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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1145759
審判番号 不服2004-1513  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-22 
確定日 2006-10-19 
事件の表示 平成10年特許願第127598号「III族窒化物半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月30日出願公開、特開平11-330544〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年5月11日に出願された特許出願であって、原審において平成15年8月20日付けで通知された拒絶理由に対して、同年10月31日付けで手続補正書が提出された後、同年12月12日付けで拒絶査定がなされたものであり、これに対し、平成16年1月22日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、手続補正がなされたものである。

2.平成16年1月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年1月22日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「窒化砒化ガリウム・インジウム混晶(GaY InZ NM As1-M :0≦Z ≦1、Y+Z=1、0<M≦1)結晶層と、窒化砒化アルミニウム・ガリウム混晶(AlX GaY NM As1-M :0≦X≦0.3、X+Y=1、0<M≦1)結晶層とのヘテロ接合を含む発光部を備えたIII 族窒化物半導体発光素子であって、窒化砒化ガリウム・インジウム混晶の窒素は、砒素を窒素置換処理して得られた特徴を有するものであり、窒化砒化ガリウム・インジウム混晶の窒素混晶比が、0.8≦M≦1であることを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。」と補正された。
上記補正は、「窒化砒化ガリウム・インジウム混晶の窒素」を「砒素を窒素置換処理して得られた特徴を有するもの」と規定するとともに、「窒化砒化ガリウム・インジウム混晶の窒素混晶比」を「0.8≦M≦1である」と規定する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第4項の規定による特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平10-53487号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子材料の分野に属し、緑色から紫外線までの波長帯の発光ダイオードやレーザーや光検出器の製作に応用可能な広い禁制帯幅を持つIII族元素の窒化物結晶の製造に関する。」
イ.「【0006】【実施例】……
(ロ)GaP(100)基板1を用いて、(100)配向のGaAs層2aを液相成長させ、同様の実験をおこなった。この場合には閃亜鉛鉱型の(100)配向のGaN2cが成長させることができた。このことから基板面の方位あるいはその上のAs化合物の結晶方位によって、生成するGaN層の結晶方位を制御できることは明かである。
(ハ)GaP基板1上に約5μm厚のGaAlAs(AlAs成分0.3モル分率)混晶層を液相成長させ、前項(イ)と同様の実験をおこなった。得られた結晶層のX線回折から、成長層が閃亜鉛鉱型のGaNとAlNとの混晶であること、その成分比率が0.7:0.3であることが分かった。この比率はEPMAによる分析からも確認できた。ここで示した混晶組成は一例であり、アンモニア処理前のGaAlAs混晶層の組成によって対応する組成のGaAlN混晶が得られることは言うまでもない。
(ニ)図3を用いて説明する。スライド式液相成長装置によってGaP基板1上に約5μm厚のGaAs層2a、および約3μm厚のGaAlAs(AlAs成分0.4モル分率)混晶層2bを連続成長し、これをもととして前項と同様に800〜900℃でアンモニアガスと約1時間の接触をおこなった。その結果、GaAs層2aはGaN層2cに、また同時にGaAlAs混晶層2bはGaAlN(AlN成分0.4モル分率)混晶層2dに変換できた。前項までの実験事実を勘案すれば、任意組成の窒素化合物混晶系のヘテロ成長が可能であることは明かである。
(ホ)……本実施例ではGaP基板上に成長したGaAsあるいはGaAlAsの窒化の例を示したが、GaP基板上にInAsあるいはInGaAsやInAlAs混晶の成長が可能であることは周知の事実である。これらを出発材料とすれば、前項までの方法によって容易にIn系窒素化合物および混晶の作製が可能であることは明白である。」
ウ.「【0007】
【発明の効果】本発明は現在広範囲にデバイス応用されている導電性GaP結晶基板上にIII族窒素化合物結晶層およびそれらの混晶層を成長させることを特徴とする窒素化合物半導体の製造方法に関する。」

そして、上記イ.には「前項までの実験事実を勘案すれば、任意組成の窒素化合物混晶系のヘテロ成長が可能であることは明かである。」と記載され、前項にあたる(ハ)において、GaNとAlNとの混晶であり、その成分比率が0.7:0.3である「GaAlN混晶層」を得ていることから、GaN層と当該成分比率のGaAlN混晶層とのヘテロ接合は引用例に記載されるに等しい構成である。

