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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1149133
審判番号 不服2004-7514  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-11-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-14 
確定日 2006-12-20 
事件の表示 平成 8年特許願第101713号「インクジェット記録方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月 4日出願公開、特開平 9-286125〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成8年4月23日の出願であって、平成16年3月10日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年4月14日付けで本件審判請求がされたものである。
本願においては、平成13年6月21日付け及び平成14年9月24日付けで特許請求の範囲全体を補正する手続補正がされ、平成15年7月29日付けで特許請求の範囲のうちの【請求項1】,【請求項6】及び【請求項13】を補正する手続補正がされた(その余の請求項は補正されていない。)。したがって、本願の請求項17に係る発明(以下「本願発明」という。)は平成14年9月24日付け手続補正書の【請求項17】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「インクを吐出するための複数の記録素子を備えた記録ヘッドを用い、それぞれ異なる色および明度を有する複数のインクを前記記録ヘッドから記録媒体上に吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
第1の明度を有し且つ第1の色を有する第1のインクを吐出する記録素子に対して供給するための、画素単位毎にドットの記録と非記録を示す2値で表現される第1記録データと、前記第1の明度より低い第2の明度を有し且つ前記第1の色とは異なる第2の色を有する第2のインクを吐出する記録素子に対して供給するための、画素単位毎に2よりも大きいn値の階調値で表現される第2記録データとを生成するデータ生成工程と、
前記データ生成工程において生成された前記第1記録データと前記第2記録データとを、それぞれに対応するインクを吐出するための記録素子に供給する供給工程と、
前記供給工程により供給された記録データに基づいて前記複数の記録素子を駆動して記録を行う記録工程とを備え、
前記記録工程では、前記第1のインクは2値の前記第1記録データに基づいて前記画素毎にドットの記録の有無が制御され、前記第2のインクは、前記第1のインクのドットの記録の有無が制御される前記画素と同じ大きさの画素毎に、前記n値の階調値が示す値に応じて記録するドットの数が制御されて、記録が行われることを特徴とするインクジェット記録方法。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-24006号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア?オの記載が図示とともにある。
ア.「20℃における表面張力が40dyn/cm未満のカラーインクを印字した後、表面張力が40dyn/cm以上のブラックインクを印字するカラーインクジェット記録方法において、
前記ブラックインクの1ドット単位を複数のインク滴で形成することを特徴とするカラーインクジェット記録方法。」(【請求項1】)
イ.「カラーインクがイエロー、マゼンタ、シアンであることを特徴とする請求項1記載のカラーインクジェット記録方法。」(【請求項2】)
ウ.「ブラックインク1ドット単位を構成するインク滴の数はインク重量とインク滴の広がりによって決定されるが、記録ヘッドの応答性や紙送りのタイミング等、記録装置にも関わることから、実用的には、カラーインク1ドットに対して、2?4個で構成するのが望ましい。」(段落【0010】)
エ.「360dpi、48ノズルのオンデマンド型インクジェット記録装置を用いて」(段落【0027】)
オ.「カラーインク1ドットに対する、ブラックの1ドット単位を複数のインク滴で形成した場合、記録紙上で薄く均一にインクを付着させることによって、ブラックインクのインク重量を少なくでき、混色によるにじみを抑え、カラー画像の速乾性も改良できる。」(段落【0039】)

2.引用例記載の発明の認定
記載ア,イには、ブラックインクとカラーインクの1ドット単位の関係について直接的な記載はないけれども、記載ウ,オによれば、それらは同一であり、カラーインクの場合には1ドット単位を1インク滴で形成し、ブラックインクの場合には1ドット単位を複数インク滴で形成することが明らかである。
また、記載エによれば、カラーインク及びブラックインクに共通して、複数のノズルからインクを吐出することも明らかである。
したがって、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「20℃における表面張力が40dyn/cm未満のカラーインクを印字した後、表面張力が40dyn/cm以上のブラックインクを印字するカラーインクジェット記録方法において、
カラーインク及びブラックインクに共通して、複数のノズルからインクを吐出し、
カラーインクはイエロー、マゼンタ及びシアンであり、
カラーインクの1ドット単位を1インク滴で形成するとともに、それと同一ドット単位をブラックインクにより複数のインク滴で形成するカラーインクジェット記録方法。」(以下「引用発明」という。)

