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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M |
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管理番号 | 1147415 |
審判番号 | 不服2004-11891 |
総通号数 | 85 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-06-10 |
確定日 | 2006-11-15 |
事件の表示 | 平成10年特許願第261573号「インクジェット記録用紙」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月28日出願公開、特開2000- 85243〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願発明 本願は平成10年9月16日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は、平成15年12月26日付け手続補正書及び平成18年8月11日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】紙の両面をポリエチレン樹脂で溶融押し出し法により塗布されて被覆された支持体の少なくとも一方の側にインク吸収層を有するインクジェット記録用紙において、紙の含水率が5重量%以上で7重量%以下であることを特徴とするインクジェット記録用紙。」 2.刊行物に記載された事項 (1)当審で通知した拒絶の理由に引用した本願出願前国内で頒布された刊行物である特開平9-30111号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (1a)「本発明は、インクジェット記録用シートに関し、特に、各種のインクジェット記録方式の機器で使用される記録用シートの改良に関する。」(【0001】段落、以下、「段落」の記載を省略する。) (1b)「実施例1 ・・・、水分8%の原紙を製造した。・・・。 得られた原紙の表裏両面にコロナ放電を施し、その表面には押出しコーティング法により15%アナターゼ型二酸化チタンを含む高密度ポリエチレン(比重0.94、MI=6.8)から成る厚さ30μmの樹脂被覆層を形成し、又、その裏面には以下に示す組成及び条件で、共押出しコーティング法により上・下2層構造のポリエチレン樹脂被覆層を形成し、得られた積層体を20℃のマット面を有するクーリングロールに対して20kg/cmの線圧で抑圧し、支持体を製造した。・・・。 以上の様にして得た支持体上に以下に示す層を酸化チタンを含有するポリエチレン樹脂被覆層の側に塗設した。 〈インク受容層の作成〉アルミナゾル(商品名アルミナゾル-100、日産化学工業社製、固形分10重量%、結晶形が無定形のカチオン性アルミナ水和物の水分散コロイド溶液)の90重量部と、カルボン酸変性ポリビニルアルコールKL?318(クラレ社製)の10重量%の水溶液の10重量部を混合し、これらのコンプレックスが形成されて溶液が形成されてゲル化したところで、これに水100重量部を加え、激しく撹拌し、コンプレックスの分散溶液を塗工液として得た。 支持体上に上記インク受容層用塗工液を乾燥後の膜厚が30μmになるようにバーコーター法により塗工し、110℃、5分間の条件で乾燥させ、試料1を得た。」(【0095】?【0103】) (2)同じく、本願出願前国内で頒布された刊行物である特開昭59-101653号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (2a)「本発明は、電子写真特に乾式PPC用の転写紙に関する。」(第1頁左欄19、20行) (2b)第2頁右下欄15行?第3頁左下欄最下行には「実施例1並びに比較例1、2」について記載されており、「製品の前記条件(イ)、(ロ)、(ハ)の数値並びに他の諸物理特性を表1に示す。また同一組成で、諸物理特性の違った紙を比較例1、2として表1に併記した。」(第3頁左上欄1?4行)として、第3頁右上欄の表1には、実施例1並びに比較例1及び2の紙の「水分」が、それぞれ、5.0%、5.1%、5.0%であることが記載されている。 (2c)第3頁右下欄1行?第4頁右上欄最下行には「実施例2並びに比較例3」について記載されており、「製品の前記諸条件(イ)、(ロ)、(ハ)の数値並びに他の諸物理特性を表3に示す。