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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1147570
審判番号 不服2004-18280  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-07-11 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-03 
確定日 2006-11-20 
事件の表示 特願2001-396265「発光ダイオード」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月11日出願公開、特開2003-197971〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年12月27日の出願であって、平成16年7月30日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年9月3日付で拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年9月27日付で特許法第17条の2第1項第3号の規定による手続補正がなされたものである。

2.平成16年9月27日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年9月27日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を下記のように補正することを含むものである。
「【請求項1】基体の一面上にLEDチップを配置すると共に、該LEDチップを透光性を備えた無機材料であるゾルゲルガラスより成るコーティング材で被覆し、さらに、上記コーティング材の表面に、上記LEDチップの発光を所定波長の光に変換する波長変換用の蛍光体層を被着形成して成り、上記ゾルゲルガラスより成るコーティング材は、一般式M(OR)n(M:金属元素、R:アルキル基、n:金属の酸化数)の金属有機化合物、水、メタノールやDMF(ヂメチルフォルムアミド)より成る溶媒、アンモニアより成る加水分解・重合反応の調整剤を調合したゾル溶液を加水分解、重合反応させてガラス状の無機質膜形成を生じさせて形成することを特徴とする発光ダイオード。」

上記補正は、補正前の請求項1の「ゾルゲルガラスより成るコーティング材」をさらに具体的に限定しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(2)刊行物記載の発明
原審における拒絶査定時に周知例として引用した刊行物1:特開2000-349346号公報には、半導体発光装置に関して、下記の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体発光素子からの発光を蛍光物質によって波長変換させて装置外部に取り出す半導体発光装置に関し、詳細には色むら等を良好に防止できる半導体発光装置に属する。
・・・
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明による半導体発光装置は、基体(3,4,11)と、基体(3,4,11)に固着された半導体発光素子(2)と、半導体発光素子(2)を被覆するコーティング材(10)とを備えている。コーティング材(10)は、金属アルコキシド又はセラミック前駆体ポリマー等によって形成されたポリメタロキサン又はセラミックである。コーティング材(10)は蛍光物質(13)が配合された表面層(10a)と、表面層(10a)の下方に形成され且つ蛍光物質(13)を含有しないか又は表面層(10a)より蛍光物質(13)の含有量が少ない内部層(10b)とを備えている。略均一な厚さを有する表面層(10a)は半導体発光素子(2)から離間して上方に形成されるので、半導体発光装置(2)の点灯時の色むらを防止することができる。また、有機樹脂と異なり、紫外線、近紫外線などの波長の短い光が照射されても、ポリメタロキサン又はセラミックから形成されたコーティング材(10)は劣化しない。
【0009】本発明の実施の形態では、コーティング材(10)は高純度のガラス状であるため、硼素や酸化鉛等を含む低融点ガラス等に比べて極めて不純物が少なく、半導体発光素子(2)の特性に悪影響を及ぼさない。また、コーティング材(10)は耐熱性の高いガラス状であるため、黄変等による光透過性の低下を生じない。基体(3,4,11)に半導体発光素子(2)を固着し、金属アルコキシドより得られたポリメタロキサン・ゾル又はセラミック前駆体を塗布した後、乾燥及び熱処理を施してコーティング材(10)が形成され、表面層(10a)はコーティング材(10)の上部に半導体発光素子(2)から離間して形成される。コーティング材(10)は、金属アルコキシドのゾル・ゲル法又はセラミック前駆体の熱処理により形成されるので、低温でガラス化して透明な非晶質金属酸化物を得ることができる。
【0010】ゾル・ゲル法では、有機金属化合物の一種である金属アルコキシドを出発物質とし、その溶液を加水分解、縮重合させゾルを形成した後、空気中の水分などによって更に反応を進めてゲル化させ、固体の金属酸化物が得られる。例えば、シリカガラス膜の形成過程では、珪素の金属アルコキシドであるテトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)を用いる場合、テトラエトキシシランをアルコール等の溶媒に溶解し、酸などの触媒と少量の水を加えて十分に混合することにより下記の反応式に従い液状のポリシロキサン・ゾルが形成される。
加水分解反応: Si(OC2H5)4+4H2O→Si(OH)4+4C2H5OH
脱水縮合反応: nSi(OH)4→[SiO2]n+2nH2O
【0011】ポリシロキサン・ゾルは、上記の反応によって生成されたSiO2(シリカ)が何重にも結合してポリマーを構成し、この微粒子がアルコール溶液中に分散する状態である。このポリシロキサン・ゾルを基体(3,4,11)に塗布して乾燥させると、溶媒や反応によって生じたエチルアルコール(C2H5OH)と水の蒸発に伴いゾルの体積が収縮し、その結果、隣り合うポリマー末端の残留OH基同士が脱水縮合反応を起こして結合し、塗膜はゲル(固化体)となる。更に、得られたゲル被膜を焼成して、ポリシロキサン粒子同士の結合を強化すると高強度のゲル被膜を得ることができる。
【0013】第一の外部端子(3)又は第二の外部端子(4)の一方の端部に凹部(3a)が形成され、半導体発光素子(2)はコーティング材(10)と共に凹部(3a)の底部(3b)に固着される。金属アルコキシドは単一金属アルコキシド、二金属アルコキシド又は多金属アルコキシドから選択された1種又は2種以上である。セラミック前駆体ポリマーは例えばペルヒドロポリシラザンである。コーティング材(10)は、金属アルコキシド又はセラミック前駆体ポリマーを半導体発光素子(2)の融点よりも低い温度で焼成して形成される。コーティング材(10)は、メタロキサン(metaloxane)結合を主体とする透明な固形ガラス層である。金属アルコキシドは、一般式:M(OR)nで表され、Mは珪素(Si)、アルミニウム(Al)又はジルコニウム(Zr)又はチタン(Ti)から成る群から選ばれた少なくとも一種の金属、Rは同種又は異種の炭素数1?22の飽和又は不飽和脂肪属炭化水素基、nは金属の原子価に相当する数をいう。」

