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審決分類 |
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 A01K 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 A01K 審判 全部無効 2項進歩性 A01K |
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管理番号 | 1146980 |
審判番号 | 無効2004-80274 |
総通号数 | 85 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1993-06-22 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2004-12-24 |
確定日 | 2006-11-14 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2977978号発明「魚釣用電動リール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2977978号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 平成 3年12月 9日 本件出願(特願平3-324492号) 平成11年 9月10日 特許登録 平成12年 4月 3日 別件無効審判請求(無効2000-35168) 平成13年 5月 9日 審決(訂正を認める 不成立) 平成13年 6月20日 上記審決確定 平成16年12月24日 本件無効審判請求(無効2004-80274) 平成17年 3月28日 訂正請求書、答弁書 平成17年 7月15日 弁駁書 2.訂正の適否 (2-1)訂正の内容 本件無効審判の「訂正の請求」は、別件無効2000-35168において「訂正を認める」とした審決により確定した本件特許明細書の記載を次のとおりにさらに訂正するものである。 (訂正事項a) 【請求項1】に「ハンドル側に」とあるのを、「ハンドル側右側部に」と訂正する。 (訂正事項b) 【0006】に「ハンドル側に」とあるのを、「ハンドル側右側部に」と訂正する。 (訂正事項c) 【0021】に「ハンドル側に」とあるのを、「ハンドル側右側部に」と訂正する。 (2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。 上記訂正事項b及びcは、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とした訂正である。 そして、上記訂正事項aないしcは、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、上記訂正事項aないしcは、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するから、当該訂正を認める。 3.当事者の主張 (3-1)請求人の主張 請求人は、審判請求書において、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を無効とする理由として次のように主張し、甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。 (無効理由1:特許法第29条第2項) 本件平成11年6月30日付け手続補正書による補正は、要旨変更であり、平成5年改正前特許法第40条により本件特許出願の出願日は補正日である平成11年6月30日に繰り下がる結果、本件発明は、本件出願の公開公報である甲第9号証に記載された発明に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (無効理由2:特許法36条) 本件出願の明細書は、平成6年改正前特許法第36条第4項、5項に規定する要件を満たしていない。 (無効理由3:特許法第29条第2項) 本件発明は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第7号証の発明並びに周知技術(甲第4?6、8号証等)に基づいて当業者が容易に想到をすることができたものである。 (無効理由4:特許法第29条第2項) 本件発明は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第7号証の発明並びに周知技術(甲第6、8号証)に基づいて当業者が容易に想到をすることができたものである。 甲第1号証:特開平3-119941号公報 甲第2号証:特開昭50-142387号公報 甲第3号証:フランス特許第1525043号明細書 甲第4号証:実願昭59-40697号(実開昭60-151369号)のマイクロフィルム 甲第5号証:実願昭60-203774号(実開昭62-111371号)のマイクロフィルム 甲第6号証:特開平2-257820号公報 甲第7号証:特開昭60-120932号公報 甲第8号証:日本工業規格JIS Z8907「方向性及び運動方向通則(昭和62年3月1日制定)」 甲第9号証:特開平5-153888号公報(本件公開公報) 甲第10号証:本件出願の平成11年6月30日付け手続補正書 また、弁駁書において、参考資料1及び参考資料2を挙げている。 参考資料1:本件の平成11年6月30日付け意見書 参考資料2:1990年5月25日、日刊工業新聞社発行「機械用語図解辞典」330、331頁 (3-2)被請求人の主張 被請求人は、答弁書において乙第1号証の1ないし乙第10号証を提出して、請求人の無効理由1?4はいずれも理由がない旨主張する。 乙第1号証:実願昭60-203774号(実開昭62一111371号)のマイクロフィルム 乙第2号証:特開平2-257820号公報 乙第3号証:実願昭62-201320号(実開平1-105466号)のマイクロフィルム 乙第4号証:シマノ工業株式会社カタログ「シマノ新製品ニュースNew Tack1e '87-No.20」 乙第5号証:リョービ株式会社カタログ「FISHING TACKLE FOR 1988」 乙第6号証:株式会社オリムピック、オリムピック釣具販売株式会社カタログ「' 86オリムピック釣具総合カタログ」 乙第7号証:ダイワ精工株式会社カタログ「Fishing Tack1e Catalog '89」 乙第8号証:谷腰欣司著「小型モーターのしくみ」2004年10月15日第1版第1刷発行、発行所:株式会社電波新聞社、17?19頁、55?59頁、65?69頁 乙第9号証:見城尚志、永守重信著「メカトロニクスのためのDCサーボモータ」昭和59年2月25日第4版発行、発行所:総合電子出版社、6?12頁 乙第10号証:無効2000-35168審決 4.