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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800029 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23N
管理番号 1148648
審判番号 無効2004-80233  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-04-16 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-11-18 
確定日 2006-11-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3430460号ねぎ類の皮むき装置の特許無効審判事件についてされた平成17年12月27日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の決定(平成18年(行ケ)第10049号及び平成18年(行ケ)第10050号、平成18年5月17日決定言渡)があったので、さらに審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3430460号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 [無効2004-80233において主張された無効理由について]
I.手続の経緯
本件特許第3430460号に係る発明についての出願は、平成12年3月3日に出願した特願2000-59551号の一部を平成13年10月11日に新たな特許出願としたものであって、平成15年5月23日にその発明について特許の設定登録がなされた。
これに対し、平成16年11月18日に請求人西日本搬送機有限会社より無効審判の請求がなされ、平成17年2月7日に被請求人より答弁書が提出され、平成17年8月12日に請求人より弁駁書が提出され、平成17年9月8日に口頭審理、証拠調べ及び検証が行われ、平成17年10月18日に被請求人より答弁書、請求人より上申書が提出され、平成17年12月27日付けで本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの審決がなされた。
本件の被請求人はこれを不服として知的財産高等裁判所に同審決の取消を求める訴を提起した後、本件特許について訂正審判の請求(訂正2006-39061号)をし、平成18年5月17日に同審決を取り消す旨の決定がなされたので、訂正請求のため期間指定通知し、特許法第134条の3第5項の規定により、上記訂正審判の請求書に添付された明細書を援用する訂正の請求がなされたものとみなされ、これに対して平成18年7月21日に請求人より弁駁書が提出されたものである。

II.訂正の可否及び本件特許発明について
被請求人よりなされた訂正の請求の内容は以下のとおりである。
訂正事項1
特許第3430460号発明の明細書中、特許請求の範囲の請求項1において、
「噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が鋭角の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルを備えてなることを特徴とするねぎ類の皮むき装置。」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が30度程度の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルと、ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えており、前記複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置。」と訂正する。

訂正事項2
特許第3430460号発明の明細書中、【課題を解決するための手段】の項において、
「請求項1に記載の発明は、噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が鋭角の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルを備えてなることを特徴とするねぎ類の皮むき装置に関する。」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として、
「請求項1に記載の発明は、噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が30度程度の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルと、ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えており、前記複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置に関する。」と訂正する。

訂正事項3
特許第3430460号発明の明細書中、【発明の効果】の項において、
「以上説明したように、請求項1に記載の発明は、噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が鋭角の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルを備えてなることを特徴とするねぎ類の皮むき装置であるから、噴射液をねぎ類の皮むき必要部位に向けて無駄なく且つ強い圧力で当てることができて、外皮の全てを確実に剥離することができる。」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として、
「以上説明したように、請求項1に記載の発明は、噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が30度程度の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルと、ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えており、前記複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置であるから、噴射液をねぎ類の皮むき必要部位に向けて無駄なく且つ強い圧力で当てることができて、外皮の全てを確実に剥離することができる。」と訂正する。

[訂正事項1について]
訂正事項1は、「放射角が鋭角の扇形状」とあるのを「放射角が30度程度の扇形状」とし、「ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えており、」との構成要件を付加し、「前記複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されている」との構成要件を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項1はいずれも願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内の事項であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

[訂正事項2及び3について]
訂正事項2及び3は、特許請求の範囲の訂正(訂正事項1)に対応してなされたものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。
よって、上記各訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内の事項であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2の規定に適合するので当該訂正を認める。

上記訂正により本件明細書は訂正されたので、本件請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という)は、明細書の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が30度程度の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルと、ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えており、前記複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置。」

III.無効2004-80233号における請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
請求人の主張は、甲第1乃至60号証を提出して、本件特許の請求項1に係る発明は、以下の5つの理由により、特許を受けることができない旨主張するものであるが、その主張の内容は概略以下の通りである。
(1)理由1:本件第3430460号特許(以下、本件特許という)の発明は、福留工業株式会社が本件特許出願前に販売したねぎ皮剥機と同一発明であり、本件特許出願日前に公然知られ及び公然実施されたものであるので、特許法第29条第1項第1号及び第2号に該当する。
(2)理由2:本件特許の審査の段階で引用された実開昭52-151197号公報及び株式会社いけうちカタログ92V(甲第39号証)に基づいて、本件特許発明は当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定に該当する。
(3)理由3:本件特許明細書は、当業者が実施をすることができる程度に記載されていないので、特許法第36条第4項及び6項の規定を満たしていない。
(4)理由4:特許庁における手続きにおいて不正な主張をしているから、本件特許発明は、特許法第29条柱書き及び第2項に違反する。
(5)理由5:特許権者は本件特許発明品を本件特許出願前に公開実演しており、不正な出願であるから、特許法第29条第1項第2号に該当する。