上記によれば、刊行物1には、
「基体(3,4,11)に固着された半導体発光素子(2)と、該半導体発光素子(2)を被覆するコーティング材(10)とを備え、該コーティング材(10)は、一般式:M(OR)n(Mは金属、Rは炭化水素基、nは金属の原子価)で表される金属アルコキシドを出発物質とし、アルコール等の溶媒に溶解し、酸などの触媒と少量の水を加えて十分に混合することにより、その溶液を加水分解、縮重合させゾルを形成した後、空気中の水分などによって更に反応を進めてゲル化させ、ガラス状としたものであって、前記コーティング材(10)は蛍光物質(13)が配合された表面層(10a)と、表面層(10a)の下方に形成され且つ蛍光物質(13)を含有しない内部層(10b)とを備えてなり、前記半導体発光素子からの発光を前記蛍光物質によって波長変換させて装置外部に取り出す半導体発光装置」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「半導体発光素子(2)」および「半導体発光装置」は、それぞれ、本願補正発明の「LEDチップ」および「発光ダイオード」に相当する。
(イ)引用発明の「コーティング材(10)」の「蛍光物質(13)が配合された表面層(10a)」は、本願補正発明の「コーティング材の表面に被着形成された蛍光体層」に相当することは明らかである。
(ウ)引用発明の「蛍光物質(13)を含有しない内部層(10b)」は、「半導体発光素子(2)を被覆するコーティング材(10)」の表面層(10a)の下方に形成された「ゾルをゲル化させ、ガラス状としたもの」であるから、本願補正発明の「透光性を備えた無機材料であるゾルゲルガラス」に相当する。
(エ)引用発明の「金属アルコキシド」および「アルコール」は、それぞれ、本願補正発明の「金属有機化合物」および「メタノール」に相当する。

