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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1147410
審判番号 不服2003-24062  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-11 
確定日 2006-11-15 
事件の表示 平成8年特許願第339539号「インクジェット記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年6月30日出願公開、特開平10-175365〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年12月19日の出願であって、その請求項1ないし6に係る発明は、平成15年7月3日付けの手続補正書及び平成18年8月11日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。なお、平成16年1月9日付けの手続補正は、却下された。
「非吸収性支持体上にインク吸収性層として、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ系、ほう酸またはほう砂である硬膜剤により硬膜され、親水性バインダーと30?200nmの平均粒径を有する2次微粒子を含有し、前記硬膜剤の添加量が前記親水性バインダー1g当たり1?200mgであり、乾燥膜厚が20?60μmであり、空隙率が40?80%である、空隙層を、有した記録用紙に、少なくともイエロー、マゼンタおよびシアンの水溶性インクを用いて記録を行うインクジェット記録方法であって、少なくとも多価アルコールあるいは多価アルコールの低級アルキルエーテルを含有した高沸点有機溶媒の含有量が10?35容量%であり、表面張力が25?50dyne/cmであるインクを用いて、単一ドットを単色インクで印字した場合のドット径が60μm以下となるように記録することにより、該空隙層の空隙容量が、インク吐出量が最大の時のインクが含有する高沸点有機溶媒の容量の3倍以上としたことを特徴とするインクジェット記録方法。」(以下、「本願発明1」という。)

2.引用刊行物記載の発明
当審における拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、刊行物1ないし5には下記の事項がそれぞれ記載されている。
(刊行物1:特開平7-276789号公報の記載事項)
(1a)「【請求項1】透明支持体上に、透明な色材受容層が設けられてなる記録用シートにおいて、該色材受容層が、空隙率50?80%を有する三次元網目構造の層であり、そして該三次元網目構造が、平均1次粒子径が10nm以下のシリカ微粒子と水溶性樹脂とから形成されており、且つ該シリカ微粒子と水溶性樹脂の重量比が1.5:1?10:1の範囲にあることを特徴とする記録用シート。
【請求項4】該三次元網目構造が、シリカ微粒子が凝集した10?100nmの粒径を有する二次粒子の連結により形成されるている請求項1に記載の記録用シート。
【請求項5】該水溶性樹脂が、ポリビニルアルコールである請求項1に記載の記録用シート。」
(1b)「【0006】これらの記録方式で画像形成された透明フイルムは、得られる画像の色相、彩度、明度に加えて、色材が被記録シートの表面に強固に接着していることが必要であり、さらにインクジェット記録の場合では、精細な画像を得る上で液状インクを早く吸収し、インクニジミやインク溜まりの無いことが要求される。」
(1c)「【0011】従って、本発明はインク記録、熱転写記録又は電子写真記録により透明な画像シートを得ることができる色材受容層を有する記録用シートを提供することを目的とする。また、本発明は、透明性が高く、得られた画像の色相、彩度及び明度に優れた記録用シートを提供することを目的とする。更に、本発明は、液状インクを迅速に吸収し、インクニジミやインク溜まりの無い精細な画像を得ることができるインク記録に適した透明性の高い記録用シートを提供することを目的とする。」
(1d)「【0013】上記本発明の記録用シートの好ましい態様は下記のとおりである。・・・
9)色材受容層の層厚が、10?50μmであるインクジェット記録用の上記記録用シート。」
(1e)「【0014】・・・光透過性を向上させて、しかも空隙率の高い構造とする為には、1.5前後の屈折率を有する極めて小さい粒径の超微粒子である本発明の特定のシリカを少量の結合剤樹脂とともに分散液中に分散し、塗布乾燥することで、この超微粒子の二次粒子からなる三次元網目構造が形成された色材受容層を透明支持体上に設けることができ、これにより達成できる。」
