• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1145471
審判番号 不服2004-19273  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-16 
確定日 2006-10-12 
事件の表示 平成 9年特許願第 35243号「静電型スピーカ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月 2日出願公開、特開平10-234097〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理 由
1.経緯
(1)手続
本願は、平成9年2月19日の出願である。
本件は、本願についてされた拒絶査定(平成16年8月11日付け)を不服とする平成16年9月16日の請求であり、平成16年10月15日付けで手続補正書(明細書及び図面について請求の日から30日以内にする補正)が提出された。
(2)査定
原査定の理由は、概略、下記のとおりである。
記(査定の理由)
本願の請求項1および請求項2に係る各発明は、下記刊行物に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

刊行物1:特開平6-106364号公報
刊行物2:特開平5-3599号公報
刊行物3:特開平7-227000号公報(周知技術)
刊行物4:特開平5-145996号公報(周知技術)
刊行物5:実願昭59-166519号(実開昭61-83400号)の マイクロフィルム(周知技術)

2.補正の採否
平成16年10月15日付けの補正は下記の補正事項を含むところ、これらの事項は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてする補正であり、請求項の削除に該当するから、特許法第17条の2第3項および第4項の規定に適合する。
記(補正の内容)
(a)請求項1(補正前)を削除する。
(b)請求項2(補正前)を請求項1(補正後)とする
(c)請求項3(補正前)から請求項5(補正前)までにおいて、それぞれ、請求項2(補正前)を引用する部分を、それぞれ、請求項1(補正後)を引用する形式とし、請求項2(補正後)から請求項4(補正後)までとする。

3.本願発明
本願の請求項1から請求項4までに係る発明は、本願明細書及び図面(平成16年7月16日付けおよび平成16年10月15日付け手続補正書により補正された明細書及び図面)の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1から請求項4までに記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(本願発明ともいう)は、下記のとおりである。
記(本願発明)
【請求項1】
振動板、電極板、及びスペーサによって構成される静電型スピーカにおいて、
前記振動板と前記電極板とが絶縁されるように、前記スペーサが前記振動板と前記電極板との間に挟持され、
弾性率が100Gpaよりも大きく、比弾性率が1.4×1012cm2/sec2よりも大きな合金であって、かつ、厚さ0.5μm以上、20μm以下の金属板を前記振動板とすることを特徴とする静電型スピーカ。

4.査定の検討
(1)引用刊行物の記載
原査定の拒絶理由に引用された刊行物1(特開平6-106364号公報)には、以下の記載がある。
〈産業上の利用分野〉
「この発明は例えばエレクトレット・コンデンサマイクロホンの金属箔よりなる振動膜を、一定の張力を保持した状態で、この振動膜の支持母体である筒状の支持具の端面に溶接する場合に適して好適な金属箔の溶接方法およびその装置にする。」
〈筒状支持具の端面に金属箔を溶接する方法〉
「ワッシャ10と締め付けリング11との間に金属箔14の周縁を強く挟着して、金属箔保持リング8内に金属箔14を架張する。」(段落0009)
「この状態で調整リング12を回転させると、主リング9は回転軸3の大径部3bの外周面に案内されて降下する。・・・主リング9の降下に伴って金属箔14の下面は治具7の上端面に接触し、さらに主リング9が降下すると金属箔14の周縁が下方に引っ張られ、相対的に治具7が突き上げられて金属箔14の張力が増加する。調整リング12はストッパリング15に衝合してその回転が停止され、即ち主リング9の降下が停止される。このとき金属箔14の張力が一定値になるように予めストッパリング15の位置が決められている(図3参照)。」(段落0011)
「この状態で金属箔14の上面の治具7と対向する部分に、図3の鎖線に示すように支持具16の端面が対接され、これを充分に強い力で金属箔14に押し付ける挟着手段17が設けられている。」(段落0012)
「図3に示す状態で、図5に示す挟着手段17の螺子21を回転させると、ボールベアリング22,球体23を介して保持体24がその上面から押し付けられ、支持具16の端面が金属箔14上に強く押し付けられ、金属箔14が治具7と支持具16との間において上述した調整された張力を保持した状態で挟着される。」(段落0015)
「その後この装置を真空容器(図示せず)内に入れて容器内を真空にし、回転軸3の回転に同期させて真空容器内に配置されたビーム源(図示せず)から電子ビーム25を支持具16と金属箔14との接触部分(開先)に照射する。これにより金属箔14と支持具16の端面とが溶接される。また同時に金属箔14の支持具16からのはみ出し部分も完全に除去される。」(段落0017)
「その後真空容器を外して挟着手段17の螺子21を緩め、保持体24を外すことにより、一端面に金属箔14を架張した筒状支持具16を得ることができる。・・・このように支持具16に架張された金属箔14は、エレクトレット・コンデンサマイクロホンの振動膜として使用できるが、その構成は周知であるから図示を省略する。」(段落0018)
〈金属箔の厚み〉
「一例を挙げるならば、金属箔としてチタンの圧延膜(厚み2〜5μm)を使用する場合は、」(段落0014)