〈証拠方法〉
甲第 1号証:陳述書1(西日本搬送機有限会社)
甲第 2号証:株式会社いけうちカタログ92V(920225‐08)抜粋写し
甲第 3号証:手記(西日本搬送機有限会社代表取締役 藤田直澄)
甲第 4号証:高知県福留工業株式会社の説明
甲第 5号証:松影機工株式会社のノズル等代金の請求書(平成11年6月30日)
甲第 6号証:松影機工株式会社のノズル等代金の請求書(平成11年12月30日)
甲第 7号証:水圧式ネギ洗機(福留式ねぎ皮剥機)平成11年12月29日付納品書(福留工業株式会社)
甲第 8号証:福留式ねぎ皮剥機購入証明書(武市弘)
甲第 9号証:福留式ねぎ皮剥機(説明、見取図、写真)
甲第10号証:準備書面(1) (西日本搬送機有限会社)
甲第11号証:イ号製品カタログ(表)
甲第12号証: 〃 カタログ(裏)
甲第13号証: 〃 ノズルの取付パイプの図面
甲第14号証:イ号製品使用ノズルの説明(カタログ写し)
甲第15号証:いけうちVNPシリーズ拡大詳細斜視説明図
甲第16号証:福留式ねぎ皮剥機開発・実施手順(福留工業株式会社)
甲第17号証:平成11年7月21日付ノズル等代金領収書(松影機工株式会社)
甲第18号証:平成12年1月20日付ノズル等代金領収書(松影機工株式会社)
甲第19号証:ネギ洗い機改造代金請求書(福留工業株式会社)
甲第20号証:ネギ洗い機改造代金領収書(福留工業株式会社)
甲第21号証:帳票(福留工業株式会社)
甲第22号証:エアー式ネギ洗い機(改造前)納品書(福留工業株式会社)
甲第23号証:エアー式ネギ洗い機請求書(福留工業株式会社)
甲第24号証:エアー式ネギ洗い機領収書(福留工業株式会社)
甲第25号証: 〃
甲第26号証:帳票(福留工業株式会社)
甲第27号証:福留式ねぎ皮剥機公然実施証明書(武市様ハウスで働いている方、野本様、横山様)
甲第28号証:コンプレッサレンタル料領収書(株式会社四国建設センター)
甲第29号証: 〃
甲第30号証: 〃
甲第31号証:旭電機製作所の「ネギピカ」についての報告書
甲第32号証:準備書面(2)(株式会社旭電機製作所)(平成16年7月23日)
甲第33号証:証拠申出書(福留壽彦氏を召喚予定)(平成16年7月26日)
甲第34号証:準備書面(3)(株式会社旭電機製作所)(平成16年8月31日)
甲第35号証:陳述書2 (西日本搬送機有限会社)(平成16年8月31日)
甲第36号証:準備書面(2)(西日本搬送機有限会社)(平成16年9月8日)
甲第37号証:決定(松山地方裁判所民事第2部)
甲第38号証:福留式ねぎ皮剥機開発・実施手順(署名)
甲第39号証:株式会社いけうちカタログ92V(920225-08)
甲第40号証:行政文書公開回答書(香川県知事)
1.白鳥町長の承認申請(平成11年12月1日)
2.計画書(ネギピカ全自動洗浄機)
3.竣工届(平成12年3月31日)
甲第41号証:平成11年12月1日前に販売されたネギピカについての調査書 ネギピカAN-500W(与北町近藤農園)
甲第42号証:福留式ねぎ皮剥機に付属されている丸山動噴MS150写真写し
甲第43号証:福留工業株式会社宛丸山動噴の請求書写し
甲第44号証:福留工業株式会社宛三菱モータの請求書写し
甲第45号証:ネギピカAN-500Wについての善通寺市実施計画の変更承認申請等写し
甲第46号証:公開実演時のネギピカAN-500Wパンフレット写し
甲第47号証:ネギピカAN-500W公開実演状況写真(左方から)写し
甲第48号証:ネギピカAN-500W公開実演状況写真(右方から)写し
甲第49号証:ネギピカAN-500W公開実演状況写真(正面から)写し
甲第50号証:平成11年 有光工業株式会社動力噴霧器購入
甲第51号証:平成12年1?2月 ねぎ出荷精算書
甲第52号証:平成12年2月8日 1トンタンク購入
甲第53号証:丸山動力噴霧器(2号機用)の請求書
甲第54号証:VNPノズル(50個)請求書
甲第55号証:ノズル組写真 (斜め配置)
甲第56号証:武市弘 証明書 (平成17年9月16日)
甲第57号証:猪野容守 証言書 (平成17年9月25日)
甲第58号証:丸山動噴1503 証明書 (甲第53号証に代わる)
甲第59号証:香川県行政文書公開回答書(白鳥町JA東讃へのAP-500見積書)
甲第60号証:香川県行政文書公開回答書(善通寺市 1.承認申請 2.計画書 3.見積書 4.竣工届)

