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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200235076 審決 特許
無効200680227 審決 特許
無効200580321 審決 特許
無効2007800105 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B60B
管理番号 1148653
審判番号 無効2005-80281  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-04-08 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-26 
確定日 2006-11-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3460764号発明「自動車用ホイールおよびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3460764号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
特許第3460764号(以下、「本件特許」という)に対する無効審判事件の手続の経緯は、以下のとおりである。
(1)出願 :平成7年11月7日(特願平7-288862号[優先権主張 平成6年11月30日、平成7年6月7日、平成7年7月25日])
(2)登録 :平成15年8月15日
(3)審判請求書 :平成17年9月26日付け
(4)請求人による検証申出書 :平成17年9月26日付け
(5)答弁書 :平成17年12月14日付け
(6)訂正請求書 :平成17年12月14日付け
(7)弁駁書 :平成18年1月23日差出
(8)被請求人による口頭審理陳述要領書 :平成18年3月29日付け
(9)請求人による検証物指示説明書 :平成18年3月29日付け
(10)第1回口頭審理 :平成18年3月29日
(11)請求人による上申書 :平成18年4月29日差出
(12)請求人による物件提出書 :平成18年4月29日差出
(13)請求人による検証申出書 :平成18年4月29日差出
(14)請求人による検証物指示説明書 :平成18年4月29日差出
(15)請求人による証人尋問申請書(証人上垣裕彦) :平成18年4月29日差出
(16)請求人による証人尋問申請書(証人櫻井泰朗) :平成18年4月29日差出
(17)被請求人による上申書 :平成18年6月27日付け
(18)被請求人による上申書 :平成18年7月4日付け
(19)請求人による上申書 :平成18年7月5日差出
(20)被請求人による上申書 :平成18年7月11日付け
(21)第2回口頭審理及び証拠調べ(検証、証人尋問) :平成18年7月11日
(22)答弁書 :平成18年7月20日付け
(23)訂正請求書 :平成18年7月20日付け
(24)弁駁書 :平成18年8月25日付け

第2.請求人の主張の概略
(1)請求人は、「特許第3460764号発明の明細書の請求項1?8に係わる各発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め(審判請求書第1頁「6 請求の趣旨」参照)、その理由として、平成17年9月26日付けの審判請求書において下記の甲第1?6号証(ただし、当審において、表記の一部を修文)を提出し、同日付けの検証申出書により下記の検甲第1号証の1の検証の申出をするとともに、以下の旨主張する。
「本件特許は、上記の出願1?出願3に基づく優先権を主張する特許出願であるが、以下のとおり、優先日1(平成06年11月30日)前の公知の事実により特許を受けることができないものである。
1本件の請求項1?8に係る各特許発明は、下記(i)、(ii)のいずれかの理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(i)本件の請求項1?4に係る各特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件の請求項5?8に係る各特許発明は、甲第1号証及び甲第2号に記載された発明と、甲第3?5号証に示される周知慣用手段に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ii)本件の請求項1?4に係る各特許発明は、甲第4号証、甲第5号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件の請求項5?8に係る各特許発明は、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証及び甲第2号証に記載に記載された発明と、甲第5号証、甲第2号証、甲第3号証に示される周知慣用手段に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
2本件の請求項1?8に係る各特許発明は、下記の理由により、特許法第29条第1項1号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
本件の請求項1?4に係る各特許発明は、その出願前に日本国内で販売、使用されたマツダ部品工業株式会社製造の自動車用ホイールに係わる発明であるから、特許出願前に日本国内で公然知られた発明である。また、本件の請求項1?4に係る各特許発明及び同5?8に係る各特許発明は、該公然知られた発明と、甲第2?5号証に示される周知慣用技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。」(ただし、「1」等の下線付き数字は、正しくは○付き数字である)(審判請求書第8?9頁「(3)無効審判請求の根拠」参照)

(2)平成18年1月23日差出の弁駁書では、下記の甲第7、8号証(ただし、当審において、表記の一部を修文)を提出するとともに、以下の旨主張する。
「訂正請求は、訂正要件に違反しているので、訂正は認められるべきでなく、訂正前の特許については、審判請求当初に申し立てた無効理由を解消していない。また、訂正後の請求項1,2に係わる各発明は、依然として無効理由を解消していない。さらに、訂正後の請求項1,2に係わる各発明については、新たな無効理由を有する。」(平成18年1月23日差出の弁駁書第1頁「5.弁駁の趣旨」参照)
「訂正後の請求項1において追加された構成要件は、当業者が自動車用ホイールの設計に当たり、適宜設計し得た設計事項であり、訂正後の請求項1に係わる発明及び従属項の請求項2に係わる発明は、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」(平成18年1月23日差出の弁駁書第11?12頁「(ヘ)無効理由その3の1について (13)」参照)

(3)平成18年4月29日差出の上申書では、同日差出の物件提出書により下記の甲第9?11号証(ただし、当審において、表記の一部を修文)を提出し、同日差出の検証申出書により下記の検甲第2号証の1の検証の申出をし、同日差出の証人尋問申請書により証人上垣裕彦及び証人櫻井泰朗の尋問の申出をするとともに、以下の旨主張する。
「これにより、検甲第1号証の1について公然実施された時期が、遅くとも本件出願日前である平成6年(1994年)11月末日(甲第9号証の発行日)であることを立証します。」(上記「甲第9号証の発行日」は、平成18年7月5日差出の上申書において、訂正されたものである)
「これにより、検甲第2号証の1について公然実施された時期が、遅くとも本件出願日前である平成3年(1991年)12月9日(検甲第2号証の1を搭載した乗用車の初年度登録日)であることを立証します。」(平成18年4月29日差出の上申書「5 上申の内容」参照)

(4)平成18年8月25日付けの弁駁書では、以下の旨主張する。
「訂正請求は、訂正要件に違反しているので、訂正は認められるべきでなく、訂正前の特許については、審判請求当初に申し立てた無効理由を解消していない。また、訂正後の請求項1,2に係わる各発明は、依然として無効理由を解消していない。」(平成18年8月25日付けの弁駁書第1頁「5 弁駁の趣旨」参照)
「このような訂正がなされたとしても、審判請求書で主張した無効理由その3の1の理由により、訂正発明及び請求項2に係わる発明は、いずれも進歩性を有しない。」(平成18年8月25日付けの弁駁書第4頁「訂正後の請求項1に係わる発明(訂正発明)の進歩性について (10)」参照)


甲第1号証:特開平2-268990号公報
甲第2号証:実公昭36-23608号公報
甲第3号証:特開昭62-255201号公報
甲第4号証:特開平6-239101号公報
甲第5号証:特公昭37-6651号公報
甲第6号証:実願昭54-92059号(実開昭56-9901号)のマイクロフィルム
甲第7号証:「日本工業規格 自動車用ディスクホイール」,第1刷,財団法人日本規格協会,平成6年10月31日の写し
甲第8号証:田中健一、外2名,“自動車用ホイールの疲労強度”,住友金属,1987年10月,Vol.39,No.4,第325-336頁の写し
甲第9号証:「PartsCatalog 94-11(保存版)」,1994年11月,表紙、体系表頁、総目次頁、第142-143頁の写し
甲第10号証:「JIS ホイール及びリムの種類・呼び・表示 JIS D 4102-1984」の表紙、第5頁の写し
甲第11号証:自動車検査証(自動車登録番号「広島 33 た 3781」)の写し