(2)対比(対応関係、一致点・相違点)
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
(a)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、エレクトレット・コンデンサマイクロホンの振動膜として利用できる金属箔14(厚み2〜5μmのチタンの圧延膜)を円筒状支持具16の端面に溶接する方法について記載されている。
刊行物1において「その構成は周知である」(段落0018)とされるエレクトレット・コンデンサマイクロホンが、振動膜、振動膜の支持部材、スペーサ(振動膜と背面電極とが絶縁されるように振動膜と背面電極との間に挟持されるスペーサ)、及び背面電極をその基本的構成とする静電型電気音響変換器の一つであることは、周知の事項である。これには、査定に引用された刊行物3、同じく刊行物4、同じく刊行物5、当審で引用する特開昭51-10924号公報、同じく特開昭58-151799号公報が参照される。
他方、本願の図3によれば、チタンは、弾性率および比弾性率が本願発明の「弾性率が100Gpaよりも大きく、比弾性率が1.4×1012cm2/sec2よりも大きい」範囲に含まれる金属であることが認められる。
そうすると、刊行物1には、以下の発明が開示されている。
記(刊行物1に開示された発明)
振動板(金属箔16)、振動板の支持部材(筒状支持具16)、電極板、及びスペーサによって構成されるエレクトレット・コンデンサマイクロホンにおいて、振動板と電極板とが絶縁されるように、スペーサが振動板と前記電極板との間に挟持され、弾性率が100Gpaよりも大きく、比弾性率が1.4×1012cm2/sec2よりも大きい金属(チタン)であって、かつ、厚さ2μm〜5μmの金属板を振動板とするエレクトレット・コンデンサマイクロホン。
(b)一致点・相違点
本願発明と刊行物1に開示された発明との一致点および相違点は、下記のとおりである。
記(一致点)
振動板、電極板、及びスペーサによって構成される静電型電気音響変換器において、
振動板と電極板とが絶縁されるように、スペーサが振動板と前記電極板との間に挟持され、
弾性率が100Gpaよりも大きく、比弾性率が1.4×1012cm2/sec2よりも大きい範囲に含まれる金属であって、かつ、所定の厚さの金属板を振動板とする静電型電気音響変換器。
記(相違点)
〈相違点1〉
静電型電気音響変換器が、本願発明では、「静電型スピーカ」であるのに対して、刊行物1では「エレクトレット・コンデンサマイクロホン」である点。
〈相違点2〉
金属板の材質が、本願発明では、「合金」であるのに対して、刊行物1では、「チタン」とされている点。
〈相違点3〉
金属板の厚さが、本願発明では、2μm〜5μmの範囲を含む「厚さ0.5μm以上、20μm以下」であるのに対して、刊行物1では、「厚み2μm〜5μm」とされている点。

