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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1144104
審判番号 不服2003-22297  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-12-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-17 
確定日 2006-09-19 
事件の表示 平成 7年特許願第155492号「包装袋」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年12月10日出願公開、特開平 8-324592〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成 7年 5月31日の出願であって、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された下記の事項により特定されるとおりのものであると認める。

ガスバリア性のプラスチックシートにより形成の包装袋において、その内部には、下記に定義される気体透過膜の境界面により保存剤収納領域と物品収納領域を備えて、保存剤収納領域には脱酸素剤を収納して、物品収納領域には液状物の物品若しくは液状物共存の物品が収納し、液状物の溶存酸素を境界面を通じて短時間内に保存剤収納領域に移動して脱酸素剤に捕捉させること、を特徴とする包装袋。
気体透過膜
気体透過膜は、JIS-P-8118による測定される平均厚みが20〜150ミクロンで、目付が20〜200g/m2 であって、ポリエチレン若しくはポリプロピレンシのシートを延伸法により多孔質にして、JIS-P-8117により測定される通気度が、200〜1000秒/100ミリリットルである多孔質ポリエチレンシート若しくは多孔質ポリプロピレンシートにされていること、
を特徴とする。

2.引用文献の記載事項
これに対して、平成18年1月31日付け拒絶理由通知書にて引用文献1として示した刊行物である特開平5-319459号公報には、下記の事項が記載されている。

ア.【0008】
(1) ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネート、セロファン、ポリメチルペンテンまたはポリビニルアルコール等からなるフィルム、ポリ塩化ビニリデンコート各種フィルム、アルミ箔ラミネートフィルム、あるいはアルミ蒸着各種フィルム等の耐熱性フィルムに、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンアクリル酸共重合樹脂、エチレンアクリル酸エチル共重合樹脂、アイオノマー、ポリブタジエン、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂フィルム等からなるシール性フィルムを積層接着してなる積層フィルムに、耐熱性フィルム側からこれを貫通して少なくともシール性フィルム側に未貫通の残膜部を残した未貫通微多孔を穿設してなる包装材料。(【0008】)

イ.【0028】
外包材は実質的に非通気性であればよく、外包材に使用されるガスバリアー性の高い包装材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネート、セロファンまたはポリビニルアルコール等からなるフィルム、ポリ塩化ビニリデンコート各種フィルム、アルミ箔ラミネートフィルム、さらには、アルミ蒸着各種フィルム等が挙げられる。
また、外包材に使用されるフィルムの酸素透過度は、 500cc/m2・24Hr・atm 以下が好ましく、100 cc/m2・24Hr・atm 以下が特に好ましい。(【0028】)

ウ.【0030】
本発明に係わる二重包装体の対象物としては、例えば、切餅、麺類、御飯、ゼリー、ジュース類等の比較的無菌状態で製造包装される食品や飲料、輸液バッグ、血液バッグ、レトルト食品等のようにに加熱滅菌される医薬品や食品類、醤油等のように酸素による劣化を受けやすい液体類、香り保持が重要な菓子、嗜好品類等が挙げられる。本発明の対象は必ずしも例示された物に限定されることはなく、漏洩防止または菌汚染防止の必要があり、且つ品質保持上脱酸素剤が有効な物品が二重包装体の対象になる。(【0030】)

エ.【0031】
【実施例】
次に、実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例1
延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ20μm )にポリエチレンを25μm の厚さに押出ラミネートした積層フィルム(OPP/PE)を得た。
この積層フィルムをソリッドステート方式の放電処理機により、ポリプロピレンフィルム側より未貫通孔を穿孔して酸素透過性包装材料を得た。この時の非貫通膜部の厚さは5μm であった。
該酸素透過性包装材料を用いて5×7cmの切餅をピロー包装し、個包装切餅包装体を得た。 次に、この個包装切餅包装体5個を脱酸素剤(鉄系脱酸素剤3g充填、50×50mm寸法)と共に200×300mmの塩化ビニリデンコート延伸ナイロン/ポリエチレン製の袋に封入して密封シ-ルし二重包装体とした。なお、二重包装された個包装切餅包装体内には、酸素濃度0.5 %以下で青色→桃色へ変色する機能を持つ酸素検知剤(エージレスアイ;三菱ガス化学(株)製)を同封しておいた。
上記切餅の二重包装体を25℃で保存して、酸素検知剤の変色する迄の日数及び切餅の外観を観察した。また、20日間保存後、外側の包装を開封して個包装切餅包装体を放置し、個包装体の切餅に黴発生するまでの日数を観察した。
試験結果を表1に示す。(【0031】)

