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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200323305 審決 特許
不服20061161 審決 特許
不服200213631 審決 特許
不服200321212 審決 特許
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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B24B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B24B
管理番号 1149094
審判番号 無効2006-80047  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-03-20 
確定日 2006-12-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第3701356号発明「微細パターン部分研磨装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3701356号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯・本件発明
本件は、平成7年10月26日に出願され、平成17年7月22日にその請求項1ないし3に係る発明についての特許が設定(特許第3701356号)されたものであり、これに対して、平成18年3月20日に請求人から本件無効審判が請求され、一方、平成18年7月14日及び平成18年10月2日に被請求人からは上申書が提出された。
本件特許明細書において、特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】 微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正する微細パターン部分研磨装置において、研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段を具備し、該測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御するもので、前記測定する手段が、被研磨体と研磨体の間にレーザ光を通し、該レーザ光をセンサーで検知し、その検知電圧の変化により、間隔を測定するもの、あるいは、被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出し、該吹き出した圧縮空気の圧力の変化量をセンサーにより読み取り、読み取られた圧力の変化量により、間隔を測定するもの、あるいはまた、接触式の圧力センサを用いて、被研磨体の基準面を測定するものであることを特徴とする微細パターン部分研磨装置。
【請求項2】 請求項1において、少なくとも研磨体表面が略球面形状の研磨用ヘッドを具備することを特徴とする微細パターン部分研磨装置。
【請求項3】 請求項1において、少なくとも研磨体がワイヤー状で構成されていることを特徴とする微細パターン部分研磨装置。」(以下、「本件特許発明」という。)

第2.請求人の主張の概要
請求人は、本件発明の特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、概ね、次の1ないし3を挙げ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証を提示している。
1.特許法第36条第4項第1号(特許法第123条第1項第4号)
本件特許の要旨は、被研磨体と研磨体との間の間隔を測定する手段を有し、当該測定手段からの出力に基づき、研磨中における被研磨体と研磨体との間の間隔を制御することにあるものと解される。しかしながら、
(1)甲第1号証(本件特許公報)の図1(a)に記載された実施例では、研磨ヘッドと突起との間にレーザ光を通過させ、いかなる手法により研磨ヘッドと突起との間の間隔ないし距離を測定するのか具体的な測定手法は記載されていない。
(2)甲第1号証の図1(b)に記載された実施例では、突起に対して、いかなるビーム形状及びビーム幅のレーザビームを突起のいかなる部分に向けて投射するか記載されていないため、突起の高さを測定する具体的な測定手法が不明である。
(3)甲第1号証の図2(a)に記載された実施例では、ゲージセンサの出力値とセンサ29により検出された圧縮空気の圧力値とから、いかにして研磨ヘッドと被研磨体との間隔を測定するか記載されず、且つ突起の高さをいかにして測定するかも記載されていない。
(4)甲第1号証の図2(b)に記載された実施例においては、圧力センサを被研磨体の基準面と接触させて基準面を検出した後、いかにして被研磨体と研磨体との間の間隔を測定するかについて説明されていない。
(5)甲第1号証に記載された各実施例には、研磨ヘッドを駆動する駆動回路と駆動信号について、なんら説明を見出すことはできない。
2.特許法第36条第6項(特許法第123条第1項第4号)
特許請求の範囲の請求項1に記載されている研磨体表面と被研磨体との間の間隔を制御する制御手段及び制御方法、すなわち研磨ヘッドを駆動制御する手段及び方法自体が記載されず、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
3.特許法第29条第2項(特許法第123条第1項第2号)
本件の請求項1?3に係る各特許発明は、甲第4号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができた程度にすぎないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第3.甲第1号証ないし甲第9号証
甲第1号証 特許第3701356号の明細書及び図面
(本件特許公報)
甲第2号証 特願平7-302034号の平成17年4月22日付け意見書
甲第3号証 特願平7-302034号の出願当初の明細書及び図面
甲第4号証 特開平6-313871号公報
甲第5号証 特開平7-253507号公報
甲第6号証 特開平3-269307号公報
甲第7号証 特開平5-250037号公報
甲第8号証 特開平7-205011号公報
甲第9号証 特開平7-52014号公報

第4.被請求人の主張の概要