特許法第29条第2項(無効理由3)について (4-1)本件発明 本件発明は、上記訂正の請求が認められることから、平成17年3月28日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側右側部に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。」 (4-2)甲号各証及び乙号各証の記載内容 甲第1号証には、次のことが記載されている。 「〔産業上の利用分野〕本発明は、・・・釣用リールの自動シャクリ制御装置に関する。」(1頁右下欄最下行?2頁左上欄6行)、 「先ず、第16図と第17図に基づいて釣用リールの駆動構造を説明する。(1)は釣糸を巻くためのスプールであり、リール本体(2)の左右両側に固着されたリール側枠(3L),(3R)にベアリングを介して回転自在に支持されている。スプール(1)内には、直流モータ(M)が保持部材(4)に保持され、この直流モータ(M)からは、スプール(1)の回転軸芯と同心上に出力軸(Ma)が突出している。・・・更に第19図(第20図の誤記。当審注。)に示すように、リール本体(2)の右側部には直流モータ(M)の回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチ(11)が設けられている。」(3頁左下欄下から2行?4頁左上欄4行)、 「かかる構成によって、モータ駆動回路(10)に作動指令が与えられると、直流モータ(M)が駆動されて、スプール(1)が巻上げ方向(第17図では左回りの方向)へ回転駆動されるように、そして巻上げ速度は変速用スライドスイッチ(11)の操作によって3段階に切り換えられるようになっている。又、ハンドル(20)を巻上げ方向(第17図では右周りの方向)へ回転操作すると、スプール(1)が巻上げ方向(第17図では左回りの方向)へ回転駆動されるようになっている。」(4頁右上欄9?19行)、 「図面の簡単な説明・・・第16図は釣用リールの駆動部の横断平面図、第17図は同縦断側面図・・・第20図は釣用リールの平面図である。」(10頁右下欄4行?11頁1行)。 また、第20図(平面図)には、リール本体(2)の右側部のハンドル(20)の内側に、直流モータ(M)の回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチ(11)が前方が「高」となるように前後方向に設けられている。 そして、第17図(側面図)では、ハンドルの巻上げ方向が右回りの方向となることから、第20図において、変速用スライドスイッチ(11)の回転速度が「高」となる方向が、ハンドル(20)の巻上げ方向と同方向である。 以上の記載及び図面から、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「リール本体のリール側枠3L、3R間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動するハンドル20とスプールを回転駆動する直流モータMとを備え、該直流モータMの特定の値を調節する変速用スライドスイッチ11を前記リール本体に設けた釣用リールに於て、 上記リール本体に一つの変速用スライドスイッチ11を前後方向に操作可能に装着すると共に、 上記リール本体内に上記変速用スライドスイッチ11の操作で直流モータMの回転速度を高・中・低の3速に選択的に増減させる変速用スライドスイッチ11を設けた釣用リール。」(以下、「甲1発明」という。) 甲第2号証には、次のことが記載されている。 「この発明は、モータの駆動回転によりスプールが連動回転して釣糸が自動的に巻き取られる電動リールに係り、・・・」(1頁左下欄11?13行)、 「リール本体(A)は、スプール(1)を左右側板(2)(2)’の間に回転自在に軸承し、そのスプール(1)はハンドル(3)の回動操作により駆動回転するものとする。又、スプール(1)のスプール軸(4)を支承した左右側板(2)(2)間にはモータ(5)を定着支承し、そのモータ(5)の回転軸(6)と前記スプール軸(4)との間にモータ(5)の回転を伝達すると共にリール本体(A)のハンドル(3)の操作により前記の電動伝達が切れ手動式へと切り換わる伝達機構(B)を介在させる。」(1頁右下欄1?10行)、 「又、前記したモータ(5)と電源(図示セズ)との間には可変抵抗器(16)を接続するが、図面では可変抵抗器(16)はモーター(5)の側面に一体的に取付けると共に、可変抵抗器(16)を操作するツマミ(17)を回動自在に取付ける。」(2頁右上欄6?10行)、 「電動の場合:スイッチボタン(18)をONにすることにより、モーター(5)の回転はモーターの回転軸(6)・・・スプール(1)へと伝達され、巻き取り可能となり、且、可変抵抗器(16)の操作によりモーター(5)の回転速度を任に可変して、スプール(1)の回転速度を調節することができる。」(2頁左下欄1?10行)。 甲第3号証には、次のことが記載されている。 「本発明は、いわゆる固定スプールの魚釣用リールに関するものであり、キャスティング時にスプールから釣糸が引き出されていくときにスプールが静止状態にある魚釣用リールに関する。本発明の目的は、キャスティングを行った時の様々な実用上の要請、特に餌或いはルアーの回収操作に関する要請に対し、従来よりも更に好適に対応できるような上記リールを製造することにある。」(翻訳文1頁5?10行)、 「一方、スプール1には釣糸が巻回されており、固定スプールと呼ばれる。これはキャスティング時釣糸が放出されていく時にスプール1が制止状態を保つためである。」(同2頁5?7行)、 「一方、回転ドラム2は固定スプール1と同軸上にあり、ピックアップ3の支持部材としての役割を果たすと同時に、キャスト後に釣糸を巻き上げる時、釣糸Fを固定スプール1に確実に巻回するためのものである。最後に、ハンドル4はステップアップ機構を用いてドラム2を回転駆動させるものである。」