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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
管理番号 1144346
審判番号 不服2003-12905  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-03-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-08 
確定日 2006-09-28 
事件の表示 平成9年特許願第229591号「4輪駆動車の動力配分制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年3月2日出願公開、特開平11-59216〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1、手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年8月26日の特許出願であって、本願請求項1〜11に係る発明は、平成18年5月26日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「 路面の摩擦係数を検出する路面摩擦係数検出手段を備えた車両に搭載され、前輪側と後輪側との駆動力配分を可変容量伝達クラッチを動作させて可変制御する4輪駆動車の動力配分制御装置であって、路面摩擦係数の値が大きくなるほど上記後輪側の駆動力配分が大きくなる傾向の特性で形成し予め設定しておいた路面摩擦係数と駆動力配分の関係を基に、上記路面摩擦係数検出手段で求めた路面摩擦係数から直接上記可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力を求め、上記可変容量伝達クラッチを動作させる4輪駆動車の動力配分制御装置において、
上記予め設定する路面摩擦係数と駆動力配分の関係は、路面摩擦係数の値が所定範囲で上記可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力が一定値になる特性で形成することを特徴とする4輪駆動車の動力配分制御装置。」

2、引用例
これに対し、当審が平成18年4月3日付で通知した拒絶理由に引用され、この出願前に頒布されたことが明らかな特開昭64-60434号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に以下(イ)〜(ホ)までの記載が認められる。
(イ)「本発明は、前後輪の駆動系の途中にトルク分配装置を介設し、転舵時にはトルク配分を後輪駆動寄りに定める制御系において、路面状態に応じた信号を入力する手段を有し、上記手段により路面摩擦係数が低下するのに応じて、前輪駆動トルクを増大するようにトルク配分するように構成されている。」(第2頁左上欄第14行〜第20行)
(ロ)「そこで、上記駆動系のセンターデフ装置6に対し、トルク分配装置15がバイパスして設けられる。このトルク分配装置15は、フロントドライブ軸7に一対のギヤ16,17が、リヤドライブ軸11にも一対のギヤ18,19が連結し、ギヤ17と一体的なバイパス軸20が伝達トルク可変の油圧クラッチ21を介してギヤ19に伝動構成され、フロントドライブ軸7とリヤドライブ軸11との間で駆動トルクのやりとりを行うようになっている。」(第2頁左下欄第6行〜第14行)
(ハ)「従って、前輪のトルク配分比RFをマップ等により設定し、これと変速機出力トルクTとを用いてクラッチトルクTCを演算することで、クラッチ油圧を定めれば良い。」(第2頁右下欄第14行〜第17行)
(ニ)「そこで、高μ路での舵角θが小さい転舵時には、前輪トルク配分マップ記憶部37のRFマップを検索して、トルク配分設定部36で前輪トルク配分比RFの値が比較的大きく設定され、この前輪トルク配分比RFとこの場合の変速機出力トルクTとにより、クラッチトルクTCが比較的小さく制御される。従って、トルク分配装置15の油圧クラッチ21による伝達トルクは小さくなって前輪駆動寄りになり、安定性重視の4輪駆動走行となる。また、かかる高μ路において舵角θが大きく転舵されると、マップにより前輪トルク配分比RFの値が小さくなり、クラッチトルクTCが増大制御されて油圧クラッチ21による伝達トルクが大きくなり、このため後輪駆動寄りでフロントエンジン・リヤドライブ(FR)車的回頭性を発揮し、操縦性が良くなる。
また雪道等の低μ路の場合は、転舵の有無にかかわらず前輪トルク配分比RFの値がマップにより全体的に大きく設定される。このため、クラッチトルクTCは減少制御されて油圧クラッチ21による伝達トルクが小さくなり、前輪駆動寄りで転舵時に上記回頭性を抑制し、操縦安定性を発揮するようになる。ここで路面摩擦係数μと舵角θとに対し、前輪トルク配分比RFの値が連続的に設定されているので、路面摩擦係数μと舵角θとに応じてクラッチトルクTCが制御され、回頭性と安定性を適切に発揮する。」(第3頁左下欄第2行〜同右下欄第8行)
(ホ)「舵角と路面摩擦係数とによるトルク配分のマップを用いて制御するので、制御が容易である。」(第4頁左上欄2行〜第3行)
図面を参照して刊行物1の記載内容を吟味し、本願発明の用語に倣って整理すると、刊行物1には、「路面の摩擦係数を検出する路面摩擦係数検出手段を備えた車両に搭載され、前輪側と後輪側との駆動力配分を可変容量伝達クラッチを動作させて可変制御する4輪駆動車の動力配分制御装置において、
路面摩擦係数の値が大きくなるほど上記後輪側の駆動力配分が大きくなる傾向の特性で形成し予め設定しておいた路面摩擦係数と転舵角と駆動力配分の関係を基に、上記路面摩擦係数検出手段で求めた路面摩擦係数と転舵角と変速機出力トルクから上記可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力を求め、上記可変容量伝達クラッチを動作させることを特徴とする4輪駆動車の動力配分制御装置。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているとすることができる。
また、同じく引用された特開昭61-184128号公報(以下、「刊行物2」という。)には、
(ヘ)4輪駆動車の動力配分装置に関して、「低摩擦係数路の走行時には前輪駆動力と後輪駆動力の配分を50:50とし、高摩擦係数路での走行時には、前輪駆動力と後輪駆動力の配分を33.3:66.7と一義的に定めると共に、切り換え手段は、路面摩擦係数センサを用い、その検出信号により自動的に切り換わるアクチュエータを用いた手段等であってもよい。」なる記載内容が図面と共に開示されている。