被請求人は、平成18年7月14日付の上申書において、本件無効審判請求は成り立たないとの審決を求め、その理由として、次の1ないし2を挙げている。
1.本件特許発明と先行技術との相違(特許法第29条第2項違反に対する反論)
(1)甲第4号証(特開平6-313871号公報)
甲第4号証記載の発明は、微小突起除去装置及びカラーフィルタ補修装置に関するもので、研磨ヘッド47とカラーフィルタ3との間の相対距離を高精度に規制するだけで、本件特許発明のように研磨ヘッドと突起等の間隔を測定し、得られた情報に基づき、この間隔を制御するものではない。
また、本件特許発明の測定手段と、甲第4号証記載の測定手段は相違する。
(2)甲第5号証(特開平7-253507号公報)
甲第5号証記載の発明は、フィルタの異物修正装置に関するもので、突起の高さを把握するものではなく、加工手段の下面とフィルタの一方面との間の隙間hを制御するだけで、本件特許発明のように研磨ヘッドと突起等の間隔を測定し、得られた情報に基づき、この間隔を制御するものではない。
(3)甲第6号証(特開平3-269307号公報)
甲第6号証記載の発明は、すきま測定機に関するもので、産業上の利用分野としては、ファクトリオートメーションの現場や事務用機器等において、ローラその他のすきまを測定する点が示されているのみで、この技術が、微細パターンに発生した突起等の測定に適用できる点や、本件特許発明のような測定対象に適用できる点は示されていない。
甲第6号証記載の発明において、一次元CCD5上の受光している範囲は、通過光6の幅と対応しており、一次元CCDの受光範囲を求めることによってローラ2、2のすきま3の幅を検出するものであるが、これはドラムとドラムとが水平であることを前提としている。したがって、甲第6号証記載の発明は、突起が傾斜を有する等して水平とは限らない、研磨体と突起等の距離を測定する本件特許発明に適用できるものではない。
(4)甲第7号証(特開平5-250037号公報)
甲第7号証記載の発明は、位置検出方式に関するもので、産業上の利用分野としては、ロボットシステムでのワークの位置検出に際し、特に薄膜圧力センサを用いてワークに位置を検出するもので、この技術が、微細パターンに発生した突起等の測定に適用できる点や、本件特許発明のような測定対象に適用できる点は示されていない。
甲第7号証記載の発明の薄膜圧力センサは、ワークの形状等を検出するためのものであるのに対して、本件特許発明の接触式圧力センサーは、被研磨体の基準面の位置を測定するものであり、その形状等を検出するものではない。またロボットが作業を行うに際してワーク位置を認識するために用いられる甲第7号証の薄膜圧力センサに対して、本件特許発明の接触式圧力センサーは、単に接触式であるのみならず圧力を検知することにより、被研磨体たる基板を傷つけることの無いものであり、わずかのキズでも問題となる光学部材であるカラーフィルター基板や、フォトマスクにおいて効果を発揮するものである。
(5)甲第8号証(特開平7-205011号公報)
甲第8号証には、フィルタ基板上に存在する異物を連続移送される研磨テープにより除去するに際し、上記異物の残存高さを測定しつつ研磨除去することを特徴とするフィルタ基板異物除去方法が記載されているが、本件特許発明の構成要件及びそれにより得られる顕著な効果について記載も示唆もしていない。
(6)甲第9号証(特開平7-52014号公報)
甲第9号証には、面取り加工が施された半導体ウェハーの周縁に設けられているノッチ部にヒモ状研摩部材を当接させ、ウェハーとヒモ状研摩部材とを相対的に押圧してヒモ状研摩部材を走行させることを特徴とするウェハーノッチ部の鏡面研摩方法が記載されているが、本件特許発明の上記構成要件及びそれにより得られる顕著な効果について記載も示唆もしていない。
(7)甲第4?9号証の組み合わせについて
甲第4?9号証のいずれにも、本件特許発明の構成要件である、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御する微細パターン部分研磨装置」については記載も示唆もされていない。そしていずれの甲号証にも「研磨体表面と被研磨体の間隔、すなわち、研磨ヘッド等の研磨体表面と、突起や突起周辺の基準面等の被研磨体の間隔を測定する」との基本的な技術思想がないことから、これら甲号証記載の発明を如何に組み合わせても本件特許発明の構成に至るものではない。
2.記載要件の充足について(特許法第36条第4項、第6項違反に対する反論)
(1)間隔の測定について
本件特許発明の研磨体表面と被研磨体との間隔の測定に関し、請求人は当業者が本件特許発明を実施できる程度に記載されていないと主張する。
しかしながら、明細書には、被研磨体と研磨体の間にレーザ光を通し、該レーザ光をセンサーで検知し、その検知電圧の変化により、間隔を測定するもの、あるいは、被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出し、該吹き出した圧縮空気の圧力の変化量をセンサーにより読み取り、読み取られた圧力の変化量により、間隔を測定するもの、あるいはまた、接触式の圧力センサを用いて、被研磨体の基準面を測定するものの各方法において、どのように研磨体表面と被研磨体の間隔を測定するか、またはそれぞれの測定の結果どのようなデータが得られたかが具体的に記載されている。
そして本件特許発明は、微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正する微細パターン部分研磨装置に関するものであるから、当然に、基準面である基板上から突き出た不必要な突起等の高さを計測し、その上で所定の範囲・高さで研磨除去を行うものである。したがってその測定範囲・対象は、例えば明細書の第16段落に記載されたように、レーザを使用して被研磨体の基準面を測定し、更にレーザを使用して突起等の高さ及び位置を測定し、その値に応じて研磨ヘッドを制御することにより突起等を部分研磨するものである。
(2)間隔の制御について
一般に、測定結果すなわち測定手段からの情報に基づき、制御対象を制御することは広く行われているところである。
当業者であるならば、微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正するとの本件特許発明の目的・課題に照らし、研磨体表面と被研磨体との間に一定間隔を制御する為の手段及び突起等の高さを計測する方法として、レーザを使用する方法、圧縮空気の圧力変化を検知する方法、接触式の圧力センサを用いる方法等を用い、さらに、これらを具体的にどのような構成とするかは、出願時の技術水準を考え合わせながら実験等を行うことにより適宜設定できる程度のものである。

