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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議200272022 審決 特許
無効200580144 審決 特許

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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正する B41J
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B41J
審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正する B41J
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B41J
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B41J
管理番号 1150382
審判番号 訂正2006-39179  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-09-07 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2006-10-26 
確定日 2006-12-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3246516号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3246516号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
本件訂正審判請求がなされるまでの、主な手続経緯を以下に略記する。
平成 4年 2月19日 本件出願(特願平4-32226号)
平成11年 2月18日 本件出願に係る審査請求
平成12年10月17日 本件出願に対する拒絶理由通知
平成12年12月21日 本件出願に係る意見書・補正書提出
平成13年11月 2日 本件特許登録(特許第3246516号)
平成14年 5月28日 本件特許に係る訂正審判請求(第1回目)
(訂正2002-39114)
平成14年12月10日 訂正許容審決(訂正2002-39114)
平成18年 7月18日 本件特許に係る訂正審判請求(第2回目)
(訂正2006-39122)
平成18年10月 3日 訂正拒絶理由通知(訂正2006-39122)
平成18年10月26日 審判請求の取り下げ(訂正2006-39122)
平成18年10月26日 本件特許に係る訂正審判請求(第3回目)
(本件訂正審判請求:訂正2006-39179)

2.訂正の内容
特許権者が求める訂正の内容は、特許第3246516号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものである。
訂正の内容は、以下のとおりである。

本件審判による訂正事項は次のとおりである。
[訂正事項a]訂正前の発明の名称「インクジェット記録装置、及びこれに使用するインクタンク」の記載を「インクジェット記録装置」と訂正する。
[訂正事項b]訂正前請求項1中の「インクタンクが」の記載を、「装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止したインクタンクが」と訂正し、
「前記インク供給針は、先端が」を「前記インク供給針は、樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が」と訂正し、
「前記円錐面に」を「前記円錐面のみに」と訂正する。
[訂正事項c]訂正前請求項2、3を削除する。
[訂正事項d]訂正前段落【0001】中の「、及びこれに適したインクタンク」を削除する。
[訂正事項e]訂正前段落【0003】中の「また本発明の他の目的は、同上記録装置に適したインクタンクを提供することである。」を削除する。
[訂正事項f]訂正前段落【0004】中の「インクタンクが」の記載を、「装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止したインクタンクが」と訂正し、
「前記インク供給針は、先端が」の記載を「前記インク供給針は、樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が」と訂正し、
「前記円錐面に」の記載を「前記円錐面のみに」と訂正し、
「インク供給孔が複数穿設されており、・・・から構成されている。」の記載を、「インク供給孔が複数穿設されている。」と訂正する。
[訂正事項g]訂正前段落【0018】中の「請求項1の発明においては、」の記載を、「請求項1の発明においては、キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止したインクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、」と訂正し、
「インク供給針は、先端が」の記載を、「インク供給針は、樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が」と訂正し、
「前記円錐面に」の記載を、「前記円錐面のみに」と訂正し、
「また請求項2の発明においては、・・・シール材の抜け出しを防止できる。」を削除する。

3.訂正目的
請求人は、訂正事項cについて、特許請求の範囲の請求項2、3を削除するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とする(特許法126条1項1号該当)と主張しており、当審もそのような目的と認める。
また、請求人は、訂正事項a、d?gについては、いずれも訂正事項cによる請求項2,3の削除に伴う訂正後の特許請求の範囲の記載と発明の名称及び詳細な説明の記載との整合を図るものであって、明りようでない記載の釈明を目的とする(特許法126条1項3号該当)と主張しており、当審もそのような目的と認める。

さらに、請求人は、訂正事項bについては、
第1点;インクタンクに関して、「装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止した」ことを訂正する点
第2点;インク供給針が「樹脂成形で」構成されると訂正すると共に、インク供給針が「前記フィルムを貫通できるように」先端を構成されていることを訂正する点、
第3点;「前記円錐面に」を「前記円錐面のみに」と限定する点、
の3点からなり、
第1点、第3点、及び第2点における「前記フィルムを貫通できるように」が、明りようでない記載の釈明を目的とするものであり、第2点におけるインク供給針が「樹脂成形で」構成されるとする部分は、特許請求の範囲を減縮するものであると主張する。