上記甲各号証のうち、甲第1から41号証は審判請求書と同時に提出され、甲第42から49号証は平成17年8月12日付け弁駁書と同時に提出され、甲第50から55号証は平成17年9月8日付け口頭審理陳述要領書及び同書(補充)と同時に提出され、甲第56から60号証の5は平成17年10月18日付け上申書(2)と同時に提出されたものである。
なお、上記上申書(2)において、請求人は不要と思われる証拠を一掃し、証拠の整理をするとして、甲第1、2、4、7、9?16、19?21、27、31?38、42、43、53、55号証を証拠から除く旨述べている。

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。
(1)福留工業の水圧式ねぎ皮剥機は、本件特許出願前に公然知られたものとも公然実施されたものともいえない。
(2)仮に本件特許発明の出願前にいけうち製ノズルVNPシリーズが存在していた事実があったとしても、本件特許発明は当該ノズルから当業者が容易に想到し得るものではない。
(3)本件特許明細書に記載不備はない。
(4)「不正な主張」を行っていないし、そのような無効理由は存在しない。
(5)公開実演に用いられた装置は本件特許発明品ではなく、公然実施されていない。
(6)放射角が30度のノズルをねぎ類の皮むき装置に用いるノズルとして選択することは容易ではない。
(7)複数の皮むきノズルが、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されることは、無効2004-80233の検甲第1号証、実願昭51-58875号(実開昭52-151197号)のマイクロフィルム、株式会社いけうちカタログ92V(920225-08)、特開平7-265032号公報には開示も示唆もされていない。

IV.当審の判断
1.請求人の主張(1)について
(1)福留工業株式会社が武市弘氏に販売したねぎ皮剥機(以下、「福留式ねぎ皮剥機」という)の構造について
平成17年9月8日に行った検証によれば、福留式ねぎ皮剥機(検甲第1号証)には、「いけうち4043」と刻印されたノズルが複数個設けられており(検証項目s、v)、噴射口の穴を通って溝が設けられており(検証項目u)、そのノズルからはねぎに向かって水が出るようになっており(検証項目d、e、w)、さらにノズルから噴射された水は上から見て鋭角的に広がり、横から見ると薄い形状になるものである。
また、ノズル群の左奥に一対の無端ベルトからなるねぎの根の部分を把持する左コンベアがある(検証項目e)。
福留式ねぎ皮剥機の本体に取り付けられずにあるノズル群(検甲第1号証の2)にも「いけうち4043」と刻印されたノズルが複数個設けられている(検証項目v)。

(2)福留式ねぎ皮剥機の販売及び使用時期について
平成17年9月8日に行った証人武市弘、証人福留寿彦、証人猪野容守の証言によれば、武市証人が平成11年5月に福留工業株式会社にねぎの皮剥機を注文し、当初エアー式のねぎ皮剥機が納入されたが、水圧式に改造することになり、平成11年12月末ごろ水圧式に改造した。その際にノズルとしては検甲第1号証の2が用いられたものと認められる。その後、動噴の交換、受水タンクの交換、給水管の交換が、平成12年1月から2月にかけて行われたものと認められる。
また、武市証人の証言によれば、平成11年12月末のねぎの出荷の休みの期間中に水圧式に改造され、平成12年1月4日の出荷時までには水圧式に改造された福留式ねぎ皮剥機によってねぎを皮剥ぎしていたものと認められるから、その後、動噴、受水タンクや受水管が交換されていたとしても、平成12年1月4日の出荷時までには水を噴射する皮むきノズルを複数備えたねぎの皮むき装置が販売され、使用されていた事実に影響を与えるものではないものと認められる。
そして、そのノズルは、噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成された構造であって、ノズル口から前方に向けて放射角が鋭角の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるものである。
水圧式に改造された福留式ねぎ皮剥機の販売及び使用時期に関し、被請求人は請求書あるいは納品書等の不明瞭な点を上げて、公知日について疑義を主張しているが、請求書あるいは納品書にやや不明瞭な点があるとしても、各証人の証言と矛盾するものではないし、上記証言を覆すような客観的な証拠があるわけでもないから、その主張は採用できない。

(3)本件特許の進歩性について
(ア)検証及び証人の証言によれば、平成12年1月4日のねぎの出荷までには、水圧式に改造された福留式ねぎ皮剥機によってねぎを皮剥ぎしていたものと認められ、その装置は通常の作業場に設置され、ねぎの皮剥作業は何ら秘密にされることなく公然と実施されていたものと認められる。
そして、その当時ねぎ皮剥機に用いられていたノズルは、検甲第1号証の2に係るノズルであるものと認められ、そのノズルは水を噴射するものであり、ノズルの構造は、噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成されており、噴射される水の形状は、ノズル口から前方に向けて放射角が鋭角の扇形状に集中して且つ薄い幅となっているものである。
また、ノズル群の左奥に一対の無端ベルトからなるねぎの根の部分を把持する左コンベアが設けられている。
してみれば、噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が鋭角の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルとねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置は、本件特許の出願日である平成12年3月3日以前に販売され、その装置によってねぎの皮むき作業が公然と実施されていたものであるから、特許出願前に日本国内において公然実施されていた発明であるものと認められる。

