載の発明は、下階に収納空間を設けているものの、上階には収納空間自体が設けられておらず、該収納空間の周壁の上階部分には出入り口が設けられていない点。
(相違点3)
本件発明は「前記複数の収納空間のうちの少なくとも前記上下階に対応する部分を区画する全床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けた」のに対し、甲第1号証記載の発明は、下階に収納空間を設けているものの、上階には多層構造の収納空間自体が設けられておらず、上階には踊り場も階段も設けられていない点。

29条1項3号の検討〉
上記相違点1を検討する。
本件発明1は、各収納空間K1〜K4は上下に積層された構造でしかも構造材としての周壁Rを備えているので(本件特許明細書【0025】参照)、すなわち、上記相違点1の本件発明1に係る構成を備えているので、同【0007】、【0019】、【0025】、【0032】及び【0034】等に記載されているように、「この周壁R部分が建物本体10の上下に延在するいわゆる角筒形のコアのような構造を構成することになり、この結果、建物本体10がこの周壁Rにより補強されて、その分、構造強度が向上する。」(同【0025】参照)という格別の作用効果を奏する。
一方、甲第1号証には、たまたま、住宅本体に上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を住宅の角部に設けることが認められるだけであって、甲第1号証記載の発明が、建物本体を仮に補強することがあっても、該筒状の周壁が角部に偏在していることから、本件発明1のように収納空間を設けた筒状の周壁を建物本体妻方向の中央よりに設けたものに比べ、建物本体の補強は本件発明1に比し限定的なものとなる。
また、甲第1号証記載の下階の開口部は、(1)玄関12の扉と(2)玄関ホール13から階段へ通ずる出入り口と、2個所あり、強度的に弱いと考えられるから、甲第1号証記載の北西の平面視矩形の壁が、筒状の周壁といえるとしても、甲第1号証には、本件発明1のように建物本体の構造強度を向上させるという技術思想は記載されているとはいえない。このことは、甲第1号証に、多目的スペースとして、筒状の周壁のみならず、第5図に示されるように上階床梁に懸垂方式で床パネルや床版等1B1を固定したものや、第6図に示されるように収納床又はボックス形式のもの、ユニット化された設備1C1を嵌込む方式を許容していることからも伺える。
したがって、本件発明1は、少なくとも上記本件発明1に係る相違点1の構成を有し、該構成が甲第1号証に記載されているに等しいということもできないから、本件発明1が甲第1号証記載の発明ということはできず、特許法第29条第1項第3号に該当するということはできない。

29条2項の検討〉
請求人は、更に、甲第2号証〜甲第5号証を挙げ、本件発明1は、甲第1号証〜甲第5号証記載の発明に基いて容易に発明をすることができたと主張するので、以下検討する。
甲第2号証には、踊り場の下部階段の側壁に出入り口を有する共用トランク、踊り場に出入り口を有する娘用のトランクルーム(テニス、スキー、旅行)と息子用のトランクルーム(スキー、野球)、上部の階段の上部踊り場に出入り口を有する父用トランクルーム(スキー、ゴルフ、釣り)と母用トランクルーム(テニス、ゴルフ)が設けられているが、共用トランクルーム(収納空間)と、娘用及び息子用トランクルーム(収納空間)のみは、上下に区画していると認められるが、各トランクルームの上面には、階段の傾斜方向とほぼ同じ傾斜面で各トップライト(4つ)が設けられたことが記載されているのみで、本件発明1のように「周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け」たことは記載されていない。
甲第3号証には、この小屋裏物置の周壁のみが、建物本体の妻行方向の中心部寄りに設けられていることが記載されているだけであって、本件発明1のように「周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け」たものとは認められない。
甲第4号証には、「2階に納戸及び和室が設けられ、納戸及び和室の上に屋根裏を利用した屋根裏物置が設けられた建物」が記載されているだけであって、これも、本件発明1のように「周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け」たものとは認められない。
甲第5号証には、耐震要素として建物にコア設けること、該コアの平面方向位置が様々であること、階高の中間に梁を設けること、及び、断面がほぼ一様な骨組みが上から下まで連続している場合には力がほぼ滑らかに伝達されることが記載されているが、他の甲号証と同様に、本件発明1のように「周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け」たことは記載されていない。また、甲第5号証に、コア(耐震壁)を(a)中央コア、・・・、(d)偏心コアと、コアの平面方向位置が様々であるしたものが記載されているが、図3.35を参照しても、請求人が主張するような「筒状の周壁」が記載されているとは認められず、該コアが壁に囲まれた収納空間を表しているとは、直ちにいえないから、例え、甲第5号証を参酌しても、甲第1号証記載の発明の収納空間(西側多目的スペース4)を建物本体妻方向の中央寄りの躯体に結合して設けて本願発明1の構成とすることは、当業者が想到できたものとはいえない。