また同一組成で、諸物理特性の違った紙を比較例3として表3に併記した。」(第3頁右下欄4?8行)として、第4頁左上欄の表3には、実施例2及び比較例3の紙の「水分」が、いずれも6.5%であることが記載されている。 (3)同じく、本願出願前国内で頒布された刊行物である、石黒久三郎著「最新抄紙技術 -理論と実際-」昭和59年5月2日、有限会社製紙科学研究所発行、第18?21頁(以下、「刊行物3」という。)には、紙水分のヒステリシス現象について記載されており、特に、以下の事項が記載されている。 (3a)「紙水分の測定法はJISの規定によりはかりびんに試料を迅速に採取し、普通105±3℃に調整された乾燥器の中に入れ、恒量になるまで1?2時間加熱し、乾燥による減量を測定し次式で算出する。 L M(%)=-×100 ・・・・・ (1・1) S M:水分(%) S:試験片の重量(g) L:乾燥による減量(g)」(第18頁2?8行) (3b)「第1-13図はGP配合印刷用紙のある一定温度のもとにおける平衡水分のヒステリシス曲線で、横軸に相対湿度、縦軸に平衡水分をとったものである。」(第18頁下から2行?最下行)として、第19頁の第1-13図には、相対湿度20%付近?100%における脱湿曲線と吸湿曲線が記載されており、両曲線とも水分5?7%の範囲を通過している。 (3c)「紙は周囲の相対湿度の変化に伴い、水分を放出したり吸湿したりする傾向を有し、」(第19頁下から6,5行) (3d)「第1-1表に種々の相対湿度における新聞用紙の平衡水分を示した。」(第20頁12行)として、第20頁の第1-1表には、相対湿度10から80%における吸湿による水分量と脱湿による水分量が記載されており、該水分量が5?7%の範囲に含まれる場合も記載されている。 3.対比、判断 刊行物1の記載事項(1a)、(1b)からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると云える。 「原紙の両面をポリエチレン樹脂で押出しコーティング法により塗布されて被覆された支持体の一方の側にインク受容層を有するインクジェット記録用シートにおいて、原紙の水分が8%であるインクジェット記録用シート。」 本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「原紙」、「押出しコーティング法」、「インク受容層」は、それぞれ、本願発明1における「紙」、「溶融押し出し法」、「インク吸収層」に相当する。そして、刊行物1発明における「原紙の水分」は本願発明1における「紙の含水率」に相当する。ここで、刊行物1発明における「原紙の水分」は「8%」であるが、この「%」が「重量%」を意味することは、刊行物3の記載事項(3a)に示されるとおり、当該技術分野における技術常識である。さらに、刊行物1発明の「インクジェット記録用シート」は「インクジェット記録用紙」とも云えるものであるから、両者は、 「紙の両面をポリエチレン樹脂で溶融押し出し法により塗布されて被覆された支持体の少なくとも一方の側にインク吸収層を有するインクジェット記録用紙。」 で一致し、下記の点で相違する。 (i)紙の含水率が、本願発明1は5重量%以上で7重量%以下であるのに対して、刊行物1発明は8重量%である点。 そこで、上記相違点(i)について検討する。 刊行物3の記載事項(3c)に示されるとおり、紙は、周囲の相対湿度の変化に伴い水分を放出したり吸湿したりするものであって、ある範囲の含水率を示すものであるところ、例えば、刊行物2の記載事項(2b)、(2c)や刊行物3の記載事項(3b)、(3d)に記載されているように、含水率が5重量%以上で7重量%以下の紙は、日常、普通に用いられているものである。 してみれば、刊行物1発明において、紙の含水率を8%とする代わりに、5重量%以上で7重量%以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことであると認められる。 そして、インクジェット記録用紙において、印字後のカールや滲みを少なくすることは当業者にとって当然配慮すべき事項であり、特に、このカールは、ポリエチレン樹脂の種類や被覆厚、インク受理層の構成材料や層厚、バック層の有無やその種類等により様々に変化するものではあるが、本願明細書に記載された条件において、紙の含水率を5重量%以上で7重量%以下とした場合に印字後のカールや滲みが許容範囲に入ることを確認する程度のことは当業者が必要に応じて適宜為し得たことにすぎない。 