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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1145365
審判番号 不服2004-12175  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-10-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-14 
確定日 2006-10-11 
事件の表示 平成 6年特許願第504320号「エレクトロルミネッセンス装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 2月 3日国際公開、WO94/03031、平成 7年10月12日国内公表、特表平 7-509339〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1993年7月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1992年7月27日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成16年3月10日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年6月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明について
(1)本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「正の電荷担体を注入するための第1の電荷担体注入層と、励起された際に第1の波長の放射を発するよう選択されたバンドギャップを有する半導体共役重合体の第1の重合体層と、負の電荷担体を注入するための第2の電荷担体注入層と、前記層に対して電界をかけるのを可能とする手段と、を備えるエレクトロルミネッセンス装置の放出放射光の色を調整する色調整方法であって、励起された際に第2の波長の放射を発するよう選択されたバンドギャップを有する半導体共役重合体の第2の重合体層を設け、前記第1の重合体層および第2の重合体層のそれぞれの少なくとも一部が該装置の発光帯域に位置し、前記発光帯域は、正および負の電荷担体が互いに結合して励起子を形成する該装置の捕獲領域にわたって延在すると共に、前記励起子が放射活性をもって減衰する前に移動する距離の幅特性を有し、これにより該装置に対する電界の印加の際に、前記第1の重合体層および第2の重合体層の両者がそのそれぞれの波長で放射を発することを特徴とする色調整方法。」

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-230584号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。
ア.「電子および正孔に対して障壁接合を構成する第1の有機膜と第2の有機膜の積層構造と、この積層構造を挟んで第1の有機膜側に設けられた電子注入用の第1の電極および第2の有機膜側に設けられた正孔注入用の第2の電極とを有し、前記第1、第2の電極間に第2の電極側に正のバイアスを与えたときに、前記第1の電極から前記第1の有機膜に注入された電子と前記第2の電極から前記第2の有機膜に注入された正孔とが前記障壁接合の界面に蓄積され、これらの蓄積された電子、正孔のうち電子が前記第2の有機膜にトンネル注入されて第2の有機膜内に発光再結合し、正孔が前記第1の有機膜にトンネル注入されて第1の有機膜内で発光再結合する、ことを特徴とする有機膜発光素子」(1頁左下欄5〜19行)

イ.「第4図(a)は、第1の電極5に対して第2の電極2に正のあるバイアス電圧V1を印加したときの素子のバンド図である。第1の電極5からは第1の有機膜4に電子が注入され、第2の電極2からは第2の有機膜3に正孔が注入されて、これらの電子、正孔は第1、第2の有機膜3、4の障壁接合界面に蓄積される。この蓄積されたキャリアは、電気二重層を形成することになる。この電気二重層の厚みは、色素の分子間距離(約10Å)であるから、結果としてここに大きい電界が発生する。そして、第4図(b)に示すようにバイアス電圧があるしきい値を越えてV2になると、電気二重層を形成するキャリアは障壁接合を通して隣接層にトンネル注入される。第2の有機膜3から第1の有機膜4に注入された正孔は、第1の有機膜4内で多数キャリアである電子と再結合し、これにより第1の波長λ1の発光が得られる。第1の有機膜4から第2の有機膜3に注入された電子は、第2の有機膜3内で多数キャリアである正孔と再結合し、これにより第2の波長λ2の発光が得られる。
第1の波長の発光と第2の波長の発光のいずれが支配的になるかは、第1、第2の有機膜4、3の障壁接合の電子に対する障壁高さΔEcと、正孔に対する障壁高さΔEvの関係によって決まる。したがって材料を選択することによって、
1あるしきい値で第1,第2の波長光が同時に得られる発光素子、
2第1のしきい値では第1の波長の発光のみとし、第2のしきい値で多重発光を得る多色発光素子、
3第1のしきい値では第2の波長の発光のみとし、第2のしきい値で多重発光を得る多色発光素子、
のいずれも得ることができる。」(6頁右下欄14行目〜7頁右上欄8行目)

これらの記載によれば、刊行物1には、
「電子および正孔に対して障壁接合を構成する第1の有機膜4と第2の有機膜3の積層構造と、この積層構造を挟んで第1の有機膜4側に設けられた電子注入用の第1の電極5および第2の有機膜3側に設けられた正孔注入用の第2の電極2とを有し、前記第1、第2の電極間に第2の電極側に正のバイアスを与えたときに、前記第1の電極5から前記第1の有機膜4に注入された電子と前記第2の電極2から前記第2の有機膜3に注入された正孔とが前記障壁接合の界面に蓄積され、これらの蓄積された電子、正孔のうち電子が前記第2の有機膜3にトンネル注入されて第2の有機膜3内に発光再結合して波長λ2の光を放出し、正孔が前記第1の有機膜4にトンネル注入されて第1の有機膜4内で発光再結合して波長λ1の光を放出し、第1、第2の有機膜4、3の障壁接合の電子に対する障壁高さΔEcと、正孔に対する障壁高さΔEvを調整することにより、発光波長を調整する有機発光素子の発光波長調整方法」
の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。