オ.【表1】
酸素検知剤変色日数 保存時の切餅状態 外袋開封後の黴発生日
実施例1 1〜2 日 異常なし 3〜4日後
比較例1 7〜10日 黴発生
比較例2 1 日 異常なし 1日後
(【表1】)

してみると、引用文献1には、下記の発明が記載されていると認められる。
ガスバリア性のプラスチックシートにより形成の包装袋において、その内部には、酸素透過性包装材料の境界面により脱酸素剤と品質保持対象物を収納する収納領域を備えて、品質保持対象物は、ジュース、飲料、輸液パック等が収納され、品質保持対象物から境界面を通じて1〜2日間に、酸素を脱酸素剤に捕捉させること、を特徴とする包装体。

また、同時に引用文献2として示した刊行物である特開平3-29752号公報には、下記の事項が記載されている。

カ.脱酸素剤は、乾燥食品、高水分食品、酸性食品、油加工食品、アルコール含有食品等の種々な食品と供に使用される(第1頁右下欄第19行-第2頁左上欄第1行)

キ.脱酸素剤包装材料に具備されるべき条件として、脱酸素性能を発揮するための包装材料の透気性、脱酸素性能がそこなわれないための包装材料の透湿性、食品に含有する水分、食塩、油、アルコール等により発生する包装材料の着色、錆、染みなどによる外観上の商品価値の低下、および、透気度の低下による脱酸素性能の不良を示さない包装材料の耐久性などが必要である。(第2頁左上欄第4-11行)

ク.また、ポリエチレンもしくはポリプロピレンからなり、孔径0.01〜30μmの微細孔を有し、ガーレー式透気度が0.1〜10,000sec/100mlであって、常圧で水を通さない微多孔膜とは、シリカ、タルク、炭カル等の異物を含有するポリエチレンもしくはポリプロピレンのフィルムを延伸、異物抽出、異物抽出後の延伸などの方法により得られるものであり、(第2頁右下欄第4-11行)

ケ.以上の包装材料につき、透気度、接着強度及び製袋製の測定を行い、結果を次表に示す。また、以上の50×50mmの包装材料に、鉄粉を主剤とする酸素吸収能力が100mlの脱酸素剤組成物を充填した脱酸素剤包装体及び500mlの空気を酸素バリヤー製のKON/PEの袋に入れて密封し、25℃に放置して酸素濃度が零になる時間を測定した。サンプル数は各実施例とも10点で行った。結果を次表に示す。(第3頁右下欄第15行-第4頁左上欄第3行)

また、上記「次表」(第4頁下段)において60〜100sec/100mlあるいは100〜200sec/100ml程度の通気度と、8〜10時間あるいは12〜15時間の脱酸素時間が示されている。

3.対比
請求項1に係る発明と上記引用文献1に記載された発明を対比すると、前者の「液状物の物品」、「気体透過膜」が後者の「ジュース、飲料、輸液パック等」、「酸素透過性包装材料」に相当するから、両発明の一致点は

ガスバリア性のプラスチックシートにより形成の包装袋において、その内部には、気体透過膜の境界面により保存剤収納領域と物品収納領域を備えて、保存剤収納領域には脱酸素剤を収納して、物品収納領域には液状物の物品若しくは液状物共存の物品が収納し、物品に存在する酸素を境界面を通じて短時間内に保存剤収納領域に移動して脱酸素剤に捕捉させること、を特徴とする包装袋。

の発明であって、相違点は、

(1)請求項1に係る発明が、JIS-P-8117により測定される通気度が200〜1000秒/ミリリットルである、延伸法により形成した多孔質のシートを用いているのに対して、引用文献1記載の発明では穿孔しており、通気度の値が特定されていない点。
(2)請求項1に係る発明が、JIS-P-8118による測定される平均厚みが、20〜150ミクロンあるいは20〜100ミクロンであるのに対して、引用文献1記載の発明ではその値が特定されていない点。
(3)請求項1に係る発明が、目付が20〜200g/m2あるいは30〜100g/m2であるのに対して、引用文献1記載の発明ではその値が特定されていない点。

(4)請求項1に係る発明が、「液状物の溶存酸素」を捕捉するものであるのに対して引用文献1に記載されたものは、単に飲料等の液状物を脱酸素剤を用いて包装するものであって、溶存酸素について何ら具体的に言及していない点。