(同2頁10?14行)、 「電気モータ16は携帯用電源17(バッテリ又は蓄電池)から電力供給を受け、ステップダウン装置により回転ドラムと接続されている。ここにはフリーホイール等が介在し、モータ16の停止時に手動ハンドル4の操作による回転ドラムの駆動を可能にしている。」(同2頁28?31行)、 「モータ16は好ましくは同じ操作部材21(図1及び図2)によって駆動開始と駆動停止を行うようにするのがよく、この操作部材21をハンドル4の近傍に配置するのが望ましい。そうすることにより釣り人は操作部材を一方向にあるいはそれとは逆の方向にハンドル4から手を離すことなく操作することができる。図2に明瞭に示されているように、この操作部材21をレバー形態とするのが好ましく、操作部材21の端部21aは、ハンドル4の回転面の近傍にある面内に位置している。釣り人は一方の手でハンドル4を正規位置で保持し続け、同じ手の親指で操作部材21の端部21aを操作することができる。図1に示されているように、操作部材21はモータ16の給電回路24に直列に接続されている可変抵抗器23の摺動部22を制御し、操作部材21は待避端部位置からアクティブ端部位置までの範囲に亘って変化させることができ、待避端部位置では摺動部22が絶縁スタッド25上に待避しておりモータ16は停止状態にあり、アクティブ端部位置においては可変抵抗23は(回路から)はずれた状態であってモータ16の速度は最大となっている。操作部材21の中間位置はモータの開始速度と最大速度の間の速度に対応している。設計においては、図2に示されるように、回転ドラム2の電気的制御に寄与する様々な要素を、回転ドラム2の機械的制御に寄与する部材を収容するケースと一体の同一ハウジング26内に纏めることもできる。」(同3頁9?28行)、 「このようなリールでは電気的巻上制御により餌或いはルアー回収を、手動で行うよりも高速で行うことができる。また、回収速度をより迅速に切り替えることができる。これら全ての要素は獲物を狙う魚を狙うのに効果的である。釣りの種類やその時々の状況に応じて、釣り人は回転ドラムの制御方法を一方から他方へ簡単に且つ迅速に行うことが可能である。例えば、魚がかかると電気制御による回収を停止し、魚を疲れさせるために手動制御に切り替えることができる。」(同3頁35行?4頁5行)。 以上の記載及び図面から、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「レバー形態からなる操作部材21を所定角度範囲に亘って回転可能に装着すると共に、上記操作部材21の回転操作で電気モータ16の回転速度をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させる電気モータ16の速度調節手段を設け、上記操作部材21の回転操作量に応じて、前記電気モータ16の回転速度をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能とした魚釣用リール。」(以下、「甲3発明」という。) 甲第4号証には、以下のことが記載されている。 「考案の目的 本考案は・・・・操作性の良い変速スイッチを有する電動リールを提供するものである。」(明細書2頁6?9行)、 「さて本考案による電動リール1には、図示のようにリールの側部にモータの回転速度を高低二段に切換えるスイッチ8が設けられている。このスイッチ8は操作レバー9を有し、第2図に示すように所定角度を回動させて操作する回転スイッチとして構成されている。そして第3図に電動リール1の内部を示すようにスイッチ8の回転軸10に変速カム11が固定されており、この変速カム11が電動リール1内部のマイクロスイッチ12の可動片12aと接触している。」(同3頁15行?4頁5行)。 そして、第1図?第3図には、操作レバー9を、リールの側枠に設けたことが記載されている。 甲第5号証には、以下のことが記載されている。 「(産業上の利用分野) この考案は魚釣用電動リールに関し、詳しくは電動巻き上げ、電動+手動巻き上げ、更に手動巻き上げの3方式の使用が出来る電動リールに関する。」(明細書2頁2?6行)、 「両軸受タイプの魚釣用電動リールは左右の側枠1、2と、その左右の側枠間に軸承されたスプール3、及びスプール3の胴部3a内に収納設置したモータ4、側枠1内に収納装備した動力伝達機構とで構成されており、スプール3内に収納するモータ4の一側部が側枠2にナット締めによって定着固定され、そのモータ4の外側でスプール3が回転するようになっている。」(同5頁3行?11行)、 「上記移動手段は支軸13に対して回転可能に取付けた操作レバー28、その操作レバー28の軸承部周囲に形成した固定傾斜カム29、固定傾斜カム29と対応する可動傾斜カム30、複数枚の皿バネ31、スリーブ32とで構成され可動傾斜カム30の外周にはスプライン30’が突設されて側枠1の筒部33内面に形成した案内溝34に嵌合され、それによって可動傾斜カム30が回動が規制されて軸線方向にスライドするように支持されている。」(同7頁15行?8頁4行)、 「本考案に係る魚釣用電動リールは以上の如き構成としたものであるから、操作レバーの操作によってスプールを自由回転から強制巻き取り状態の最大トルクまで管制できると共に、強制巻き取り時の係合トルクは魚が掛った場合に作用する逆転トルクに対してドラッグ力(ブレーキ)として作用するものである。しかも、クラッチの係合トルク調整とドラッグ力の強弱調整の両作用を1本の操作レバーにて行うことが出来るため釣り操作を大幅に向上することが出来る。」(同10頁下から3行?11頁8行)。 そして、第1図?第3図には、操作レバー28を、リールの側枠21に設けたことが記載されている。 甲第6号証には、以下のことが記載されている。 「本発明は手動併用電動リールにおけるこれらの欠点を改善して手動巻取り操作中においても円滑容易なドラグ操作が出来ると共に安定したドラグ制動力が得られるようにした魚釣用電動リールを提供することを目的とするものである。」(1頁右下欄下から3行?2頁左上欄2行)、 「次にモーターで釣糸を捲取る場合は、制動歯車がその制動力に応じてピニオンの回り止めを行うので減速装置の遊星歯車保持体は回転せず、スプールを捲取り回転させる。」(2頁左下欄第8?11行)、 「また前記太陽歯車26の内端部に一体的に設けられた歯車28は、制動軸29に嵌合された制動歯車30に噛合し、該制動歯車30は公知の制動機構のように制動摩擦材31を介して制動軸29に螺合されたドラグ調整捕手32で圧接自在に形成され制動歯車30のドラグカを調節できるように構成されている。