検甲第1号証の1:マツダ部品工業株式会社製応急用ホイール
検甲第1号証の2:検甲第1号証の1の写真
検甲第1号証の3:リンテックス広島株式会社生産部生産技術グループ技術担当上垣裕彦の検甲第1号証の1に係る陳述書
検甲第1号証の4:株式会社広島マツダ西条店営業担当梅本卓三の検甲第1号証の1に係る陳述書
検甲第2号証の1:マツダ部品工業株式会社製応急用ホイール
検甲第2号証の2:現物代用写真

第3.被請求人の主張の概略
(1)これに対して、被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め(平成17年12月14日付けの答弁書第1頁「6.答弁の趣旨」参照)、その理由として、平成17年12月14日付けで本件特許の明細書の訂正を請求するとともに、以下の旨主張する。
「甲第1号証と甲第2号証も本件特許発明の構成要件X、Y、Zを開示していないので、構成要件の一部に構成要件X、Y、Zを含む本件特許発明は甲第1号証と甲第2号証に基づいて容易に発明できたものではない。」(平成17年12月14日付けの答弁書第5頁「7.理由 (4)」参照)
「甲第4号証?甲第6号証と甲第2号証の何れも本件特許発明の構成要件X、Y、Zを開示していないので、構成要件の一部に構成要件X、Y、Zを含む本件特許発明は甲第4号証?甲第6号証と甲第2号証に基づいて容易に発明できたものではない。」(平成17年12月14日付けの答弁書第5?6頁「7.理由 (5)」参照)
「本件特許の請求項1の発明の構成要件Z、Gは、検甲第1号証の1?4の引用発明の構成要件〔Z’〕、〔G’〕と異なる。よって、本件特許の請求項1の発明と検甲第1号証の1?4の引用発明とは同一でもなければ、実質的に同一でもない。
検甲第1号証の1?4は本件特許発明の構成要件Z、Gを有さないので、構成要件の一部に構成要件Z、Gを含む本件特許発明は検甲第1号証の1?4に対して新規性を有する。」(平成17年12月14日付けの答弁書第6頁「7.理由 (6)」参照)

(2)平成18年6月27日付けの上申書で、再訂正請求の機会を求めるとともに、平成18年7月4日付けの上申書で、訂正請求のやり直しを行う場合の特許請求の範囲の訂正案を提出した。

(3)平成18年7月20日付けの答弁書では、下記の乙第1号証(ただし、当審において、表記の一部を修文)を提出し、同日付けで2回目の本件特許の明細書の訂正を請求するとともに、以下の旨主張する。
「証人櫻井氏および上垣氏の証言では、検甲第2号証の1?2のテンパーホイールCが本件特許出願時に公知、公用であったことが十分には立証されていない。」(平成18年7月20日付けの答弁書第10頁「(7-1-3) 〔7-1の結論〕」参照)
「上記表より、テンパーホイールCは本件発明の課題を有していない。テンパーホイールCは本件発明の構成を有していない。テンパーホイールCは本件発明の効果を有しておらず、テンパーホイールCの効果は、規格強度がある通常ホイールに使用できるか否かという点において本件発明の効果と『異質』である。
したがって、テンパーホイールCから本件発明を容易に発明することはできない。
本件特許の請求項2は請求項1に従属しているので、請求項1が進歩性を有する以上、請求項2も進歩性を有する。」(平成18年7月20日付けの答弁書第11?12頁「(7-2) (ii) 進歩性について」参照)


乙第1号証:トピー工業株式会社プレス事業部試験責任者阿部喜四郎が作成した15×4Tテンパーホイールのドラム耐久強度試験結果

第4.本件の発明について
1.平成18年7月20日付けの訂正請求について
平成18年7月20日付けの訂正請求は、平成18年7月11日の第2回口頭審理において与えた訂正請求のやり直しの機会に応答するものである。この訂正請求のやり直しの機会は、被請求人による訂正案(平成18年7月4日付けの上申書参照)に基づく訂正請求のやり直しが、審理遅延をもたらすものではないと認められたから、指定期間(平成18年7月20日まで)を口頭で告知し与えたものである。

(1)訂正の内容
平成18年7月20日付けの訂正請求による訂正の内容は次のとおりである。
・訂正事項1
明細書の特許請求の範囲の欄の、訂正前の請求項1の「断面形状とほぼ同じであることを特徴とする自動車用ホイール。」とあるのを、
「断面形状とほぼ同じであり、ディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離(h)が5mm以上30mm以下の範囲で、かつディスク立上り部の端部とリムのドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心とのホイール軸方向距離(m)が3mm以上40mm以下の範囲で、ホイール耐久強度が規格強度の概略値80万回を満足する前記(h)と(m)の組合せが存在する、ことを特徴とする自動車用ホイール。」と訂正する。

・訂正事項2
明細書の特許請求の範囲の欄の、訂正前の請求項3、4、5、6、7、8を削除する。

・訂正事項3
明細書の発明の詳細の説明の欄の、段落【0004】の訂正前の「断面形状とほぼ同じであることを特徴とする自動車用ホイール。」とあるのを、
「断面形状とほぼ同じであり、ディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離(h)が5mm以上30mm以下の範囲で、かつディスク立上り部の端部とリムのドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心とのホイール軸方向距離(m)が3mm以上40mm以下の範囲で、ホイール耐久強度が規格強度の概略値80万回を満足する前記(h)と(m)の組合せが存在する、ことを特徴とする自動車用ホイール。」と訂正する。

・訂正事項4
明細書の段落【0005】の、
「上記(1)では、ベンチレーション最凹部を、ドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に位置させたので、ほぼ正方形の平板からディスク素材を得る段階で、ほぼ正方形の平板の一辺の長さLが従来のL′に比べて小さくなり、素材が小さくて済み、大幅な(20?30%もの)材料節約、重量低減がはかられる。しかも、ベンチレーション部はほぼ弧状であり従来のような折り曲げ部Gをもたないので、ディスクの剛性がリムにくらべて過大にならず、溶接部に無理な歪みや荷重がかからず、疲労耐久性が悪化しない。」とあるのを、
「上記(1)では、ベンチレーション最凹部を、ドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に位置させたので、ほぼ正方形の平板からディスク素材を得る段階で、ほぼ正方形の平板の一辺の長さLが従来のL′に比べて小さくなり、素材が小さくて済み、大幅な(20?30%もの)材料節約、重量低減がはかられる。しかも、ベンチレーション部はほぼ弧状であり従来のような折り曲げ部Gをもたないので、ディスクの剛性がリムにくらべて過大にならず、溶接部に無理な歪みや荷重がかからず、疲労耐久性が悪化しない。
上記(1)では、ベンチレーション最凹部が湾曲部のRの中心から5mm以上ホイール軸方向外側に離れているので、4つのベンチレーションの一部のみがリムに接触して剛性にアンバランスを生じることがなく、ホイールの振れ抑制が安定しており、自動車の乗り心地は悪化しない。
上記(1)では、ディスク立上り部端部とRの中心との距離(重なり部のホイール軸方向長さ)を3mm以上40mm以下に設定したので、ディスクとリムの強度がバランスして、ホイールの耐久強度が規格必要強度以上に保たれる。」と訂正する。