しかしながら、訂正前の段落【0003】【発明が解決しようとする課題】の記載には、
「本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、インクタンクの交換時に記録ヘッドへの空気の侵入を可及的に抑え、かつ接続部のシールを確保しつつ、安全なインク供給針を備えたインクジェット記録装置を提供するものである。また本発明の他の目的は、同上記録装置に適したインクタンクを提供することである。」と記載されていると共に、
同段落【0004】【課題を解決するための手段】の記載には、
「このような課題を達成するために本発明においては、記録装置は、キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、インクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、」或いは「またキャリッジに設けられた記録ヘッドに連通し、先端が円錐面として形成されたインク供給針を備えたインクジェット記録装置に装着されるインクタンクにおいて、」と記載されており、
これらの記載からみると、インクタンクはインクジェット記録装置に装着されるものであることは明らかなるも、インクジェット記録装置とは別のものとして規定されている可能性がある。
そこで、本件明細書の手続経緯を検討する。

本件の出願当初明細書において、その請求項1には、
「インクジェット記録装置において、記録ヘッドと該記録ヘッドにインクを供給するインクタンクと、該インクタンクからインクを抽出するインク供給針と、前記インクタンクのインク取り出し口に配されたフィルムと、該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク供給針の先端に少なくとも1個の微小径からなるインク供給孔を設け、前記インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることを特徴とするインクジェット記録装置。」と記載されていると共に、
その段落【0007】【課題を解決するための手段】には、
「本発明はインクジェット記録装置において、記録ヘッドと該記録ヘッドにインクを供給するインクタンクと、該インクタンクからインクを抽出するインク供給針と、前記インクタンクのインク取り出し口に配されたフィルムと、該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク供給針の先端に少なくとも1個の微小径からなるインク供給孔を設け、前記インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることを特徴とする。」と記載されている。
よって、本件の出願当初明細書記載においては、「インクジェット記録装置」とは、「記録ヘッド」、「インクタンク」、「インク供給針」、「フィルム」及び「供給針シール部材」とを具備するものであることが明らかにされている。
そして、これに後続する平成11年2月18日付け手続補正書、平成12年12月21日付け手続補正書及び平成13年3月27日付け手続補正書における請求項1の記載は、
首尾一貫して、「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、インクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、」と記載されており、当該記載が補正されたところはない。
よって、この「キャリッジに・・・インクジェット記録装置において」の記載は、出願当初明細書において、「インクジェット記録装置」が、「記録ヘッド」、「インクタンク」、「インク供給針」、「フィルム」及び「供給針シール部材」とを具備するものであることを踏襲するものであって、「インクタンク」は「着脱可能」なものであるが、インクジェット記録装置に「設けられた」もの、すなわち、インクジェット記録装置を構成するものと位置付けられたものと把握すべきである。

これを前提として、訂正事項bの訂正目的を以下検討するに、第3点の「前記円錐面のみに」は、もとの「前記円錐面に」の意味を更に明らかにしたものといえるので、明りようでない記載の釈明と認める。
しかし、第1点の「装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止した」の訂正は、新たにフィルムの存在が特定されるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。
他方、第2点における「前記フィルムを貫通できるように先端が」の訂正は、これのみであればインク供給針に係る特定を付すものといえるが、前記第1点の訂正に付随するものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とするものと解し得る。
そして、第2点における「樹脂成形で」の訂正は、明らかに特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
したがって、訂正事項bについては、請求人の主張とは若干異なるものの、明りようでない記載の釈明或いは特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

以上のとおりであり、訂正事項a?gのいずれも、訂正目的に違反するところはなく、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(平成6年法律第116号附則6条に「この法律の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面についての訂正及び訂正に係る特許の無効については、なお従前の例による。」と規定されていることにより、同法改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び同上第2項に係る規定該当。なお、同特許法を以下「旧特許法」という。)。

してみるに、当該訂正事項a及びbは「特許請求の範囲の減縮」(旧特許法第126条第1項ただし書き第1号該当)の訂正を目的とするものであることから、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない点(同条第3項該当)について、以下、検討する。

