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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A47C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47C
管理番号 1145876
審判番号 不服2003-25314  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-11-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-26 
確定日 2006-10-25 
事件の表示 平成11年特許願第126013号「面状弾性体による座面部を有するシート」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月21日出願公開、特開2000-316664号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年5月6日の出願であって、平成15年11月21日付け(発送日:平成15年12月2日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年12月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年1月23日に手続補正書により補正がなされたものである。

第2 平成16年1月23日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年1月23日の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「面状弾性体を枠体の枠内に張って座面部を形成するシートにおいて、エラストマーモノフィラメントの弾性糸を用いた内装織物または編物の面状弾性体により、肩甲骨部の外形形状に相応した円弧面を呈する上部側の左右部分を除いた中央部分から下部側の全幅部分を座者の背中から腰部の支持に適する高張力の弾性面に形成し、且つ、該上部側の左右部分を肩甲骨部の支持に適する相対的に低張力の弾性面に形成した座面部を備えてなることを特徴とする面状弾性体による座面部を有するシート。」

2.補正の目的
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「肩甲骨周辺を支持する上部側の左右部分」の形状を「肩甲骨部の外形形状に相応した円弧面を呈する上部側の左右部分」と限定すると共に、「背中から腰の支持に適した張力の弾性面」を「背中から腰部の支持に適する高張力の弾性面」と限定し、さらに「肩甲骨周辺を支持する上部側の左右分」の「相対的に低い張力の弾性面」を「肩甲骨部の支持に適する相対的に低張力の弾性面」と限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないので、上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例等の記載事項
(1-1) 原査定の拒絶の理由に引用された実願昭59-136536号(実開昭61-60760号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
(a)「縦横のいずれか一方向に伸縮性を有する織物をクッション材として用いるいすにおいて、上記一方向伸縮性織物を、その伸縮性を有する方向がいすの横方向となるようにフレームに取付け、荷重支持固さを必要とする部分における上記一方向伸縮性織物の横方向のばね定数を他の部分より大きく設定したいす。」(実用新案登録請求の範囲)
(b)「[産業上の利用分野]
本考案は自動車、鉄道客車等の車両用いす、あるいは家具・事務・作業用などのいす、特にクッション材とし織物製のものをフレーム(シートフレーム・シートバックフレーム等)に張ったいすに関するものである。」(明細書1頁14〜19行)
(c)「[作用]
上記荷重支持固さを必要とする部分は、例えば自動車の座席の場合、腰部および腿裏部を支える所に相当するもので、その部分における織物製クッション材の横方向のばね定数が他の部分より大きいから、着座したとき腰部および腿裏部は適度な固さで支えられ、姿勢を安定させる。」(同3頁12〜18行)
(d)「シートフレーム1およびシートバックフレーム3の各左右の対向辺間に、それぞれ一方向伸縮性織物のクッション材6A・6Bが張設されている。
上記クッション材6A・6Bは、いずれも円周方向に伸縮する円筒状に縫製または接着・溶着によって形成し、シートバック側のクッション材6Bはフレーム3の左右辺に直接はめている。シート側のクッション材6Aは、フレーム1から脚7が出ていてフレーム1に直接はめることができないので、その筒状クッション材6Aの中に、両端にフック8・8を有する一対のワイヤ9・9を通し、各ワイヤ9・9がフレーム1の左右辺と平行になるようにクッション材6Aを展張し、各フック8をフレーム1の左右辺上に設けた対応する係止部10に引っ掛けている。
そして、シート側クッション材6Aの前端部およびシートバック側クッション材6Bの下端部、すなわち着座したとき腿裏部および腰部を支える部分を、幅Wにわたってばね定数を他の部分より大きくしてある。」(同4頁9行〜5頁9行)
(e)「クッション材6A・6Bの一部のばね定数を大きくする手段について説明すると、第2図に示すように、伸縮性の無い経糸Xと伸縮性を有する緯糸Yとから成り、幅Wの部分の緯糸Yのピッチを密にする。あるいは第3図のように緯糸Yのピッチは変わらないが、幅Wの部分の緯糸Y1に太い糸または材質的にばね定数の大きい糸を使用して織るものである。」(同5頁13〜20行)
(f)「ハ、考案の効果
本考案は、縦横のいずれか一方向に伸縮性を有する織物をクッション材6A・6Bとして用いるいすにおいて、上記一方向伸縮性織物を、その伸縮性を有する方向がいすの横方向となるようにフレーム1・3に取付け、荷重支持固さを必要とする部分Wにおける上記一方向伸縮織物の横方向のばね定数を他の部分より大きく設定したから、一方向伸縮性織物のクッション材の所要部分に、必要とする荷重支持固さを簡単な構造によって与えることができる。そして従来のSばねやゴムベルトを用いたものに比べてばね定数を連続的に変化増強させることができて体形にフィットし、より良い座り心地が得られ、長時間着座時の疲労を緩和する効果がある。」(同6頁1〜15行)
(g)上記(d)の「シートバックフレーム3の各左右の対向辺間に、それぞれ一方向伸縮性織物のクッション材6A・6Bが張設されている」及び第1図の記載からみて、クッション材6Bはシートバックフレーム3内に張ってあるものといえる。