・訂正事項5
明細書の段落【0005】の、「上記(3)では、」?「上記(8)では、ディスク立上がり部端部とRとの中心との距離(重なり部のホイール軸方向長さ)を3mm以上40mm以下に設定したので、ディスクとリムの強度がバランスして、ホイールの耐久強度が規格必要強度以上に保たれる。」を削除する。

・訂正事項6
明細書の段落【0015】の、
「 請求項1の自動車用ホイールによれば、ベンチレーション最凹部がリムR部中心よりホイール軸方向外側に位置しているので、素材寸法を従来に比べて小にでき、大幅な材料節約、重量低減をはかれる。また、従来のようにベンチレーション部の端縁を折り曲げることもないので、ブレーキと折り曲げ部との干渉、ディスク剛性過多によるアンバランスによって生じる溶接部の耐久性の低下、折り曲げ部分の材料歩留りの悪化、等の問題も生じない。」とあるのを、
「 請求項1の自動車用ホイールによれば、ベンチレーション最凹部がリムR部中心よりホイール軸方向外側に位置しているので、素材寸法を従来に比べて小にでき、大幅な材料節約、重量低減をはかれる。また、従来のようにベンチレーション部の端縁を折り曲げることもないので、ブレーキと折り曲げ部との干渉、ディスク剛性過多によるアンバランスによって生じる溶接部の耐久性の低下、折り曲げ部分の材料歩留りの悪化、等の問題も生じない。
請求項1の自動車用ホイールによれば、ベンチレーション最凹部とリムR部中心との距離hを5mm以上としたため、ホイール横振れも小となり、耐久性が低下せず、乗り心地も悪化しない。
請求項1の自動車用ホイールによれば、ディスク立上り部端部とリムR部中心との距離mを3?40mmに設定したので、h=30mm以下の範囲において耐久強度が確保されるhとmの最適組合せが得られる。」と訂正する。

・訂正事項7
明細書の段落【0015】の、「請求項3の」?「請求項8の自動車用ホイールの製造方法によれば、ディスク立上がり部端部とリムR部中心との距離mを3?40mmに設定したので、h=30mm以下の範囲において耐久強度が確保されるhとmの最適組み合わせが得られる。」を削除する。

・訂正事項8
明細書の、発明の名称の欄の、および明細書の段落【0001】、【0003】(2ケ所)、【0006】の、「自動車用ホイールおよびその製造方法」とあるのを、「自動車用ホイール」と訂正する。 (なお、2カ所とあるのは、明細書の記載からみて段落【0001】に対するものと認められる)

・訂正事項9
明細書の、および、図面の簡単な説明の欄の、「本発明の一実施例の自動車用ホイールの製造方法で製造した本発明の一実施例の自動車用ホイール」とあるのを、「本発明の一実施例の自動車用ホイール」と訂正する。

(2)訂正の目的、新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張・変更について
(2-1)訂正事項1及び2について
訂正事項1について検討すると、訂正事項1は、訂正前の請求項3及び請求項4の構成要件を請求項1に付加するとともに、段落【0014】の「リム20とディスク10の変形がバランスする程度のmで耐久強度が最大となるので、そのようなmが各hに対して選択されるべきである。また、hがたとえば30mm以下の領域に設定されると、図7からmが3?40mmの領域に設定されれば、ホイール耐久強度(ドラム上耐久試験)が規格強度(約80万回)を満足するmとhの最適な組合せが十分に存在することが判明する。」との記載、段落【0014】の「つぎに、耐久強度については、ディスク立上り部13の端部とリムR部中心24との距離m(リムとディスクの接地長さに等しい)も耐久試験に影響すると考えられるので、ベンチレーション最凹部12のリムR部中心24からの距離hにパラメーターmを加えて、耐久強度(亀裂発生までのドラム回転数)との関係を試験したところ、図7に示す結果を得た。この結果、hとmを最適に設定することで、従来の強度に関するおそれも解消される。」との記載及び【図面の簡単な説明】【図7】の「hと、ディスク立上り部端部とリムR部中心との距離mと、耐久強度との関係を示すグラフである。」との記載を根拠に、「ディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離(h)が5mm以上30mm以下の範囲で、ホイール耐久強度が規格強度の概略値80万回を満足する前記(h)と(m)の組合せが存在する」に限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められるから、特許法第134条の2第1項第1号に該当する。

訂正事項2については、上記の訂正事項1とあわせて請求項3?8を削除しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第134条の2第1項第1号に該当する。

そして、訂正事項1及び2に係る訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものと認められ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとは認められないから、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。

(2-2)訂正事項3?9について
訂正事項3については、上記の特許請求の範囲の減縮に係る訂正にあわせて訂正をしようとするものであり、明りょうでない記載の釈明をすることを目的とするものと認められるから、特許法第134条の2第1項第3号に該当する。

訂正事項4及び5については、段落【0005】の
「上記(3)では、ベンチレーション最凹部が湾曲部のRの中心から5mm以上ホイール軸方向外側に離れているので、4つのベンチレーションの一部のみがリムに接触して剛性にアンバランスを生じることがなく、ホイールの振れ抑制が安定しており、自動車の乗り心地は悪化しない。上記(4)では、ディスク立上り部端部とRの中心との距離(重なり部のホイール軸方向長さ)を3mm以上40mm以下に設定したので、ディスクとリムの強度がバランスして、ホイールの耐久強度が規格必要強度以上に保たれる。」
との記載を根拠に、上記の特許請求の範囲の減縮に係る訂正にあわせて訂正をしようとするものであり、明りょうでない記載の釈明をすることを目的とするものと認められるから、特許法第134条の2第1項第3号に該当する。

訂正事項6及び7については、段落【0015】の
「請求項3の自動車用ホイールによれば、ベンチレーション最凹部とリムR部中心との距離hを5mm以上としたため、ホイール横振れも小となり、耐久性が低下せず、乗り心地も悪化しない。請求項4の自動車用ホイールによれば、ディスク立上り部端部とリムR部中心との距離mを3?40mmに設定したので、h=30mm以下の範囲において耐久強度が確保されるhとmの最適組合せが得られる。」
との記載を根拠に、上記の特許請求の範囲の減縮に係る訂正にあわせて訂正をしようとするものであり、明りょうでない記載の釈明をすることを目的とするものと認められるから、特許法第134条の2第1項第3号に該当する。

訂正事項8及び9については、上記の特許請求の範囲の減縮に係る訂正にあわせて、本件に係る発明が自動車用ホイールの発明であることを明確化しようとするものであり、明りょうでない記載の釈明をすることを目的とするものと認められるから、特許法第134条の2第1項第3号に該当する。