3.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「ブラック」は他の色(特にイエロー)よりも明度が低いことは明らかであるから、引用発明の「イエローインク」及び「ブラックインク」が、本願発明の「第1の明度を有し且つ第1の色を有する第1のインク」及び「第1の明度より低い第2の明度を有し且つ前記第1の色とは異なる第2の色を有する第2のインク」にそれぞれ相当する。
引用発明においては、ノズルが複数あり、そうである以上「インクを吐出するための記録素子」も複数ある。記録素子を備えたインク吐出機構全体は通常「記録ヘッド」と呼ばれる(記載ウにも「記録ヘッド」との用語が用いられている。)から、「インクを吐出するための複数の記録素子を備えた記録ヘッドを用い、それぞれ異なる色および明度を有する複数のインクを前記記録ヘッドから記録媒体上に吐出して画像を記録するインクジェット記録方法」である点で本願発明と引用発明は一致している。
引用発明の「1ドット単位」が本願発明の「画素単位」に相当する。引用発明において、イエローインク(第1のインク)及びブラックインク(第2のインク)で記録するためには、それぞれの色で記録するための画素単位毎に記録データを生成・供給し、記録しなければならないことはいうまでもない。すなわち、「第1の明度を有し且つ第1の色を有する第1のインクを吐出する記録素子に対して供給するための、画素単位毎の第1記録データと、前記第1の明度より低い第2の明度を有し且つ前記第1の色とは異なる第2の色を有する第2のインクを吐出する記録素子に対して供給するための、画素単位毎の第2記録データとを生成するデータ生成工程」、「前記データ生成工程において生成された前記第1記録データと前記第2記録データとを、それぞれに対応するインクを吐出するための記録素子に供給する供給工程」及び「前記供給工程により供給された記録データに基づいて前記複数の記録素子を駆動して記録を行う記録工程」を備える点では、本願発明と引用発明に相違はない。
次に、画素単位毎の最大ドット数について検討する。本願発明では「前記第1のインクは2値の前記第1記録データに基づいて前記画素毎にドットの記録の有無が制御され」るのだから、第1のインクの画素単位毎の最大ドット数は1である。また、本願発明では「前記第2のインクは、前記第1のインクのドットの記録の有無が制御される前記画素と同じ大きさの画素毎に、前記n値の階調値が示す値に応じて記録するドットの数が制御」されるのだから、第2のインクの画素単位毎の最大ドット数は2以上である。すなわち、画素単位毎の最大ドット数については、第1インク及び第2インクともに本願発明と引用発明に相違はない。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「インクを吐出するための複数の記録素子を備えた記録ヘッドを用い、それぞれ異なる色および明度を有する複数のインクを前記記録ヘッドから記録媒体上に吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
第1の明度を有し且つ第1の色を有する第1のインクを吐出する記録素子に対して供給するための、画素単位毎の第1記録データと、前記第1の明度より低い第2の明度を有し且つ前記第1の色とは異なる第2の色を有する第2のインクを吐出する記録素子に対して供給するための、画素単位毎の第2記録データとを生成するデータ生成工程と、
前記データ生成工程において生成された前記第1記録データと前記第2記録データとを、それぞれに対応するインクを吐出するための記録素子に供給する供給工程と、
前記供給工程により供給された記録データに基づいて前記複数の記録素子を駆動して記録を行う記録工程とを備え、
画素単位毎の最大ドット数は、前記第1のインクについては1とし、前記第2のインクについては2以上とするインクジェット記録方法。」である点で一致し、次の各点で相違する。
〈相違点1〉本願発明が、第1記録データにつき「画素単位毎にドットの記録と非記録を示す2値で表現される」と、第1のインクの記録制御につき「前記第1のインクは2値の前記第1記録データに基づいて前記画素毎にドットの記録の有無が制御され」とそれぞれ限定しているのに対し、引用発明にはこれら限定がない点。
〈相違点2〉本願発明が、第2記録データにつき「画素単位毎に2よりも大きいn値の階調値で表現される」と、第2のインクの記録制御につき「前記第1のインクのドットの記録の有無が制御される前記画素と同じ大きさの画素毎に、前記n値の階調値が示す値に応じて記録するドットの数が制御され」とそれぞれ限定しているのに対し、引用発明においては「前記第2のインクは、前記第1のインクのドットの記録の有無が制御される前記画素と同じ大きさの画素毎」に記録されることは認められるものの、その限定を有さない点。