(1f)「【0017】二次粒子1を形成するシリカ微粒子は、平均一次粒子径が10nm以下(好ましくは3?10nm)・・・であり、そしてこのシリカ微粒子を用いて、上記範囲の量にて水溶性樹脂を用いて分散させることにより、微粒子の二次粒子を鎖単位とする3次元ネットワーク構造が形成され、このネットワークの間隙に微細孔が形成されることから、空隙率が極めて高く光透過性の多孔質膜構造が得られる。・・・いわゆるフロキュレーション(軟凝集状態)が生じ、更にこれが連結した三次元ネットワーク構造となりウエットゲルが生じる。これを乾燥し分散液が蒸発すると、三次元ネットワーク(網状)構造内に微細な空隙が生じ、多孔質キセロゲルが生成する。・・・本発明の色材受容層の形成もこれを利用したものである。この三次元網状構造内に微細な空隙の形成は、粒子が小さくなる程顕著であり、本発明のように特に平均一次粒子径が10nm以下のシリカ微粒子を(及び上記範囲内の量にて水溶性樹脂と組み合わせて)を用いた場合に光散乱の少ない細孔径30nm以下で且つ空隙率が大きい透明多孔質膜を形成することができる。」
(1g)「【0018】・・・乾式法シリカは、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)・・・で無水シリカを得る方法が主流である。・・・無水珪酸(無水シリカ)の場合に特に空隙率が高い三次元構造を形成し易く好ましい。・・・粗な軟凝集(フロキュレート)となり空隙率が高い構造になると推定される。」
(1h)「【0019】上記三次元網目構造は、シリカ微粒子が凝集した10?100nmの粒径を有する二次粒子の連結により形成されることが好ましく、さらに20?50nmが好ましい。また三次元網目構造の50?80%の空隙率は56?80%であることが好ましく、その空隙を形成する細孔は、5?30nmの平均直径(平均細孔径)を有することが好ましく、特に10?20nmが好ましい。」
(1i)「【0021】本発明では、色材受容層(膜)である三次元構の形成を容易にし、その膜強度を高める為、及び乾燥時の膜のヒビ割れを防止する為に、シリカ微粒子と共に結合剤として水溶性樹脂が使用される。このシリカ微粒子と水溶性樹脂の比率(PB比:水溶性樹脂の重量1に対するシリカ微粒子の重量)は膜構造にも大きな影響を与える。PB比が大きくなると空隙率、細孔容積、表面積(単位重量当たり)が大きくなる。10を超えた場合は、膜強度、乾燥時のヒビ割れに対する効果が無く、1.5未満では空隙が樹脂で塞がれ空隙率が減少してインク吸収性能が低下する。この為、PB比は1.5?10の範囲が好適である。特にOHPフイルムのように手で直接触る場合は充分な膜強度を得る必要があり、PB比は5以下が特に好ましく、またインクジェットプリンターで高速インク吸収性を得る為にはPB比は2以上が特に好ましく、従ってPB比は2?5の範囲がさらに好適である。」
(1j)「【0023】水溶性樹脂の例としては、親水性構造単位としてヒドロキシル基を有する樹脂として、ポリビニルアルコール(PVA)・・・を挙げることができる。透明性の観点からシリカ微粒子に組み合わせる樹脂の種類が重要であり、無水シリカの場合は、PVA特に、低鹸化度(好ましくは鹸化度70?90%)PVAが光透過性の点で好適である。PVAは、構造単位に水酸基を有するが、この水酸基とシリカ粒子表面のシラノール基が水素結合を形成して、シリカ粒子の二次粒子を鎖単位とする三次元網目構造を形成し易くすると考えられる。これにより、空隙率の高い構造の色材受容層が得られると考えられる。このようにして得た色材受容層はインクジェット記録において、毛細管現象によって急速にインクを吸収し且つインクニジミやインク溜まりの無い精細な記録が可能である」
(1k)「【0024】色材受容層の層厚は、インクジェット記録の場合は液滴を全て吸収するだけの吸収容量をもつ必要があり、これは塗膜の空隙率との関連で決定する必要がある。例えばインク量が 8nl/mm2 の場合で、空隙率が60%であれば約15μm以上の膜が必要となる。インクジェット記録の場合の場合は、10?50μmの範囲が好ましい。」
(1l)「【実施例】【0031】[実施例1]
(1)色材受容層形成用塗布液の組成(以下の全ての塗布液の配合量を示す重量部の値は、全て固形分又は不揮発分を表わす)
(1)乾式シリカ微粒子(平均1次粒子径:7nm;屈折率:1.45;表面シラノール基:2?3/nm2; エアロジルA300(日本アエロジル(株)製)) 10重量部
