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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1147003
審判番号 不服2003-22354  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-08-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-18 
確定日 2006-11-06 
事件の表示 平成10年特許願第101324号「血液処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月17日出願公開、特開平11-221275号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成10年4月13日(優先日:平成9年12月3日、出願番号:特願平9-332928号)の出願であって、平成15年10月9日付けで拒絶査定がなされ、同年11月18日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年12月16日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認められる。
「血液パラメータを計測する血液計測手段と、血液処理を行う実働部と、所定の血液処理条件で血液処理を行うように実働部を制御する制御部とからなる血液透析装置において、制御部が前記血液計測手段から得られる患者の血液指標値に対して血液指標値によって複数に分別された血液指標領域を設定し、該血液指標領域における経時的な患者の血液指標値の推移に対応して、実働部に血液処理条件の変更を指示することを特徴とする血液処理装置。」

3.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である「特開平2-211173号公報」(以下、「引用刊行物」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「測定装置を体外循環路に配置し、かつ、評価ユニット(18)を当該測定装置に電気接続することによって、血液ろ過期間中のヘマトクリット値の変化を測定することにより血管内血液体積の変化を測定する装置を有する血液浄化装置であって、
上記測定装置が少なくとも1台の超音波センサー(15)を含み、そして上記評価ユニット(18)が、血液ろ過開始時においては初期の超音波信号を蓄え、ろ過期間中においては超音波信号の変化を求め、その超音波信号の変化からヘマトクリット値の変化を求め、そのヘマトクリット値の変化から血管内血液体積の変化を求めるように設計されていることを特徴とする血管内血液体積の変化を測定する装置を有する血液浄化装置。」(第1頁左下欄第
6行?同頁右下欄第3行、特許請求の範囲の請求項1。)
(イ)「超音波センサーを用いて、処理を開始する前にヘマトクリット値H0が測定され、かつ、処理期間中にヘマトクリット値Hが測定されるならば、血液体積の変化dVは次式のように求められる。
dV/V=(1-H0)/H
(式3)」(第4頁左下欄第15行?同頁右下欄第2行)
(ウ)「血液透析装置には、本質的には、透析溶液部1と体外血液循環路2とこれらの間に位置する透析器3とが備わっており、この透析器3には透析溶液室4と血液室5とがある。透析溶液室4は、透析器3の上流部で透析溶液配管6を経由して透析溶液源7と接続されている。透析器3の下流部で透析溶液室4は、透析溶液ポンプ12を有する、他の1つの透析溶液配管10と接続されている。
体外循環路2においては、透析器3の上流部の血液配管13に、第1の温度測定装置21と第1の超音波センサー15が配置されている。
他の1つの血液配管16が血液室5と透析器の下流部で接続されている。この他の1つの血液配管16には、第2の超音波センサー17および他の1つの温度測定装置22が設けられている。この他の1つの温度測定装置22は、透析処理中に生ずる温度損失を考慮に入れるためには、必要である。
透析溶液ポンプ12,血液ポンプ14、超音波センサー15,17、温度測定装置21,22は、伝達信号あるいは測定値を評価ユニット18へと伝える。この評価ユニット18において血液体積が求められる。評価ユニット18は、さらに、入力ユニット19および制御ユニット20に接続されており、入力ユニット19および制御ユニット20は、透析溶液混合手段7、透析溶液ポンプ12,血液ポンプ14に信号を伝える。
透析溶液混合手段7には、添付図では詳細に示していないが、濃縮ポンプ(concentrate pump)と対応する水取り入れ口が設けられており、透析溶液は制御ユニット20からの出力信号に従って作られる。
超音波センサー、を用いて、透析処理期間中に血液体積の変化を連続的に求めることによって、取り出された流体の量を連続的に監視することが可能となった。もし予め決めた流体取り出し速度(この流体取り出し速度は入力ユニット19を経て既に入力されているが)との偏差が生じた場合には、評価ユニット18は、ポンプ14,12の吐出速度を考慮に入れて、これらの吐出速度を変えるべきか否か、あるいは、透析溶液混合手段の運転条件を変更すべきか否かを決定する。この操作は、制御ユニット20に送られた、対応する信号によって、実施される。」(第5頁左下欄第8行?第6頁左上欄第7行)