(3)相違点の判断
本願発明の「弾性率が100Gpaよりも大きく、比弾性率が1.4×1012cm2/sec2よりも大きい」との構成を、以下、「本願弾性率範囲」という。
(a)相違点1について
振動膜、振動膜の支持部材、スペーサ、及び背面電極をその基本的構成とする静電型電気音響変換器が、その基本的構成に変更を加えることなくマイクロホンにもスピーカにも使用されることは周知の事項である。これには、査定で引用された刊行物1、刊行物2および刊行物3が参照される。
相違点1に係る構成は、刊行物1に開示された発明において、コンデンサマイクロホンとしたその用途を、上記周知の事項を参照してスピーカとすることにより、当業者が容易になし得ることである。
(b)相違点2について
(b1)本願弾性範囲の下限値
本願弾性率範囲は、本願明細書の段落0026、段落0029、段落0030および図3の記載に基づくとする(意見書2頁3行〜4行)。
しかし、本願明細書(出願当初の明細書も同じ)には、本願弾性率範囲につき直接の記載がないばかりか、その下限値(2つ)について格別の考察を加えた形跡もない。
むしろ、本願弾性率範囲は、出願当初の限定された数種の金属(図3)の特性値を単に包含するように事後的に規定したものであり、出願当初から認識されていた事項でもなく、スピーカ本来の機能に着目した本筋の考察に基づく事項でもないことが窺える。
(b2)合金
本願明細書には以下の記載がある。
「そして、前記金属箔としては、高い比弾性率、実用性、製造コスト、量産性等を考慮した場合、ベリリウム銅、チタン、ステンレス、アルミニウム、ニッケルのいずれかであることが望ましい。」(段落0018)
「振動板52を構成する金属箔としては、例えばベリリウム銅、チタン、ステンレス、アルミニウム、ニッケルのいずれかを使用することができる。図3に前記各種金属の比弾性率(弾性率/密度)と、比較例としてポリエステル(従来の振動板の材料)の比弾性率を示す。」(段落0029)
「前記各種金属のうち、いずれの金属でも、従来から振動板材料として使用されてきた高分子フイルム、例えばポリエステルよりも1桁高い。また、弾性率も1〜2桁高く、音声信号源60の印加電圧eを上げて振動板52の駆動振幅が大きくなっても十分に追従することができる。」(段落0029)
これによれば、本件における金属板の材質の選定は、主に、その物理的特性(弾性率、比弾性率)を考慮したものであり、純粋金属か合金かというようなその化学的特性(組成)を考慮したものではないことが認められる。
(b3)合金の振動板
他方、静電型電気音響変換器(スピーカ)の振動板としては、チタン、ニッケルなどの純粋金属だけでなく、広く、チタン合金、ニッケル合金などの「合金」をも用いることは周知である。また、音響機器用振動板としてステンレス鋼(鉄合金)を用いることも周知である。これには、チタン合金、ニッケル合金については査定で引用された刊行物3(段落0030)および刊行物4(段落0004)が、ステンレス鋼については当審で引用する特開昭47-24815号公報(1頁右下欄12行〜17行)が、それぞれ、参照される。
そして、チタン、ニッケルの弾性率及び比弾性率はいずれも本願弾性率範囲の範囲内にあり(本願の図3)、また、チタン合金(例えば、Ti-6Al-4V)、ニッケル合金(例えば、72Ni-15.5Cr-8Fe)、ステンレス鋼(例えば、SUS304)の弾性率及び比弾性率のいずれも本願弾性率範囲の範囲内にあることは明らかである(www.madlab.com/mad/edat/principle/phimech.htm 参照)。
(b4)まとめ
そうすると、相違点2に係る構成は、刊行物1に記載された金属箔(チタン)について、上記周知の事項を参照して、チタンと同程度の弾性率及び比弾性率を有する合金(チタン合金、ニッケル合金、鉄合金)に置き換えることにより、当業者が容易になし得ることである。
(c)相違点3について
(c1)本願明細書には以下の記載がある。
「この図2において、縦軸の力は、静電型スピーカ50Aのサイズ、バイアス電圧Eの大きさ、振動板52と電極板54との間隔などの種々の条件によって異なるため、絶対値では示していない。」(段落0027)
「図2の実験結果から、振動板52の厚さが30μmを超えると、必要な力が急激に高くなることがわかる。厚さが20μm以下のときは、比較的少ない力で振動する。このことから、上述したように、厚さが30μmを超える金属箔を振動板52として使用すると、静電気による力では十分に振動せず、大きな音を得ることができない。従って、振動板52の厚さとしては20μm以下が好ましい。なお、厚さが0.5μm未満の金属箔を振動板52として使用すると、機械的強度が極めて低く、事実上、振動板52として利用することができない。」(段落0028)
(c2)これによれば、本願発明の厚さの範囲の境界値は、図2の実験結果から定めている。すなわち、「振動板52の厚さが30μmを超えると、(振動に)必要な力が急激に高くなることがわかる。厚さが20μm以下のときは、比較的少ない力で振動する。」(段落0028)と記載されているように、振動に必要な力の大きさに基づいて定めている。しかし、その際参照する図2は、「縦軸の力は・・・種々の条件によって異なるため絶対値では示していない」(段落0027)ものである。したがって、図2の実験結果から、振動に必要な力の大きさ(絶対値)に基づいて定めたとする境界値を意義ある値として直ちに信頼するわけにはいかない。また、定性的な議論もない。そうすると、本願発明の境界値(2つ)に格別の臨界的な意義を認めることはできない。
(c3)他方、刊行物1には、本願発明の厚さの範囲に含まれる厚み範囲について開示がある一方、振動板の厚さの設定に際して「十分な振動」、「機械的強度」を考慮すべきであることは、本願明細書の上記記載を待つまでもなく、従前周知の事項であることは明らかである。
(c4)そうすると、相違点3に係る構成は、刊行物1の厚み範囲に着目し上記周知の事項を参照して、当業者が容易になし得ることである。
(c5)これにつき請求人は、刊行物1の厚さはコンデンサマイクロホンに使用される金属箔に関するものであり、静電型スピーカに適している振動板の厚さ等の各種パラメータについては何ら触れられていないところ、本願発明の厚さの意義は静電型スピーカに適している点にあるとの趣旨の主張をする。
(c51)本願の出願当初の明細書には、下記の記載が認められる。
「【発明の名称】静電型電気音響変換器」
「【特許請求の範囲】
【請求項1】厚さ0.5μm以上、30μm以下の金属箔を振動板とすることを特徴とする静電型電気音響変換器。
【請求項2】請求項1記載の静電型電気音響変換器において、
前記金属箔がベリリウム銅、チタン、ステンレス、アルミニウム、ニッケルのいずれかであることを特徴とする静電型電気音響変換器。」
「【発明の属する技術分野】本発明は、静電型電気音響変換器に関し、特に、振動板として薄い金属箔、好ましくはベリリウム銅、チタン、ステンレス、アルミニウム、ニッケルのいずれかを使用することにより、広い帯域と良好な音質が得られるスピーカ、ヘッドホン、マイクロホンなどの静電型電気音響変換器に関する。」(段落0001)
「なお、本発明に係る静電型電気音響変換器は、スピーカのほか、マイクロホンやヘッドホン等を含む。但し、振動板の振幅を大きくすることができるという特徴は、スピーカ、ヘッドホンなどの音響を放射する変換器のときに最も良好に発揮される。」(段落0019)
「前記各実施の形態においては、本発明に係る静電型電気音響変換器を静電型スピーカに適用した例を示したが、その他、マイクロホンやヘッドホンにも適用することができる。」(段落0042)
(c52)これらの記載によれば、厚さ「5μm以上、30μm以下」または「5μm以上、20μm以下」は、マイクロホンおよびスピーカの双方に適した値であることが認められる一方、スピーカに特に適した値であるする記載は見当たらない。
(c53)上記主張は採用することができない。
(d)効果等について
前記のとおり、本願発明の相違点1から相違点3までに係る各構成は当業者が容易になし得ることであるところ、これら相違点を総合しても格別の作用をなすとは認められない。本願発明の効果も、刊行物1の記載、および上記周知技術からから予測することができる程度のものにすぎない。