(2)ポリビニルアルコール(鹸化度88%;重合度3500;PVA235(クラレ(株)製)) 3.3重量部
(3)イオン交換水 136.0重量部
(1)のシリカ微粒子を、(3)のイオン交換水(73.3重量部)中に添加して、高速回転湿式コロイドミル(クレアミックス(エム・テクニック(株)製))を用いて、10000rpmの条件で20分間分散させた後、ポリビニルアルコール水溶液(イオン交換水の残り62.7重量部に溶解させたもの)を加えて更に、更に上記と同じ条件で分散を行ない、ついでpHを4?5に調整して色材受容層形成用塗布液を得た。
【0032】(2)塗布乾燥
この塗布液を100μmの厚みの二軸延伸したポリエチレンテレフタレート表面をコロナ放電処理し、その表面にエアーナイフコーターを用いて塗布し、熱風乾燥機により70℃(風速5m/秒)で1分間乾燥した後、更に150℃で10分間乾燥した。これにより乾燥膜厚が30μmの色材受容層を形成した。これにより、インクジェット用の記録用シートを得た。得られた色材受容層の表面及び断面の走査型電子顕微鏡写真(100000倍)を、それぞれ図2及び図3に示す。これらの写真より、得られた色材受容層は三次元網目構造を有することが分かる。・・・
【0036】上記で得られたインクジェット用の記録用シートについて、以下の測定方法によってそのインクジェット適性を評価した。
(1)インク吸収速度
インクジェットプリンター(PIXEL JET;キャノン(株)製)により、記録用シートへの赤、黄、青及び黒のベタ印字直後(約10秒後)に紙を接触押圧し、インクの紙への転写の有無で下記のように判定した。
AA:紙にインキが転写されなかった。CC:紙にインキが転写された。
(2)インク混色滲み
上記と同一のプリンターを用いて、記録用シートに印刷された赤、黄、青及び黒の各々のベタ印字部境界における滲み出し程度によって判定した。
AA:滲み出しがなかった。BB:滲み出しが少し認められた。CC:滲み出しがかなり認められた。
(3)ドット径
上記と同一のプリンターを用いて、黒インクの記録用シートに印刷されたドットの直径を顕微鏡で測定した。
(4)色濃度
上記と同一のプリンターを用いて、記録用シートに印刷された赤、黄、青及び黒のベタ印字部を、光学濃度計(X-Rite310TR;X-Rite社製)で測定した。上記評価の結果を下記の表1に示す。」
(1m)表1には、実施例1のインクジェット記録用シートが、インク吸収速度、インク混色滲みに優れていること、黒インクで印刷されたドット直径が101μmであることが記載されて、表2には、実施例1のインクジェット記録用シートが空隙率が61%、シリカ微粒子の2次粒径が40nmであることが記載されている。(【0037】【0039】)

(刊行物2:特開昭61-290084号公報の記載事項)
(2a)「(1)基材および該基材上に設けられたインク受容層からなる被記録材に、インクの小滴を付着させることによって記録を行うインクジェット記録方法において、上記インク小滴の直径(d1)と上記インク受容層の厚さ(d2)とが、下記式(1)で示される範囲内にあることを特徴とするインクジェット記録方法。
d1/{d2(B1/2+S-B1/2S)}≦10 (1)
[但し、上記式(1)中のBはインク受容層の空隙率を表わし、Sはインク受容層のインクによる膨潤率である。]」(特許請求の範囲)
(2b)「種々の画像処理、例えば、インキ小滴の量を変えても、そのインク量が記録ドツトの径、すなわち濃度と直線関係にならず、特に高濃度が要求される領域においては、付与されたインク量が大であるため、インク受容層によるインクの吸収が間に合わず、インクの流れ出しや他のインクドツトと混合が生じ、高解像度で細かい階調性のある記録画像を得ることができなかった。
従って、本発明の目的は、コントラストが高く、優れた解像度を有し、且つ優れた階調性を有する記録画像を与えるインクジェット記録方法を提供することである。本発明者は上述の如き従来技術の欠点を解決すべく鋭意研究の結果、インクジェット記録方法において、上記の目的を達成するためには、従来の如き単なるインク量の変化だけでは不可能であり、インク小滴の直径、被記録材のインク受容層の厚さおよびインク受容層のインク吸収性等との間の関係を特定の関係とすることにより、可能であることを知見して本発明を完成した。」(第2頁左下欄第1行目?右下欄第1行目)
(2c)「同一箇所に2個以上n個のドツトが重ねて記録される場所には、d1は、下記(2)式で示される値を用いる。
n
d1=(Σ(ei)3)1/3 (eiは、各ドットの直径) (2)
i=1
(eiは、各ドットの直径)」
(第2頁右下欄下から第3行目?第4頁左上欄第2行目)
