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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1145856
審判番号 不服2003-13150  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-10 
確定日 2006-10-26 
事件の表示 特願2000-355226「オウトウ果実の裂果防止装置及びオウトウ用加温施設」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月28日出願公開、特開2002-153147〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年11月22日の出願であって、平成15年6月4日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月4日付で手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年5月19日付の手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(なお、「オウトウ用温室内の湿度」は、「オウトウ用加温施設内の湿度」の誤記であるものとして、本願発明を認定した。)

(本願発明)
「降雨を避けることができるオウトウ用加温施設内の温度を測定し、該オウトウ用加温施設内の温度を調節する温度調節手段と、
上記オウトウ用加温施設内の湿度を測定する湿度計と、
上記湿度計で測定した上記オウトウ用加温施設内の湿度に基づいて、上記温度調節手段を制御する制御手段とを備え、
上記温度調節手段は、上記オウトウ用加温施設内の温度を調節することにより、上記オウトウ用加温施設内の温湿度を、オウトウ果実を含む樹体からの水分の蒸散可能な範囲、及びオウトウ果実に結露を生じさせない値以下に調節することを特徴とする裂果防止装置。」

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特公平7-62543号公報(以下、「引用例1」という。)には、特に、図1とともに、以下の記載がある。
(イ)「【特許請求の範囲】【請求項1】 温風暖房機(22)により温度管理される施設園芸栽培温室(14)を湿度コントローラ(11A) により除湿するにおいて、
湿度センサ(12)で検知した該温室(14)の湿度と湿度コントローラ(11A) に設定した設定湿度(15)の差から上昇温度を求め、該上昇温度と温度センサ(13)が検知した室温を加えた温度を設定温度(16)として湿度コントローラ(11A) に設定し、該設定温度(16)をサーモ回路(17)に取込み、該サーモ回路(17)のON・OFFにより温風暖房機(22)のバーナ(22a)をON・OFF運転して0.8 〜2.0 ℃の範囲内の温度上昇を繰り返すことを特徴とする施設園芸における温風暖房機による除湿方法。
【請求項2】 温風暖房機(22)により温度管理される施設園芸栽培温室(14)を湿度コントローラ(11B)により除湿するにおいて、
湿度センサ(12)が検知する室内湿度が湿度コントローラ(11B)に設定した設定湿度(15)に達したときに温度センサ(13)が検知する室内温度と外気温度との内外気温差(19)をサーモ回路(17)に取込み、かつ、該内外気温差(19)、設定湿度(15)、設定温度(16)をもサーモ回路(17)に取り込み、該サーモ回路(17)のON・OFFにより温風暖房機(22)のバーナ(22a) をON・OFF運転することを特徴とする施設園芸における温風暖房機による除湿方法。
【請求項3】 温風暖房機(22)により温度管理される施設園芸栽培温室(14)を湿度コントローラ(11C) により除湿するにおいて、
該湿度コントローラ(11C)には設定湿度および設定温度と温室内湿度と温度との差により温風暖房機(22)をON・OFFさせるサーモ回路をもった除湿回路(21)と換気信号回路(20)とを設け、
該換気信号回路(20)には温室(14)内の温度センサ(13)からの温室内温度が入力され、
温室(14)内の温度が所定の限界温度を超えるときは換気信号が出力されてカーテン、天窓、換気扇(23)が作動することを特徴とする施設園芸における温風暖房機による除湿方法。」
(ロ)「【0003】上記した保温カーテンを使用すると、温室内の水蒸気は飽和状態になる。その理由は、野菜や花卉のような作物の蒸散作用によって作物が土から吸収した水分を吐き出すからである。このような水蒸気飽和状態のとき外気温が下がると温室内の相対湿度〔RH%〕は上昇し、温室内で結露が発生する。作物の葉に結露して葉が濡れると葉に付着していたカビや病原菌が活発になり、病害が発生し葉を枯らし花をいためたりなどして作物の商品価値を低下させる。…」
(ハ)「【0008】【実施例】本発明第1実施例を図1のブロック図を参照して説明する。図1において、11A は湿度コントローラ、12は湿度センサ、13は温度センサでこれらは温室14内に設置される。15と16は設定湿度と設定温度をそれぞれ表わし、17はサーモ回路、22はバーナ22a と送風機22bを備えた温風暖房機である。湿度センサ12には設定湿度15が、また温度センサ13には設定温度16が接続されている。 … 使用において、室内湿度が湿度コントローラ11A に設定した設定湿度15に達したことを湿度センサ12が検知すると、そのときの室温を温度センサ13が検知し、その室温を設定温度16として湿度コントローラ11A に設定するとともに当該室温を湿度コントローラ11A のサーモ回路17に取込む。サーモ回路17は0.8〜2.0 ℃程度の温度上昇でON・OFFし、温風暖房機22のON・OFF運転をなし、湿度を制御する。室内湿度が設定湿度15から大きくかけ離れているときには、その湿度差から上昇温度を演算し、この値とそのときの室内温度を加算した温度を設定温度16とし、上述したように湿度の制御をする。…」
(ニ)「【0009】… 夜間外気温度が大きく変化するときそれにつれて室内湿度が変化し、正確な湿度制御ができない問題がある。そこで本発明の第2実施例では、温室の室温と外気温度の差が一定になるように、すなわち、結露量が一定になるように制御して湿度の制御を図2に示す湿度コントローラ11B を用いて行う。この方法によると、温室14内の湿度が湿度コントローラ11B に設定した設定湿度15に達したら、このときの温室14の温度と外気温度センサ18の検知する外気温度と内外気温差19を湿度コントローラ11B 内に設定するとともにサーモ回路17に取り込み、この値を設定温度16に入力した後にサーモ回路17に取り込み、サーモ回路17のON・OFFによって温風暖房機22を制御する。このような運転を実施すると、常に外気温度と室温との差温が一定になり、内張り壁面で結露する水量が常に一定となり、したがって室内湿度も一定で、外気温度が変化しても室内湿度は変化することがない。」