してみると、上記(ア)?(ウ)の記載事項及び図示内容を総合すると、引用刊行物には、次の発明が記載されていると認められる。(以下、「引用発明」という。)

「超音波センサー15,17と、
透析溶液混合手段7、透析溶液ポンプ12、及び血液ポンプ14と、
所定の運転条件で透析処理を行うように上記透析溶液混合手段7、透析溶液ポンプ12、及び血液ポンプ14を制御する制御ユニット20とからなる血液浄化装置において、
超音波センサー15,17によって得られた超音波信号の変化からヘマトクリット値の変化を求め、該ヘマトクリット値の変化から血管内血液体積の変化を求め、該血管内血液体積の変化と、予め定めた流体取り出し速度との間に偏差が生じたときには、
制御ユニット20により、透析溶液ポンプ12、及び血液ポンプ14の吐出速度、または透析溶液混合手段7の運転条件を変更するようにした血液浄化装置。」


4.対比
本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明における「血液浄化装置」が、その作用又は機能からみて本願発明の「血液処理装置」に相当し、以下同様に、「超音波信号」が「血液パラメータ」に、「超音波センサー15,17」が「血液計測手段」に、「透析溶液混合手段7、透析溶液ポンプ12、及び血液ポンプ14」が「血液処理を行う実働部」に、そして、「透析溶液ポンプ12、及び血液ポンプ14の吐出速度、または透析溶液混合手段7の運転条件を変更する」が「実働部に血液処理条件の変更を指示する」にそれぞれ相当する。

また、本願明細書段落【0006】の、「・・・所定の血液処理条件(血液処理を行う際の操作条件のことで、血液透析を行う場合では、例えば除水速度、血液流量即ち体外循環血流速度、補液速度、透析液濃度、透析液温度、透析時の患者姿勢、ナトリウム注入速度等が含まれる。以下、血液透析におけるものを透析条件という。)で、血液透析処理を行うように実働部を制御する制御部と、・・・」との記載から、本願発明の制御部も透析器の血流速度や補液速度を制御するものであるから、引用発明における「所定の運転条件で透析処理を行うように上記透析溶液混合手段7、透析溶液ポンプ12、及び血液ポンプ14を制御する制御ユニット20」は、本願発明の「所定の血液処理条件で血液処理を行うように実働部を制御する制御部」に相当する。
また、本願明細書段落【0010】の、「・・・適当な血液指標値としては、ヘマトクリット値(全血に占める赤血球の容積率を示す。以下、Ht値ともいう)・・・」との記載から、引用発明における「ヘマトクリット値」は、本願発明の「患者の血液指標値」に相当するから、そうすると、引用発明における「ヘマトクリット値の変化」は、本願発明の「患者の血液指標値の推移」に相当する。
さらに、本願明細書段落【0009】には、「血液指標値そのものでなく、血液指標変化率を採用することにより、血液状態の変化の方向(即ち、血液指標値が増加傾向にあるのか、或いは減少傾向にあるのか?)が確認でき、より迅速な血液透析の制御が可能となる。」と記載されている。また、本願明細書段落【0014】には、「上記の例はBVという血液指標値そのものによって、血液透析をコントロールするものであるが、血液指標変化率によって血液透析をコントロールすることもできる。この場合も基本的には血液指標値によるものと同じである。・・・」と記載されている。
一方、引用発明も、検出した超音波信号(血液パラメータ)からヘマトクリット値(血液指標値)の変化を算出しており、これからさらに取り出された流体の量(血管内血液体積の変化)を算出しているが、これもやはり「血液指標値の変化」を算出しているとするのが相当であり、この値と「予め定めた流体取り出し速度」との比較により、ポンプの吐出速度の変更または透析溶液混合手段の運転条件の変更を行っているということができる。
してみると、引用発明の「血管内血液体積の変化」は、本願発明の「血液指標値の推移」に相当するといえる。

