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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
管理番号 1150464
審判番号 不服2002-14782  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-06-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-05 
確定日 2007-01-05 
事件の表示 平成10年特許願第522060号「酵素センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月22日国際公開、WO98/21356、平成12年 6月20日国内公表、特表2000-507457〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1997年11月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年11月14日、デンマーク)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?34に係る発明は、平成18年5月15日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?34に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】検査流体の分析物の濃度もしくは活性を測定するための酵素センサであって、該酵素センサが、該分析物が基質となる固定酵素を含む少なくとも1つの酵素層を有し、該固定酵素が、該酵素と少なくとも1つの形のマクロ分子との間に1個もしくはそれ以上の共有結合を、該酵素に対する競合インヒビタの存在下で形成することによって得られ、前記競合インヒビタは前記固定酵素のための安定化剤となる、酵素センサ。」

2.引用例の記載
当審における拒絶の理由で引用された刊行物には、次の事項が記載されている。
(a)刊行物1:Biosensors & Bioelectronics(1997)Vol.12, No.5, p.363-371
(a1)「固定化したトリプトファン-2-モノオキシゲナーゼ(TMO)に基づいた新しいフローインジェクションアンペロメトリックバイオセンサは、試薬を必要とせずにL-トリプトファンを定量するために開発された。0.1と50mM間のL-トリプトファンの濃度は、0.1と2mMの間の検量線の直線部分とともに測定することができた。」(第363頁要約1行?5行)
(a2)「TMOは、以前に報告された方法(Simonianら,1995)により固定化された。様々な量のTMOを100mMpH8.3トリス緩衝液に希釈し、ある実験では、50mML-トリプトファンも含む固定化溶液中で、活性化されたシリカゲルに加えた。」(第364頁右欄下6行?下1行)
なお、ここで「以前に報告された方法」として引用されたSimonianらの方法は、グルタルアルデヒド架橋による共有結合によりシリカゲル上に固定化する方法(Analytical Letters(1995) Vol.28,No.10,p.1751-1761、特に第1754頁Immobilizationの項参照)である。
(a3)「溶液中に基質が存在すると、固定化の間いくつかの酵素の活性中心を保護することは知られていたから、50mMのL-トリプトファンの存在下で処置は実施された。表1に示されるように、同量のTMOと結合した酵素の量はほぼ同じであるが、固定化工程の間にL-トリプトファンが存在するとき、バイオセンサの応答は2倍高かった(197対94mV)。8℃で保存した生物学的触媒を室温で作用させた場合、バイオセンサは、6ヶ月間を超えて大変安定であった。」(第367右欄下3行?第368右欄5行)

(b)刊行物2:Biocatalysis and Biotransformation(1995)Vol.12,p.67-76
(b1)「固定化又は安定化の間、ペニシリンアシラーゼの活性中心に吸収された多くの種類のインヒビタの効果を報告する。ペニシリンアシラーゼの活性中心に吸収されたとき、それぞれのインヒビタは、特定の酵素コンフォメーションを促し、複数の位置での既存担体との共有結合による固定化工程の後も、そのまま固定された状態を維持する。」(第67頁要約1行?4行)
(b2)「基質とインヒビタは、酵素の三次元コンフォメーションにおける安定化効果を有することは、一般に認められている(Lumry,1977;Blancoら,1988;Alvaroら,1991)。基質とインヒビタを保護剤として使用することは、酵素エンジニアリングにおいて一般的な慣習となっている(Forneyら,1989)。このような材料は、固定化工程(Blancoら,1987;Alvaroら,1991)又は、タンパク質表面の化学的修飾の際に(Perfettiら,1976)、酵素特性を保護するためのツールとして使用することができる。これらの存在は、三次元構造における重要なコンフォメーションの変化が起きることを防ぐ。」(第67頁Introduction1行?8行)
(b3)「フェニル酢酸とペニシリンスルホキシドの存在下で処理された誘導体は、活性の重大な損失は観察されなかった。」(第71頁12行?13行)