よって、両者は、
「基体の一面上にLEDチップを配置すると共に、該LEDチップを透光性を備えた無機材料であるゾルゲルガラスより成るコーティング材で被覆し、さらに、上記コーティング材の表面に、上記LEDチップの発光を所定波長の光に変換する波長変換用の蛍光体層を被着形成して成り、上記ゾルゲルガラスより成るコーティング材は、一般式M(OR)n(M:金属元素、R:アルキル基、n:金属の酸化数)の金属有機化合物、水、メタノールより成る溶媒等を調合したゾル溶液を加水分解・重合反応させてガラス状の無機質膜形成を生じさせて形成する発光ダイオード」である点で一致し、下記の点で相違する。

相違点:
本願補正発明では、「アンモニアより成る加水分解・重合反応の調整剤」を調合したのに対して、引用発明は、酸などを触媒として加えた点。

(4)判断
上記相違点につき検討する。
一般に、光学用ガラス等に用いるガラスの製法としてゾルゲル法は周知であり、その加水分解、縮重合の触媒としてアンモニアや酸を用いることが周知(例えば、特開平1-176234号公報(2頁左下欄17行?右下欄1行参照。)及び特開平2-311321号公報(4頁右下欄3?8行参照。)等参照。)である。
してみると、引用発明のゾルゲルガラスの形成における触媒として、酸の代わりに周知のアンモニアを用い、本願補正発明の調整剤とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願補正発明の効果は、引用発明および周知技術から予測し得る程度のものである。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年9月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成16年4月27日付手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は次のものである。
「【請求項1】基体の一面上にLEDチップを配置すると共に、該LEDチップを透光性を備えた無機材料であるゾルゲルガラスより成るコーティング材で被覆し、さらに、上記コーティング材の表面に、上記LEDチップの発光を所定波長の光に変換する波長変換用の蛍光体層を被着形成したことを特徴とする発光ダイオード。」(以下、「本願発明」という。)

(2)引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用した、この出願前公知の刊行物1:特開2000-349346号公報には、上記2.(2)刊行物記載の発明で摘記した事項が記載されている。

(3)対比・判断
本願発明は、本願補正発明に比べ、「ゾルゲルガラスより成るコーティング材は、一般式M(OR)n(M:金属元素、R:アルキル基、n:金属の酸化数)の金属有機化合物、水、メタノールやDMF(ヂメチルフォルムアミド)より成る溶媒、アンモニアより成る加水分解・重合反応の調整剤を調合したゾル溶液を加水分解、重合反応させてガラス状の無機質膜形成を生じさせて形成する」という発明の特定事項を欠くものである。
してみると、本願発明は、上記2.(3)対比の記載から明らかなように、刊行物1に実質的に全て記載された発明である。

なお、原査定の拒絶の理由は、特許法第29条第1項第3号に該当するというものではないが、審判請求人は、審判請求書において、本願発明と上記引用例とを対比し、容易性のみならず、同一性についても検討していることは明らかである。

念のため、原審の拒絶理由に引用した刊行物2:特開平11-31845号公報を主引例として検討するに、刊行物2には、「マウント・リードのカップ内にLEDチップを配置し、該LEDチップ上にSiO2、Al2O3、MSiO3などの透光性無機部材を主材料とする接着剤を塗布してLEDチップを被覆するコーティング部となし、さらに、前記LEDチップの発光を変換する蛍光体を前記接着剤の表面に付着してなる発光ダイオード。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
そこで本願発明と引用発明2とを対比すると、両者の相違点は、実質上、透光性無機部材を主材料とする接着剤(本願発明の「透光性を備えた無機材料であるガラス」に相当する。)が、本願発明では、ゾルゲルガラスに限定されている点のみである。
してみると、本願発明は、引用発明2の透光性無機部材を主材料とする接着剤に代え、上記刊行物1および周知例に示されたように周知のゾルゲルガラスを採用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、いずれにしても、特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-06 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-27 
出願番号 特願2001-396265(P2001-396265)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 稲積 義登
吉田 禎治
発明の名称 発光ダイオード  
代理人 奥田 弘之  

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