また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-216790号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。
ウ.「こうして製造された電界発光素子において、8-ヒドロキシキノリンの金属錯体からなる有機蛍光体薄膜7は電子輸送体を兼ねると共に、この有機蛍光体薄膜7中では有効に電子と正孔が再結合して励起子を発生し、その励起エネルギーをもう一方の有機蛍光体薄膜8に移動させる。その励起エネルギーを得た有機蛍光体薄膜8では励起子が放射失活する過程で蛍光を発し、基底状態に戻る。発せられた光は透明電極2及びガラス基板6を介して外部に放出されることになる。」(3頁右下欄5〜14行目)

また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された特表平4-500582号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下の記載がある。
エ.「少なくとも一つの共役ポリマーからなる薄い均一なポリマーフィルムの形状を有する半導体層を有したエレクトロルミネセント素子であって、前記半導体層の第1の表面に接する第1の接触層と、前記半導体層の第2の表面に接する第2の接触層とを含み、半導体層のポリマーフィルムは十分に低い濃度の外部チャージキャリアを有し、該半導体層の第1と第2の接触層の間に電界をかけたときに前記第1の接触層に対して第2の接触層を正にすべくチャージキャリアが前記半導体層の中に注入され、前記半導体層から放射が行われることを特徴とするエレクトロルミネセント素子。」(1頁左下欄2〜11行目)

また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-244630号公報(以下、「刊行物4」という。)には、以下の記載がある。
オ.「少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、該発光層として、一般式
-Ar-CH=CH-
(Arは炭素数6以上の芳香族炭化水素基、あるいは該芳香族炭化水素基に炭素数1〜22の炭化水素基、または炭素数1〜22のアルコキシ基を1ないし2個置換した核置換体基を表す。)で示される繰り返し単位を有する共役系高分子を用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」(1頁左下欄5〜16行目)
カ.「実施例2
特開平1-9221号公報に記載の方法に従い、2,5-チエニレンジスルホニウムブロミドをアルカリで重合し、メタノールと反応させてポリ-2,5-チエニレンビニレン(PTV)の中間体であるポリ-2,5-チエニレンメトキシエチレンを得た。ITO薄膜をスパッタリングによって200Åの厚みで付けたガラス基板に、得られたPTV中間体のN,N-ジメチルホルムアミド(以下DMF)溶液を回転数2000rpmのスピンコーティング法により700Åの厚みで塗布した。その後、N2中で200℃、2時間熱処理した。熱処理することによりPTV中間体の膜厚は400Åに減少していた。ここで、赤外吸収スペクトルを測定したところ1100cm-1の中間体特有の吸収ピークがなくなっていたことからPTV構造を確認し、電荷輸送層とした。
次いで特開昭59-199746の記載に従い、p-キシリレンビス(ジエチルスルホニウムブロマイド)を水溶液中、水酸化ナトリウム水溶液を滴下して重合し、ポリ-p-フェニレンビニレン(以下PPV)の中間体であるポリ-p-フェニレンビス(ジエチルスルホニウムブロマイド)エチレン(以下PPV中間体)水溶液を得た。
その上に、上記PPV中間体水溶液を回転数2000rpmでスピンコーティングした。このときの膜厚は500Åであった。その後、N2中で120℃、2時間熱処理を行った。熱処理後の膜厚は400Åであり、赤外吸収スペクトルによって、PPV構造が完全には形成されず、一部中間体構造が残っていることを確認した。さらに、その上に実施例1と同様にしてAl電極を蒸着して、素子を完成させた。
作製した2層積層型素子に、電圧20Vを印加したところ25mA/cm2の電流密度で、輝度0.05cd/m2の黄色の発光が観察された。発光スペクトルのピーク波長は550nmで、PPV中間体スピンコート薄膜の蛍光のスペクトルと一致していた。」(4頁右下欄4行目〜5頁左上欄末行)