(c)刊行物3:Enzyme Microb. Technol.(1991)Vol.13,p.210-214
(c1)「我々は、ペニシリンGスルホキシド(penGSO)が、2つの細菌性ペニシリンGアシラーゼ(PGAs)(E.coli及びK.citrophila由来)の一般的な安定剤として作用すること、そして、この役割は酵素への強い阻害作用と関連することを発見した。安定化効果は、2つの異なった不活性化工程において観察された;(i)アルカリpHにおける可溶性酵素の熱による不活性化、及び、(ii)高活性化アガロースアルデヒドゲルと複数の位置で共有結合した結果による固定化酵素の不活性化。加えて、penGSOは、これらの2つの酵素の強い競合インヒビタとして作用する。」(第210頁要約1行?7行)
(c2)「いくつかの基質及びインヒビタは、酵素の三次元構造に作用することによる安定化効果を有することは、よく知られている。現在、工業的な酵素誘導体を作成するにあたり、それらの三次元構造を破壊することなく、酵素を処理すること(精製、固定化等)、それらの特性を改善するためにそれらを修飾すること(例えば、担体へ複数の結合による安定化、化学的修飾等)は必須であるから、基質又はインヒビタの保護作用を用いることは、酵素エンジニアリングにおいて大変重要になった。したがって、酵素の活性コンフォメーションにおける安定化特性を有するインヒビタの使用は、バイオテクノロジーの分野において、重要な助けとなる。」(第210頁左欄Introduction1行?14行)
(c3)「これらの溶液又は懸濁液中のほんの少しの分量が分析混合物(通常、50μl)に加えられるだけであるから、固定化酵素の懸濁液又は可溶化酵素の溶液において、9mMのpenGSOの存在は、観察された反応速度には影響しなかった。したがって、分析混合物における[基質]/[インヒビタ]比は、とても大きく(およそ300)、これらの条件下でpenGSOの存在は、実質的に無視できるものである(結果参照)。」(第211頁右欄5行?13行)
(c4)「インヒビタの存在下で作成された誘導体は、3時間にわたる固定化された酵素と活性化された担体との複数の相互作用において、完全な活性を保っていた。固定化は、最初の10分で完結した(固定化懸濁液の上清の活性は、ゼロになり、すべての懸濁液とブランクの上清の活性は、100%レベルを維持していた。)。」(第213頁左欄1行?5行)

(d)刊行物4:Makromol. Chem.(1981)Vol.182,p.1605-1616
(d1)「共有結合による水不溶性のマクロ分子キャリアへの酵素の固定化は、一般に多かれ少なかれ活性の重大な損失を伴うものである。固定化の変性特徴は、様々な原因によるものである。第一に、酵素は共有結合形成において、その活性コンフォメーションを維持できないかもしれない。第二に、固定化反応は、多かれ少なかれ活性中心に近接した酵素の機能的グループを包含するかもしれない。したがって、後者の場合はさらに、後の酵素反応において少なくとも基質のアプローチを阻むかもしれない。・・・同様に、Makisumiらは、競合インヒビタであるベンズアミジンとβ-フェニルプロピオン酸それぞれの存在、不存在下において、セファロース4Bへトリプシンとキモトリプシンを化学的に固定化した。これらの著者は、インヒビタが活性コンフォメーションの安定化及び、結合形成の間に自己消化により不活性化を防止することにいくらか効果があることを発見した。これらの結果を考慮すると、我々は、ポリマーインヒビタは、大きなサイズであるから、低分子量のインヒビタよりも酵素の活性中心をより保護すると考えた。したがって、我々は、その後の固定化工程において、ベンズアミジンを担う水溶性マクロ分子インヒビタによりトリプシンを保護することを考えた。酵素分子は、活性中心から比較的離れたところに位置する機能的グループ(おそらくNH2)のみで不溶性キャリアと反応することができた。」(第1605頁Introduction 1行?第1606頁8行?14行)