(4)請求人の主張
請求人は、「平成16年10月15日付提出の手続き補正書において、拒絶理由の対象であった旧請求項1に対して、拒絶理由を受けていない旧請求項2を盛り込んで、新請求項1とする補正を行った。・・・拒絶理由は解消された」旨の主張をする(請求書1頁、【本願発明が特許されるべき理由】の項)。
(4-1)審査の経緯
(a)ここで、「拒絶理由を受けていない旧請求項2」とは、査定時の特許請求の範囲(平成16年7月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲:請求項の数5)に記載した請求項2のことであると認める。
(b)査定時の特許請求の範囲の記載に至る経緯は以下のとおりである。
(b1)出願当初の特許請求の範囲
【請求項1】厚さ0.5μm以上、30μm以下の金属箔を振動板とすることを特徴とする静電型電気音響変換器。
【請求項2】請求項1記載の静電型電気音響変換器において、
前記金属箔がベリリウム銅、チタン、ステンレス、アルミニウム、ニッケルのいずれかであることを特徴とする静電型電気音響変換器。
(b2)拒絶理由の通知
通知は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、・・・特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」とし、その「記」以降に、「請求項1-2について・・・」と記載されている。
(b3)査定時の特許請求の範囲
【請求項1】振動板、電極板、及びスペーサによって構成される静電型スピーカにおいて、
前記振動板と前記電極板とが絶縁されるように、前記スペーサが前記振動板と前記電極板との間に挟持され、かつ、厚さ0.5μm以上、30μm以下の金属板を前記振動板とすることを特徴とする静電型スピーカ。
【請求項2】請求項1記載の静電型スピーカにおいて、
弾性率が100Gpaよりも大きく、比弾性率が1.4×1012cm2/sec2よりも大きな合金であって、かつ、厚さ0.5μm以上、20μm以下の金属板を前記振動板とすることを特徴とする静電型スピーカ。
【請求項3】請求項2記載の静電型スピーカにおいて、
前記振動板がベリリウム銅であることを特徴とする静電型スピーカ。
【請求項4】請求項2記載の静電型スピーカにおいて、
前記振動板がステンレスであることを特徴とする静電型スピーカ。
【請求項5】請求項1〜4のいずれか1項に記載の静電型スピーカにおいて、
前記振動板上にセラミックスをコーティングしたことを特徴とする静電型スピーカ。
(b4)拒絶の査定
査定は、「この出願については、平成16年5月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」とする。
(c)上記経緯によれば、出願当初の特許請求の範囲に記載した請求項1および請求項2に対して拒絶理由(特許法第29条第2項)が通知され、同請求項1および請求項2を補正した後の請求項1(旧請求項1)および請求項2(旧請求項2)について同拒絶理由によって拒絶をすべきものである旨の査定がされたことが認められる。旧請求項2は拒絶理由を受けていないとする請求人の主張は、当たらない。

