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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1149720
審判番号 不服2003-11004  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-16 
確定日 2007-01-04 
事件の表示 平成 7年特許願第273195号「HIV抗体を検出するための合成ペプチド及びその混合物」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 9月24日出願公開、特開平 8-245693〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 〔1〕本件出願は、平成1年(1989年)1月26日に特許出願された特願平1-15220号(優先権主張:1988年1月27日米国、同4月22日米国、同12月7日米国)をもとの出願とする、特願平7-273195号に係るものであって、本件の請求項1乃至7に係る発明は、平成15年7月15日付で手続補正された明細書の請求項1乃至7の記載により特定されており、そのうちの請求項1には以下のように記載されている。(以下、「本件発明」ともいう。)

「式:
【化1】x1-CAFRQVC-y1(なお、両端のC-Cは環を形成)
[式中、
x1がNH2-RVTAIEKYLQDQARLNSWG-であって、y1が-HTTVPWVNDS-COOHである(ペプチド202)。]
の環状合成ペプチド。」

ここで、本件明細書の記載からみて当該「ペプチド202」は、HIV-2の膜貫通糖タンパク質(gp42)の597-603位アミノ酸残基(以下、単に「597-603」ともいう。)をコア配列として含む「578-613」の環状合成ペプチドに相当する。

〔2〕これに対する原審の拒絶査定の理由は、本件発明は、下記の引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:Science, Vol.237(4820), p.1346-1349 (1987)
引用文献2:J.Virol., Vol.61(8), p.2639-2641 (1987)

〔3〕そこで、引用文献1の記載を検討するに、引用文献1には、HIV-2の膜貫通糖タンパク質(gp42)にもHIV-1のgp41由来の高度な免疫反応性エピトープ598-603(LGIWGCSGKLICなど)の類似位置の592-603(LNSWGCAFRQVC)に免疫反応性エピトープが存在しており、他のHIV様ウイルス(STLV-III)も含めた免疫反応性エピトープが共通のアミノ酸配列「Trp-Gly-Cys-X-X-X-X-X-Cys(WGC-X-X-X-X-X-C)」を有していることが記載されている。
そして、上記HIV-2由来免疫反応性エピトープに対応する合成ペプチドである「ペプチド5(NSWGCAFRQVC)」が、HIV-2感染患者(西アフリカ)の血清と100%(5/5)強く反応したことと共に、米国HIV-1患者血清の2.5%(1/40)、ザイールHIV-1患者血清の6.1%(2/33)とも反応したことが記載されている。当該「ペプチド5」はSIV(STLV-IIIAGM)感染猿由来血清とも100%(3/3)反応するものであって、引用文献1では、HIV-2由来「ペプチド5」が、ザイールの2人のHIV-1感染患者(Z-46及びZ-51)と反応したことも踏まえて、当該配列が交差反応性を有する可能性があることについても言及している(同第1347頁右欄?1348頁左欄、Table2.、Table3.)。これらの実験結果は、当業者にHIV-2(gp42)由来の免疫反応性エピトープに対して、HIV-1やSIVとの交差反応性も期待できる、きわめて免疫反応性が高い優れたエピトープであることを期待させるに十分なものである。
ところで、引用文献1に記載される上記HIV-2由来免疫反応性エピトープに対応したHIV-1のgp41由来免疫反応性エピトープに関しては、上記引用文献1に先立つ引用文献2において、同一筆者によりすでに種々の長さの合成ペプチドを用いた免疫学的実験結果を踏まえた上で、最小限の必須エピトープ及びその構造的な考察がなされており、「最小限の必須エピトープは、2つのシステイン残基を含む7-アミノ酸配列(603-609のアミノ酸)である。」ことと共に、「2つのシステイン残基は、おそらくジスルフィド結合の形成により環状構造が生成されるため、この配列が抗原としての立体配置をとる上で必要であろう。」と結論づけられている(第2639頁要約部分)。
引用文献2のTABLE2.(第2640頁)に列記されている合成ペプチドのHIV患者血清に対する反応性を比較してみれば、コア配列(603-609)両端のCysのいずれかが失われると全く免疫反応性が失われることと共に、コア配列から順次アミノ酸配列が延びるに従って反応性も増大する傾向が見て取れ、当該TABLE2.中で最も高い100%(22/22)という反応性を示した配列は、最も長い配列のLGLWGCSGKLIC(598-609)である。
そうしてみると、最小限の必須エピトープはC-C結合により環状に形成された7アミノ酸であっても、その両端に延びるアミノ酸鎖も、当該エピトープの立体構造を安定に保ち周辺の環境を構成することでエピトープの免疫反応性を高めるために重要な役割を担っているものであることが理解できる。
そうであるから、引用文献1に記載された上記HIV-2由来免疫反応性エピトープを含む合成ペプチドを製造する際に、HIV-2患者血清中のHIV-2特異的抗体を100%認識できた「ペプチド5」に対し、より免疫反応性を高めようとすれば、その両端にさらにアミノ酸鎖を延ばした合成ペプチド、例えば「ペプチド202」などを製造しようとすることこそ、当業者が自然に発想することである。
また、当該合成ペプチドに対して期待される用途がHIV特異的抗体検出・診断用キットであることを考慮すれば、できるかぎり検出精度を上げるために、必須エピトープの環状構造をより確実に形成させること、及び合成ペプチドの精製度を少しでも高めようとすることは、当業者にとってはむしろ当然の事柄であり、環状ペプチド合成に適したFmoc保護基を用いる周知のペプチド合成方法(例えば、原審における拒絶査定で引用されたJ.Org.Chem., Vol.45, p.72-76 (1980)及びMerrifield, R.B., "Solid phase peptide synthesis", Adv. Enzymol., Vol.32, p.221-296 (1969)等参照)を採用した点にも、周知の逆相HPLC精製方法(例えば、同「続生化学実験講座2 タンパク質の化学 下」p.687-694,日本生化学会編,東京化学同人発行(1987)等参照)で精製度を高めた点にも困難性を見いだすことはできない。
そして、本願明細書中の「ペプチド202」について単独でその免疫反応性を試験した結果は【0114】の【表5】のみであり、【表5】によれば「ペプチド202」は、HIV-2陽性血清を100%(5/5)検出できたものであるとはいえるが、「ペプチド202」と同様に環状7アミノ酸コア配列を含み両端のアミノ酸鎖を延ばした、種々の長さの環状ペプチド(「ペプチド146」、「ペプチド147」、「ペプチド200」及び「ペプチド201」)もHIV-2陽性血清を100%(5/5)検出できた点では変わりはなく、特に「ペプチド202」が他のペプチド長の合成ペプチドと比較して特に免疫反応性が高いことを示すものではない。そもそも引用文献1における「ペプチド5」の実験でもHIV-2患者血清を100%(5/5)検出できていたことをみれば、HIV-2(gp42)由来の免疫反応性エピトープ自体の高い免疫反応性を確認したに留まる。
してみれば、本件発明は、本件優先日前の技術常識を勘案すれば、上記引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に想到できたものであるといわざるを得ない。
さらに、本件発明における環状合成ペプチドをHIV-2に対する抗体の検出もしくは抗体の産生に用いることも、さらに得られた抗体をHIV-2検出に用いることも当業者であれば適宜行うことであるといえるから、請求項2乃至7に係る発明も、引用文献1及び2の記載に基づいて当業者が容易に想到できるものである。

