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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B44C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B44C
管理番号 1148787
審判番号 不服2003-10919  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-12-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-13 
確定日 2006-12-08 
事件の表示 平成11年特許願第156018号「転写方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月12日出願公開、特開2000-343896〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年6月3日の出願であって、平成18年3月29日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年6月2日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲は、平成18年6月2日付け手続補正書により補正され、その請求項1及び2の記載は次のとおりである。
【請求項1】 転写したい草花や印刷物等の転写物よりトナーを用いたカラーコピー等をコピー可能な用紙に行なうコピー工程と、このコピー工程でコピーしたコピー用紙を水に漬ける水に漬ける工程と、この水に漬ける工程後に転写したい物の上面にコピー部分が接触するように位置させ、上部よりアイロンをかけ、コピー部分を転写したい物に転写する転写工程と、この転写工程後に転写部分に付着している紙を水洗い等によって除去する紙部分除去工程とを含むことを特徴とする転写方法。
【請求項2】 転写したい草花や印刷物等の転写物よりトナーを用いたカラーコピー等をシリコン、テフロン、樹脂等の合成樹脂材がコーティングされたコピー可能な用紙に行なうコピー工程と、このコピー工程でコピーしたコピー用紙を水に漬ける水に漬ける工程と、この水に漬ける工程後に転写したい物の上面にコーティング部分の表面あるいは裏面が接触するように位置させ、上部よりアイロンをかけ転写したい物に転写する転写工程とを含むことを特徴とする転写方法。

3.当審の拒絶理由
平成18年3月29日付けで当審により通知された拒絶理由のうち理由2)は、「本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。」というものであり、その具体的理由は、「第3 特許法第36条の違反について」の(1)乃至(6)に記載した、次のとおりである。ここで(2)、(3)及び(5)については転記を省略する。

(1)本願発明1の「水に漬ける工程」について、本願明細書には実施の形態として、
「【0009】
7は前記コピー工程1でコピーしたコピー用紙8を、図3に示すように水に漬ける水に漬ける工程で、この水に漬ける工程7は前記コピーしたコピー用紙8のコピー用紙3全体に水が含まれる状態にまで漬ける。」
と記載されているが、いかなる理由で水に漬ける工程が必要なのか、この水が転写にいかに作用するかについて具体的な説明はない。
また、本願発明1の「転写工程」について、本願明細書には実施の形態として、
「【0010】
9は前記水に漬ける工程7後に、図4に示すように転写したい物10の上面にコピー6が接触するようにコピーしたコピー用紙8を位置させ、上部よりアイロン11をかけ、コピー6を転写したい物10に転写する転写工程で、この転写工程9で使用する転写したい物10は布地、紙、木、タイル等のアイロン11のかけられる形状に形成されたものであれば、どんなものであってもよい。」
と記載されているが、ここでもコピー用紙を水に漬けることとアイロンをかけることで、いかなる理由で転写したい物の側に良好な転写が行われるかについて具体的な説明はない。
ここで、従来の転写方法についてみると、トナー画像を形成したコピー用紙を薬液に浸すことによりトナー画像を膨潤又は溶解状態とし、さらに転写材(本願の「転写したい物」に相当する)に粘着剤層をもうけたものを用いることにより綺麗かつ簡単に転写するもの(「第2」において刊行物2として示した特開平8-72386号公報)や、スルホン酸変性ポリビニルアルコールからなる複写用基体にトナー画像を形成し、アクリル系粘着剤を塗布した転写シート(本願の「転写したい物」に相当する。)に転写するもの(原査定の理由に示された特開平6-40144号公報)など、いずれもコピー用紙に離型性を付与したり、あるいは転写したい物に粘着性を付与する、さらには薬液を特定する等により転写性を改善しているものである。そのような中で、コピー用紙を水に浸し、転写したい物に重ね合わせアイロンをかけるだけで、何故、コピー用紙と物品とが、良好な転写が行えるのか理解できない。本願発明1がいかなる理由で良好な転写が行えるのか、意見書等において説明されたい。同様に図4の3段目のようにトナー画像を転写したい物に残して、コピー用紙のみを剥がすことが何故可能なのかについても説明されたい。(以下、「拒絶理由1」という。)

(4)請求項3には・・・・実施できる程度に記載したものとは認められない。
また、同請求項において、「コーティング部分の表面あるいは裏面が接触するように位置させ」と記載されているが、コーティング部分の裏面が接触するように転写したい物を位置させて、いかなる理由で良好な転写が行えるのか不明である。また上記記載について、明細書には記載されておらず、同請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていないものを含んでいる。(以下、(4)の後段に記載した拒絶理由を「拒絶理由2」という。)