これらの記載と図面の記載を総合すれば、引用例には、
「クッション材6Bをシートバックフレーム3のフレーム3内に張ってシートバックを形成するいすにおいて、伸縮性を有する緯糸を用いた織物のクッション材6Bにより、腰部を支える部分のばね定数を他の部分より大きく設定し、必要とする荷重支持固さを与えたシートバックを備えたクッション材6Bによるシートバックを有するいす。」の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。

(1-2) 原査定の拒絶の理由で周知例として引用された特開平7-308233号公報(以下、「周知技術」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
(h)「【課題を解決するための手段】図1に示すように、少なくとも着座者の両肩甲骨の背後にはシートバック3が形成されているシート1において、前記着座者の肩甲骨間を支持するシートバック3面の肩甲骨間支持部3aよりも両肩甲骨の背後に位置するシートバック3面を後退させて形成することによって肩甲骨逃し部3bおよび3cを形成したことを手段にしている。」(【0012】)
(i)「本発明によるシート1は図1に示す斜視図のように形成してあり、シート1は座面になるシートクッション2と、その背後に形成され背中を支えるためのシートバック3および頭を支えるためのヘッドレスト4から構成されている。その中で本発明の対象となるシートバック3の構成は、部位的に大別すると、シートバック3の上部を形成し着座者の肩甲骨の背後の位置を支持する部分(3a,3b,3cに相当)と、シートバック3の下部を形成し腰椎の背後の位置を支持する部分(3dに相当)、および前記二つの部分の両側に形成され体の左右揺れを制限するサイドサポート部分(3e,3fに相当)の三つに分けられる。その中で本発明は着座者の肩甲骨の背後の位置を支持する部分(3a,3b,3c)の形状に関するものである。
その実施例は、着座者の両肩甲骨間を支持する肩甲骨間支持部3aよりも両肩甲骨の背後に位置するシートバック3面を後退させて形成することによって肩甲骨逃し部3bおよび3cを形成したことである。その目的は肩甲骨逃し部3b,3cに両肩甲骨の出っ張りを逃すことによって両肩甲骨にかかる支持力を減少または無くすことにある。
前記肩甲骨間支持部3aは腰椎支持部3dと面的に連続して形成され、両者を合わせて着座者の脊柱が所定の姿勢になるように支持する。・・・」
(【0016】〜【0018】)
(j)「【発明の効果】本発明は着座者の肩甲骨間を支持することによって、両肩甲骨かかる支持力を少なく又はなくしているので、シートバック3面と両肩甲骨の摩擦がなくなり腕を軽く動かせるようになり疲労も少なくなった。」(【0020】)
(k)【図1】には、肩甲骨逃し部3b、3cが肩甲骨の外形形状に相応した円弧面に形成されていることが記載されている。

これらの記載と図面の記載を総合すれば、周知技術には、
「シートバックに肩甲骨の外形形状に相応した円弧面の肩甲骨逃し部を設けることで肩甲骨の支持力を減少または無くすことができ、疲労が軽減できる」ことが示されている。

