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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1146192
審判番号 不服2003-20106  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-15 
確定日 2006-11-02 
事件の表示 特願2002- 34035「デジタルオーディオ用基準発振器を採用した記録再生方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月29日出願公開、特開2003-242727〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯、本願発明
本件審判の請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成14年2月12日の出願であって、その請求項1〜3に係る発明(以下、「本願発明1」〜「本願発明3」という。)は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
デジタルオーディオ用基準発振器に、セシウムを使用した原子時計、又は原子周波数標準器を使用して、アナログデジタル変換又はデジタル変換してデジタルデータを記録し、次にデジタルアナログ変換、又はデジタル増幅してデジタルデータを再生する記録再生方法。
【請求項2】
デジタルオーディオ用基準発振器に、水素を使用した原子時計、又は原子周波数標準器を使用して、アナログデジタル変換又はデジタル変換してデジタルデータを記録し、次にデジタルアナログ変換、又はデジタル増幅してデジタルデータを再生する記録再生方法。
【請求項3】
デジタルオーディオ用基準発振器に、水銀を使用した原子時計、又は原子周波数標準器を使用して、アナログデジタル変換又はデジタル変換してデジタルデータを記録し、次にデジタルアナログ変換、又はデジタル増幅してデジタルデータを再生する記録再生方法。」

2.引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開昭54-109413号公報(以下、「引用例」という。)には、記録再生に関して図面とともに次の技術事項が記載されている。

(ア)「本発明はアナログ信号のPCM方式による信号処理を利用した記録再生装置に関するものである。」(第1頁左下欄第20行〜同頁右下欄第1行)
(イ)「第1図はPCM方式記録再生装置の概略図を、第2図は同上の動作を説明する各部波形図を、第3図は標準テレビ信号図を、それぞれ示している。
図において、1は例えばマイクに接続される入力端子、2はローパスフィルター、3はサンプル、ホールド回路、4はアナログ・ディジタル変換器(以下AD変換器と略記する。)、5はメモリー、6は変調側同期信号発生回路、7はビデオアンプであって、これらで変調制御信号制御系が構成される。
8はVTRである。
9は信号分離回路、10はメモリー、11はディジタル・アナログ変換器(以下DA変換器と略記する。)、12はサンプル・ホールド回路(以下SH回路と略記する。)、13はローパルフィルター、14はバッファアンプ、15は出力端子、16は復調側同期信号発生回路であって、これらで再生側信号処理系が構成されている。」(第2頁左上欄第1〜18行)
(ウ)「上記構成による動作は次の通りである。
アナログ信号S0は入力端子1を経てローパスフィルター2により帯域制限され、更に変調側同期信号発生回路6において水晶発振器の発振周波信号の分周により得られた信号S1に応答してSH回路3で標本化され信号S2として出力される。 信号S2はAD変換器4において変調側同期信号発生回路6に関連して得られる信号のタイミングでnビットのパラレルディジタル信号S31、S32……に変換され・・・・・(中略)・・・・・メモリー5へ入力する。」(第2頁左上欄第19行〜同頁右上欄第12行)
(エ)「テレビ信号の映像信号部に信号S5が与えられる信号S7がビデオアンプ7の出力として得られ、これがVTRに供給されて記録される。
再生時には、VTRからの再生信号即ち信号S7は信号分離回路9において、復調側同期信号発生回路16へ供給される同期信号S9とメモリーへ供給されるS8とに分離される。」(第2頁左下欄第11〜18行)
(オ)「復調側同期信号発生回路16は信号分離回路9からの同期信号から垂直同期区期を検出し位相制御部(PLL)を制御して再生に必要なクロックを形成し、又水平同期パルスの周波数の信号を、水平同期パルス、等化パルス、垂直同期パルスから形成し、これによって位相制御部を制御して再生に必要なクロックを形成する。」(第2頁左下欄第19行〜同頁右下欄第5行)
(カ)「この信号S10、S10…は、復調側同期信号発生回路16からの信号のタイミングによって等間隔でDA変換装置11に入力され、ここで復調側同期信号発生回路16からの信号のタイミングでディジタルと、アナログ変換が実行される。」(第2頁右下欄第12〜16行)

上記記載事項及び図面の記載を総合勘案すると、上記引用例には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。
「マイクから入力されたアナログ信号を水晶発振器の発振周波信号に基づいてAD変換して記録し、次に再生された信号を位相制御部(PLL)で生成したクロックに基づいてDA変換する記録再生方法。」

3.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明において記録再生される信号はマイクから入力された信号、すなわちオーディオ信号である。また、PLLにおいて基準発振器として水晶発振器を用いることは特開平8-274629号公報(特に、段落【0011】、【0014】等)にもみられるように慣用技術であるから、引用発明における「水晶発振器」及び「PLL」は、本願発明1における「デジタルオーディオ用基準発振器」に相当するといえる。
引用発明における「AD変換」は、本願発明1における「アナログデジタル変換」のことである。
引用発明における「DA変換」は、本願発明1における「デジタルアナログ変換」のことである。