これらの記載事項および図面を参照すると、引用例1には、
「降雨を避けることができる施設園芸栽培温室(14)内の温度を検知し、該温室内を温度管理するための温度センサ(13)、温風暖房機(22)からなる温度管理手段と、
上記温室(14)内の湿度を検知する湿度センサ(12)と、
上記湿度センサ(12)で検知した上記温室内の湿度に基づいて、上記温度管理手段を制御する湿度コントローラ(11A)とを備え、
上記温度管理手段は、上記温室(14)内の温度を調節することにより、上記温室内の温湿度を、温室内の作物の蒸散作用等によって、温室内で結露が発生したり、作物の葉に結露しないような設定温度(16)及び設定湿度(15)に制御する除湿装置」の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭57-98384号(実開昭59-4264号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、第1,2図とともに、下記の記載がある。
(ホ)「本考案は果樹類、特にサクランボ、…等栽培に使用する栽培ハウスに関する。
サクランボ、…等の果樹類は …。発育を促進し、裂果、病害虫等から作物を守り品質の向上を図るためには果樹類が直接雨に当たるのを防止し、換気を良くすることが生育に必要である。」(明細書1頁19行〜2頁7行)
(ヘ)「本考案の栽培ハウスは屋根のみを小孔を設けた有孔フイルム3で被覆しているので、降雨時に直接雨が…、果実にあたらないので、…果実の品質の低下を防止し、裂果、害虫の発生を抑制する。
またフイルムは有孔であるため、ハウスに換気効果がよく、また側面が開放されているので高温障害を防止し多湿による病気の発生を防止することができる。」(同5頁11〜19行)

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「施設園芸栽培温室(14)」ないし「温室(14)」は本願発明の「加温施設」に相当し、同様に、引用発明の「湿度センサ(12)」は本願発明の「湿度計」に、引用発明の「湿度コントローラ(11A)」は本願発明の「制御手段」に、それぞれ相当する。そして、本願発明の「裂果防止装置」と引用発明の「除湿装置」は、温度を調節することにより除湿する装置である点において共通している。また、本願発明の「オウトウ果実を含む樹体からの水分の蒸散可能な範囲、及びオウトウ果実に結露を生じさせない値以下」と引用発明の「温室内の作物の蒸散作用等によって、温室内で結露が発生したり、作物の葉に結露しないような設定温度及び設定湿度」は、加温施設内の作物に結露を生じさせない設定値である点において共通している。

そうすると、両者は、
「降雨を避けることができる加温施設内の温度を測定し、該オウトウ用加温施設内の温度を調節する温度調節手段と、
上記オウトウ用加温施設内の湿度を測定する湿度計と、
上記湿度計で測定した上記オウトウ用加温施設内の湿度に基づいて、上記温度調節手段を制御する制御手段とを備え、
上記温度調節手段は、上記オウトウ用加温施設内の温度を調節することにより、上記オウトウ用加温施設内の温湿度を、加温施設内の作物に結露を生じさせない設定値に調節し、除湿する装置」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明は、加温施設がオウトウ用で、裂果防止のため、オウトウ用加温施設内の温湿度を、オウトウ果実を含む樹体からの水分の蒸散可能な範囲、及びオウトウ果実に結露を生じさせない値以下に調節できる装置としているのに対し、引用発明では、加温施設がオウトウ用との限定はなく、加温施設内の温湿度を、加温施設内の作物の蒸散作用等によって、加温施設内で結露が発生したり、作物の葉に結露しないような設定温度及び設定湿度に制御する装置としている点。

5.判断
[相違点]について
一般的に、オウトウ(サクランボ)を降雨を避けることのできるハウスで栽培することは従来から行われている技術であり、また、裂果を防ぐために、雨に当たるのを防ぐとともに、換気を良くする等により、ハウス内を多湿にしないようにすることも、例えば引用例2にも記載されているように、従来から行われている慣用技術にすぎない。
そうしてみると、引用発明の加温施設をオウトウ用として、加温施設内の温湿度を制御する設定温度及び設定湿度として、裂果を防ぐのに最適な、オウトウ果実を含む樹体からの水分の蒸散可能な範囲、及びオウトウ果実に結露を生じさせない値以下とすることは、適宜決定することのできる設計的事項であって、当業者が容易になし得たことにすぎない。
したがって、引用発明に慣用技術を適用することによって、温室をオウトウ用に限定すると共に裂果防止装置として構成することは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願発明全体の効果も、引用発明及び慣用技術から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものということができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例発明及び慣用技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-23 
結審通知日 2006-08-29 
審決日 2006-09-12 
出願番号 特願2000-355226(P2000-355226)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 柴田 和雄
西田 秀彦
発明の名称 オウトウ果実の裂果防止装置及びオウトウ用加温施設  
代理人 石井 貞次  
代理人 石井 貞次  
代理人 平木 祐輔  
代理人 平木 祐輔  

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