・・・図中34はハンドル軸19に固着したハンドル、35はモータースイッチ、36は給電コード、37はドラグ調整捕手32の操作レバーである。」(3頁左上欄4?17行)、 「次にモーター7により捲取る場合には、モーター7の回転は減速装置11を介してピニオン18、・・・太陽歯車26から制動歯車30に分かれて伝達される。ところが制動歯車30はその制動力の範囲で回り止め作用を行うので減速装置11の遊星歯車保持体16は回転せず内側歯車10を介してスプ-ル6を捲取り回転させるものである。」(3頁左下欄7?17行)。 また、第1図?第3図には、操作レバー37は、手動ハンドル34が取付く側に位置している。 甲第7号証には、以下のことが記載されている。 「この発明は、ハンドル操作で駆動モーターの回転速度を制御した魚釣用電動リールに関する。」(1頁左下欄10?11行)、 「本発明の目的は、・・・ハンドル操作で駆動モーターの回転速度を制御して獲物の引きに合わせて釣糸の繰り出しと巻き上げ操作が出来て釣り本来の面白味が味わえるようにした魚釣用電動リールを提案することにある。」(1頁右下欄1?5行)、 「以下、図示の実施例で本発明を説明すると、魚釣用電動リールの第1実施例を魚釣用スピニングリールで述べれば第1図から第3図でリール本体1の前面に突出された回転軸部材を構成する回転軸筒2とスプール軸10と、回転軸筒に固定された糸巻き回転部材を構成するローター11と、スプール軸10に取り付けられて前後に往復動するスプール12と、・・・上記ローター11の両腕部に反転自在に取り付けられたベール20・・・とで構成されている。」(1頁右下欄6行?2頁左上欄下から3行)、 「第4図以下は魚釣用電動リールを両軸受型リールに実施した第2実施例で、・・・一方のリール側板32と基板34に固定された軸受37、38に回転自在に軸承された回転部材を構成するスプール軸7に糸巻き回転部材を構成するスプール8が固定され、」(2頁右下欄8?14行)、 「又上記説明では魚釣用リールをスピニングリールと両軸受型リールで述べたが、他の形式のリールに実施してもよい。」(3頁左下欄12?14行)。 乙第1号証?乙7号証には、魚釣用電動リールの技術分野において、モータ駆動と手動ハンドル駆動とを併用して、追い巻き操作のような複合操作をすることが記載されている。 (4-3)対比 本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「リール側枠3L,3R」は、本件発明の「両側枠」に相当し、以下、「ハンドル20」は、「手動用ハンドル」に、「直流モータM」は、「スプール駆動モータ」に、「釣用リール」は、「魚釣用電動リール」に、それぞれ、相当し、甲1発明の「変速用スライドスイッチ11」は、本件発明の「モータ出力調節体」と、モータの特定の値を調節する「モータ調節体」である点で共通するから、両者は、 「リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータの特定の値を調節するモータ調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、 上記リール本体に一つのモータ調節体を前後方向に操作可能に装着すると共に、 上記リール本体内に上記モータ調節体の前後方向の操作でスプール駆動モータの特定の値を増減させるモータ調節体を設けた魚釣用電動リール。」 (相違点1) モータ調節体の配置位置に関し、本件発明が、「リール本体のハンドル側右側部」に設けたのに対し、甲1発明は、リール本体の上面の右前方に設けた点。 (相違点2) モータ調節体の形態及び調節態様に関し、本件発明が、「スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体をリール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、レバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って回転可能に装着すると共に、上記モータ出力調節レバーの回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能とした」のに対し、甲1発明は、モータの回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチ11をスライド操作可能に設けた点。 (4-4)当審の判断 (相違点1について) 相違点1を検討すると、乙第1号証から乙第7号証に記載され被請求人も自認するとおり、手動ハンドルの回転操作による手動巻取りと自動巻取りとの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が行えるようにしたものは周知慣用である。 ここで、甲第1号証をみると、本件発明と同様に、被請求人が主張するような、リール本体の右側部(右側の側面)ではないが、モータ調節体(変速用スライドスイッチ11)は、手動ハンドルの近傍の「リール本体の上面の右前方」に設けられており、甲第1号証記載のものも、本件発明と同様に、「・・・手を大きくずらすことなく、手動巻取りと自動巻取りの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が容易に行えるようになる。・・・」(本件特許明細書【0021】)参照)なることは明らかである。 そして、本件発明のような両軸受け型電動リールにおいて、甲第2号証には、手動ハンドルの存するリール本体の右側の側面にモータ調節体(ツマミ17)を設けたことが記載され、同甲第4号証には、手動ハンドルを設けてはいないが、モータ調節体をリール本体の右側の側面に構成することが記載され、また、同甲第5号証及び甲第6号証には、モータ調節体ではないが、手動ハンドルの存するリール本体の右側の側面に調節体(操作レバー)を設けたものが記載されている。 上記のように、甲1号証に手動ハンドルの近傍にモータ調節体を設けたことが記載されており、また、モータ調節体又は各操作レバーをリール本体の右側の側面に構成することが周知慣用であることから、甲1発明において、相違点1の本件発明に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。 なお、甲第1号証には、第20図記載の「変速用スライドスイッチ11」をリール本体の上面の右前方に設けたことを、リール本体の右側部に設けた(甲第1号証3頁右下欄最下行?4頁左上欄4行参照)と記載していることから、相違点1は実質的に甲第1号証に記載されているともいえる。 (相違点2について) 上記相違点2を検討すると、本件発明(両軸受け型リール)とは形式が異なるが、甲3発明は、レバー形態からなるモータ調節レバー(「操作部材21」、以下、括弧内は甲3発明)を所定角度範囲に亘って回転可能に装着すると共に、上記モータ調節体レバーの回転操作で駆動モータ(電気モータ16)の回転速度をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータの速度調節手段を設け、上記モータ調節レバーの回転操作量に応じて、前記駆動モータの回転速度をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能とした魚釣用リールである。 ここで、本件発明のモータ出力調節体はモータの出力を増減するのに対し、甲1発明及び甲3発明は、モータの回転速度を増減するものであるが、本件特許明細書にその態様としてモータの回転を制御するとの記載(【0026】参照)があること、及び、被請求人も自認するように(モータ出力)=(定数)×(モータ軸の回転数:N)×(モータ軸のトルク:T)は技術常識であって(答弁書5頁(マル1)「(4-4-1)特許請求の範囲の記載要件違反」の項参照)、結局のところ、モータ出力は、外部の負荷に影響されるものの略モータ軸の回転数により決まるものであるから、甲1発明の回転数の増減に代えて本件発明のモータ出力の増減とすることは、その実態において異ならないものである。 さらに、魚釣用電動リールに関する技術を、両軸受型リール及びスピニングリール双方に適用することは、従来より一般的に行われていること(例えば、甲第7号証参照)であるから、このような技術背景がある以上、甲3発明(スピニングリール)を甲1発明のような両軸受け型リールに適用してみようとすることは、当業者であれば容易に思い付くことである。また、このような適用を阻害する事情も見いだし得ない。 したがって、相違点2の本件発明に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。 5.被請求人の主張について (5-1)被請求人の「イ.動機づけの欠如による進歩性の判断の誤り」について 被請求人は、「本件訂正発明は、さきに述べたように、甲第1号証におけるような従来技術が有する欠点をもとに、「本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、操作性に優れ、而も、様々な巻上げ条件に対応しで、スプールの巻上げ速度を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に調整可能とすることにより、釣糸の巻上げ性能の向上を図った魚釣用電動リールを提供することを目的とする。」との課題に対する認識のもとに、特に「モータ出力調節レバーの操作は、釣人がリール本体の両側部を保持した状態のまま、手をずらすことなく行うことが可能である。」との作用及び効果を奏する、いわゆる両軸受タイプの魚釣用電動リールの全体配置構造に特徴があるものである」(答弁書28?29頁)と主張し、さらに、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証?甲第8号証にも、本件訂正発明の上記課題に対する認識がないから、「したがって、5件もの甲各号証において、課題の共通性はまったくないことから、それら5件もの甲各号証を用いて行う論理づけにおいて、それぞれを組み合わせる動機づけとなるものは何ら存在しないこととなり、請求人の進歩性の欠如の主張は、理由がない。」と主張している。 そこで、上記の点を検討すると、甲第8号証はJIS規格なので魚釣用電動リールではなく上記課題は記載されていない(当審の判断では採用せず。)。 甲第1号証には、確かに、上記課題は記載されていないものの、甲第1号証に明示がなくとも、例えば、被請求人の提出した乙第1号証(甲第5号証)「・・・釣り操作を大幅に向上することが出来る」(同明細書11頁7?8行)、乙第2号証(甲第6号証)「・・・ドラグ操作を迅速かつ容易に行うことができる」(同3頁右下欄13?15行)、乙第4号証「・・・巻き上げるパワーが違います。操作性が違います。」(左上「電動丸」の欄)等に記載されていることからも分かるように、「操作性に優れ、釣糸の巻上げ性能の向上を図った魚釣用電動リールを提供する」旨の課題は、本件発明と同一技術分野の魚釣用電動リールにおいて、従来より周知のありふれた課題にすぎない。 また、甲第3号証には「本発明の目的は、・・・特に餌或いはルアーの回収操作に関する要請に対し、従来よりも更に好適に対応できるような上記リールを製造することにある。」(翻訳文1頁8?10行)、甲第7号証には「本発明の目的は、・・・ハンドル操作で駆動モーターの回転速度を制御して獲物の引きに合わせて釣糸の繰り出しと巻き上げ操作が出来て釣り本来の面白味が味わえるようにした魚釣用電動リールを提案することにある。」(1頁右下欄1?5行)、甲第4号証には「考案の目的 本考案は・・・・操作性の良い変速スイッチを有する電動リールを提供するものである。」(明細書2頁6?9行)と記載され、上記「操作性に優れた魚釣用電動リールを提供すること」は、甲第3号証、甲第7号証及び甲第4号証に明示されている。 特に、甲第3号証には、スピニングリールではあるものの、「この操作部材21をハンドル4の近傍に配置するのが望ましい。そうすることにより釣り人は操作部材を一方向にあるいはそれとは逆の方向にハンドル4から手を離すことなく操作することができる。」(翻訳文3頁10?13行)、「釣り人は一方の手でハンドル4を正規位置で保持し続け、同じ手の親指で操作部材21の端部21aを操作することができる。」(同3頁17?18行)、「図1に示されているように、操作部材21はモータ16の給電回路24に直列に接続されている可変抵抗器23の摺動部22を制御し、操作部材21は待避端部位置からアクティブ端部位置までの範囲に亘って変化させることができ、待避端部位置では摺動部22が絶縁スタッド25上に待避しておりモータ16は停止状態にあり、アクティブ端部位置においては可変抵抗23は(回路から)はずれた状態であってモータ16の速度は最大となっている。」