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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1147905
審判番号 不服2004-20727  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-05-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-07 
確定日 2006-12-01 
事件の表示 平成 6年特許願第279974号「放射線遮蔽材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 5月17日出願公開、特開平 8-122492〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年10月19日の出願であって、平成16年9月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成16年10月7日に審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成16年3月25日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)
「粒径50μm以下の放射線吸収率の高い材料の粉末90?99重量%と、樹脂剤と、当該樹脂剤に可塑性を持たせるための可塑剤との混合物からなり、前記粉末粒子が可塑性を持った前記樹脂剤に包囲され、材料全体が可塑性を有することを特徴とする放射線遮蔽材。」

3.引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-71996号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、「放射線防禦材用重金属系組成物」の発明に関して以下の事項が記載されている。
<記載事項1>
「以上の説明から明らかなように本発明の目的は、放射線防禦材への加工が容易で、該加工後の取り扱いの容易な放射線防禦材用重金属系組成物を提供することである。他の目的は、高比重の金属鉛の使用量を節約しても十分な鉛当量が得られる放射線防禦材用の該組成物を提供することである。」(第2ページ右上欄第1?7行)
<記載事項2>
「 本発明は、下記(1)の主要構成と(2)?(6)の実施態様的構成を有する。
(1) 元素の周期律表における元素の50番以上の金属若しくはその化合物の1または2以上を有効成分とし成形品の鉛当量が0.3以上となる如く配合してなる放射線防禦材用重金属系組成物。
(2) 元素の周期律表における元素の50番以上の金属が、Sn,Sb,Ba,Ta,W,PbまたはBiである前記第(1)項に記載の組成物。
(3) 硫酸バリウムおよび鉛粉末を有効成分とする前記第(1)項に記載の組成物。
(4) シラン系カツプリング剤を配合してなる前記第(1)項に記載の組成物。
(5)熱可塑性樹脂を配合してなる前記(1)項に記載の組成物。
(6)熱可塑性樹脂が、塩化ビニル樹脂(中略)から選ばれる1以上のものである第(1)項に記載の組成物。
本発明の構成と効果につき以下に詳述する。
本発明の組成物の必須成分は、元素の周期律表における元素の(以下原子番号)50番以上の金属若しくはその化合物の1または2以上である。原子番号50番以上の金属元素で、現在工業的経済的に利用し易いものとしてはSn,Sb,Ba,Ta,W,PbまたはBiが挙げられる。しかしながら勿論他の適格の金属元素の利用を排除するものではない。これらの金属元素は、金属自身として若しくはその化合物のいづれも利用できる。その形態は、微粒子から微粉末にわたる粉末状が好ましいが、適当な場合には箔状、線状若しくは箔片状、線片状、液状(流状化合物の場合)またはゲル状(懸濁物の場合)である。」(第2ページ右上欄第8行?同左下欄第20行)
<記載事項3>
「本発明に係る原子番号50番以上の金属若しくはその化合物を粉末状で使用する場合(註この態様が最も実用的である)その粒度は、好ましくは、全量100メツシユ(タイラー)パスで70重量%以上200メツシユパスであり、300メツシユパス50重量%以上のように極微粉末の多い粒度分布を持つ粉末であつても差支えない。」(第2右下欄第10?16行)
<記載事項4>
「本発明の組成物を用いて、構築物若しくは車輌、船舶または航空機の内装用の若しくは移動可能な遮蔽材料を製造する目的には、各種の熱可塑性樹脂例えば、塩化ビニル樹脂、(中略)ポリカーボネート樹脂等を必要な助剤と共に本発明の組成物に配合するのが好ましい。それらの助剤とは、使用される樹脂の特性に応じて、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属石けん類、エポキシ化合物、顔料、充填材等であり、必要に応じて可塑剤である。その他、本発明の組成物において上述のように熱可塑樹脂を配合する場合は、該樹脂と重金属(若しくはその化合物)との混合分散後の結合性を強化するために組成物に対して1?2重量%のシランカツプリング剤たとえば(中略)を配合することができかつ好ましい。上述の各配合成分の混合方法ならびに混合順序は特に限定されない。
しかしながら、本発明に係る原子番号50番以上の金属若しくはその化合物は予め調整された熱可塑性樹脂組成およびシランカツプリング材と例えば高速撹拌式混合器中で1?15分のような短時間で混合するのが好ましい実施態様の一つである。熱可塑性樹脂の本発明の組成物中における重量割合は3?30%好ましくは4?10%である。3%未満では2次加工が困難であり、30%を超えると2次加工品の放射線防禦材として性能が不十分となる。」(第3ページ左上欄第18行?同左下欄第10行)
<記載事項5>
「本発明の組成物は、上述のように2次加工の目的に合致して副次的構成々分が配合されているので、例えば、軟質若しくは硬質のシート類、管類、ブロツク類等が、押出成型、射出成型、真空成型若しくは爆発成型等によつて容易に成型できる」第3ページ左下欄第11?15行)
<記載事項6>
「以下実施例によつて本発明を説明する。
対照例
後述第1表のような塩化ビニル樹脂組成物(軟質配合)32.37Kgにバライタ(硫酸バリウム)粉末120Kgを混合して熱ロールで練り押出成形して厚み1.2mmのシートにした。このものの比重は3.0であり、JISZ4501X線防護用品類の鉛当量試験方法に準じて透過X線量を測定して求めた鉛当量は0.17であつた。」(第3ページ右下欄第5?13行)
<記載事項7>
「実施例 1?5
第1表に示すように対照例1の組成物に所定量の鉛粉末を追加した以外は同様に実施した。夫々0.3以上の鉛当量が得られ夫々、軟質塩化ビニル樹脂シートとして必要な強度を保持していた。鉛粉末の添加量は、すべて同時に配合されているバライタ量と同量(同重量)以上であるのに、厚さ1.2?1.55mm程度のシートに成形できることは驚くべきことである。
また、これらのシートの重量は100cm2(10cm×10cm)当り53g?72.1gで同一面積の鉛板にするとその厚み(比重11.34として)は0.047?0.064mmとなるが、そのような鉛板は、軟弱で放射線防禦用資材としての取り扱いに耐えないから、本発明の実施各例に係るシートの有用性は明白である。」(第4ページ左上欄第3?18行)
<記載事項8>