4.訂正発明の独立特許要件
(1)訂正発明の認定
訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】には、以下のとおりに記載されている。

【請求項1】キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止したインクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、前記インク供給針は、樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、かつ前記円錐面のみに前記筒胴部の内径よりも小さく、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が複数穿設されているインクジェット記録装置。
(以下、「訂正発明」という。)

(2)独立特許要件について
(2-1)引用文献:実願昭59-200491号(実開昭61-115641号)のマイクロフィルムの記載内容

【実用新案登録請求の範囲】
「(1) インク容器からインクジェット記録ヘッドへ向けてインクを導出するインク供給針において、インク通孔のない円錐状の先端部を有し、かつ、該先端部から後方に隔つた位置にインク通孔が形成されていることを特徴とするインク供給針。
(2) 前記インク通孔が円周方向等間隔の複数個所に形成されていることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載のインク供給針。
(3) 前記インク通孔が前記先端部から異なる距離で2列に複数個づつ形成され、かつ一方の列のインク通孔の各々が他方の列のインク通孔各各に対して円周方向中間に位置していることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載のインク供給針。」
2頁1?4行
「〔技術分野〕 本考案はインク供給針に関し、特に、インクジェット記録装置等に使用するインク供給針に関する。」

2頁5行?3頁5行
「〔従来の技術〕 従来のインクジェット記録装置、とりわけインクジェットプリンタ等においては、インクの補充の簡便さを考えてカートリッジ式のインク容器が多用されている。
このカートリッジ式のインク容器は、インクの補充が容器の交換だけでできること、補充量の判断が不要なこと、および補充作業の際にインクによる汚染が殆ど生じないこと等の利点がある反面次のような欠点が指摘されている。
すなわち、インク容器と、該容器内のインクをインクジェットヘッドに供給するための供給路との着脱は、一般に、インク容器のインク導出管の封止用部材にインク供給針を突き刺し又は抜き取ることにより行われているが、従来のインク供給針ではその先端部が鋭い傾斜面で形成されているため、インク供給針を封止用部材に着脱する際、往々にして封止用部材がインク供給針の先端角縁部で切り取られ、この切屑によつてインク供給針の目詰まりが生じ易かつたことである。」

3頁6?10行
「〔目的〕 従つて本考案の目的は、封止用部材の切屑による目詰まりの発生することが無く、常時連続的かつ円滑にインクの供給が行なえるインク供給針を提供することである。」

3頁11?15行
「〔概要〕 本考案のインク供給針は、インク通孔のない円錐状の先端部を有し、かつ、該先端部から後方に隔つた位置にインク通孔を形成することにより、上記目的を達成するものである。」

4頁15行?5頁1行
「これに対し、本考案の一実施例によるインク供給針20は第1図に示すように、先端部20aが円錐状に形成されていて、先端部20aから後方に隔つた位置において半径方向に延びる複数の放射状インク通孔22,23が円周方向に等間隔に形成されている。先端部20aにはインク通孔が存在しない。」

5頁2?10行
「次に、第2図および第3図に基き、上記実施例のインク通孔22,23の配置について詳細に説明する。図面から明らかなごとく、インク供給針20の最先端部から後方に距離L1(小文字のエル)だけ隔つた位置には第1の列のインク通孔22a,22b,22cが形成されており、距離L2(小文字のエル)だけ隔つた位置には第2の列のインク通孔23a,23b,23cが形成されている。L1(小文字のエル)およびL2(小文字のエル)は適当な寸法に定めることができる。」

5頁11行?6頁8行
「第1の列のインク通孔22a,22b,23cは、第3図(A)に示すごとく、互に120°の間隔をへだてて円周方向に等間隔に配置されている。第2の列のインク通孔23a,23b,23cも、互に120°の間隔をへだてて円周方向に等間隔に配置されているが、第1の列のインク通孔22a,22b,22cに対して角度60°だけずれた位置(すなわち、第1列のインク通孔22a,22b,22cの間隔の1/2だけ角度的にずれた位置)に配置されている。インクを連続的にかつ円滑に供給するためには、インク通孔の数を多くしかも孔径を大きくするのが望ましいが、通孔同士の間隔が狭すぎるとインク供給針20の強度の低下をきたすことになる。しかしながら、本考案のインク供給針20のごとくに、互に異なる列に角度をずらしてインク通孔を形成することによつて通孔同士の間隔を大きくとることが可能となる。」