(2d)「本発明を更に詳細に説明すると、本発明の特徴は、インクジェット記録方法を実施するにあたり、記録装置のインク吐出量やインクの性質を変えるだけではなく、そのインク吐出量に合わせて選択した被記録材を使用するか、あるいは被記録材の性質に合わせて、記録装置のインク吐出量およびインキの性質を変化させて、インク小滴の直径と被記録材のインク受容層の厚さとの関係を上記式(1)の範囲内とすることであり、このような構成によって、本発明の目的が初めて達成されたものである。」(第3頁左下欄第3行目?第13行目)
(2e)「本発明で使用する被記録材は、一般に支持体としての基材とその表面に設けた記録面、すなわちインク受容層とからなるものであり、一般的には、透明性あるいは不透明性の基材に水溶性?親水性ポリマーからなるインク受容層を形成することによって得られる。・・・このような水溶性?親水性ポリマーとしては、例えば・・・ポリビニルアルコール・・・インク受容層の空隙率、膨潤率あるいはインクの吸収性を調整するために、インク受容層中に各種の充填剤、例えばシリカ・・・等の充填剤を包含させることもできる。」(第3頁左上欄第14行目?第3頁右下欄1行目)
(2f)「本発明において上記の如き水溶性?親水性ポリマーからなるインク受容層の支持体として用いる基材としては、透明性、不透明性等従来公知の基材はいずれも使用できる。」(第3頁左下欄第2行目?第5行目)
(2g)「インク受容層の厚さは、従来公知の方法により、0.01μm?数百μm程度まで任意に変更できる。」(第4頁右上欄第2行目?第4行目)
(2h)「本発明において云うインク受容層の「空隙率(B)」とは、インク受容層の見掛けの体積をV2とし、真の体積をV1とすれば、B=(V2-V1)/V2で表わされる。具体的には、溶媒を吸収しない基材1例えばガラス板やアルミ箔の表面にインク受容層を形成し、厚さおよび面積からその見掛けの体積V2を測定し、次いでインク受容層に対して不活性な溶媒(例えば ベンゼン、エタノール等)を用いてインク受容層の真の体積V1を測定することより、得ることができる。」(第4頁右上欄第5行目?第15行目)
(2i)「本発明に用いるインクに使用する溶媒は、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒であり、特に好適なものは、水溶性有機溶剤としてインクの乾燥防止効果を有する多価アルコール系有機溶剤を含有するものである。」(第5頁右上欄第10行目?第14行目)
(2j)「本発明に用いるインクは上記の成分の外に必要に応じて、界面活性剤、粘度調整剤、表面張力調整剤等の各種の添加剤を包含し得る。本発明で使用するインクは上記の如くであるが、本発明においては上記の如きインクの組成を変えたり、その表面張力、粘度等を種々変更させることによってもインクジェット記録装置から吐出させるインク小滴の直径(d1)をある程度調節することができる。」(第5頁右下欄第8行目?第15行目)
(2k)「上記の如きインクジェット記録方法において、吐出されるインク小滴の直径(d1)は、一般的に10?100μmの範囲で任意に設定でき、また前記被記録材においてもインク受容層の厚さ(d2)は、0.01μmから数百μm、空隙率(B)は0?0.9、膨潤率(S)は0?500程度まで任意に設定できる。しかし、本発明において、優れた解像度を有し、且つ優れた階調性を有する記録画像を得るためには、前記(1)式の関係を満たす範囲でインクジェット記録を実施しなければならない。」(第6頁左下欄第10行目?第20行目)
(2l)「イエロー、マゼンタ、シタン、ブラックの4色のインクを用い、ヘッドにかかる印加電圧を各々変えることにより、インク小滴の直径(d1)を変化させ、階調性を付けるフルカラーインクジェット記録方法では、各色のeiを30?65μmの範囲で変化させ、またレッド、グリーン、ブルーでは2色ずつ重ねて印字する。従ってドツト径は、前記(2)式に従い、30?82μmまで変化する。従って、膨潤性のない多孔性のインク受容層からなる被記録材で、インク受容層の空隙率(B)が0.4の場合は、前記(1)式よりインク受容層の膜厚は13μm以上が必要となる。」(第6頁右下欄第1行目?第13行目)
