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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1150441
審判番号 不服2004-22332  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-05-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-28 
確定日 2007-01-11 
事件の表示 特願2003-303512「配線形成方法、配線製造装置、導電膜配線、薄膜トランジスタ、電気光学装置、電子機器、並びに非接触型カード媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月20日出願公開、特開2004-146796〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年9月30日に出願された特許出願を基礎とした特許法第41条の規定に基づく優先権の主張を伴う特許出願であって、平成15年8月27日に出願され、平成16年9月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年11月26日に手続補正がなされ、その後、当審において、平成17年8月9日付けで審尋がなされ、これに対して、同年10月14日に回答書が提出され、さらに、平成18年7月18日に、平成16年11月26日付けの手続補正が却下され、平成18年8月4日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対して、応答期間内の同年10月10日に手続補正がなされたものである。

2.平成18年10月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について

[補正却下の決定の結論]
平成18年10月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]

(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を以下のとおりに補正するとともに、発明の詳細な説明の0005段落ないし0008段落の記載を補正し、さらに、0009段落、0010段落、及び0012段落を削除するものである。
「【請求項1】
導電性微粒子を含有した液体からなる液滴を、基板上の所定の配線形成領域に吐出して配線を形成する配線形成方法であって、
前記液滴を吐出する前に、前記基板上に表面処理を行う表面処理工程を有し、前記表面処理工程によって、前記液滴の前記基板上への吐出後の接触角が15°以上45°以下に設定されてなり、
前記表面処理された前記基板上に、前記基板上に配置した直後の前記液滴の直径よりも大きく且つ、その直径の2倍以下であって、前記液滴同士がつながらない配置ピッチで、前記液滴を配置する第1配置工程と、
前記第1配置工程で配置された前記液滴どうしの間を埋めるように、前記第1配置工程における前記液滴と同一体積の前記液滴を配置する第2配置工程と、
前記液滴同士の間が埋められた状態で、熱処理又は光処理によって前記液滴を導電膜に変換する工程と、
を有することを特徴とする配線形成方法。」

(2)本件補正の整理
本件補正を整理すると以下のとおりである。

[補正事項1]
本件補正前の請求項2ないし請求項12を削除する。

[補正事項2]
[補正事項2-1]
本件補正前の請求項1の「前記表面処理工程によって、前記基板上の前記液体に対する接触角が設定されてなり」を「前記表面処理工程によって、前記液滴の前記基板上への吐出後の接触角が15°以上45°以下に設定されてなり」と補正する。
[補正事項2-2]
本件補正前の請求項1の「前記表面処理された前記基板上に、前記液滴が所定の間隔をあけて配置する走査を行う工程」を「前記表面処理された前記基板上に、前記基板上に配置した直後の前記液滴の直径よりも大きく且つ、その直径の2倍以下であって、前記液滴同士がつながらない配置ピッチで、前記液滴を配置する第1配置工程と、」と補正する。
[補正事項2-3]
本件補正前の請求項1の「を有することを特徴とする配線形成方法。」を「前記第1配置工程で配置された前記液滴どうしの間を埋めるように、前記第1配置工程における前記液滴と同一体積の前記液滴を配置する第2配置工程と、前記液滴同士の間が埋められた状態で、熱処理又は光処理によって前記液滴を導電膜に変換する工程と、を有することを特徴とする配線形成方法。」と補正する。