6頁19行?7頁7行
「〔効果〕 以上の説明から明らかなごとく、本考案によれば、インク容器とインク供給路との着脱の際に、インク供給針による封止用部材の切屑の発生が防止され、これによりインク供給針の目詰まりを防止することができる。また、インク通孔が円周方向に等間隔に形成されているため、いずれの方向からも安定してインクを供給することができる。」

前記記載を参酌するに、当該文献には、インクジェット記録ヘッドへ向けてインクを導出するインク供給針に係る発明が記載されており、従来、インクジェット記録装置において、カートリッジ式の場合、インク容器の交換でインク補充が容易に行い得ることを前提として、このインク容器からインクジェットヘッドとインク容器との着脱に関して記載されていることからして、当該文献の記載からは、インク容器のインク取り出し口に挿入される、該インク容器内のインクをインクジェットヘッドに供給するインク供給針を備えたインクジェット記録装置、を把握することができる。
してみれば、当該文献からは、以下の発明が把握できる。

「インク容器のインク取り出し口に挿入される、該インク容器内のインクをインクジェットヘッドに供給するインク供給針を備えたインクジェット記録装置において、
前記インク供給針は、インク通孔のない円錐状の先端部を有し、かつ、該先端部から後方に隔つた位置であって、円周方向等間隔の複数個所に、インク通孔が形成されているインクジェット記録装置。」
(以下、「引用発明」という。)

(2-2)訂正発明と引用発明との対比・判断
引用発明と訂正発明とを対比すると、いずれもインクジェット記録装置に係るものであり、引用発明においてもインクタンクは交換されるものであることから、引用発明のインクタンクを備えたインクジェット記録装置は、訂正発明のインクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置に相当する。
また、インクジェット記録装置において、インク供給針は、インクタンクから記録ヘッドにインクを供給するために記録ヘッドに連通する構成であって、一般に記録ヘッドはキャリッジに装架されているものであることからして、引用発明のインク供給針は、訂正発明のインク供給針に相当する。
さらに、引用発明のインク通孔はインク供給針の内空間に連通するように穿設されたものであることは明らかであり、引用発明の複数のインク通孔は、訂正発明の複数穿設されたインク供給孔に相当する。
してみれば、引用発明と訂正発明とは、
「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、インクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、前記インク供給針は、先端が円錐面として形成され、かつインク供給孔が複数穿設されているインクジェット記録装置。」
の点で一致しており、以下の点で相違している。

<相違点1> インクタンクに関して、
訂正発明においては、「装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止した」と特定されているのに対して、
引用発明においては、この点の特定がない点。

<相違点2> インク供給針の構成に関して、
訂正発明においては、「樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、」と特定されているのに対して、
引用発明においては、この点の特定がない点。

<相違点3>
先端が円錐面として形成されたインク供給針に形成されているインク供給孔に関して、
訂正発明においては、「前記円錐面のみに」及び「複数穿設されている」と特定され、
このインク供給針に形成されたインク供給孔の直径に関して
訂正発明においては、それらの直径が「前記筒胴部の内径よりも小さく、メニスカスによりインクを保持することができる直径」と特定されているのに対して、
引用発明においては、このような特定を備えるか定かでない点。