4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
(1)相違点1について
1画素を2値化記録する場合と多値化(3値化以上)記録する場合に共通して、ディザ法や誤差拡散法により階調表現を行う技術は周知である(例えば、特開平5-270011号公報又は特開平4-201355号公報を参照。以下、この技術を「周知技術1」という。)。
他方、引用例にはインク滴の大きさを制御する旨の記載はない。そうであれば、引用発明において、画素単位毎に1ドットで記録する第1のインク(イエローインク)について周知技術1を採用し、画素単位毎に2値化記録しつつ階調表現を行うことは当業者にとって想到容易というべきである。画素単位毎に2値化記録することは、第1記録データを「画素単位毎にドットの記録と非記録を示す2値で表現される」データとし、「前記第1のインクは2値の前記第1記録データに基づいて前記画素毎にドットの記録の有無が制御され」ることにほかならない。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到できたものである。

(2)相違点2について
1画素を最大複数ドットで記録する場合、ドット数を制御することにより1画素を多値化記録することは周知である(例えば、前掲特開平4-201355号公報に「複数のインク滴を記録媒体の同一箇所に着弾させて1つの画素を形成し、着弾させるインク滴の数によって画像の階調を表現する」(2頁左下欄4?7行)又は「マルチドロップレット方式と呼ばれる方法は、記録媒体上に重複してインク滴を打ち込み、この打ち込み数を制御することにより形成されるドットの面積を変化させて階調を表現する」(2頁右下欄11?15行)と記載されているとおりである。以下、この技術を「周知技術2」という。)
また、周知技術1においては、1画素を2値化記録するよりも多値化記録する方が、良好な階調性に結びつくことは当然である。そのことは、例えば、前掲特開平4-201355号公報に「複数インク滴の多重吐出法と、ディザ法や、誤差拡散法等のマトリックスを用いた階調再現法とを組合わせることにより良好な階調性を得ることか可能である。」(6頁左上欄18行?右上欄1行)と記載があることからも窺えるし、実際前掲特開平5-270011号公報に、「第2のインクを記録するための第2記録情報を供給する事を1回以上繰り返し、・・・所望画像のN値(Nは3以上の自然数)画像データをインクジェット記録用のM(MはN>Mである3以上の自然数)値画像データに変換する画像データ処理装置を含む」(【請求項6】)及び「印字用データ作成手段の2値化法は公知のディザ法(誤差拡散法、平均濃度保存法、平均誤差最少法、組織的ディザ等)、濃度パターン法、画素分配法等を使用する事が可能である。また前述実施例は3値記録について述べたが3値以上の記録においても本記録方法は有効であることは言うまでもない。」(段落【0084】)と記載されているとおりである。
以上の事実を踏まえて検討するに、引用発明においては、1ドット単位(画素単位)を複数のブラックインク滴で形成しているのであって、画素単位毎のインク滴数を制御するのではないけれども、制御できないわけではない(周知技術2が存する以上、技術的困難性はない。)。
そして、(1)で述べたと同様に、第2のインクに対しても周知技術1を採用することは当業者にとって想到容易であり、周知技術1を採用する場合には画素単位毎に多値化(3値化以上)する方が良好な階調性に結びつくのだから、周知技術2を採用し、画素単位毎のインク滴数を制御することにより、画素単位毎に多値化記録した上で、第2のインクに対して周知技術1を採用することは当業者にとって想到容易である。そして、周知技術2を採用して画素単位毎に多値化記録するということは、第2記録データを「画素単位毎に2よりも大きいn値の階調値で表現される」データとし、「前記第1のインクのドットの記録の有無が制御される前記画素と同じ大きさの画素毎に、前記n値の階調値が示す値に応じて記録するドットの数が制御され」るることにほかならない。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成を採用することが当業者にとって想到容易である。

(3)本願発明の進歩性の判断
相違点1,2に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-20 
結審通知日 2006-10-23 
審決日 2006-11-07 
出願番号 特願平8-101713
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大元 修二後藤 時男  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 島▲崎▼ 純一
尾崎 俊彦
発明の名称 インクジェット記録方法及びその装置  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  

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