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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B08B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B08B
管理番号 1147355
審判番号 不服2004-555  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-09-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-08 
確定日 2006-11-16 
事件の表示 特願2001- 52872号「超音波洗浄装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月10日出願公開、特開2002-254044号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年2月27日の出願であって、平成15年12月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成16年1月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月9日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年2月9日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年2月9日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「超音波振動子がつくり出す振動により被洗浄物を洗浄する家庭用の超音波洗浄装置であって、
信号の振幅を増幅して電力を前記超音波振動子に供給する電力増幅手段と、
前記超音波振動子の振動状態を検出する検出手段と、
この検出手段で検出された検出出力に基づいて前記信号の周波数を制御する制御手段とを備え、
前記超音波振動子に供給される前記電力を1W以上10W以下にし、
前記超音波振動子の共振周波数と反共振周波数との差が1.2kHz?1.7kHzに調整され、
前記超音波振動子は、ランジュバン型圧電振動子であり、該振動子の共振周波数が20kHz?100kHzの範囲に設定され、装置本体を構成するケーシングに前記超音波振動子と電池収納部及び前記超音波振動子を駆動する駆動回路部を内蔵したことを特徴とする超音波洗浄装置。」と補正された。

上記補正は、平成15年9月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲(以下、「拒絶査定時の特許請求の範囲」という。)の請求項1に係る発明の特定事項の「前記超音波振動子の共振周波数と反共振周波数との差が1kHz以上に調整され」を、「前記超音波振動子の共振周波数と反共振周波数との差が1.2kHz?1.7kHzに調整され」とする補正事項を含むものである。
ところが、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、超音波振動子の共振周波数と反共振周波数との差に上限を設ける技術思想は開示されておらず、まして、上限を1.7kHzとすることは、記載されていないし、自明の事項でもない。
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「超音波振動子がつくり出す振動により被洗浄物を洗浄する家庭用の超音波洗浄装置であって、
信号の振幅を増幅して電力を前記超音波振動子に供給する電力増幅手段と、
前記超音波振動子の振動状態を検出する検出手段と、
この検出手段で検出された検出出力に基づいて前記信号の周波数を制御する制御手段とを備え、
前記超音波振動子に供給される前記電力を1W以上10W以下にし、
前記超音波振動子の共振周波数と反共振周波数との差が1kHz以上に調整され、
前記超音波振動子は、ランジュバン型圧電振動子であり、該振動子の共振周波数が20kHz?100kHzの範囲に設定されていることを特徴とする超音波洗浄装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物である、実願昭58-76363号(実開昭59-180774号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次のように記載されている。
ア.「<技術分野>
本考案は超音波発振器に関するものである。
<技術分野>
超音波発振器は、例えば洗浄機等に使用されており、振動子を駆動させる装置である。」(明細書1ページ13?17行)
イ.「本考案は上記の事項に鑑み、振動子の共振周波数で自動追尾する機能を備えた超音波発振器を提供することを目的とする。<実施例>
本考案の構成を図面を参照しつつ述べる。
本実施例の超音波発振器は、第1図に示す様に、共振周波数で駆動している振動子の電圧と電流の位相差θ0を利用するものである。
第2図は、振動子の負荷として液深を取り上げ、液深(横軸:単位 mm)に対する振動子の電圧と電流の位相差(縦軸:単位 角度)の変化を記録したものであり、これで明確になる様に、各液深における位相差はθ0を中心としてほぼ一定である。
本実施例の超音波発振器は前述の特性を用い、共振時における位相差θ0が常に一定になる様に発振周波数を制御することにした。
第3図に本実施例の超音波発振器のブロック構成図を載せる。
同図において、1が共振周波数で駆動している振動子である。そして、該振動子の電圧及び電流は、夫々、電圧検出回路2及び電流検出回路3で検出される。電圧信号φ1は、位相差比較回路4に入力される。又、電流信号φ2は、一旦位相補正回路5に入力され、前記電圧信号φ1との位相差θ0が0°となる様に位相補正され、補正済電圧信号φ′2となって前記位相差比較回路4に入力される。
そして、前記位相差比較回路4は、電圧信号φ1と補正済電圧信号φ′2とにより、電圧と電流の位相差θ0を読み取り、該位相差θ0に応じてパルスを出力する。前記パルスにより制御回路6は直流電圧を発生し、その直流電圧はVCO(電圧制御型発振器)7にて発振周波数に変換される。該発振周波数は増幅器8にて増幅され前記振動子1に伝播される。」(明細書2ページ14行?4ページ9行)

上記記載ア、イから、引用例1には次の発明が記載されていると認められる。
「発振器の振動子の電圧及び電流を電圧検出回路2及び電流検出回路3で検出し、その位相差θ0に応じて直流電圧を発生し、その電圧から、VCO(電圧制御型発振器)7により、発振周波数に変換され、増幅器8により増幅されて振動子に供給されるものであって、位相差θ0を一定になる様にして発振周波数を制御する超音波発振器を使用する洗浄機。」