(2-3)相違点に係る判断
相違点2について検討するに、インク供給針は一般的に円形断面をなすものであり、内部をインクが挿通するものであることから、当該インク供給針の先端部以外の部分が筒様の胴部を構成するものであることは一般的構成である。
してみれば、インク供給針が筒胴部を備えるようになすこと自体は、実質的な相違を形成し得ない。
ここで、訂正発明に係る「インクジェット記録装置」が、「記録ヘッド」、「インクタンク」、「インク供給針」、「フィルム」及び「供給針シール部材」とを具備するものであることは、前記「3.訂正目的」において検討したとおりであるが、更に、本件の出願当初明細書の記載を検討するに、インクタンクから記録ヘッドへのインクの供給圧を負圧に保つことに起因して、インクタンク交換時に記録ヘッドに流れる気泡の量が多いことにより印字不良を発生していた問題、また、通常、インク供給針の先端は鋭く加工されているために危険であり、安全性確保のためにシャッタ等の安全装置の設置を必要とする問題を解決すべく、インクタンクの交換時に流路に侵入する気泡が少なく、また接続部のシールを確保した信頼性の高い、かつ低コストで安全なインク供給装置を装備したインクジェット記録装置を提供することを目的としていることが記載されている。
そして、請求項1に記載された発明の構成を備えることで、従来はゴム等による栓体を用いていたインクタンクのインク取り出し口の封止を薄いフィルムとなして、インク供給針の先端部形状を円錐面となした樹脂成形で安全性の高いインク供給針であっても容易に貫通できるようにすることで、別途にシャッタ等の安全装置を不要とした構成を導き、また、インク供給針の先端部を円錐面となしたことで、従来の大径のインク供給針の場合と比較して十分に小さいメニスカス体積のインク供給孔を複数形成し得ることで、インクタンク交換時にインク供給孔より侵入する空気を微少量に抑えることのできる構成を導いていることが把握できる。

してみるに、相違点2に係るインク供給針の構成に関し「樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、」と特定される構成は、インクジェット記録装置のインク供給針に係る材質・形状とを特定することと、インクタンクのインク取り出し口の封止を薄いフィルムで行うこととが相俟って、安全性を確保し、良好な印字を可能とするインクジェット記録装置の構成を導くものと解される。
また、当審で調査したところ、本件出願前の出願である特開昭60-42053号公報を発見するも、インクを変質させないための工夫として、金属製以外で材質としてセラミックを用いるものが存在することを示す程度であり、従来のインク供給針の材質が金属製のみに限定されていたとはいえないものの、インク供給針を「樹脂成形で、」形成したものを発見することはできなかった。
よって、前記のように、安全性及び良好な印字を達成すべく、インクジェット記録装置におけるインク供給針の材質・形状を特定し、インクタンクのインク取り出し口を薄いフィルムで封止することを特定する構成に関しては、新規性があると共に、従来技術から当業者が容易に想到し得ないものである。