である。

4.判断

(相違点1)短時間にて脱酸素を行う脱酸素包装体の包装材として、上記相違点(1)で挙げた通気度を有するポリエチレン若しくはポリプロピレンからなる延伸法にて製造したものを用いることは、引用文献2(表及び記載事項ク,ケには、ガーレー式透気度と脱酸素時間の例として本件明細書と同様の値が記載されており、記載事項カには延伸法にてポリエチレン若しくはポリプロピレンを用いて多孔フィルムを製造する点が記載されている)に示されるとおり、周知の素材の採用であって、格別な困難性は見られない。

(相違点2)相違点(2)に係る厚みの設定は、その実施にあたり設計者が設定することが必要な事項であって、同種のものの周知の値を採用することを試みることは、その設計手法の一つであるところ、本願出願前に周知であった米国特許第4996068号明細書(Date of Patent:Feb.26,1991)のABSTRACTには「1000seconds/100cc or less in terms of Gurley gas permeability」と記載されているし、第5欄第35行には「between 20and 150 μ」と記載されている。)のとおり、周知の値である。従って相違点2は単なる設計的事項と認められる。

(相違点3)相違点(3)であげた目付の値も、この種のものとして通常取りうる値を超えるものとは認められない。

(相違点4)出願人は、本願発明の実施例がppmの溶存酸素を対象にしているのに対して、引用文献1及び2に記載された発明が酸素濃度が0.5%あるいは単に「酸素濃度が零」という程度のものであり、両者は相違するものである旨主張している。しかし、本願請求項1に係る発明は、出願人が主張する「ppm程度の溶存酸素」に関連して何ら特定されておらず、上記主張は、請求項1の記載に基づいたものではない。一方、引用文献2の記載事項クには「酸素濃度が零」と記載されており、より酸素濃度を下げることは示されている。加えて、上記記載事項カ、キには、飲料等液状の物品を包装物品とする点が明記されている。また、引用文献1の記載事項ウにも「酸素による劣化を受けやすい液体類」と記載されていることから見ても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明の奏する効果は、本願発明の奏する液状物品の溶存酸素を脱酸素するという作用効果と異質なものとは認められない。

さらに出願人は、引用文献1あるいは2に記載されている発明が、ポリエチレン及びポリプロピレンと、その他の極性の大きい素材をともに対象としているものであるのに対して、本願発明がポリエチレン及びポリプロピレンのみに限定しており、その点において、上記のppmの溶存酸素の脱酸素を達成している旨主張している。
たしかに、引用文献2に記載された発明は、ポリエチレンとポリプロピレン以外にも極性の大きいものを含む他の複数の樹脂を対象としているが、これらの樹脂の間に脱酸素に関して性能差があったとしても、引用文献2に記載された発明の課題が脱酸素性能の向上であることから見て、引用文献2において例示された複数の素材の中から、ポリエチレンとポリプロピレンの2種に限定することにより、より脱酸素性能の高い素材を特定することに、格別な困難性が存在したとは認められない。
一方、出願人は、請求項1に係る発明について、その材料として「ポリエチレン」の他に「ポリプロピレン」を選択肢として特定し、本願明細書の発明の詳細な説明中には、実験例1-7を挙げている。その中で、実験例6として「延伸法により多孔質にした多孔質ポリプロピレンシート」からなるものが、実験例2と同様な作用効果を奏する旨が記載されているが、該実験例6については、目付やガーレー通気度、厚みの値は特定されておらず、これらの値が脱酸素性能について、臨界的意義を有するものとは認められない。なお、実験例5についても、通気度のみを100〜1,300秒/100ミリリットルと特定した「多孔質ポリエチレンシート」が、請求項1に係る発明とほぼ近い結果が得られると記載されており、該実験例5のものと、引用文献2に記載されたものとの間には、「多孔質ポリエチレンシート」としての構成上の相違点が存在するとは認められない。従って、請求項1に係る発明の目付の値や厚みの値は、この種のものとして通常とり得ない格別なものとは認められない一方、それらの値により格別な効果を奏するものとは認められない。

従って、請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

5.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-16 
結審通知日 2006-06-27 
審決日 2006-07-25 
出願番号 特願平7-155492
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平城 俊雅大町 真義  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 石田 宏之
中西 一友
発明の名称 包装袋  
代理人 水野 豊広  

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