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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A01K
審判 全部無効 2項進歩性  A01K
管理番号 1146982
審判番号 無効2005-80002  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-12-28 
確定日 2006-11-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3294820号発明「魚釣用電動リール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3294820号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
平成 3年12月 9日 特願平3-324492号(原出願)
平成11年 7月 7日 特願平11-193020号(本件出願)
平成14年 4月 5日 特許登録
平成16年12月28日 本件無効審判請求(無効2005-80002)
平成17年 3月28日 訂正請求書、答弁書
平成17年 7月14日 弁駁書

2.訂正の適否
(2-1)訂正の内容
本件無効審判の「訂正の請求」は、本件特許明細書を次のとおりに訂正するものである。
(訂正事項a)
【請求項1】の「魚釣用電動リールにおいて、」と「前記リール本体に設けた」の間に、「スプール駆動モータの電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、」を加入訂正する。
(訂正事項b)
【0006】の「魚釣用電動リールにおいて、」と「前記リール本体に設けた」の間に、「スプール駆動モータの電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、」を加入訂正する。
(訂正事項c)
【0035】の「本発明によれば、」と「リール本体に装着した」の間に、「スプール駆動モータの電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、」を加入訂正する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
上記訂正事項b及びcは、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とした訂正である。
そして、上記訂正事項aないしcは、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、上記訂正事項aないしcは、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

3.当事者の主張等
(3-1)請求人の主張
請求人は、審判請求書及び弁駁書において、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を無効とする理由として次のように主張し、甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。
(無効理由1:特許法第29条第2項)
本件出願は適正に分割出願されたものではなく、その出願日は現実の出願日である平成11年7月7日に繰り下がる結果、本件特許発明は原出願の公開公報である特開平5-153888号公報(甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(無効理由2:特許法36条)
本件明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に記載されているとは認められない。
(無効理由3:特許法第29条第2項)
本件発明は、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5?8号証の記載に基づいて容易に想到することができたものである。
(無効理由4:特許法第29条第2項)
本件発明は、甲第3号証、甲第4号証及び甲第5?8号証の記載に基づいて容易に想到することができたものである。

甲第1号証:特開平5-153888号公報
甲第2号証:特開平3-119941号公報
甲第3号証:特開昭50-142387号公報
甲第4号証:フランス特許第1525043号明細書
甲第5号証:特開昭64-16216号公報
甲第6号証:特公平1-13314号公報
甲第7号証:実公昭30-15340号公報
甲第8号証:特開昭60-120932号公報
甲第9号証:特開2000-23602号公報

(3-2)被請求人の主張
被請求人は、答弁書において乙第1号証の1ないし乙第4号証を提出して、請求人の無効理由1?4はいずれも理由がない旨主張する。

乙第1号証:雑誌「つり人」1990年12月号(通巻534号)61頁、80、81頁
乙第2号証:服部善郎著「服部名人の釣り指南」初版第1刷、昭和55年10月17日、発行所:株式会社実業之日本社、112、113頁
乙第3号証:特開昭58-170419号公報
乙第4号証:実願平2-38365号(実開平3-129072号)のマイクロフィルム

(3-3)無効審判2004-80241
答弁書13頁17行?末行

4.特許法第29条第2項(無効理由3)について
(4-1)本件発明
本件発明は、上記訂正の請求が認められることから、平成17年3月28日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「リール本体に回転可能に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータを備え、該スプール駆動モータの出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールにおいて、スプール駆動モータの電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、前記リール本体に設けた単一のモータ出力調節体の連続的な変位操作でモータ出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減するモータ出力調節手段を設けると共に、前記モータ出力調節体は、その調節位置を巻上げ停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないとモータを再駆動しないように設定されていることを特徴とする魚釣用電動リール。」

