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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 D03D 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 D03D |
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管理番号 | 1145610 |
審判番号 | 不服2003-6067 |
総通号数 | 84 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-06-08 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-04-10 |
確定日 | 2006-10-16 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第313305号「発色性、耐水性、寸法安定性の産業資材用布帛」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月 8日出願公開、特開平11-152641〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成9年11月14日の特許出願であって、平成14年2月5日付けで理由1〜3の拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年4月9日に、意見書と手続補正書が提出された後、平成15年3月14日付けで、前記理由3によって拒絶査定がされたところ、これに対して同年4月10日に審判請求がされるとともに、明細書の手続補正書が提出されたものであって、更に、当審において、平成18年4月3日付けで審尋が行われ、同年6月1日に回答書が提出されたものである。 2.平成14年2月5日付けで通知した拒絶理由の概要 2-1.「理由1」 この出願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。 2-2.「理由2」 この出願は、明細書及び図面の記載が、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない。 2-3.「理由3」 この出願の請求項1-4に係る発明は、特開昭57-193534号公報及び特開平9-262046号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3.理由2についての検討 3-1.理由2の内容 概略、「本明細書には、請求項に記載の発明の効果を具体的に裏付けるデータが何ら記載されておらず、本願発明の課題を解決手段によってどのように解決できるのかを当業者が十分に理解することができない。」点で、「この出願は、明細書及び図面の記載が、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない。」というものである。 3-2.本願発明 平成15年4月10日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された発明は、以下のとおりである。 「【請求項1】 分散染料による染色された布帛が織物であり、経糸がポリプロピレンテレフタレ一トを主たる繰り返し単位とする極限粘度が0.7以上、破断強度が6g/d以上、破断伸度が12%以上のポリエステル繊維であり、緯糸がポリプロピレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル繊維からなるエアスタッフィング捲縮加工糸であることを特徴とする発色性、耐水性、寸法安定性の産業資材用布帛。 【請求項2】 ポリエステル繊維が100デニール以上のマルチフィラメントである請求項1記載の発色性、耐水性、寸法安定性の産業資材用布帛。」 (以下、請求項1及び2に記載された発明を、それぞれ、「本願発明1」及び「本願発明2」という。) 3-3.特許法第36条第6項第1号に規定する要件についての検討 3-3-1.本願発明1について 本願発明1は、3-2.で述べたとおり、「経糸がポリプロピレンテレフタレ一トを主たる繰り返し単位とする極限粘度が0.7以上、破断強度が6g/d以上、破断伸度が12%以上のポリエステル繊維」であり、「緯糸がポリプロピレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル繊維からなるエアスタッフィング捲縮加工糸」である産業資材用布帛たる織物に関するものであるから、経糸が、「極限粘度が0.7以上」であるとともに、「破断強度が6g/d以上」かつ「破断伸度が12%以上」であることを要するものである。 そこで、経糸が、「破断強度が6g/d以上」かつ「破断伸度が12%以上」であるとともに、緯糸が、「ポリプロピレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル繊維からなるエアスタッフィング捲縮加工糸」である産業資材用布帛たる織物が、発明の詳細な説明に実質的に記載されているかどうかを検討する。 発明の詳細な説明には、産業資材用布帛たる織物織物の経糸及び緯糸が備えるべき要件に関して、 (1)段落0012に、請求項1に記載された事項を字句上繰り返した記載があり、 (2)段落0020に「得られた繊維の特性として6g/d以上の破断強度と12%以上の破断伸度は産業資材用として利用するのに、必要であり、7g/d以上の破断強度を有する事が好ましい。但し、緯糸に用いるBCFの場合はこの限りではない。」と記載され、 (3)段落0026に、「強伸度:JIS-L1013の定義により、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、引張試験機により、引張強度、伸度を測定した。」と記載され、 (4)段落0034に、「実施例2及び比較例2 実施例1で得られた繊維を経糸に用い、別途BCF加工したPPT繊維を緯糸に用いて、製織した。得られた織物を1.0%OWFのKayalon Polyester Brilliant Red FB-Sを用いて、常圧で染色した。得られた布帛は酸性染料では得られない、鮮やかな色彩を示した。」と記載されており、その他には関連する記載がない。 