(3)対比
そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較すると、刊行物1発明の「正孔注入用の第2の電極2」は本願発明の「正の電荷担体を注入するための第1の電荷担体注入層」に、以下同様に、「電子注入用の第1の電極5」は「負の電荷担体を注入するための第2の電荷担体注入層」に、「有機発光素子」は「エレクトロルミネッセンス装置」に、「発光波長調整方法」は「色調整方法」にそれぞれ相当する。
また、刊行物1発明の「第1の有機膜4と第2の有機膜3」は本願発明の「励起された際に第1の波長の放射を発するよう選択されたバンドギャップを有する第1の層と励起された際に第2の波長の放射を発するよう選択されたバンドギャップを有する第2の層」に相当するといえ、刊行物1発明は「第1、第2の電極間に第2の電極側に正のバイアスを与え」るのであるから、当然、「層に対して電界をかけるのを可能とする手段」を有しているといえる。
さらに、刊行物1発明は「電子が前記第2の有機膜3にトンネル注入されて第2の有機膜3内に発光再結合して波長λ2の光を放出し、正孔が前記第1の有機膜4にトンネル注入されて第1の有機膜4内で発光再結合して波長λ1の光を放出」しているのであるから、「第1の層および第2の層のそれぞれの少なくとも一部がエレクトロルミネッセンス装置の発光帯域に位置し、発光帯域は、正および負の電荷担体が互いに結合して励起子を形成するエレクトロルミネッセンス装置の捕獲領域にわたって延在」し、「該装置に対する電界の印加の際に、前記第1の重合体層および第2の重合体層の両者がそのそれぞれの波長で放射を発する」といえる。
してみれば、両者は、
「正の電荷担体を注入するための第1の電荷担体注入層と、励起された際に第1の波長の放射を発するよう選択されたバンドギャップを有する第1の層と、負の電荷担体を注入するための第2の電荷担体注入層と、前記層に対して電界をかけるのを可能とする手段と、を備えるエレクトロルミネッセンス装置の放出放射光の色を調整する色調整方法であって、励起された際に第2の波長の放射を発するよう選択されたバンドギャップを有する第2の層を設け、前記第1の層および第2の層のそれぞれの少なくとも一部が該装置の発光帯域に位置し、前記発光帯域は、正および負の電荷担体が互いに結合して励起子を形成する該装置の捕獲領域にわたって延在し、該装置に対する電界の印加の際に、前記第1の層および第2の層の両者がそのそれぞれの波長で放射を発する色調整方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]本願発明が、第1、第2の層を半導体共役重合体の重合体層としたのに対し、刊行物1発明は、有機膜とした点。
[相違点2]本願発明が、励起子が放射活性をもって減衰する前に移動する距離の幅特性を有したのに対し、刊行物1発明にはかかる限定が付されていない点。
[相違点3]本願発明が、第1の重合体層および第2の重合体層のそれぞれの少なくとも一部が該装置の発光帯域に位置し、発光帯域は、正および負の電荷担体が互いに結合して励起子を形成する該装置の捕獲領域にわたって延在すると共に、励起子が放射活性をもって減衰する前に移動する距離の幅特性を有し、これにより該装置に対する電界の印加の際に、第1の重合体層および第2の重合体層の両者がそのそれぞれの波長で放射を発するのに対し、刊行物1発明にはこの点について明示されていない点(下線部は当審が付した)。

(4)判断
[相違点1]について
刊行物4には半導体共役重合体を2層用いる点について記載されている。そして、刊行物1発明、刊行物4に記載された発明はいずれも、有機エレクトロルミネッセンス装置の技術分野に属するものであるから、刊行物1発明において、上記刊行物4に記載された発明を適用し、上記相違点1に係る構成を採用することに格別の困難性は認められない。なお、有機エレクトロルミネッセンス装置の技術分野において、半導体共役重合体の重合体層を用いることは従来周知でもある(このことを証左する文献としては、刊行物3、4がある。)。

[相違点2]について
刊行物1発明と同じく有機エレクトロルミネッセンス装置に関する文献である刊行物2には「こうして製造された電界発光素子において、8-ヒドロキシキノリンの金属錯体からなる有機蛍光体薄膜7は電子輸送体を兼ねると共に、この有機蛍光体薄膜7中では有効に電子と正孔が再結合して励起子を発生し、その励起エネルギーをもう一方の有機蛍光体薄膜8に移動させる。その励起エネルギーを得た有機蛍光体薄膜8では励起子が放射失活する過程で蛍光を発し、基底状態に戻る。」との記載があり(上記2.(2)ウ.)、この記載も参酌すれば、刊行物1発明においても「励起子が放射活性をもって減衰する前に移動する距離の幅特性を有し」ていると解釈するのが自然であって、結局、この点につき、両者に実質的な差異は認められない。

[相違点3]について
上記「2.(3)対比」と、「[相違点2]について」において検討したとおり、刊行物1発明は「第1の層および第2の層のそれぞれの少なくとも一部が該装置の発光帯域に位置し、発光帯域は、正および負の電荷担体が互いに結合して励起子を形成する該装置の捕獲領域にわたって延在すると共に、励起子が放射活性をもって減衰する前に移動する距離の幅特性を有」するといえ、また、「装置に対する電界の印加の際に、第1の重合体層および第2の重合体層の両者がそのそれぞれの波長で放射を発する」といえる。してみれば、本願発明における上記相違点3にかかる限定は、単に、物理現象を記述したものに過ぎないというべきであり、この点につき、両者に実質的な差異は認められない。

そして、本願発明の作用効果も、刊行物1〜4に記載された発明及び従来周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。

(5)むすび

以上のとおり、本願発明は、刊行物1〜4に記載された発明及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-15 
結審通知日 2006-05-16 
審決日 2006-05-30 
出願番号 特願平6-504320
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今関 雅子  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 青木 和夫
瀬川 勝久
発明の名称 エレクトロルミネッセンス装置およびその製造方法  
代理人 千葉 剛宏  

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