第5.当審の判断
1.特許法第36条第4項について
(1)特許法第36条第4項では、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な開示を要求している。ここで、請求人は、「特許法第36条第4項第1号違反」を主張しているが、本件特許が出願された平成7年10月において、特許法第36条第4項に第1号は存在しない。しかしながら、特許法第36条第4項第1号違反を主張する請求理由の要約、すなわち、審判請求書の第2頁第4行?第7行には「本件特許発明の必須構成要件である研磨体表面と被研磨体との間隔を測定する手段並びに当該測定手段からの情報に基づいて研磨体表面と被研磨体との間隔を制御する手段が、発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」と記載されていることから、発明の詳細な説明において、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないことを主張していることは明らかである。したがって、この主張は、「特許法第36条第4項違反」の明らかな誤りである。
そこで、特許法第36条第4項違反の点について検討する。
(2)本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1では、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段」及び「測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御するもの」を発明特定事項としている。そして、「前記測定する手段」に関して、「被研磨体と研磨体の間にレーザ光を通し、該レーザ光をセンサーで検知し、その検知電圧の変化により、間隔を測定するもの」、「被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出し、該吹き出した圧縮空気の圧力の変化量をセンサーにより読み取り、読み取られた圧力の変化量により、間隔を測定するもの」、及び「接触式の圧力センサを用いて、被研磨体の基準面を測定するもの」の3つの手段を並列に発明特定事項としている。請求項1では、測定手段を並列に3つ設け、そのいずれかの手段を採用することを発明特定事項としているから、3つの測定手段それぞれについて、実施可能となっていなければならない。ここで、測定するのは研磨体表面と被研磨体の間隔であるから、「前記測定する手段」とは、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段」を意味することは明らかである。以下、この発明特定事項が本件特許明細書及び図面に記載されているかどうかを検討する。
(2)-1.レーザ光により間隔を測定するものについて
本件特許明細書の段落番号【0015】には、「図1(a)は被研磨体である突起等の高さと研磨体の間にレーザ16からレーザ光17を通し、これをセンサー18で検知し、その検知電圧の変化により、間隔を測定する方法である。」と記載され、図面の図1(a)とともに、第一の発明の一例して説明されている。
しかしながら、本件特許発明は、請求項1で特定されているように、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する」発明であるから、このようなレーザ16からレーザ光17を通すという説明だけでは、いかにして研磨体表面と被研磨体の間隔の測定に結びつけるのか説明されていない。また、この点を、本件出願時において、当業者にとって技術常識であるということはできない。したがって、上記の点については、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分には記載されていないものである。
また、本件特許明細書の段落番号【0016】には、「図1(b)は単数または、複数のレーザ16’、16”を使用して被研磨体の基準面を測定し、更に上記の同一または、別のレーザ16’、16”を使用して突起等の高さ及び位置を測定する。その値に応じて研磨ヘッドを制御させることにより、突起等を部分研磨する。この方法は、突起等の平面位置を知ることができるため、自動化・量産性に富む方法である。
尚、被研磨体全面をレーザー光111又は111’でスキャニングした後、突起等の高さ・位置が記憶制御装置にメモリーして自動制御する。」と記載され、図面の図1(b)とともに、レーザ光により間隔を測定する発明の別の一例として説明されている。
しかしながら、前述したように、本件特許発明は、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する」発明であるから、単数または複数のレーザにより傾斜して照射しそれをスキャンすれば、技術常識を参酌することにより基準面及び突起の高さ及び位置は測定可能ではあるものの、それは「突起を含む被研磨体の形状の測定」であって、「研磨体表面と被研磨体の間隔の測定」ではない。したがって、この点についても、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分には記載されていないものである。
(2)-2. 圧縮空気の吹き出しによるものについて
本件特許明細書の段落番号【0017】には、「図2(a)は図1(a)(b)の様にレーザを用いず、(a)は隙間に吹き出した圧縮空気214の影響の変化量により、計測しようとるものである。即ち、平板27に圧縮空気の吹き出し口28を設けこれを圧力検知穴211より取り入れた空気をセンサ29で検出すると共に被研磨体と研磨体との間隔の変化により生じる圧力変化を読みとる。そして、これと同時に平板と突起等23と接触した時のゲージセンサ212の変化の値を読む。この方法では、突起の位置の特定は困難であるが、一時に広い面積において、微細パターン21上の突起等の有無が測定できるので、量産品の被検査物の突起等の有無を迅速にスクリーニングできる。」と記載され、図面の図2(a)とともに、圧縮空気の吹き出しにより間隔を測定する発明の一例として説明されている。