(イ)本件特許発明と上記公然実施されていたものと認められる発明とを比較すると、
噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が鋭角の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルとねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置
である点で一致し、下記の点で相違している。

相違点1:前者では、ノズルの放射角が30度程度であるのに対し、後者はノズルの放射角が鋭角ではあるが具体的な角度については不明である点。
相違点2:前者では、複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されているのに対し、後者では、複数の皮むきノズルは、根部搬送ベルト付近に配置されてはいるが、具体的な配置については不明である点。

(ウ)これら相違点について検討する。
相違点1について:
被請求人は実験成績証明書を提出して、ねぎの外皮のみを確実に剥ぐためのノズルの放射角は30度程度に限定されるという結果が得られた旨、主張している。
しかし、上記公然実施されていたものと認められる発明はノズルの放射角が鋭角のものであるし、放射角が鋭角のノズルとしてその角度が30度であるものも甲第39号証の27頁に記載されているように公知の事項である。
被請求人が主張するように放射角が鋭角のノズルには種々のものがあるとしても、それらの中からねぎの皮剥に適したものを選択する際に、取り扱うねぎの種類、水圧、用いるノズルの種類・個数等種々の事項を考慮して適切なノズルを選択することは当業者であれば当然行うべき事項であって、本願出願前に公知となっている甲第39号証にかかるカタログに記載されているノズルの中から放射角が30度のものを選択することは、たとえ被請求人が主張するような効果があるとしても当業者が容易になし得たものというべきである。

相違点2について:
上記公然実施されていたものと認められる発明では、複数個のノズルが根部搬送ベルト付近に配置されてはいるが、具体的な配置については、不明である。
しかし、ねぎの皮を剥ぐ際にノズルから噴出する圧力液をどの方向に噴射するかについて、ねぎの皮は根元から茎の方向に向かって上方に生えていることを考慮すれば、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液を噴射することは当然のことであって、当業者であれば容易になし得ることにすぎない。
また、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置する点について、ねぎの皮を剥ぐには上記したようにねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液を噴射することは当然のことであるから、ノズルを配置する際にねぎの皮を剥ぎ始める箇所では茎部に近い方に配置し、ねぎの皮が剥がれる下流側に行くにしたがって次第に根部に近づくように配置すること、すなわち根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置することは当業者であれば容易になし得る設計事項であるものと認められる。

V.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は、特許出願前に日本国内において公然実施されていた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、請求人が主張する他の理由2ないし5については判断するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。


[無効2005-80240において主張された無効理由について]
I.手続の経緯
本件特許第3430460号に係る発明についての出願は、平成12年3月3日に出願した特願2000-59551号の一部を平成13年10月11日に新たな特許出願としたものであって、平成15年5月23日にその発明について特許の設定登録がなされた。
これに対し、平成17年8月8日に請求人西日本搬送機有限会社より無効審判の請求がなされ、平成17年10月21日に被請求人より答弁書が提出され、平成17年12月27日付けで本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの審決がなされた。
本件の被請求人はこれを不服として知的財産高等裁判所に同審決の取消を求める訴を提起した後、本件特許について訂正審判の請求(訂正2006-39061号)をし、平成18年5月17日に同審決を取り消す旨の決定がなされたので、訂正請求のため期間指定通知し、特許法第134条の3第5項の規定により、上記訂正審判の請求書に添付された明細書を援用する訂正の請求がなされたものとみなされ、これに対して平成18年7月19日に請求人より弁駁書が提出されたものである。

II.訂正の可否及び本件特許発明について
平成18年4月26日付けの訂正は上記したように適法なものと認められるので、本件請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という)は、明細書の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が30度程度の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルと、ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えており、前記複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置。」

III.請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
請求人の主張は、甲第1ないし4号証を提出して、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1及び2号証に基づいて、本件特許発明は当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

〈証拠方法〉
甲第1号証:実願昭51-58875号(実開昭52-151197号公報)のマイクロフィルム
甲第2号証:株式会社いけうちカタログ92V(920225‐09)
甲第3号証:郵政事業庁HP
甲第4号証:特開平7-265032号公報

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。
(1)他の無効審判(無効2004-80233)と本審判の手続きを並行して進行する必要性は認められず、前審判の審決が確定するまで本審判の手続きを中止すべきである。
(2)本件特許発明は、甲第1及び2号証記載の発明から当業者が容易に発明できたものではない。