註 イ:三井神岡、ロ三菱細倉、ハ三井竹原
※:10cm×10cm当り、a:ジオクチルフタレート、b:ジオクチルアジベート
c: 、d: 、e: 、f:炭酸カルシウム粉末」(第4ページ左下欄第1行?同右下欄第6行)

そして、第1表において、
(1)バライタ(硫酸バリウム)及びPbは、いずれも重金属系であることは明らかであり、また、粉末である(記載事項6,7)。そして、「合計量」に対する、「バライタ」及び「Pb」の重量割合からみて、第1表の「重金属系 %」は、硫酸バリウムとPbからなる重金属系の重量%を意味することは明らかである。
(2)実施例1?5で用いられる「DOPa」及び「DOAb」は、第1表の註も参照すると、それぞれ「ジオクチルフタレート」及び「ジオクチルアジベート」である。

したがって、上記記載事項1乃至8に基づけば、引用刊行物1には、
「硫酸バリウム粉末とPb粉末からなる重金属系の粉末88.1?90.9重量%と、塩ビ樹脂と、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジベートとが配合された組成物からなる軟質塩化ビニル樹脂シートの放射線防禦材。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

4.対比
本願発明と引用発明とを比較する。
(1)引用発明の「硫酸バリウム粉末とPb粉末からなる重金属系の粉末」は、本願発明の「放射線吸収率の高い材料の粉末」に相当し、以下同様に、「塩ビ樹脂」は「樹脂剤」に、「配合された組成物」は「混合物」に、「軟質塩化ビニル樹脂シートの放射線防禦材」は「放射線遮蔽材」相当する。
(2)引用発明の「ジオクチルフタレート」(フタル酸ジオクチル)、「ジオクチルアジベート」(アジピン酸ジオクチル)は、樹脂の可塑剤として用いられることは技術常識であり(「化学大辞典」、化学大辞典編集委員会編、共立出版株式会社発行、昭和38年7月1日)、また、引用刊行物1には、放射線防禦材用重金属系組成物に、必要に応じて可塑剤を配合することも記載されているので(記載事項4)、引用発明の「ジオクチルフタレート、ジオクチルアジベート」は、本願発明の「樹脂剤に可塑性を持たせるための可塑剤」に相当する。

したがって、両者は、
「放射線吸収率の高い材料の粉末と、樹脂剤と、当該樹脂剤に可塑性を持たせるための可塑剤との混合物からなることを特徴とする放射線遮蔽材。」の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
放射線吸収率の高い材料の粉末が、本願発明は、「粒径50μm以下」であるのに対して、引用発明は、そのように限定されていない点。
[相違点2]
放射線遮蔽材に対する放射線吸収率の高い材料の粉末の混合割合が、本願発明は、「90?99重量%」であるのに対して、引用発明は、「88.1?90.9重量%」である点。
[相違点3]
本願発明は、「粉末粒子が可塑性を持った樹脂剤に包囲され、材料全体が可塑性を有する」のに対して、引用発明は、そのように限定されていない点。