[補正事項3]
発明の詳細な説明の0005段落ないし0008段落の記載を補正するとともに、0009段落、0010段落、及び0012段落を削除する。

(3)補正の目的の適否及び新規事項追加の有無についての検討

[補正事項1について]
補正事項1についての補正は、請求項の削除を目的とするものである。

[補正事項2について]
[補正事項2-1について]
補正事項2-1についての補正は、実質的に、本件補正前の請求項1の「設定され」た「基板上の」「液体に対する接触角」を「15°以上45°以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本願当初明細書等」という。)には、「14°以下のように接触角が低すぎると、液滴(ドット)が極度に濡れ広がってしまうため着弾径の制御が難しくなり、パターンの形成が困難になる。一方、46°以上のように接触角が高いと、パターンの形成は出来るものの、基板との密着力が弱く、焼成した時に基板との熱膨張係数の違いから剥がれてしまうところが出てくる、という問題点がある。従って、15度?45度という範囲にすることにより、液滴(ドット)の濡れ広がりを意図したように制御する事が出来る。更には、基板とパターンとの密着性を確保出来る、という効果を有する。」(0007段落)と記載されているから、補正事項2-1についての補正は、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
[補正事項2-2について]
補正事項2-2についての補正は、実質的に、本件補正前の請求項1の「所定の間隔」を「前記基板上に配置した直後の前記液滴の直径よりも大きく且つ、その直径の2倍以下であって、前記液滴同士がつながらない配置ピッチ」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本願当初明細書等には、図5(a)とともに「インクジェットヘッド30は基板11上で液滴L1どうしが重ならないように配置する(第1配置工程)。本例では、液滴L1の配置ピッチH1は基板11上に配置した直後の液滴L1の直径よりも大きくなるように設定されている。これにより基板11上に配置された直後の液滴L1どうしは重ならずに(接触せずに)、液滴L1どうしが合体して基板11上で濡れ拡がることが防止される。また、液滴L1の配置ピッチH1は基板11上に配置した直後の液滴L1の直径の2倍以下となるように設定されている。」(0061段落)と記載されているから、補正事項2-2についての補正は、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
[補正事項2-3について]
本願当初明細書等には、図5(b)とともに「次に、図5(b)に示すように、上述した液滴の配置動作が繰り返される。・・・インクジェットヘッド30から液体材料が液滴L2として吐出され、その液滴L2が一定距離ごとに基板11に配置される。このとき、液滴L2の体積(1つの液滴あたりの液体材料の量)・・・は前回の液滴L1と同じである。」(0063段落)及び「液滴L1の中間位置に液滴L2が配置されることにより、液滴L1に液滴L2が一部重なり、液滴L1どうしの間の隙間が埋まる。」(0064段落)という記載がされており、また、「液滴L2を基板11上に配置した後、分散媒の除去を行うために前回と同様に必要に応じて乾燥処理を行うことが可能である。」(0066段落)及び「乾燥処理は・・・例えばホットプレート、電気炉、及び熱風発生機等の加熱装置を用いた一般的な熱処理の他に、ランプアニールを用いた光処理であってもよい。」(0062段落)という記載もされているから、補正事項2-3についての補正は、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
しかしながら、補正事項2-3についての補正は、実質的に、本件補正前の請求項1に「前記第1配置工程で配置された前記液滴どうしの間を埋めるように、前記第1配置工程における前記液滴と同一体積の前記液滴を配置する第2配置工程」及び「前記液滴同士の間が埋められた状態で、熱処理又は光処理によって前記液滴を導電膜に変換する工程」という2つの新たな工程を付加する補正であって、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するための事項のいずれを概念的に下位に限定したものともいえないから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず、また、同法同条同項第1号、第3号、及び第4号にそれぞれ掲げられた請求項の削除、誤記の訂正、及び明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでないことも明らかである。

[補正事項3について]
補正事項3についての補正は、本件補正後の請求項1の記載に整合するように、発明の詳細な説明の0005段落ないし0008段落の記載を補正するとともに、0009段落、0010段落、及び0012段落を削除するものであって、[補正事項1について]及び[補正事項2について]で検討したとおり、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものである。

以上のとおり、補正事項2についての補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものではないから、適法でない補正事項2についての補正を含む本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
ここで、仮に、補正事項2についての補正が、同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、本件補正が同法同条第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすか否かを以下で検討する。

(4)独立特許要件についての検討

(4-1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正後発明」という。)は、(1)に掲げた特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(4-2)刊行物記載の発明