さらに、本願明細書を検討しても、紙の含水率が少ないほど印字後のカールや滲みが少なくなることは確認できるものの、紙の含水率を5重量%以上で7重量%以下としたことにより格別顕著な効果が奏されるものとは認められず、特に、紙の含水率を5重量%以上で7重量%以下としたことによる効果が、紙の含水率が8%である場合と比較して格別顕著なものであるとも認められない。 よって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2及び3に記載の如き本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 なお、請求人は、本願発明1で特定された紙の含水率は、溶融押し出し法で製造されたポリエチレン樹脂で被覆した紙支持体の含水率であり、水の沸点をはるかに超える溶融ポリエチレン樹脂と紙が接触するため、紙中の水分の一部が蒸発するため、普通に日常用いられる紙の含水率と同様に考えることはできない旨、主張している。 しかし、本願の請求項1の記載によれば、「紙の含水率が5重量%以上で7重量%以下であること」における「紙」は、請求項1の冒頭に記載された「紙の両面を」の「紙」を受けたものであり、「5重量%以上で7重量%以下」という紙の含水率は、その両面をポリエチレン樹脂で押出コーティング法により塗布されて被覆される前の紙の含水率を謂うものであると認められる。 さらに、本願明細書の記載を検討すると、【0045】?【0047】段落には、ポリオレフィン樹脂で被覆された紙の含水率を本発明の範囲内にするために、一般に抄紙された紙を乾燥時、或いは乾燥後に一定の温度・湿度の条件に一定時間調湿すること、及び、このようにして一定の含水率にされた紙はその後、ポリオレフィン樹脂で被覆されることが記載されており、実施例1について、【0089】段落に「表1に示す含水率の坪量170g/m2の写真用原紙の裏面に押し出し塗布法により密度が0.92の低密度ポリエチレンを30μmの厚さで塗布した。ついで表側にアナターゼ型酸化チタン5.5重量%含有する密度が0.92の低密度ポリエチレンを35μmの厚さで押し出し塗布法で塗布して両面をポリエチレンで被覆した支持体を作製した。」との記載があり、【0102】段落の【表1】には「原紙含水率(%)」の値が記載されている。これらの記載からみて、本願発明1における「紙の含水率」は、その両面をポリエチレン樹脂で押出コーティング法により塗布されて被覆される前の紙の含水率を謂うものであることは明らかである。一方、溶融押し出し法で製造されたポリエチレン樹脂で被覆した紙支持体から、ポリエチレン樹脂をはがして紙の含水率を測定することについては何等の記載もない。 してみれば、請求人の前記主張は根拠のないものである。 さらに、請求人は、インクジェットプリント後のカールや滲みに影響を与えるという事実自体、従来全く認識されていなかった事項であるから、紙の含水率を5重量%以上で7重量%以下とした場合に印字後のカールが抑制できることを確認する程度のことは当業者が必要に応じて適宜為し得たことにすぎないとは言えないこと、及び、本願明細書の表1、表2および表3を検討すれば、紙の含水率が8%の記録用紙に対して本願発明1の範囲にある記録用紙のカールや滲みが優れていることは容易に見て取れる旨、主張している。 しかし、インクジェット記録紙において、カールや保存後の滲みを少なくすることが当業者にとって当然配慮すべき事項であることは上述のとおりであり、また、本願明細書の表1、表2および表3を検討しても、紙の含水率を5重量%以上で7重量%以下としたことによる格別な効果は認められないことも上述のとおりである。 よって、請求人のこの主張も認めることはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、請求項2に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-09-01 |
結審通知日 | 2006-09-12 |
審決日 | 2006-09-25 |
出願番号 | 特願平10-261573 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B41M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤井 勲 |
特許庁審判長 |
岡田 和加子 |
特許庁審判官 |
山口 由木 秋月 美紀子 |
発明の名称 | インクジェット記録用紙 |