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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1147191
審判番号 不服2004-23109  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-10-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-11 
確定日 2006-11-09 
事件の表示 平成10年特許願第 70867号「合成樹脂製断熱容器」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 5日出願公開、特開平11-267044〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年3月19日の特許出願であって、平成16年9月28日付け(発送日:平成16年10月12日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月7日付手続補正書により明細書を対象とした手続補正がなされたものである。


2.平成16年12月7日付手続補正書による手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年12月7日付手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成16年12月7日付手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。

「合成樹脂製の二重壁容器の内容器と外容器の間の空隙に空気よりも熱伝導率の低い低熱伝導率ガスを封入して断熱層を形成してなる合成樹脂製断熱容器において、上記内容器と外容器を構成する合成樹脂を、板厚1.5?3.5mmのポリエチレンナフタレートのみとしたことを特徴とする合成樹脂製断熱容器。」

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である内容器と外容器を構成する合成樹脂を「板厚1.5?3.5mmのポリエチレンナフタレート、板厚1.0?2.0mmの液晶ポリエステル(LPC)、板厚1.0?3.5mmの脂肪族ポリケトンからなる群から選択された少なくとも一種」から「板厚1.5?3.5mmのポリエチレンナフタレートのみ」へと限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか否か)について以下検討する。

(2)公知刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に示された本願の出願前の1998年(平成10年)2月12日に頒布された国際公開第98/05573号パンフレット(以下、「公知刊行物」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

a.「本発明は、魔法瓶、クーラーボックス、アイスボックス、断熱コップ、保温弁当箱等に使用される断熱容器および断熱蓋に関し、詳しくは低熱伝導率ガスが封入された断熱層を挟む二重壁構造を有する合成樹脂製断熱容器あるいは合成樹脂製断熱蓋で、」(明細書第1頁第4行?第9行)

b.「真空排気による変形を避けるため、これまでは容器あるいは蓋の肉厚を厚く成形する必要があった。例えば材質がポリカーボネートの場合には3mm前後の肉厚を必要とした。しかしながら肉厚を厚くすることはコスト高になる他、肉厚が厚くなる分、断熱空間層を狭くするか、内・外容器あるいは上・下面壁を大きく形成する必要があった。」(同第4頁第8行?第15行)

c.「図1は本発明の断熱容器1およびこの断熱容器1の開口部を係合可能に覆う断熱蓋2の好適な実施の形態を示すものである。この断熱容器1は耐熱水性のポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂等で射出成形で成形された外容器3と内容器4からなり、内・外容器の間の空間部5を断熱層6とする二重壁構造のどんぶり状または椀状の断熱容器である。」(同第12頁第3行?第11行)

d.「クーラーボックスや保温弁当箱等に比べて内・外容器の肉厚を薄くしなければならない二重壁容器からなる食器」(同第12頁第24行?第13頁第1行)

e.「前記外容器3と内容器4は、それぞれの端部11、12において、振動溶着あるいはスピン溶着などの方法で、二重壁容器となるように接合されている。このように振動溶着あるいはスピン溶着によって接合されているので、内・外容器の接合部の密封度が高く、その接合強度も大きい。」(同第13頁第21行?第14頁第1行)

f.「外容器3と内容器4の間に形成された断熱層6には、キセノン、クリプトン、アルゴンのうち少なくとも1種の低熱伝導率ガスが封入されている。これらのガスの熱伝導度はキセノン(k=0.52×10-2W・m-1・K-1;0℃)、クリプトン(k=0.87×10-2W・m-1・K-1;0℃)、アルゴン(k=1.63×10-2W・m-1・K-1;0℃)で、空気(k=2.41×10-2W・m-1・K-1;0℃)よりも小さい。」(同第14頁第2行?第10行)

g.「内容器4と外容器3の間に形成される空間部5に面する面には、少なくとも内容器4の表面に金属製の輻射防止材13が設けられており、これにより断熱容器の輻射伝熱を抑えることができる。」(同第14頁第25行?第15頁第2行)