(6)以上のことから、本願請求項1?6に係る発明は明確でなく、請求項3は発明の詳細な説明に記載したものでなく、また本願明細書は、本願発明1?6を当業者が実施できる程度の記載したものでない。

4.出願人による意見書における説明
平成18年6月2日付けで提出された意見書において、上記した拒絶理由に対するものとしての記載は次のとおりである。

(3)なお、記載不備と認定された本願発明の請求項1、3、補正によって請求項1、2となった発明の「コピー工程でコピーしたコピー用紙を水に漬ける水に漬ける工程」はアイロンをかけ時にコピー用紙が焦げたりするのを防止するためのもので、当然コピー部分とコピー用紙との接着力を弱くすることも可能である。
また、図4は転写工程を示すもので、この転写工程は転写したときのコピー用紙を除去するまでのことである。
なお、この工程ではコピー部分から完全に紙部分を除去することはできない。 さらに、紙部分除去工程はコピー用紙を除去してもコピー部分に付着している紙部分を除去するための作業である。
(4)以上述べたように、本願発明の請求項1、2の発明は不明瞭ではないので、本願発明が特許法第36条第4項および第6項の規定に該当するとする審判の合議による認定には、断じて承服できません。

5.当審の判断
(1)拒絶理由1について
拒絶理由1について、4.に引用したように、出願人は「水に漬ける工程」が、転写工程においてアイロンをかける時にコピー用紙が焦げることを防止することと、コピー用紙とコピー用紙上に形成された画像を構成するトナーとの付着力を弱めることで転写しやすくする意味があることを主張しているが、コピー用紙を水に浸し、転写したい物に重ね合わせアイロンをかけるだけで、一方のコピー用紙上に形成されたトナー画像が、コピー用紙から離れて他方の転写したい物に良好に転写されることについての明確な説明はしなかった。
そして、拒絶理由1において従来の技術と対比しつつ述べたように、従来の転写方法では、コピー用紙に離型性を付与したり、あるいは転写したい物に粘着性を付与する、さらには薬液を特定する等により転写性を改善していたところ、そのような手法を採らずに、コピー用紙を水に浸し、転写したい物に重ね合わせアイロンをかけるという単純な方法で、良好な転写が行えるというのは、技術常識に反しており、出願人の本願発明によれば良好な転写が行える旨の主張を直ちに採用することはできない。さらに、いかなるコピー用紙を使用して、このコピー用紙上にどのような条件により形成したトナー画像を、どのような転写したい物に対して、本願請求項1に係る発明によりどのように転写すれば、良好な転写が得られたという、具体的な実施例の記載は明細書に存在せず、当業者であっても、本願明細書の記載から、本願請求項1に係る発明を再現可能(追試可能)とはいえない。
よって、依然として、拒絶理由1は解消しておらず、本願明細書は、本願請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。

(2)拒絶理由2について
拒絶理由2について、出願人による反論はなかった。そして、用紙のコーティング部分にトナー画像を形成することができたとしても、その部分の裏側を転写したい物に接触させて、いかなる理由で転写したい物に、そのトナー画像が転写できるのか不明である。用紙のコーティング部分に形成されたトナー画像はアイロンに溶融接着こそすれど、それが転写したい物に転写できるとは考えられないし、用紙のコーティング部分に形成されたトナー画像が、用紙を通過して、用紙の反対側の面に移動するとも考えられない。
よって、本願明細書は、本願請求項2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。
また、請求項2の「この水に漬ける工程後に転写したい物の上面にコーティング部分の表面あるいは裏面が接触するように位置させ、上部よりアイロンをかけ転写したい物に転写する転写工程」の記載のうち「この水に漬ける工程後に転写したい物の上面にコーティング部分の裏面が接触するように位置させ、上部よりアイロンをかけ転写したい物に転写する転写工程」の点については、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。
よって、請求項2に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものとも認められない。

6.結論
したがって、本願の明細書の記載は、特許法第36条第4項及び同項第6項に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-25 
結審通知日 2006-10-03 
審決日 2006-10-16 
出願番号 特願平11-156018
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (B44C)
P 1 8・ 537- WZ (B44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲赤木 啓二  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 松本 泰典
伏見 隆夫
発明の名称 転写方法  
代理人 三浦 光康  

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