(2m)「以上の例は、インクジェット記録方法において吐出させるインク小滴の直径(d1)を基準とし、これに被記録材のインク受容層の性質を適合させているものであるが、これとは逆に、インク受容層の厚さ(d2)、その空隙率(B)およびそのインクによる膨潤率(S)を予め所定の範囲にしておいて、インクジェット記録装置の吐出圧、ノズルの径等を変化させて、吐出させるインク小滴の直径(d1)を前記式(1)に適合させてもよいのは当然である。以上の如き本発明によれば、吐出されるインク小滴の直径(d1)、被記録材のインク受容層の厚さ(d2)、インク受容層の空隙率(B)、インク受容層のインクによる膨潤率(S)との関係を特定の関係においてインクジェット記録を実施することによって、インク受容層に付与されるインク量とその結果生じる記録画像の濃度とがほぼ比例関係となり、その結果、コントラストが高く、解像度に優れ、且つ細かい階調性を有する記録画像が得られるようになった。」(第6頁右下欄第14行目?第7頁左上欄第13行目)
(2n)実施例3には、以下のとおり、膨潤率(S)=0とした、空隙型の被記録材3が記載されている。
「実施例3 実施例1において、被記録材lのかわりに下記の被記録材3を用い、ピエゾ振動子駆動電圧を80Vにして、インク小滴の直径(d1)を80μmしたことを除いて実施例1と同様に行った。
(被記録材3)
基材としてアート紙[OKアートポスト(商標名)、王子製紙製]を用い、その上に下記組成物を、乾燥膜厚が15μmとなるように、バーコーター法により塗布し、120℃5分の条件で乾燥して空隙率(B)=0.4、膨潤率(S)=0の被記録材3を得た。
シリカ(サイロイド620、富士デビソン製) 10部
ポリビニルアルコール(PVA-HC、クラレ製) 2部
水 88部
得られた画像は、実施例1と同様優れたものであった。」(第8頁左上欄第1行目?第18行目)
(2o)実施例1には、インクの組成として、
黄インク(組成) C.1.ダイレクトイエロー86 2部
グリセリン 15部
トリエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール#400 3部
水 75部
赤インク(組成) C.I.アシッドレッド35 2部
グリセリン 15部
トリエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール#400 3部
水 75部
青インク(組成) C.I.ダイレクトブルー86 2部
グリセリン 15部
トリエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール#400 3部
水 75部
黒インク(組成) C.I.フードブラック2 2部
グリセリン 15部
トリエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール#400 3部
水 75部
と記載され、得られた画像の評価として、階調性がスムーズで高濃度域においてもインクがあふれたりせず、鮮明な画像がであったことが記載されている。(第7頁左上欄第170行目?右下欄第2行目)

(刊行物3:特開平7-117334号公報の記載事項)
(3a)「【請求項1】 支持体上にインク受理層を設けたインクジェット記録シートにおいて、該インク受理層組成物が、主として平均粒子径が0.1μm未満の無機微粒子及び重合度4000以上のポリビニルアルコールからなることを特徴とするインクジェット記録シート。」
(3b)「【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、インク受理層組成物が、主として平均粒子径が特定範囲の無機微粒子と重合度が特定範囲のポリビニルアルコールで構成されてなるとき、インク受理層表面のひび割れがなく、高い光沢性があり、インク吸収性に優れ、且つドット再現性が良好であることを発見し、本発明を完成するに至った。」
(3c)「【0015】その他の各種添加剤としては、活性ハロゲン化合物、ビニルスルフォン化合物、アジリジン化合物、エポキシ化合物、アクリロイル化合物、イソシアネート化合物等の硬膜剤」
(3d)「【0020】本発明において、支持体としては・・・画質の良さ、光沢、平滑性等の点からポリオレフィン樹脂被覆紙やフィルムの使用が好ましい。」

(刊行物4:特開平7-292302号公報の記載事項)
(4a)「【請求項1】インク粒子を噴出することで非接触ノンインパクトの記録を行う装置において使用される記録液であって、記録液中に占める25℃における不揮発成分(A) と色材成分(B) との重量割合の差C(=A-B)が、0.01≦C≦10となることを特徴とする記録液。
【請求項10】 記録液に使用される水溶性溶媒が、ジエチレングリコール等の多価アルコールの単一の溶媒、または一価アルコールを含めた混合溶媒であることを特徴とする請求項1記載の記録液。
【請求項11】 水溶性有機溶媒の記録液中に占める重量割合Q(%) が、1≦Q≦20 であることを特徴とする請求項1記載の記録液。」
(4b)「【0035】・・・(10)本発明の記録液に使用可能な水溶性有機溶媒には、・・・
