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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1144653
審判番号 不服2003-17722  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-11 
確定日 2006-10-05 
事件の表示 平成 6年特許願第310232号「ディスク記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 6月25日出願公開、特開平 8-167275〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成6年12月14日の出願であって、平成14年10月28日付け拒絶理由通知に対して平成15年1月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成15年4月22日付け拒絶理由通知に対して平成15年6月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成15年8月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年9月11日に拒絶査定に対する審判の請求がなされるとともに、平成15年10月14日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成15年10月14日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年10月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正前及び補正後の本願発明
本件補正は、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲については補正前に、

「【請求項1】1まとまりのデータとしてのトラックを単位としてディスク状記録媒体にデータを記録するディスク記録手段と、
上記ディスク状記録媒体の複数のトラック単位のデータが既に記録されている記録済領域及びデータが記録されていない未記録領域を検出し、上記ディスク記録手段による記録動作が実行される前に上記ディスク状記録媒体に記録される全データの合計量と検出された上記ディスク状記録媒体の未記録領域のデータ量とを比較し、上記合計量が上記未記録領域のデータ量よりも大きいとき、上記全データを記録するモードが選択された場合には、上記記録済領域に記録されている複数のトラック単位のデータのうち所定のトラック単位のデータを消去した後、上記記録手段により上記全データを記録させ、上記全データの一部のデータ記録を中止するモードが選択された場合には、上記全データの一部のデータの記録を中止し当該全データから当該一部のデータを除いた残りのデータを上記記録手段により記録させる制御手段と
を有して成ることを特徴とするディスク記録装置。
【請求項2】上記ディスク状記録媒体は上記記録済領域のデータを管理する管理情報が記録された管理情報領域を備え、
上記管理情報に基づいて上記未記録領域及び記録済領域を検出することを特徴とする請求項1記載のディスク記録装置。
【請求項3】上記トラック単位のデータは、1つの完結した楽曲データであることを特徴とする請求項1記載のディスク記録装置。」

とあったのを、

「【請求項1】1まとまりのデータとしてのトラックを単位としてディスク状記録媒体にデータを記録するディスク記録手段と、
上記ディスク状記録媒体の複数のトラック単位のデータが既に記録されている記録済領域及びデータが記録されていない未記録領域を検出し、上記ディスク記録手段による記録動作が実行される前に上記ディスク状記録媒体に記録するデータを選択する毎に選択されたデータの全データ量と検出された上記ディスク状記録媒体の未記録領域のデータ量とを比較し、上記選択されたデータの全データ量が上記未記録領域のデータ量よりも大きくなったときに上記選択されたデータの全データを記録するモードが選択された場合には上記記録済領域のデータを消去した後上記記録手段により上記全データを記録させ、上記全データの一部のデータ記録を中止するモードが選択された場合には上記全データの一部のデータの記録を中止し当該全データから当該一部のデータを除いた残りのデータを上記記録手段により記録させる制御手段と
を有して成ることを特徴とするディスク記録装置。
【請求項2】上記ディスク状記録媒体は上記記録済領域のデータを管理する管理情報が記録された管理情報領域を備え、
上記管理情報に基づいて上記未記録領域及び記録済領域を検出することを特徴とする請求項1記載のディスク記録装置。
【請求項3】上記トラック単位のデータは、1つの完結した楽曲データであることを特徴とする請求項1記載のディスク記録装置。」

と補正するものである。

2.補正の目的の適否
本件補正は、請求項1について、補正前に「上記記録済領域に記録されている複数のトラック単位のデータのうち所定のトラック単位のデータを消去」から、消去する「データ」について「複数のトラック単位のデータのうち所定のトラック単位のデータ」である点の限定を省いて、単に「上記記録済領域のデータを消去」とする補正を含むものであるが、この補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、及び、明りょうでない記載の釈明のいずれも目的とするものに該当するといえないことは明らかであるから、平成6年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものである。

3.独立特許要件について
本件補正の適否については上記のとおりであるが、仮に平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするとした場合について、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するか)否かについても、一応以下に検討する。

(1)引用例
原査定において引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-101543号公報(以下、「引用例」という。)には、書き換え可能な光ディスクの記録再生装置に関して、図面とともに以下の技術事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与したものである。

