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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服2004124 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1147546
審判番号 不服2001-20247  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-11-12 
確定日 2006-11-22 
事件の表示 平成 7年特許願第502593号「リポタンパク質関連ホスホリパーゼA▲下2▼、その阻害剤および診断および治療におけるその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 1月 5日国際公開、WO95/00649、平成 8年 1月30日国内公表、特表平 8-500740〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年6月24日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年6月25日、イギリス、1994年1月11日、イギリス)とする国際出願であって、その請求項1に係る発明は、平成12年12月27日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「LDLがその酸化型に変換される間に、酸化的に修飾されたホスファチジルコリンのsn-2エステルを加水分解してリゾ-ホスファチジルコリンおよび酸化的に修飾された脂肪酸を与える能力を有し、配列番号:1、2、3、4、10および11からなる群より選択される1またはそれ以上の部分ペプチド配列を含み、45?47kDaの分子量を有することにより特徴づけられる精製形態の酵素リポタンパク質関連PLA2」(以下、「本願発明」という。)
2.引用例
これに対して、原審の拒絶の理由で刊行物1として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるThe Journal of Biological Chemistry(1987)Vol.262,No.9,p.4223-4230(以下、「引用例」という。)には、ヒト血漿中LDL由来の血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(以下、「PAF-AH」という。)について記載され、
「最後の2つの精製段階はヘパリン-アガロースカラムクロマトグラフィーとHPLCイオン交換(モノ-Q HR5/5カラム)であった。最終製品のSDS-PAGEパターン(Fig.5)は、より高分子量及びより低分子量の汚染物質の両方がこれらの段階により除去されたので、非変性PAGE後に得られたものより改善された。Lowryらの方法によるヘパリン-アガロースまたはモノ-Q流出物の実際の特異的活性の増加を示すことはできなかった。SDSパターンによって判断すると、特異的活性はヘパリン-アガロース及びモノ-Q段階によって、わずかに増加されただけであった。典型的精製の結果をTable1に要約した。精製された酵素の物理的特徴-PAF-AHの見かけの分子量がSDS-PAGEで決定された。ゲルの銀染色は、見かけの分子量42,700のところに移動した酵素を示した(Fig.5)。Fig.5に示されたゲルの密度スキャンは、酵素調製物は少なくとも85-90%の純度であることを示した。SDSゲルから酵素活性を部分的に回復させることが可能であって0.05%SDS中で泳動され、スライスされ、アセチルヒドロラーゼ活性が試験された。」(第4224頁右欄下から25行?同欄下から3行)と記載され、第4224頁にはTable1としてPAF-AHの精製結果が、第4225頁にはFig.5として精製されたPAF-AHのSDS-PAGEの結果が、それぞれ示されている。
3.対比・判断
そこで、本願発明と引用例の記載を比較すると、上記2.の引用例記載事項によれば、Fig.5に示された少なくとも85-90%の純度とされた分子量42,700の酵素調製物自体は、SDS-PAGEのバンドとして直上の位置にも次に濃いスポットがあり、単一物質とはいえないにしても、スライスされたSDSゲルの中から部分的にSDSを除去することができ、しかもアセチルヒドロラーゼ活性を有する物質が得られたものであるから、引用例には、SDS-PAGEによる見かけの分子量が42,700のPAF-AHが精製形態で単離され、その活性が確認されたことが記載されているといえる。
ところで、本願発明の酵素リポタンパク質関連PLA2(以下、「LP-PLA2」という。)は分子量が45?47kDaであり、引用例の分子量42,700とは若干異なっているが、タンパク質の分子量はその測定方法により得られる値が異なることは当該技術分野の技術常識であり、本願発明における45?47kDaという分子量は純粋な脱グリコシル化タンパク質のレーザー脱着質量分析により得られたものであって、引用例のSDS-PAGE上の相対位置から推定されたPAF-AHの分子量と相違するからといって、両者がタンパク質として異なることを意味することにはならない。
むしろ、本願優先日当時、本願発明に係るLP-PLA2と引用例に記載のPAF-AHが同一の酵素であることは本願明細書にも記載のように技術常識であったといえ(参考文献The Journal of Biological Chemistry(1989)Vol.264,No.10,p.5331-5334)、同一の酵素であるということは、その酵素がLP-PLA2の基質である酸化的に修飾されたホスファチジルコリンに対しても、PAF-AHの基質であるPAFに対しても同様にそのsn-2エステルの加水分解を行えることを意味しているから、PAFに対するアセチルヒドロラーゼ活性が確認されたという上記記載は、同時にLP-PLA2活性を有することが確認されたことに他ならない。