そして、訂正事項3?9に係る訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものと認められ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとは認められないから、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正事項1?9に係る訂正は、特許法第134条の2ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

2.本件の発明
上記「第4.1.平成18年7月20日付けの訂正請求について」のとおり、平成18年7月20日付けの訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1、2に係る発明は、平成18年7月20日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる(以下、「本件特許発明1、2」という)。
「【請求項1】立ち上がり部とベンチレーションを有する絞り成形したディスクと、ドロップ部、サイドウォール部、およびドロップ部とサイドウオール部とを連結する湾曲部を有するリムとを、ディスク立上り部にてリムのドロップ部に溶接接合した自動車用ホイールにおいて、ディスクのリムへの嵌入後においてディスクベンチレーションの端縁はディスク立ち上がり部の端部より軸方向外方に凹むほぼ弧状の凹部をなしており、ディスクベンチレーションの最凹部がリムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に位置し、ディスクベンチレーションの最凹部ではディスクはリムに嵌合、接触せず、かつディスクベンチレーションの最凹部の断面形状が同じ半径上にある他のディスク部分の断面形状とほぼ同じであり、ディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離(h)が5mm以上30mm以下の範囲で、かつディスク立上り部の端部とリムのドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心とのホイール軸方向距離(m)が3mm以上40mm以下の範囲で、ホイール耐久強度が規格強度の概略値80万回を満足する前記(h)と前記(m)の組合せが存在する、ことを特徴とする自動車用ホイール。
【請求項2】各ディスク立上り部の端部のホイール周方向長さが30mm以上であり、かつ各溶接部のホイール周方向長さも約30mm以上である請求項1記載の自動車用ホイール。」

第5.甲第7、9、11号証の記載事項
前記甲第7、9、11号証には、それぞれ以下のような記載がある。
(1)甲第7号証
ア.第4?5頁の写しには、「5.2.3 試験条件」として、
「(1)半径方向負荷 半径方向負荷は,次の式による。
Fr=F・K
ここに,Fr:半径方向負荷(kN)。
F :そのホイールに適用されるタイヤの最大荷重(4)(乗用車用タイヤの場合は設計最大荷重という。)のうちの最大値(原則としてJIS D 4202の規定による。)。ただし,そのホイールに特に荷重の指定がある場合は,その指定荷重(kN)。
K :係数。表2による。」
という記載がある。

イ.表2には、「ホイールの区分『リム径の呼びが17.5以下のホイール』、『鋼製ホイール』」について、「係数K」と「規定回転数 万回」の関係が、「2.25」と「40」、「2.2」と「50」、「2.0」と「70」、「1.8」と「100」のものが記載されている。(第5頁)

(2)甲第9号証
ウ.表紙頁の写しには、「カタログNo.AJHM01-05」という記載がある。

エ.体系表頁の写しには、「車台型式『HDES』」について、「91/3 AJHM01 93/12」という記載があり、「整理番号『AJHM01』」について、「発行年月『94/11』」、「カタログNo.『AJHM01-05』」という記載がある。

オ.第143頁の写しには、「部品名称『ホイール,ディスク-スチール』」について、「部品番号『99652-64050』」、「適用車種/特記事項『4T×15 P=114/O=45』」という記載がある。

(3)甲第11号証
カ.甲第11号証には、「自動車登録番号又は車両番号『広島 33 た 3781』」、「初度登録年月『平成3年12月』」、「車台番号『HDES-109872』」、「所有者の氏名又は名称『株式会社アンフィニ広島』」、「使用者の氏名又は名称『桜井機械株式会社』」という記載がある。

第6.当審の判断
1.検甲第2号証の1の発明について
(1)検甲第2号証の1の有する構成
検証によれば、検甲第2号証の1は、以下の構成を備える「応急用ホイール」である(第2回口頭審理及び証拠調べ調書参照)。
A.ホイールはディスクとリムとから成る。

B.ディスクは4個の立ち上がり部と4個のベンチレーションを有する。
ディスクは絞り成形されている。

C.リムは、ドロップ部、サイドウォール部およびドロップ部とサイドウォール部とを連結する湾曲部を有している。

D.ディスクとリムとは4個のディスクの立ち上がり部それぞれにてリムのドロップ部に溶接接合してある。

E.ディスクのリムへの嵌入後において(溶接された状態)ディスクベンチレーションの端縁はディスク立ち上がり部の端部より軸方向外方に凹むほぼ弧状の凹部をなしている。

F.ディスクベンチレーションの最凹部がリムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に位置している。

G.ディスクベンチレーションの最凹部ではディスクはリムに嵌合、接触していない。

H.ディスクベンチレーションの最凹部の断面形状が同じ半径上にある他のディスク部分の断面形状とほぼ同じである(折り曲げ部がない、くぼみがない)。

I.ディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離は12?15mmである。

J.ディスク立ち上がり部の端部とリムのドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心とのホイール軸方向距離が8?10mmである。

K.各ディスク立ち上がり部の端部のホイール周方向長さは約146mmである。
ディスク立ち上がり部の端部で周方向に連続する溶接部のホイール周方向長さは81?88mmである。

L.ホイールには、刻印「M26 15×4T X 08 91」がある。

(2)検甲第2号証の1が公然実施をされたか否かについて
(a)証人櫻井泰朗の証言によれば、検甲第2号証の1は、証人櫻井泰朗が使っている車両に搭載されていたものであり、当該車両の初度登録から他のものに交換していない旨証言されており、また、当該車両は、証人櫻井泰朗が代表取締役社長を務める櫻井機械株式会社所有の車であり、自動車登録番号が「広島 33 た 3781」であり、証人櫻井泰朗本人のみが運転をする社長専用車であり、株式会社アンフィニ広島で購入した旨証言されている。
甲第11号証は、自動車検査証の写しであり、甲第11号証には、自動車登録番号「広島 33 た 3781」の車両の初度登録年月が「平成3年12月」である点が記載されている(記載事項カ参照)。
検甲第2号証の1は、「応急用ホイール」であって、通常はロックされた車両のトランクに収納されているものであるから、当該車両の唯一の使用者である証人櫻井泰朗の知らない間に、証人櫻井泰朗に断りもなく、他のものに交換されたものとは認められない。

したがって、上記の証人櫻井泰朗の証言及び甲第11号証の記載事項を総合すると、自動車登録番号「広島 33 た 3781」の車両は、平成3年12月頃に株式会社アンフィニ広島で販売された車両であって、当該車両に搭載されていた検甲第2号証の1は、当該車両が販売されたときから当該車両に搭載されていたものと認められる。

(b)一方、証人上垣裕彦の証言によれば、検甲第2号証の1の刻印「M26 15×4T X 08 91」の、「M」はホイールの製造業者であるマツダ部品工業株式会社を表したものであり、「26」はマツダ株式会社が決めた部品番号を表したものであり、「X 08 91」は製造年月日を表したものであって、「X」は10月を表すものである旨証言されており、また、甲第9号証の部品番号に記載された「99652-64050」の「2-6」の部分は、マツダ株式会社が決めた部品番号「26」を表すものである旨証言されている。