(イ)
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、光磁気ディスク等の書換え可能な光ディスクの記録再生方法及び光ディスク記録再生装置に関する。」
(ロ)
図2とともに、図1に記載の「システムコントローラ20」による制御について、
「【0016】図2に本実施例の情報記録時における制御フローチャートを示す。まず、光磁気ディスクDKが装填されると(ステップS1)、ディスクの最内周のTOCを読取り、ディスク内に記録されている情報片である曲やデータのトラック番号、及び各トラックの開始アドレス、終了アドレス等を読込み(S2)、このTOC情報を図1のシステムコントローラ20内部の図示しないメモリに格納する(S3)。次に、記録する曲Xの時間(TX )を操作部21の図示しないキー入力部等により入力する(S4)。この入力は、CDプレーヤ等の光ディスク再生装置からダビングする場合は、再生側の装置内のシステムコトローラからこの光磁気記録再生装置へデータとして転送するようにしてもよい。次にディスク内の情報未記録領域の時間(T0)をメモリに格納してあるTOC情報から読出してロードする(S5)。そして、記録する曲Xの時間長TXと情報未記録領域の時間長T0 とを比較し(S6)、TX≦T0であれば、この曲Xはそのまま情報未記録領域内に記録可能であるから、記録キー(REC)が操作されていれば(S7)、TOC情報に基づいて情報未記録領域をサーチし(S8)、通常の記録動作を行う(S9)。すなわち、システムコントローラ20により各サーボ回路を介して光ピックアップ2bと磁気ヘッド2aが制御され曲(データ)をディスクに記録するのである。その後、記録が終了すれば光ピックアップ2bと磁気ヘッド2aは所定の待機位置に戻り停止する(S10)。
【0017】一方、ステップS6において、TX>T0 であれば、このままでは曲Xは情報未記録領域にはその全部を記録することができないので、表示部22により「記録不能」を表示する(S11)。次に表示部22を用いて、すでに記録された記録済み領域のうちの部分領域であるいずれかのトラックに上書きするか否かをユーザに打診する(S12)。この場合、いずれのトラックにも上書きはできないと入力されれば、停止又は待機(PAUSE )状態に戻る(S13)。上書きしてもよいとして、いずれかのトラック(例えばトラック番号Y)を指定してキー入力した場合(S14)は、そのトラック番号Yのトラックの時間長(TYをメモリ内のTOC情報からロードする(S15)。ここで、時間長TX とTY との比較を行い(S16)、Tx ≦TY であれば、曲Xは指定された部分領域であるトラック(No.Y)にそのまま記録可能であるから、RECキーが押されていることを確認した後(S17)、トラック(No.Y)をサーチして(S18)、前述の通常記録動作(S9)を行い、終了後は停止する(S10)。【0018】ステップS16において、TX>TYの場合には、ステップS19に移行し、(TX-TY )とT0とを比較する。TX -TY ≦T0 であれば、曲Xはトラック(No.Y)内には全部記録できないが、時間長TYの部分をトラック(No.Y)に記録すれば残りの時間長(TX-TY )の部分は情報未記録領域内に記録できることを意味する。この場合には、RECキーが押されていれば(S20)、曲Xのうち時間長TY の部分をトラック(No.Y)をサーチして記録する(S21)。次いで、曲Xのうち時間長(TX-TY )の部分は情報未記録領域をサーチして記録する(S22)。【0019】STOPキーが押されるか、再生側プレーヤから転送された曲終了アドレスに到達した場合等においては、ステップS23で「最終」と判断し、今回記録した部分のトラック番号、開始・終了アドレス等をTOCに書込み(S24)、停止する(S10)。」
(ハ)
「【0024】次に、このようにして曲が割り振られて記録された光磁気ディスクDKから曲を再生する場合の制御フローチャートを図3に示す。まず、ディスクが装填されると(ステップS31)、TOCを読込む(S32)。次いで、このTOC情報を図1のシステムコントローラ20内部の図示しないメモリに格納する(S33)。このとき、同一の曲がいくつかのトラックに割り振られて記録されている場合には、TOC内には同一のトラック番号で複数の時間アドレスが存在する。割り振られたトラックが離れている場合には、そのままの順序でTOC内に格納されているが、このままではTOC内でトラック番号が複数あるか否か、複数ある場合それが最終か否か、等を曲の再生時にサーチする必要が生じロスタイムも生じるため、TOC情報をメモリに格納するステップ33の際にシステムコトローラ20は、各トラック番号ごとに時間アドレスを整理して格納する。この例を図5に示す。 図5において、トラックiは3つのトラックに割り振られ、トラックkは2つのトラックに割り振られており、各トラックは離れているが、図5のようにディスク内のアドレス順序通りに整理して格納することにより、曲の再生時には、このアドレスの順序に従ってサーチしていけばよいためロスタイムが減少する。次に、図3のステップS34において、PLAYキーが押されているか否かを確認した後、ディスクの最初から連続的に再生する場合にはトラック番号1から、そのトラックをサーチし(S35)、そのトラックを通常の場合と同様に再生する(S36)。次に、そのトラック番号の情報は再生が完了したのか、まだ他に同一トラック番号のデータ(曲)が残っているかを判別する(S37)。もし、まだ他に同一トラック番号のデータ(曲)がある場合には、その瞬間からDRAM19を利用してデータを一時DRAM19に貯えつつまだ再生されていない同一トラック番号のデータを高速サーチして再生する(S41)。」
(ニ)
「【0028】【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、書換え可能な光ディスクにおいて、記録しようとする曲の時間長が情報未記録領域の時間長よりも長い場合であっても、未記録領域と記録済み領域のうちの不要な領域を利用して情報を記録再生することが可能となる、という利点を有する。」