(a)刊行物1:特開平11-204529号公報
当審において最後の拒絶の理由に引用され、本願の基礎となる特許出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物1には、図1、図3、図5及び図13とともに、以下の事項が記載されている。
「本発明は・・・インクジェット方式によって任意のパターンを形成するための製造技術に関する。」(0001段落)
「【0002】
【従来の技術】半導体プロセス等で用いる基板はシリコン等で構成されている。従来、当該シリコン基板から集積回路等を製造するために、リソグラフィー法等が使用されていた。
【0003】このリソグラフィー法は、シリコンウェハ上にレジストと呼ばれる感光材を薄く塗布し、ガラス乾板に写真製版で作成した集積回路パターンを光で焼き付けて転写する点である。転写されたレジストパターンにイオン等を打ち込んで、配線パターンや素子を形成していくものであった。
【0004】上記リソグラフィー法を用いるには・・・設備の整った半導体工場等でなければ微細パターンの作成ができなかった。このため微細パターンの形成は、複雑な工程管理とコストを要するのが常識であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】・・・μmのオーダーのパターンを簡単に、しかも安価にかつ工場等の設備を用いることなく、製造することができる・・・」(0002段落ないし0005段落)
「【0041】(共通構成)図1に以下の各実施形態で用いる基板製造装置の共通部分の概念構成図を示す。・・・
【0042】・・・流動体10としては、インクジェット式記録ヘッドから吐出可能な流動性を呈するものならば・・・あらゆるものが適用可能である。構成物全部が液状でなくともよい。例えば導電性を示す金属を微粒子として溶剤中に混入させたものでもよい。」(0041段落及び0042段落)
「駆動機構4は基板1に対するインクジェット式記録ヘッド2および処理装置3の位置を相対的に変化可能な構成を備えていれば十分である。」(0048段落)
「図3はインクジェット式記録ヘッドから流動体を吐出した後に流動体または基板に対して処理を行う第2の配置の概念図である。」(0053段落)
「【0055】(実施形態1)本発明の実施形態1は化学的作用(溶解度低下)を流動体に及ぼす処理に関し、主に上記第1の配置および第2の配置において用いられる。
【0056】図5に本実施形態1の処理概念を説明する側面図を示す。本実施形態1の処理装置301は、流動体11が吐出される前の基板1に対して、流動体に混入している物質の溶解度を低下させ、その固形分を析出させる処理701を適用可能に構成されている。このような処理として、熱風の吹き付け、レーザ照射、ランプ照射等を行って流動体の溶媒成分を蒸発させるといった処理が考えられる。同図は第1の配置に適用した構成を示すが、第2の配置に適用した場合には処理装置301がインクジェット式記録ヘッド2の進行方向後方に配置される。」(0055段落及び0056段落)
「【0058】前処理を行う第1の配置で上記処理装置301を用いる際、上記処理を流動体の液滴11が吐出される直前の基板1に対して行う。基板に着弾した液滴は、すでに基板1が熱せられているので、着弾直後から溶媒成分が蒸発し、流動体が濃縮される結果として、固形分が残留あるいは溶解物が析出するようになる。例えば流動体が溶媒中に金属の微粒子を含んだものであれば、熱の影響で溶媒成分のみが蒸発し、金属微粒子を導電性のパターンとして基板上に残留させることができる。
【0059】後処理を行う第2の配置で上記処理装置301を用いる際、既に基板上に吐出された流動体の液滴に対して上記処理を行う。同様の作用により溶解物を析出させることができる。」(0058段落及び0059段落)
「【0097】(実施形態9)本発明の実施形態9は物理的作用として時間差で流動体を吐出する処理に関し、主に上記第1の配置および第2の配置において用いられる。
【0098】図13に本実施形態9の処理概念を説明する側面図を示す。本実施形態9は、処理装置としても流動体を吐出可能に構成されたインクジェット式記録ヘッド2を備えている。すなわち同一の流動体を吐出するインクジェット式記録ヘッド2が所定の距離をおいて配置され、相前後して同一のパターン形成領域に流動体を吐出可能に構成されている。
【0099】上記構成において先行するインクジェット式記録ヘッド2aは、若干の間隔をおいて流動体の着弾跡12aがパターン形成領域上に配置されるように液滴11aを吐出する。後続するインクジェット式記録ヘッド2bでは、既に着弾している流動体12aと合わせてパターン形成領域が流動体で満たされる程度の量に調整して流動体の液滴12bを吐出する。先に着弾した流動体12aには表面張力が作用しており、後から着弾する流動体12bにも表面張力が作用する。表面張力が作用している液滴上に他の液滴が落ちると、表面張力故に瞬時に二つの液滴が混ざらず、後から落ちた液滴は先に着弾した液滴上を滑ってその周辺に落ちる。したがって本実施形態では先に所定の間隔をおいて流動体12aが着弾しているため、後から吐出された流動体の液滴11bは、先に着弾した流動体12aの存在しない領域に着弾する。このためパターン形成領域には隙間なく流動体が着弾し、その密度も一定になる。」(0097段落ないし0099段落)
「本実施形態9によれば、時間差で同一の流動体を吐出するので、基板に着弾する流動体の密度を均一することができ、均一な厚みのパターンを形成できる。」(0101段落)