そうすると、本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。
〈一致点〉
「デジタルオーディオ用基準発振器を用いて、アナログデジタル変換してデジタルデータを記録し、次にデジタルアナログ変換してデジタルデータを再生する記録再生方法。」

一方、次の点で相違する。
(相違点1)
デジタルオーディオ用基準発振器について、本願発明1においては、セシウムを使用した原子時計又は原子周波数標準器であるのに対し、引用発明においては、水晶発振器である点。

(2)判断
相違点1について:
水晶発振器より高精度な周波数精度が要求される際に、セシウムを使用した原子周波数標準器を用いることは本願出願前にごく周知の事項にすぎない。
例えば、特開2001-217708号公報(以下、「周知例1」という。)には、「更にそれ以上の高安定精度が要求される場合は、水晶発振器の代わりに、ルビジウム発振器やセシウム発振器等が選択される」(段落【0002】)ことが開示されている。
また、デジタルオーディオの分野では、水晶発振器より高精度な発振器を使用することで音質が改善されることは周知の事項である。
例えば、柴崎功 「デジタルオーディオにおけるルビジウム発振器の仕組みと応用」 MJ無線と実験 株式会社誠文堂新光社 平成13年10月1日発行 第88巻第10号 87頁〜94頁(以下、「周知例2」という。)には、「ルビジウムを使用したCDと従来品を比較してみると,従来システムに比べて,ルビジウム発振器導入システムで制作したCDは,より高分解能で低域が締まり,音像定位も鮮明になる.そして音場は,前方の楽器はより前に出て,後ろの楽器はより後方に引っ込むため,より奥行きの深い立体的な音場になる.」(第94頁中欄第41行〜右欄第9行)ことが開示され、さらに「ルビジウム導入システムには,従来システムでは得られない独特の安定感や押し出し感があるそうで,この音に慣れると,従来システムでは「水晶特有の揺れ」を感じるようになる」(第94頁右欄第12〜17行)ことが開示されている。
さらに、上記周知例2には、「セシウム発振器はルビジウム発振器より高精度であり,その上には水素メーザーがある.将来的には,セシウム発振器や水素メーザーがオーディオに使われる可能性も否定はできない.」(第87頁中欄第11〜17行)ことが開示され、デジタルオーディオの分野においてセシウムを使用した原子周波数標準器を使用することが示されている。
このように、デジタルオーディオの分野で水晶発振器より高精度な発振器を使用することで音質が改善されること、及び水晶発振器より高精度な周波数精度が要求される際にセシウムを使用した原子周波数標準器を用いることが、何れも周知の事項であり、さらに、デジタルオーディオの分野でセシウムを使用した原子周波数標準器を用いることが周知例2において示されていることを考慮すると、引用発明においても、基準発振器として水晶発振器に代えてセシウムを使用した周知の原子周波数標準器を用いる程度のことは、当業者が容易に想到し得たものである。

4.本願発明2について
(1)対比
本願発明2と引用発明とを対比すると、両者は上記「3.(1)」の<一致点>で一致し、次の点で相違する。
(相違点2)
デジタルオーディオ用基準発振器について、本願発明2においては、水素を使用した原子時計又は原子周波数標準器であるのに対し、引用発明においては、水晶発振器である点。

(2)判断
相違点2について:
周知例2にもみられるように、水素を使用した原子周波数標準器は、セシウムを使用した原子周波数標準器と同様に本願出願前に周知である。また、周知例2において、デジタルオーディオの分野で水素を使用した原子周波数標準器を使用することが示されている。
したがって、引用発明においても、基準発振器として水晶発振器に代えて水素を使用した周知の原子周波数標準器を用いる程度のことは、当業者が容易に想到し得たものである。

5.本願発明3について
(1)対比
本願発明3と引用発明とを対比すると、両者は上記「3.(1)」の<一致点>で一致し、次の点で相違する。
(相違点3)
デジタルオーディオ用基準発振器について、本願発明3においては、水銀を使用した原子時計又は原子周波数標準器であるのに対し、引用発明においては、水晶発振器である点。

(2)判断
相違点3について:
水銀を使用した原子周波数標準器自体は、特開平4-232493号公報(特に、段落【0027】等)、特開平3-101419(特に、第3頁左上欄等)等にもみられるように本願出願前にごく周知のものにすぎない。
したがって、引用発明においても、基準発振器として水晶発振器に代えて水銀を使用した周知の原子周波数標準器を用いる程度のことは、当業者が容易に想到し得たものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1〜3に係る発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-04 
結審通知日 2006-09-05 
審決日 2006-09-19 
出願番号 特願2002-34035(P2002-34035)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 美帆子  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 山田 洋一
中野 浩昌
発明の名称 デジタルオーディオ用基準発振器を採用した記録再生方法  
代理人 下田 達也  

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