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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01H
管理番号 1149202
審判番号 不服2000-12876  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-04-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-08-14 
確定日 2006-12-19 
事件の表示 平成 3年特許願第513316号「トウモロコシ生成物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年 2月 6日国際公開、WO92/01367、平成 5年 4月 8日国内公表、特表平 5-501808〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯・本願発明

本願は、平成3年6月28日(優先権主張 1990年7月19日、米国)の出願であって、その請求項1及び47に係る発明は、平成18年2月20日付手続補正書により補正された特許請求の範囲及び発明の詳細な説明からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び47に記載された以下のとおりのものと認める(以下、「本願発明1」及び「本願発明47」という。)。

「【請求項1】 種子の全脂肪酸含量と比べて、少なくとも75重量%のオレイン酸含量を有するトウモロコシ種子。」
「【請求項47】 全オイルに比べて、少なくとも75%の平均オレイン酸含量を有するトウモロコシ油であって、種子の全脂肪酸含量に比べて少なくとも75重量%の平均オレイン酸含量を有するトウモロコシ種子の実質的に均一な一群から抽出された、トウモロコシ油。」

第2 本願発明1の進歩性について
1.引用刊行物記載の発明

当審で通知した拒絶の理由において引用された特開平1-91720号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(a) 「脂肪酸の総含有量に対するオレイン酸の含有量が約74から84%で、リノール酸の含有量が約2から8%であり、オレイン酸のリノール酸に対する量の比が約9:1から約42:1であることを特徴とするピーナッツ種子。」(第1頁左下欄第5?9行)
(b) 「本発明は、オレイン酸の含有量が多く、リノール酸の量の少ない新規なピーナッツ種子と、この種子を生産するためのピーナッツ植物に関するものである。本発明はさらに、上記の特性を備える種子を生産するアラキス ヒボガエア エル(ArachisHypogaea L、)のほぼ均質な固体群からなるピーナッツ系統に関するものである。」(第3頁左上欄第12?同頁右上欄第3行)
(c) 「一般に、ピーナッツの品種改良は、管理交配した後の数千種の異なる各系統間での血統育種によって行われる。10から20年の期間に及ぶこの作業にとって望ましくない植物および系統を排除し、経済的に望ましい特性の面で明らかに優れたものだけが残される。この品種改良を成功させる決め手は、遺伝的変異源とそれを所望の品種に移す手段にある。」(第3頁右下欄第12?19行)
(d) 「ピーナッツ油の品質を改良することは、ピーナッツ油から製造される製品の保存期間と栄養価に与える影響の点で、長い間、育種計画の目的であった。」(第4頁右上欄第6?9行)
(e) 「ピーナッツ遺伝子型は公知であり、オレイン酸は最低で35%、最高で71%であり、リノール酸の含有量は最低で11%、最高で43%の範囲にある。」(第4頁左下欄第7?9行)
(f) 「高オレイン酸且つ低リノール酸のピーナッツ系統が開発されるならば、そのような系統は、消費者にも加工業者にも望ましい。現在まで、オレイン酸の含有量が多く、リノール酸の量が少ないピーナッツは、全く知られていない。本発明の目的は、オレイン酸の含有量がこれまでのものに比べて多く、リノール酸の量が少ないピーナッツ種子を生産するための新規なピーナッツ食物系統を提供することにある。本発明の他の目的は、保存期間が長い新規なピーナッツ油を提供することである。」(第5頁左上欄第14行?同頁右上欄第5行)
(g) 「上記の特異な2つのUF系列を得るために用いた基本的な育種法は、交配とそれに続けて系統選択を行うものであり、これは、ピーナッツ栽培者が最も多く用いている育種法である。」(第7頁右上欄第9?12行)
(h) 第8頁第1表には、実験番号aの2-a-8(遺伝子型UF435-2-1)のオレイン酸含量が79.91%、実験番号aの2-a-151(遺伝子型UF435-2-2)のオレイン酸含量が79.71%であることが記載されている。
(i) 「本発明のピーナッツ系統が高いオレイン酸レベルと低いリノール酸レベルを示すのは、上記の方法によって新規な遺伝子型を開発した結果である。1つの遺伝子座の主要遺伝子によってオレイン酸とリノール酸の相対的な量が変るということは他の収穫植物の場合にもある。例えば、ベニバナでは、高リノール酸が多いが、2つの異なる対立遺伝子によって劣性のホモ接合体のオレイン酸は75%か45%になる。」(第9頁右上欄第1?9行)
よって、引用例1には、選抜・交配という育種手法により得られた新規ピーナッツ系統から得られた、種子の全脂肪酸含量と比べて79.91%及び79.71%のオレイン酸含量を有するピーナッツ種子という発明が記載されているといえる。
また、同拒絶の理由で引用されたPLEINES,S et al., Fat Sci.Technol., vol.90(5), pp.167-171 (1988)(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(j) 「ナタネにおいて、収量の増加に加えて、著しい品質改良(0及び00型)を行うことが可能となってきた。現在までに、最終目的や利用法に応じてさまざまな脂肪組成のタイプが望まれている。00ナタネ材料において、改良されたC18脂肪酸組成の遺伝子型の選択の結果が発表されるだろう。選択された近交系が、人工気象室や屋外においてさまざまな環境条件(例えば、温度や日照)下での実験に使用された。これらの実験の過程で、低C18:3レベル(2.5?5.8%)及び高オレイン酸含量(73?79%)の2つの系統が選択された。これらの系統を含む異なる交配と高リノレン酸選択の子孫において、C18脂肪酸組成のさらなる改良が達成された。」(第167頁左欄第1?12行)
(k) 「単一のC18脂肪酸含量の生理及び遺伝の複雑さにもかかわらず、将来、特定の脂肪酸組成のナタネ栽培品種の新たなタイプを提供することが、もちろん可能であろう。工業的目的に関しては、ナタネ油は一種類の主要な脂肪酸を主成分として有するべきである。特に、オレイン酸やエルシン酸のようなモノ不飽和脂肪酸は、中鎖脂肪酸に分解することができ、たくさんの2次産物の基材になるので、更なる加工の原料として特に興味深い。」(第168頁左欄第8?17行)
(l) 「人工気象室中で試験した近交系2系統において、さまざまな環境における種子油中のオレイン酸及びリノレン酸含量は、それぞれ73?79%及び4?5.8%であった。」(第170頁左欄第9?12行)
(m) 「さまざまな研究から、ナタネの脂肪酸組成はさまざまな方法の育種により変更することができると結論付けられる。低リノレン酸高リノレイン酸含量タイプや低リノレン酸高オレイン酸含量タイプが、栄養学的又は工業的目的の異なる需要を満たす新しいタイプの油を生産するために利用可能である。」(第170頁右欄第2?7行)
よって、引用例2には、選抜・交配という育種手法により得られた新規ナタネ系統から得られた、種子の全脂肪酸含量と比べて73?79%のオレイン酸含量を有するナタネ種子という発明が記載されているといえる。