h.「図19、図20は、本発明の別の実施形態の断熱容器と断熱蓋を示すものである。この断熱容器81を形成している内容器82と外容器83とは、それぞれ機能特性の異なる合成樹脂を複層にした多色合成樹脂で成形されている。内容器82は内容器内層82aと内容器外層82bの2層の2色成形によりなり、また外容器83は外容器内層83aと外容器外層83bとの2層の2色成形によりなっている。そしてこれら内容器82と外容器83とは空間部84を隔ててそれぞれの鍔部82c、83cの口元接合部85で一体に接合して二重壁容器とされる。そして内容器82と外容器83との間に形成される前記空間部84に金属箔等からなる輻射防止材86を配設するとともに、キセノン、クリプトン、アルゴン等のガスの少なくとも1種よりなる低熱伝導率ガスが封入されて断熱層87を形成している。」(同第43頁第15行?第44頁第6行)

i.「そして前記した複層化する合成樹脂として、例えば空間部84(断熱層87)に面する内容器外層82bと外容器内層83aには、ガスバリア性に優れる合成樹脂材料(以下「高ガスバリア性樹脂」という。)を使用する。また一方大気に面する内容器内層82aと外容器外層83bには耐熱性、耐湿性(耐透湿度)及び機械的強度を備えた合成樹脂材料(以下「耐湿性樹脂」という。)が用いられる。具体的には、高ガスバリア性樹脂としては、気体透過率(ASTM D 1434-58に基づく。)がO2、N2、CO2のガスに関して1.0g/m2/24hr/atm以下の合成樹脂材料であって、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、あるいはポリアミド、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアルコール等の樹脂から選択することができる。また耐湿性樹脂としては、熱変形温度(ASTM D 648に基づく。)が100℃以上の耐熱性と、透湿度(JIS Z 0208に基づく。)が50g/m2/24hr/atm以下である合成樹脂材料であって、例えばポリプロピレン、耐熱耐湿性ポリカーボネート等の樹脂が用いられる。」(同第44頁第7行?第45頁第4行)

j.「(実施例1)図1ないし図3に示す断熱容器1および断熱蓋2を製造した。先ず、断熱容器1の製造にあたって、内容器4と外容器3をポリカーボネートとポリエチレンテレフタレートの混合樹脂である商品名ユーピロン(三菱エンジニアリングプラスティックス製)用いて肉厚2mmに射出成形した。」(同第60頁第16行?第23行)

k.「作製した断熱容器1内に約95℃の湯を300cc入れ、断熱蓋2で断熱容器1の開口を塞いで試験した結果、1時間経過後の湯温は72℃であり良好な保温性能を有していることが確認された。」(同第63頁第1行?第5行)

l.「(実施例3)次に図19に図示した2色成形した断熱容器81及び断熱蓋101を製作した。この断熱容器81では、外容器内層83aと内容器外層82bとには高ガスバリア性の樹脂であるポリアミドを用い、外容器外層83bと内容器内層82aとには耐湿性樹脂である耐熱耐湿性ポリカーボネートを用い、それぞれの樹脂の厚さを1.5mmの層にして2色成形して外容器83と内容器82を形成した。」(同第66頁第9行?第18行)

m.「作製した断熱容器81内に約95℃の湯を300cc入れ、断熱蓋101で断熱容器81の開口を塞いで試験した結果、1時間経過後の湯温は76℃であり良好な保温性能を有していることが確認された。」(同第70頁第2行?第6行)

これらの記載事項及び図(とくに図1,図19。)の記載内容からみて、公知刊行物には、次の発明が記載されていると認める。

「合成樹脂製の二重壁容器の内容器と外容器の間の空間部に空気よりも熱伝導率の低い低熱伝導率ガスを封入して断熱層を形成してなる合成樹脂製断熱容器において、上記内容器と外容器を構成する合成樹脂を、ポリエチレンナフタレート等の高ガスバリア性樹脂とポリプロピレン等の耐熱性、耐湿性及び機械強度を備えた樹脂を複層化したものとした合成樹脂製断熱容器。」

(3)対比
本件補正発明と公知刊行物に記載された発明とを対比すると、公知刊行物に記載された発明における「空間部」、「ポリエチレンナフタレート等の高ガスバリア性樹脂」は、それぞれ、本件補正発明における「空隙」、「ポリエチレンナフタレート」に相当する。