5.当審の判断
相違点3,相違点1,相違点2の順に検討する。

(1)相違点3
引用発明の「軟質塩化ビニル樹脂シート」は、硫酸バリウム粉末とPb粉末からなる重金属系の粉末88.1?90.9重量%と、塩ビ樹脂が混合分散し、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジベートの可塑剤が配合された組成物からなる軟質塩化ビニル樹脂シートである。
したがって、引用発明の「硫酸バリウム粉末とPb粉末からなる重金属系の粉末」(放射線吸収率の高い材料の粉末)は、「ジオクチルフタレート、ジオクチルアジベート」の可塑剤が配合された塩ビ樹脂(樹脂剤)に包囲されていることは明らかであり、また、その結果、引用発明の「軟質塩化ビニル樹脂シートの放射線防禦材」(放射線遮蔽材)は、「軟質」との規定からも分かるように、本願発明のように、「材料全体が可塑性を有する」といえる。
よって、相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、格別なものではない。

(2)相違点1
本願明細書には、
「【作用】
本発明の放射線遮蔽材においては、放射線吸収率の高い材料を粉末とし、この粉末を樹脂剤及び樹脂剤に可塑性を持たせるための可塑剤との混合物とすることにより、前記粉末の各粒子が可塑性を持った樹脂剤に包囲された状態となるので、材料全体が可塑性を有している。」(段落【0012】)
「放射線吸収率の高い材料の粉末は、その粒径を50μm以下とする。かかる粒径とすることによって、粉末粒子が樹脂剤中に分散して材料全体の可塑性を保持することが容易となり、取り扱い上における亀裂発生等の問題も無くなり、信頼性が一層向上するからである。」(段落【0018】)と記載されている。
これらの記載によれば、本願明細書には、放射線吸収率の高い材料の粉末の粒径を50μm以下とすることにより、上記粉末が樹脂剤中に分散して材料全体の可塑性を保持することが容易となる点について記載されている。

しかるに、
ア.放射線シールド微粉末(放射線吸収率の高い材料の粉末)を樹脂中に含む放射線シールド材(放射線遮蔽材)において、放射線シールド微粉末の粒径を1?50ミクロンとすることは、周知技術である〔特開平6-249998号公報(請求項1)〕。
イ.引用発明においても、相違点3について検討したように、可塑剤が配合された塩ビ樹脂(樹脂剤)に包囲され、引用発明の「軟質塩化ビニル樹脂シートの放射線防禦材」(放射線遮蔽材)は、材料全体が可塑性を有する。 したがって、引用発明は、放射線吸収率の高い材料の粉末が樹脂剤中に相違点1に係る本願発明の効果は格別なものとはいえない。
ウ.本願明細書の記載からみて、放射線吸収率の高い材料の粉末の粒径を50μm以下と規定したことに、臨界的な意義があるとまではいえない。
エ.審判請求書の参考資料として提出した実験結果に基づく請求人の主張の採否について検討するに、その実験結果は、タングステン粉末の最大粒径が、5μm、28μm、45μm、55μm、65μmにおけるものであり、一方、本願明細書には、平均粒径3μmの実施例が記載されるのみである。 したがって、上記実験結果は、本願明細書の記載された実施例に基づかないものであり、請求人の主張は、採用できない。

以上ア.?エ.で検討したことから、本願発明のように、放射線吸収率の高い材料の粉末を「粒径50μm以下」とすることは、該粉末が混合される樹脂剤の粘度、該樹脂剤中の上記粉末の分散性等を考慮して、当業者が、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に想到し得る事項である。

したがって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、容易に想到し得る事項である。

(3)相違点2
引用刊行物1には、「熱可塑性樹脂の本発明の組成物中における重量割合は3?30%好ましくは4?10%である。3%未満では2次加工が困難であり、30%を超えると2次加工品の放射線防禦材として性能が不十分となる。」と記載され(記載事項4)、換言すると、放射線遮蔽材に対する放射線吸収率の高い材料の粉末の混合割合が、本願発明の「90?99重量%」と相当程度重複する70?97%好ましくは90?96%である点が記載されている。
してみると、上記混合割合を、引用発明の「88.1?90.9重量%」から本願発明の「90?99重量%」とすることは、当業者が適宜に変更し得る設計事項である。
したがって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、格別なものではない。

また、本願発明の効果は、引用刊行物1の記載及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2006-09-14 
結審通知日 2006-09-26 
審決日 2006-10-12 
出願番号 特願平6-279974
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今浦 陽恵中塚 直樹  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 柏崎 正男
辻 徹二
発明の名称 放射線遮蔽材及びその製造方法  
代理人 山口 幹雄  
代理人 中野 稔  
代理人 二島 英明  

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