そして、これらの記載及び図面の記載を総合参酌すれば、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「同一のデータ(曲)には同一のトラック番号が割り振られて光磁気ディスクにデータを記録する手段と、
光磁気ディスクが装填される(ステップS1)と、ディスクの最内周のTOCを読取り、ディスク内に記録されている情報片である曲やデータのトラック番号、及び各トラックの開始アドレス、終了アドレス等を読込み(S2)、このTOC情報をメモリに格納(S3)し、該格納してあるTOC情報からディスク内の情報未記録領域の時間(T0)をロード(S5)し、一方、光ディスク再生装置内のシステムコントローラから転送される記録する曲Xの時間(TX)が転送され(S4)、前記情報未記録領域の時間(T0)と前記記録する曲Xの時間(TX)とを比較(S6)し、前記記録する曲Xの時間(TX)が前記情報未記録領域の時間(T0)より大きい場合(TX>T0)には、すでに記録された記録済み領域のうちの部分領域であるいずれかのトラックに上書きするか否かをユーザに打診(S12)し、ユーザが上書きできないとした場合には停止又は待機状態に戻り(S13)、上書きしてもよいとしていずれかのトラック(例えばトラック番号Y)を指定してキー入力した場合(S14)は、前記トラック(No.Y)、または該トラック(No.Y)と前記情報未記録領域に前記曲Xを記録する(S9、S21)ように制御するシステムコントローラ20と
を有している光ディスク記録再生装置。」

(2)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較する。

引用発明の「同一のデータ(曲)」及び「光磁気ディスク」は、それぞれ本願補正発明の「1まとまりのデータ」及び「ディスク状記録媒体」に相当する。そして、引用発明の前記「同一のデータ(曲)」に「同一のトラック番号」を割り当ててデータを記録することは、換言すれば「同一のデータ(曲)」を「トラック」単位で記録することであるから、引用発明の「同一のデータ(曲)には同一のトラック番号が割り振られて光磁気ディスクにデータを記録する手段」は、本願補正発明の「1まとまりのデータとしてのトラックを単位としてディスク状記録媒体にデータを記録するディスク記録手段」に相当する。

引用発明の「システムコントローラ20」は、本願補正発明の「制御手段」に対応する。

引用発明は、その実施例も参照すると、新データの記録前に複数のトラック(No.1〜4)にデータが記録されており(図8(A)参照)、引用発明の前記情報片である曲やデータが記録されている領域には既に複数のトラック単位のデータが記録されているといい得るから、引用発明の、ディスク内の「情報片である曲やデータ」が記録されている領域は、本願補正発明の「記録済み領域」に相当し、また、引用発明の「情報未記録領域」は、本願補正発明の「未記録領域」に相当する。
そして、引用発明の「ディスクの最内周のTOCを読取り、ディスク内に記録されている情報片である曲やデータのトラック番号、及び各トラックの開始アドレス、終了アドレス等を読込(S2)」むことは、ディスクのTOCを読み取り記録されたデータに関するディスク上の領域を検出することであるが、本願補正発明の実施例を参照(例えば段落0017、0026、0035)すると、本願補正発明においても引用発明と同様にTOC領域内の管理情報を用いて記録済み領域及び未記録領域を検出していることから、本願補正発明の「記録済み領域及び未記録領域を検出」に相当する。