請求人は、甲第1号証記載の建物のような「上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁」を備えた建物においては、外周壁の配置位置を建物の中央部とするか、建物の隅とするかは、甲第5号証を参酌すれば、単なる設計事項であるか、容易に想到できる旨(口頭審理陳述要領書、弁駁書(第2))主張する。
しかしながら、甲第1号証には、該「筒状の周壁」により建物の補強を図ったという記載はなく、たまたま、納戸、玄関及び玄関ホールのように専有面積の比較的少ない部屋から成っているので「筒状の周壁」といえなくもないだけのものであって、該壁は建物本体の躯体自身から分離不能のものであるから、該壁を躯体から切り離して、建物本体内の外の場所、例えば、建物本体妻方向の中央に配置することは不可能であり、しかも、甲第1号証記載の「上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁」は、周壁内の下階の階高に対応する部分を上下に区画し、上の区画に西側多目的スペース4を設け、下の区画は納戸14、玄関12及び玄関ホール13を設けたものであり、周壁内に、建物の外部に接すべき玄関12を含む周壁を建物の中央部にそのまま移動することは不可能であり、また、単なる設計的事項とはいえない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6-2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3と甲第1号証記載の発明とを対比すると、少なくとも上記(6-1)の相違点1において相違し、本件発明1が、上記のとおり、甲第1号証記載の発明でもなく、甲第1号証ないし甲第5号証等記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2及び3も同様に、甲第1号証記載の発明でもなく、甲第1号証ないし甲第5号証等記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜3に係る本件特許は、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多層階蔵型収納付き建物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体妻方向の中央寄りの躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも前記上下階に対応する部分を区画する全床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたことを特徴とする多層階蔵型収納付き建物。
【請求項2】前記多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の多層階蔵型収納付き建物。
【請求項3】前記多層構造の収納空間のうち最上層の前記収納空間の少なくとも一部が屋根裏空間を使用し、かつ、最下層の前記収納空間の少なくとも一部が、地盤面を掘り下げた地階を使用していることを特徴とする請求項1記載の多層階蔵型収納付き建物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、蔵のような大型の収納空間を備えた建物に係り、更に詳しくは、上下階方向に複数に区画された多層構造の収納空間を備えた多層階蔵型収納付き建物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、一般住宅や集合住宅等の建物内には、物品を収納するために押入、天袋、納戸等が設けられ、また近年では床下空間を利用した床下収納庫、さらには屋根裏収納などが設けれている。
【0003】
ところで、近年においてはその家族構成や生活パターンの変化と共に、住戸内にも家具その他の多くの物品が揃えられ、また、その物品の使用形態も季節等に応じて多用化していることなどから、必要に応じてこれらの物品を建物内に収納しておくための大きな収納空間を必要とするようになってきている。この点は、土地の高騰に伴う敷地の有効利用および建物内容積の有効利用の観点からも、建物内に可能な限り大きくしかも効率的な収納空間を設けておくことが望まれている。
【0004】