(e)刊行物5:Memoires of the Faculty of Science, Kyushu University,(1976)Ser.C, Vol.10, No.1,p.77-90
(e1)「結合した酵素の活性が上昇することから、固定化反応の間の可逆的インヒビタの存在は、酵素の活性コンフォメーションを保持し、ある程度のコンフォメーションの破壊から酵素を守るかもしれない。タンパク質分解酵素の場合は、さらに、可逆的インヒビタは固定化の間、自己消化による不活性化から酵素を守るかもしれない。これらの可能性のいくつかを調査するため、トリプシンとキモトリプシンを競合インヒビタであるベンズアミジンとβ-フェニルプロピオン酸それぞれの存在、不存在下において、セファロース4Bへ化学的に固定化した。」(第78頁10行?18行)
(e2)「あるインヒビタの存在下で共有結合により固定化された両誘導体は、フリーな酵素のそれらと比較して、活性中心に直接的な滴定剤に対する活性のほとんどすべてを維持していたが、インヒビタ不存在下で結合した酵素は、オリジナルな活性の約83%だけを維持していた。」(第80頁下1行?第81頁4行)

(f)刊行物8:The Journal of Biological Chemistry(1987)Vol.262,p.10026-10034
(f1)「酒石酸は不活性化から酵素を保護するために処理の間使用された。異なった立体異性体は、酵素の競合インヒビタの度合いが異なる。メソ型は、L(+)型よりもより効果的であり、順に、D(-)異性体が効果的である。」(第10030頁右欄18行?23行)
(f2)「FAD再構成D-アスパラギン酸オキシダーゼは、フラビン蛍光性であり、競合インヒビターである酒石酸の結合においてスペクトラル摂動の特性を示す。」(第10026頁要約11行?14行)

(g)刊行物9:The Journal of Biological Chemistry(1976)Vol.251,p.3845-3852
(g1)「基質とインヒビタ濃度の効果 第3図は、マンノシルアミンの異なった濃度におけるp-ニトロフェニル-α-D-マンノシドの濃度において、pH5.9において、精製されたマンノシダーゼの活性に関連した両軸逆数プロットである。直線性が観察され、0.14mMのKm値は、DewaldとTouster(1)及び、MarshとGourlay(2)それぞれがpH6.5において得た0.16mMと0.17mMの値と似ている。マンノシルアミン(0.02mMと0.05mM)による阻害は競合的である(第3図)。・・・スクロース又は牛血清アルブミンのみは効果的ではなく、ジチオエリスリトール(2mM)は、わずかな安定化効果を有し、マンノシルアミン(5mM)は中程度に効果的であった。顕著な安定性は、ジチオエリスリトールとマンノシルアミンの両者を含む場合に得られた。」(第3847頁右欄下17行?第3848頁左欄下4行)
(g2)「37℃、トリス-Cl緩衝液、pH8におけるマンノシダーゼの安定性における様々な物質の効果」(第4図脚註)

(h)刊行物10:Biochem.J.(1992)Vol.285,p.889-898
(h1)「アポ酵素は、熱安定性は少ないが(80℃、pH7におけるt1/2は0.06h)Mg2+により強く安定化され(t1/2=5.5h)、Co2+はさらにそうである。競合インヒビタ又は基質は、わずかな安定性を供給するが、この効果は、80℃、pH5.5におい明らかである。」(第889頁要約下4行?下3行)

3.当審の判断
(1)対比
本願発明1と刊行物1に記載された発明を対比する。
ここで、刊行物1に記載の「シリカゲル」、「バイオセンサ」は、それぞれ本願発明1の「マクロ分子」、「酵素センサ」に相当し、また、記載事項(a2)により、シリカゲルの表面に共有結合により固定化された酵素の一群は、「酵素層」を形成するものと解される。
そうしてみると、刊行物1も、検査流体の分析物であるL-トリプトファンの濃度を測定するための酵素センサであって、該酵素センサが、該分析物が基質となる固定酵素を含む少なくとも1つの酵素層を有し、該固定酵素が、該酵素と少なくとも1つの形のマクロ分子との間に1個もしくはそれ以上の共有結合を形成することによって得られた酵素センサである点で本願発明1と軌を一にするものであり、下記の(イ)、(ロ)の点でのみ相違する。

相違点(イ)酵素とマクロ分子間の共有結合の形成は、本願発明1では、酵素に対する競合インヒビタの存在下で行うのに対し、刊行物1に記載された発明では、基質の存在下で行う点。