(4-2)甲号各証等の記載内容
甲第2号証には、次のことが記載されている。
「〔産業上の利用分野〕本発明は、・・・釣用リールの自動シャクリ制御装置に関する。」(1頁右下欄最下行?2頁左上欄6行)、
「先ず、第16図と第17図に基づいて釣用リールの駆動構造を説明する。(1)は釣糸を巻くためのスプールであり、リール本体(2)の左右両側に固着されたリール側枠(3L),(3R)にベアリングを介して回転自在に支持されている。スプール(1)内には、直流モータ(M)が保持部材(4)に保持され、この直流モータ(M)からは、スプール(1)の回転軸芯と同心上に出力軸(Ma)が突出している。・・・更に第19図(第20図の誤記。当審注。)に示すように、リール本体(2)の右側部には直流モータ(M)の回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチ(11)が設けられている。」(3頁左下欄下から2行?4頁左上欄4行)、
「かかる構成によって、モータ駆動回路(10)に作動指令が与えられると、直流モータ(M)が駆動されて、スプール(1)が巻上げ方向(第17図では左回りの方向)へ回転駆動されるように、そして巻上げ速度は変速用スライドスイッチ(11)の操作によって3段階に切り換えられるようになっている。又、ハンドル(20)を巻上げ方向(第17図では右周りの方向)へ回転操作すると、スプール(1)が巻上げ方向(第17図では左回りの方向)へ回転駆動されるようになっている。」(4頁右上欄9?19行)、
「図面の簡単な説明・・・第16図は釣用リールの駆動部の横断平面図、第17図は同縦断側面図・・・第20図は釣用リールの平面図である。」(10頁右下欄4行?11頁1行)。
また、第20図(平面図)には、リール本体(2)の右側部のハンドル(20)の内側に、直流モータ(M)の回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチ(11)が前方が「高」となるように前後方向に設けられている。
そして、第17図(側面図)では、ハンドルの巻上げ方向が右回りの方向となることから、第20図において、変速用スライドスイッチ(11)の回転速度が「高」となる方向が、ハンドル(20)の巻上げ方向と同方向である。
以上の記載及び図面から、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「リール本体に回転可能に支持されたスプールを巻取り駆動する直流モータMを備え、該直流モータMの回転速度を調節する変速用スライドスイッチ11を前記リール本体に設けた釣用リールにおいて、前記リール本体に設けた変速用スライドスイッチ11の変位操作でモータMの回転速度を高・中・低の3速に増減するモータ調節手段を設ける釣用リール。」(以下、「甲2発明」という。)

甲第4号証には、次のことが記載されている。
「本発明は、いわゆる固定スプールの魚釣用リールに関するものであり、キャスティング時にスプールから釣糸が引き出されていくときにスプールが静止状態にある魚釣用リールに関する。本発明の目的は、キャスティングを行った時の様々な実用上の要請、特に餌或いはルアーの回収操作に関する要請に対し、従来よりも更に好適に対応できるような上記リールを製造することにある。」(翻訳文1頁5?10行)、
「一方、スプール1には釣糸が巻回されており、固定スプールと呼ばれる。これはキャスティング時釣糸が放出されていく時にスプール1が制止状態を保つためである。」(同2頁5?7行)、
「一方、回転ドラム2は固定スプール1と同軸上にあり、ピックアップ3の支持部材としての役割を果たすと同時に、キャスト後に釣糸を巻き上げる時、釣糸Fを固定スプール1に確実に巻回するためのものである。最後に、ハンドル4はステップアップ機構を用いてドラム2を回転駆動させるものである。」(同2頁10?14行)、
「電気モータ16は携帯用電源17(バッテリ又は蓄電池)から電力供給を受け、ステップダウン装置により回転ドラムと接続されている。ここにはフリーホイール等が介在し、モータ16の停止時に手動ハンドル4の操作による回転ドラムの駆動を可能にしている。」(同2頁28?31行)、
「モータ16は好ましくは同じ操作部材21(図1及び図2)によって駆動開始と駆動停止を行うようにするのがよく、この操作部材21をハンドル4の近傍に配置するのが望ましい。そうすることにより釣り人は操作部材を一方向にあるいはそれとは逆の方向にハンドル4から手を離すことなく操作することができる。図2に明瞭に示されているように、この操作部材21をレバー形態とするのが好ましく、操作部材21の端部21aは、ハンドル4の回転面の近傍にある面内に位置している。釣り人は一方の手でハンドル4を正規位置で保持し続け、同じ手の親指で操作部材21の端部21aを操作することができる。図1に示されているように、操作部材21はモータ16の給電回路24に直列に接続されている可変抵抗器23の摺動部22を制御し、操作部材21は待避端部位置からアクティブ端部位置までの範囲に亘って変化させることができ、待避端部位置では摺動部22が絶縁スタッド25上に待避しておりモータ16は停止状態にあり、アクティブ端部位置においては可変抵抗23は(回路から)はずれた状態であってモータ16の速度は最大となっている。操作部材21の中間位置はモータの開始速度と最大速度の間の速度に対応している。設計においては、図2に示されるように、回転ドラム2の電気的制御に寄与する様々な要素を、回転ドラム2の機械的制御に寄与する部材を収容するケースと一体の同一ハウジング26内に纏めることもできる。」(同3頁9?28行)、
「このようなリールでは電気的巻上制御により餌或いはルアー回収を、手動で行うよりも高速で行うことができる。また、回収速度をより迅速に切り替えることができる。これら全ての要素は獲物を狙う魚を狙うのに効果的である。釣りの種類やその時々の状況に応じて、釣り人は回転ドラムの制御方法を一方から他方へ簡単に且つ迅速に行うことが可能である。例えば、魚がかかると電気制御による回収を停止し、魚を疲れさせるために手動制御に切り替えることができる。」(同3頁35行?4頁5行)。
また、Fig.1によれば、電気モータ16の電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、電気モータ16の回転速度を増減させる単一の操作部材21を設けた点が記載されている。
以上の記載及び図面から、甲第4号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ハンドル4と電気モータ16を備え、電気モータ16の電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、電気モータ16の回転速度を待避端部位置からアクティブ端部位置まで連続的に増減させる単一の操作部材21を回転操作可能に設けた固定スプール魚釣用リール」(以下、「甲4発明」という。)