2.対比

脂肪酸組成を表すとき、通常は重量%で表示するので、引用例1及び2記載の発明におけるオレイン酸含量%は重量%を意味すると解される。
そこで、本願発明1と引用例1または2記載の発明を対比すると、両者は、種子の全脂肪酸含量と比べて、少なくとも75重量%のオレイン酸含量を有する油糧作物種子である点で一致し、本願発明1では油糧作物がトウモロコシであるのに対して、引用例1記載の発明ではピーナッツ、引用例2記載の発明ではナタネである点において相違する。

3.当審の判断

上記相違点について検討すると、引用例1及び2の記載から、本願優先日前に、オレイン酸含量が高い油糧作物を作出しようという技術的課題が周知であり、実際にピーナッツ及びナタネという代表的な油糧作物において、選抜・交配という育種手法により70?80重量%程度の高オレイン酸含量の新規系統が作出できたことがわかる。
そうしてみると、油糧作物の一種であるトウモロコシにおいても種子のオレイン酸含量が高い系統を作出しようとする課題は本願優先日以前から潜在的に存在していたといえ、それを実現するにあたって、トウモロコシのさまざまな形質の改良のために従来から採用され(例えば、LENG,ER et al., Genetics, vol.38, p675 (1953)、SPRAGUE,GF et al., Agron.J. vol.44, pp.329-331 (1952)、及び特開昭64-60602号公報を参照のこと。)、ピーナッツやナタネにおいて高オレイン酸含量系統の作出に成功した、選抜・交配という育種手法を採用することは、当業者が容易に想到しうる程度のことである。
そして、引用例1において、それまで知られたピーナッツ種子のオレイン酸含量が35?71重量%であったところ、選抜・交配という育種手法により79.91重量%及び79.71重量%の種子を生産する新規系統を作出できたことを考慮すると、本願の発明の詳細な説明(本願公開公報第4頁左上欄)に記載されているように、オレイン酸含量64.3重量%のトウモロコシ種子が知られ、同63.5重量%の近交系が報告されたことと比較して、「少なくとも75重量%」という本願発明1のオレイン酸含量が格別高い数値であるとは認められない。むしろ、トウモロコシが栽培作物として長い歴史を有し、多様な系統が保存されていること、及びピーナッツやナタネにおいても同程度のオレイン酸含量が達成されていたことからして、当業者が予測し得る範囲内のものである。
請求人は、平成18年2月20日付意見書において、甲第1号証(OHLROGGE,JB et al., Biochimica et Biophysica Acta, vol.1082, pp.1-26 (1991))を提出して、本願優先日当時にはオレイン酸含量調節のプロセスに多数の遺伝子が関与すると予想されていたことから、オレイン酸含量の高いトウモロコシを得ることが困難であると予測されていたとして、本願発明1の困難性を主張する。
しかしながら、請求人が指摘する甲第1号証の第4頁図2には、油糧作物種子中におけるトリアシルグリセロール合成の略図が、同第9頁には、何種類かの植物においてはC18脂肪酸合成に必要とされるアシルキャリアプロテインをコードする多重遺伝子を有することが、同第12頁には、植物の脂肪酸組成の遺伝的研究は育種によって始められ、あらゆる種類の植物において様々な脂肪酸組成の変異体が観察されるが、それらの遺伝的変異は十分には特徴付けられていないことが、それぞれ記載されているが、いずれも植物または油糧作物一般に関するものにすぎず、油糧作物の中でも特にトウモロコシにおいてオレイン酸含量を高めることが困難であることを示すものではない。また、甲第1号証のその他の部分にも、トウモロコシ種子のオレイン酸含量を高めることが特別困難であることを示す記載はない。
よって、甲第1号証を参酌しても、本願発明1に困難性を認めることはできない。
したがって、本願発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 本願発明47の進歩性について