(2)対比
本件補正発明と引用発明を対比すると、機能、構造からみて、後者の「クッション材6B」は前者の「面状弾性体」に相当し、同様に「シートバックフレーム3」は「枠体」に、「シートバック」は「座面部」に、「いす」は「シート」に、それぞれ相当する。また、後者の織物は自動車、鉄道客車等の車両用いすに用いられるものであるから内装織物といえるものであり、後者の「伸縮性を有する緯糸を用いた織物」は前者の「弾性糸を用いた内装織物」に相当する。
そして、引用発明において「腰部を支える部分のばね定数を他の部分より大きく設定し、必要とする荷重支持固さを与えたシートバック」ということは、シートバックには、ばね定数を大きく設定し腰部の必要とする荷重支持固さを与えた部分と、それ以外の部分とがあるということである。また、「ばね定数を大きく設定し腰部の必要とする荷重支持固さを与えた部分」は本願補正発明の「腰部の支持に適する高張力の弾性面」に相当するから、本願発明と引用発明は「腰部の支持に適する高張力の弾性面とそれ以外の弾性面を有する座面部を備えている」点で共通するといえる。
したがって、両者は、
「面状弾性体を枠体の枠内に張って座面部を形成するシートにおいて、弾性糸を用いた内装織物の面状弾性体により、腰部の支持に適する高張力の弾性面とそれ以外の弾性面を有する座面部を備えた面状弾性体による座面部を有するシート。」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
(相違点1)
本願補正発明では弾性糸がエラストマーモノフィラメントであるのに対し、引用発明では弾性糸がエラストマーモノフィラメントかどうか不明な点。

(相違点2)
腰部の支持に適する高張力の弾性面とそれ以外の弾性面について、本願補正発明では、「肩甲骨部の外形形状に相応した円弧面を呈する上部側の左右部分を除いた中央部分から下部側の全幅部分を座者の背中から腰部の支持に適する高張力の弾性面に形成し、且つ、該上部側の左右部分を肩甲骨部の支持に適する相対的に低張力の弾性面に形成した」ものであるのに対し、引用発明では腰部を支える部分を他の部分より腰部の支持に適する高張力に形成したものである点。

(3)相違点の判断
(相違点1について)
面状弾性体に用いられる内装織物の弾性糸としてエラストマーモノフィラメントを用いることは、例えば特表平8-507935号公報、特開平11-75987号公報に記載されているように従来周知の技術であり、相違点1のように弾性糸をエラストマーモノフィラメントとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
引用発明は、腰部を支える部分に腰部が必要とする荷重支持固さを得るようにしたものであるが、着座したときに腰部以外の部分もその支持する部分に適した固さで支えることは当業者が当然考慮すべき事項である。ところで、バックシートにおいて、肩の部分の支持固さを変えて乗心地をよくしたり疲労の軽減を図ったりすることは実願平1-62150号(実開平3-854号)のマイクロフィルム及び周知技術に示されるように従来より行われていたことであり、特に肩甲骨の形状に合わせて支持部の形状を設計することは周知技術に示されているように最適化を図る上で当然なされることであるといえる。そうすると、上記相違点2のように肩甲骨部の外形形状に相応した円弧面を呈する上部側の左右部分を除いた中央部分から下部側の全幅部分を座者の背中から腰部の支持に適する高張力の弾性面に形成し、且つ、該上部側の左右部分を肩甲骨部の支持に適する相対的に低張力の弾性面に形成した座面部とすることは当業者が周知技術に基づいて容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
したがって、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成16年1月23日の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年2月14日の手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「面状弾性体を枠体の枠内に張って座面部を形成するシートにおいて、少なくとも経糸若しくは緯糸としてエラストマーモノフィラメントの弾性糸を用いた内装織物または編物の面状弾性体により、肩甲骨周辺を支持する上部側の左右部分を除く中央部分から下部側の全幅部分に亘る座面部分を座者の背中から腰の支持に適した張力の弾性面に形成し、且つ、該肩甲骨周辺を支持する上部側の左右部分を相対的に低い張力の弾性面に形成した座面部を有することを特徴とする面状弾性体による座面部を有するシート。」

1.引用例等の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、周知技術の記載事項は、前記「第2 3.(1)」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記「第2 1.」で検討した本願補正発明から、「肩甲骨周辺を支持する上部側の左右部分」の形状の限定事項である「肩甲骨部の外形形状に相応した円弧面を呈する上部側の左右部分」との発明特定事項を省き、「背中から腰の支持に適した張力の弾性面」の限定事項である「背中から腰部の支持に適する高張力の弾性面」との発明特定事項を省き、さらに「肩甲骨周辺を支持する上部側の左右分」の「相対的に低い張力の弾性面」の限定事項である「肩甲骨部の支持に適する相対的に低張力の弾性面」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3.(3)」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-06 
結審通知日 2006-08-01 
審決日 2006-08-17 
出願番号 特願平11-126013
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A47C)
P 1 8・ 121- Z (A47C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬戸 康平中田 誠二郎  
特許庁審判長 山崎 豊
特許庁審判官 中村 則夫
森川 元嗣
発明の名称 面状弾性体による座面部を有するシート  
代理人 竹下 和夫  
代理人 竹下 和夫  

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