甲第6号証には、以下のことが記載されている。
「本発明は、・・・特にはモータ運転の安全装置に関するものである。」(1頁右下欄4?6行)、
「本発明の目的は、・・・一般の制御装置においては運転指定になっている状態で制御用電源を遮断している場合、該電源を投入したことによって直ちにモータが運転されて例えばこれが特に高速運転指定にあった場合など危険を伴うが、これを電源投入後は停止指定がないと運転に移行できないものであり、」(1頁右下欄8?24行)。

甲第7号証には、以下のことが記載されている。
「本案は電動機の可逆運転制御に使用する操作開閉器に関するものである。」(左欄1頁10?11行)、
「従って運転中停電し再び送電が開始されたときには操作軸を必ず一度停止位置に戻した後再度運転位置に操作しなければ電動機は起動せず、停止位置への復帰の途中で電動機が不意に起動するような恐れがない。」(2頁左欄12?16行)。

甲第8号証には、以下のことが記載されている。
「この発明は、ハンドル操作で駆動モーターの回転速度を制御した魚釣用電動リールに関する。」(1頁左下欄10?11行)、
「本発明の目的は、・・・ハンドル操作で駆動モーターの回転速度を制御して獲物の引きに合わせて釣糸の繰り出しと巻き上げ操作が出来て釣り本来の面白味が味わえるようにした魚釣用電動リールを提案することにある。」(1頁右下欄1?5行)、
「以下、図示の実施例で本発明を説明すると、魚釣用電動リールの第1実施例を魚釣用スピニングリールで述べれば第1図から第3図でリール本体1の前面に突出された回転軸部材を構成する回転軸筒2とスプール軸10と、回転軸筒に固定された糸巻き回転部材を構成するローター11と、スプール軸10に取り付けられて前後に往復動するスプール12と、・・・上記ローター11の両腕部に反転自在に取り付けられたベール20・・・とで構成されている。」(1頁右下欄6行?2頁左上欄下から3行)、
「第4図以下は魚釣用電動リールを両軸受型リールに実施した第2実施例で、・・・一方のリール側板32と基板34に固定された軸受37、38に回転自在に軸承された回転部材を構成するスプール軸7に糸巻き回転部材を構成するスプール8が固定され、」(2頁右下欄8?14行)、
「又上記説明では魚釣用リールをスピニングリールと両軸受型リールで述べたが、他の形式のリールに実施してもよい。」(3頁左下欄12?14行)。

別件無効2004-80241の答弁書には、以下のことが記載されている。
「請求項の記載によると、「リール本体に上記スプール駆動モータの出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるレバー形態のモータ出力調節体を回転可能に設ける」であり、駆動モータの出力を巻上げ停止状態から最大値まで増減させると記載されている。この「モータの出力」とは、モータに対する電気エネルギーの入力に基き、モータによって、機械的エネルギーとして変換された出力を意味しており、その内容としては、(モータ出力)=(定数)×(モータ軸の回転数:N)×(モータ軸のトルク:T)によって得られた値となる。そして、本件発明におけるような魚釣用電動リールにおいては、そのモータとして、直流モータが採用されていることから、このモータ出力は、入力としてのモータヘの印加電圧により決定される、いわゆる「T-Nカーブ」によって得られる、回転数(N)とトルク(T)の値の組み合わせとして認定することができる。以上の点は、乙第8号証及び乙第9号証を参照すればわかるように、直流モータの技術分野における技術常識である。」(13頁17行?末行)