そこで、本出願人は既に、このような点を考慮した建物として、図7および図8に示す構造の収納付き戸建て住宅を提案した。これは、上下階に亘って複数の居室1、2を配置した建物において、下階居室1の天井3と、その上階居室2の床4との間のほぼ全域を収納空間に形成したもので、具体的には、下階居室1の天井3と上階居室2の床4との間に、即ち一階の壁パネルP1と二階の壁パネルP2との間に天輪パネルPを配置して収納空間Kを形成し、さらに上階居室2の床4に収納空間Kへの物品出し入れ用の開閉蓋5を設けた構成としたものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の収納構造においては、確かに大きな収納空間を建物内に設けることができるものの、単に収納空間を平面的に広くしたいわゆる大型の床下収納を形成したような構造となるために、物品の出し入れ等を行う際に使い勝手が悪いという問題があった。また、このように収納空間を平面的に広く形成しても、例えば間取りとの関係などにおいて開閉蓋5を設ける場所や設置数などに制約を受けるためにこれを有効利用しにくいという問題もあった。さらに工費の点からみても、一階の壁パネルP1と二階の壁パネルP2との間に天輪パネルPを設ける構造であるために、その分、工事費用が割高になってしまうという問題もあった。
【0006】
一方、例えば住戸内に設けられる納戸のような収納空間においては、ほとんどの場合、手の届く範囲内が有効利用される空間であり、居住性を重視した通常の居室と同じ天井高をとっても、上部は利用されない無駄な空間になっていた。
【0007】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、いわゆる蔵のような大きな収納空間を設けてこれを有効利用することができる上に使い勝手も非常に良好であり、また、収納空間を構成する構造材が強固なコアを構成して建物全体の強度を向上させる構造となり、しかも工費の増大も十分に抑制できる多層階蔵型収納付き建物を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体妻方向の中央寄りの躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも前記上下階に対応する部分を区画する全床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成し、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたことを特徴としている。ここで、階段の踊り場とは、一般に、階段の途中に設けられた踏面の広い段で、階段を昇降する際の危険防止や休息のために設けられたものをいうが、本発明においては、最上層の収納空間への出入り口付近に設けられた、室内階段の頂上の踏面の広い部分も踊り場ということにする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置するように構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1において、前記多層構造の収納空間のうち最上層の前記収納空間の少なくとも一部が屋根裏空間を使用し、かつ、最下層の前記収納空間の少なくとも一部が、地盤面を掘り下げた地階を使用していることを特徴としている。
【0011】
(削除)
【0012】
(削除)
【0013】
(削除)
【0014】
(削除)
【0015】
(削除)
【0016】
【実施例】
以下、本発明に係る多層階蔵型収納付き建物の実施例を図1乃至図5に基づいて説明する。実施例による多層階蔵型収納付き建物は、上下階に亘って複数の居室を配置した建物において、建物本体10内に、上下階方向に複数に区画されかつ周壁Rを備えた多層構造の収納空間K1〜K4を設け、これら各収納空間K1〜K4の周壁Rに出入り口C1〜C4をそれぞれ設け、そして、各出入り口C1〜C4付近の前記周壁Rの外面に室内階段S1〜S4の踊り場11、12および14をそれぞれ設けた構成としたものである。
【0017】
以下、これらの詳細について説明すると、建物本体10は、この実施例では図4および図5に示すようにパネル組立型の寄せ棟式二階建て住戸の例が示されており、下階である一階15および上階である二階16には、それぞれ複数の居室17、18が設けられている。また、各階には必要な機能に応じて玄関19やホール20、浴室21、洗面所22等が設けられている。
【0018】
そして、建物本体10内に設けられた多層構造の収納空間K1〜K4は、図1に示すように、ここでは一階に2層、二階に2層の合計4層となった構成であり、最下層の収納空間K1の床L1部分は一階の床F1よりも下方に位置するように、実施例では地盤30の表面とほぼ同一レベルとなるように一段下げられた構成とされている。また、最上層の収納空間K4は一部が屋根裏空間をも利用する構成とされている。ちなみに、各収納空間の天井高は、図示例による設計では収納空間K1が1.82m、K2が1.64m、K3が1.82m、K4が1.80mとされている。
【0019】