この証人上垣裕彦の証言によれば、「X 08 91」と刻印された検甲第2号証の1(検甲第2号証の1の有する構成L参照)は、1991年(平成3年)10月8日に製造されたものと認められるが、このことは、検甲第2号証の1が、平成3年12月頃に販売された車両に、当該車両が販売されたときから搭載されていたという上記(a)の認定と矛盾するものでもない。

さらに、甲第9号証には、車台型式「HDES」のホイールとして部品番号「99652-64050」が記載されており(記載事項ウ、エ、オ参照)、証人上垣裕彦の上記の証言と合わせると、車台型式「HDES」の車両には、マツダ株式会社が決めた部品番号「26」のホイールが搭載されているものと認められる。このことは、証人櫻井泰朗が使っている車台番号「HDES-109872」の車両(記載事項カ参照)に「26」の刻印を有する検甲第2号証の1(検甲第2号証の1の有する構成L参照)が搭載されていたという証人櫻井泰朗の証言と矛盾するものでもない。

(c)以上のとおりであるから、検甲第2号証の1は、平成3年12月頃に株式会社アンフィニ広島で販売された車両に、販売されたときから搭載されていたものと認められるから、本件特許に係る優先権主張日前に公然実施をされたものといえる。

(3)引用発明
上記「第6.1.(1)検甲第2号証の1の有する構成」に記載した構成を有する検甲第2号証の1は、上記のとおり、本件特許に係る優先権主張日前に公然実施をされたものであり、この実施により以下の発明(以下「引用発明」という)が公然実施をされたものと認める。
「立ち上がり部とベンチレーションを有する絞り成形したディスクと、ドロップ部、サイドウォール部、およびドロップ部とサイドウオール部とを連結する湾曲部を有するリムとを、ディスク立上り部にてリムのドロップ部に溶接接合した応急用ホイールにおいて、ディスクのリムへの嵌入後においてディスクベンチレーションの端縁はディスク立ち上がり部の端部より軸方向外方に凹むほぼ弧状の凹部をなしており、ディスクベンチレーションの最凹部がリムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に位置し、ディスクベンチレーションの最凹部ではディスクはリムに嵌合、接触せず、かつディスクベンチレーションの最凹部の断面形状が同じ半径上にある他のディスク部分の断面形状とほぼ同じであり、ディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離(h)が12?15mmで、かつディスク立上り部の端部とリムのドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心とのホイール軸方向距離(m)が8?10mmで、各ディスク立上り部の端部のホイール周方向長さが約146mmであり、かつ各溶接部のホイール周方向長さが81?88mmである応急用ホイール。」

2.発明の対比
まず、本件特許発明1に従属する本件特許発明2と引用発明とを対比する。
引用発明のディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離(h)は12?15mmで、本件特許発明2の5mm以上30mm以下の範囲に含まれるものである。
引用発明のディスク立上り部の端部とリムのドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心とのホイール軸方向距離(m)は8?10mmで、本件特許発明2の3mm以上40mm以下の範囲に含まれるものである。
引用発明の各ディスク立上り部の端部のホイール周方向長さは約146mmで、本件特許発明2の30mm以上に含まれるものである。
引用発明の各溶接部のホイール周方向長さは81?88mmで、本件特許発明2の約30mm以上に含まれるものである。

したがって、両者は、
【一致点】
「立ち上がり部とベンチレーションを有する絞り成形したディスクと、ドロップ部、サイドウォール部、およびドロップ部とサイドウオール部とを連結する湾曲部を有するリムとを、ディスク立上り部にてリムのドロップ部に溶接接合したホイールにおいて、ディスクのリムへの嵌入後においてディスクベンチレーションの端縁はディスク立ち上がり部の端部より軸方向外方に凹むほぼ弧状の凹部をなしており、ディスクベンチレーションの最凹部がリムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に位置し、ディスクベンチレーションの最凹部ではディスクはリムに嵌合、接触せず、かつディスクベンチレーションの最凹部の断面形状が同じ半径上にある他のディスク部分の断面形状とほぼ同じであり、ディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離(h)が5mm以上30mm以下の範囲で、かつディスク立上り部の端部とリムのドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心とのホイール軸方向距離(m)が3mm以上40mm以下の範囲で、各ディスク立上り部の端部のホイール周方向長さが30mm以上であり、かつ各溶接部のホイール周方向長さも約30mm以上であるホイール。」
に係る発明である点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点1】
ホイールの用途に関して、本件特許発明2では、「自動車用」であるのに対して、引用発明では「応急用」である点。

【相違点2】
本件特許発明2では、「ホイール耐久強度が規格強度の概略値80万回を満足する前記(h)と前記(m)の組合せが存在する」と限定しているのに対して、引用発明では、そのような限定がない点。

3.相違点の検討
(1)相違点1について
引用発明の応急用ホイールは自動車に搭載されたものであるから(証人櫻井泰朗の上記証言参照)、自動車用ホイールというべきであり、上記相違点1に係る本件特許発明2の構成は、実質的な相違ではなく、表現上の相違にすぎない。

(2)相違点2について
本件特許発明2において「ホイール耐久強度が規格強度の概略値80万回を満足する」とあるが、この規格がどのような規格であるのか特定されておらず、耐久試験を行う際の負荷荷重の大きさについても特定されていない。しかも、応急用ホイールにおいても耐久強度は設計の際に当然考慮すべき事項であり、耐久強度を設定する際に、耐久試験時の負荷荷重を小さくし耐久強度を表す回転数を大きくするか、耐久試験時の負荷荷重を大きくし耐久強度を表す回転数を小さくするかは、適宜選択し得る設計事項であるから(上記「第5.(1)甲第7号証」の記載事項ア、イ参照)、(h)が12?15mm、(m)が8?10mm、各ディスク立上り部の端部のホイール周方向長さが約146mm、各溶接部のホイール周方向長さが81?88mmである引用発明においても、耐久試験を行う際の負荷荷重が小さい場合は、80万回回転させても亀裂が発生しないこともあり得ると認められる。
そうすると、(h)が12?15mm、(m)が8?10mm、各ディスク立上り部の端部のホイール周方向長さが約146mm、各溶接部のホイール周方向長さが81?88mmである引用発明において、ある大きさの負荷(小さめの負荷)を与えながら80万回回転させる耐久試験を行った際に、亀裂、変形等がないという規格強度を設定し、上記相違点2に係る本願発明の構成のごとく、ホイール耐久強度が規格強度の概略値80万回を満足する(h)と(m)の組み合せが存在するようにすることは、当業者であれば適宜なし得る設計事項といえる。