また、上記0099段落の「既に着弾している流動体12aと合わせてパターン形成領域が流動体で満たされる程度の量に調整して流動体の液滴12bを吐出する。」という記載における「液滴12b」が「液滴11b」の誤記であることは、0099段落の他の記載及び図13を参酌すれば明らかであり、いずれの実施形態も、パターン形成に先立って「基板」を準備する工程を有することも明らかである。

したがって、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
「導電性を示す金属を微粒子として溶剤中に混入させた流動体からなる液滴を基板上のパターン形成領域に吐出して導電性のパターンを形成する方法であって、
前記基板を準備する工程と、
前記基板上に、若干の間隔をおいて流動体の着弾跡が前記パターン形成領域上に配置されるように液滴11aを吐出する工程と、
前記液滴11aが着弾して形成された流動体12aと合わせて前記パターン形成領域が流動体で満たされる程度の量に調整して流動体の液滴11bを吐出する工程と、
を有することを特徴とする導電性のパターンを形成する方法。」

(b)刊行物2:特開平10-326559号公報
当審において最後の拒絶の理由に引用され、本願の基礎となる特許出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている。
「本発明は、基体上への高精細なパターニングが可能なプリント基板の製造方法を提供することを目的とする。」(0014段落)
「本発明のプリント基板の製造方法は、基板面に所望の部材を形成するために、該部材の構成材料を含む液体の液滴を該基板面に付与する工程を有するプリント基板の製造方法において、前記液滴を該基板面に付与する工程に先立って、付与される該液滴の該基板面との接触角が20°?50°の範囲内となるように該基板の表面処理を施す工程を有することを特徴とする。」(0019段落)
「基板面に所望の部材の構成材料を含む液体の液滴を付与する工程に先立って、付与される該液滴の該基板面との接触角が20°?50°の範囲内となるように該基板の表面処理を施すことにより、より高精細なパターンニングが可能になる。」(0022段落)
「本発明は、電気・電子デバイスの構成部材を基板上にパターニングする場合に、より高精細なパターニングを可能とするものである。本発明におけるプリント基板とは、上述の電気・電子デバイスの構成部材がパターニングされた基板のことであり、例えば・・・各種ディスプレーの駆動用電極がパターニングされた基板・・・などを包含する。」(0024段落)