また、本願出願後の知見であるが、ヒト血漿由来のPAF-AHとヒト血漿由来のLP-PLA2は、アミノ酸配列レベルでも同一である(5.で後述する特表平8-504603号公報参照)、即ち、引用例に記載のPAF-AHも配列番号:1?4、10または11で示される部分ペプチド配列を含むものであるといえるから、本願発明は、物質として引用例に記載のものと区別できない。
したがって、本願発明は引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
4.特許法第36条第4項違反について
平成12年12月27日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項10には、以下のとおり記載されている。
「リポタンパク質関連PLA2の阻害剤と医薬上許される担体とからなるアテローム性動脈硬化症の治療用医薬組成物。」
一方、原査定の拒絶の理由は、本願発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものであり、その概要は、出願当初の明細書の記載及び出願時の技術常識から判断して、該阻害剤がアテローム性動脈硬化症の治療用医薬として機能すると推認できないというものであるので、当該医薬発明を当業者が実施をできる程度明確かつ十分に、本願発明の詳細な説明に記載されていないというものである。
ところで、医薬についての用途発明においては、一般に、物質名、化学構造だけからその用途を予測することは困難であるから、出願時の技術常識及び出願当初の明細書に記載された作用の説明等からでは、含有成分がその医薬用途として機能することが推認できない場合には、明細書に有効量、投与方法、製剤化方法が記載されている場合であっても、それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途として使用できるか否かを知ることはできないので、明細書に特定の薬理試験の結果である薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途を裏付ける必要がある。
これを本願明細書についてみると、第1頁14行?同頁21行に「LP-PLA2作用のこれらの生成物は共に、循環している単球に対する強力な化学誘因物質である。酵素はそれ自体で、動脈内においてコレステロールエステルで満たされた細胞の蓄積を引き起こし、アテローム性動脈硬化症の初期段階と関連する特徴的な「脂肪条(fatty streak)」を起こすと考えられている。従って、LP-PLA2酵素の阻害により(リゾホスファチジルコリンの形成の阻害により)この脂肪条の形成の阻止が期待され、従ってアテローム性動脈硬化症の治療に有用である。」記載されているだけである。しかも、第3頁3行?第4頁10行には、阻害剤の有効量、投与方法、製剤化方法が記載されているにとどまり、薬理試験方法及び薬理データについては何ら具体的に記載されていないので、出願時の技術常識を考慮しても、LP-PLA2の阻害剤を医薬用途に使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。
なお、本件請求人は、平成13年2月13日付けで提出した上申書において、阻害剤のうちの特定の物質についてその薬理作用が明らかになった(本願出願後6年経過後)旨主張しているが、医薬に係る発明の詳細な説明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていることの判断は、出願時の技術常識を前提としている。
出願後に提出された上申書によって当該薬理効果が明らかにされたとしても、発明の詳細な説明が、この請求項に記載の発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認めることができない。(東京高裁平成8年(行ケ)第201号判決(H10.10.30)参照)
以上の理由により、本願発明の詳細な説明は、請求項10に記載の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められず、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることはできない。
5.付記
本件請求人は、当審からの平成17年10月7日付け審尋書に対して、平成18年3月28日付けで回答書を提出し、本願請求項1を「配列番号:9に示されるアミノ酸配列を有する少なくとも純度95%のLP-PLA2」と限定する補正案を示しており、以下、補正案の請求項1に記載された発明(以下、「補正案発明」という。)について検討する。

(i)優先権主張について
本願は、平成6年6月24日を国際出願日とする国際出願であって、1993年6月25日付イギリス出願明細書(以下、「第1優先権明細書」という。)、1994年1月11日付イギリス出願明細書(以下、「第2優先権明細書」という。)を基礎として、パリ条約による優先権主張を伴うものである。
一方、パリ条約に基づく優先権の利益を享受できるためには、その優先権明細書に同一の発明が記載されていたことが必要であり、以下、この点について検討する。