(4-2)査定の備考
査定の「備考」には、「通知の文献1には、コンデンサマイクの金属振動板の厚みが本願のものと同等であることが示されており、補正による請求項1の、静電型振動板、電極板、スペーサから、音響変換器としてマイクと等価なスピーカを構成することは、特開平7-227000号、5-145996号、実願昭59-166519号(実開昭61-83400号)のマイクロフィルムにあるように周知である。」と記載されている。
この「備考」の記載は、補正により旧請求項1に新たな事項が加入されたことから、この加入された事項についてコメント(周知である旨)をしたものである。拒絶すべき請求項を特定する趣旨の記載ではない。
旧請求項1についてコメント(しかも、このコメントが拒絶すべき請求項を特定する趣旨の記載ではないことは前記のとおりである)があり旧請求項2についてコメントがないことをもって、旧請求項2が拒絶理由を受けていない(査定の対象となってはいない)とは言えない。

(4-3)本願弾性率範囲の加入
請求人の主張は、「拒絶理由を受けた後、旧請求項2に「弾性率が100Gpaよりも大きく、比弾性率が1.4×1012cm2/sec2よりも大きい」(本願弾性率範囲)を加入したところ、この本願弾性率範囲は拒絶理由を受けた出願当初の請求項2には記載がなかった新たな事項であり拒絶理由通知の段階では判断されていない事項であるから、本願弾性率範囲を含む旧請求項2は拒絶理由を受けていない。」との趣旨に理解することもできる。
上記経緯によれば、当初の請求項2に記載した「金属箔がベリリウム銅、チタン、ステンレス、アルミニウム、ニッケルのいずれかである」を旧請求項2において「本願弾性率範囲」に補正した経緯が認められる。しかし、本願弾性率範囲は、出願当初の数種の金属の特性値を単に包含するように事後的に規定したものであり、出願当初から認識されていた事項でも、スピーカ本来の機能に着目した考察に基づいた事項でもないことは前記のとおりである。
他方、拒絶理由通知書は、「請求項1-2について」とした上で、「文献1はコンデンサマイクの振動板に金属箔を使用することが0001段落にありまた0014段落には2-5ミクロンのチタンを用いることが記載されている。」としている。拒絶理由通知および査定は、刊行物1に金属箔として例示されたチタンが本願弾性率範囲に含まれることを指摘した上で刊行物1に記載された発明から容易に発明をすることができたとしており、本願弾性率範囲については容易性の判断として通知がされていると言うべきである。
上記趣旨も、採用できるものではない。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-11 
結審通知日 2006-08-15 
審決日 2006-08-28 
出願番号 特願平9-35243
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松澤 福三郎  
特許庁審判長 新宮 佳典
特許庁審判官 原 光明
松永 隆志
発明の名称 静電型スピーカ  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 宮寺 利幸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