前記各収納空間K1〜K4の外壁を構成する周壁Rは、図2および図3に示すように、構造材である壁パネル等により間口が約2間、奥行き1間の平面矩形状に構成され、全体として一階15の中央部寄りになるように設けられていると共に、各収納空間K1〜K4が下階および上階に亘って積層構造となったいわゆるタワー状に構成され、これにより、建物本体10内に角筒型のコアが形成されている。
【0020】
収納空間への各出入り口C1〜C4のうち、収納空間K3への出入り口を除く残りの出入り口C1、C2、C4はいずれも周壁Rの片面側に設けられ、出入り口C3については、二階居室(寝室)23側に設けられている。したがって、各室内階段や踊り場もこれらの出入り口に対応するように周壁Rの片面側に集中させて上下に積層する形態で設けられている。
【0021】
即ち、収納空間K3を除く各収納空間K1、K2およびK4に対応して、これらの収納空間の出入り口C1、C2およびC4付近の周壁Rの外面には、それらの出入り口にそれぞれ連通する踊り場11、12、14を備えた室内階段S1、S2、S4が設けられており、これにより一階15から室内階段S1、踊り場11を通って収納空間K1へ、一階15から室内階段S2、踊り場12を通って収納空間K2へ、室内階段S2、踊り場12、室内階段S3を通って二階16へ、二階16から室内階段S4、踊り場14を通って収納空間K4へと移動可能に構成されている。
【0022】
なお、実施例では、室内階段の踊り場11、12、14と収納空間の床L1、L2、L4とは各々同一レベルとなるように設定されている。また、二階の収納空間K3については、その収納空間K3の床L3と二階の床F2とが同一レベルに設定されている。
【0023】
このように構成された多層階蔵型収納付き建物においては、収納空間が一階に2層、二階に2層の合計4層となっているが、各収納空間K1〜K4の高さは1.6m以上確保されており、しかも各収納空間K1〜K4のいずれにも出入り口C1〜C4がそれぞれ設けられているので、それら各収納空間に直接出入りして物品の出し入れを行うことができる。また、収納空間K3の出入り口C3は二階の床F2と同一レベルにあり、収納空間K1、K2、K4の出入り口C1、C2、C4には、これと連絡する室内階段S1、S2、S4の踊り場11、12、14がそれぞれ設けられているので、この踊り場から収納空間へと直接出入りすることができることになり、これらの結果、各収納空間は極めて使い勝手が良好になる。
【0024】
また、各収納空間K1〜K4は、一般の居室よりも天井高が低くなっていて、天井まで手の届く空間であり、しかも各階に2層の合計4層の構成となっているので、このように蔵のような大きな収納空間を設けても、これを極めて効率的かつ有効に利用することができるようになる。
【0025】
また、各収納空間K1〜K4は上下に積層された構造でしかも構造材としての周壁Rを備えているので、この周壁R部分が建物本体10の上下に延在するいわゆる角筒形のコアのような構造を構成することになり、この結果、建物本体10がこの周壁Rにより補強されて、その分、構造強度が向上する。
【0026】
また、収納空間K1〜K4の周壁Rは、一階および二階の間仕切りとしての機能も兼ねているから、収納空間K2およびK4の床L1およびL4の他には特に余分な工事を必要とすることもなく、したがって工費の点から見ても、特別に割高になるといったこともない。
【0027】
図6は、本発明の他の実施例をモデル図的に示したもので、この実施例では、最下層の収納空間K1の床L1部分について、基礎30を支持する地盤31の表面よりもさらに一段下げた構成とされ、また、各収納空間K1〜K4は建物本体10の妻行方向のほぼ中央部に設けられ、さらに、建物本体10の大きさや間取り等の関係で室内階段11、12、13、14の配設位置や構造などが少し変更されている例が示されている。
【0028】
図6に示すような構成とした場合、最下層の収納空間K1は一部が地階となる形態で下方へ下げられ、最上層の収納空間K4は天井裏の一番高い所を利用可能となるので、各収納空間K1〜K4の天井高さを必要な程度に十分に確保することができる。
【0029】
なお、実施例においては、本発明を二階建住宅に適用した例を示したが、二階建に限らず三階建住宅、その他の種々建物などにも適用できることは言うまでもない。また、各収納空間の天井高としては、使い勝手を考慮した場合、普通の身長の大人が腰や頭を少し低くした状態で歩ける程度の高さ、例えば1.4m程度以上の高さであれば十分であるが、収納物品の形状や収納の仕方、あるいは階高、間取りなどの関係で一部の収納空間についてそれ以下の高さにすることも可能である。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る多層階蔵型収納付き建物によれば、下記のような種々の優れた効果を奏することができる。
【0031】