【0036】このうち,ジエチレングリコール等の2価アルコールが好適である。これらの水溶性有機溶媒は混合して使用することができる。
(11) 上記1項記載の記録液中に占める水溶性有機溶媒の重量割合Q(%) は 1≦Q≦20であることが望ましい。記録液中の水溶性有機溶媒の重量割合が小さいと、不揮発成分又は色材分の凝集を促進し目詰まりを起こしやすくなる。重量割合が1%以上であれば、目詰まりの発生頻度は1以下となるから実用上問題なく、さらに安定な記録液を得るには5%以上とすることが望ましい。
【0037】一方重量割合が大きいと、記録液の感想(「乾燥」の誤記と認められる。)に時間を要するため定着時間が長くなり、印字記録の高速化に不利となる。重量割合Qが20%以下であれば定着時間は1分以下となるから実用上問題なく、さらに高速定着可能な記録液を得るには30秒以下とすることが望ましい。
【0038】図3は本発明の記録液の特性を示す実験結果のグラフ(その3)であり、図の(F)は水溶性有機溶媒の重量割合Q(%) と定着時間と目詰まり発生頻度との関係を示す実験結果のグラフである。図では、重量割合Q(%) は1以上20以下であることが好適であることを示す。」

(刊行物5:特開平7-278481号公報の記載事項)
(5a)「【請求項3】 インクにエネルギーを与えてインク滴を吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、上記インクが、少なくとも水、水溶性有機溶剤及び顔料分散体からなる水性顔料インクであり、表面張力が35dyne/cm以上であり、且つ上記被記録材に対する付着張力Tcosθの値が-10dyne/cm<Tcosθ<10dyne/cmの範囲であるインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。」
(5b)「【0020】上述の顔料及び分散剤は水性溶媒中に分散される。本発明のインクに用いられる溶媒は、水を主体とし、水溶性溶媒を混合して用いる。水溶性溶媒の総量は概ねインク全体に対して10?25重量%である。本発明の水性顔料インクを調製する上で、その付着張力を調節する為には、溶媒の選択は重要である。好ましい溶媒は以下の3群から選択され、夫々異なる性質と役割を担っている。
【0021】第1群の溶媒は、それ自体の普通紙に対する付着張力は、正の大きい値(濡れ性の良くない)であり、保湿性を高める為にはインク全体の10重量%以上、好ましくは15?25重量%の含有率がよい。その様な含有率であれば、浸透性を高め過ぎてしまうことはない。」
(5c)「【0024】第1群に属する溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン・・・」
(5d)「【0031】本発明の水性顔料インクは、それ自体として表面張力の値が35dyne/cm以上であり、好ましくは40dyne/cm?55dyne/cmの範囲である。上記表面張力の値が小さすぎると印字品位上許容される用紙が少なくなるという点で好ましくなく、又、大き過ぎると浸透時間がかかりすぎて乾燥が遅くなる点で好ましくない。」

2.対比
上記刊行物1の摘記事項(特に上記(1a)(1d)(1k)(1l))から、刊行物1には、「透明支持体上に、透明な色材受容層が設けられてなる記録用シートにおいて、色材受容層が、層厚10?50μmで、インク液滴を全て吸収するだけの吸収容量をもつ、空隙率50?80%を有する三次元網目構造の層であり、三次元網目構造が、平均1次粒子径が10nm以下のシリカ微粒子と水溶性樹脂とから形成され、シリカ微粒子が凝集した10?100nmの粒径を有する二次粒子の連結により形成されており、且つシリカ微粒子と水溶性樹脂の重量比が1.5:1?10:1の範囲にある記録用シートに、赤、黄、青及び黒の印字を形成するインクを用いて、インク液滴を全て吸収させて記録を行うインクジェット記録方法。」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているところ、本願発明1と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「透明支持体」「透明な色材受容層」「水溶性樹脂」「記録用シート」は、それぞれ、本願発明の「非吸収性支持体」「インク吸収層」「親水性バインダー」「記録用紙」に相当する。
(イ)刊行物1発明の色材受容層は、所定の空隙率を有しているから、「空隙層」といえる。
(ウ)刊行物1発明の色材受容層の空隙率は、本願発明1の空隙率の範囲に含まれている。