引用発明の「光ディスク再生装置内のシステムコントローラから転送される記録する曲Xの時間(TX)」について、「曲X」は光磁気ディスクに記録されるデータであるから、本願補正発明の「ディスク状記録媒体に記録するデータ」に相当し、「曲Xの時間(TX)」は該データに対応する時間的な量を表すものであるから、本願補正発明の「ディスク状記録媒体に記録するデータ」の「データ量」に相当する。

引用発明の「前記情報未記録領域の時間(T0)と前記記録する曲Xの時間(TX)とを比較(S6)」は、曲Xの記録動作(S9、S21)の前に行われており、本願補正発明の「ディスク記録手段による記録動作が実行される前にディスク状記録媒体に記録するデータ」の「データ量」と「検出された上記ディスク状記録媒体の未記録領域のデータ量とを比較」に相当する。

引用発明の「前記記録する曲Xの時間(TX)が前記情報未記録領域の時間(T0)より大きい場合(TX>T0)」は、本願補正発明の「上記選択されたデータ」の「データ量が上記未記録領域のデータ量よりも大きいとき」に相当する。
引用発明の「すでに記録された記録済み領域のうちの部分領域であるいずれかのトラックに上書きするか否かをユーザに打診(S12)し」、「上書きしてもよいとしていずれかのトラック(例えばトラック番号Y)を指定してキー入力した場合(S14)」は、本願補正発明の「上記選択されたデータ」「を記録するモードが選択された場合」に相当する。
引用発明の「前記トラック(No.Y)、または該トラック(No.Y)と前記情報未記録領域に前記曲Xを記録する(S9、S21)」は、本願補正発明の「上記記録手段により上記」「データを記録」に相当する。

引用発明の「すでに記録された記録済み領域のうちの部分領域であるいずれかのトラックに上書きするか否かをユーザに打診(S12)し」、「ユーザが上書きできないとした場合」は、本願補正発明の「データ記録を中止するモードが選択された場合」に相当する。
引用発明の「停止又は待機状態に戻り(S13)」は、これによりデータの記録を行わないことを意味しているから、本願補正発明の「データの記録を中止」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは次の点で一致する。

<一致点>
「1まとまりのデータとしてのトラックを単位としてディスク状記録媒体にデータを記録するディスク記録手段と、
上記ディスク状記録媒体の複数のトラック単位のデータが既に記録されている記録済領域及びデータが記録されていない未記録領域を検出し、上記ディスク記録手段による記録動作が実行される前に上記ディスク状記録媒体に記録するデータのデータ量と検出された上記ディスク状記録媒体の未記録領域のデータ量とを比較し、上記選択されたデータのデータ量が上記未記録領域のデータ量よりも大きいときに上記選択されたデータを記録するモードが選択された場合には上記記録手段により上記データを記録させ、上記データ記録を中止するモードが選択された場合には上記データの記録を中止する制御手段と
を有するディスク記録装置。」

他方、次の各点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明では、複数のデータを記録することが前提であり、ディスク状記録媒体に記録するデータを選択する毎に選択されたデータの全データ量と検出された上記ディスク状記録媒体の未記録領域のデータ量とを比較し、上記選択されたデータの全データ量が上記未記録領域のデータ量よりも大きくなったときを判断し、記録済み領域のデータを消去しない場合、全データの一部のデータの記録を中止し当該全データから当該一部のデータを除いた残りのデータを上記記録手段により記録させるのに対し、引用発明では、情報未記録領域の時間(T0)と前記記録する曲Xの時間(TX)とを比較(S6)し、記録する曲Xの時間(TX)が情報未記録領域の時間(T0)より大きいとき、ユーザの判断で選択された曲Xの記録を停止する点。
(相違点2)
選択されたデータ(の全データ)を記録するモードが選択された場合、本願補正発明では、記録済み領域のデータを消去した後、全データを記録しているのに対し、引用発明では、上書きしてもよいトラックに選択された曲Xを上書きする点。