(4-3)対比・判断
本件補正後発明と刊行物発明とを対比する。
(a)刊行物発明の「導電性を示す金属を微粒子として溶剤中に混入させた流動体からなる液滴」は、本件補正後発明の「導電性微粒子を含有した液体からなる液滴」に相当する。
(b)刊行物発明の「若干の間隔をおいて流動体の着弾跡が上記パターン形成領域上に配置されるように液滴11aを吐出する」は、本件補正後発明の「液滴同士がつながらない配置ピッチで、前記液滴を配置する」に相当する。
(c)刊行物1には「【従来の技術】・・・集積回路等を製造するために、リソグラフィー法等が使用されていた。【0003】このリソグラフィー法は・・・。転写されたレジストパターンにイオン等を打ち込んで、配線パターンや素子を形成していくものであった。【0004】上記リソグラフィー法を用いるには・・・設備の整った半導体工場等でなければ微細パターンの作成ができなかった。このため微細パターンの形成は、複雑な工程管理とコストを要するのが常識であった。」(0002段落ないし0004段落)と、リソグラフィー法によって配線パターンを形成する従来の技術では、複雑な工程管理とコストを要するという問題があることが記載されており、この問題を解決するための代替手段として「【発明が解決しようとする課題】・・・μmのオーダーのパターンを簡単に、しかも安価にかつ工場等の設備を用いることなく、製造することができる」(0005段落)と記載されているから、刊行物発明の「導電性のパターン」が、刊行物1の0003段落の上記記載における「配線パターン」を意味することは明らかであり、刊行物発明の「パターン形成領域」及び「導電性のパターンを形成する方法」は、それぞれ、本件補正後発明の「配線形成領域」及び「配線形成方法」に相当する。

したがって、本件補正後発明と刊行物発明は、
「導電性微粒子を含有した液体からなる液滴を、基板上の所定の配線形成領域に吐出して配線を形成する配線形成方法であって、
前記液滴同士がつながらない配置ピッチで、前記液滴を配置する工程を有することを特徴とする配線形成方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本件補正後発明は「液滴を吐出する前に、」「基板上に表面処理を行う表面処理工程を有し、前記表面処理工程によって、前記液滴の前記基板上への吐出後の接触角が15°以上45°以下に設定されてなり、 前記表面処理された前記基板上に、」「前記液滴を配置する第1配置工程」を備えているのに対して、
刊行物発明では、「基板を準備する工程と、 前記基板上に、」「液滴11aを吐出する工程」を備えている点。
[相違点2]
本件補正後発明は「基板上に配置した直後の」「液滴の直径よりも大きく且つ、その直径の2倍以下であって、前記液滴同士がつながらない配置ピッチで、前記液滴を配置する第1配置工程」及び「第1配置工程で配置された」「液滴どうしの間を埋めるように、前記第1配置工程における前記液滴と同一体積の前記液滴を配置する第2配置工程」を備えているのに対して、
刊行物発明は「若干の間隔をおいて流動体の着弾跡が」「パターン形成領域上に配置されるように液滴11aを吐出する工程」及び「液滴11aが着弾して形成された流動体12aと合わせて」「パターン形成領域が流動体で満たされる程度の量に調整して流動体の液滴11bを吐出する工程」を備えている点。
[相違点3]
本件補正後発明は「液滴同士の間が埋められた状態で、熱処理又は光処理によって前記液滴を導電膜に変換する工程」を備えているのに対して、刊行物発明は、本件補正後発明の上記工程に相当する工程を備えているか否かが明らかではない点。