なお、被請求人は、本件特許発明2における「規格強度の概略値80万回転」が、通常ホイールに求められる耐久強度を表すものであり、本件特許発明2における「自動車用ホイール」が、テンパーホイール(応急用ホイール)を含まない通常ホイールであると主張する。しかしながら、上述のとおり、特許請求の範囲において規格についても耐久試験を行う際の負荷荷重の大きさについても特定されていないし、発明の詳細な説明においても、具体的な耐久試験方法や試験条件について記載されていないから、本件特許発明2における自動車用ホイールがテンパーホイール(応急用ホイール)を含まないとの主張は認められない。
仮に、本件特許発明2における自動車用ホイールがテンパーホイール(応急用ホイール)を含まないものであるとしても、引用発明の応急用ホイールの形状、構造を基に、応急用でない通常ホイールを設計することが、当業者にとって格別困難なことであるとは認められない。しかも、設計にあたって通常ホイールに求められる規格強度を満足するようにすることは、当業者であれば当然考慮すべき事項であるし、その際に、被請求人が主張するような「概略値80万回転」を規格強度とする特定の耐久試験方法や試験条件を設定し、その規格強度を満足するホイール耐久強度となるようにホイールのリム及びディスクの材質及び板厚や、リムとディスクの溶接部の溶接方法及び溶接長さ等の諸元について設計することは、当業者であれば適宜なし得る設計事項であると認められる。

(3)作用効果について
上記相違点1、2で指摘した構成を併せ備える本件特許発明2の作用効果は、上記引用発明の構成事項から当業者であれば予測できる程度以上のものではない。