第1及び第2優先権明細書には、ヒト血漿LDLから酵素を精製した後、タンパク質の切断方法で切断して、これら断片から得られた配列番号1?4で示された部分アミノ酸配列(合計113アミノ酸)が、酵素断片の1次構造情報として記載されているが、精製した酵素のN末端が塞がれているため、タンパク質のアミノ酸配列決定ができなかったことが記載されており、配列番号9で示された441アミノ酸からなる全長のアミノ酸配列は記載されていない。精製した酵素から直接タンパク質のアミノ酸配列が決定ができなかったことから、国際出願時の本願明細書では、さらに、ヒトcDNAライブラリーからの3個のEST(配列番号5?7)が配列番号1?3のアミノ酸配列と整合性を有することを見つけ、配列番号7で示されるESTの由来であるT細胞リンパ腫ライブラリーから、酵素をコードする核酸をクローニングにし、全長ヌクレオチド配列を決定して、全長の推定アミノ酸配列を得たことが記載されている。
即ち、配列番号9で示される全長ヌクレオチド配列、推定アミノ酸配列及び核酸のクローニングの途中で得られたフラグメントに対応する配列番号5?8で表されるヌクレオチド配列については、いずれの優先権明細書にも記載されておらず、フラグメントを含めた核酸分子に関しての記載がなされたのは本願の出願時であり。核酸分子を技術的特徴とする発明は、いずれの優先権明細書にも開示されていないことは明らかである。
また上述の如く、第1及び第2優先権明細書には、LP-PLA2の酵素自体についても、ヒト血漿から分離精製されたことと共に、その部分アミノ酸配列として配列番号1?4で示されたアミノ酸配列を含むことが記載されているに留まり、特にN末端アミノ酸配列の決定には全核酸のクローニングが必須であったことがうかがえるから、配列番号9で示された441アミノ酸からなる全長のアミノ酸配列についての配列情報は、開示されていないというべきである。
ところで、優先権明細書に記載の精製された酵素が、本願出願時に記載されたT細胞リンパ腫cDNAライブラリーをスクリーニングして得られた核酸によりコードされる配列番号9で示された推定アミノ酸配列と全く同一のアミノ酸配列を有している可能性があるかどうかを検討すると、そもそも、前者の酵素の部分アミノ酸配列である配列番号3を後者の配列番号9のアミノ酸配列が有していないことからみて、同一アミノ酸配列であることはあり得ない。また、前者の酵素はヒト血漿中のLDL由来であるのに対して、後者のアミノ酸配列をコードする核酸分子はTリンパ腫細胞由来で由来が異なっており、請求人自ら、平成18年3月28日付けで提出された回答書で主張する如く、同じ生物種の同じ活性を有する酵素であっても、多型であったり、異なる一次構造を有することがあるという技術常識を考慮すれば、両者のアミノ酸配列が異なることはむしろ自然である。
してみると、配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質についても核酸分子と同様に優先権明細書に開示されていないので、補正案発明は第1及び第2の優先権の利益は享受できず、補正案発明については、現実の出願日である平成6年6月24日が新規性進歩性の判断の基準日となる。
(ii)補正案発明について
本願の出願日前の1993年10月6日をパリ条約の優先日とする国際出願である他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平7-511017号(特表平8-504603号)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)及び優先権主張の基礎となる米国出願第08/133,803号の出願の明細書には、ヒト血漿からPAF-AHを精製し、N末端のアミノ酸配列を決定して縮重PCRプライマーを作成し、これを用いて末梢血単球由来マクロファージのcDNAライブラリーをスクリーニングして全長の血漿PAF-AHcDNAクローンを得たこと、これを発現させて組換えPAF-AHが実際にPAF-AH活性を有することを確認したことが記載され、441アミノ酸からなるPAF-AHの全長のアミノ酸配列及びこれをコードするヌクレオチド配列が記載されている。
そして、本願の配列番号9で示された配列と先願明細書の全長のPAF-AHの配列を比較すると、ヌクレオチドで1つ相違し、そのため379番目のアミノ酸がAlaからValに変化し、アミノ酸でも1つ相違しているが、酵素等のタンパク質の活性に変化を与えない部分のヌクレオチドあるいはアミノ酸の数個の欠失、置換、付加による変異に基づく多型がしばしば観察されることは、請求人自身が認めることは上述のとおりである。してみれば、先願明細書にはPAF-AHの全長の配列が記載されている以上、上記ヌクレオチドもしくはアミノ酸変異程度にしかならない配列番号9で示されたアミノ酸配列及び同ヌクレオチド配列についても、実質的に記載されているに等しいといえる。
したがって、補正案発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、このような手続補正の機会を与える必要は見い出せない。
6.むすび
以上のとおりであるから、請求項1及び請求項10以外の他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-20 
結審通知日 2006-06-27 
審決日 2006-07-13 
出願番号 特願平7-502593
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12N)
P 1 8・ 534- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鵜飼 健六笠 紀子  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 鈴木 恵理子
長井 啓子
発明の名称 リポタンパク質関連ホスホリパーゼA▲下2▼、その阻害剤および診断および治療におけるその使用  
代理人 田中 光雄  
代理人 青山 葆  

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