上記相違点について検討する。
[相違点1について]
刊行物2には「基板面に所望の部材を形成するために、該部材の構成材料を含む液体の液滴を該基板面に付与する工程を有するプリント基板の製造方法において」(0019段落)「基体上への高精細なパターニングが可能」(0014段落)となるように、「前記液滴を該基板面に付与する工程に先立って、付与される該液滴の該基板面との接触角が20°?50°の範囲内となるように該基板の表面処理を施す工程」(0019段落)を設ける技術が記載されており、刊行物発明における「導電性のパターン」を形成する際にも「高精細なパターニングが可能」になることが望ましいことは、当業者にとって明らかなことであるから、刊行物発明において、「液滴11aを吐出する工程」に先立って、本件補正後発明の「基板上に表面処理を行う表面処理工程」であって「前記表面処理工程によって、前記液滴の前記基板上への吐出後の接触角が15°以上45°以下に設定されてな」る工程に相当する工程を設けることは、必要とする「導電膜のパターン」の精細さに応じて当業者が適宜なし得た事項である。
そして、刊行物発明において、「液滴11aを吐出する工程」に先立って、本件補正後発明の「基板上に表面処理を行う表面処理工程」であって「前記表面処理工程によって、前記液滴の前記基板上への吐出後の接触角が15°以上45°以下に設定されてな」る工程に相当する工程を設ければ、刊行物発明が、必然的に、本件補正後発明の「前記表面処理された前記基板上に、」「前記液滴を配置する第1配置工程」に相当する工程を備えるようになることは明らかである。
[相違点2について]
刊行物発明において「間隔をおいて流動体の着弾跡が前記パターン形成領域上に配置されるように」するためには、少なくとも「流動体の着弾跡」の中心間の間隔が「流動体の着弾跡」の直径よりも大きい必要があるから、刊行物発明は、本件補正後発明の「基板上に配置した直後の」「液滴の直径よりも大き」い「配置ピッチで、前記液滴を配置する第1配置工程」に相当する工程を備えていることは明らかである。
また、刊行物1には、「本実施形態9によれば・・・基板に着弾する流動体の密度を均一することができ、均一な厚みのパターンを形成できる。」(0101段落)と、「流動体の密度」と「パターン」の「厚み」を均一にすることが記載されており、さらに、特段の理由がない限り、刊行物発明の「導電性のパターン」の幅を均一にするのが望ましいことは、当業者にとって明らかなことであるから、刊行物発明において、「流動体の密度」並びに「導電性のパターン」の「厚み」及び幅を均一にするために、(i)「若干の間隔」の上限値と、(ii)「液滴11aが着弾して形成された流動体12aと合わせて」「パターン形成領域が流動体で満たされる程度」「に調整」された「流動体の液滴11b」の「量」を、「基板」の表面状態や「液滴11a」の体積、「液滴11a」及び「液滴11b」の粘性等も考慮しつつ適宜最適化することは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、刊行物発明において、本件補正後発明の「基板上に配置した直後の」「液滴の」「直径の2倍以下であって、前記液滴同士がつながらない配置ピッチで、前記液滴を配置する第1配置工程」に相当する工程、及び、本件補正後発明の「第1配置工程で配置された」「液滴どうしの間を埋めるように、前記第1配置工程における前記液滴と同一体積の前記液滴を配置する第2配置工程」に相当する工程を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことである。
[相違点3について]
刊行物1には、「インクジェット式記録ヘッドから流動体を吐出した後に流動体または基板に対して処理を行う第2の配置」(0053段落)と「第2の配置」が定義された上で、「【0055】(実施形態1)本発明の実施形態1は化学的作用(溶解度低下)を流動体に及ぼす処理に関し、・・・第2の配置において用いられる。【0056】・・・流動体に混入している物質の溶解度を低下させ、その固形分を析出させる処理・・・を適用可能に構成されている。このような処理として、熱風の吹き付け、レーザ照射、ランプ照射等を行って流動体の溶媒成分を蒸発させるといった処理が考えられる。・・・第2の配置に適用した場合には処理装置・・・がインクジェット式記録ヘッド・・・の進行方向後方に配置される。」(0055段落及び0056段落)及び「【0058】・・・例えば流動体が溶媒中に金属の微粒子を含んだものであれば、熱の影響で溶媒成分のみが蒸発し、金属微粒子を導電性のパターンとして基板上に残留させることができる。【0059】後処理を行う第2の配置で上記処理装置・・・を用いる際、既に基板上に吐出された流動体の液滴に対して上記処理を行う。同様の作用により溶解物を析出させることができる。」(0058段落及び0059段落)と、「溶媒中に金属の微粒子を含んだ」「流動体」「を吐出した後に流動体または基板に対して」「熱風の吹き付け、レーザ照射、ランプ照射等」の処理を行って「溶媒成分のみが蒸発し、金属微粒子を導電性のパターンとして基板上に残留させる」技術が記載されている。
また、刊行物1には、「先に着弾した流動体12aには表面張力が作用しており、後から着弾する流動体12bにも表面張力が作用する。表面張力が作用している液滴上に他の液滴が落ちると、表面張力故に瞬時に二つの液滴が混ざらず、後から落ちた液滴は先に着弾した液滴上を滑ってその周辺に落ちる。」(0099段落)と記載されているから、「刊行物発明」の「液滴11aが着弾して形成された流動体12aと合わせて」「パターン形成領域が流動体で満たされる程度の量に調整して流動体の液滴11bを吐出する工程」の直後においては、「液滴11aが着弾して形成された流動体12a」と「液滴12a」が着弾して形成された流動体がともに「液滴」の状態で互いに混ざることなく「基板」上に着弾していることは明らかである。
したがって、「刊行物発明」において、「液滴11aが着弾して形成された流動体12aと合わせて」「パターン形成領域が流動体で満たされる程度の量に調整して流動体の液滴11bを吐出する工程」の後に、着弾した流動体中の溶剤を蒸発させて「導電性のパターン」を形成するために、上記の技術を適用することは、当業者が容易になし得たことである。