(2-4)まとめ
以上のとおりであるから、残る相違点を検討するまでもなく、訂正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により構成される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることが出来るものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件審判請求は旧特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第2項及び第3項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェット記録装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止したインクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、前記インク供給針は、樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、かつ前記円錐面のみに前記筒胴部の内径よりも小さく、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が複数穿設されているインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、記録媒体上に直接インクを吐出し記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、インクジェット記録装置は、交換式のインクタンクが多く用いられており、特開平3-92356号公報に見られるようにインクタンクのインク取り出し口をゴム栓で封止し、このゴム栓に記録ヘッドに接続する金属製のインク供給針の先端を貫通させて両者の連通させてインクを記録ヘッドに供給するように構成されていた。このようなインク供給針は、比較的厚みを備えたゴム栓をスムーズに貫通させる必要上、ステンレス製の直径1mm程度のパイプの先端を斜めにカットした注射針状に構成されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、インクジェット記録装置の記録ヘッドに安定なインク滴の吐出を可能ならしめるためには、インクタンクと記録ヘッドとの差圧がマイナス30?マイナス100mmAq(水頭)程度の負圧に保つ必要があるが、パイプを注射針状に加工したインク供給針は、内径が1mm程度と大きいため、インクタンク交換により脱着されると、記録ヘッドに大量のエアが流れ込みやすく、印字不良を引き起こすという不都合がある。またインク供給針は、その先端が注射針状に鋭く加工されているため、安全性の面からも問題となる。本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、インクタンクの交換時に記録ヘッドへの空気の侵入を可及的に抑え、かつ接続部のシールを確保しつつ、安全なインク供給針を備えたインクジェット記録装置を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
このような課題を達成するために本発明においては、記録装置は、キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止したインクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、前記インク供給針は、樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、かつ前記円錐面のみに前記筒胴部の内径よりも小さく、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が複数穿設されている。
【0005】
【作用】
太いパイプの先端に円錐面を形成し、ここに複数のインク供給孔を形成しているから、先端の先鋭度が低く、危険性がなく、また複数のインク供給孔によりメニスカスの体積を減少させて脱着時の空気の侵入を可及的に防止する。
【0006】
【発明の好ましい実施の態様】
そこで以下に本発明の詳細を図示した実施例の基づいて説明する。図2は、本発明のインクジェット式記録装置の一実施例を、記録ヘッドとインクタンクとの接続機構で示すものであって、キャリッジ12の下面に設けられた記録ヘッド10は、キャリッジ12に垂設されたインク供給針9の一端に連通されている。キャリッジ12には、インク取り出し口3が形成されたインクタンク1が着脱可能に搭載されていて、インク供給針9を経由して記録ヘッド10にインクを供給し、記録ヘッド10のノズル開口11からインク滴を吐出させて記録用紙14に印刷できるように構成されている。ところで、インク供給針9は、図3に見られるように後述するインクタンクのフィルム4を貫通できるように先端に円錐面が形成され、この円錐面にインク供給針の本体、筒導体部の内径よりも小さな直径φ0.3mmのインク供給孔9aが複数個穿設されている。
【0007】
一方、インクタンク1は、図1に示したように通気孔7により外気と連通する内部には、多孔質吸収材2が装填されていて、多孔質吸収材2内にインクを保持、貯蔵している。インク取り出し口3は、タンク内に突出するように延長され、その上面にナイロン繊維またはステンレス繊維からなるフィルタ5が熱溶着または接着剤により固定され、フィルタ5を多孔質吸収材2に押し付けている。
【0008】
インク取り出し口3は、その下部、つまり外気側にはフィルム4が溶着あるいは接着され、フィルム4とフィルタ5との間にインクで満たされる空間8が形成されている。このフィルム4とフィルタ5との間に形成された空間8のフィルム4側には、インク供給針9の本体、つまり筒導体部の全周が密着するパッキン6、つまりリング状に形成されたパッキン6が、複数のインク供給孔9aを空間8に露出させる位置に固定されている。
【0009】
さらに、フィルム4はアルミ、ポリスチレン、ナイロンの3層構造として構成され、インクタンク1内に空気が侵入するのを防ぐためのガスバリア性に優れた膜層、本実施例ではアルミの層が形成されている。なお、アルミの代わりにステンレス、ポリプロピレン等を用いることも可能である。
【0010】
インクタンク1は、ポリスチレンで成形されており、フィルム4のポリスチレン面とインクタンク1のポリスチレンで熱溶着されフィルム4は固着している。フィルム4の総厚みは50μm程度で十分に薄いため、樹脂成形で安全性の高いインク供給針9であっても容易に貫通できる。
【0011】
しかし一方では、使用者の不用意な取り扱いによりフィルム4が破損する虞がある。このため、図4に示したようにインク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させ外輪形状にすることで、使用者の指16等が直接フィルム4に強く触れることがなく、インクタンク1を交換する時にフィルム4を破るのを防止している。またこのような構造にすることにより、他部品を用いることのない単純な構造、即ち低コストでフィルム4を保護することができる。