3、対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、一致点及び相違点は以下のとおりである。
一致点:「路面の摩擦係数を検出する路面摩擦係数検出手段を備えた車両に搭載され、前輪側と後輪側との駆動力配分を可変容量伝達クラッチを動作させて可変制御する4輪駆動車の動力配分制御装置において、
路面摩擦係数の値が大きくなるほど上記後輪側の駆動力配分が大きくなる傾向の特性で形成し予め設定しておいた関係を基に、上記可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力を求め、上記可変容量伝達クラッチを動作させることを特徴とする4輪駆動車の動力配分制御装置。」
相違点1:予め設定しておいた関係に関し、前者は「路面摩擦係数と駆動力配分の関係」であるのに対して、後者は「路面摩擦係数と転舵角と駆動力配分の関係」である点。
相違点2:可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力の求め方に関して、前者は、「路面摩擦係数から直接求めている」のに対し、後者は「路面摩擦係数と転舵角と変速機出力トルクとから演算している」点。
相違点3:前者が「上記予め設定する路面摩擦係数と駆動力配分の関係は、路面摩擦係数の値が所定範囲で上記可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力が一定値になる特性で形成する」のに対して、後者は「予め設定しておいた路面摩擦係数と転舵角と駆動力配分の関係を基に、上記路面摩擦係数検出手段で求めた路面摩擦係数と転舵角と変速機出力トルクから上記可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力を求め、上記可変容量伝達クラッチを動作させる」点。
以下、これら相違点を検討する。
相違点1の「予め設定しておいた関係」に関して、駆動力配分を定めるに当たり、本願発明は路面摩擦係数を用いているのに対し、引用発明は路面摩擦係数と転舵角という2つのパラメータを用いている。しかし、制御の分野において、より精緻なものを求めようとすればパラメータの数を増やすのが常道であるから、引用発明における駆動力配分を定めるに際し、パラメータとしての転舵角を削除することにより、本願発明の相違点1にかかる構成とする程度の改変は、当業者が容易になし得たものである。
相違点2の可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力の求め方に関して、本願発明では路面摩擦係数から直接求めているのに対し、引用発明では路面摩擦係数と転舵角と変速機出力トルクとから演算している。しかしこれとても、より精緻なものを求めようとすればパラメータの数を増やすのが常道であること既述のとおりであって、引用発明におけるクラッチ力を求めるに際し、パラメータとしての転舵角の削除に関しては相違点1で判断したとおりであり、更に、パラメータとしての変速機出力トルクをも削除して、本願発明の相違点2にかかる構成とする程度の改変も、当業者が容易になし得たものである。
相違点3であるが、本願発明の構成要件である「予め設定する路面摩擦係数と駆動力配分の関係」は相違点1でも検討済みであり、「路面摩擦係数の値が所定範囲で上記可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力」は相違点2でも検討済みであるところ、要はクラッチ力の制御に特徴を有し、「路面摩擦係数の値が所定範囲で上記可変容量伝達クラッチを動作させるクラッチ力が一定値になる特性で形成する」、つまりクラッチ力をパラメータの変動に即応させるのではなく、パラメータの値が所定の範囲にあればクラッチ力を一定に保つなる制御を行うものに相当すると考えられる。
そうすると、かかる技術思想は具体的な駆動力配分機構の構造形式こそ違うが、駆動力配分のパラメータを路面摩擦係数に依拠し、駆動力の配分を高低μ路で各々一義的に定めるとする刊行物2に開示されたものと機能的に異なるところがないから、かかる技術思想をそれ自体周知の可変容量伝達クラッチを備えてなる駆動力配分機構に適用して本願発明の相違点3にかかる構成とする程度のことは当業者が容易になし得たものである。
尤も、刊行物2に開示される駆動力配分機構をより詳細に見れば、夫々駆動力配分機構を構成する多列の単純遊星歯車機構をドッグクラッチにより切換える事により駆動力配分を変化させるものであるから、この点につき更に言及する。
そもそも、本願発明のような可変容量クラッチを用いて駆動力配分を可変とするものは既述のとおり周知であって、摩擦板式の可変容量クラッチを用いてクラッチ力を一定に保つ操作をすること自体も、例えば、特開昭63-57332号公報、特開平2-20452号公報にも開示されているが、周知の操作態様であるから、かかる駆動力配分機構の構造上の相違が既述の適用容易性の判断を阻害する要件たり得るものとすることはできない。
以上のとおり、本願発明は引用発明から単にパラメータを削除してなるものに刊行物2に記載される技術思想を適用したものに過ぎない。
また、本願発明の奏する作用効果についてみても、刊行物1及び2に夫々記載されるものが夫々個有に奏する作用効果の総和を上回るものであると認めることもできない。

4、むすび
したがって、本願発明、即ち請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載されるものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明につき審究するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-26 
結審通知日 2006-08-01 
審決日 2006-08-17 
出願番号 特願平9-229591
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾関口 勇  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 亀丸 広司
町田 隆志
発明の名称 4輪駆動車の動力配分制御装置  
代理人 伊藤 進  

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