以上のとおり、本件補正後発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、補正事項2についての補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものではないから、適法でない補正事項2についての補正を含む本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
仮に、補正事項2についての補正が、同法第17条の2第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、本件補正後発明は、同法第29条第2項の規定により、その特許出願の際独立して特許を受けることができないから、適法でない補正事項2についての補正を含む本件補正は、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たさず、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成18年10月10日付けの手続補正は、上記のとおり却下され、平成16年11月26日付けの手続補正も、当審において既に却下されているので、本願の請求項1ないし請求項12に係る発明は、平成16年8月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項12に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
導電性微粒子を含有した液体からなる液滴を、基板上の所定の配線形成領域に吐出して配線を形成する配線形成方法であって、
前記液滴を吐出する前に、前記基板上に表面処理を行う表面処理工程を有し、
前記表面処理工程によって、前記基板上の前記液体に対する接触角が設定されてなり、
前記表面処理された前記基板上に、前記液滴が所定の間隔をあけて配置する走査を行う工程を有することを特徴とする配線形成方法。」

4.刊行物記載の発明

(1)刊行物1:特開平11-204529号公報
当審において最後の拒絶の理由に引用され、本願の基礎となる特許出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物1には「2.[理由](4)(4-2)(a)」に記載されたとおりの事項が記載されている。
したがって、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物発明2」という。)が記載されている。
「導電性を示す金属を微粒子として溶剤中に混入させた流動体からなる液滴を基板上のパターン形成領域に吐出して導電性のパターンを形成する方法であって、
前記基板を準備する工程と、
前記基板上に、若干の間隔をおいて流動体の着弾跡が前記パターン形成領域上に配置されるように液滴11aを吐出する工程と、
を有することを特徴とする導電性のパターンを形成する方法。」

(2)刊行物2:特開平10-326559号公報
当審において最後の拒絶の理由に引用され、本願の基礎となる特許出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物2には「2.[理由](4)(4-2)(b)」に記載されたとおりの事項が記載されている。

