• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1150711
審判番号 不服2004-7484  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-12-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-14 
確定日 2007-01-18 
事件の表示 特願2001-149984「電動式溶接ガン」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月 4日出願公開、特開2002-346755〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成13年5月18日の特許出願であって、同15年9月4日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同15年11月13日に意見書の提出とともに明細書について手続補正がされたが、同16年3月5日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同16年4月14日に本件審判の請求がされ、同日付けで明細書について再度手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
本件補正は、特許請求の範囲について補正するものであって、その請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)補正前の【請求項1】
「一対の電極チップを備え、サーボモータに連結された送りねじ機構の回転作用下に、一方の電極チップを他方の電極チップに対して開閉動作させる電動式溶接ガンであって、
前記サーボモータは、ガン本体部を構成するケーシングに固定される略円筒形状のモータハウジングを備え、
前記モータハウジングの内側には、該モータハウジングの軸方向に長尺なステータが配置されるとともに、
前記モータハウジング内には、冷却媒体を供給するための冷却媒体用通路が設けられることを特徴とする電動式溶接ガン。」

(2)補正後の【請求項1】
「一対の電極チップを備え、サーボモータに連結された送りねじ機構の回転作用下に、一方の電極チップを他方の電極チップに対して開閉動作させる電動式溶接ガンであって、
前記サーボモータは、ガン本体部を構成するケーシングに固定される略円筒形状のモータハウジングを備え、
前記モータハウジングの内側には、該モータハウジングの軸方向に長尺なステータが配置されるとともに、
前記モータハウジング内には、前記ステータの外周に沿って冷却媒体用通路を形成するための銅製管路が螺旋状に配設され、かつ、該銅製管路は、出入口に銅製円筒状ホルダ部材が連結されて前記モータハウジング内に鋳込まれることを特徴とする電動式溶接ガン。」

2 補正の適否
上記特許請求の範囲における補正は、冷却媒体用通路を形成することについて「前記ステータの外周に沿って」と限定するとともに、「銅製管路が螺旋状に配設され、かつ、該銅製管路は、出入口に銅製円筒状ホルダ部材が連結されて前記モータハウジング内に鋳込まれること」を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかである。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、前記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められる。

(2)引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-164155号公報(以下「刊行物1」という。)、特開平7-111759号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 刊行物1
(1-a)段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は、ガン本体のふらつきを防止したエコライジング機構を備えてなるスポット溶接ガンに関するものである。」

(1-b)段落【0006】?【0008】
「・・・図1において、1はコの字型のガン本体であり、このガン本体1の下側先端には下側電極2(固定電極)が固定され、前記ガン本体1の上側先端には電極移動機構4によって前記下側電極2と対向して上側電極3(可動電極)が上下移動(進退移動)可能に設けられている。
前記上側電極3の電極移動機構4の構成は次の通りである。前記ガン本体1の上側先端に保持筒5が下側電極2及び上側電極3の軸心線方向に一体に設けられ、この保持筒5内には、ナット8を軸内に固設したスピンドル6がガイドバー7を介して同軸心線方向に上下移動(進退移動)可能に案内されている。このスピンドル6の先端に前記上側電極3が固着されている。
前記保持筒5の上端にはサーボモータ9が設置され、そのモータシャフト10は前記ナット8に螺合したボールネジ11と結合し、前記サーボモータ9の正逆回転によってボールネジ11,ナット8を介してスピンドル6を上下移動させ、このスピンドル6の先端に固着した上側電極3を下側電極2に対して上下移動するようにした構造である。」

(1-c)図1によれば、サーボモータ9が、略円筒形状のモータハウジングを備えることが看取できる。

これらの記載事項を本件補正発明に照らして整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「下側電極2及び上側電極3を備え、サーボモータ9に連結された送りねじ機構の回転作用下に、上側電極3を下側電極2に対して開閉動作させるスポット溶接ガンであって、
前記サーボモータ9は、略円筒形状のモータハウジングを備え、ガン本体1に一体に固定される保持筒5に設けられているスポット溶接ガン。」

イ 刊行物2
(2-a)段落【0001】
「【産業上の利用分野】この発明は、例えば電気自動車用モータ、産業機械用大型モータ等の発熱量の大きいモータに用いられる水冷式モータハウジングに関する。」

(2-b)段落【0008】
「図1および図2は、この発明の水冷式モータハウジングの第1実施例を示しており、水冷式モータハウジングは、アルミニウム製(合金を含む)であり、電気自動車のモータのステータが圧入または焼きバメされる円筒状のハウジング本体(1) と、これの外周に螺旋状に隙間なく巻き付けられた螺旋状流路形成用チューブ(2) とを備えている。」