(エ)刊行物1発明の色材受容層の層厚は、本願発明1の範囲とほとんど重複しており、さらに、刊行物1には、実施例1として、本願発明1の範囲の含まれる、乾燥膜厚が30μmの色材受容層が記載されている。
(オ)刊行物1発明のシリカ微粒子が凝集した二次粒子の粒径の範囲は、本願発明1の範囲とほとんど重複しており、さらに、刊行物1には、実施例1として、本願発明1の範囲に含まれる、2次粒径が40nmであることが記載されている。
(カ)インクジェット記録用のインクは、通常、水溶性インクであることから、刊行物1発明の「赤、黄、青及び黒の印字を形成するインク」は、本願発明1の「少なくともイエロー、マゼンタおよびシアンの水溶性インク」に相当する。
したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
非吸収性支持体上にインク吸収性層として、親水性バインダーと30?200nmの平均粒径を有する2次微粒子を含有し、空隙率が40?80%であり、乾燥膜厚が20?60μmである空隙層を有した記録用紙に、少なくともイエロー、マゼンタおよびシアンの水溶性インクを用いて記録を行うインクジェット記録方法である点。
(相違点1)
本願発明1は、空隙層が、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ系、ほう酸またはほう砂である硬膜剤を、親水性バインダー1g当たり1?200mg添加して硬膜されているのに対して、刊行物1発明は、硬膜剤で硬膜されていない点。
(相違点2)
本願発明1では、少なくとも多価アルコールあるいは多価アルコールの低級アルキルエーテルを含有した高沸点有機溶媒の含有量が10?35容量%であり、表面張力が25?50dyne/cmであるインクを用いるのに対して、刊行物1発明は、インクの組成及び表面張力が不明な点。
(相違点3)
本願発明1では、単一ドットを単色インクで印字した場合のドット径が60μm以下となるように記録することにより、該空隙層の空隙容量が、インク吐出量が最大の時のインクが含有する高沸点有機溶媒の容量の3倍以上とした記録方法であるのに対して、刊行物1発明では、空隙層は、インク液滴を全て吸収するだけの吸収容量をもつものであるが、高沸点有機溶媒と空隙容量の関係は不明である点。

4.判断
(相違点1について)
無機微粒子と親水性バインダーを含有したインクジェット記録シートのインク吸収性層に、エポキシ化合物、ほう酸、ほう砂等の硬膜剤を添加し、塗膜の強度を高めることは、刊行物3(【0015】)に、硬膜剤としてエポキシ化合物が記載され、特開平1-291990号公報(周知例1、第17頁右上欄第7行目?第18頁左上欄下から第11行目)に、硬膜剤として2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物が記載され、特開平7-76161号公報(周知例2、請求項4)に、硬膜剤としてほう酸及びほう砂が記載されているように、本願出願前の周知技術である。また、硬膜剤の添加量については、インクの吸収を阻害しない範囲で、塗膜強度が得られるように適宜に決定しうるものである。そして、上記周知例1及び2の硬膜剤の添加量は、いずれも本願発明1で規定する範囲に含まれており、本願発明1で規定する範囲は格別なものでもない。
そうすると、刊行物1発明の記録紙のインク吸収性層である空隙層を、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ系、ほう酸またはほう砂である硬膜剤を親水性バインダー1g当たり1?200mgの添加量で硬膜させることに困難性があるとはいえず、それに伴う効果である、皮膜強度の向上も予測し得たものである。

(相違点2について)
刊行物2(上記(2i)(2n)(2o))には、インクの乾燥防止のために多価アルコールを系有機溶媒を使用すること、実施例3として、多価アルコールの高沸点有機溶媒である、グリセリン、トリエチレングリコール及びポリエチレングリコール含有量が合計で23重量%となる各色インクを用いインクジェット記録することが記載されている。ここで、高沸点有機溶媒が23重量%は、各有機溶媒の比重を考慮すると約27容量%程度となり、本願発明1で規定する範囲に含まれている。さらに、刊行物4、5に記載されるように、多価アルコールを含有した高沸点有機溶媒の含有量が10?35容量%程度の水溶性インクは、本願出願前に周知である。