4.まとめ
よって、本件特許発明2は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件特許発明1の構成事項を全て含むとともに、本件特許発明1の構成事項に更に限定を付加している本件特許発明2が、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1も、本件特許発明2と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
以上のとおり、本件特許発明1、2は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1、2の特許は、請求人の主張する他の無効理由を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
自動車用ホイール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】立ち上がり部とベンチレーションを有する絞り成形したディスクと、ドロップ部、サイドウォール部、およびドロップ部とサイドウオール部とを連結する湾曲部を有するリムとを、ディスク立上り部にてリムのドロップ部に溶接接合した自動車用ホイールにおいて、ディスクのリムへの嵌入後においてディスクベンチレーションの端縁はディスク立ち上がり部の端部より軸方向外方に凹むほぼ弧状の凹部をなしており、ディスクベンチレーションの最凹部がリムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に位置し、ディスクベンチレーションの最凹部ではディスクはリムに嵌合、接触せず、かつディスクベンチレーションの最凹部の断面形状が同じ半径上にある他のディスク部分の断面形状とほぼ同じであり、ディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離(h)が5mm以上30mm以下の範囲で、かつディスク立上り部の端部とリムのドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心とのホイール軸方向距離(m)が3mm以上40mm以下の範囲で、ホイール耐久強度が規格強度の概略値80万回を満足する前記(h)と(m)の組合せが存在する、ことを特徴とする自動車用ホイール。
【請求項2】各ディスク立上り部の端部のホイール周方向長さが30mm以上であり、かつ各溶接部のホイール周方向長さも約30mm以上である請求項1記載の自動車用ホイール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は自動車用ホイールに関し、とくに疲労強度を低下させることなく大幅な軽量化がはかれる自動車用ホイールに関する。
【0002】
【従来の技術】
ツーピース自動車用ホイールは、図8、図9に示すように、ディスク1とリム2とをスポット溶接3で接合したものからなる。
スポット溶接は、継手構造上、必然的に応力集中部5(図10)ができ、極端な弱点部となるので、それを補うために、従来はリム2とディスク1との嵌合部長さm′(図9)を大きくし、また嵌合接触部の隙間をなくすなど、継手構造全体で強度を確保するとともに、振れを抑制する対策をとっている。
一方、ディスク1は、図3において2点鎖線で示すように、一辺の長さがL′のほぼ正方形の平板をL′より大きな径D′でプレス抜きしたディスク素材4をディスク形状に成形することにより作製される。この場合、弧の部分4aは、ディスク成形後、図9に示すように直線部となり、辺の部分4bはディスク完成後、図9に示すように円弧状(ベンチレーション部4bと呼ばれる)になる。
従来、上記の如く継手構造全体で強度を確保するとともに振れを抑制するために、ベンチレーション部4bの最凹部(最も凹んだ部分)4cが、リムドロップ部8からサイドウォール部9にかけての湾曲部(R部)のRの中心6より、ホイール軸方向内側に位置し、ディスク立上り部7が全周においてリムドロップ部8と嵌合、接触するように設計されていた。これは、ベンチレーション部最凹部4cをR部中心6よりホイール軸方向外側に設けると、接合部強度が大幅に低下し、かつ振れ精度が悪化すると、過去の経験から考えられていたためである。
その結果、ディスク素材寸法L′は、リム2とディスク1の嵌入時のベンチレーション最凹部位置により決定され、最も理想的には、リム2とディスク1の重なった嵌合部長さm′がベンチレーション最凹部においてなお5?7mm存在する寸法とされていた。
なお、ベンチレーション最凹部をRの中心よりも軸方向外側に出る場合ものとして、図11および図12に示すベンチレーション部を折り曲げを形成して補強するものと、図13および図14に実線で示す特殊形状ブランクとがあるが、これらはつぎの問題があるので、対象としない。
すなわち、図11および図12のものは、ベンチレーション部を補強するために、ベンチレーション部の端縁を折り曲げることが標準化されていた。この折り曲げ部をGで示す。ここで、折り曲げ部Gとは、ディスクのリムへの嵌入後においてベンチレーションの最凹部の断面形状が同じ半径上にある他のディスク部分の断面形状と異なる部分(半径が小さくなる方向に異なる部分)をいうものとする。折り曲げ部Gの周方向各端の立ち上がり部への接続部には、互いに反対側に曲がる2つのR部(R1、R2)が存在する。しかし、この折り曲げ部Gがあることによって、▲1▼ホイールの内部容積が小さくなり(半径がΔRだけ小になる)、ブレーキ収容スペースが確保できない、▲2▼ディスクの剛性がリムの剛性に比べて大になり過ぎ(とくにR1、R2部による剛性アップが大)、溶接部Wに無理な荷重がかかるようになってかえって溶接部の疲労破壊に対する耐久性を低下させるとともに、リムを真円から変形させて車両の乗り心地を悪化させる、▲3▼折り曲げ部分によって材料歩留りが折り曲げ部の長さL分悪くなる、等の問題があった。
また、図13の特殊形状ブランクについては、ディスク素材が角形カット部Kを有するので、図14に示すようにディスクに成形したときにベンチレーション部形状が角部K´を有して弧状にならず、溶接部Wに無理な荷重がかかって疲労耐久性が低下し、車両への搭載において荷重制限を受ける。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、図9に示す通常のホイールにおいては、近年、リムとディスクをディスク立ち上がり部にて、周方向に少なくとも局部的に連続するアーク溶接等により接合する傾向にあり、スポット溶接に比べて継手構造に強度上、剛性上の余裕が出てきた。
本発明の目的は、リムとディスクを周方向に少なくとも局部的に連続する溶接により接合した自動車用ホイールにおいて、強度上、剛性上の余裕をディスク形状寸法の低減に振り当て、耐久性を低下させることなく、ディスク材料節約、重量低減をはかることができる自動車用ホイールを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の自動車用ホイールは次の通りである。
(1)立ち上がり部とベンチレーションを有する絞り成形したディスクと、ドロップ部、サイドウォール部、およびドロップ部とサイドウオール部とを連結する湾曲部を有するリムとを、ディスク立上り部にてリムのドロップ部に溶接接合した自動車用ホイールにおいて、ディスクのリムへの嵌入後においてディスクベンチレーションの端縁はディスク立ち上がり部の端部より軸方向外方に凹むほぼ弧状の凹部をなしており、ディスクベンチレーションの最凹部がリムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に位置し、ディスクベンチレーションの最凹部ではディスクはリムに嵌合、接触せず、かつディスクベンチレーションの最凹部の断面形状が同じ半径上にある他のディスク部分の断面形状とほぼ同じであり、ディスクベンチレーションの最凹部の、リムのドロップ部とサイドウォール部との間の湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に離れている距離(h)が5mm以上30mm以下の範囲で、かつディスク立上り部の端部とリムのドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心とのホイール軸方向距離(m)が3mm以上40mm以下の範囲で、ホイール耐久強度が規格強度の概略値80万回を満足する前記(h)と(m)の組合せが存在する、ことを特徴とする自動車用ホイール。
(2)各ディスク立上り部の端部のホイール周方向長さが30mm以上であり、かつ各溶接部のホイール周方向長さも約30mm以上である(1)記載の自動車用ホイール。
【0005】
上記(1)では、ベンチレーション最凹部を、ドロップ部からサイドウォール部にかけての湾曲部のRの中心よりホイール軸方向外側に位置させたので、ほぼ正方形の平板からディスク素材を得る段階で、ほぼ正方形の平板の一辺の長さLが従来のL′に比べて小さくなり、素材が小さくて済み、大幅な(20?30%もの)材料節約、重量低減がはかられる。しかも、ベンチレーション部はほぼ弧状であり従来のような折り曲げ部Gをもたないので、ディスクの剛性がリムにくらべて過大にならず、溶接部に無理な歪みや荷重がかからず、疲労耐久性が悪化しない。
上記(1)では、ベンチレーション最凹部が湾曲部のRの中心から5mm以上ホイール軸方向外側に離れているので、4つのベンチレーションの一部のみがリムに接触して剛性にアンバランスを生じることがなく、ホイールの振れ抑制が安定しており、自動車の乗り心地は悪化しない。
上記(1)では、ディスク立上り部端部とRの中心との距離(重なり部のホイール軸方向長さ)を3mm以上40mm以下に設定したので、ディスクとリムの強度がバランスして、ホイールの耐久強度が規格必要強度以上に保たれる。
上記(2)では、4ヶ所のディスク立上り部端部の各々のホイール周方向長さが30mm以上としてあり、かつ各溶接部のホイール周方向長さが30mm以上としてあるため、トルクによるリムとディスク間の剪断力にも十分耐えることができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の望ましい実施例に係る自動車用ホイールを図1?図7を参照して説明する。
図1、図2に示すように、本発明実施例の自動車用ホイールは、絞り成形したディスク10とリム20とを、溶接で接合したものからなる。さらに詳しくは、ディスク10は4つの立上がり部13と4つのベンチレーション部11を有する。リム20は、ドロップ部21、サイドウォール部22、ドロップ部21とサイドウォール部22を連結する湾曲部23、を有する。湾曲部23は湾曲のRの中心24を有する。ディスク10はリム20に、立上がり部13にてリムドロップ部21に溶接接合されている。30は溶接部を示している。溶接は、スポット溶接以外の溶接であればよく、たとえばアーク溶接、レーザ溶接等であり、すみ肉溶接でも貫通溶接(完全溶けこみ溶接)でもよい。