IV.当審の判断
1.請求人の主張(1)、手続き中止の申立について
本件特許に関して、本件無効審判請求を含め2件の無効審判が同時に継続しているが、一方を中止するよりもむしろ同時に処理することが適切であるものと認められる。また、被請求人に本来不必要な過度の手続き負担を強いるものという主張についても、2件の無効審判の手続きを並行して進めることが片方の無効審判手続きを中止しなければならないほどに被請求人に過度の負担を生じせしめるものとまではいえない。
したがって、本件無効審判の手続きを中止する必要性は認めない。

2.請求人の主張(2)について
(1)甲各号証の記載事項
甲第1号証に係る実願昭51-58875号(実開昭52-151197号公報)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という)及び甲第2号証に係る株式会社いけうちカタログ92V(920225‐09)(以下、「引用文献2」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、引用文献2のカタログには明示的に頒布日は記載されていないが、カタログの表紙の右下部に記載されている「92V」や裏表紙の右下部に記載されている「920225」という記載から1992年(平成4年)に頒布されたものと認められるし、さらに、カタログ裏表紙の会社所在地のリストにおいて、金沢の市外局番が「0762」となっているところ、1997年(平成9年)6月1日より「076」に変更になった事情を考慮すれば(甲第3号証)、それ以前に頒布されたものと認められる。
以上のことから、甲第2号証に係るカタログが本件特許の出願日(平成12年3月3日)以前に物品を販売するためのカタログとして頒布されたものであることは明らかである。

[引用文献1の記載事項]
記載事項a:「ねぎの一端を挟持・搬送手段で挟持して搬送し、土砂等の異物の洗浄と不要な外皮の剥離を行なうねぎ洗浄機」(第1頁第4?6行)

記載事項b:「噴射ノズルからねぎの根元方向に噴出される水によりねぎに付着した土砂等の異物の洗浄と不要な外皮の剥離を行ない・・・」(第2頁第6?8行)

記載事項c:「ねぎ洗浄機で処理されるねぎAはまず供給テーブル1から搬送方向に対してほぼ直角方向に送り込まれ、その先端側の葉部を挟持・搬送ベルト2の間に挟持され、根元側を搬送プーリ3に掛け渡した搬送ベルト4で支持されて搬送方向Bに沿って搬送され、洗浄部5において上下のホッパー6と7に設けられてノズルカバー8aから突出するノズル8により搬送方向に対しほぼ直角方向に噴出される洗浄水の噴射圧により、ねぎAに付着した土砂等の異物の洗浄と不要な外皮の剥離が行なわれる。」(第4頁第12行?第5頁第2行、第1?5図)

[引用文献2の記載事項]
記載事項d:「均等扇形ノズル 【特性】・スプレーパタン全域にわたり均等な流量分布の扇形分布を発生。 ・単位面積あたりの打力が均一。 【主用途】洗浄:自動車、車輌、コンテナ・・・各種容器など。 散布:エッチング液、油、潤滑剤・・・除草剤、水溶液など。 冷却:ガス、煙、熱交換器・・・屋根など。 水幕:防火、消火・・・防臭など。」(第22頁上段右欄)

記載事項e:第22頁上段中央の写真及び下段のノズルの図面には、ノズルの噴射口側端面にはその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成されているノズルが記載されている。

記載事項f:第22頁上段左側の写真及び上段右側のスプレーパターンの流量分布図を参照すると、ノズル口から前方に向けて放射角が扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている。

記載事項g:第23から25頁の表には、ノズルの噴角は115°、100°、90°、80°、65°、50°、40°、25°及び15°と種々のものがあることが記載されている。

3.対比
本件特許発明と引用文献1に記載されたものとを対比すると、
両者は、「ノズル口から前方に向けて複数の皮むきノズルと、ねぎ類を押さえながら搬送する上下一対の搬送ベルトを備えており、前記複数の皮むきノズルはねぎ類の茎部側から根部に向けて圧力液が噴射されるねぎ類の皮むき装置」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明では、ノズルの噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成されており、圧力液の噴射の状況は、放射角が30度程度の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるのに対し、引用文献1では、ノズルの形状及び噴射される液の状態については、特に具体的には記載がなされていない点。

相違点2:本件特許発明では、ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えているのに対し、引用文献1では、ねぎ類を押さえながら搬送する上下一対の搬送ベルトを備えてはいるものの葉部を押さえているものであって、根部を押さえているものではない点。

相違点3:本件特許発明では、複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されているのに対し、引用文献1では、複数の皮むきノズルはねぎ類の茎部側から根部に向けて圧力液が噴射されるように配置されているが、その具体的な配置については異なっている点。