そして、刊行物2には、インクの表面張力を調整することで、インクジェット記録装置から吐出させるインク小滴の直径を調節できることが記載されているから、インク吸収層からインクが溢れないように、所望の大きさのインク小滴とするために、インクの表面張力を決定することに格別の困難性はない。さらに、特開平8-282093号公報(【0016】)に、30?45dyne/cmの範囲の表面張力を有するインクが主流になっていることが記載されているように、本願発明で規定する表面張力が25?50dyne/cmのインクは、インクジェット用インクとして、通常の範囲のものである。
そうすると、刊行物1発明において、インクの乾燥を防止し、インク滴の直径を調節するために、インクとして、少なくとも多価アルコールあるいは多価アルコールの低級アルキルエーテルを含有した高沸点有機溶媒の含有量が10?35容量%であり、表面張力が25?50dyne/cmであるものを用いることは、当業者が容易になし得たものといえる。

(相違点3について)
刊行物1には、空隙層は、インク液滴を全て吸収するだけの吸収容量をもつこと、インク量に応じて所定の空隙率と膜厚が必要となることが記載され、実施例1には、空隙率61%、乾燥膜厚30μmで、黒インクをインクジェットプリンター(PIXEL JET;キャノン(株)製)で印刷した時のドット径が101μmのとき、インクの吸収速度が速く、インクの滲み出しがないことが記載されている。
一方、刊行物2には、インクジェット記録方法において、インク小滴の直径、インク受容層の厚さ、及び記録材の空隙率が所定の関係を満たすように記録を行うことで、インク受容層によるインクの吸収が間に合わず、インクの流れ出しや他のインクドツトと混合が生じることがなく、高解像度で細かい階調性のある記録画像を得ることができることが記載されている(上記(2a)?(2d)(2m))。そして、実施例3には、非膨潤性で、空隙率0.4、つまり40%の空隙層を有するインク受容層を有する記録材に、高沸点有機溶媒である、グリセリン、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの合計含有量が23重量%(各有機溶媒の比重を考慮すると約27容量%程度)の各色インクを用いインクジェット記録することが記載され、インク吐出量が多い高濃度域においても、インクがあふれたりせず、鮮明な画像が得られたことが記載されている(上記(2n)(2o))。そして、インクがあふれないということは、空隙中に高沸点有機溶媒及び水を含むインク液滴全量が保持されているといえ、高沸点有機溶媒が27容量%とすると、空隙容量は、有機溶媒の3倍以上であるといえる。
そうすると、刊行物1発明において、インク液滴を全て吸収するだけの吸収容量をもつ空隙層とするために、空隙容量を、高沸点有機溶媒の容量の3倍以上とすることは、当業者が容易になし得たものといえる。
さらに、刊行物2には、インク受容層の厚さ、その空隙率を予め所定の範囲にしておいて、インクジェット記録装置の吐出圧、ノズルの径等を変化させて、吐出させるインク小滴の直径を適合させてもよいこと(上記(2m))、インクの表面張力を調整することで、インクジェット記録装置から吐出させるインク小滴の直径を調節でき、その結果、ドット径を30?65μm程度とすることが記載されており(上記(2j)(2l))、インク受容層の厚さ、その空隙率に加え、インクの表面張力も予め所定の範囲とすれば、吐出圧、ノズルの径を最適化して、印字したドット径が、60μm以下と小さくなるように記録することで、空隙容量が、高沸点有機溶媒の容量の3倍以上となるインク吐出量とすることに、何ら困難性はない。

(本願発明の効果について)
本願発明の効果について検討すると、光沢性は刊行物1の記載から、印字後の乾燥性は刊行物2の記載から、皮膜強度は刊行物3及び周知技術から、それぞれ予測し得たものであり、各相違点を組み合わせることで、予想し得ない効果が奏されるものでもない。

5.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1ないし5記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない

したがって、請求項2ないし6に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-01 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-25 
出願番号 特願平8-339539
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 岡田 和加子
秋月 美紀子
発明の名称 インクジェット記録方法  

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