(同3頁19?24行)と記載されていることから、本件発明の「スプールの巻上げ速度を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に調整可能とすることにより、釣糸の巻上げ性能の向上を図った魚釣用電動リールを提供することを目的とする。」という課題が示されているといえる。 したがって、甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証には、操作性に優れた魚釣用電動リールを提供するという共通の課題が記載されているといえるから、それぞれを組み合わせる動機付けが存在しないという被請求人の主張は理由がない。 (5-2)被請求人の「ウ.顕著な作用効果の誤認、看過による進歩性の判断の誤り」について 被請求人は、「本件訂正発明は、さきに述べたように、「然し、この魚釣用電動リールは、スライドスイッチの変速設定位置(高・中・低)の夫々の位置でのモータ駆動であるため、魚の種類や大きさ、一回にかかった魚の数、仕掛けの強さ等の条件に対し、スプールを任意の巻上げ速度に調節することができず、電動リールを駆使した実用的な魚釣操作が行えない欠点が指摘されている。又、上記魚釣用電動リールは、高・中・低の夫々の切換え時に釣糸の巻上げ速度が急激に変化するので、魚をバラしたり仕掛けを切断したり、或いは魚層変更の際に餌を不意に仕掛け針から落としてしまう等、巻上げに係わる様々な条件に対応した巻上げ操作ができない欠点があった。而も、スライドスイッチは、あくまで釣糸の巻上げ速度を3段階に変速させるだけであって、スプール駆動モータを巻上げ停止状態とする機能はなく、そのため、釣糸の巻上げ時にスプール駆動モータを停止させるには、リール本体を保持している手をずらして、操作パネル上に別途設けたメインスイッチを親指等で操作しなければならないため、操作性が良好なものとはいえなかった。」(【0003】、【0004】との、甲第1号証におけるような従来技術が有する欠点に対する課題認識をもとに、請求項に記載された構成を全体として有する発明としてなされたものである。そして、その構成により、その訂正明細書に記載された【作用】(【0007】)を有し、そして【発明の効果】(【0021】)に記載された格別顕著な効果を奏するものである。このような効果は、請求人が引用した5件もの従来例においては、何ら記載されてなく、その示唆すらもされていないものであり、請求人の主張は、このような格別顕著な作用効果を誤認、看過した結果、進歩性の判断を誤ったものであり、理由がない。」(答弁書29?30頁)と主張する。 そこで上記の点を検討すると、被請求人の主張する格別の作用効果は次のとおりである。 (1)リール本体のハンドル側に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着しているため、手を大きくずらすことなく、手動巻取りと自動巻取りの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が容易に行えるようになる(本件明細書【0021】)。 (2)出力調節レバーは、前後方向への回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減変更することができるため、ハリス強度、対象魚、魚の大小及びヒット数、潮流、波等を考慮し乍ら、釣人は、巻取り操作時にリール本体から手を大きくずらすことなく、手の指で無理なく釣場の状況に応じて回転操作量を適宜調節してモータ出力を停止したり、増減調節が簡単に行えるようになり、従来の魚釣用電動リールに比べて釣糸の巻上げ操作性が飛躍的に向上する(同【0021】)。 しかしながら、上記(1)及び(2)は、甲1発明に甲3発明を採用することにより、特に上記(5-1)にて述べた甲3発明の効果に関する記載から、予測できる効果であり、格別顕著な効果ということはできない。 なお、本件の出願経過をみると、本件の当初明細書(甲第9号証)を参照すると、被請求人の主張する格別顕著な効果のキーワードとなる「手を大きくずらす」、「交互使用」、「複合操作」、「追い巻き」は、見あたらないが、本件の平成11年6月30日付け手続補正書(甲第10号証)には、新たに追加されている。 上記新規な事項を追加したことに関し、被請求人は「そして、このような複合操作の一つとしての追い巻き操作は、・・・本件発明におけるような電動リール技術分野においては、モータ駆動と手動ハンドル駆動を併用することで、広く行われている技術手段であり、そのための具体的構成も、本件発明の出願時、広く知られている周知慣用の技術手段である(乙第1号証?乙第7号証を参照)。したがって、当業者であれば、モータ出力調節体と手動ハンドルを備えた電動リールにおける、そのような追い巻き機構は技術常識として認識しているものであり」(答弁書8頁8?14行)とし、追い巻き等の複合操作等は、当初明細書に記載されているに等しい技術事項である旨の主張をしている。 そうだとすると、被請求人が格別と主張する追い巻き等の複合操作の効果等は、本件出願前広く知られている作用効果であり、格別顕著な作用効果でないことは、明らかである。 したがって、本件発明のように構成したことによる格別の作用効果も認められない。 6.むすび 以上のとおり、本件発明は、甲1発明、甲3発明および本件特許出願前に周知の技術から、当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、他の無効理由について検討するまでもなく、特許法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 魚釣用電動リール (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側右側部に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、釣糸の巻上げ操作性の向上を図った魚釣用電動リールに関する。 【0002】 【従来の技術】 スプールを回転させるスプール駆動モータの回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチを設けて、釣糸の巻上げ速度を3段階に変速可能とした魚釣用電動リールが、特開平3-119941号公報に開示されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】然し、この魚釣用電動リールは、スライドスイッチの変速設定位置(高・中・低)の夫々の位置でのモータ駆動であるため、魚の種類や大きさ,一回にかかった魚の数,仕掛けの強さ等の条件に対し、スプールを任意の巻上げ速度に調節することができず、電動リールを駆使した実用的な魚釣操作が行えない欠点が指摘されている。 