しかしながら、ここで説明されているのは、平板27に圧縮空気の吹き出し口28を設け、それを同じく平板27に設けた圧力検知穴211より取り入れた空気をセンサ29で検出していることから、これで測定できるのは「平板27と被研磨体である微細パターン21の間の距離」であって、「研磨体表面と被研磨体の間隔」ではない。したがって、この点についても、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分には記載されていないものである。
(2)-3.接触式の圧力センサを用いたものについて
本件特許明細書の段落番号【0018】には、「図2(b)は接触式の圧力センサー213を用いて、被研磨体の基準面を測定し、その後、その測定結果から研磨体と被研磨体の間隔を制御する方法である。この方法は、研磨体24と接触式圧力センサ213が別々に構成されており、最初に接触式圧力センサ213にて、被研磨体23の基準面21に接触させて基準面の位置を測定した後、研磨体24を所望の高さに移動して突起等23を部分研磨するものである。」と記載され、図面の図2(b)とともに、接触式圧力センサにより間隔を測定する発明の一例として説明されている。
しかしながら、ここで説明されているのは、被研磨体23の基準面21の位置、及び突起等の高さの測定であって、「研磨体表面と被研磨体の間隔の測定」ではない。したがって、この点についても、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分には記載されていないものである。
(3)測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御する点について
本件請求項1に記載された発明においては、測定する手段により得られた情報とは「研磨体表面と被研磨体の間隔」であるから、この研磨体表面と被研磨体の間隔の情報をもとに研磨体表面と被研磨体の間隔を制御することになる。
研磨体表面と被研磨体の間隔を制御する点については、本件特許明細書の段落番号【0016】に「図1(b)は単数または、複数のレーザ16’、16”を使用して被研磨体の基準面を測定し、更に上記の同一または、別のレーザ16’、16”を使用して突起等の高さ及び位置を測定する。その値に応じて研磨ヘッドを制御させることにより、突起等を部分研磨する。」と記載され、また、段落番号【0018】に「被研磨体の基準面を測定し、その後、その測定結果から研磨体と被研磨体の間隔を制御する方法である。」と記載され、その他には研磨体表面と被研磨体の間隔を制御する旨の説明はない。
しかしながら、一般に、研磨において、研磨体表面と被研磨体との間隔が測定できれば、その間隔を制御することは従来周知であった(例えば、請求人の提出した甲第4号証には、その第4頁、段落番号【0017】に、「研磨装置による研削量は研磨装置本体の最終降下位置により規定されるため、研磨装置本体すなわち研磨ヘッド47とカラーフィルタ3との間の相対距離を高精度に規制する必要がある。」と記載されている。)ことから、研磨体表面と被研磨体との間隔が測定できれば、その間隔を制御することは、当業者の技術常識を参酌することにより、当業者が実施可能なものである。したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。
(4)特許法第36条第4項についてのまとめ
以上、(2)-1?(2)-3に示したとおり、本件特許明細書及び図面には、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する」ことについて、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分には記載されていないので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
2.特許法第36条第6項第1号について
(1)特許法第36条第6項第1号では、特許を受けようとするする発明、すなわち、特許請求の範囲の各請求項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものであることを要求している。ここで、請求人は、「特許法第36条第6項違反」を主張しているだけで、第1号違反を主張しているのか第2号違反を主張しているのか、明確な記載は審判請求書中には存在しない。しかしながら、特許法第36条第6項違反を主張する請求理由の要約、すなわち、審判請求書の第2頁第9行?第10行には「特許請求の範囲の請求項1に記載の必須構成要件である「研磨体表面と被研磨体との間隔を制御する手段」が発明の詳細な説明において記載されていない。」と記載されていることから、請求項に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されていないことを主張するものであることは明らかである。したがって、この主張は「特許法第36条第6項第1号違反」の明らかな誤りである。
(2)請求人は、「特許請求の範囲の請求項1に記載の必須構成要件である「研磨体表面と被研磨体との間隔を制御する手段」が発明の詳細な説明において記載されていない。」(審判請求書の第2頁第9行?第10行。)と主張している。本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載中、段落番号【0016】には、「図1(b)は単数または、複数のレーザ16’、16”を使用して被研磨体の基準面を測定し、更に上記の同一または、別のレーザ16’、16”を使用して突起等の高さ及び位置を測定する。その値に応じて研磨ヘッドを制御させることにより、突起等を部分研磨する。」と記載され、また、段落番号【0018】にも「被研磨体の基準面を測定し、その後、その測定結果から研磨体と被研磨体の間隔を制御する方法である。」と記載されている。すなわち、「研磨体表面と被研磨体との間隔を制御する」こととほぼ同様の記載が存在する。そして、第5の1.(3)で言及しているように、研磨体表面と被研磨体との間隔が測定できれば、その間隔を制御することは、当業者の技術常識を参酌することにより当業者が実施可能なものである。したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。