(2-c)段落【0016】?【0017】
「図4には、この発明の水冷式モータハウジングの第3実施例を示す。
この実施例では、肉厚が厚くかつ円筒状のハウジング本体(21)の外周面に螺旋状の流路形成用溝(22)が切削により形成され、ハウジング本体(21)の外径に等しい内径を有する円筒状カバー(23)がハウジング本体(21)に嵌め被せられることにより、螺旋状の溝(22)が冷却水流路となされている。溝(22)の一端には冷却水導入パイプ(24)が、他端には冷却水排出パイプ(25)が連通させられている。」

上記記載事項(2-b)において、モータハウジング本体にはモータのステータが圧入または焼きバメされるから、当該モータハウジング内にはステータが配置されることが理解される。
したがって、上記記載事項及び図面の記載からみて、刊行物2には次の発明が記載されていると認められる。
「水冷式モータハウジングにおいて、モータハウジング内にはステータが配置されるとともに、前記モータハウジングには、冷却水の流路形成用チューブが螺旋状に配設されること。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「下側電極2及び上側電極3」は、本件補正発明における「一対の電極チップ」に相当し、以下同様に、「上側電極3」は「一方の電極チップ」に、「下側電極2」は「他方の電極チップ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明において、「サーボモータ9」はガン本体1に一体に固定される保持筒5に設けられており、該「保持筒5」はケーシングということができるから、引用発明におけるモータハウジングは、ガン本体部を構成するケーシングに固定されるということができる。
さらに、引用発明における「スポット溶接ガン」は、「電動式溶接ガン」と表現することもできるものである。
したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
[一致点]
「一対の電極チップを備え、サーボモータに連結された送りねじ機構の回転作用下に、一方の電極チップを他方の電極チップに対して開閉動作させる電動式溶接ガンであって、
前記サーボモータは、ガン本体部を構成するケーシングに固定される略円筒形状のモータハウジングを備える電動式溶接ガン。」である点。
[相違点]
本件補正発明では、「モータハウジングの内側には、該モータハウジングの軸方向に長尺なステータが配置されるとともに、
前記モータハウジング内には、前記ステータの外周に沿って冷却媒体用通路を形成するための銅製管路が螺旋状に配設され、かつ、該銅製管路は、出入口に銅製円筒状ホルダ部材が連結されて前記モータハウジング内に鋳込まれる」のに対して、引用発明では、モータハウジングの内側がどのようなものか明らかでない点。

(4)相違点についての検討
電動式溶接ガンに用いるサーボモータにおいてモータハウジングの軸方向に長尺なステータを備えることは、原査定の際に引用された特開平7-290251号公報、特開平7-124752号公報に示されるように従来周知の事項である。
そして、刊行物2には、上記(2)イに示したとおりの事項が記載されており、刊行物2に記載された発明における「冷却水の流路形成用チューブ」は、冷却媒体用通路を形成するための管路ということができ、該管路はステータの外周に沿って配設されることが明らかであるから、刊行物2には、「モータハウジングの内側には、ステータが配置されるとともに、前記モータハウジングには、前記ステータの外周に沿って冷却媒体用通路を形成するための管路が螺旋状に配設されること。」が記載されているとすることができる。
また、冷却媒体用通路を形成するための管路を銅製とすることは、例示するまでもなく従来周知の事項であるとともに、モータにおいて、モータハウジング内にステータの外周に沿って冷却媒体用通路を形成するための螺旋状に配設した管路を前記モータハウジング内に鋳込まれるようにすることも、例えば、実願平1-149334号(実開平3-91053号)のマイクロフィルムの第1図及び明細書第6頁第2?7行、実願平4-80393号(実開平6-44378号)のCD-ROMの図1及び段落【0010】、特開2000-23415号公報の図7及び段落【0020】等に記載されているように従来周知の事項である。
さらに、冷水通路となる銅管の端部を銅製部材に連結して鋳込むことも特公昭42-6047号公報(第1頁右欄第25?35行の記載参照)に記載されているように従来周知であり、管路の出入口に銅製円筒状ホルダ部材を連結してモータハウジング内に鋳込むことも当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
そうすると、引用発明におけるサーボモータのモータハウジングに刊行物2に記載された発明及び上記従来周知の各事項を採用して上記相違点に係る本件補正発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。

そして、本件補正発明によってもたらされる効果も、引用発明、刊行物2に記載された発明及び上記従来周知の各事項から当業者であれば十分予測できる範囲内のものであって格別顕著なものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明、刊行物2に記載された発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余の補正の要件について検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成16年4月14日付の補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明は、平成15年11月13日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められる。

2 引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、前記第2の2(2)に示したとおりである。

3 対比・検討
本願発明は、前記第2の2で検討した本件補正発明から前記限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が前記第2の2(4)で示したとおり、引用発明、刊行物2に記載された発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-17 
結審通知日 2006-11-21 
審決日 2006-12-06 
出願番号 特願2001-149984(P2001-149984)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史塩澤 正和  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 鈴木 孝幸
加藤 昌人
発明の名称 電動式溶接ガン  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 佐藤 辰彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