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審決分類 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない E02D
管理番号 1149044
審判番号 訂正2006-39102  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-03-16 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2006-06-13 
確定日 2006-12-06 
事件の表示 特許第3764564号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第3764564号発明の図面の図1、3、4、5及び7を審判請求書に添付した訂正図面の図1、3、4、5及び7のとおりに訂正しようとするものである。

(1)訂正事項
(a)図面の図1を訂正図面の図1のとおり訂正する。
(b)図面の図3を訂正図面の図3のとおり訂正する。
(c)図面の図4を訂正図面の図4のとおり訂正する。
(d)図面の図5を訂正図面の図5のとおり訂正する。
(e)図面の図7を訂正図面の図7のとおり訂正する。

なお、訂正の理由について、請求人は、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明であると主張している。

2.訂正拒絶の理由
当審は、平成18年8月11日付けで訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。
通知した訂正の拒絶の理由の概要は、下記のとおりである。
(理由)
訂正事項(a)乃至(d)は、何れも、本件発明の本質的部分ないし技術的特徴部分に関する事項を実質的に変更するないし追加するものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされた誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明であるとは認められない。
したがって、本件審判の請求は、同法第126条第3項及び第4項の規定に適合しない。

3.当審の判断
3-1 本件発明の本質的部分ないし技術的特徴部分について
最初に、本件発明の本質的部分ないし技術的特徴部分について検討する。

ところで、本件特許明細書には、本件発明の課題及び解決手段につき、次の記載がある。
(イ)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、擁壁に関する。 … 擁壁101 は常に裏込め土Gから土圧Hを受けており、擁壁101 は裏込め土Gからの土圧Hを押し返し、裏込め土Gを支持している。擁壁101 が地盤に面した底面のうちで、背面端縁部を接地後端縁部5といい、前面端縁部を接地前端縁部4という。
【0002】ところで、擁壁の安全性とは、地震時であっても、裏込め土Gからの土圧Hによって転倒せず、地盤の上で滑動せず、地盤の中に沈下しないことをいう。このうち、擁壁の滑動における安全性は安全率Fによって評価され、この安全率FはμV/Hで表される。ここに、μは地盤との間の摩擦係数、Vは擁壁の自重、Hは裏込め土Gから受ける土圧である。この安全率Fは高ければ高い程安全性に優れていると云える。この安全率Fは、法律等によりその下限値が定められており、安全率Fがその下限値を下回る擁壁を施工することは許されていない。」
(ロ)「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかるに、もたれ式擁壁を山の斜面に施工した場合、裏込め土Gにもたれ式擁壁をもたれ掛けさせているので、裏込め土G側の地下に下水管等を埋設するときには、もたれ式擁壁を取り壊してから工事を行う必要がある。逆に云えば、もたれ式擁壁を取り壊してからでないと、倒れてしまい危険なので、前記下水管工事に取りかかれない。このため、一旦もたれ式擁壁を取り壊してから、下水管工事を行い、再びもたれ式擁壁を施工するので大変手間がかかり、この結果、工期が長くなり、それだけ施工費用も高くつくという問題がある。
【0005】また、片持ばり式擁壁を施工するためには、山の斜面を大きく切り崩す必要がある。このため、この片持ばり式擁壁を施工するには手間がかかり、工期および施工費用が高くつくという問題がある。
【0006】そして、前述のごとく、擁壁の滑動における安全性は安全率Fすなわち、μV/Hによって評価される。このため、擁壁の自重Vを大きくすればする程、安全率Fが高くなるが、逆に擁壁はその自重Vによって地盤に沈下してしまうという問題がある。また、自重Vの大き過ぎる擁壁は経済的に無駄が多いという問題がある。
【0007】さらに、裏込め土Gから受ける土圧Hは、擁壁と裏込め土Gとが接している面積ではなく、裏込め土Gの高さによって決まり、この裏込め土Gの高さの2乗に比例して指数的に大きくなる。つまり、擁壁をむやみに高くすると、逆に安全率Fが低くなるという問題がある。
【0008】さらにまた、擁壁を河川部に施工する場合、河川部の水から擁壁に浮力が働き、その浮力が大きいと、転倒しやすく、危険であるという問題がある。
【0009】本発明はかかる事情に鑑み、転倒、滑動および擁壁沈下を生じず安全で、しかも安価に施工することができる擁壁を提供することを目的とする。」
(ハ)「【0010】【課題を解決するための手段】請求項1の擁壁は、重心が全体の1/2以上の高さにあって、かつ、重心が平面視で接地前端縁部と接地後端縁部との真ん中より後方で、前記接地後端縁部より前方の位置にあることを特徴とする。」