(3)本件特許請求の範囲の請求項1では、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段」を有することも必須構成要件としている。この点に関しては、第5の1(2)-1?(2)-3で言及したように、本件特許明細書及び図面に、各種の測定手段についての記載はあるものの、それらは、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段」ではない。また、請求項1において、「被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出し、該吹き出した圧縮空気の圧力の変化量をセンサーにより読み取り、読み取られた圧力の変化量により、間隔を測定するもの」と限定しているが、発明の詳細な説明に記載されたものは、段落番号【0017】、あるいは図面の図2(a)に記載されているように、平板27と微細パターン21との隙間に圧縮空気を吹き出すものであって、被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出したものではない。したがって、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段」、あるいは、「被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出し、該吹き出した圧縮空気の圧力の変化量をセンサーにより読み取り、読み取られた圧力の変化量により、間隔を測定するもの」については、発明の詳細な説明に記載されていない。
(4)特許法第36条第6項第1号についてのまとめ
上記(3)に示したとおり、本件特許発明の請求項1において発明特定事項とされている「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段」、あるいは、「被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出し、該吹き出した圧縮空気の圧力の変化量をセンサーにより読み取り、読み取られた圧力の変化量により、間隔を測定するもの」については、発明の詳細な説明に記載されていないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.特許法第29条第2項について
(1)本件特許は第5の1及び2で言及しているように不備がある。したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲の各請求項に記載された発明を、各請求項の記載をそのまま採用しても、特許法第29条第2項の要件については判断できない。
この点につき、被請求人は平成18年7月14日付けの上申書の第5頁第8行?第10行に「そしてこの手段は、突起と研磨体との間の距離を測定しつつ突起周辺の基準面を測定することから、研磨が必要な基準面からの突起の高さも測定される。」と主張している。
そこで、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1において、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段」を、「被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段」と置き換え、これにより、仮に特許法第29条第2項の規定を満たしているか否かを検討する。
(2)仮に認定した本件特許発明
そうすると、本件特許請求の範囲に記載された発明は、「研磨体表面と被研磨体の間隔を測定する手段」を、「被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段」と置き換えることになる。合わせて、測定する手段により測定される「間隔」をすべて、「被研磨体の基準面からの突起の高さ」と置き換えることにより、以下の通りとなる。
「 【請求項1】 微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正する微細パターン部分研磨装置において、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段を具備し、該測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御するもので、前記測定する手段が、被研磨体と研磨体の間にレーザ光を通し、該レーザ光をセンサーで検知し、その検知電圧の変化により、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定するもの、あるいは、被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出し、該吹き出した圧縮空気の圧力の変化量をセンサーにより読み取り、読み取られた圧力の変化量により、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定するもの、あるいはまた、接触式の圧力センサを用いて、被研磨体の基準面を測定するものであることを特徴とする微細パターン部分研磨装置。
【請求項2】 請求項1において、少なくとも研磨体表面が略球面形状の研磨用ヘッドを具備することを特徴とする微細パターン部分研磨装置。
【請求項3】 請求項1において、少なくとも研磨体がワイヤー状で構成されていることを特徴とする微細パターン部分研磨装置。」(なお、下線は、もとの特許請求の範囲の記載から置き換えた部分を示す。)
ところで、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、計測する手段を3つ挙げ、そのいずれかの測定手段による微細パターン部分研磨装置としていることから、結局、請求項1に記載された発明は、以下の3つの発明のうち、いずれか1つと考えることができる。
発明1-1
「微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正する微細パターン部分研磨装置において、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段を具備し、該測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御するもので、前記測定する手段が、被研磨体と研磨体の間にレーザ光を通し、該レーザ光をセンサーで検知し、その検知電圧の変化により、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定するものであることを特徴とする微細パターン部分研磨装置。」
発明1-2