(4-3)対比
本件発明と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「直流モータM」は、本件発明の「スプール駆動モータ」に、「釣用リール」は、「魚釣用電動リール」に、それぞれ、相当し、甲2発明の「変速用スライドスイッチ11」は、本件発明の「モータ出力調節体」と、モータの特定の値を調節する「モータ調節体」である点で共通するから、両者は、
「リール本体に回転可能に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータを備え、該スプール駆動モータの特定の値を調節するモータ調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールにおいて、前記リール本体に設けたモータ調節体の変位操作でモータの特定の値を増減するモータ調節手段を設ける魚釣用電動リール。」の点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1)
モータ調節体の調節態様に関し、本件発明が、「スプール駆動モータの出力を調節するモータ出力調節体をリール本体に設けた魚釣用電動リールにおいて、スプール駆動モータの電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、単一のモータ出力調節体の連続的な変位操作でモータ出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減するモータ出力調節手段を設ける」のに対し、甲2発明は、モータの回転速度を高・中・低の3速に増減する変速用スライドスイッチ11をスライド操作可能に設けた点。

(相違点2)
本件発明が、「前記モータ出力調節体は、その調節位置を巻上げ停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないとモータを再駆動しないように設定されている」のに対し、甲2発明は、その点が不明な点。

(4-4)当審の判断
(相違点1について)
上記相違点1を検討すると、本件発明(両軸受け型リール)とは形式が異なるが、甲4発明は、駆動モータ(「電気モータ16」、以下、括弧内は甲4発明)の電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、駆動モータの回転速度を巻上げ停止状態(待避端部位置)から最大値(アクティブ端部位置)まで連続的に増減させる単一のモータ調節体(操作部材21)を設けている。また、電気機器において、電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく単一の調節体を設けることは、照明装置の調光やラジオの音量調節等においても周知慣用のことである。
ここで、本件発明のモータ出力調節体はモータの出力を増減するのに対し、甲2発明及び甲4発明は、モータの回転速度を増減するものであるが、本件特許明細書にその態様としてモータの回転を制御するとの記載(【0030】参照)があること、及び、別件無効2004-80241号の答弁書において被請求人も自認するように(モータ出力)=(定数)×(モータ軸の回転数:N)×(モータ軸のトルク:T)は技術常識であって(別件無効の答弁書13頁17行?末行参照)、結局のところ、モータ出力は、外部の負荷に影響されるものの略モータ軸の回転数により決まるものであるから、甲2発明の回転数の増減に代えて本件発明のモータ出力の増減とすることは、その実態において異ならないものである。
さらに、魚釣用電動リールに関する技術を、両軸受型リール及びスピニングリール双方に適用することは、従来より一般的に行われていること(例えば、甲第8号証参照)であるから、このような技術背景がある以上、甲4発明(スピニングリール)を甲2発明のような両軸受け型リールに適用してみようとすることは、当業者であれば容易に思い付くことである。また、このような適用を阻害する事情も見いだし得ない。
したがって、相違点1の本件発明に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(相違点2について)
上記相違点2を検討すると、魚釣用電動リールの駆動モータではないが、一般的に、安全性を考慮して、モータの調節体を停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないとモータを再駆動しないようにしたものは、甲第6号証及び甲第7号証等に記載されているように周知であり、魚釣用リールにおいても駆動モータを設けるに当たって、安全性は、当業者が当然考慮する設計的事項にすぎない。
したがって、相違点2の本件発明に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

5.被請求人の主張について
(5-1)被請求人の「イ.動機付けの欠如による進歩性の判断の誤り」について
被請求人は、概ね、次のように主張する(答弁書17?20頁)。
「釣場の状況等に応じてスプール駆動モータを巻上げ停止状態から最大値まで連続的に調整可能にして実釣性の向上を図ると共に、スプール駆動モータのスイッチ操作を容易にした魚釣用電動リールを提供することを目的とする(【0002】)との課題に対する認識のもとに、請求項に記載された構成を全体として有する発明としてなされたものであるが、
甲第2号証は、本件訂正発明の明細書において、まさに欠点のある従来例として記載されているものであり、当然に本件訂正発明の課題に対する認識は何ら存在していない。
甲第4号証はスプールが固定され外部に露出したロータが高速で回転する、いわゆるスピニングリールに関するものであり、本件訂正発明とはリールの型式が違うものである。
甲第5号証においては、単に、電源スイッチであるモータオン/オフ用スイッチを押すとの開示がされているだけにすぎず、
甲第6号証は、交流駆動モータにおいて、異常過負荷となった場合モータ停止を行い、その後電源スイッチの投入と運転スイッチのOFFにより再駆動可能とするとの開示がされているだけであり、
甲第7号証は、その操作軸に装着された正転用、逆転用、停止用の各カムを操作することにより、電動機への電源供給のための電源スイッチである電磁接続器の開閉制御を行う操作開閉器が開示されているにすぎない。
甲第8号証は、手動ハンドルの回転操作によってのみしか駆動モータを回転駆動することはできず、モータによる自動運転や手動ハンドルによる手動駆動はできず、本件発明の課題に対しての動機づけの認識や示唆がまったくない。」