ディスクベンチレーション部11の端縁は、ディスク10のリム20への嵌入後において、ディスク立ち上がり部13の端部より軸方向外方に凹むほぼ弧状の凹部をなしている。ほぼ弧状のため、図13、図14に実線K、K´で示すようなベンチレーション形状を含まない。ただし、図13、図14において、2点鎖線P、P´のような浅い弧状のカットのものは成形後ほぼ弧状のベンチレーション部を形成するため、本発明に含む。また、ディスクベンチレーションの最凹部12がリムのドロップ部21とサイドウォール部22との間の湾曲部23のRの中心24よりホイール軸方向外側に位置している。さらに、ディスクベンチレーションの最凹部12の断面形状は、ディスク10のリム20への嵌入後において、ディスクベンチレーションの最凹部12と同じ半径上にある他のディスク部分の断面形状とほぼ同じである。すなわち、図11および図12に示したような折り曲げ部Gをもたない。
【0007】
本発明実施例の自動車用ホイールの製造方法では、図3、図4に示すように、ほぼ正方形の平板40の4つの角部を前記ほぼ正方形の一辺の長さLより大きな径D(ただしほぼ正方形の対角線よりは小)で除去(機械的切断、プレス切断を含む)してディスク素材41を作製する。ついで、ディスク素材41を絞り成形して図5に示すような立上がり部13とベンチレーション11を有するディスク形状に成形してディスク10とする。図4の四隅の円弧部41aは図5ではディスク立上り部13の端部(直線部)となり、図4の辺41bは図5ではベンチレーション部11となる。一方、リム20は、別工程にて、平板を丸め、端部を突き合わせ溶接して円筒部材となし、ついで、リム形状にロール成形される。リム20は、ドロップ部21、サイドウォール部22、およびドロップ部21とサイドウォール部22とを連結する湾曲部23とを有する。ついで、ディスク10は、ディスク立ち上がり部13にてリムのドロップ部21の内周面に溶接接合される。溶接はベンチレーション部11には施されない。
【0008】
ディスク素材41の作製工程において、平板40の前記ほぼ正方形の一辺の長さLを、ディスク10のリム20への嵌入後においてディスクベンチレーションの最凹部12がリム20のドロップ部21からサイドウォール部22にかけての湾曲部23のRの中心24よりホイール軸方向外側に位置するように決定する。 図3において、平板4の一辺の長さL′が大だと、図5においてベンチレーション11の凹部の深さは浅く、図9に示すようにベンチレーション最凹部4cはR部中心6よりホイール軸方向内側にくるが、平板40の一辺の長さLが小だと、図5においてベンチレーション11の凹部の深さは深く、図2に示すようにベンチレーション最凹部12はR部中心24よりホイール軸方向外側に位置するようになる。そして、従来は、図8、図9に示すように、リム2とディスク1は全周にわたって嵌合、接触するが、本発明実施例では、図1、図2に示すように、リム20とディスク10はベンチレーション11以外の部分だけで嵌合するようになる。
このため、平板素材40の段階で、一辺の長さがL′からLに小さくなり、材料、重量は二乗で効いて(L)2/(L′)2倍になり、大幅に小になる。乗用車用ホイールのディスクの場合、一辺の長さは14?17%小となり、その結果20?30%もの重量低減、材料節約がはかれる。
【0009】
ディスク10の成形工程においては、ディスクベンチレーション11の端縁をディスク10のリム20への嵌入後においてディスク立ち上がり部13の端部より軸方向外方に凹むほぼ弧状に成形する。したがって、図14のような角部K´をもつベンチレーションは含まない。
また、ディスク10の成形工程においては、ディスクベンチレーションの最凹部12の断面形状をディスク10のリム20への嵌入後においてディスクベンチレーションの最凹部12と同じ半径上にある他のディスク部分の断面形状とほぼ同じに成形する。したがって、図12に示すようなディスクベンチレーションに折り曲げ部Gを有するものは含まない。
【0010】
リム20にディスク10を嵌入し、リム20とディスク10とは、ディスク立上り部13の部位(ディスク立上がり部13の端部、またはディスク立上がり部端部からホイール軸方向外側に10mm以内の範囲で隔たった位置)で周方向に少なくとも局部的に連続する長さ30mm以上の溶接にてリムドロップ部21の内周面に接合される。
【0011】
上記のディスク10の小型化をはかった自動車用ホイールおよびその製造方法では、リムとディスク間のトルク伝達強度が十分であるとともに、振れ(ホイール横振れ)と強度(耐久強度)が従来に比べて悪化しないように、以下に示す条件が具備されることが望ましい。
【0012】
まず、トルク伝達強度(耐剪断強度)を確保するために、4つのディスク立ち上り部13の端部の各々のホイール周方向長さC(図2)を30mm以上に設定するとともに、各ディスク立ち上り部13における連続溶接長を30mm以上に設定した。連続溶接部の全立ち上り部についての合計長さは4×30mm=120mm以上であり、従来の8ヶ所のスポット溶接(ナゲット径約15mm×8=120mm)によるトルク伝達強度に比べて遜色ない強度である。
【0013】
つぎに、振れについては、一般的に絞り時のベンチレーション最凹部の位置のばらつきが振れの増幅の原因となる。すなわち、ベンチレーション4ケ所均等であれば問題は発生しないが、4ヶ所均等に絞り成形することは技術的に困難であるためばらつきが発生する。その場合、ベンチレーション最凹部をR部中心より内側でR部中心に近づけるとR部中心よりも外に出る部分と内側になる部分が発生し、出る部分は剛性低下となり、内側になる部分は剛性大となって、両者間にアンバランスが生じ、結果としてリムに対してディスクが大きく傾き振れとなる。ベンチレーション最凹部12がR部中心24からホイール軸方向外側に外れる長さhを変化させて振れとの関係を見た結果を図6に示す。ただし、図6は乗用車用ホイール(リムビードシート径が12?16インチ、幅が4?7インチのホイール)でテストしたリムビードシート径の半径方向振れを示す。h=約1mmを中心として約±1mmの範囲で振れの大きくなる範囲がある。h≧2mmで振れは小さくなり、とくにh≧5mmで振れは安定して小である。したがって、ベンチレーション最凹部をリムドロップ部からホイール軸方向外側にすると振れが大になると考えられていた従来のおそれは、h≧2mmとすることによって解消される。h≧5mmの場合はとくに望ましい。また、hには、C(各ディスク立ち上り部13の端部のホイール周方向長さ)を30mm以上とすることにより通常は上限がある。
【0014】
つぎに、耐久強度については、ディスク立上り部13の端部とリムR部中心24との距離m(リムとディスクの接地長さに等しい)も耐久試験に影響すると考えられるので、ベンチレーション最凹部12のリムR部中心24からの距離hにパラメーターmを加えて、耐久強度(亀裂発生までのドラム回転数)との関係を試験したところ、図7に示す結果を得た。この結果、hとmを最適に設定することで、従来の強度に関するおそれも解消される。
図7をさらに説明すると、mが小さすぎても大きすぎてもホイール耐久強度は低下する。mが小さすぎるとリム20に比べてディスク10の剛性が小になってディスク10の変形が大になり、ディスク10に応力が集中する。逆にmが大きすぎるとリム20の変形が大になり、リム20に応力が集中する。リム20とディスク10の変形がバランスする程度のmで耐久強度が最大となるので、そのようなmが各hに対して選択されるべきである。
また、hがたとえば30mm以下の領域に設定されると、図7からmが3?40mmの領域に設定されれば、ホイール耐久強度(ドラム上耐久試験)が規格強度(約80万回)を満足するmとhの最適な組合せが十分に存在することが判明する。
【0015】
【発明の効果】
請求項1の自動車用ホイールによれば、ベンチレーション最凹部がリムR部中心よりホイール軸方向外側に位置しているので、素材寸法を従来に比べて小にでき、大幅な材料節約、重量低減をはかれる。また、従来のようにベンチレーション部の端縁を折り曲げることもないので、ブレーキと折り曲げ部との干渉、ディスク剛性過多によるアンバランスによって生じる溶接部の耐久性の低下、折り曲げ部分の材料歩留りの悪化、等の問題も生じない。
請求項1の自動車用ホイールによれば、ベンチレーション最凹部とリムR部中心との距離hを5mm以上としたため、ホイール横振れも小となり、耐久性が低下せず、乗り心地も悪化しない。
請求項1の自動車ホイールによれば、ディスク立上り部端部とリムR部中心との距離mを3?40mmに設定したので、h=30mm以下の範囲において耐久強度が確保されるhとmの最適組合せが得られる。
請求項2の自動車用ホイールによれば、各ディスク立上り部端部のホイール周方向長さを30mm以上とし、各立上がり部の溶接長を30mm以上としたため、従来のスポット溶接ホイールと同等以上のトルク伝達強度を保証できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例の自動車用ホイールの正面図である。
【図2】
図1の自動車用ホイールの断面図である。
【図3】
図1の自動車用ホイールの素材平板の平面図である。
【図4】
図3の素材平板を径Dで4つの角部を除去したディスク素材の平面図である。
【図5】
図4のディスク素材をプレス成形してディスクとした場合の斜視図である。
【図6】
ベンチレーション最凹部とリムR部中心との距離h(mm)と横振れとの関係を示すグラフである。
【図7】
hと、ディスク立上り部端部とリムR部中心との距離mと、耐久強度との関係を示すグラフである。
【図8】
従来の自動車用ホイールの正面図である。
【図9】
図8の自動車用ホイールの断面図である。
【図10】
図8のスポット溶接部の拡大断面図である。
【図11】
従来のベンチレーション部を折り曲げる場合のベンチレーション近傍の部分正面図である。
【図12】
図11のベンチレーション近傍の断面図である。
【図13】
従来の特殊ブランクの部分平面図である。
【図14】
図13のブランクを絞り成形したディスクのベンチレーション近傍の平面図である。
【符号の説明】
10 ディスク
11 ベンチレーション
12 ベンチレーション最凹部
13 ディスク立上り部
20 リム
21 ドロップ部
22 サイドウォール部
23 R部(湾曲部)
24 R部のRの中心
30 アーク溶接部
40 平板
41 ディスク素材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-09-26 
結審通知日 2006-09-29 
審決日 2006-10-11 
出願番号 特願平7-288862
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B60B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小関 峰夫  
特許庁審判長 鈴木 久雄
特許庁審判官 永安 真
柴沼 雅樹
登録日 2003-08-15 
登録番号 特許第3460764号(P3460764)
発明の名称 自動車用ホイール  
代理人 田渕 経雄  
代理人 田渕 経雄  
代理人 田渕 智雄  
代理人 田渕 智雄  
代理人 西 義之  

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