「微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正する微細パターン部分研磨装置において、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段を具備し、該測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御するもので、前記測定する手段が、被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出し、該吹き出した圧縮空気の圧力の変化量をセンサーにより読み取り、読み取られた圧力の変化量により、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定するものであることを特徴とする微細パターン部分研磨装置。」
発明1-3
「微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正する微細パターン部分研磨装置において、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段を具備し、該測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御するもので、前記測定する手段が、接触式の圧力センサを用いて、被研磨体の基準面を測定するものであることを特徴とする微細パターン部分研磨装置。」
(3)甲第8号証(特開平7-205011号公報)に記載された発明
一方、甲第8号証には、以下の記載がある。
ア.明細書の段落番号【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は、例えばカラー液晶パネルの構成要素としてのカラーフィルタ基板の異物除去に用いられるフィルタ基板異物除去方法及びその装置に関するものである。」
イ.明細書の段落番号【0011】
「図1乃至図9の第一実施例において、1は機台、2は移動機構であって、この場合機台1上に摺動部3により前後方向に移動自在に前後スライド台4を配設し、この前後スライド台4を前後移動用モータ5及びボールネジ機構6により移動可能に設け、この前後スライド台4上に摺動部7により左右方向に移動自在に左右スライド台8を配設し、この左右スライド台8を左右移動用モータ9及びボールネジ機構10により移動可能に設け、この左右スライド台8上に図外の吸着固定機構等によりフィルタ基板Wを位置決め状態で固定載置可能な載置台11を配設して構成している。」
ウ.明細書の段落番号【0012】
「12はテープ移送機構であって、この場合機台1の後部に機体13を立設し、機体13の前部に上下移動台14を摺動部15により上下動作可能に設け、この上下移動台14を上下させる上下動用モータ16及びボールネジ機構17を設け、上下移動台14の左右側部に・・・研磨テープTの実巻リール18及び巻取リール19を軸着し、この実巻リール18を繰出回転させる繰出用モータ20を設け、かつ巻取ローラ21を巻取回転させる巻取用モータ22を設け、巻取用モータ22によりベルト23を介して巻取リール19を巻取回転させ、上下移動台14にテンション機構24を配設し、テンション機構24の進退動作可能なプランジャ25にテンションローラ26を取付け、実巻リール18から引き出した研磨テープTをローラー27、テンションローラー26、ローラ28、ローラ29を介して異物除去部30により折り返し案内し、ローラ31、ローラ32を介して巻取ローラ21と挟着ローラ33との間を経て巻取リール19に巻回し、実巻リール18及び巻取リール19を回転させながら巻取ローラ21により研磨テープTを一方向に連続移送させるように構成している。」
エ.明細書の段落番号【0014】
「37は押圧部であって、弾圧機構37aを含んで構成され、上記案内ガイド35にナット体38及びガイド体39を取付ボルト40により取付け、ガイド体39に摺動穴41を形成し、摺動穴41に鋼球、樹脂製球等の球体42を上下移動自在に内装し、摺動穴41の下周縁部に球体42の一部が突出する状態で保持可能な抜止部43を形成し、ナット体38に調節用ネジ44を螺着し、摺動穴41内に上下二個の押圧片45により押圧用バネ46を挟装して内装し、研磨テープTを球体42により適宜調節されたバネ圧により弾圧して構成している。・・・」
オ.明細書の段落番号【0016】
「50は高さ測定部であって、この場合マイクロコンピュータ等により構成され、上記テープ移送機構12及び移動機構2並びに位置制御部47、上下動用モータ16に電気的に接続され、例えば、顕微鏡式自動計測器やCCDカメラ等のセンサー手段51を備えてなり、この場合設定された加工時間での研磨除去加工の後に移動機構2により異物Mとセンサー手段51とが対向し、この対向位置で異物Mの残存高さHを測定し、所定の高さ、例えば3μm?5μm以内になっていれば以降の除去加工を停止し、また所定の高さに達していない場合には、再加工信号を出力し、移動機構2により異物Mと異物除去部30とを対向させ、異物除去部30により再度設定された加工時間の除去加工を行い、加工後に再度異物Mの残存高さHを再度測定するように構成されている。」
以上の記載から、図面の図1乃至図9を参照することにより、甲第8号証には以下の発明が記載されている。
「フィルタ基板W上の異物Mを連続移送される研磨テープTにより除去するフィルタ基板異物除去装置において、異物Mの残存高さHを測定するCCDカメラ等のセンサー手段51を有し、異物Mの残存高さが所定の高さ以内になるまで異物Mの除去加工を行なうフィルタ基板異物除去装置。」(以下、「引用発明」とする。)
(4)発明1-1と引用発明との検討
(4)-1.対比
上記発明1-1と引用発明とを対比すると、引用発明の「異物M」、「フィルタ基板異物除去装置」はそれぞれ、発明1-1の「突起等」、「微細パターン部分研磨装置」に相当する。
引用発明の「フィルタ基板W」は、摘記事項アにあるように、カラー液晶パネルの構成要素としてのものであるので、当然、その表面には微細パターンが形成されるものであり、また、その周辺にもその他の情報を形成するものであることから、発明1-1の「微細パターン形成領域及びその周辺」も含むものである。
引用発明の「異物Mを連続移送される研磨テープTにより除去する」ことは、発明1-1の「突起等を研磨方法により修正する」ことに相当する。
引用発明の「異物Mの残存高さ」とは、発明1-1の「被研磨体の基準面からの突起の高さ」に相当することは明らかである。
したがって、発明1-1と引用発明とは、以下の一致点、及び相違点1及び2を有する。
一致点