しかしながら、別件無効2004-80241において、被請求人の提出した乙第1号証「・・・釣り操作を大幅に向上することが出来る」(同明細書11頁7?8行)、乙第2号証「・・・ドラグ操作を迅速かつ容易に行うことができる」(3頁右下欄13?15行)、乙第4号証「・・・巻き上げるパワーが違います。操作性が違います。」(左上「電動丸」の欄)等に記載されていることから、実釣性及びスイッチ操作を容易にするという課題は、本件発明と同一技術分野の魚釣用電動リールにおいて、従来より周知のありふれた課題から類推できるものにすぎず、本件発明と同一技術分野に属する甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証(甲第5号証は本審決において採用せず)記載の魚釣用電動リールにおいても当然考慮されるべき課題にすぎないから、これら各甲号証に本件発明の課題が記載されていないからといって、動機付けが欠如するとまではいえない。
また、甲第6号証及び甲第7号証は、魚釣用電動リールではないが、上記「(4-4)」の「(相違点2)」の項において述べたように、安全性を考慮して、モータの調節体を停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないとモータを再駆動しないようにしたという一般的な技術事項を引用するために挙げた証拠方法であって、これら各甲号証に本件発明の課題が記載されていないからといって、動機付けが欠如するということにはならない。

(5-2)被請求人の「ウ.顕著な作用効果の誤認、看過による進歩性の判断の誤り」について
被請求人は、概ね、次のように主張する(答弁書20?21頁)。
「本件訂正発明は、(a)リール本体に装着した単一のモータ出力調節体を連続的に変位操作すると、その操作量に応じスプール駆動モータのモータ出力が連続的に増減して、スプールの巻上げ速度が巻上げ停止状態から最大値まで変化する。そして、(b)そのようなモータ出力調節体は、電源コードが外れる等、モータを再駆動する必要が生じた場合、調節位置を巻上げ停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないと、モータの再駆動ができないようになっている(【0007】)作用を有し、
本件訂正発明によれば、(a)’変速操作が簡素化されて釣場の状況に応じた幅広いモータ出力の制御が行えると共に、(b)’電源コード接続時等にモータ出力調節体の任意の変速位置に対応する出力で誤ってモータが駆動されるようなことが無くなり、再駆動時等において、慌ててスイッチ操作を行うことも無くなり、トラブルを防止できる。」との(【0035】)に記載された格別顕著な効果を奏するものである。
請求人の主張は、このような格別顕著な作用効果を誤認、看過した結果、進歩性の判断を誤ったものであり、理由がない。」

しかしながら、上記「(4-4)」の「(相違点1について)」において述べたとおり、本件発明と同じ形式の魚釣用電動リール(両軸受型)ではないが、甲第4号証には、駆動モータ(「電気モータ16」、以下、括弧内は甲4発明)の電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、駆動モータの回転速度を巻上げ停止状態(待避端部位置)から最大値(アクティブ端部位置)まで連続的に増減させる単一のモータ調節体(操作部材21)を設けており、また、甲2発明に甲4発明を適用するにも困難性は認められないから、上記(a)、(a)’の作用効果は、甲2発明に甲4発明を適用することにより、当業者が予期できる範囲内のものである。

また、上記(b)、(b)’については、甲2発明に、モータ一般の技術である「安全性を考慮して、モータの調節体を停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないとモータを再駆動しないようにしたもの」(甲第6号証甲第7号証)を適用することにより、当業者が予期できる範囲内のものである。