〔4〕付記:
当審では、平成16年1月22日付で請求人に対して審尋を行い、原審における平成9年9月19日付意見書第3頁での記載からみて、請求人自身が環状の592-603をコア配列として含む充分な長さの合成ペプチド間においてはHIV抗体への免疫反応性にそれほどの差異がないことを自認している点を指摘すると共に、なお書きで、578-613の「ペプチド202」が、引用例2に記載される592-603の短い鎖長の場合に対応し、かつ「ペプチド202」と同一精製度の環状ペプチドと比較して、「予想を越えるほどの」高いHIV抗体感受性を示すことが実験データ等で立証できれば、上記拒絶理由が解消する可能性があることを伝えた。
これに対して、請求人からは平成16年7月27日付回答書において、「ペプチド202」の効果について、平成14年10月23日付手続補足書に添付されたバイオケム報告書Table5、Figure16、19及び15を示し、「ペプチド202(BCH-2371)」の反応性がBCH-13206(LNSWGCAFRQVC)に比較して少なくとも5倍高い反応性がある旨の回答があった。
しかしながら、ここで精製度90%の「ペプチド202」と比較された「BCH-13206」は、精製度が55%ときわめて低く、環状構造の形成も不十分な状態のペプチド混合物でしかない。「BCH-13206」と同じ鎖長の592-603合成ペプチドであっても、合成に際して必須エピトープの環状構造を確実に形成させ高度に精製することで、より免疫反応性が高まり、検出精度も上がることは明らかであるから、上記実験結果からでは、「ペプチド202」における「578-613」という特定の長さを選択したことによる効果が格別のものであるといえるはずはない。
そうなので、請求人が上記回答書において「HIV-2」に限定する補正案の用意があることについても言及しているが、さらなる補正の機会を与える必要性は見いだせない。

〔5〕以上述べたとおりであるから、本件請求項1乃至7に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2006-07-31 
結審通知日 2006-08-01 
審決日 2006-08-21 
出願番号 特願平7-273195
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西川 和子井上 千弥子坂崎 恵美子  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 阪野 誠司
種村 慈樹
発明の名称 HIV抗体を検出するための合成ペプチド及びその混合物  
代理人 青山 葆  
代理人 岩崎 光隆  

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