請求項1記載の多層階蔵型収納付き建物においては、建物本体内に、上下階方向に延在しかつ構造材で形成された筒状の周壁を、前記建物本体妻方向の中央寄りの躯体に結合して設けるとともに、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設けているので、これら収納空間の天井高は例えば一般の居室よりも低くなるが、逆に手の届く範囲となるので、上部が無駄な空間とならず、また、これら各収納空間には出入り口が設けられているので、各収納空間へ直接出入りすることができ、したがって、蔵のような大きな収納空間を設けてもこれを有効利用できる上に使い勝手も極めて良好なものとなる。また、前記周壁内の前記上下階に対応する部分をそれぞれ上下に区画することによって多層構造の収納空間を設け、これら各収納空間の周壁に出入り口をそれぞれ設け、前記複数の収納空間のうちの少なくとも前記上下階に対応する部分を区画する全床を収納空間内から外部に延出させて躍り場を形成したので、上下の階の間に設けられた収納空間の床と、踊り場とが同一レベルとなり、この躍り場に、下階に至る室内下階段および上階に至る室内上階段を設けたので、前記上下の階の間に床が設けられた収納空間に、前記室内下階段と室内上階段の踊り場から出入り口を通して直接出入りすることができ、これにより、収納空間の使い勝手がさらに良好なものとなる。
【0032】
また、前記周壁が構造材で筒状に形成されるとともに、この周壁が建物本体の躯体に結合されているので、該周壁が筒状のコアを構成して建物全体の強度を向上させ、これにより建物の構造強度上からも有効な効果を発揮する。
【0033】
また、収納空間の周壁は、一階および二階の間仕切りとしての機能も兼ねさせることができ、かつ、一部の収納空間の床を設ける他には特別な工事を必要とすることもないので、工費の増大も十分に抑制することができる。さらに、収納空間の出入り口付近に室内階段の踊り場を設けているので、この踊り場から収納空間へと直接出入りすることができ、これにより、収納空間の使い勝手がさらに良好なものにすることができる。
【0034】
更に、多層階蔵型収納付き建物においては、前記周壁が構造材で筒状に形成されるとともに、この周壁が建物本体の躯体に結合されているので、該周壁が筒状のコアを構成して建物全体の強度を向上させるが、該周壁が建物本体の妻行方向の中央部寄りに設けられているので、建物の補強作用がより効果的になり、しかも建物の高い所の屋根裏を収納空間の一部に利用できることになり、これにより収納空間を多層構造としても、収納空間の必要な天井高を確保することが可能になる。
【0035】
請求項2記載の多層階蔵型収納付き建物においては、多層構造の収納空間のうち、最下層の収納空間の床面が下階の床面よりも下方に位置しているので、下階が一階である場合、この一階に少なくとも2層の収納空間を構成することができる。
【0036】
請求項3の多層階蔵型収納付き建物においては、請求項1と同様の効果の他に次のような優れた効果を奏することができる。すなわち、最上層の前記収納空間の少なくとも一部が屋根裏空間を使用し、かつ、最下層の前記収納空間の少なくとも一部が、地盤面を掘り下げた地階を使用しているので、屋根裏空間と地階との有効利用を図ることができるとともに、これら最上層および最下層のそれぞれの収納空間に出入り口から直接出入りして収納物を出し入れすることができる。さらに、最下層の収納空間は少なくとも一部が地階を使用する形態で下方へ下げられ、最上層の収納空間は少なくとも一部が天井裏空間を使用する形態で上方へ上げられるので、各収納空間の天井高さを必要な程度に十分確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す要部の立面図である。
【図2】本発明の実施例を示す一階部分の平面図である。
【図3】本発明の実施例を示す二階部分の平面図である。
【図4】本発明の実施例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施例を示す斜視図である。
【図6】本発明の他の実施例を示すモデル図である。
【図7】従来例を示す立面図である。
【図8】使用例を示す断面図である。
【符号の説明】
10 建物本体
11、12、13、14 踊り場
15 一階
16 二階
17、18 居室
K1、K2、K3、K4 収納空間
C1、C2、C3、C4 出入り口
S1、S2、S3、S4 室内階段
R 周壁
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-05-12 
結審通知日 2006-05-17 
審決日 2006-05-31 
出願番号 特願平5-117122
審決分類 P 1 113・ 121- YA (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 俊久  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 柴田 和雄
安藤 勝治
登録日 1997-08-08 
登録番号 特許第2682608号(P2682608)
発明の名称 多層階蔵型収納付き建物  
代理人 土井 清暢  
代理人 岩池 満  
代理人 土井 清暢  
代理人 羽鳥 修  

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