6.むすび
以上のとおり、本件発明は、甲2発明、甲4発明および本件特許出願前に周知の技術から、当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、他の無効理由について検討するまでもなく、特許法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
魚釣用電動リール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に回転可能に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータを備え、該スプール駆動モータの出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールにおいて、スプール駆動モータの電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、前記リール本体に設けた単一のモータ出力調節体の連続的な変位操作でモータ出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減するモータ出力調節手段を設けると共に、前記モータ出力調節体は、その調節位置を巻上げ停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないとモータを再駆動しないように設定されていることを特徴とする魚釣用電動リール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リール本体に回転可能に支持したスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータを備えた魚釣用電動リールに関する。
【0002】
【従来の技術】
釣場の状況に対応できるように、魚釣用電動リールには、特開平3-119941号に見られるように、スプールを回転させるスプール駆動モータの回転速度を調節する変速装置が設けられている。これは、リール本体の上面に、駆動モータの電源をON/OFFするメインスイッチとは別に、スプール駆動モータの回転速度を低速・中速・高速の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチを設けたものであり、釣糸の巻上げ速度を3段階に変速可能としている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記電動リールは、スライドスイッチをリール本体の上面に沿って前後方向にスライドさせて、低速・中速・高速に変速する構成のため、巻取り時の変速操作時に、リール本体から手の指がずれやすくて安定せず、容易に変速操作が行えない。また、モータの駆動も低速・中速・高速の3段階しか変速できないため、釣場の状況等に対応した幅広く迅速なモータ出力の制御が行えず、実釣性に劣る。
【0004】
さらに、メインスイッチをON操作した後に、回転しているモータを、スライドスイッチを前後方向にスライドさせて低速・中速・高速の3段階にモータ出力を制御する、というように、2つのスイッチ形態によってモータの駆動(停止)および変速を行う構成のため、スイッチ操作が煩雑になってしまう。
【0005】
本発明は上記問題に基づいて案出されたもので、釣場の状況等に応じてスプール駆動モータを巻上げ停止状態から最大値まで連続的に調整可能にして実釣性の向上を図ると共に、スプール駆動モータのスイッチ操作を容易にした魚釣用電動リールを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、リール本体に回転可能に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータを備え、該スプール駆動モータの出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールにおいて、スプール駆動モータの電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、前記リール本体に設けた単一のモータ出力調節体の連続的な変位操作でモータ出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減するモータ出力調節手段を設けると共に、前記モータ出力調節体は、その調節位置を巻上げ停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないとモータを再駆動しないように設定されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、リール本体に装着した単一のモータ出力調節体を連続的に変位操作すると、その操作量に応じスプール駆動モータのモータ出力が連続的に増減して、スプールの巻上げ速度が巻上げ停止状態から最大値まで変化する。そして、そのようなモータ出力調節体は、電源コードが外れる等、モータを再駆動する必要が生じた場合、調節位置を巻上げ停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないと、モータの再駆動ができないようになっている。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る魚釣用電動リールの平面図を示し、図において、符号1はリール本体、符号3,5はリール本体1の左右両側に固着したリール側枠、符号7は釣糸9を巻回したスプールを夫々示しており、当該スプール7は、その一端が図示しないブラケットを介してリール本体1に回転可能に支持され、また、その他端はこれに固定したブラケット11と、リール本体1に取り付けたセットプレート13の軸受15によって回転可能に支持されている。
【0010】
符号17はスプール7内に軸線を一致させて配置したスプール駆動モータ(以下「モータ」という)を示し、当該モータ17の回転軸17aとスプール7間は、従来の魚釣用電動リールと同様、スプール7内に設けた減速歯車機構19により互いに連結されて、モータ17の回転をスプール7に伝達できるようになっている。また、減速歯車機構19を構成するギヤキャリィ21のボス部21aは、スプール7を支持するブラケット11のボス11a内に相対回転可能に嵌合されている。
【0011】