【0012】
インク取り出し口外縁3aの突出量は、インク取り出し口外縁3aの最大内径(d)に対し、インク取り出し口外縁3aの突出量(h)を、h≧d/10とするのが好ましいことが判明した。
【0013】
この時、使用者が通常の取り扱いをする限り、例えば故意に指の爪先をフィルム4に立てるようなことをしなければ、フィルム4が破れることはない。ここで突出量を大きくすればするほどフィルム4をより安全に保護することはできるが、それに伴いインクを抽出する位置、即ち空間8がノズルに対し高くなりインクの供給圧に影響したり、また高さ方向のレイアウトに影響する等の問題が発生するため、より好ましくは、d/4≧h≧d/10である。なおインク取り出し口3の断面形状が多角形の場合は、最長対角線長さをdとする。
【0014】
この実施例において、キャリッジ12に作られたガイド13に沿って上方からインクタンク1を挿入すると、インク供給針9の円錐面がフィルム4を破り、円錐面に穿設されているインク供給孔9aは、インクで濡れているパッキン6の内周面を通過して空間8内へ突出する。これにより、インク供給針9は、その本体の外周にインク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン6の内周が密着して、インクタンク1とのシールが確保される。そして、インク供給針9の円錐面には、直径φ0.3mm程度のインク供給孔9aが穿設されているため、メニスカス15(図3)の体積は、パイプを注射針状に形成して従来のものに比較して十分に小さから、インクタンク1の交換時に侵入する空気を微小量に抑えることができる。
【0015】
ここでインクタンク1が40℃を越えるような場所に放置された場合を考える。インクタンク1がまだ熱い状態のうちにインクタンク1をインク供給針9に接続すると、インク供給針9がフィルム4を破る時にフィルム4は通常より伸びる。そして図5に示されるように、伸びたフィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込み、隙間17が形成されてシールが十分に確保されない場合がある。そこでインク取り出し口3に配するフィルム4には、例えばポリスチレン層さらにナイロン層を廃したような、より薄く伸びにくい膜を用い、フィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込む前に確実に破れるようにする。これによりインクタンク1とインク供給針9間で発生するシール不良を防止することができる。
【0016】
インク取り出し口3に配したフィルム4に薄膜を用いた場合、フィルム4をより確実に保護する必要がある。まず前述のとおり、インク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させることにより、単純な構造で目的を達成できる。
【0017】
さらに図6に示したように、インク取り出し口外縁3aの端に強度の強い第2のフィルム20を貼ることで、より確実にフィルム4を保護してもよい。なお、第2のフィルム20とパッキン6の距離を十分確保することで、図5に示したようなシール不良が発生することはない。また第2のフィルム20をインクタンク交換時に剥すようにして使用することでも、シール不良を防止し、かつフィルム4を保護することができることは言うまでもない。
【0018】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1の発明においては、キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止したインクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、インク供給針は、樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、かつ前記円錐面のみに前記筒胴部の内径よりも小さく、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が複数穿設されているため、インク供給針の先端の先鋭度を下げることができ、かつカートリッジ取り外し時における空気や気泡の浸入をインク供給孔に形成されたメニスカスにより防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のインクジェット記録装置に適したインクタンクの一実施例を示す図。
【図2】
本発明のインクジェット記録装置の一実施例を、インクタンクとインク供給針との接続関係により示す断面図である。
【図3】
同上インク供給針とインクタンクのインク取り出し口との近傍を拡大して示す断面図である。
【図4】
同上インクタンクのインク取り出し口を拡大して示す図である。
【図5】
図(A)、(B)は、それぞれシール不良の状態を説明する図である。
【図6】
本発明のインクタンクの他の実施例示す断面図である。
【符号の説明】
1 インクタンク
2 多孔質吸収材
3 インク取り出し口
3a インク取り出し口外縁
4 フィルム
5 フィルタ
6 パッキン
9 インク供給針
9a インク供給孔
10 記録ヘッド
11 ノズル
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2006-12-19 
出願番号 特願平4-32226
審決分類 P 1 41・ 832- Y (B41J)
P 1 41・ 856- Y (B41J)
P 1 41・ 851- Y (B41J)
P 1 41・ 853- Y (B41J)
P 1 41・ 121- Y (B41J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 江成 克己松川 直樹  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 尾崎 俊彦
津田 俊明
登録日 2001-11-02 
登録番号 特許第3246516号(P3246516)
発明の名称 インクジェット記録装置  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 栗宇 一樹  
代理人 和氣 満美子  
代理人 大友 良浩  
代理人 大友 良浩  
代理人 戸谷 由布子  
代理人 早稲本 和徳  
代理人 石井 康夫  
代理人 隈部 泰正  
代理人 和氣 満美子  
代理人 戸谷 由布子  
代理人 早稲本 和徳  
代理人 鈴木 英之  
代理人 隈部 泰正  
代理人 栗宇 一樹  
代理人 鈴木 英之  
代理人 石井 康夫  

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