まず、(1)の段落0012は、請求項1の記載と単に整合を図るものであり、 (2)の段落0020は、産業資材用布帛に使用する繊維が、通例備えるべき破断強度と破断伸度の範囲を単に記載するものであるから、(1)と同様に、実質的には請求項1の記載と単に整合を図るものであり、 (3)の段落0026は、単なる試験方法に関する記載で、発明の詳細な説明に記載された糸の引張強度や伸度がどの程度であるかについての記載ではなく、更に、 (4)の段落0034は、経糸が「実施例1で得られた繊維」と特定し、緯糸を「別途BCF加工したPPT繊維」と特定するものであるが、「実施例1で得られた繊維」については、明細書の段落0029、0030の記載をみると、「得られた延伸糸特性を表1に示した。」と記載されるものの本願明細書中に「表1」が存在しないから、実際に、糸の引張強度や伸度がどの程度のものが得られたのかは不明である。 してみると、発明の詳細な説明には、産業資材用布帛たる織物織物の経糸として、「破断強度が6g/d以上」かつ「破断伸度が12%以上」である経糸が実質的に記載されているとすることはできない。 したがって、本願発明1、すなわち、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 3-3-2.本願発明2について 本願発明2は、本願発明1を特定するために必要とする事項をすべて備えて、更に、「ポリエステル繊維が100デニール以上のマルチフィラメント」であることを、発明を特定するために必要とする事項として備えるものであるから、3-3-1.で述べたと同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではないとともに、段落0029、0030、0034等の記載をみても、繊度が「100デニール以上」であることが記載されていると認めることもできない。 したがって、本願発明2、すなわち、請求項2に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 3-3-3.まとめ 本願は、明細書及び図面の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3-4.特許法第36条第4項に規定する要件についての検討 3-4-1.本願発明1について 3-3-1.で述べたように、発明の詳細な説明には、産業資材用布帛たる織物織物の経糸として、「破断強度が6g/d以上」かつ「破断伸度が12%以上」である経糸が実質的に記載されているとすることはできないのであるから、発明の詳細な説明の記載では、当業者が、「破断強度が6g/d以上」かつ「破断伸度が12%以上」である経糸を得ることができるとはいえない、すなわち、発明の詳細な説明には、「破断強度が6g/d以上」かつ「破断伸度が12%以上」である経糸を作る方法が記載されていない。 さらにいえば、本願発明1における経糸は、「破断強度が6g/d以上」であり、破断強度が「d(デニール)」当たりの数値として特定されているものであるところ、発明の詳細な説明には、具体的に得られた経糸の総繊度のデニール数も、単糸のデニール数も、いずれも不明であるため、「破断強度が6g/d以上」である経糸として、いかなる繊度の単糸を用いて、いかなる総繊度の経糸を製造するのかについては、過度の試行錯誤が必要であることが明らかであるから、発明の詳細な説明の記載をみても、当業者が、本願発明1における経糸を作ることはできない。 したがって、発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものではない。 3-4-2.本願発明2について 3-3-2.で述べたように、発明の詳細な説明には、「100デニール以上」のマルチフィラメントが記載されているとすることはできないのであるから、3-4-1.で述べたと同様の理由により、発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものではない。 3-4-3.まとめ 本願は、明細書及び図面の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 3-5.意見書、審判請求書、回答書における請求人の主張についての検討 請求人は、本願明細書の記載に関して、 (1)平成14年4月9日付け意見書において、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、本願発明の課題の解決方法が、当業者は十分理解できる旨を、 (2)平成15年4月10日付け審判請求書において、ポリエステル繊維の破断強度の上限の特定がなくても、特許請求の範囲の記載に不備があるとはいえない旨を、更に、 (3)平成18年6月1日付け回答書において、本願明細書の段落0034及び0035の記載から、本願発明の構成要件を満たす布帛が鮮やかな色彩を示し、寸法安定性に優れるという本願発明の効果の格別性が十分に読みとれる旨を、 述べて、本願明細書の記載に不備はない旨を主張している。 しかしながら、これら本願明細書の記載の適合性に関して繰り返されている請求人の主張をみても、本願発明1、2における産業資材用布帛たる織物織物の経糸として、「破断強度が6g/d以上」かつ「破断伸度が12%以上」である経糸が、発明の詳細な説明のどこに記載されていると主張するのか、また、いかにして該特定の物性を備える経糸を製造することができると主張するのかは不明である。 したがって、本願明細書の記載の適合性に関する請求人の再三の主張をみてもなお、本願は、明細書及び図面の記載が、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 4.まとめ 以上のとおりであるから、本願について、理由2により、「拒絶をすべきものである」とした原査定の判断は、その結論において誤りはない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-08-22 |
結審通知日 | 2006-08-25 |
審決日 | 2006-09-06 |
出願番号 | 特願平9-313305 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(D03D)
P 1 8・ 536- Z (D03D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 細井 龍史、渕野 留香 |
特許庁審判長 |
松井 佳章 |
特許庁審判官 |
野村 康秀 澤村 茂実 |
発明の名称 | 発色性、耐水性、寸法安定性の産業資材用布帛 |
代理人 | 風早 信昭 |