5.対比・判断
本願発明と刊行物発明2とを対比する。
(1)刊行物発明2の「導電性を示す金属を微粒子として溶剤中に混入させた流動体からなる液滴」は、本願発明の「導電性微粒子を含有した液体からなる液滴」に相当する。
(2)刊行物発明2の「若干の間隔をおいて流動体の着弾跡が上記パターン形成領域上に配置されるように液滴11aを吐出する工程」は、本願発明の「液滴が所定の間隔をあけて配置する走査を行う工程」に相当する。
(3)刊行物1には「【従来の技術】・・・集積回路等を製造するために、リソグラフィー法等が使用されていた。【0003】このリソグラフィー法は・・・。転写されたレジストパターンにイオン等を打ち込んで、配線パターンや素子を形成していくものであった。【0004】上記リソグラフィー法を用いるには・・・設備の整った半導体工場等でなければ微細パターンの作成ができなかった。このため微細パターンの形成は、複雑な工程管理とコストを要するのが常識であった。」(0002段落ないし0004段落)と、リソグラフィー法によって配線パターンを形成する従来の技術では、複雑な工程管理とコストを要するという問題があることが記載されており、この問題を解決するための代替手段として「【発明が解決しようとする課題】・・・μmのオーダーのパターンを簡単に、しかも安価にかつ工場等の設備を用いることなく、製造することができる」(0005段落)と記載されているから、刊行物発明2の「導電性のパターン」が、刊行物1の0003段落の上記記載における「配線パターン」を意味することは明らかであり、刊行物発明2の「パターン形成領域」及び「導電性のパターンを形成する方法」は、それぞれ、本願発明の「配線形成領域」及び「配線形成方法」に相当する。

したがって、本願発明と刊行物発明2は、
「導電性微粒子を含有した液体からなる液滴を、基板上の所定の配線形成領域に吐出して配線を形成する配線形成方法であって、
前記液滴が所定の間隔をあけて配置する走査を行う工程を有することを特徴とする配線形成方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本願発明は「液滴を吐出する前に、」「基板上に表面処理を行う表面処理工程を有し、 前記表面処理工程によって、前記基板上の」「液体に対する接触角が設定されてなり、 前記表面処理された前記基板上に、前記液滴が」「配置する工程を有する」のに対して、
刊行物発明2では、「基板を準備する工程と、 前記基板上に、」「液滴11aを吐出する工程と、を有する」点。

上記相違点について検討する。
刊行物2には「基板面に所望の部材を形成するために、該部材の構成材料を含む液体の液滴を該基板面に付与する工程を有するプリント基板の製造方法において」(0019段落)「基体上への高精細なパターニングが可能」(0014段落)となるように、「前記液滴を該基板面に付与する工程に先立って、付与される該液滴の該基板面との接触角が20°?50°の範囲内となるように該基板の表面処理を施す工程」(0019段落)を設ける技術が記載されており、刊行物発明2における「導電性のパターン」を形成する際にも「高精細なパターニングが可能」になることが望ましいことは、当業者にとって明らかなことであるから、刊行物発明2において、「液滴11aを吐出する工程」に先立って、本願発明の「基板上に表面処理を行う表面処理工程を有し、 前記表面処理工程によって、前記基板上の」「液体に対する接触角が設定されてな」る工程に相当する工程を設けることは、必要とする「導電膜のパターン」の精細さに応じて当業者が適宜なし得た事項である。
そして、刊行物発明2において、「液滴11aを吐出する工程」に先立って、本願発明の「基板上に表面処理を行う表面処理工程を有し、 前記表面処理工程によって、前記基板上の」「液体に対する接触角が設定されてな」る工程に相当する工程を設ければ、刊行物発明2が、必然的に、本願発明の「前記表面処理された前記基板上に、前記液滴が」「配置する工程」に相当する工程を備えるようになることは明らかである。

したがって、本願発明は、刊行物1及び刊行物2に記載されたに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について判断するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-07 
結審通知日 2006-11-14 
審決日 2006-11-27 
出願番号 特願2003-303512(P2003-303512)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 573- WZ (H01L)
P 1 8・ 571- WZ (H01L)
P 1 8・ 574- WZ (H01L)
P 1 8・ 572- WZ (H01L)
P 1 8・ 575- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 雅彦  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 長谷山 健
今井 拓也
発明の名称 配線形成方法、配線製造装置、導電膜配線、薄膜トランジスタ、電気光学装置、電子機器、並びに非接触型カード媒体  
代理人 西 和哉  
代理人 青山 正和  
代理人 志賀 正武  

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