1.引用刊行物記載の発明

当審で通知した拒絶の理由において引用されたWIDSTROM,NW et al., Crop Science, vol.24, pp.1113-11145 (1984)(以下、「引用例3」という。)の第1114頁第1表には、トウモロコシ近交系wxInv.9a及びGE82の胚芽油のオレイン酸含量が、それぞれ45.2%及び54.5%であることが記載されている。
引用例3に記載されたトウモロコシの胚芽油は、トウモロコシ油といえるから、引用例3には、全オイルに比べて45.2%及び54.5%の平均オレイン酸含量を有するトウモロコシ油という発明が記載されているといえる。
また、同拒絶の理由で引用された特開昭54-80303号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
(n) 「天然油を、ニッケル触媒とニッケルの100原子当り約5?約40原子の窒素に等しいような量の有機窒素含有塩基性化合物との存在下に、モノエン化合物に富みかつトランス-異性体、共役ジエン化合物および飽和化合物の含量が低い実質的に液状の水素化生成物を得るために十分な水素圧および反応温度において、水素で処理することを特徴とする天然油を部分的にかつ選択的に水素化する方法。」(第1頁左下欄第5?13行)
(o) 「ある種の天然油または植物油、たとえば、大豆油、ひまわり油、ソルザ(solza)油、またはとうもろこし油は、いくつかの二重結合を有する化合物(ポリエン化合物)例えば、・・・含有する。・・・これらの油の安定性を増加するため、リノレン酸グリセリドの含量と、一部分、ジエン酸のグリセリドの含量を有意に減少することが必要である。」(第2頁左上欄第2行?同頁右上欄第3行)

2.対比

本願発明47と引用例3記載の発明とを対比すると、両者は、全オイルに比べて少なくとも45.2%の平均オレイン酸含量を有するトウモロコシ油である点で一致し、(1)平均オレイン酸含量が、本願発明47では少なくとも75%であるのに対して、引用例3記載の発明では45.2%である点、及び、(2)トウモロコシ油の抽出源が、本願発明47では種子の全脂肪酸含量に比べて少なくとも75重量%の平均オレイン酸含量を有するトウモロコシ種子の実質的に均一な群であるのに対して、引用例3ではトウモロコシ近交系wxInv.9aまたはGE82の種子であって、それらの種子の脂肪酸組成は明らかではない点、において相違する。

3.当審の判断

まず、上記相違点(1)について検討すると、本願優先日前から高オレイン酸含量の植物油が広く求められており(例えば、引用例1の上記(f)、引用例2の上記(k)を参照のこと。)、トウモロコシ油についてもモノエン化合物を富化することが望まれていた(例えば、引用例4の上記(o)を参照のこと。)ので、引用例3記載のトウモロコシ油に引用例4記載の水素化方法を適用してオレイン酸含量を高めることは、当業者が容易に推考し得る程度のことである。そして、それにより、オレイン酸含量を少なくとも75%まで高めることができるであろうことは、当業者が引用例3及び4に基づいて予測しうる範囲内のことにすぎない。
次に、上記相違点(2)について検討すると、本願発明47の抽出源のトウモロコシ種子はオレイン酸含量でしか特定されておらず、他の成分は特定されていないのだから、抽出源のトウモロコシ種子が相違しても、本願発明47のトウモロコシ油と、引用文献3及び4を組み合わせて容易に製造しうるトウモロコシ油とに格別の差異があるとは認められない。
したがって、本願発明47は、引用例3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、この点に関しては、当審における平成17年8月17日付拒絶理由において指摘したが、請求人からは何の反論もなかった。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明47は、引用例3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明については判断するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-25 
結審通知日 2006-07-26 
審決日 2006-08-09 
出願番号 特願平3-513316
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 秋月 美紀子吉田 佳代子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 長井 啓子
佐伯 裕子
発明の名称 トウモロコシ生成物およびその製造方法  
代理人 山本 秀策  

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