「微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正する微細パターン部分研磨装置において、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段を具備する微細パターン部分研磨装置。」
相違点1
被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段が発明1-1では被研磨体と研磨体の間にレーザ光を通し、該レーザ光をセンサーで検知し、その検知電圧の変化により、測定するものであるのに対し、引用発明では、CCDカメラにより計測するものである点。
相違点2
研磨に関し、発明1-1では、測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御しているのに対し、引用発明では、測定する手段により得られた情報である異物Mの残存高さは利用しているものの、どのような制御を行っているかは不明な点。
(4)-2.判断
上記相違点について検討する。
(4)-2-1.相違点1について
2つの物体の間にレーザ光を通し、該レーザ光をセンサーで検知し、その検知電圧の変化により、2つの物体間の距離を測定することは、例えば、特開昭63-117204号公報、特開平6-167320号公報に記載されているように周知の技術であり、この周知技術を引用発明に適用することを阻害する要因は存在しない。そして、研磨体である研磨テープTと被研磨体であるフィルタ基板Wとの間にレーザ光を通し、研磨テープTとフィルタ基板Wとの間の距離、及び、研磨テープTと異物Mとの間の距離を測定することにより、結果として異物Mの残存高さを求めることが可能である。したがって、引用発明において、CCDカメラにより異物Mの残存高さを測定することに代え、上記周知のレーザ光とセンサーを用い、間接的に異物Mの残存高さを測定することは、当業者が容易になし得たものである。
(4)-2-2.相違点2について
被研磨体から突出する突起を研磨するために、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御することは、甲第4号証(甲第4号証の明細書の段落番号【0017】には、「研磨装置による研削量は研磨装置本体の最終降下位置により規定されるため、研磨装置本体すなわち研磨ヘッド47とカラーフィルタ3との間の相対距離を高精度に規制する必要がある。」との記載がある。)、あるいは甲第5号証(甲第5号証の明細書の段落番号【0020】には、「請求項2の発明に係る異物修正装置は、流量変化検出手段が検出した流体の流量変化に応じて、加工手段の下面とフィルタの一方面との間の隙間の距離を制御できる。」との記載がある。)に記載されているように周知の技術であることから、引用発明においても、異物Mの残存高さHが所定の高さ以内になるように、研磨体表面と被研磨体である「研磨テープTとフィルタ基板W」の間隔を制御するようにすることは、当業者が容易になし得たものである。
(4)-3.むすび
したがって、発明1-1は、甲第8号証に記載された発明及び上記周知技術を用いることにより、当業者が容易になし得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(5)発明1-2と引用発明との検討
(5)-1.対比
上記発明1-2と引用発明とを対比すると、引用発明の「異物M」、「フィルタ基板異物除去装置」はそれぞれ、発明1-2の「突起等」、「微細パターン部分研磨装置」に相当する。
引用発明の「フィルタ基板W」は、摘記事項アにあるように、カラー液晶パネルの構成要素としてのものであるので、当然、その表面には微細パターンが形成されるものであり、また、その周辺にもその他の情報を形成するものであることから、発明1-2の「微細パターン形成領域及びその周辺」も含むものである。
引用発明の「異物Mを連続移送される研磨テープTにより除去する」ことは、発明1-2の「突起等を研磨方法により修正する」ことに相当する。
引用発明の「異物Mの残存高さ」とは、発明1-2の「被研磨体の基準面からの突起の高さ」に相当することは明らかである。
したがって、発明1-2と引用発明とは、以下の一致点、及び相違点3及び2を有する。
一致点
「微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正する微細パターン部分研磨装置において、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段を具備する微細パターン部分研磨装置。」
相違点3
被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段が発明1-2では被研磨体と研磨体との隙間に圧縮空気を吹き出し、該吹き出した圧縮空気の圧力の変化量をセンサーにより読み取り、読み取られた圧力の変化量により、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定するものであるのに対し、引用発明では、CCDカメラにより計測するものである点。
相違点2
研磨に関し、発明1-2では、測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御しているのに対し、引用発明では、測定する手段により得られた情報である異物Mの残存高さは利用しているものの、どのような制御を行っているかは不明な点。
(5)-2.判断
上記相違点について検討する。
(5)-2-1.相違点3について
甲第5号証である特開平7-253507号公報には、加工工具59のボルト57の端面58に形成されたエア噴出口60からエアを噴出し、カラーフィルタ49と加工工具59との隙間をこのエアの圧力により測定する技術が記載されている。ここで、加工工具59は、異物50が存在する場合、異物50を除去することなしにはそれ以上カラーフィルタ49に接近できないことは明らかであるので、結局、カラーフィルタ49と加工工具59との隙間を測定した場合、その測定された値は、異物50の高さに相当するものである。そして、甲第5号証に記載された技術を引用発明に適用することを阻害する要因は存在しない。したがって、引用発明において、CCDカメラにより異物Mの残存高さを測定することに代え、甲第5号証に記載されたエア噴出の技術を適用し、研磨テープTとフィルタ基板Wの距離を測定することにより、結果として、異物Mの残存高さを測定することは、当業者が容易になし得たものである。
(5)-2-2.相違点2について
相違点2については、(4)-2-2で言及した通り、甲第4号証、甲第5号証に記載の従来周知の技術を用いることにより、当業者が容易になし得たものである。