上記記載によれば、本件発明は、(下水管工事等の際に裏込め土Gを除去すると擁壁が自立できないこと、また、河川部の水から擁壁に浮力が働くことから)擁壁が転倒しやすいという問題、及び、擁壁が滑動しにくいように擁壁の自重を大きくすると擁壁が沈下してしまうという問題を解決することを目的とし、その解決手段として「重心が全体の1/2以上の高さにあって、かつ、重心が平面視で接地前端縁部と接地後端縁部との真ん中より後方で、前記接地後端縁部より前方の位置にある」という構成を提示したものであるということができる。
そうすると、本件発明の解決手段である「重心が全体の1/2以上の高さにあって、かつ、重心が平面視で接地前端縁部と接地後端縁部との真ん中より後方で、前記接地後端縁部より前方の位置にある」という構成を具体的に提示したものであるところの本件特許明細書及び図面に記載された実施例の構成において、その擁壁の具体的形状に関わる構成は、その擁壁自体の重心位置を決定づける直接的要素であるといえるから、本件発明の本質的部分に関わる事項であって、技術的特徴部分であるといえる。
したがって、本件特許明細書及び図面に記載された実施例の構成の内、その擁壁の具体的形状に関わる構成を変更するような訂正やその擁壁の具体的形状に関わる構成を新たに追加するような訂正は、本件特許明細書及び図面に記載されたところの本件発明の本質的部分ないし技術的特徴部分に関する事項を実質的に変更するないし追加するものであり、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではないものであり、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合しないものといえるから、そのような訂正は許されないというべきである。

3-2 訂正内容の適否
そこで、各訂正内容を具体的に検討してみる。
(i)訂正事項(a)について
訂正事項(a)は、図面の図1において、擁壁1Aが地盤に面した底面のうちで(裏込め土側であるところの)背面端縁部である接地後端縁部5を通るように補助線として、垂直に引いた後縁垂直線であるL2に、擁壁1Aの上部2の背面側の面が一致している形状を、擁壁1Aの上部2の背面側の面が補助線L2より、さらに裏込め土側に張り出すような形状に訂正するものである。
ところで、誤記の訂正等として認められる範囲とは、上記したように、本件発明の本質的部分ないし技術的特徴部分に関する事項を実質的に変更するないし追加するようなものではないこと、即ち、擁壁の具体的形状は維持したままで、説明のための補助線や点、各部の名称等を訂正することに限られる。例えば、図1の図面を訂正する際に、擁壁の重心位置を補助線L1より左側に位置するように訂正することや、接地前端縁部と接地後端縁部につき名称を入れ替えることが、認められる可能性があるものとして挙げられる。前者に該当する訂正については、本件特許明細書の図1の図面で示される擁壁の重心位置は、その形状からL1の線より左側に位置することが明らかであって、これを正しい位置に示すことは、正に誤記の訂正というべきものであるし(このことに関して、請求人は、審判請求書において、擁壁内の密度を変えたり、素材を変えれば訂正前の図面で表された形状でも、図1の位置での重心位置となることが成立する旨、主張しているが、密度や素材を変えることについては、願書に最初に添付した明細書及び図面には記載されていないので、このような主張は採用できるものではない。)、後者に該当する訂正については、図1における重心位置を形状から把握される正しい位置に訂正した上で、各部の名称の誤記を特許請求の範囲に整合するように訂正するものである場合である(ただし、このことは、図1のみに着目した場合に限られるのであって、本件特許明細書の段落【0001】において、図7を用いて接地前端縁部と接地後端縁部を明確に定義した上で、図1?7に渡って一貫して左側を接地前端縁部、右側を接地後端縁部として説明していること等、本件特許明細書及び図面全体を参酌した際には、妥当であるとはいえない。)。
そうしてみると、訂正事項(a)は、擁壁の具体的形状は維持したままで、説明のための補助線や点、各部の名称等を訂正しようとするものではなく、擁壁の具体的形状に関わる構成そのものを変更するものであるから、本件発明の本質的部分ないし技術的特徴部分に関する事項を実質的に変更するないし追加する、謂わば、新たに実施例を追加するものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされた誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明であるとは認められない。
したがって、訂正事項(a)は、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合しない。

(ii)訂正事項(b)、(c)及び(d)について
訂正事項(b)、(c)及び(d)は、何れも、擁壁の具体的形状に関わる構成を変更するものであるから、上記(i)で述べた理由と同様に、本件発明の本質的部分ないし技術的特徴部分に関する事項を実質的に変更するないし追加するものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされた誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明であるとは認められない。
したがって、訂正事項(b)、(c)及び(d)は、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合しない。

(iii)訂正事項(e)について
訂正事項(e)は、図面の図7において、裏込め土Gの図形に土のイメージを与えるため点々を付加したものであって、図面をより明りょうとなるようにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正であるし、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えてされたものということもできない。

4.むすび
以上検討したことから、本件審判の請求は、訂正事項(a)、(b)、(c)及び(d)に関して、第126条第3項及び第4項の規定に適合するということができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-05 
結審通知日 2006-10-11 
審決日 2006-10-24 
出願番号 特願平9-246068
審決分類 P 1 41・ 855- Z (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 草野 顕子  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 柴田 和雄
西田 秀彦
登録日 2006-01-27 
登録番号 特許第3764564号(P3764564)
発明の名称 擁壁  
代理人 山内 康伸  

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