4.当審の判断
(1)相違点1について
引用文献1においては、噴射ノズルからねぎの根元方向に噴出される水により不要な外皮の剥離を行なうことが記載されているが、ノズルの形状や噴射される水の状態については記載がなされていない。
一方、引用文献2には、液体を噴射するノズルであって、その噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成されたノズルが記載されており(記載事項e)、そのノズルから噴射される液体は、ノズル口から前方に向けて放射角が扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっており(記載事項f)、さらに、その放射角は鋭角となるものが記載されている(記載事項g)。
また、ねぎ類の皮むき装置に用いる水を噴射するノズルには、ねぎの葉部から根の方向に向けて圧力水を扇形に拡がるように噴射するものが用いられることは、例えば甲第4号証として示されている特開平7-265032号公報の段落【0017】にも記載されているように本願出願前に周知の技術事項である。
してみれば、ねぎ類の皮むき装置に圧力水を扇形に噴射するノズルを用いることが知られているのであるから、その装置の設計者は当然に公知または周知の圧力水を扇形に噴射するノズルの採用を検討するものと認められる。
また、引用文献2は、株式会社いけうちカタログ92Vの一部分を複写したものであるので、噴射角が30度であるノズルが記載されてはいないが、噴射角が30度であるノズルが上記カタログに記載されていることは無効2004-80233において請求人より甲第39号証として提出された株式会社いけうちカタログ92Vにより明らかである。
そして、引用文献2に記載されているノズルは、洗浄、散布、冷却等種々多様な用途が記載されているように(記載事項d)、特定の用途に特化したノズルではなく、ねぎの皮むき装置に適用することに特段の阻害事由があるものとは認められないから、扇形に水等の液体を噴射するノズルである甲第2号証に記載されているノズルをねぎ類の皮むき装置に用いることに何ら困難性は認められず当業者が容易になし得たことであると認められる。
被請求人が主張するように放射角が鋭角のノズルには種々のものがあるとしても、それらの中からねぎの皮剥に適したものを選択する際に、取り扱うねぎの種類、水圧、用いるノズルの種類・個数等種々の事項を考慮して適切なノズルを選択することは当業者であれば当然行うべき事項であって、本願出願前に公知となっているノズルの中から放射角が30度のものを選択することは、たとえ被請求人が主張するような効果があるとしても当業者が容易になし得たものというべきである。

(2)相違点2について
ねぎを搬送しつつ皮むきをする際にねぎを押さえておく必要があることは当然のことであり、その際に葉部を押さえることに代えて葉部と反対側の茎部あるいは根部を押さえる無端搬送ベルトを設けることは、例えば無効2005-80240の甲第4号証である特開平7-265032号の段落【0025】にも記載されているように周知の事項であり、当業者が容易になし得ることである。

(3)相違点3について
皮むきノズルの配置に関し、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置することは、例えば無効2005-80240の甲第4号証である特開平7-265032号の段落【0019】及び図3にも記載されているように周知の事項であり、当業者が容易になし得ることである。