【0004】 又、上記魚釣用電動リールは、高・中・低の夫々の切換え時に釣糸の巻上げ速度が急激に変化するので、魚をバラしたり仕掛けを切断したり、或いは魚層変更の際に餌を不意に仕掛け針から落としてしまう等、巻上げに係わる様々な条件に対応した巻上げ操作ができない欠点があった。而も、スライドスイッチは、あくまで釣糸の巻上げ速度を3段階に変速させるだけであって、スプール駆動モータを巻上げ停止状態とする機能はなく、そのため、釣糸の巻上げ時にスプール駆動モータを停止させるには、リール本体を保持している手をずらして、操作パネル上に別途設けたメインスイッチを親指等で操作しなければならないため、操作性が良好なものとはいえなかった。 【0005】 本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、操作性に優れ、而も、様々な巻上げ条件に対応して、スプールの巻上げ速度を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に調整可能とすることにより、釣糸の巻上げ性能の向上を図った魚釣用電動リールを提供することを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】 斯かる目的を達成するため、本発明は、リール本体の両側枠間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプールを回転駆動するスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記リール本体のハンドル側右側部に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着すると共に、上記リール本体内に上記モータ出力調節レバーの前後方向の回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるモータ出力調節手段を設け、上記モータ出力調節レバーの前後方向への回転操作量に応じて、前記スプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に制御可能としたものである。 【0007】 【作用】 本発明によれば、リール本体に装着した一つのモータ出力調節レバーをリール本体の前後方向へ回転操作すると、その操作量に応じスプール駆動モータのモータ出力が連続的に増減して、スプールの巻上げ速度が巻上げ停止状態から最大値まで変化することとなる。そして、モータ出力調節レバーの操作は、釣人がリール本体の両側部を保持した状態のまま、手をずらすことなく行うことが可能である。 【0008】 【実施例】 以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係る魚釣用電動リールの平面図を示し、図に於て、1はリール本体、3,5はリール本体1の左右両側に固着したリール側枠、7は釣糸9を巻回したスプールで、当該スプール7は、その一端が図示しないブラケットを介してリール本体1に回転可能に支持され、又、その他端はこれに固定したブラケット11と、リール本体1に取り付けたセットプレート13の軸受15によって回転可能に支持されている。 【0009】 17はスプール7内に軸線を一致させて配置したスプール駆動モータ(以下「モータ」という)で、当該モータ17の回転軸17aとスプール7間は、従来の魚釣用電動リールと同様、スプール7内に設けた減速歯車機構19により互いに連結されて、モータ17の回転をスプール7に伝達できるようになっている。又、減速歯車機構19を構成するギヤキャリィ21のボス部21aは、スプール7を支持するブラケット11のボス11a内に相対回転可能に嵌合されている。 【0010】 23はスプール巻上げ用の手動ハンドルで、当該手動ハンドル23も、従来と同様、セットプレート13に回転可能に取り付けたハンドル軸25のリール側枠5外突出端に連結されている。そして、ハンドル軸25にはスプール逆転止め用爪車27がリール側枠5内で固着され、更にドライブギヤ29が回転可能に取り付けられている。又、ドライブギヤ29とハンドル軸25間は、ハンドル軸25にセットしたドラグ装置31により摩擦結合され、これによって手動ハンドル23の回転をドライブギヤ29に伝達できるようになっている。 【0011】 そして、図中、33は上記ドライブギヤ29に噛合するピニオンギヤで、当該ピニオンギヤ33はスプール7の軸線上に於て、上記ギヤキャリィ21のボス部21aの中心とリール側枠5間に横架状態に支持したピニオン軸35に回転可能且つその軸方向へ移動可能に支持されており、ピニオンギヤ29とこれに対向するギヤキャリィ21のボス部21a間には、モータ17からスプール7への巻取り動力を伝達又は遮断させるクラッチ板37が設けられている。 【0012】 而して、本実施例に係る魚釣用電動リールは、上述の如き構造に加えて、リール本体1の右側部前方に、実釣時に釣人がリール本体1の両側部を両手で保持した状態のまま、右手の親指と人差し指で操作可能な一つのモータ出力調節レバー(以下「レバー」という)39を約120°の範囲に亘ってリール本体1の前後方向へ回転可能に装着すると共に、モータ17の出力調節手段として回転形のポテンショメータ41をレバー39に連結して、当該レバー39の回転操作でモータ17の出力を巻上げ停止状態(オフ状態)から最大値まで連続的に増減変更させるようにしたものである。 【0013】 即ち、周知のように、ポテンショメータ41は与えられた機械的変位でブラシを動かし、固定した抵抗体の上を摺動させ、その抵抗値を変化させることによってブラシの位置に対応する電圧を取り出すものである。そこで、本実施例は、上記レバー39をポテンショメータ41に連結し、レバー39の回転操作によってポテンショメータ41内のブラシの位置を変化させるようになっている。そして、図2に示すように当該レバー39の作動によるポテンショメータ41の抵抗値の変化を制御回路43に入力し、レバー39の操作量に応じたパルス信号のデューテー比としてモータ17への駆動電流通電時間率を当該制御回路43で可変制御して、モータ17の回転を巻上げ停止状態から最大値(0?100%)まで連続して増減変更できるようになっている。 