符号23はスプール巻上げ用の手動ハンドルを示し、当該手動ハンドル23も従来と同様、セットプレート13に回転可能に取り付けたハンドル軸25のリール側枠5の外突出端に連結されている。そして、ハンドル軸25にはスプール逆転止め用爪車27がリール側枠5内で固着され、更にドライブギヤ29が回転可能に取り付けられている。また、ドライブギヤ29とハンドル軸25との間は、ハンドル軸25にセットしたドラグ装置31により摩擦結合され、これによって手動ハンドル23の回転をドライブギヤ29に伝達できるようになっている。
【0012】
そして、図中、符号33は上記ドライブギヤ29に噛合するピニオンギヤを示しており、当該ピニオンギヤ33はスプール7の軸線上において、上記ギヤキャリィ21のボス部21aの中心とリール側枠5間に横架状態に支持したピニオン軸35に回転可能且つその軸方向へ移動可能に支持されている。前記ピニオンギヤ33とこれに対向するギヤキャリィ21のボス部21aとの間には、モータ17からスプール7への巻取り動力を伝達又は遮断させるクラッチ板37が設けられている。
【0013】
而して、本実施形態に係る魚釣用電動リールは、上述の如き構造に加えて、リール本体1の右側部前方に、実釣時に釣人がリール本体1の両側部を両手で保持した状態のまま、右手の親指と人差し指で操作可能な一つのモータ出力調節レバー(以下「レバー」という)39を約120°の範囲に亘ってリール本体1の前後方向へ回転可能に装着すると共に、モータ17の出力調節手段として回転形のポテンショメータ41をレバー39に連結して、当該レバー39の回転操作でモータ17の出力を巻上げ停止状態(オフ状態)から最大値まで連続的に増減変更させるようにしている。
【0014】
即ち、周知のように、ポテンショメータ41は与えられた機械的変位でブラシを動かし、固定した抵抗体の上を摺動させ、その抵抗値を変化させることによってブラシの位置に対応する電圧を取り出すものである。
【0015】
そこで、本実施形態は、上記レバー39をポテンショメータ41に連結し、レバー39の回転操作によってポテンショメータ41内のブラシの位置を変化させるようになっている。そして、図2に示すように当該レバー39の作動によるポテンショメータ41の抵抗値の変化を制御回路43に入力し、レバー39の操作量に応じたパルス信号のデューテー比としてモータ17への駆動電流通電時間率を当該制御回路43で可変制御して、モータ17の回転を巻上げ停止状態から最大値(0?100%)まで連続して増減変更できるようになっている。
【0016】
また、図1において、符号45は上記制御回路43を収納する制御ユニットを示し、当該制御ユニット45はリール側枠3,5と一体構造の水密収納部47内に装着されてリール本体1に組み付けられている。
【0017】
そして、制御ユニット45の操作パネル49上には、モータ17のON/OFFスイッチ51やデジタル表示部53が配設されている。
【0018】
而して、デジタル表示部53には、レバー39の操作によるモータ出力を表示する表示器55が設けられており、モータ出力の調節に応じて当該表示器55のバー表示量の目盛りが、“0”から“100”迄逐次変化するようになっている。そして、上記ON/OFFスイッチ51をON操作すると、レバー39の現在位置のモータ出力で釣糸9の巻上げが開始され、以後はレバー39の操作に応じてモータ17の出力を連続的に制御できるようになっている。
【0019】
その他、図中、符号57はコネクタ59を介してリール本体1に接続された電源コードを示し、この電源コードを鰐口クリップ等により船上に配置したバッテリ等の直流電流に接続することで、モータ17や制御回路43が起動するようになっている。
【0020】
本実施形態はこのように構成されているから、魚釣を行う場合は、リール本体1にコネクタ59を介して電源コード57を接続し、当該電源コード57を鰐口クリップ等により船上に配置したバッテリ等の直流電源に接続しておく。
【0021】
そして、魚の当たりがあった場合に、上記ON/OFFスイッチ51をON操作すると、レバー39の現在位置のモータ出力でスプール7が回転して釣糸9が巻き上げられるので、釣り人は表示器55を確認し乍ら、釣糸9をゆっくり巻き上げたい場合には、例えば表示器55のレバー表示量の目盛りが“20”となるようにレバー39を操作し、魚の引きが強くてハリスが強い場合には、バー表示量の目盛りが“80”となるようにレバー39を操作する等、巻上げの状況に応じてレバー39を操作し乍らモータ17の出力を制御すれば、釣糸9は巻上げに最適なモータ速度で巻き上げられることとなる。そして、巻上げを止めたい場合にはバー表示量の目盛りが“0”となるようにレバー39を戻せばよい。
【0022】
このように、本実施形態に係る魚釣用電動リールによれば、ハリス強度、対象魚,魚の大小及びヒット数、潮流,波等を考慮し乍ら、モータ出力をリール本体1に装着した一つのレバー39で制御してスプール7の回転数を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減変更することができ、而も、釣人はリール本体1の両側部を両手で保持した状態のまま、右手をずらすことなく親指と人差し指でレバー39の操作が可能であるので、従来の魚釣用電動リールに比し釣糸9の巻上げ操作性が飛躍的に向上する。
【0023】
なお、本実施形態では、レバー39の回転操作でモータ17のモータ出力を連続的に増減させるモータ出力調節手段としてポテンショメータ41を用いたが、これらに代えてボリュームスイッチやホール素子等を用いてもよく、斯かる構造によっても上記実施形態と同様、所期の目的を達成することが可能である。
【0024】
また、本実施形態では、ON/OFFスイッチ51をON操作すると、レバー39の現在位置のモータ出力で釣糸9の巻上げが開始され、以後はレバー39の操作に応じてモータ17の出力を連続的に制御できるようにしたが、ON/OFFスイッチ51は省略してもよい。すなわち、レバー39は、最も手前位置に回転した際にモータ出力を巻上げ停止状態にして、ここから前方に回転操作することで、最大値まで連続的にモータ出力を調節できるようになっていることから、ON/OFFスイッチ51を省略して、レバー39が電源スイッチ(ON/OFFスイッチ)を兼ねるように構成することができる。
【0025】
そして、このように構成する場合、安全性を考慮してレバー39を一度“0”の位置に戻してから、スプール7の巻上げが開始するように構成する(セーフティ機能を設ける)。すなわち、例えば、実釣時に電源コードが外れた場合等において、再びモータを再駆動しようとして電源コードを再接続しても、レバー39の位置を一度“0”の位置に戻さないとモータは再駆動されないように構成されている。