相違点(ロ)本願発明1では、競合インヒビタは固定酵素のための安定化剤となるのに対し、刊行物1に記載された発明では、特にそのようなことが記載されていない点。

(2)判断
相違点(イ)について
ところで、刊行物2及び3には、ペニシリンアシラーゼを、刊行物4には、トリプシンを、刊行物5には、トリプシン及びキモトリプシンを、それぞれ担体に固定化する際に、インヒビタを存在させることにより、酵素の三次元コンフォメーションが安定化し、酵素特性が保護されることが記載されている(記載事項(b2)、(c2)、(d1)及び(e1))。
ここで、刊行物2?5に記載の「インヒビタ」がこのような作用を有する機構は、酵素の活性中心にインヒビタが吸収されることにより、特定の酵素コンフォメーションを促すということによるものであること(記載事項(b1))は明らかであるから、上記刊行物2?5において固定化する際に用いられる「インヒビタ」は、いずれも酵素の活性中心において、「基質」と競合する「競合インヒビタ」に他ならない。
確かに、これら刊行物2?5には、いずれも当該固定化酵素を酵素センサとして使用することは開示されていないが、これら各刊行物で固定化された酵素であるトリプシン、ペニシリンアシラーゼは、いずれも担体に固定化して酵素センサとして使用できる酵素であることは、当該技術分野における周知の事項である(要すれば、Biochimica et Biophysica Acta(1975),Vol.403,p.256-265、神奈川県工業試験所研究報告(1989),No.60,p.72-75参照)。
しかも、基質と競合インヒビタは、共に酵素の三次元コンフォメーションにおける安定化効果を有するものとして、酵素エンジニアリングにおいて、酵素の保護剤として使用することは一般的な慣習であったこと(記載事項(b2)及び(c2))からも、当業者にとっては、両者とも固定化工程において酵素特性を保護するためのツールとして適宜代替して使用することができると認識されていたと解するのが自然である。
そうであるから、刊行物1に記載の酵素センサを得るにあたり、酵素の固定化を「基質」の存在下で行うことに代えて、「競合インヒビタ」の存在下で行うことは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願明細書において、競合インヒビタであるシュウ酸の存在下で架橋したラクテートオキシダーゼが、不存在下の場合と比べて、初期比活性が高いという効果(実施例4)は、刊行物2?5の記載(記載事項(b2)、(c2)、(d1)及び(e1))からみて、当業者が予測し得る範囲を超えるものではない。

相違点(ロ)について
刊行物2、3には、インヒビタは酵素の三次元コンフォメーションにおける安定化効果を有することは、一般に認められていることであって、インヒビタを酵素特性の保護剤として使用することができることが記載されている(記載事項(b2)及び(c2))。
さらに、刊行物8には、アスパラギン酸オキシダーゼにおいて、競合インヒビタである酒石酸が不活性化から酵素を保護すること(記載事項(f1))、刊行物9には、マンノシダーゼにおいて、競合インヒビタがpH8において酵素安定化効果を有すること(記載事項(g1)、(g2))、刊行物10には、アポ酵素において競合インヒビタが熱安定性を供給すること(記載事項(h1))が記載されている。
加えて、酵素を固定化した後も、インヒビタは酵素コンフォメーションをそのまま保持することも既に知られていた(記載事項(b1))。
(なお、刊行物2?5における「インヒビタ」は「競合インヒビタ」であることは、前記したとおりである。)
また、そもそも、酵素と競合インヒビタを共存させれば、酵素が長期にわたって安定化されること自体は、本願優先日前において既に周知である(要すれば、特開平2-110198号公報、特開平4-283298号公報及び、国際公開第96/21716号パンフレット参照)。
そうであるから、酵素を競合インヒビタの存在下で固定化した後に、競合インヒビタをあえて取り除かない限り、固定化された酵素にとって安定化剤として作用するであろうことは、当業者がむしろ当然に期待することである。

そうしてみると、本願明細書において、溶液中に溶解した酵素活性の半減期が、競合インヒビタの濃度に応じて延長することが確認されたこと(実施例5)をもって、格別な効果であるということはできない。

したがって、本願発明1は、刊行物1?5及び8?10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)審判請求人の主張
なお、審判請求人は、平成18年5月15日付け回答書において、下記(i)?(iii)の点を主張している。