同じく、原査定の拒絶の理由に引用した特開昭56-2874号公報(以下、「引用例2」という。)には、「洗浄器等の家庭用あるいは産業用超音波発生装置」(2ページ右上欄16?17行)に関し、「本発明は、超音波を発生させる振動子と、前記振動子を励振する電界効果トランジスタを用いた超音波発振回路と、前記発振回路の入力源としての電池とを樹脂ケースさらには完全防水のケースに納め、収納一体化して構成した低入力電圧で高出力の超音波を発生し得る超音波発生装置である。」(1ページ右下欄18行?2ページ左上欄4行)と記載されており、第1図には、ケース胴部6とケース蓋7,8からなるケース内に、電池4,発振回路3及び圧電振動子1が収納された態様が図示されている。
上記記載及び図示内容から、引用例2には、洗浄器等の超音波発生装置において、電池を電源とし、電池、超音波発振器及び振動子を、装置本体を構成するケースに一体収納する技術手段、言い換えれば、装置本体を構成するケーシングに超音波振動子、電池収納部及び超音波振動子を駆動する駆動回路部を内蔵する技術手段が記載されていると言える。

(2)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「振動子」、「増幅器8」、「VCO(電圧制御型発振器)7」は、その機能ないし構造からみて、それぞれ、前者の「超音波振動子」、「電力増幅手段」、「周波数を制御する制御手段」に相当する。
そして、後者の「電圧検出回路2及び電流検出回路3」は、負荷の状態に応じて変化する振動子の電圧及び電流を検出するものであるから、超音波振動子の振動状態を検出するものと言え、前者の「超音波振動子の振動状態を検出する検出手段」に相当する。
また、超音波発振器を使用する洗浄機は、「超音波振動子がつくり出す振動により被洗浄物を洗浄する」「超音波洗浄装置」と言えるし、後者の「増幅器8」が信号の振幅を増幅するものであることは明らかであるから、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、
「超音波振動子がつくり出す振動により被洗浄物を洗浄する超音波洗浄装置であって、
信号の振幅を増幅して電力を前記超音波振動子に供給する電力増幅手段と、
前記超音波振動子の振動状態を検出する検出手段と、
この検出手段で検出された検出出力に基づいて前記信号の周波数を制御する制御手段とを備えた超音波洗浄装置。」である点で一致しており、次の点で相違する。

相違点1:本願発明では、超音波洗浄装置が「家庭用」であるのに対し、引用発明では用途が明らかでない点。
相違点2:本願発明では、超音波振動子に供給される前記電力を「1W以上10W以下」としているのに対し、引用発明では、供給される電力の値が不明である点。
相違点3:本願発明では、「超音波振動子の共振周波数と反共振周波数との差が1kHz以上に調整され」ているのに対し、引用発明ではその差がどの程度か不明である点。
相違点4:本願発明では、超音波振動子として、「ランジュバン型圧電振動子」を用い、振動子の共振周波数を「20kHz?100kHzの範囲に設定」しているのに対し、引用発明では、超音波振動子の種類及び共振周波数の値が不明である点。
相違点5:本願発明では、「装置本体を構成するケーシングに前記ランジュバン型超音波振動子と電池収納部及び駆動回路部を内蔵し」ているのに対し、引用発明ではそのような構成となっていない点。

以下、相違点1ないし5について検討する。<相違点1>について
超音波洗浄装置を家庭用として用いることは普通に行われているところであり、本願発明は家庭用とするための特段の構成を備えたものでもないから、引用発明のものを「家庭用」とすることも当業者が容易に想到し得ることである。
<相違点2>について
超音波洗浄装置の駆動電力は、被洗浄物の大きさ等に対応して設定すべきものであり、供給する電力を1W以上10W以下とするために特段の工夫を要するわけでもなく、しかも、「1W」、「10W」の数値限定に臨界的意義を認めることもできないから、相違点2に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
<相違点3>について
超音波振動子の共振周波数と反共振周波数との差が小さくなると、制御系が誤動作を起こすことがあり、それを避けるために超音波振動子の共振周波数と反共振周波数との差を1kHz以上とすることは、原査定の拒絶の理由に引用した特開昭56-78665号公報にも記載されているように、広く知られているところであり、また、「1kHz」の数値限定に臨界的意義も認められないから、相違点3に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
<相違点4>について
超音波振動子として、ランジュバン型圧電振動子は広く用いられており、これを採用することを妨げる理由も見当たらないし、超音波振動の周波数として「20kHz?100kHzの範囲」は普通の値であり、その数値限定に臨界的意義を認めることもできないから、相違点4に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
<相違点5>について
洗浄器等の家庭用超音波発生装置において、装置本体を構成するケーシングに超音波振動子と電池収納部及び駆動回路部を内蔵することは、引用例2により公知の技術手段であるから、この技術手段を採用して、相違点5に係る本願発明の特定事項とすることも当業者が容易に想到し得ることである。

そして、上記相違点1ないし5に係る本願発明の特定事項を総合して判断しても、その効果は、当業者が予測し得る範囲のものであって格別のものは認められない。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-13 
結審通知日 2006-09-19 
審決日 2006-10-02 
出願番号 特願2001-52872(P2001-52872)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B08B)
P 1 8・ 561- Z (B08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 由希子金丸 治之  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 一色 貞好
下原 浩嗣
発明の名称 超音波洗浄装置  
代理人 三好 秀和  

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