(3)判断
相違点1について:
CD等の記録媒体から再生した複数のデータを一度に他の記録媒体に記録することは通常行われているところ、再生するデータ(曲)を選択する毎に選択したデータ(曲)の総再生時間(総データ量)と、データを記録する記録媒体の記録可能時間(未記録領域のデータ量)とを比較し、前記総再生時間が前記記録可能時間よりも長くなったときを判断すること、及びこの場合に、最後に選択したデータ(曲)の記録を中止し、該最後に選択したデータ(曲)以外のデータ(曲)を前記他の記録媒体に記録することは、当該技術分野において、当業者にとって周知技術(例えば、特開平5-101612号公報(段落0025ないし0034、図2を参照)、特開昭63-86179号公報(第3頁左上欄第12行ないし第4頁右上欄第13行を参照))である。そこで、引用発明は複数のデータを一度に他の記録媒体に記録することが可能であることは明らかであり、引用発明においても複数のデータを一度に他の記録媒体に記録する場合には、前記周知技術のように、再生するデータ(曲)を選択する毎に選択したデータ(曲)の総再生時間(総データ量)と、データを記録する記録媒体の記録可能時間(未記録領域のデータ量)とを比較し、前記総再生時間が前記記録可能時間よりも長くなったときを判断することは、当業者が容易に想到し得たものである。そして、前記総再生時間が記録可能時間よりも長くなった場合に、全てのデータ(曲)の記録を中止する必要はないことは明らかであり、前記周知技術のように最後に選択したデータ(曲)の記録を中止し、それ以外のデータ(曲)を記録するようにすることは、当業者が適宜なし得たものである。

相違点2について:
何度でも記録できる記録媒体に新たにデータを記録する場合に、記録されているデータを消去してから、記録媒体上のデータを消去した領域に新たなデータを記録することも、記録済みのデータ領域に新しいデータを上書きすることも、当該技術分野において慣用されている技術であるから、引用発明においても、データが記録されたトラックに新しいデータを上書きすることに代えて、データが記録されたトラックを消去した後、記録媒体上のデータを消去した領域に新たなデータ(曲X)を記録するようにすることは、当業者が容易になしえたものである。

以上、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.本件補正についての結び
上記「2.」で示したとおり、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第1〜4号に規定された目的のいずれにも該当しない。また、上記「3.」で示したとおり、仮に本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法126条第3項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、平成6年改正前特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成15年10月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年6月30日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「1まとまりのデータとしてのトラックを単位としてディスク状記録媒体にデータを記録するディスク記録手段と、
上記ディスク状記録媒体の複数のトラック単位のデータが既に記録されている記録済領域及びデータが記録されていない未記録領域を検出し、上記ディスク記録手段による記録動作が実行される前に上記ディスク状記録媒体に記録される全データの合計量と検出された上記ディスク状記録媒体の未記録領域のデータ量とを比較し、上記合計量が上記未記録領域のデータ量よりも大きいとき、上記全データを記録するモードが選択された場合には、上記記録済領域に記録されている複数のトラック単位のデータのうち所定のトラック単位のデータを消去した後、上記記録手段により上記全データを記録させ、上記全データの一部のデータ記録を中止するモードが選択された場合には、上記全データの一部のデータの記録を中止し当該全データから当該一部のデータを除いた残りのデータを上記記録手段により記録させる制御手段と
を有して成ることを特徴とするディスク記録装置。」

2.引用例
原査定において引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 3.(1)」に記載したとおりである。

3.対比、判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から、ディスク状記録媒体に記録される全データ量と検出された上記ディスク状記録媒体の未記録領域のデータ量との比較について、「選択されたデータの全データ量」を「全データの合計量」に戻すとともに、「記録するデータを選択する毎に」比較する点の限定を省き、それに伴い「上記選択されたデータの全データ量が上記未記録領域のデータ量よりも大きくなったとき」を「上記合計量が上記未記録領域のデータ量よりも大きいとき」に戻し、逆に本願補正発明に対し消去する記録済領域の「データ」について、「記録されている複数のトラック単位のデータのうち所定のトラック単位のデータ」に限定したものである。

そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「上書きしてもよいとしていずれかのトラック(例えばトラック番号Y)」に記録されたデータは、新しいデータを記録するために上書き(消去)されるデータであるから、本願発明において本願補正発明に対し更に限定された事項である、「記録されている複数のトラック単位のデータのうち所定のトラック単位のデータ」に相当する。
そうすると、本願発明の構成要件のうち、前記限定された構成要件を除く全ての構成要件を含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3(3)」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、かつ前記限定された構成要件自体は新たな相違点とはならないことから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-02 
結審通知日 2006-08-08 
審決日 2006-08-21 
出願番号 特願平6-310232
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 572- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田付 徳雄宮下 誠  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 山田 洋一
中野 浩昌
発明の名称 ディスク記録装置  
代理人 小池 晃  
代理人 田村 榮一  
代理人 伊賀 誠司  

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