V.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ねぎ類の皮むき装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が30度程度の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルと、ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えており、前記複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、効率良くねぎ類の外皮をむくことができるねぎ類の皮むき装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のねぎ類の皮むき装置として、例えば、特許第2926231号公報に記載されたものがある。これは、水平に設置された葉部搬送無端ベルトの一側縁に、二つの茎部搬送無端ベルトを両ベルトの中間に空所を置いて面一に配置し、葉部搬送無端ベルトの一側縁の空所に対応する部分の上面に葉部押え無端ベルトを接触配置し、二つの茎部搬送無端ベルトの一方の、葉部搬送無端ベルトの一側縁とは反対側の側縁上面に茎部押え無端ベルトを接触配置し、他方の茎部搬送無端ベルトの、葉部搬送無端ベルトの一側縁とは反対側の側縁上面に茎部押えローラを接触配置し、一方の茎部搬送無端ベルトの、茎部押え無端ベルトの設置位置に対応する部分の上方に不要葉反転ノズルをその圧力液噴射口を茎部押え無端ベルトの方向へ向けて設置し、空所内に葉部搬送無端ベルトの上面の高さ位置の上下に2列の皮むきノズルを葉部搬送無端ベルトの一側縁に沿って、かつ、その圧力液噴射口を一側縁から外方向へむけて並設し、茎部押えローラの近接外側に根切り回転カッターを設け、各無端ベルト、茎部押えローラおよび根切りカッターの駆動手段と、各ノズルへの圧力液供給源と、圧力液供給源を各ノズルに連結する管路系と、噴射圧力液およびむきかす等の回収手段と、駆動手段および圧力液供給源を制御する制御手段とを備えたものである。
【0003】
ところが、これにおいては、葉部搬送無端ベルトで葉部を保持しながら、この葉部搬送無端ベルトの上方から不要葉反転ノズルから圧力液を噴射するようにしているので、ねぎ類の葉部の下側には圧力液が噴出されず、充分に不要葉を除去することができないという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ねぎ類の皮むきを良好に行うことができるねぎ類の皮むき装置を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が30度程度の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルと、ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えており、前記複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置に関する。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るねぎ類の皮むき装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明に係るねぎ類の皮むき装置用に使用されるノズルを示し、(a)はその斜視図、(b)はその断面図、(c)は皮むきノズルの皮むき装置への取付状態を示す正面図、(d)は複数の皮むきノズルを皮むき装置に取り付けたときの配置状態を示す斜視図である。
【0007】
皮むきノズル5は、図1(a)(b)(c)に示すように、噴射口側端面51にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝52が形成されており、この断面U字状の凹溝52は、セラミック製の中央のノズル口部分53とその周囲の金属製の部分54に水平向きに形成され、ノズル口部分53から前方に向けて放射角が鋭角の扇形状となるように圧力液Aが拡散して噴射されるようになっている。放射角(扇形の中心角)は鋭角状であれば特に限定されないが、外皮の除去を確実に且つ効率良く行うためには30度程度とすることが好ましい。
【0008】
このような構成からなるノズル5は、図1(d)に示すように、後述する構成からなるねぎ類の皮むき装置に、ねぎ類Nの茎部K側からしだいに根部Rに向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、空所部分4の根部搬送無端ベルト6A、6Bにしだいに近づく位置に配置される。
【0009】
図2は本発明に係るねぎ類の皮むき装置の一実施形態を示す正面図、図3はねぎ類の皮むき装置の平面図、図4はねぎ類の皮むき装置の本体部分を示す正面図、図5は実施形態のねぎ類の皮むき装置の要部を示し、(a)はその部分斜視図、(b)はその葉部の皮むきを行うときの概略平面図である。
【0010】
本実施形態のねぎ類の皮むき装置は、図2、図3、図4、図5に示すように、ねぎ類Nを装置本体1に向けて供給するための供給用コンベアー2と、供給用コンベアー2から供給されたねぎ類Nの葉部Hを保持しながら搬送する上下一対の葉部搬送無端ベルト3A、3Bと、これら葉部搬送無端ベルト3A、3Bの茎部側の空所部分4の上下に配置され、上下からねぎ類Nの茎部Kから根部Rに向けて高圧力で均等に扇形状に液を噴射する複数の皮むきノズル5と、これら葉部搬送無端ベルト3A、3Bの一側縁に配置されてねぎ類Nの根部Rを押さえながら搬送する上下一対の根部搬送無端ベルト6A、6Bと、これら上下一対の根部搬送無端ベルト6A、6Bの葉部側の空所部分7に配置され下流側上方に向けて斜め上向きに配置された二列のゴム製丸ベルト8A、8Bと、これら二列の丸ベルト8A、8Bに向けて下側の根部搬送無端ベルト6Bの流れ方向のほぼ中間位置にベルト6Aの長さ方向に長い長穴状に設けられた不要葉吹き飛ばし用エアー吹き出し口9と、この不用葉吹き飛ばし用エアー吹き出し口9の前側に配置されてねぎ類Nの葉部Hを載せるとともにエアーを葉部Hに向けて案内するガイド板10と、二列の丸ベルト8A、8Bから皮むき後のねぎ類Nを受けて排出側に配送する排出コンベアー11とを備えている。
【0011】
図中の符号20は、ねぎ類Nの根部Rを上下に挟んで皮むきノズル5から噴射された圧力液の流れをガイドする洗浄ガイド板であり、この洗浄ガイド板20は皮むきノズル5が配設された上流端部から下流端部にかけての部分にわたって設けられている。
このように洗浄ガイド板20が設けられていることによって、ねぎ類Nの根部Rの高さが略一定に保たれ、皮むきノズル5から噴射された圧力液の流れ方向が適当に調節されるため、全てのねぎ類Nの根部Rを確実に洗浄することが可能となる。尚、圧力液の当たりが悪ければ適宜洗浄ガイド板20を変更すればよい。