【0026】
この結果、変速位置に対応してモータが再駆動することが無くなり、慌ててスイッチ操作を行った際に生じやすいスイッチ操作ミスを防止することができる。
【0027】
図3は、本発明の第2の実施形態を示す図である。上述した実施の形態では、レバー39をリール本体1の右側面前方に設置したが、図3に示すように、レバー39を制御ユニット45の操作パネル49上に配置させても良く、そのレバーの配置個所については特に限定されることはない。
【0028】
図4は、本発明の第3の実施形態を示す図である。この実施形態は、上記ポテンショメータ41に代えてリードスイッチを用いてモータ出力を多段階に増減させるようにしたものである。なお、発明部分を除く構成については上記第1実施形態と同様の構成としているため、ここではそれらについての説明は省略し、専ら発明部分について説明する。そして、第1実施形態と同一のものは同一符号をもって表示する。
【0029】
図において、符号61は制御ユニット45の操作パネル49の右側面部に装着したスライドベースで、当該スライドベース61上を、マグネット63を内蔵したスライドレバー65がリール本体67の前後方向へスライド可能に取り付けられている。
【0030】
そして、制御ユニット45内には、上記マグネット63に対応して多数のリードスイッチ69が並設されており、図4に示すように、上記スライドレバー65のスライド操作によるリードスイッチ69のON,OFFで検出される抵抗値の変化が制御回路71に入力されるようになっている。そして、当該制御回路71では、スライドレバー65の作動量(変位量)に応じたパルス信号のデューテー比としてモータ17への駆動電源通電時間率を可変制御して、モータ17の回転を多段階(0?100%)に制御できるようになっている。
【0031】
また、デジタル表示部53に設けた表示器55は、第1実施形態と同様、スライドレバー65のモータ出力調節によりそのバー表示が逐次変化するようになっている。そして、ON/OFFスイッチ51をON操作すると、スライドレバー65の作動に応じてモータ17の出力を連続的に制御できるようになっている。
【0032】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様、魚の当たりがあった場合に、ON/OFFスイッチ51をON操作すると、スライドレバー65の現在位置のモータ出力で釣糸9の巻き上げが開始されるので、釣り人は表示器55を確認し乍ら、巻上げの状況に応じてスライドレバー65を操作してモータ17の出力を制御すれば、釣糸9は巻上げに最適なモータ速度で巻上げられる。そして、巻上げを止めたい場合には、バー表示量の目盛りが“0”となるようにスライドレバー65を戻せば良い。
【0033】
このように、本実施形態に係る魚釣用電動リールによっても、モータ出力を同一の操作部たるスライドレバー65でハリス強度、対象魚、魚の大小及びヒット数、潮流、波等を考慮し乍ら多段階(0?100%)に制御してスプール7の回転数を増減変更することができるので、従来の魚釣用電動リールに比べ釣糸9の巻上げ操作性が飛躍的に向上する。
【0034】
なお、上記第2、第3の実施形態においても、モータ出力調節手段としてボリュームスイッチやホール素子等を用いても良く、また、第1実施形態と同様なセーフティ機能が設けられる。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、スプール駆動モータの電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく、リール本体に装着した単一のモータ出力調節体の連続的な変位操作で、モータ出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減できるので、変速操作が簡素化されて釣場の状況に応じた幅広いモータ出力の制御が行えると共に、前記モータ出力調節体の位置を巻上げ停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないとモータを駆動しないように設定しているので、電源コード接続時等にモータ出力調節体の任意の変速位置に対応する出力で誤ってモータが駆動されるようなことが無くなり、再駆動時等において、慌ててスイッチ操作を行うことも無くなり、トラブルを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の第1実施形態に係る魚釣用電動リールの平面図。
【図2】
図1に示す魚釣用電動リールの制御手段の概略構成図。
【図3】
本発明の第2実施形態に係る魚釣用電動リールの部分平面図。
【図4】
本発明の第3実施形態に係る魚釣用電動リールの部分平面図。
【図5】
第3実施形態の制御手段の概略構成図。
【符号の説明】
1,67・・・リール本体
7・・・スプール
9・・・釣糸
17・・・モータ
39・・・レバー
41・・・ポテンショメータ
63・・・マグネット
65・・・スライドレバー
69・・・リードスイッチ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-01-04 
結審通知日 2006-01-13 
審決日 2006-01-24 
出願番号 特願平11-193020
審決分類 P 1 113・ 531- ZA (A01K)
P 1 113・ 121- ZA (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石井 哲  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 大元 修二
柴田 和雄
登録日 2002-04-05 
登録番号 特許第3294820号(P3294820)
発明の名称 魚釣用電動リール  
代理人 小野 由己男  
代理人 中村 誠  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 中村 誠  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 小林 茂雄  
代理人 河野 哲  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 河野 哲  
代理人 鎌田 邦彦  

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