(5)-3.むすび
したがって、発明1-2は、甲第8号証に記載された発明、甲第5号証に記載された技術及び上記周知技術を用いることにより、当業者が容易になし得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(6)発明1-3と引用発明との検討
(6)-1.対比
上記発明1-3と引用発明とを対比すると、引用発明の「異物M」、「フィルタ基板異物除去装置」はそれぞれ、発明1-3の「突起等」、「微細パターン部分研磨装置」に相当する。
引用発明の「フィルタ基板W」は、摘記事項アにあるように、カラー液晶パネルの構成要素としてのものであるので、当然、その表面には微細パターンが形成されるものであり、また、その周辺にもその他の情報を形成するものであることから、発明1-3の「微細パターン形成領域及びその周辺」も含むものである。
引用発明の「異物Mを連続移送される研磨テープTにより除去する」ことは、発明1-3の「突起等を研磨方法により修正する」ことに相当する。
引用発明の「異物Mの残存高さ」とは、発明1-3の「被研磨体の基準面からの突起の高さ」に相当することは明らかである。
したがって、発明1-3と引用発明とは、以下の一致点、及び相違点4及び2を有する。
一致点
「微細パターン形成領域およびその周辺に発生する突起等を研磨方法により修正する微細パターン部分研磨装置において、被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段を具備する微細パターン部分研磨装置。」
相違点4
被研磨体の基準面からの突起の高さを測定する手段が発明1-3では接触式の圧力センサを用いて、被研磨体の基準面を測定するものであるのに対し、引用発明では、CCDカメラにより計測するものである点。
相違点2
研磨に関し、発明1-3では、測定する手段により得られた情報に基づいて、研磨体表面と被研磨体の間隔を制御しているのに対し、引用発明では、測定する手段により得られた情報である異物Mの残存高さは利用しているものの、どのような制御を行っているかは不明な点。
(6)-2.判断
上記相違点について検討する。
(6)-2-1.相違点4について
甲第7号証である特開平5-250037号公報には、車体30のワーク31に薄膜圧力センサ1を押し付けることにより、ワーク31の位置を検出する技術が記載されている。薄膜圧力センサ1は、明らかに接触式の圧力センサであり、ワーク31の位置を測定する。そして、甲第5号証に記載された技術を引用発明に適用することを阻害する要因は存在しない。そして、異物Mの残存高さを測定する場合には、フィルタ基板Wの基準面の位置、及び異物Mの上端の位置の2箇所について、接触式の圧力センサで測定すれば、異物Mの残存高さが測定できることは明らかである。したがって、引用発明において、CCDカメラにより異物Mの残存高さを測定することに代え、甲第7号証に記載された薄膜圧力センサの技術を適用し、その薄膜圧力センサによりフィルター基板Wの基準面及び異物Mの上端の位置を測定し、もって異物Mの残存高さを測定することは、当業者が容易になし得たものである。
(6)-2-2.相違点2について
相違点2については、(4)-2-2で言及した通り、甲第4号証、甲第5号証に記載の従来周知の技術を用いることにより、当業者が容易になし得たものである。
(6)-3.むすび
したがって、発明1-3は、甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された技術及び上記周知技術を用いることにより、当業者が容易になし得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(7)仮に認定した本件特許発明の請求項2ないし3について
請求項2において特定されている「研磨体表面が略球面形状の研磨用ヘッドを具備する」点については、甲第8号証に記載されているとおり、また、請求項3において特定されている「研磨体がワイヤー状で構成されている」点については、甲第9号証である特開平7-52014号公報に記載されているとおり、ともに周知の事項である。
したがって、請求項2ないし3に記載された発明は、甲第8号証に記載された発明、甲第5号証、甲第7号証それぞれに記載された技術、及び周知技術、周知事項を用いることにより、当業者が容易になし得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(8)特許法第29条2項の要件に関する仮の検討のまとめ
以上のとおり、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を、仮に認定しても、当該仮に認定した請求項1に係る発明は、甲第8号証に記載された発明、甲第5号証、甲第7号証それぞれに記載された技術、及び周知技術を用いることにより、また、請求項2ないし3に記載された発明は、上記発明及び技術、周知技術に加え、甲第9号証に記載された周知事項を用いることにより、当業者が容易になし得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

第6.むすび
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第29条第2項に規定する要件について検討するまでもなく、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2006-10-20 
結審通知日 2006-10-27 
審決日 2006-11-07 
出願番号 特願平7-302034
審決分類 P 1 113・ 537- Z (B24B)
P 1 113・ 536- Z (B24B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 横溝 顕範  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 菅澤 洋二
中島 昭浩
登録日 2005-07-22 
登録番号 特許第3701356号(P3701356)
発明の名称 微細パターン部分研磨装置  
代理人 結田 純次  
代理人 小山 有  
代理人 竹林 則幸  
代理人 高木 千嘉  
代理人 三輪 昭次  
代理人 大山 健次郎  

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