【0012】
皮むきノズル5は、図1(c)に示すように、圧力液Aの配管12に取り付けられるように、その基部側がねじ部55に形成され、ナット形状の鍔部56に延設された先端部57の噴射口側端面51にノズル口部分53が設けられている。一方、ガイド板10は、図3(a)に示すように、不要葉吹き飛ばし用エアー吹き出し口9の直下部からやや上向きに湾曲されて丸ベルト8A、8Bの上部に位置するように延出されている。そして、このガイド板10は、図4(b)に示すように、丸ベルト8A、8Bの流れ方向の上流端部位置からほぼ中間位置にかけての幅で配設されており、この配設位置において根部搬送無端ベルト6A、6Bにより搬送されてきたねぎ類Nの葉部Hを下から支えるように構成されている。尚、図3(b)においては、ガイド板10と丸ベルト8A、8Bとの平面位置関係を分かり易くするためにガイド板10を一点鎖線で示している。上記した供給用コンベアー2、葉部搬送無端ベルト3A、3B、根部搬送無端ベルト6A、6B、丸ベルト8A、8B、排出用コンベアー11は、図示しない駆動モータの駆動によりプーリーやVベルト等を介して回動駆動されるように構成すればよい。
【0013】
本実施形態のねぎ類の皮むき装置では、供給用コンベアー2から供給されたねぎ類Nが葉部搬送無端ベルト3A、3Bで搬送されるときに、複数の皮むきノズル5から噴出される圧力液によって、ねぎ類Nの茎部K側からしだいに根部Rに向けて圧力液が噴射されて茎部Kと根部Rとの境界部位から外皮が剥離除去される。次に、根部搬送無端ベルト6A、6Bでねぎ類Nの根部Kを挟持されて搬送される途中で、先ずその葉部Hをガイド板10で略水平に保持された状態で不要葉吹き飛ばし用エアー吹き出し口9から吹き出されたエアーによって不要葉が茎部K側から先端側に向けて不要葉が除去され、次いで根部搬送無端ベルト6A、6Bによる搬送によってその葉部Hを二列の丸ベルト8A、8Bで保持された状態で排出用コンベアー11の上面に搬送される。そして、最後に排出用コンベアー11に載った状態で更に搬送され、束にされて商品として出荷される。
【0014】
このように、複数の皮むきノズル5から噴出される圧力液によって、ねぎ類Nの茎部K側からしだいに根部Rに向けて圧力液が噴射されて茎部Kと根部Rとの境界部位から外皮が剥離除去されるので、外皮を確実且つ良好に剥離することができる。ここで、皮むきノズル5が、噴射口側端面51にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝52が形成されており、この断面U字状の凹溝52は、セラミック製の中央のノズル口部分53とその周囲の金属製の部分54に水平向きに形成され、ノズル口部分53から前方に向けて中心角が鋭角の扇形状に均等圧力液Aが集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっているので、ねぎ類Nの茎部K側から根部Rに向けて噴射液を全てのねぎ類Nに向けて噴出することができ、外皮の全てに均等高圧水が当たるようにノズル5が配置されているので外皮を確実に剥離することができる。
【0015】
更に、葉部Hをガイド板10で保持された状態で、不要葉吹き飛ばし用エアー吹き出し口9から吹き出されガイド板10で葉部Hに向けて案内されたエアーによって不要葉が茎部K側から先端側に向けてむかれて除去されるようにしているので、エアーをねぎ類Nの葉部Hの全体に無駄無く吹き付けることができて、確実且つ良好に不要葉を除去することができる。また、不要葉が除去された後の葉部Hは、二列の丸ベルト8A、8Bで保持された状態で送られるので、葉部Hが垂れ下がることがなく、折れてしまうことを防止することができて、外皮がむかれた良好な状態のねぎ類Nを商品として市場に提供することができる。
【0016】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載の発明は、噴射口側端面にその一方の縁部から他方の縁部に至る断面U字状の凹溝が形成され、ノズル口から前方に向けて放射角が30度程度の扇形状に均等圧力液が集中して且つ薄い幅で噴射されるようになっている複数の皮むきノズルと、ねぎ類の根部を押さえながら搬送する上下一対の根部搬送ベルトを備えており、前記複数の皮むきノズルは、ねぎ類の茎部側から次第に根部に向けて圧力液が噴射されるように、下流側に向けて複数個ずつ、前記根部搬送ベルトに次第に近づく位置に配置されていることを特徴とするねぎ類の皮むき装置であるから、噴射液をねぎ類の皮むき必要部位に向けて無駄なく且つ強い圧力で当てることができて、外皮の全てを確実に剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るねぎ類の皮むき装置用に使用されるノズルを示し、(a)はその斜視図、(b)はその断面図、(c)は皮むきノズルの皮むき装置への取付状態を示す正面図、(d)は複数の皮むきノズルを皮むき装置に取り付けたときの配置状態を示す斜視図である。
【図2】本発明に使用されるノズルが取り付けられるねぎ類の皮むき装置を示す正面図である。
【図3】ねぎ類の皮むき装置の平面図である。
【図4】実施形態のねぎ類の皮むき装置の本体部分を示す正面図である。
【図5】実施形態のねぎ類の皮むき装置の要部を示し、(a)はその部分斜視図、(b)はその葉部の皮むきを行うときの概略平面図である。
【符号の説明】
5 皮むきノズル
51 噴射口側端面
52 断面U字状の凹溝
53 セラミック製の中央のノズル口部分
54 周囲の金属製の部分
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-12-13 
結審通知日 2005-12-15 
審決日 2006-09-26 
出願番号 特願2001-313441(P2001-313441)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A23N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 水野 治彦  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 粟津 憲一
種子 浩明
登録日 2003-05-23 
登録番号 特許第3430460号(P3430460)
発明の名称 ねぎ類の皮むき装置  
代理人 三好 秀和  
代理人 清原 義博  
代理人 岡崎 孝二  
代理人 岩崎 幸邦  
代理人 坂戸 敦  
代理人 三好 秀和  
代理人 清原 義博  
代理人 中村 友之  
代理人 坂戸 敦  

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