したがって、上記両者は、
「合成樹脂製の二重壁容器の内容器と外容器の間の空隙に空気よりも熱伝導率の低い低熱伝導率ガスを封入して断熱層を形成してなる合成樹脂製断熱容器において、上記内容器と外容器を構成する合成樹脂としてポリエチレンナフタレートを用いた合成樹脂製断熱容器。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
内容器と外容器を構成する合成樹脂を、本件補正発明では板厚1.5?3.5mmのポリエチレンナフタレートのみとしたのに対し、公知刊行物に記載された発明ではポリエチレンナフタレートの高ガスバリア性樹脂とポリプロピレン等の耐熱性、耐湿性及び機械強度を備えた樹脂を複層化したものとした点。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。

公知刊行物には、既にc、jとして摘記した事項及び図1の記載内容からみて、合成樹脂製断熱容器を構成する内容器と外容器を耐熱水性のポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂のうち1種で形成することも記載されている。しかも、ポリエステル樹脂の一種であるポリエチレンナフタレートが、ガスバリア性に優れた合成樹脂材料というだけでなく、耐熱性、耐湿性、機械的強度等も備えた合成樹脂材料であることは、本願の出願前に周知の技術的事項である(必要であれば、特開平8-164594号公報、特開平8-156208号公報、特開平6-287289号公報、特開平2-233341号公報を参照)。
そうしてみると、ポリエチレンナフタレートが、ガスバリア性に優れ、かつ耐熱性、耐湿性、機械的強度等も備えていることから、公知刊行物に記載されたポリエチレンナフタレート等の高ガスバリア性樹脂とポリプロピレン等の耐熱性、耐湿性及び機械強度を備えた樹脂を積層したのに代えて、ポリエチレンナフタレートのみを用いること、即ち、内容器と外容器を構成する合成樹脂をポリエチレンナフタレートのみとすることは、上記した公知刊行物の記載事項及び周知の技術的事項を考慮すれば、当業者が容易に想到し得たことといえる。

合成樹脂製断熱容器の保温性能等を考慮して内容器と外容器の板厚を実験的に好適化すること自体は、当業者にとって通常の創作能力を発揮したにすぎないことである。そして、その保温性能として長期にわたり低下しないものとすることも、当業者が考慮する事項の一つである。
また、本件補正発明における内容器と外容器の板厚は、公知刊行物に記載された事項として既にb、j、lとして摘記した事項を参酌すると、当業者が設計に際し通常採用し得た程度のものである。
しかも、本願の図2の記載内容を参酌しても、本件補正発明の板厚の数値範囲に臨界的意義が認められるものでもない。
そうしてみると、内容器と外容器を構成する合成樹脂の板厚を本件補正発明のように設定することも当業者が通常の創作能力を発揮してなし得たことである。

以上を踏まえると、上記相違点は、格別なものではなくて、本件補正発明の発明特定事項は、公知刊行物に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて当業者が格別の創作能力を要さずに案出し得たものであり、しかも、本件補正発明の発明特定事項により、公知刊行物に記載された発明及び上記周知の技術的事項からみて格別顕著な効果が奏されるものともいえない。

よって、本件補正発明は、公知刊行物に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
平成16年12月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年3月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「合成樹脂製の二重壁容器の内容器と外容器の間の空隙に空気よりも熱伝導率の低い低熱伝導率ガスを封入して断熱層を形成してなる合成樹脂製断熱容器において、上記内容器と外容器を、板厚1.5?3.5mmのポリエチレンナフタレート、板厚1.0?2.0mmの液晶ポリエステル(LPC)、板厚1.0?3.5mmの脂肪族ポリケトンからなる群から選択された少なくとも一種としたことを特徴とする合成樹脂製断熱容器。」

(1)公知刊行物に記載された発明
公知刊行物に記載された事項及び公知刊行物に記載された発明は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、内容器と外容器を構成する合成樹脂が、前記「2.」で検討した本件補正発明で「板厚1.5?3.5mmのポリエチレンナフタレートのみ」と限定されていたものを、それを含む「板厚1.5?3.5mmのポリエチレンナフタレート、板厚1.0?2.0mmの液晶ポリエステル(LPC)、板厚1.0?3.5mmの脂肪族ポリケトンからなる群から選択された少なくとも一種」とされたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「2.(3)」及び「2.(4)」に記載したとおり、公知刊行物に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、公知刊行物に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、公知刊行物に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-05 
結審通知日 2006-09-11 
審決日 2006-09-25 
出願番号 特願平10-70867
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47J)
P 1 8・ 575- Z (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 哲生  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 岡本 昌直
今井 義男
発明の名称 合成樹脂製断熱容器  
代理人 牛木 護  

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