したがって、上記ア.〜ウ.の記載事項からみて、引用例には以下の発明が記載されていると認められる。
「GaN層とGaAlN(GaNとAlNとの成分比率が0.7:0.3)混晶層とのヘテロ接合を備えた窒素化合物半導体」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
次に、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明の「GaN層」は「GaY InZ NM As1-M :0≦Z ≦1、Y+Z=1、0<M≦1」におけるZ=0,Y=1,M=1の場合に相当する。
イ.引用発明の「GaAlN(GaNとAlNとの成分比率が0.7:0.3)混晶層」は「AlX GaY NM As1-M :0≦X≦0.3、X+Y=1、0<M≦1」におけるX=0.3,Y=0.7,M=1の場合に相当する。
ウ.引用発明の「窒素化合物半導体」が「III 族窒化物半導体素子」に相当することは明らかである。
エ.引用発明はGaAs(GaAlAs)のAsをNで置換してGaN(GaAlN)を得るものであるから、変換して得られたGaNのN(窒素)は、当然、Asを置換して得られた特徴を有している。
オ.上記ア,イのとおり、引用発明はAsがNに完全に置換されたものであり、Asの混晶比は0であり、Nの混晶比は1である。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「窒化砒化ガリウム・インジウム混晶(GaY InZ NM As1-M :Z=0,Y=1,M=1)結晶層と、窒化砒化アルミニウム・ガリウム混晶(AlX GaY NM As1-M :X=0.3,Y=0.7,M=1)結晶層とのヘテロ接合を備えたIII 族窒化物半導体素子であって、窒化砒化ガリウム・インジウム混晶の窒素は、砒素を窒素置換処理して得られた特徴を有するものであり、窒化砒化ガリウム・インジウム混晶の窒素混晶比が、M=1であるIII 族窒化物半導体素子。」である点で一致し、次の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明は「ヘテロ接合を含む発光部」を備えた「III 族窒化物半導体発光素子」であるのに対して、引用発明は「ヘテロ接合」を備えた「III 族窒化物半導体素子」である点。

(4)判断
以下、上記相違点について検討する。
引用例には「本発明は電子材料の分野に属し、緑色から紫外線までの波長帯の発光ダイオードやレーザーや光検出器の製作に応用可能な広い禁制帯幅を持つIII族元素の窒化物結晶の製造に関する。」(上記「(2)ア.」)と記載されているように、発光素子への適用を念頭に記載されているものであるから、引用発明のヘテロ接合を含む発光部を形成して、III 族窒化物半導体発光素子とすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。

なお、審判請求人は平成16年1月22日付け審判請求書において「本願発明には、段落0039〜0040において、窒化砒化アルミニウム・ガリウム混晶のアルミニウム組成比を0.3以下とすることの特別の効果および臨界的意義が記載され、……。
すなわち該箇所には、アルミニウム組成比を0.3以下とすれば、短波長可視光の発光に都合の良いバンド、特に伝導帯側のバンドの曲折がもたらされる旨、過大の格子歪の導入と過度のバンドの曲折が回避でき、高い強度で、青色帯から緑色帯に掛けての短波長可視光を出射するに好都合となる旨が記載され、……。
先行文献3には、このような記載も示唆もなく、本願発明は先行文献3に対して新規性進歩性を有している。」(審決注:先行文献3は引用例に相当する)と主張しているが、ヘテロ接合において格子不整合は常に考慮される事項(例えば、特開平9-293936号公報【0074】,特開平9-186403号公報【0102】参照)であって、また、引用例には「任意組成の窒素化合物混晶系のヘテロ成長が可能であることは明かである。」(上記「(2)イ.」)と記載され、アルミニウム組成比が0.3のものが記載されている。
してみれば、上記知見からみて、アルミニウム組成比が0.3以下との規定は格別のものではなく、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎないから、審判請求人の上記主張は採用しない。
したがって、本願補正発明は、上記引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成16年1月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成15年10月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は、以下のものである。
「窒化砒化ガリウム・インジウム混晶(GaY InZ NM As1-M :0≦Z ≦1、Y+Z=1、0<M≦1)結晶層と、窒化砒化アルミニウム・ガリウム混晶(AlX GaY NM As1-M :0≦X≦0.3、X+Y=1、0<M≦1)結晶層とのヘテロ接合を含む発光部を備えたIII 族窒化物半導体発光素子。」(以下、「本願発明」という。)

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明から「窒化砒化ガリウム・インジウム混晶の窒素」の限定事項である「砒素を窒素置換処理して得られた特徴を有するもの」との規定及び「窒化砒化ガリウム・インジウム混晶の窒素混晶比」の限定事項である「0.8≦M≦1である」との規定を省いたものである。
したがって、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(4)」に記載したとおり、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-07 
結審通知日 2006-08-15 
審決日 2006-08-29 
出願番号 特願平10-127598
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 井上 博之
吉野 三寛
発明の名称 III族窒化物半導体発光素子  
代理人 柿沼 伸司  

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