(i)刊行物1には、センサを構成するため基質の代わりに競合インヒビタを使用することに関する動機が存在しておらず、競合酵素(「競合インヒビタ」の誤記と認める。)の存在下で酵素センサ中に固定した固定酵素を使用することは自明ではなく、当業者であれば、競合インヒビタが、後のセンサの測定特性(酵素の固定化の間ではない)に負の影響を与えるかもしれないと結論づけるであろうから、刊行物1から出発したとき、刊行物2?5のいずれかと組み合わせて、本願発明をなすことは自明なことではない。

(ii)刊行物2?5には、(1)センサ膜の制御された拡散特性を如何に得るべきかの構成(本願明細書1頁下から4行?末行)、(2)センサにおいて高い初期比酵素活性を如何に得るべきかの構成(本願明細書3頁下から4行?4頁9行)、及び、(3)センサで使用する前に酵素を如何に適切に格納すべきかの条件(本願明細書9頁下から7行?10頁13行)が開示も示唆もされていないから、刊行物2?5から出発したとき、刊行物1と組み合わせて、本願発明をなすことは自明なことではない。

(iii)競合インヒビタが酵素の不活を防止することを開示したいずれの刊行物も実際のセンサに応用する条件を開示していないばかりか固定酵素の長寿命の効果を記載していないことに鑑みれば、初期比酵素活性を改善するのみならず酵素活性を安定化して酵素の寿命を延長することを目的として本願発明の構成をなすことは、刊行物1?10からは、明らかではなかった。

主張(i)について
上記(2)相違点(イ)で述べたとおり、記載事項(b2)及び(c2)によると、基質と競合インヒビタは、両者とも、ペニシリンアシラーゼ、トリプシン酵素の固定化工程の際に酵素特性を保護するためのツールとして適宜代替して用いられるものといえるから、刊行物1において、基質に代えて競合インヒビタを用いてみることは、当業者が容易に想起することである。
また、請求人は、競合インヒビタが後のセンサの測定特性に負の影響を与えるかもしれないから、刊行物1のセンサを構成する酵素の固定化において、競合インヒビタを使用することは自明ではない旨主張をしているが、溶液中の基質濃度が上がれば、競合インヒビタは基質と置き換わる性質を有するものであるから、競合インヒビタがセンサの測定特性に影響を与える可能性がある場合は、当業者であれば、固定化酵素を使用する際に適宜競合インヒビタを外してから使用することができるものである。

主張(ii)について
主引用例である刊行物1には、酵素センサに係る発明が記載されており、センサに関する構成については、刊行物1に記載されていることに対して反論すべきであり、刊行物2?5にセンサに関する特定の構成が記載されていないという請求人の主張は採用できない。
なお、上記主張が、本願明細書第1頁下4行?末行及び第9頁下7行?第10頁13行に示された、特定の性質を有する「薄膜」を用いることを前提とする主張であれば、請求項1には、この点について何ら記載されていないのであるから、請求項1の記載に基づかない主張である。

主張(iii)について
上記(2)相違点(ロ)において述べたとおり、酵素の固定化後にも競合インヒビタを酵素の安定化剤として作用させることは、当業者が容易に想到し得ることであり、競合インヒビタの存在により酵素が長寿命化することは、当業者であれば予測し得る程度のことである。

なお、請求人は、センサ環境において、酵素の長寿命化を達成することは、自明ではない旨主張しているが、そもそも、本願明細書で実際に確認しているのは、固定化していない溶液中に溶解した酵素において、競合インヒビタの濃度に応じて酵素活性の半減期が延長することであって(実施例5)、実際にセンサとして使用したときに酵素が長寿命化したことを確認したわけではないから、請求人の当該主張は採用できない

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1?5、8?10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の本願請求項に係る発明について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-03 
結審通知日 2006-08-04 
審決日 2006-08-28 
出願番号 特願平10-522060
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子山村 祥子  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 阪野 誠司
冨永 みどり
発明の名称 酵素センサ  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 増井 忠弐  
代理人 社本 一夫  
代理人 今井 庄亮  
代理人 小林 泰  

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