したがって、本願発明と引用発明は、
「血液パラメータを計測する血液計測手段と、血液処理を行う実働部と、所定の血液処理条件で血液処理を行うように実働部を制御する制御部とからなる血液透析装置において、制御部が、血液計測手段から得られる患者の血液指標値の推移に対応して、実働部に血液処理条件の変更を指示することを特徴とする血液処理装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明では、制御部が、「血液指標値によって複数に分別された血液指標領域を設定し、該血液指標領域における経時的な患者の血液指標値の推移に対応して」、実働部に血液処理条件の変更を指示するのに対し、引用発明では、制御部が、「予め決めた流体取り出し速度と、血液指標値の推移とを比較して偏差が生じた場合に」、実働部に血液処理条件の変更を指示する点。


5.当審の判断
ここで本願発明の上記相違点に係る技術的意義について検討すると、特に本願明細書段落【0010】?【0013】、【0015】?【0016】、及び【図1】又は【図8】に係る発明の実施の形態を参酌すれば、血液指標値としてヘマトクリット値(Ht値)や循環血液量指数(BV)が所定の値を上回るとき血液処理を行う実働部である血液循環ポンプを通常速度とし、これを下回るとき同血液循環ポンプをスピードダウンして、上記所定の値で分別された領域毎に、血液循環ポンプを予め定められた速度に変更するものと解される。
一方、引用発明は、患者の血管内血液体積の変化を検出し、目標値として予め決めた流体取り出し速度との偏差を求め、該偏差に対応して運転条件等の指令を発するフィードバック制御をするものであるが、一般に、目標値との偏差に対応して出力する制御量を、予め定めた所定値とすることは、フィードバック制御の分野で広く採用されている技術的事項と解されるところであり、特に、血液処理装置の技術分野において、目標値として所定の許容範囲からなる複数の領域を設定し、検出した血液指標値がいずれの領域に該当するかに応じて、対応する制御指令を実働部に与える制御手法は、以下に挙げるように従来周知の技術である。
例えば、特開昭64-76867号公報には、自動透析装置において、圧力検知器からの検知信号が、第一設定針14で設定された圧力以下となると除水停止状態とするとともに、第二設定針15で設定された圧力以下となった場合は血液ポンプを停止させるものが開示されており、血液指標値(圧力)の取り得る値の範囲をかかる第一設定針14と第二設定針15とでそれぞれ分割した領域が、除水停止またはポンプ停止という実働部への指令値をそれぞれ有する周知の構成が記載されている。
また、特開昭59-115051号公報には、血液浄化装置において、血液透析開始前に、患者に最適なヘマトクリットに関するプログラムが設定器34に記録され、血液透析が開始された後に、ヘマトクリットが設定値より大きくなると、除水によって体内循環血液量が急激に減少したと検知し、食塩水注入器32の注入量を増加させ血漿浸透圧を上昇して組織側から血管内への水分の移動を促進して体内循環液量の減少を防止して、循環血液量の制御を適正に行うものが開示されている。
さらに、特開昭63-294866号公報には、透析効率制御装置において、血液量の減少量又は減少速度が許容範囲を越える場合、透析液の浸透圧による場合は体外循環血流速度を低下させて透析の進行を遅らせ、また、限外濾過による場合は限外濾過圧を下げて濾過速度を減少させることで、血液量を許容範囲内に保つようにするものが開示されている。
以上のように、本願と同様の技術分野である血液処理装置において、設定値を境界として複数の領域を設定し、検出した血液指標値が該当する領域に応じて、制御対象に対して指令を発する制御を行うことは、周知の技術事項というべきである。

したがって、引用発明において、当該周知技術を採用して相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-18 
結審通知日 2006-08-29 
審決日 2006-09-13 
出願番号 特願平10-101324
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 川本 真裕
下原 浩嗣
発明の名称 血液処理装置  
代理人 川島 利和  

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