【0014】 又、図1に於て、45は上記制御回路43を収納する制御ユニットで、当該制御ユニット45はリール側枠3,5と一体構造の水密収納部47内に装着されてリール本体1に組み付けられている。そして、制御ユニット45の操作パネル49上には、モータ17のON/OFFスイッチ51やデジタル表示部53が配設されている。而して、デジタル表示部53には、レバー39の操作によるモータ出力を表示する表示器55が設けられており、モータ出力の調節に応じて当該表示器55のバー表示量の目盛りが、“0”から“100”迄逐次変化するようになっている。そして、上記ON/OFFスイッチ51をON操作すると、レバー39の現在位置のモータ出力で釣糸9の巻上げが開始され、以後はレバー39の操作に応じてモータ17の出力を連続的に制御できるようになっている。その他、図中、57はコネクタ59を介してリール本体1に接続された電源コードで、この電源コードを鰐口クリップ等により船上に配置したバッテリ等の直流電流に接続することで、モータ17や制御回路43が起動するようになっている。 【0015】 本実施例はこのように構成されているから、魚釣を行う場合は、リール本体1にコネクタ59を介して電源コード57を接続し、当該電源コード57を鰐口クリップ等により船上に配置したバッテリ等の直流電源に接続する。 【0016】 そして、魚の当たりがあった場合に、上記ON/OFFスイッチ51をON操作すると、レバー39の現在位置のモータ出力でスプール7が回転して釣糸9が巻き上げられるので、釣り人は表示器55を確認し乍ら、釣糸9をゆっくり巻き上げたい場合には、例えば表示器55のバー表示量の目盛りが“20”となるようにレバー39を操作し、魚の引きが強くてハリスが強い場合には、バー表示量の目盛りが“80”となるようにレバー39を操作する等、巻上げの状況に応じてレバー39を操作し乍らモータ17の出力を制御すれば、釣糸9は巻上げに最適なモータ速度で巻き上げられることとなる。そして、巻上げを止めたい場合にはバー表示量の目盛りが“0”となるようにレバー39を戻せばよい。 【0017】 このように、本実施例に係る魚釣用電動リールによれば、ハリス強度,対象魚、魚の大小及びヒット数,潮流,波等を考慮し乍ら、モータ出力をリール本体1に装着した一つのレバー39で制御してスプール7の回転数を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減変更することができ、而も、釣人はリール本体1の両側部を両手で保持した状態のまま、右手をずらすことなく親指と人差し指でレバー39の操作が可能であるので、従来の魚釣用電動リールに比し釣糸9の巻上げ操作性が飛躍的に向上することとなった。 【0018】 尚、上記実施例は、レバー39の回転操作でモータ17のモータ出力を連続的に増減させるモータ出力調節手段としてポテンショメータ41を用いたが、これらに代えてボリュームスイッチやホール素子等を用いてもよく、斯かる構造によっても、上記実施例と同様、所期の目的を達成することが可能である。 【0019】 更に又、上記実施例では、ON/OFFスイッチ51をON操作すると、レバー39の現在位置のモータ出力で釣糸9の巻上げが開始され、以後はレバー39の操作に応じてモータ17の出力を連続的に制御できるようにしたが、ON/OFFスイッチ51は省略してもよい。 【0020】 而して、この場合には、レバー39が電源スイッチのを兼ねることになるので、安全性を考慮してレバー39を一度“0”の位置に戻してから、スプール7の巻上げが開始するように構成されている。 【0021】 【発明の効果】 以上述べたように、本発明によれば、リール本体のハンドル側右側部に一つのレバー形態からなるモータ出力調節レバーを所定角度範囲に亘って前後方向に回転可能に装着しているため、手を大きくずらすことなく、手動巻取りと自動巻取りの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が容易に行えるようになる。また、上記したような出力調節レバーは、前後方向への回転操作でスプール駆動モータのモータ出力をオフ状態の巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減変更することができるため、ハリス強度、対象魚、魚の大小及びヒット数、潮流、波等を考慮し乍ら、釣人は、巻取り操作時にリール本体から手を大きくずらすことなく、手の指で無理なく釣場の状況に応じて回転操作量を適宜調節してモータ出力を停止したり、増減調節が簡単に行えるようになり、従来の魚釣用電動リールに比べて釣糸の巻上げ操作性が飛躍的に向上する。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の一実施例に係る魚釣用電動リールの平面図である。 【図2】 図1に示す魚釣用電動リールの制御手段の概略構成図である。 【符号の説明】 1 リール本体 7 スプール 9 釣糸 17 モータ 39 レバー 41 ポテンショメータ |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2006-01-04 |
結審通知日 | 2006-01-13 |
審決日 | 2006-01-24 |
出願番号 | 特願平3-324492 |
審決分類 |
P
1
113・
534-
ZA
(A01K)
P 1 113・ 121- ZA (A01K) P 1 113・ 531- ZA (A01K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 石井 哲 |
特許庁審判長 |
木原 裕 |
特許庁審判官 |
大元 修二 柴田 和雄 |
登録日 | 1999-09-10 |
登録番号 | 特許第2977978号(P2977978) |
発明の名称 | 魚釣用電動リール |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 小野 由己男 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 幸長 保次郎 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 小林 茂雄 |
代理人 | 幸長 保次郎 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 鎌田 邦彦 |